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プーチンはクーデター制圧に核兵器投入を決意するか。歴史に見る強権政権の末期と軍事クーデターの関係。

 Russia Nuclear War

Topol-M Missile - By Vitaly V. Kuzmin

戦を平和的に終わらせようとアメリカが追求した「封じ込め戦略」を明確に定義したジョージ・F・ケナンは、より自由な体制がどのように出現するのか、最後のステップで決して明確にしなかった。冷戦は、迅速なクーデターとそれに続くソビエト連邦の解体として、予期せぬ形で終結した。西側のウクライナ戦略の核心で暗黙の目的の一つに、戦場でのロシアの敗北と屈辱が、核兵器を含む広範囲な軍事力を保有しているにもかかわらず、ウラジーミル・プーチンと強固なシロビキ権力基盤を平和的に倒させることにつながるというものがある。

ウクライナ戦争への30万から100万人のロシア国民の動員・派遣が、この結果を加速させそうだ。核兵器で武装した政権が、内戦の序盤で軍部の反乱に直面したらどうなるのか、という問題がある。ソ連崩壊はありえないほど幸運な結果だったが、ほとんどのオブザーバーは、その他の展開の可能性を検討しようとしていない。このことは、核武装した北朝鮮や中国で避けられない政権交代がどのように起こるかとの疑問も投げかけるものであり、避けられない問題でもある。

1953年のスターリンの死にはクレムリンの衛兵が、1964年のブレジネフによるフルシチョフの失脚と1991年のゴルバチョフ失脚にはKGBが決定的な役割を果たした。しかし、プーチンがFSB(連邦保安局)シロビキと共依存関係にあることから、プーチン側近からクーデターが起こる可能性は低く、軍の旅団や師団長から発生する可能性が高いと思ってよい。1991年のエリツィンに対するKGBのコマンド部隊による作戦を軍が支援しなかったことや、1993年のアレクサンドル・ルツコイによる10月クーデターに対する軍の行動は、軍が情報機関と利害が一致しない場合に決定的なパワーブローカーになることを示している。プーチンは、1905-07年のロシアの反乱を鎮圧するために軍の駐屯地が重要であったこと、1917年に皇帝ニコライ2世を倒したのがロシア軍の反乱であったことを知っているはずである。プーチンは装備も統率も不十分な兵士を大量にウクライナに派遣しているが、政策が民族主義的期待に応えられない場合、反発を招く危険性がある。

ウォルツと核兵器、ウクライナへ

政治学者ケネス・ウォルツKenneth Waltzは、1981年に発表した代表的な著書『More May be Better』で、核兵器の世界的な拡散は、核兵器のもつ明白な抑止効果により平和を増進させると主張した。これは本人の最初の誤りだ。ロシア指導者は明らかに、ウクライナへの通常攻撃で、外部介入を盾に核兵器を使おうとしている。台湾の民主的同盟国に対する攻撃的盾としての核兵器に対するこの戦略的信念は、8隻目の晋級弾道ミサイル潜水艦、ミサイルサイロ300基など、中国の急速な核増強の推進要因にもなっている。

また、ウォルツは、核兵器開発には制度的な成熟度が必要であり、同時にこうした政権に核兵器の抑止効果を認識させ、それにより自制心を植え付けられると主張した。米国のような高度な政治経済を動かす複雑な憲法の歴史と、核兵器製造に必要な比較的単純な組織との間に共分散があると仮定したのはウォルツの第2の誤りだ。アパルトヘイト下の南アフリカのアドベナにおける核兵器組立て事業では、6個半の核弾頭を生産し、900平方メートルの兼用工場があった。北朝鮮は、大気圏外弾道ミサイルに搭載する小型の昇圧型核分裂弾頭を製造したが、管理面では商業刑務所のような精巧さを備えている。ソ連の有人シャトル計画「ビュラン」の失敗、月面着陸の失敗、超音速民間旅客機の失敗は、国民の間で違法性を認識していることを確認できない政権の致命的な事態と一致している。私たちは、ユーゴスラビア、ロシア、パキスタン、イラン、中国、インドネシア、トルコのような多民族帝国の残骸国家では、安定した政府機関がなくても核技術の高度利用が可能であることを知っている。

安全な第2次攻撃核兵器に対する確実な防衛手段は存在しないとのバーナード・ブロディーBernard Brodieの議論に基づき、ウォルツは核兵器は現状維持に大きく有利だと主張している。ウォルツの第3の誤りは、攻撃的行動をとる強い誘因がある内戦では、核の影響は考慮されないことである。内戦では、領土支配は徴兵や徴税のための資源と等しく、包囲された飛び地の存在は攻撃の動機となる。また、核兵器配備は、敵対国に対する第二撃力を最大限に発揮するためであるが、流動的な内戦では、固定された基地の核兵器は「使うか失うか」のジレンマに陥り、早期使用の圧力につながる。また、国家間紛争や戦争法に比べ、内戦では道徳的抑制が効きにくい。内戦は一般的に制度的・道徳的崩壊と重なるからである。政治理論家エドモンド・バークEdmund Burkeが説明したように、革命の暴力はしばしば、非戦闘員への暴力さえ永続させる自己消費的な制度破壊を生み出す。国家間の戦争よりも国家内の紛争でより多くの人命が失われるのはこのためだ。1966年から1976年にかけての文化大革命は、制度崩壊で引き起こされたというより内部エリートが仕組んだ若者の蜂起であったため、北京は核兵器を厳重に管理し続けた。

 

プーチンとクーデターの歴史

1795年10月の反乱で、ボナパルトは当時最強の武器であった大砲をパリ市民に発射した。1939年から1940年のスペイン内戦、1991年から2001年のユーゴスラビア戦争で核兵器が使用されたかどうか、反実仮想の歴史を推測できる。衰弱したパキスタン国家のパンジャブ中核部が、その外縁州であるバロチスタン、カイバル・パクタンクワ、シンドでの分離独立を鎮圧するため核兵器使用に踏み切ることはあるだろうか。1971年、東パキスタンでは、パキスタン軍と地元民兵が600万から800万人の難民を脱出させた。パキスタン崩壊を回避するために、核兵器を使用していただろうか。イランが核兵器を求めていること、ペルシャ人が人口の半分以下のみの帝国の残滓であることを考えると、テヘランは分裂を回避するため核兵器に頼るだろうか? 

