もしF-35が各軍共用ではなく、各軍で独自に機体を開発していたら費用節減につながっていたはずとの分析結果をランド研究所が出しました。そもそもF-35の出発点に誤りがあったのでしょうか。大きすぎてつぶせない、といわれる同機ですが、すでに失敗作としてどうやって引導を渡すかを議論している感があります。それにしても西側の防衛を今後10年以上も空洞化しかねない同機には各方面から恨みつらみがたまりそうです。その機体を主力機として日韓が競って導入しようとしているのは皮肉な現象と言わざるを得ませんね。面白いので原文の読者コメントも参考までに載せてあります。
Contractors Dispute F-35 Cost Report
By Bill Sweetman
aviationweek.com December 30, 2013
ランド研究所 Rand Corp. による報告書でF-35共用打撃戦闘機事業は三軍による単独実施よりも多額のコストになっていると指摘している。早速ロッキード・マーティンが報告書に反論し、報告書作成者が「古いデータ」を使い運用コストを二倍に過剰見積もっていると主張。
- ロッキード・マーティンの反論が使う数字は同報告書には出ていない。同社は出典を明らかにしていないが、「政府の数字」だとしている。共用打撃戦闘機事業推進室は今回の論争から距離を保っており、同報告書について真剣に取り上げる内容はなく、ロッキードの数字についても確認をしていないという。
- ランド研究所の報告書は空軍資材軍団 Air Force Materiel Commandのドナルド・ホフマン大将(当時)Gen. Donald Hoffmanの求めで作成されたもので、その時点でJSFの就役が数年間遅れることは必至だった。
- 報告書が引用している数字は2011年11月時点までのデータで、2010年度の個別調達報告selected acquisition report (SAR)も含む。ランド研究所はそもそも空軍が発足させたシンクタンクであり、空軍との関係は密接だが、2011年度のSARは引用していない。このSARで開発遅延が三年にのぼり、2010年版よりコストが高くなることを指摘している。
- JSFは進行中の事業であり、他に同様の共用戦闘機開発は存在しないので、研究員は各種機材のデータとしてF/A-18E/F 、F-22 のほかT-6A練習機やE-8C監視機も使い各軍が共用で開発した場合、単独で開発した場合のコスト上昇の比較をしている。
- 研究では絶対費用ではなく、全面開発(マイルストーンB)とマイルストーンB後5年および9年時点の推定コストの増加率を取り上げている。
- そのデータから引き出された結論は各軍共用仕様の機体開発の推定コストは単一軍仕様の機体より高い増加率になり、5年経過後、9年経過後いずれもこの傾向がみられる。また共用機開発でコスト増加が最も低いといっても単一軍仕様開発の事例よりはるかに高くなっているという。T-6とC-17の例では前者が急速にコスト増となっており、そのためT-6調達はキャンセルになるところだった。
AviaionWeekの原文はここまで。以後読者の反応です。(一部手を加えています。)
Don Bacon
12:53 PM on 12/28/2013
過去のデータをいじるのは面白いかもしれないが、調達費用が上昇している問題の本質には触れていないし、F-35の場合は主契約企業ロッキード・マーティンにとっては恩恵が増え続けることになるのであり、同社の利益、配当、役員報酬は深刻なコスト超過、日程遅延にもかかわらずずっと増え続けている。.
