CENTCOM
哨戒中の核弾道ミサイル潜水艦の所在をあえて明らかにするのは極めて異例だ
米中央軍は、アラビア海で米海軍オハイオ級核弾道ミサイル潜水艦の存在を公表するという極めて異例の措置を取った。この発表は、司令部トップのマイケル・クリラ米陸軍大将 Gen. Michael Kurillaが、同地域で活動する米軍の重要な能力を視察に訪れたとの枠組み内で行われた。しかし、これはアメリカの同盟国協力国だけでなく、イランやロシアといった潜在的な敵対勢力に向けたメッセージとも考えられなくはない。
中央軍(CENTCOM)が本日発表したプレスリリースによると、米第5艦隊と海軍中央軍(NAVCENT)の責任者であるブラッド・クーパー米海軍中将Vice Adm. Brad Cooperは、アラビア海の非公表の場所で、USSウエストバージニアを訪問したクリラ大将と幕僚の一行に参加した。報道発表では、クリラ、クーパー、その他がどのように潜水艦にたどり着いたのか、また具体的にいつ訪問したのかについて言及はない。
「USSウェストバージニアの乗組員に徹底的に感銘を受けた。各員は、米軍最高レベルのプロ意識、専門知識、規律の体現だ」と、クリラ大将は声明で述べた。「潜水艦は核三本柱の至宝であり、ウエストバージニアはUSCENTCOMとUSSTRATCOM(米戦略軍)の柔軟性、生存性、即応性、能力を海上で実証している」。
オハイオ級弾道ミサイル潜水艦「USSウェストバージニア」を訪問し、潜望鏡を覗く米中央軍司令官マイケル・クリラ陸軍大将。 CENTCOM
米海軍は現在、オハイオ級弾道ミサイル潜水艦(SSBN)を14隻保有している。オハイオ型SSBNは当初、核搭載の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「トライデント」を最大24基搭載する設計だったが、ロシアとの軍備管理協定の一環で、最大搭載数は20基に削減された。現在のトライデントD5ミサイルは、MIRV(multiple independently targetable reentry vehicle)で、1基あたり最大14個の核弾頭を搭載できる。
オハイオ級では、誘導弾潜水艦(SSGN)に改造された4隻が就役している。最大154発のトマホーク陸上攻撃型巡航ミサイルを搭載できることで知られているが、オハイオ級SSGNは実際には様々な無人システムを展開し、特殊作戦部隊の母艦として、水中情報融合センターや司令部として機能する多目的艦といったほうがいい。
中央ヨーロッパ軍(CENTCOM)が、オハイオ型SSBNの所在を公式開示したことは、それだけで極めて異例だ。海軍は一般的に、潜水艦活動については堅く口を閉ざし、特にアメリカの核抑止力の三本柱である弾道ミサイル潜水艦の位置に関しては、その傾向が強い。
さらに、CENTCOMはクリラ大将が到着したとき、USSウェストバージニアがアラビア海でどこを航行していたかを正確に明らかにしていないが、同大将一行を受け入れるため浮上しなければならず、固有のリスクと情報収集の脆弱性が存在したことになる。潜水艦、特にオハイオ級のような大型潜水艦は、浮上すると操縦性が制限され、さまざまな危険がある。CENTCOMがプレスリリースと発表したウェストバージニアが浮上している写真(この記事の冒頭に掲載)には、目立った特徴は見られないが、今回の訪問では様々な戦力保護措置がとられていた可能性が高いようだ。
CENTCOM司令官クリラ陸軍大将(右から2人目)、米第5艦隊/海軍中央司令部ブラッド・クーパー海軍中将(左から2人目)一行がUSSウエストバージニアを訪問した。CENTCOM
オハイオ級潜水艦は、過去にメッセージ発信に使われたことがあるが、一般的にはSSGNがその目的に使われてきた。1月、ロシアのウクライナへの全面侵攻に先立ち、海軍はオハイオ級SSGN USSジョージアのキプロス寄港を公表するという、やはり異例の措置を取った。
2020年末から2021年初めにかけても、ジョージアはイランとの関係が特に緊迫していた時期に、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡を水上航行する姿を珍しく公表していた。2021年5月、この航行中にジョージアと護衛艦に嫌がらせをするイラン艦に対し、米沿岸警備隊巡視船が警告射撃をし、浮上航行する潜水艦が直面する潜在的なリスクが浮き彫りにされた。
