2017年11月9日木曜日

トランプ大統領の各地訪問はこれだけの支援体制で実現している


The Presidential Motorcade Is on Full Display as Trump Tours Asia

トランプアジア歴訪で大統領車列の偉容を見せつける

With tensions simmering between the US and North Korea, the Secret Service has clearly spared no expense for the trip.

米朝間の緊張高まる中、シークレットサービスはすべての対策を惜しまない

SUH MYUNG-GUN/YONHAP VIA AP
BY JOSEPH TREVITHICKNOVEMBER 7, 2017

米大統領の海外訪問では警備要員が大量に随行し緊急時に最高司令官および政府上層部を安全な場所まで誘導できるよう待機する。朝鮮半島の緊張が過去最大限に高まる中でもいつもどおりアジア歴訪では大統領車列の偉容を見せつけている。
トランプの歴訪は11月3日にハワイから開始した。日本へ11月5日移動し、韓国へ二日後に到着。その後中国、ヴィエトナム、フィリピンを訪問する。
韓国でトランプは首都ソウルを警察大部隊の護衛の下で移動した。ロイター記者ジェイムズ・ピアソンが車列をまじかから撮影しているので下を参照してほしい。ピアソンによれば朴槿恵前大統領の支持派と反対派が混在したが警察が後者を車道から排除したという。支持派はトランプを好意的を見ているといわれる。
ピアソンの画像で主要車両がよくわかる。まず警察の「掃除屋さん」が先導し、その後を米側車両が続く。
Trump motorcade passes through central Seoul and group of former president Park Geun-hye supporters. Anti-Trump demo blocked by police buses
その後に大統領専用リムジン二両が続き、うちニックネーム「ビースト」にトランプが乗り、もう一台は予備・おとり車だ。シークレットサービスは大統領が乗る方を「駅馬車」、予備車を「スペア」と呼ぶ。タイラー・ロゴウェイが以前まとめた記事では二台はジェイムズ・ボンド顔負けの性能で大統領の身を守るが制約もあるという。
「ビーストには最高級の防弾装甲、暗視赤外線操縦装備、完全閉鎖型車内で核生物学化学(NBC)攻撃に耐えるほか大統領と同じ血液型の予備まで備える。うわさでは赤外線煙幕、油膜散布、催涙ガス放出もできるというのはトム・クランシー小説の世界だ。さらに高性能通信装備でインターネットと秘話交信が可能だ。
「『ビースト』は2009年にオバマ大統領就任に合わせて登場し、一見キャディラックSTSとMRAP(対地震車両)のあいの子に見える。だが実は乗用車というより強襲トラックに近い。ただし強襲トラックの地上高はない。狭い市街地での運転にはコツがいるといわれ、車重が極めて大きく海外運用で故障したこともある。ちなみに旧型専用車では故障事例はなかった。」
その後に続く黒塗りSUV数台は大統領警護の対応強襲チームCounter Assault Teams (CAT)、指揮統制部隊、通信用車両(「ロードランナー」)、情報機関要員、防御手段各種を搭載した車両で後者は電子戦ジャミングで道路わきの爆発物や小型無人機の妨害も想定する。
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In case you were wondering... The Beast and our special agents made it to the next stop with #POTUSinAsia #Japan
ただし目に入らないのが有毒物質中和処理部隊を運ぶ大型トラックだ。もう一台白塗りのヴァンが加わるがおそらく救急車だろう。随行報道陣はバスに乗り、銀色SUV数台は韓国治安部隊等を乗せているのだろう。
車列は相当の偉容だ。201711月4日にシークレットサービスが今回のアジア歴訪の支援体制をツィートしており、車列の規模を強調していた。
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With #POTUSinAsia we couldn't very well leave The Beast behind!