また大がかりなゆがんだ構造も認識されていないようだ。同社はジャーナリストや退役軍人を同社の都合の良い形で雇用している。
調達方法には改善が必要だ。まず調達コストを管理下に置く唯一の方法は競争状態を通じてである。主契約企業は契約を獲得できなくなると感じてはじめて真剣になる。事業を失うと感じるとどんな企業も意欲を高める。以下がIBMセンターの研究で明示されている。
競争は初期設計や試作機製作の段階ではおおむね受け入れられているが、開発・生産の初期段階でもこれまでにまして受け入れられてきている。ただし生産期間中での競争には抵抗が生じている。生産段階における競争によるコスト節約効果には大きなものがあり、どんな形でも競争状況が生まれることをすすめるべきだ。単一メーカーによる調達が必要となる特殊例では実績が良くなりコストが低くなっていれば同社に追加契約を与える形で報奨をすればよい。ただし、競争させる選択肢は求める結果が出ていない時に使えばよい。
現時点のF-35調達モデルはコスト面で破たんは必至だ。
X-Planes
9:15 AM on 12/30/2013
三つの別個の開発事業でより特化した望ましい機体が各軍に生まれていただろう。「共用」では技術の共有で限界が生まれる。たしかにソフトウェア、材料、レーダー、エンジンでは共有効果があることは認めるが。ただ機体を共有するのはコンセプト形成時点で大きな間違いだった。
Ruckweiler
11:47 AM on 12/30/2013
F-4が海軍、海兵隊、空軍に採用されたことで国防総省は単一機体ですべての用途を満たす方法に夢中になっているのだろう。F-35ではコスト上昇で結局非常に高価な機材をごく小規模調達することになるのだろう。マクナマラの亡霊がもどってきた。
Hardcore
3:50 PM on 12/30/2013
三機種作っておけば、ひとつぐらいは当面は通用するけ傑作機になっていただろう。その反対に傑作機1機種を最初から作ることで、そのあとで三軍で使うとリスクが高い選択になる。
msnova
8:43 AM on 12/31/2013
三軍に同一機種を提供するのは高額なのに効率が悪い選択だと思う。これまでもうまくいったためしがない。F-4は受容できる機体だったが、海軍には機体重量が大きいことから旧型空母には適した機体ではなかった。マクナマラは一つの機体で全部のニーズにあわせようとしたが失敗している。
また海軍が単発エンジン機を受け入れたことも驚きだ。海兵隊には近接航空支援機材が必要だが、スーパークルーズに目を奪われる必要はない。空軍は今回の対立で指導的立場にあるようで、数字を操作して主張を正当化することで同機を押し付けたとみる。
Performance2
10:23 AM on 12/31/2013
記事は触れていないが現時点で米国内で戦闘機メーカーが一社になっていることが重要だ。ロッキードである。同社が悪いわけではないが、次世代戦闘機の設計や開発で競争が成立するのか。F-35でロッキードに協力しているノースロップグラマンも戦闘機開発で競争力があるとみる向きがある。tだノースロップは主契約社でなく、開発全般での役割は限定的だった。この違いは大きい。設計能力の消滅は意図しなかったとはいえ甚大な損失だ。三機種開発にしておけば競争が生まれ生産技術の向上につながると同時に将来の戦闘で敵方が一つの技術優越性あるいは戦術でわが方の戦闘機部隊が全滅するリスクを軽減していただろう。
halseyjr61
12:33 PM on 12/31/2013
皆さんのコメントに感服している。F-35は基本思想ではうまくできていおり、コストを共同開発により引き下げるはずだったものが結局うまく行っておらずウェポンシステムとしても想定通りの機能は期待できない。
F-35は大失敗になっており、せっかくの次世代技術の利点も度重なる配備の遅れで帳消しの形だ。遅延とコスト超過の結果で妥協策の機体が技術欠陥をもったまま配備されようとしている。さらに生産面での妥協策で性能面で各軍の期待を下回る結果になっており、単一機体にあまりにも広範囲な設計パラメーターを与えているのもその原因だ。
実際に各軍に配備されれば同機の弱点は明白になり、これに敵側が付け込んでくるだろうし、すでに対空戦闘装備でこの動きが出ているとの調査報告が出ている。
悲しいことにかつては地球上でもっとも繁栄していた国家が今や国防予算削減でさらにこの問題が加速しているのを見守るしかない。
この失敗作に数十億ドル単位の予算が使われる中、同機の数少ない長所を拾い上げることしか救いがないが、現実はF-35開発は米国のウェポンシステム開発史上で比類ない高額の教訓となっているのであり、F-35をこのまま続けるとして米国がまだ大国であるのであれば各軍の仕様で専用の機材を作ることにもどるのだろう。
inspectorudy
4:02 PM on 12/31/2013
F-111の失敗で各軍は貴重な教訓を得たのではなかったのか。自分はF-4Bを操縦しており同機の優秀さを知っているが、ドッグファイターとしてはお粗末だった。同機より技術も低く価格も安い敵機が近接戦闘では十分互角に対応できた。
