PLAAF
英国防省は、ベテラン軍パイロット数十人が空戦訓練で中国を支援していると認めた
英国防省(MOD)によると、数十人の英軍の元パイロットが中国に雇われ、人民解放軍(PLA)に訓練と情報を提供している。この状況は、中国による軍事的ノウハウ拡大の努力を改めて浮き彫りにすると同時に、民間防衛請負業者の実情も示している。
The Times of London記事によると、イギリス軍に所属していたパイロット「少なくとも30人」が、「北京の戦術と技術的専門知識の発展を助けるため」中国に採用されている。主に元高速ジェット機パイロットで、ヘリコプターのパイロットも含まれている。全員が2019年末以降、中国のために働き始めたようで、年収は約24万ポンド(約2700万円)とある。
空母HMSクイーン・エリザベスから離陸するイギリス空軍のF-35B。 Crown Copyright
「この訓練支援で中国の軍事的知識と能力は間違いなく高まっている」と匿名高官は報道陣に語った。「いま行動しないと、ほぼ間違いなく英国と同盟国の防衛上の優位性に損害を与える」。
請負業者が提供する訓練の正確な内容は完全には明らかにされていないが、実地飛行訓練より戦術や技術的な専門知識に焦点を当てているようだ。中国空軍パイロットにNATOや西側の戦術を理解させるのが目的と言われる。
「中国パイロットを西側のジェット機で訓練しているわけではない」と同高官は言う。「中国軍の空軍戦術と能力を発展させるため、経験豊かな西側パイロットを投入しているのです」。
PLAが求める外国人専門家では、元イギリス軍人が目立つ。タイムズ紙は、ステルス戦闘機F-35Bやマルチロール戦闘機タイフーン、対潜水艦戦などに使われるマーリンやワイルドキャットヘリコプターで操縦経験のあるパイロットを採用していると述べている。
別の関係者によると、西側パイロットは、南アフリカにある民間訓練センター「テストフライングアカデミー・オブ・サウスアフリカ」(TFASA)でPLA学生を指導しているという。
同社のウェブサイトには、「プロジェクト多数で航空専門家を常時募集中」とあるが、中国軍との契約に関し具体的な内容は記載されていない。
一方、同社は飛行試験の航空機乗務員について、「タイフーン、グリペン、ホーク、トーネード、ミラージュF1、『洪都Hongdu L-15』と『K-8』含む戦闘機訓練機で試験と運用経験がある」と述べている。最後の2機種は、PLAのジェット練習機だ。一方、TFASAのホームページには、別の中国のジェット練習機FTC-2000が欧米パイロットと一緒に写る写真が掲載されている。また、同サイトでは、PLAのZ-9やZ-10攻撃ヘリを含む「複数の中国製ヘリ」を認証していることにも触れている。
洪都L-15(JL-10)新型ジェット練習機。Xu Zheng/Wikimedia Commons
PLAAFレッドファルコン展示チームによる洪都K-8( 乘号同学/Wikimedia Commons
FTC-2000ジェット練習機の前にいる西側乗員 TFASA
TFASAのホームページには、PLAが使用する洪都 L-15とJ-16 Flankerの画像も掲載されている
商業面では、国営航空宇宙・防衛コングロマリットである中国航空工業集団公司(AVIC)との共同事業として、「中国の各航空会社の幹部候補生を年間250人」飛行訓練しているとある。
TFASAと中国共産党の関係で懸念が提起されていた。今年5月には、フランス人教官を含むPLA向けパイロット訓練をする同社に対し、欧米情報機関が「警戒態勢に入った」との報道があった。
興味深いことに、TFASAの中国人留学生が、南アフリカの別の企業、SFC Tactical Solutions Groupが運営する射撃場で銃器の射撃に参加しているとするビデオもYouTubeに公開されている。同じ会社が "TFASA October 2021 - Test Flight Academy South Africa with the guest from China "というタイトルで自社チャンネルに動画を投稿している。
SFC Tactical Solutions Groupは「戦術的訓練」も行っており、指導教官には元軍人も含まれている。
中国と南アフリカは友好関係を深めており、両国は強い外交関係を持ち、貿易関係が急拡大しているだけでなく、軍事的な結びつきも強めている。このため、南アフリカ政府が自国内でPLA隊員の訓練を取り締まる可能性は低いと思われる。
また、Sky News の報道によると、元イギリス軍パイロットの一部は、実際に中国国内で訓練を行っている。これは、今年初めに河南省でのPLAジェット練習機の墜落事故時の映像に照らしても興味深い。教官は中国人以外のパイロットだったようだ。彼らがイギリス人だった事実はないが、身元は確認されておらず、国内に存在するかは謎のままである。