「#POTUSinAsia(大統領アジア歴訪)に随行するビーストは本国に置いていけない」と伝えている。米空軍C-5ギャラクシー輸送機内に専用車両含め10台ほどが見える。大型車両は写っていないが別の軍用輸送機で同時に搬送されたのだろう。
さらにヘリコプター部隊やその他必要機材の輸送が日本に向け必要となり、その後も移動する。日本では海兵隊VH-3D大統領専用ヘリコプター(マリーンワン)がトランプ大統領を各地に移動した。
韓国ではレックス・ティラーソン国務長官、在韓米軍司令官米陸軍ビンセント・ブルックス大将が海兵隊VH-60N「ホワイトホーク」に同乗している。運用は海兵隊第一ヘリコプター飛行隊(HMX-1)だ。
THE WHITE HOUSE
President Donald Trump, along with Rex Tillerson and U.S. Army General Vincent Brooks prepare to board a VH-60N "White Hawk" in South Korea.
大統領がVC-25Aに大統領が搭乗するとエアフォースワンと呼ばれるが、実際に乗るのは二機のうち一機だ。随行機は整備上で何らかの必要が生じた際やその他緊急時の予備機だ。
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En route to Japan, 5hrs - 40min left...
それで終わりではない。本国や海外で米軍及び連邦政府法執行機関が完全体制で大統領外遊を支援する。2016年12月にタイラー・ロゴウェイが以下伝えている。
「大統領の移動にはマリーンワンのヘリコプター一組をC-17で、各車両をC-5ないしC-17数機で移動させるのが常だ。これを訪問地すべてで行う。マリーンワンが地上車両の代わりに使われる場合は、MV-22オスプレイも自力移動ないし輸送機で搬送される。さらに関連ホワイトハウス職員やシークレットサービス要員が民間機あるいは政府機材で移動する。予備の指揮命令機材(通常はC-20C)も付近の飛行場で待機する。これだけの移動となると訪問するたびに数十万ドル数百万ドルの経費が移動だけで発生する。
「海外移動では機材はさらに増え、あたかも空軍全体がエアフォースワンと移動するようなものだ。C-5、C-17、MV-22、VH-3D、VH-60N、C-20、C-32、C-37に加えE-4Bが移動する。E-6Bマーキュリーが支援する場合もある。機材の大部分は大衆の目に触れることはない」
北朝鮮がミサイル発射の挑発を繰り返し水爆爆発まで明示してているためE-4Bナイトウォッチ指揮統制機がトランプに寄り添って移動しているのは驚くべきことではない。同機は嘉手納航空基地に移動し大統領ミッションを支援中だ。E-4Bは大統領到着空港を決して使用せず、通常は数百マイル以内の地点で待機する。
地域大ではおそらくもっと多数の機材が待機中だろう。いわゆる「政府機能継続」手順に従い、緊急時対応も意識しているはずだ。大統領同行機材にはC-40やC-32が加わり、ホワイトハウス職員の残り、保安要員、報道陣他を乗せている。
大統領歴訪の間に北朝鮮が挑発行動をとる可能性は十分あると関係者等は指摘している。また突如武力衝突になる可能性もある。今のところ、金正恩に軍事力を行使する動きがないのが何よりだ。
大統領は非武装地帯(DMZ)訪問を中止したため力の誇示の機会を逸したが、マイク・ペンス副大統領がDMZへ赴き境界線の彼方を注視した。
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White Senior Staff stand outside the limo as @realDonaldTrumpattempted to make a surprise, unscheduled visit to the Demilitarized Zone separating North and South Korea this morning. The trip was foiled by a bad weather call and his helicopter could not fly.
11月14日までの日程中に突発事件が発生することなく、警備隊が特段の行動をとる必要がないよう祈ろう。■
Contact the author: jtrevithickpr@gmail.com