アパルトヘイトの南アフリカが普通選挙開始直前に核弾頭を解体したことから、外部勢力の影響力の重要性がわかる。2013年から2017年にかけてのシリアの化学兵器使用は、ロシアの庇護で可能になった。しかし、1911年の中国革命における袁世凱将軍の反乱、1917-1922年のロシア内戦、1945-1949年の中国内戦では、紛争の劇的な規模のため外部介入が制限されたことについて、もう一度同じ問いを投げかけてよい。核内戦は、たとえ近隣諸国が核武装していたとしても、敵や標的が不明確であるため抑止が難しく、近隣諸国を恐怖に陥れる可能性がある。また、核内戦は、核保有の近隣諸国による先制攻撃を誘発する可能性もある。

プーチンの状況に最も近いケースは、1944年7月20日にドイツ国防軍がアドルフ・ヒトラーに対して起こしたクーデターで、最終的に失敗し、暗殺未遂となった。もし、ヒトラーがクーデターを生き延びたが、ドイツ国防軍への支持が高まっていたとしたら、反乱軍に核兵器使用に踏み切っただろうか?北朝鮮の金正恩は、南浦の第3軍団が自然発生的に反乱を起こした場合、核兵器を使用するだろうか?金正恩には、中国に逃げるという選択肢が常にあるはずだが。

中国が反乱軍地域の出現を含む大規模反乱に屈した場合、中国共産党の上層部は核兵器使用に踏み切るだろうか。もし、地域的に広がった中国人の不満が、北京の共産党の結束を弱めるほどではなくとも、南方戦線司令部のある湖南省で反乱が起こり、それが1911年の袁世凱反乱のように明らかに広がる兆しがあればどうだろうか。湖南省は、1851年から1864年にかけて上海近郊にまで広がり、2千万人の命を奪った太平天国の反乱の中心地だ。広東省を拠点とする司令部が、中国が弾道ミサイル潜水艦を保管している海南島の玉林海軍基地を奪取する準備しているとしたらどうだろうか。ジョセフ・ミランダのように、この線で中国の核内戦を推測する作家もいる。

プーチンはどう動くか?

プーチンに対する軍の反乱の初期症状は、ウクライナの疲弊した旅団や師団将校から噴出する可能性が最も高く、実際にこうした将校は前線からクラスノダール、ロストフ・オン・ザ・ドン、ベルゴロド、クルスク、ブリャンスクの都市近くの基地に交代させられている。蜂起の動機は、より自由な政権を求める司令官か、ウクライナの現状を打破する以上のことはしない司令官かもしれない。クーデターはさらに悪いものを生み出すかもしれない。超国家主義者が軍事大統領、あるいは栄光のためにプーチンを追い出し、南ベトナムを苦しめた軍事クーデターの連鎖を生むかもしれないのである。プーチンが核兵器を使用する最後の機会は、師団やロシア軍(軍団換算で3万人)全体が反乱を起こし、反乱がモスクワ周辺の駐屯地や大本営に広がる前である。核兵器は12の施設と35箇所の基地に保管されているが、イスカンダルなどの戦術・戦術ミサイルシステムや航空機に搭載できる非戦略兵器は約2000個程度で、空軍基地に配備された戦略核爆弾弾頭200個はここに含まれない。重要なのは、上記のような動機で動く反乱軍ではなく、ロシアの中央・南部軍管区の6つのイスカンダルミサイル旅団のパイロットや軍のオペレーターがプーチン側に付くかどうかである。  

このような状況下で、米国やNATOのような部外者ができることは、核抑圧がロシア国境を越え広がる恐れがある場合、同盟には報復する用意があることを常に明示的に繰り返視発言する以外、ほとんど何もない。2011年のNATOによるリビア介入時と異なり、モスクワ、北京、平壌には報復手段がある。国内で核戦争を始めようとする政権には亡命先の聖域が残っていないため、報復に出る可能性が高い。しかし、核軍縮や被害軽減のための先制攻撃は、実行可能かもしれない。絶対絶命に感じる政権は、核戦力の指揮統制に大きな亀裂を抱えている可能性が高く、爆弾が落ち始めればプーチンがどうするかは誰にも分からない。■

Would Putin Use Russia's Nuclear Weapons To Stop a Coup? - 19FortyFive

ByJulian Spencer-Churchill

Dr. Julian Spencer-Churchill is an associate professor of international relations at Concordia University, and the author of Militarization and War (2007) and of Strategic Nuclear Sharing (2014). He has published extensively on Pakistan security issues and arms control and completed research contracts at the Office of Treaty Verification at the Office of the Secretary of the Navy, and the then Ballistic Missile Defense Office (BMDO). He has also conducted fieldwork in Bangladesh, India, Indonesia, and Egypt, and is a consultant. He is a former Operations Officer, 3 Field Engineer Regiment, from the latter end of the Cold War to shortly after 9/11.


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