China's Xi Jinping at BRICS Summit. Image Credit: Creative Commons.
アメリカと同盟国が民主主義を守るため結集すべき理由を理解するには、自分たちが勝てないかもしれないと考える謙虚ぶりと、北京の世界戦略が成功するシナリオを想像する創造性が必要だ。
中国共産党の勝利は、アメリカ型民主主義の未来にどんな影響を与えるのだろうか。人類にとって何を意味するのだろうか。
今は考えにくくても、現実になるかもしれない。何十億もの人々が自分たちのことを自分たち以上に知っている、国家運営の人工知能システムの下に暮らす全体主義。それはどのようなものだろうか?抽象的で仮説的な思考がもたらす無感覚を避けるため、心を開き、個人的なビジョンにしてみよう。自分が次世代の一員であると想像してほしい。中国政府がAIを支配し、世界を支配する未来に生まれているのはあなたなのです。
CARL このような世界では、あなたが目を開ける前から、自動化されたシステムがあなたのDNAと、あなたの家族の個人的で「プライベートな」医療データを収集している。その想定システムをCentral Automated Records Litigator (CARL)と呼ぶ。あなたが成長するにつれ、CARLはあなたに関する医師のメモから、ワクチンや高度な医薬品に対する個別反応を測定する血液分析まで、すべてを吸収し分析する。CARLは、あなたの検査結果や医療文書のデジタルオーシャンを食べ、常にそこにいる。
CARLは、あなたが書いたり話したりする言葉すべてを消化する。学校で、オンラインで、キャンプで、休暇で、あなたの車や寝室、キッチンやVRヘッドセットなどの狭い空間の中で。
CARLはあなたのゴシップやドラマであふれる。CARLは、あなたが他人の周りでどのように行動しているか、また、他人があなたの周りでどのように行動しているか、あなたの前でも後ろでも見ている。CARLは、あなたの周りの人々があなたについてプライベートで何を書き、何を言っているかを知っている。何千台もの小さなカメラであなたを見ている。特定画像に反応するあなたの目の膨張を感知できる。様々な状況下で脈拍や血圧が速くなったり遅くなったりすることが、何を意味するのか理解している。 CARLは、あなたがストレートかゲイか(あるいはその中間か)、あなたより前に把握している。食べ物、音楽、映画、スポーツ、本、洋服、ゲーム、ユーモア、政治など、あなたの好みをすべて知っている。それ以上に、集団がクールだと思わせたいものにあなたの嗜好を合わせ、クールではないと思わせたいものからは遠ざける。あなたの欲望、空想、恐れ、強み、限界、盲点を理解している。IQ、EQ、SATのスコア、血圧、平均安静時脈拍、コレステロール値、すべてのパフォーマンス測定値を知っている。
CARLはあなたを果てしなく実験する。画像を送り、あらゆる状況に置き、あなたの反応を見る。気の遠くなるような量のデータを収集し、意味を理解することができるのだ。やがて、どのボタンを押せば、激しい快感や耐え難い苦痛を与えることができるのかがわかるようになる。笑わせたり、泣かせたり、怒りに震わせたり。眠っているときに悪夢を見ることもできる。必要な結果を得るため、深い眠りを拒否することもできる。
CARLは、人間の行動を規定する報酬と罰を与えるのに、非常に効果的だ。集団の意向に沿うよう訓練する。誰と仲良くするか、誰を追い出すか、誰を憎むか、そしてもちろん、いつ何も感じず、周囲の人々に対し無感覚になるのか。年齢を重ねるごとに、ある状況下であなたが何を考え、何をするか、統計的な精度を高め予測することができるようになる。最終的には、政府が運営するAIスーパーシステムが、あなたの心も体も魂も所有することになる。
このように想像しながら、周りの若い人たちについて考えてほしい。中国共産党がアメリカを追い越し世界征服に成功すれば、現実にCARLとその恐怖を目にすることになる。あなたがあと10年、20年生きれば、あなたもそうなる。でも、あなたと彼らの間には大きな違いがあり、若い世代はそれがそこにあることすら意識しないだろう。ミレニアル世代がパソコンやインターネット以前の世界を知らないように、彼らもCARL以前には何も存在しなかったと知ることはないだろう。あなたと違い、彼らはこのページの言葉を(あなたが読んだことのある他の多くの言葉も)読むことはないだろう。「間違っている」言葉はすべて消去される。あなたが今、AIによる思考制御システムのない世界を当たり前と思っているように、彼らはCARLを当たり前と思うようになる。