北朝鮮非核化を断念し封じ込め戦略の採用を勧める考え方


悪の体制でも共存しなければならないのでしょうか。一部で期待するのは軍事力で北朝鮮を崩壊させることですが、米国ではこの封じ込め対策が抑止力の裏付けとともに主張されるようになっていますね。翻って日本ではまだその視点はすくないようですが。戦争がないほうがいいのですが、後の世代に禍根を残しても困りますし、北朝鮮の体制が永遠に続くとも思えませんが、封じ込めとなれば長期を覚悟し陸の国境線は中国だけに任せておけないでしょうし、海上封鎖や臨検となれば海軍力を常時朝鮮半島両岸に配置することになり、日本も参加を求められるでしょう。それにしても米国シンクタンクの人材は厚く色々考えていますね。熟考というか視点がちがいますね。

Getting Real on North Korea
北朝鮮に現実的対応が必要だ


By Daniel DePetris
November 08, 2017

  1. ロナルド・レーガン大統領時代から繰り返された光景だ。国防長官あるいは大統領が非武装地帯を訪問し、分断された朝鮮半島を目の前に双眼鏡で北を覗き、米韓同盟の団結と力は鉄壁と自慢する。米韓両国のつながりは60年にわたり維持されてきた。
  2. トランプ大統領は今回の韓国訪問ではDMZに行かないが、文在寅大統領との会見は重要だ。トランプの手中には北朝鮮の核問題に現実的な対処ができる機会がある。だが核放棄を金正恩に求めるのは断念すべきだ。
  3. 米国の対北朝鮮政策は歴代政権通じ平壌に核兵器開発を断念させるかわりに経済政治上の恩恵を国際社会通じ提供しようとした点で一貫している。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が1991年に韓国国内から戦術核兵器撤去を命じたのは朝鮮半島の非核化をめざす一歩だったが、結果的にこれは効果をあげなかった。
  4. 1994年にはクリントン政権が平壌と直接交渉を試み、重油を提供し、核拡散効果のない軽水炉建設を認めて北朝鮮のプルトニウム炉を閉鎖させる代償に関係正常化を使おうとした。プルトニウム炉はたしかにその後8年間停止されたが、米情報機関はウラニウム濃縮活動を探知し、合意はあっというまに消えた。
  5. ジョージ・W・ブッシュ大統領は5年近くを六か国協議の枠組みに使い合意を迫った。ただし透明性、アクセス、検証の技術問題のため外交が行き詰まりこれも挫折。
    バラク・オバマ大統領も外交を中心にしたが新たに登場した金正恩が合意内容を反故にした。
  6. トランプは過去四代の政権が平壌にあまりにもソフトすぎ米国の利益を最大化すできなかったとみているようだ。前任者が北朝鮮核問題の解決に失敗してきたが問題は解決可能だと繰り返し主張している。
  7. 端的に言えばその見方は間違っている。
  8. この段階で北朝鮮を御せるのは非核化政策そのものが非現実的で金正恩が権力の座についている限り実施不可能と米政権が理解した場合のみだ。北朝鮮は初歩的な第一回地下核実験から核クラブにかれこれ10年も加入している。CIA長官マイク・ポンぺオMike Pompeoの推定では北朝鮮が核弾頭付き弾道ミサイルで米本土を攻撃する能力を入手するまで数か月のところにきている。ワシントンの圧力の有無にかかわらず金正恩が核放棄する可能性は皆無に近い。
  9. そうなるとトランプ政権で実行可能な唯一の選択肢は現実を受け入れることだ。開戦となれば皆が認めるように極めて血なまぐさい展開になるのは必至でこれを避けて抑止と封じ込めをはかることだ。
  10. 抑止力戦略の効果は過去72年間で証明済みだ。数万発の核弾頭を有するソ連の封じ込めに成功した冷戦時の事実からすれば、はるかに少ない弾頭しか保有しない北朝鮮を封じ込めできない理由はない。
  11. 金正恩にはジョセフ・スターリンやニキータ・フルシチョフを思わせるものがあり、常軌を逸した発言や自国民を虐げもしているが、ソ連や中国の過去の指導者同様に自らの権力維持に取りつかれた側面がある。祖父が築いた基盤が崩壊するのは見たくないはずだ。
  12. 米主導の封じ込め抑止戦略では過去9代の大統領が冷戦を通じ70年間堅持した戦略と一面で類似しながら微妙に異なる点がある。
  13. まず平壌と意思疎通を確立確保し、核兵器を米韓さらに日本に向ければ金政権の終焉になると明瞭に理解させる。金正恩がソウルを攻撃しようとすれば、米軍援助部隊が韓国に駆け付ける前に片を付けようとするはずで、米国の同盟国への責務を誤算した場合だろう。
  14. 二番目にトランプ政権はこれまで以上に北朝鮮への外交努力を強化すべきだ。過去と違うのは対話は広範囲の非核化交渉の開始にはつながらない点だ。逆に両陣営の誤解誤算を防ぐために対話を利用する。レッドラインの概念は明瞭に伝えるべきだ。その意味で米朝の軍組織間の通信手段が強化されれば政治面の正常化につながり緊張緩和が訪れる日が将来来ないとは限らない。
  15. 三番目にペンタゴンは米太平洋軍に迅速に北朝鮮の挑発に対応できる海空軍力を配備しつづける必要がある。情報機関同士の関係も中国も含め平壌の軍事技術輸出の動向を監視する体制を強化すべきだ。国連安保理決議の実行に懐疑的になってはいけない。武器密輸や軍民両用技術の輸出を平壌が試み外貨収入を得る動きは封じる必要がある。
  16. 国防部門上層部は現実を反映してこそ米政策の意味が生まれる事実を受け入れるべきだ。抑止は先制攻撃で大規模で悲惨な核戦争にエスカレートするよりはるかに安全かつ効果を上げる選択肢になる。■

