スキップしてメイン コンテンツに移動

ロシア陸軍の劣勢は「軍事改革」の失敗が原因だった。地上兵力の有効性が疑問視され、核兵器のブラフを多発せざるをえない状況へ。

 

 

ロシア軍は大規模戦闘に明らかに対応できていない

 

 

 

クライナ北東部での急速な崩壊と無秩序な撤退を見れば、兵站の不備や指揮官の無能さにとどまらない深刻な問題にロシア軍が直面していることは明らかだ。現在のロシア軍の構造的弱点は、14年前に始まった改革の結果だ。しかし、ウクライナ侵攻で、改革がほとんど実行されていないものもあれば、ロシア軍をさまざまな行き詰まりに陥らせているものもあることを露呈した。

 ロシア軍の改革は、機械化歩兵大隊を戦場の主要な組織とすることだった。1980年代のアフガニスタン戦や第1次、第2次チェチェン戦争で、遅すぎ効果がないとされたソ連型連隊に代わる構想だった。500人規模のソ連型大隊の小ささに対応し、改革では、800〜900名の「大隊戦術グループ」に変身させた。ロシア政府によると、ウクライナ侵攻前、ロシア軍は戦闘可能な大隊戦術群170個を有し、「常時戦闘態勢を整えておく」設計だったという。そのうち100個以上が2月以降のウクライナ作戦に参加している。   

 ロシア軍ドクトリンによると、各大隊戦術群は長さ5キロの前線を担当し、攻撃作戦時には2キロに狭める。同時に、大隊は敵を攻撃するとき、エシェロンを形成することが期待されている。ソ連軍ではエシェロンを2つ形成するのが標準作戦手順で、両方のエシェロンを統合軍司令官が統制していた。ソ連軍機械化歩兵連隊は3000人以上(戦時にはさらに増加)の戦闘員を擁し、2つのエシェロンに編成する。それに比べ、今日のロシア地上軍は、2個以上の大隊戦術群を持ち、各編成をそれぞれの指揮官が統制するエシュロン2個編成を取る。

 ウクライナ戦争が繰り返し示しているように、この指揮の分断が攻撃と防御の両方の作戦結果に影響を与えた。また、ウクライナ戦争は、小規模部隊の方が機動的かもしれないが、より広い空間の制圧を期待される場合には、効果的でないこともあるのを示している。800人規模の大隊で5kmの前線を維持するのは非現実的で、特に歩兵が200人程度しかいない場合はその傾向が強まる。

 

 ロシア地上軍がウクライナで直面している頭痛の種は、指揮系統の統一性の欠如だけではない。不十分な指揮系統は、未試験の、あるいは時代遅れの戦闘用通信機器でさらに悪化している。2008 年 8 月のロシア・ジョージア戦争でロシア軍が装備も補給も不十分な敵に勝利した後、ロシアの政治・軍事の指導者は小型かつ機動的な大隊戦術集団構想に熱中した。

 しかし、ロシア軍の指導層は、自軍の戦闘通信システムに大きな問題があることを知り、新たな通信システム開発に踏み切った。そこでロシア軍は、無線機「Azart」と軍用スマートフォン「Era」という2つの新しい通信システムでウクライナに侵攻した。

 どちらも侵攻当初からうまく機能せず、ほとんどのロシア軍部隊はこれを捨てて、ウクライナのSIMカードを搭載した旧式端末を導入したほどだった。そのため、ウクライナ軍情報機関がロシア軍指揮官間の通信を傍受するのは比較的容易だった。

 旧式通信機器は通信距離が4キロメートルと短く、中継車やタワーなど支援機材や、トラック 運転手、通信技師、暗号事務員などの支援要員も必要だったため、効果的に機能しなかった。平時の軍事組織では、こうした人員の補充は優先されないが、戦闘行動時には動員・配備が必要となる。大隊戦術群が中心の新しい地上軍構造では、軍事作戦の成功に必要な戦時中の兵員動員の追加を想定している。

 暗号事務員や通信中継員以外にも、平時では常勤でなくても戦闘作戦に不可欠な職種がある。今回の戦争の報道を追っている人は、ウクライナの農民がロシアの戦車や装甲車を牽引しているのを見たことがあるだろう。使えなくなった装備は、有事に動員された運転手が運転するロシアのレッカー車で牽引しなければならない。しかし、これは開戦7カ月が経過するまで行われず、新たに動員されたロシア人兵士が職業訓練を受けるかは依然不明である。

 ロシア軍指導層は、歩兵大隊に重機メンテナンス要員を加えなかった。ロシアの戦車や装甲車の運転手は整備訓練を受けているので、日常の機械的な整備はできる。しかし、問題が起きたとき、専門的な装備を持ち込んでおらず、重機を持ち上げたり、金属を曲げたりできないため、さらなる支援が必要なのだ。

 さらに、ロシア軍は7カ月間、戦闘衛生兵(ロシアの伝統では「サニタール」と呼ばれる)を動員していない。衛生兵は、部隊に同行し、負傷者に応急処置を施し、戦場から避難させる役目だ。2022年2月から10月まで、ロシア軍に戦闘衛生兵がいなかったため、負傷者は他の戦闘員により避難させていた。つまり、ロシア部隊は負傷兵1人につき、避難させるために戦闘から撤退する兵士1~2人を失っていた。

 ロシアの新軍事組織の最も大きな弱点の一つは、その指導者モデルである。軍事組織はどの国でも保守的な組織で、ロシアではなおさらである。軍隊の構造が変わっても、特定の階級に要求される尊敬と権威は変わらない。旧ソ連時代の連隊は、大佐や下級将校など、経験と権威ある上級将校が指揮をとっていた。歴史的に見ても、ロシア軍において威厳とカリスマ性を有する階級だ。しかし、現在の大隊戦術群の指揮を執るのは少佐や中佐といった中堅将校で、影響力や実効性は限られる。ウクライナ戦争では、大隊の人員・装備の損失が目立つ。ウクライナ情報部が傍受したロシア軍将校の電話によると、ロシア軍大隊指揮官は人員や装備の補充の要求や受け取りがうまくできていない。ある将校は戦争初期に、自分の大隊の司令官(ロシアでは伝統的にコンバトと呼ばれる)が目的さえ知らなかったとさえ述べている。

 

 プーチンの軍事改革が何を意図して行われたかは分からないが、ロシア軍は大陸規模の戦争に対応できるものではないのは明らかだ。むしろ、小規模で装備も準備も整わない敵との短期決戦用の軍事組織を作り上げてしまった。ロシアが国土の広い国であることを考えれば、これは驚くべき結果だ。

 常に戦える軍隊を作る代わりに、ロシアは長期作戦を維持できない地上軍を抱えてしまったのだ。ウクライナでの8カ月に及ぶ戦闘での損失で、ロシアの政治指導者でさえ、自国が攻撃されたら、通常戦力が役に立たないのを理解しているようだ。それゆえ、プーチンが通常戦力の弱点を補うために核オプションを頻繁に発動するのも無理はない。■

 

Why Russia’s Military Reforms Failed in Ukraine | The National Interest

 

by Lasha Tchantouridze

October 15, 2022  

Topic: Russian Military  Region: Eurasia  Tags: Russia-Ukraine WarGeorgia WarRussian MilitaryMilitary ReformRussian Invasion Of Ukraine

 

 

Dr. Lasha Tchantouridze is a professor and Director of the graduate programs in Diplomacy and International Relations at Norwich University.

 


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...