各軍のニーズは異なっており、ソフトウェアで克服できる性質のものではない。海軍にはもっと頑丈な機体が艦載機と指定必要だし、海兵隊にはそれに加え戦場での運用が独自に行える機体が必要だ。空軍はどんな機体でも購入可能なら必要と主張する傾向がある。海兵隊がこ
B型を前方進出基地で装備品がほとんどない状態で運用する場合が想定できるだろうか。だがこれが海兵隊の想定ののだ。敵側の第五世代戦闘機に互角に相手になれることがわかっているだろうか。同機のレーダー性能が優秀で攻撃モードについても知っているが米国は同機を購入したことを後悔する日が来ると思えて仕方がない。三機種開発する方法であればそのうちひとつや二つの機種はP-51マスタングあるいはヴォウト・コルセアのようになっていたかもしれない。たぶんその解決策はF-35がある程度機数がそろったところで一度中止し、機体の価値を確かめたうえで生産を続行すべきかを判断することになるのではないか。
BirdWatcher
10:04 PM on 12/31/2013
ランド報告書では「推定コストを導入時と大量生産時でパーセント比較する」といっているが、「推定」のところに注意が必要だ。これは気象予報士が過去の予報でどれだけ正確だったかを検討しているのと同じだ。「絶対」の気象結果を検討しないのと同じである。次に単一軍仕様で作った機材の成功例は多いと思う。B-1B、B-2に加え完成していればA-12やRAH-66もそこに加わっただろう。ヨーロッパにはラファール、タイフーン、グリペンがあり、各機は優秀だ。それでも反論をする向きがあるだろう。すべての投入資源を同じように見える機材に薄く広く分配したらどうなるのか。F-35については見切りをつけるのが早すぎると思う。
HitOrMiss
3:49 AM on 1/2/2014
皆さんは間違った方向から見ているようですね。まずF-35はF-117の後継機種であり、F-16と同様のエイビオニクスを搭載sたもの。あるいはF-16にF-117のステルス性を付けたものと理解すべき。
次にこの機体が成功できなかったのは議会の事情で政治上の計算から予算が継続していたためだ。同機開発をもたつかせたのは議会であり公聴会で議会関係者がこれだけ同機開発を遅らせて費用を高騰させたのはだれか「想像できない」とと発言しているのは笑止千万だ。
最後にこの機体は「共用」ではなく、名称が同じでも三機種にわかれており、共通構造はたかが25%しかないのであり、そもそもが三軍同時調達の意味がない。
未来の空軍力を知りたければノースロップグラマンのガンマファイヤストライクラボGamma Firestrike labsにいけばよい。最高100KW の出力を4レーザー5本を束ねて発生させることに成功している。常時この出力を出せれば亜音速戦術機は過去の遺物になるだろう。恐竜のように。
戦(いくさ)にしても武道にしても何をするのか?何を今しなければいけないか?という明確な切り口があってこそ初めて勝利できると思います。
返信削除もちろん,実際に勝利に至るまでには「返す刀で」斬り付けて,さらに「返す刀で」斬り付けてという切り口を何度も繰り返していく事が必要になるでしょう。
一方,あれもしたい。これもしたい。あとこれも,といろいろ考えていると勝てる戦いにも敗北する。直観的な見切りが戦闘には必要です。そして,「畳み掛ける」ように返す刀の繰り返しと,あれもこれもの散漫さとは違うと思います。
F35のプロジェクトについては当初,湾岸戦争でイラクのスカッドの移動式発射台をストライク・イーグルを総動員しても潰せなかった。だから次はスカッドの移動式発射台を確実に潰せるストライク・イーグル以上の戦闘攻撃機を作ろうというのがそもそもの発端だったと思っています。
しかし,プロジェクトが始まると,いや,緒戦のステルス攻撃が有効だったという意見が入り,じゃあ,F117も退役を迎えるから,そちらの能力も加味しておこうか,となり始めてから話がどんどんおかしくなっていったように思えます。
じゃあ,サンダーボルトIIの後継としても,とかいう感じでどんどん広がっていって,そういった諸々のものを一つにまとめればコストが削減できるとか,斜め上の方向に向いていってしまって,じゃあ,それでいくか!となって開発が始まったら,単一目的機でさえ発生するお決まりの諸々の問題が持ち上がって,それが,あれもこれもの複数目的機なものだから,核分裂の連鎖反応のような感じで問題が爆発的に拡散していって収拾が付かなくなってしまった。
どう考えても目的別に三機種に分けて開発していた方が良かったと思います。そして,今,米軍が考えている次の戦争における直観的な見切りというのが見えてこないジレンマもまた見えてきます。たぶん,この問題は実際に戦争に突入した後に戦争を遂行しながらリアルタイムで見つけ出して,開発して,配備して,結果として勝利するようになるのでしょう。
そして,それができない時は敗北。