Daniel DePetris is a fellow at Defense Priorities.

2017年11月8日水曜日

2021年に戦闘機搭載レーザー兵器が登場する


レーザー兵器の記事も随分と具体的になってきました。それだけ急ピッチで開発が進んでいるのでしょう。民生部門ではファイバーレーザーはすでに製品化されていますが、軍用は出力がけた違いに大きく、さらに照準の相手が高速飛翔中の対空ミサイルなので制御体系もまったくちがうのでしょう。自機防御が狙いですが、早晩敵機攻撃さらにミサイル撃破にむかうのではないでしょうか。技術的に後れを取った中露が「平和勢力」をけしかけてレーザー兵器の廃止を運動にしてくるかもしれません。その前に機密情報のセキュリティを厳重にしないといけませんね。


Coming in 2021: A laser weapon for fighter jets

戦闘機搭載レーザーが2021年に実現する

Lockheed Martin is helping the U.S. Air Force Research Laboratory develop and mature high-energy laser weapon systems, including the high-energy laser pictured in this rendering. (Courtesy of the Air Force Research Laboratory and Lockheed Martin)

By: Valerie Insinna    3 hours ago
WASHINGTON — ロッキード・マーティンは高出力レーザーを米空軍戦闘機に搭載した実証実験を2021年に行う。
  1. 同社は26.3百万ドル契約を交付され空軍研究本部の自機防御高エネルギーレーザー実証別名SHiELD(Self-protect High Energy Laser Demonstrator)でファイバーレーザーの設計製造を行う。レーザーはサブシステム二つで構成し電力供給と冷却用ポッドとビーム制御装置にわかれる。
  2. 成功すれば画期的だ。空軍は既存手段より安価に地対空、空対空ミサイルの脅威を除去する方法を求めてきた。
  3. 産業界は車両や機内搭載をめざしレーザーの小型化に十年近くてこずってきた。ロッキードのレーザー兵器システム主任研究員ロブ・アフザルRob Afzalが解説している。ただし、ファイバーレーザー技術の改良で小型化しつつ高出力の実現が見えてきた。
  4. 「小型化しつつ高効率で電力を高出力レーザービームに変換できかつビーム性能を高くなりました」(アフザル)「高効率のため電力消費を最小限にし、排熱も同様です」
  5. ではロッキードのレーザーはどのくらいの出力なのか。アフザルは口を閉ざすが、「数万ワット」とだけ教えてくれた。また搭載する戦闘機の種類についても、SHiELDのテスト方法についても明かさず、空軍に聞いてほしいとだけ述べている。
  6. ロッキードはレーザーの地上テストを終了してから空軍実験部門に装置を渡し、その他SHiELDサブシステムと一体化して機種不明の機体でテストするのだという。
  7. ノースロップ・グラマンがビーム制御装置を製造中で略称はSTRAFE(SHiELD Turret Research in Aero Effects)でボーイングがSHiELDシステムを統合しポッドに入れる。
  8. アフザルはロッキードからのレーザー装置引き渡し時期や初期設計審査の終了予定も明かしていない。
  9. ロッキードは高出力戦術レーザー開発で知見を有している。今年初めに同社は60キロワットレーザーを米陸軍に納入し、大型高機動戦術トラックに搭載された。また30キロワットレーザーは実戦で四年間使用中だとアフザルが紹介している。■

