中国は米国の想定以上に核先制攻撃の準備をしている可能性があり、太平洋地域で「限定核戦争」の恐怖が高まっていると専門家が警告している。
米国は「将来のインド太平洋地域における危機シナリオにおいて、限定的な核兵器の使用の可能性が高まっている」と、大西洋評議会Atlantic Councilの新しい報告書が指摘している。2024年9月の報告書は、軍事演習に加え、中国の公式声明や内部工作の分析から、台湾侵攻の試みが失敗に終われば、中国は「先制不使用」政策を放棄するだろうと主張している。
中国がいつ、どのようにして核兵器を使用する可能性があるかに関する米国の「制度上の想定」には「欠陥がある」と著者は述べている。米国の国家安全保障および国防戦略は、増大する中国の核兵器備蓄と、侵攻が失敗に終わった場合にグアムの米軍に対して核戦略を採用し、地域核兵器を使用する可能性を考慮する必要がある。
ジョン・カルバーは、大西洋評議会のグローバル・チャイナ・ハブの上級研究員で、長年CIAで東アジア問題を専門に分析を行ってきた。カルバーは、核保有国が核兵器を使用せず発射を控えるという想定は証明されていないと述べた。
中国は「核兵器を使用する覚悟ができている」と、カルバーは研究発表のウェビナーで述べた。
カルバー、デビッド・O・シュルマン、キッシュ・リャオ、サマンサ・ウォンは、報告書「米国の戦略を、中国が核保有国として台頭することを考慮したものに適応させる」を共同執筆した。
この報告書は、2032年を舞台とした軍事演習を基にしており、その中で中国は台湾を侵略するが、脆弱な足場しか確保できない。その後の増援部隊が米国と台湾軍の予想以上の抵抗で撃破されたことで、中国は「勝利を主張できる信頼性の高い出口」を失うことになる。この課題に直面した習近平国家主席は、核兵器を使用するか、あるいは敗北を受け入れるかの結果を考慮しなければならない。
「このような失敗を防ぐ必要性から、侵攻が開始された後は、核兵器の使用を含むあらゆる手段の使用が正当化される可能性が高い」と著者は結論づけている。
この軍事演習では、「ブルー」の米軍部隊は、「レッド」部隊が「2つの超大型爆弾でグアムを攻撃した」際に驚いたと、カルバーは述べた。1発は空軍基地を、もう1発は海軍基地を攻撃し、グアムは事実上、中国に対する長距離攻撃の発射台として、また西太平洋における同盟軍を維持するための後方支援拠点として「ゲームから除外」された。
レッドチームは、弾道ミサイル潜水艦から米軍および西海岸の基地に向けて通常兵器を長距離発射し、少なくとも1発はグアム上空を通過した。ミサイルは迎撃されたが、明確なメッセージは、これらは核兵器であってもおかしくないということだった。レッドチームは、カウンタースペースおよびサイバー攻撃も実施し、一方、ブルーチームは通常戦闘を展開した。
一方、地域の同盟国を代表する「グリーン」チームは大きな打撃を受け、「核安全保障の保証を彼らに与えるためには、米国が相応の対応をすることが必要だ」と主張した。核抑止力の保証の信頼性を維持するために、ブルーチームはこれを実行した。
カルバーによると、習は世界が「地殻変動」の真っ只中にあり、第一次世界大戦後の大帝国の崩壊と新世界秩序の形成に似たリセットが発生中と見ているという。
ロシアによるウクライナ侵攻やその他の出来事は、習に「大国間の戦争や核戦争さえも、冷戦終結以来、机上の空論となっていたものが再び現実味を帯びてきた」ことを示していると、カルバーは述べた。
近年、習はミサイルおよび核戦力を本格的な軍事力に格上げし、それらの重要性を高めているとカルバーは指摘した。「より危険な新世界が出現し、戦争の可能性が高まっている今、最低限の抑止力能力を維持することはもはや中国の利益に適っていない。特に大国間の戦争の可能性が高まっている」。
中国は過去に少なくとも3回は「核による脅迫」を受けたと考えることを受け入れているが、もう二度とそうはしないと決めたと、カルバーは述べた。