意味合い これはSFの世界であり、絶対にありえないと思うのはあなただけではない。だが、あなたが間違っている可能性がある。中国共産党はすでにCARLの初期プロトタイプを開発している(もちろん、名前は違う)。AI至上主義の助けがなくても、北京は、全体の知恵が堕落し、事実や客観的現実から切り離された人々でいっぱいの世界を作り出している。米国政府でさえ、中国について論理的に考えることができなくなっている(詳しくは後述)。
中国共産党が中国国内のイスラム教徒に対し組織的に民族虐殺を行い、それでも中東、北アフリカ、東南アジアのイスラム教指導者から賞賛と協力を得ている世界に私たちは生きている。中国で教会がブルドーザーで破壊され、聖書が破棄され、カトリック教徒が投獄され拷問され、ローマ法王がその犯罪に沈黙する世界に暮らしている。フランシスコ法王は、中国のカトリック教徒に無神論政権の法律に従うよう奨励し、(今のところ)北京に配慮しダライ・ラマや台湾総統に会うことを拒否している。
中国の競合他社が自分たちから盗み、グローバル市場で自分たちを破壊し、取って代わろうと狙っていることを知っていながら、アメリカの大企業が中国から撤退し自らを救うのを拒否する世界に私たちは現実に生きているのだ。こうした企業は、北京のためワシントンでロビー活動を行うことがある。中国の巨大な消費者市場での短期的な利益は、見過ごすにはあまりに惜しく映るのだろう。CEO多数は、中国抜きで利益予測は不可能と考えているようだ。アメリカ企業は中国市場に依存し、中毒に近い状態だ。大多数の企業は、生き残るため習近平のいいなりになるしかないと思い込んでいるようだ。NBAを見ればわかる。
私たちはすでに、国連が西側の民主主義者よりも中国の独裁者を支持して、設立理念に反する世界に生きている。今日、国連機関は、中国共産党が発展途上国に大量監視と抑圧の手段を輸出するのを助けている。国連機関は、国際社会から与えられた信頼を利用し、中国のハイテク企業が他の方法でアクセスできないような場所、人、データにアクセスすることを黙認している。国連は北京に、イデオロギーの敵に対抗する影響力を与えている。中国の主張を繰り返し、反対の声を検閲している。
台湾人が基本的な自決権を行使するのを積極的に反対し、米国が建国の原則に違反する世界に私たちは生きているのだ。1979年以来、米国は、台北の中華民国政府が常に中国から独立し、台湾が国民主権を享受する自由民主国家であるにもかかわらず、中華民国(台湾)の国としての正当な存在そのものを否定するまでに至っている。台湾は今や世界の民主主義国のトップ10に入る。にもかかわらず、ワシントンをはじめ欧米外交官は、中国共産党に配慮し、台湾が国民国家として存在しないかのように装っている。
これが今の世界なら、中国の総合国力が増大した明日の世界はどうなるのだろうか。アメリカ含む各国は、比較的弱い段階でも中国の成長を止めることはできない。もっと強くなったら中国を止める国があるだろうか。
無駄遣い 中国から毎年、何十億ドルもの資金が流出していると言われている。中国の役人は、体制崩壊の保険として、海外に不動産を購入し、息子や娘を海外の学校に通わせたいと考えている。見落とされがちなのは、中国共産党が模倣品や海賊版ソフトを販売し、同時に先進国の知的財産や企業秘密を盗むことでどれだけの金を得てきたかだ。その額は誰にもわからないが、FBIは中国共産党の窃盗で米国は年間6000億ドルもの損失を被っていると見積もっている。
デュポンのオレオクッキーのクリーム状の白いフィリングの秘密配合からGEエイビエーションのジェットエンジン技術まで、海軍のドローン設計から風力タービン制御ソフトウェアのソースコードまで、あらゆるものを盗んだとしてFBIは中国工作員数百人を逮捕している。
その他先進国も同程度の被害を受けていると仮定すれば、盗難の規模は先進国だけで年間1兆ドルを優に超えるはずだ。しかし、現実には損失は均等ではない。他の国々は米国よりはるかに脆弱だ。次に経済力があるのは、日本、ドイツ、インド、イギリス、フランスだが、こうした国で中国のスパイ行為(経済的、その他)が報告されたり、訴追されたりすることは極めて少ない。