元英軍パイロットの採用が、諜報活動の観点からどの程度危ういものかは、正確には不明だ。少なくとも一部要員は英軍勤務が長くなく、現在は退役しているという指摘がある。タイムズ紙によると、PLA訓練に採用された人材は、「国家機密や公的情報を保護する英国の法律である『Official Secrets Act』に違反したとは考えられない」という。
しかし、MODは事実を公に確認するだけでなく、将来同じような形で起こるかもしれない重大な情報漏えいを防止するため、あるいは少なくとも管理するため措置をとるほどの問題と認識している。
「人民解放軍兵士を訓練するため英軍の現役パイロットと元パイロットをヘッドハンティングする中国を阻止するため、我々は断固とした措置を取っている」と国防省広報担当者は述べた。「また、新しい国家安全保障法案は、この問題含む現代の安全保障上の課題に取り組むため新たな手段を生み出すだろう」。
国家安全保障法案の改正は、「外国人影響力登録制度」として知られている。これにより、外国政府に雇われた人は、その活動を申告しなければ起訴される危険性がある。しかし、第三者に雇われた人にどのように適用されるかは、明らかでない。
英国防情報局も本日、中国からの就職斡旋の標的となりうる英国人職員や元軍人を思いとどまらせる目的で、珍しい「脅威警告」を発した。現在検討中のもう一つの選択肢は、職員に秘密保持契約へサインを強制するかどうかだ、とタイムズ紙は報じている。
Sky News 取材に応じた英国国防大臣ジェイムズ・へピー James Heappey は、将来的には同様の脅威警告を無視すれば違法となるよう法改正する予定だが、それがどのように実施されるかは不明と述べた。「国防省に確認することなく、外国の空軍を訓練してはいけないというのは、良いルールだろう」。
繰り返すが、このような方針が法的な観点からどのように施行されるかは不明であり、今のところ、パイロットが同様の訓練を行うのを明確に禁止する法律はない。
いずれにせよ、元イギリス軍兵士が中国(あるいは他国)に訓練を提供するのを防ぐため、公安秘密法に違反していないと判断され、特にその活動が第三者の請負業者を介し外国で行われる場合は、対策を講じるのは難しい。また、機密情報が漏れたとしても、立証するのは非常に困難だ。とりあえず、今のところ実際に違法な行為は行われていないようなので、注意が必要だ。
国防省はまた、英国は、航空機乗務員(およびおそらく他の軍事専門知識の情報源)が狙われている西側諸国数カ国は英国以外にもあると述べている。国名は明らかにされていない。
ステルス戦闘機、先進的な武器やセンサーの導入など、中国空軍の航空兵器が大幅な近代化を進めているため、それに対応した訓練が必要なのは明らかだ。中国空軍は、これまで主流だった柔軟性に欠けるソ連時代のドクトリンを捨て、西側流の訓練と戦闘戦術を採用する傾向を強めている。
しかし、PLA内には、西側の空軍の戦術、技術、手順を理解し、内部の近代化に役立てるだけでなく、例えば、台湾海峡や南シナ海で予想される紛争において、潜在敵国の動きを把握するため重要情報を得たいとの要望もある。
PLAがNATOの航空機乗務員の専門知識に直接アクセスする可能性が、特に心配されるのはこのためだ。欧米や同盟国のパイロットが戦闘時にどのように行動するか、あるいは航空機、武器、センサーの能力に関する情報など、有用な洞察につながる情報は、開戦時に中国を有利にする可能性がある。そしてそのような情報は、国家機密法の対象にならないかもしれない。
今回の最新案件は、潜在的な機密軍事情報へのアクセスを可能にする西側社会の抜け穴を利用する意欲が中国にあることを改めて示ている。例えば、LinkedInを利用して、機密情報を暴露する可能性のある候補者を募集しているのが明らかになった。これに加え、より伝統的で、より邪悪な諜報活動の手段もある。関与した英国人パイロットは極悪非道な行為者とは限らず、他にも別の軍や関連産業から重要な知識を持つ人物がもっと多くの情報を漏らし、あるいは亡命している可能性すらある。
軍事情報を求める中国の欲求は、秘密であるかを問わず、衰えることはないだろう。しかし元パイロットがPLA要員の訓練に協力することを止めるのに、英国防省の警告が十分かどうかは、現在も将来もわからない。結局のところ、たとえ法律違反や公文書偽造がなくても、該当人物が戦略的ライバルで潜在的な敵対勢力に貴重な支援を提供していることは明らかなようだ。■
Is China Really Using Ex-UK Military Pilots For Tactics Insights? Sure Seems Like it
BYTHOMAS NEWDICK|PUBLISHED OCT 18, 2022 3:33 PM
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。