一方、米国政府は中国の進化する戦略がもたらす課題にまだ気づいていない。米国の戦略家たちは、中国の核開発計画を「最低限の報復態勢を維持する戦略的戦力の構築」と見なしているが、一方で「中国は今、新たに手に入れた核兵器を積極的に使用して、対抗勢力を抑止または強制し、自国の核心的利益を守る可能性が高まっている」と報告書は述べている。
しかし、北京には「国内の政治的利益に悪影響を及ぼす可能性のあると認識される外部脅威」に対抗するた、その力を行使する意思がある。
一方、報告書では「米国政府の意思決定プロセスにおける構造的な問題」が核エスカレーションを妨げていると指摘している。これには、危機に直面した際に「ばらばらで…欠陥のある提言」につながる可能性のある「断片化」や意思決定の縦割り構造が含まれる。
著者は、「これらのばらばらのCOA(行動方針)に含まれる中国の核心的利益の誤読は、米国が通常戦争に勝利し核抑止力を維持することの間の緊張を生み出し、また、希少な軍事資源における不確実なトレードオフを生み出す」と主張している。
結局、米国が「中国が核兵器と核兵器運搬手段を急速に増強するにつれ、核保有国としての地位にふさわしい行動を取る」認識がないことが、最も深刻なリスクをもたらす。ここから「中国が核兵器の先制使用を考えていないと誤って想定する」ことにつながり、ひいては米国と中国を不用意なエスカレーションのスパイラルに陥らせ、最終的に核戦争を引き起こす可能性がある。
同盟国とシグナル
中国との熱い戦争において、日本と韓国は米国に「核によるシグナルを強化する」よう圧力をかけ、「核の領域でエスカレートする」可能性が高いと報告書は述べている。特に、これらの国々がすでに紛争で軍を失い、攻撃が継続する可能性に脆弱性を感じている場合である。
また、戦略を複雑にしているのは、中国とロシアの関係だ。報告書は、これが「中国の核の先制使用に関する意思決定の計算を形作る」可能性があると述べている。ロシアはインド太平洋地域で「あらゆる危機を悪用」し、他地域での自国目的を追求する可能性があり、また「自国の目的を達成するために核による威嚇を行う」可能性もあると付け加えている。
米国の核戦略は「冷戦時代の歴史的記憶に基づくもの」であると報告書は記しているが、中国を核保有国として扱うには、異なる戦略が必要である。
「ロシアのシグナリングは攻撃的でエスカレーションを伴い、明確に伝えられているが、中国のシグナリング方法は微妙かつ曖昧である傾向がある」と方向書は記している。「中国は意図的にこうした曖昧なレッドラインを作り出しており、その理由の一部は、米国および同盟国の意思決定プロセスがリスク回避的であるとことを利用するためである」。
米国は、10年後までに中国の核戦力は1,000発以上の弾頭を配備可能になると推定しているが、北京は核戦力について口を閉ざしている。しかし、中国の核兵器の在庫は依然として米国やロシアの備蓄を下回っているため、北京は戦略兵器協議への参加を求めるすべての招待を無視したままだ。
「中国の核兵器の透明性の欠如は、歴史的に劣っていた核戦力に起因している可能性がある」と報告書は述べている。しかし、中国が米国およびロシアと核兵器の面で対等になるよう強化していくにつれ、中国が「核能力と意図についてより透明性を高めるよう説得される」可能性もあります。
報告書は、北京が「新たに得た核保有国としての地位を安全に活用して国家目標を達成するためには、危機の前後において核の意図と能力の透明性を高める必要がある」と主張している。中国の公式表明にある核政策と実際の動機、行動、意図との間のこのギャップを埋めるためには、より明確な説明が必要である。
中国パワープロジェクトのディレクターであり、戦略国際問題研究所の上級研究員であるボニー・リンは、ウェビナーで、この軍事演習では中国とロシアの間で起こり得る調整の程度が過小評価されていると述べた。
「中国はロシアに許可を求めるつもりはないでしょう。中国はロシアにすべての動きを伝えるつもりもないでしょう。しかし、私はロシアが早い段階で、おそらく侵攻が始まる前から支援を行うと見ています」と彼女は述べた。