同盟国と比べ、米国政府は中国共産党の経済戦争から守る取り組みに極めて積極的である。2022年1月、FBI長官クリストファー・レイChristopher Wrayは、連邦政府は2000件以上の防諜事案の調査を進めており、FBIは平均12時間に1回、新しい中国案件を追加していると述べた。「中国のハッキングプログラムの規模や、ハッカーが盗んだ個人・企業データの量は、他のどの国よりも大きい...。東ドイツの監視の悪夢とシリコンバレーの技術が合体したようなものだ」とレイは言った。
アメリカ政府が毎年5千億ドル以上の損失を出しているのなら、保護が弱く、対中政策がはるかに弱腰の他の民主主義国で状況がどこまで悪化しているかが想像できるだろう。中国経済は放っておくと健全でなくなる可能性が高いと思われる。中国政府の経済基本法違反、市場歪曲行為、法律違反、不動産バブルなどはよく知られている。
しかし、中国経済は基本的に不健全と思われていない。パンデミック時で一時的に停滞しても、経済学者は中国が再び立ち直り、成長の可能性があると信じている。中国共産党は、外国の「パートナー」が衰退しても、中国が強くなるグローバル貿易システムを構築している。北京は、世界中の政財界のエリート意思決定者をターゲットとし、彼らを豊かにし、影響を与え、誘惑し、コントロールする。エリートを取り込むと、中国の独占企業が外国ライバル企業と競争し、その国の社会を貧困化させる。
中国の世界戦略が最終的に成功するか判断するのは時期尚早とはいえ、今のところ、習近平や中国共産党の戦略家が言うように、多かれ少なかれ機能しているように見える。 アメリカは中国に現実的なアプローチをとり、戦略的な競争相手と位置づけ、敵対的な貿易相手国として扱っているにもかかわらず、アメリカ政府は国家安全保障上の存亡の危機に暫定的に動いているに過ぎない。中国の国力は増大し、米国を凌駕する可能性がある。第一次冷戦でソ連は負けたが、第二次冷戦で中国が負ける保証はない。
米国と同盟国にとって、国家安全保障のためになすべきことは驚くほどたくさんある。第一歩は、難しい真実を受け入れ、中国共産党の暴走を黙認すればどうなるか認識することだろう。■
What if China Wins? - 19FortyFive
Ian Easton is a senior director at the Project 2049 Institute and author of The Final Struggle: Inside China’s Global Strategy. The above is an excerpt from the author’s new book. You can follow him on Twitter: @Ian_M_Easton.
In this article:AI, CCP, China, Chinese Economy, featured, Xi Jinping
WRITTEN BYIan Easton
Ian Easton is a senior director at the Project 2049 Institute and author of The Final Struggle: Inside China’s Global Strategy. He also wrote The Chinese Invasion Threat: Taiwan's Defense and American Strategy in Asia. He previously served as a visiting fellow at the Japan Institute for International Affairs (JIIA) in Tokyo, a China analyst at the Center for Naval Analyses in Virginia, and a researcher with the Asia Bureau of Defense News. Ian holds an M.A. in China Studies from National Chengchi University in Taiwan and a B.A. in International Studies from the University of Illinois Urbana-Champaign. He studied Chinese at Fudan University in Shanghai and National Taiwan Normal University in Taipei.
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