中国が空中給油能力を獲得するとこうなる


中国が空中給油能力を獲得すればそれだけ脆弱性が増えて、西側は給油機を狙い撃ちするだけでしょう。数字の上では各地を狙えるはずですが、中国がそこまでの軍事組織を動員する作戦を展開するとは思えません。(今のところ)日本としては尖閣諸島上空にPLAAF戦闘機が滞空時間を延ばす効果を上げるのが困るでしょうね。


This Piece of Chinese Military Hardware Could Change the Balance of Power in Asia

この中国軍用機がアジアの軍事バランスを変えてしまうかもしれない
A Y-20 transport plane of People's Liberation Army Air Force is seen on the tarmac after its arrival for the upcoming China International Aviation & Aerospace Exhibition, in Zhuhai, Guangdong province
November 6, 2017


  1. 2001年10月7日、米軍がタリバン・アルカイダのアフガニスタン国内拠点に空爆を開始し不朽の自由作戦が始まった。爆撃機15機攻撃機25機が巡航ミサイル50発を45拠点に発射した。第一段階が終わった2001年12月23日までに米空軍、海軍、海兵隊は6,500ソーティで17,500発を各種標的に発射している。
  2. 米空軍の発進地点はアフガニスタンから遠い場合で数千マイル離れており「エアブリッジ」が必要となり、米空軍はKC-135やKC-10を動員し海軍はS-3ヴァイキング(現在は全機退役)を動員した。
  3. 中国人民解放軍(PLA)は米軍の砂漠の盾・砂漠の嵐作戦、NATOのバルカン作戦、不朽の自由作戦、イラクの自由作戦を詳しく観察し、近代戦における航空戦力の意義に注目した。PLAに「ショック」だったのはハイテク戦を展開しないと先進的な他国軍に互角に戦えないことがわかったからだ。中国の軍事戦略は大幅に変化し「新時代にむけた軍事戦略ガイドライン」(中国共産党およびPLA、1993年)が発行された。長距離航空攻撃ミッションが不朽の自由作戦・イラクの自由作戦で展開できたのは空中給油があったからで航空兵力投射が実現できた現実を中国軍指導部は厳粛に受け止めた。
背景
  1. 中国の空中給油の出発点はツボレフTu-16K爆撃機のコピー生産が始まった1960年代末だ。生産は1980年代末まで続き、H-6と名称を変えH-6U空中給油の開発原型機となった。ただしH-6Uは1993年の国家軍事改革方針に合致せず、そのためH-6Uは20機未満に過ぎず能力も不足している。これを補うためPLAはイリューシンIL-78ミダス給油機をロシア(ウクライナ)から調達し空中給油能力を獲得したばかりか国産機に使える技術を入手した。
  2. ただし空中給油能力の不足がPLA空軍(PLAAF)およびPLA海軍航空隊(PLANAF)の航空兵力投射能力を制約していると2014年版の米中経済安全保障検討委員会報告が指摘している。「中国には空中給油機が不足し技術も劣るため現行作戦機は空中給油を受けられない。このため進出範囲が限定される。空中給油機材はおよそ12機のH-6Uで大規模長距離航空作戦の継続には圧倒的に不足している」
  3. PLAAFは西安Y-20鲲鹏“Kunpeng” (数千マイル飛行できるといわれる中国の伝説の鳥)大型輸送機の一号機を改装して国産給油機を作成し、初飛行を2013年1月に行っている。同機はその後エンジン研究開発評価に投入された。
  4. 2017年3月にPLAはY-20量産を発表し、同機設計主任Tang Chang Hongは8か月にわたる実用試験を経てPLAAFは同機の性能に満足していると語った。「Y-20を母機に大型かつ重要な機材を開発する」とし、空中早期警戒統制(AEW&C)や空中給油機のことを指しているらしい。
  5. ただし空中給油は長距離航空兵力投射を支える一要素にすぎない。
どう活用するのか
  1. 2007年からH-6K型爆撃機の空中給油能力も含む性能改修が始まった。2015年3月にはPLAAFはH-6で長距離かつ複雑な洋上航空作戦を日本海、フィリピン海、南シナ海で展開しはじめた。作戦は第一列島線を越え西太平洋に宮古海峡、バシー海峡から通過して展開された。2016年にPLAAFは台湾一周飛行や「戦闘哨戒飛行」を南シナ海上空で開始し、飛行には少なくとも6種類の支援機材として情報収集機、早期警戒機、戦闘機、電子戦機が投入された。さらに毎回の飛行はPLAN水上艦艇群と連絡し、中国軍の統合運用の様相を示している。
  2. 戦略的な意味では爆撃機フライトは台湾の蔡総統政権に圧力をかけるだけでなく中台紛争の発生時は米軍に介入を思いとどまららせる効果もある。作戦面ではフライトはPLAAF乗員に長距離飛行の訓練となり気象状況などの変化に対応し、洋上航法や外国機とのやりとりの訓練の他、情報収集効果も期待できる。空中給油は掩護戦闘機が限定的に利用しているがこの場合は制約条件にならない。
作戦上の意味
  1. H-6Kの戦闘行動半径は1,890カイリといわれ、CJ-10あるいはCJ-20空対地巡航ミサイル6発を搭載し、430カイリ、1,080カイリそれぞれを狙える。またはYJ-12対艦ミサイルを搭載し220カイリ先までを戦闘範囲に収める。第一列島線と台湾東で航空優勢を確立した前提ならH-6Kで第二列島線の日本、フィリピン、グアム、パラウさらにオーストラリア北部を攻撃できる。
  2. その場合、Y-20空中給油機とH-6K爆撃機の組み合わせで中国は第二列島線以遠の米軍等を攻撃可能となる。アラスカやハワイがここに該当する。さらに条件次第でロシアや中東さらに紅海までを攻撃範囲におさめるだろう。
  3. さらにPLAAFが多数地点の空中給油態勢によるエアブリッジを確立し空中給油対応の戦闘機のJ-20、J-16、J-31を投入し、PLANの055型Renhai級、052型LuyangIII級ミサイル駆逐艦の援護があれば攻撃範囲委はさらに伸びるだろう。
結論
  1. PLAの空中給油能力整備は着実に進んでいる。Y-20改装給油機は大きな一歩だ。Y-20が完全に実用化されればPLAAFおよびPLANの各種攻撃用機材への給油が可能となり、長距離対地対艦攻撃力が実現する。空中給油対応のH-6K爆撃機の長距離攻撃手段があればPLAは米、同盟国の地上基地に脅威となるほか洋上の打撃群も第二列島線以遠に展開していても脅威を感じるはずだ。その範囲は太平洋軍のみならず中央軍や米欧州軍の範囲にも及ぶかもしれない。中国との対戦を想定する場合にこの脅威は米軍に手ごわい存在になる。■
LCDR David Barr is a career intelligence officer and currently within the Directorate for Intelligence and Information Operations for U.S. Pacific Fleet. His opinions do not represent those of the U.S. Government, Department of Defense or the Department of the Navy.
Image: Reuters