海軍がオハイオ型SSBNの動向を発表することは、非常に稀ではあるが、全くないわけではない。The War Zoneは当時、2021年6月に同じくオハイオ級SSBNのUSSアラスカが英国王立海軍のジブラルタル基地を訪問したと海軍が発表したことがいかに異例であったか指摘した。ミサイル原潜が同地に入港するのは20年以上ぶりのことで、当時多くの人が「実は侵略の前触れかもしれない」と心配したウクライナ周辺のロシアの演習が終了し約2カ月後のことだった。
USSアラスカが2021年6月、英海軍基地ジブラルタルで停泊した。William Jardim
ウィリアム・ジャルディム
こうしたことを考えると、クリラ大将のウエストバージニア訪問は、今週に公式発表されたバーレーンやオマーンへの訪問とは、明らかに異なるニュアンスを含んでいる。米国と中東諸国、特にイランとの間にさ緊張関係があるときに、CENTCOM司令官が同潜水艦に出向いたという発表をしたのは意味がある。
ここ数週間、イランは、いわゆる「自爆ドローン」を含む無人機の納入を通じて、ウクライナの紛争にロシア側につき、より積極的に介入している。また、イラン当局者は我々が予測したように、同国がロシアに数百の短距離弾道ミサイルを売却する計画であるとロイターに語ったと報じられている。
さらに、米国政府のイラン特別代表で、論争の的になっている核開発プログラムに関して対イラン交渉を主導するロバート・マリーRobert Malleyも、月曜日に、この交渉は無期限に停滞しているようだと述べたばかりだ。その直接的な理由は、9月に首都テヘランでヒジャブを着用していないことを理由に逮捕されたジナ・アミニ(別名マーサ・アミニ)が死亡したことをきっかけに、イラン政府が抗議デモの広がりに対し暴力的な弾圧を続けていることだ。
「(核協議は)議題にもなっていない。動きがないし、焦点になっていない」と、マリーは月曜日にCNNのベッキー・アンダーソンとのインタビューで語った。「現時点では、イランで何が起きているかに焦点が当たっている」。
米国政府に対し、この地域で強さと存在感を示したいと思う国が他にもある。アメリカの表向きのパートナーでありながら、石油輸出国機構(OPEC)石油カルテルによる減産決定を後押しし、価格を押し上げることになったサウジアラビアもそのひとつだ。この行動は、ウクライナ戦争で欧米のエネルギー関連などの制裁を受けているロシアにとって有益に働くとの見方が強い。また、ウクライナの最も有力な国際パートナーである米国や欧州各国にも悪影響を及ぼす可能性があり、ワシントンとリヤドとの間に亀裂が生じている。
また、アラビア海におけるウェストバージニアのプレゼンスは、単にそこにいることを示すことほど重要でない可能性もある。ロシアのプーチン大統領がウクライナ紛争の流れを変えるため核兵器を使用する可能性があるかについては、活発な議論が行われているが、ここ数週間、この可能性に対する懸念が高まっているのは確かだ。プーチン自身の発言も、懸念を払拭するには至っていない。
抑止力よりもリスクの方が大きいとの議論も活発だが、米軍は現在、収量を大幅に低減させたW76-2弾頭を備蓄している。W76-2は、トライデントD5でのみ使用可能で、少なくともある程度の配備が確認されている。特に、ロシアのような国による限定的な核攻撃をよりよく抑止するため、柔軟な核オプションが必要であるとの議論に基づいて開発されたものだ。
アラビア海でのウェストバージニアの異様な姿は、地政学的な摩擦を他にも引き起こす要因となる。米軍は中国を主要な「ペースメーカー」と見なし、10年以内に人民解放軍が台湾に軍事介入する可能性について、定期的に懸念を表明している。また、北朝鮮の一連の挑発的なミサイル発射や懸念される軍事行動が、新たな核実験につながるとの懸念も強まっている。
USSウェストバージニアに関する米中央司令部発表が、どのようなメッセージであるにせよ、それがどのように解釈されるかは未知数だ。
しかし、アラビア海に米軍の最も破壊的な攻撃プラットフォームが存在すると公言したことは、極めて異例であり、核三本柱がそこにあり、必要ならいつでも使えるということを明確に示している。■
Highly Unusual Disclosure Made Of U.S. Ballistic Missile Submarine's Presence In Arabian Sea
BYJOSEPH TREVITHICK|PUBLISHED OCT 19, 2022
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