リンは、この演習で中国と米国間の深刻な「危機管理コミュニケーションの欠如」が明らかになったと述べた。これは、米国の指導者が北京に対して提起してきた懸念事項である。
この軍事演習に参加したグローバル・タイワン・インスティテュートのシニア・ノンレジデント・フェロー、エリック・チャンは、中国による核攻撃は「米国または台湾を後退させる」ことにはならないだろうと述べた。むしろ、通常兵器による攻撃を加速させることになり、中国への抵抗という観点では、台湾にとって「ゲームのルールが大きく変わる」ことになるだろうと彼は述べた。
今回の軍事演習は、台湾が兵器を蓄え、長期戦に備えることが正しい選択であることを示唆している。
「ウクライナがプーチン大統領の核の脅威に対して備え、耐性を持っていることが、プーチンがウクライナに核兵器を使用していない2つの理由のうちの1つである」と彼は述べた。
ジョー・バイデン大統領は「ウクライナで戦術核兵器が使用された場合、米国は通常戦力の航空力を用いてウクライナの戦力を一掃する」とプーチンに静かに警告している。また、「ウクライナはプーチンの核使用に対してぐらつくような兆候は一切示しておらず、核使用の脅威を減少させている」ことも重要である。
また、カルバーはウェビナーで、米露間の軍備管理条約のほとんどが近年「一掃」されたが、来年更新期限を迎えるSALT II協定は例外であると指摘した。
ロシアは更新しない可能性を示唆している。SALTの下では、ロシアと米国は配備可能な弾頭数を1,550発に抑えており、その多くは「旧式の…空中投下爆弾」であるとカルバーは述べた。
中国の核ICBM能力の急拡大は、全体的な状況を一変させ、核戦争はここ数十年よりも現実味を帯びてきている。
「もはや『考えられないことを考える』必要がなくなった状況全体が…薄れつつある」とカルバーは言う。中国は「自国が何をしているのか」、近隣諸国や反対派に「説明責任がある」のだ。■
S&P: Is China Prepared to Uncork the Nuclear Option?
Nov. 1, 2024
https://www.airandspaceforces.com/article/sp-is-china-prepared-to-uncork-the-nuclear-option/
世界は、CCP中国の急速な核戦力の拡大により、ふたたび新たな冷戦、第2次冷戦に突入することになり、相互核報復攻撃の人類滅亡の悪夢に苛まされることになる。
返信削除CCP中国は、戦略、及び戦術核兵器戦力を恐らく米国並み以上に高め、先制核攻撃はしないと言う自縛を解き放ち、記事にあるように極めて攻撃的な核戦略に移行するだろう。そして、際限のない核兵器生産競争に陥ることになる。
世界は、核大国3極体制となり、CCP中国は、本当の核の恐怖を理解しない習と、キ印プーチンの妄想に付き合わされる羽目に陥ることになる。これは、極めて危険である。
東アジアにおいても、第1次冷戦以上の核戦争勃発の緊張状態になる。記事にあるような、戦術核による先制攻撃は、危険な誘惑であり、戦略核による相互応酬に容易に拡大するだろう。これは、冷戦でなく、第3次世界大戦となり、多くの国家が滅亡することになる。
第2次冷戦は、「枢軸国家」と西側の対立になるが、CCP中国と同様に危険なのは、キレやすい核小国が、より核兵器を使いたがる状況にあることであり、例えば、核兵器を保有できたイランイスラムカルト教国は、異常にイスラエルに使おうとするかもしれない。これは、即座に地域限定の核兵器の相互応酬が起きることになるだろう。
この状況で、軍事同盟を結んでいるロシアが介入する、あるいは核兵器を譲渡すると、とめどもなく被害が拡大する。
今のところ、弾道ミサイルの迎撃手段は、ウクライナ戦争や中東紛争の実績により、西側の方が優れているように見えるかもしれない。しかし、それを打ち負かす狂気じみた兵器を、「枢軸国家」は開発するだろう。慢心は、許されない。
日本は、核武装を迫られるかもしれない。しかし、それは最後の最後の手段にとっておきたいものだ。