2017年11月7日火曜日

空母7隻が同時展開中の米海軍、第七艦隊で三隻が同時訓練を実施するのは初



UPDATED: 7 U.S. Aircraft Carriers Are Now Simultaneously Underway

米空母7隻が同時展開中

空母7隻の同時展開は久しぶりだ。
上段: USS Ronald Reagan (CVN-76), USS Theodore Roosevelt (CVN-71), USS John C. Stennis (CVN-74)
中段: USS Abraham Lincoln (CVN-72)
下段: USS Carl Vinson (CVN-70), USS Nimitz (CVN-68), USS Gerald R. Ford (CVN-78). USNI News Image

 By: Sam LaGrone
November 6, 2017 1:49 PM • Updated: November 6, 2017 5:56 PM


米空母11隻中7隻がここ数年で初めての同時出動中。海軍関係者からUSNI Newsが11月6日確認した。

  • 西太平洋では航空部隊を完全配備した空母打撃群はUSSロナルド・レーガン(CVN-76)、USSニミッツ(CVN-68)、USSセオドア・ロウズヴェルト(CVN-71)の三個。
  • 残る四隻は正式配備前の訓練段階でUSSカール・ヴィンソン(CVN-70)、USSジョン・C・ステニス(CVN-74)が東太平洋、USSエイブラハム・リンカン(CVN-72)さらに最新空母USSジェラルド・R・フォード(CVN-78)が大西洋で展開中。
  • レーガン、ニミッツ、ロウズヴェルト各打撃群は第七艦隊作戦海域にあり、レーガンは日本海で朝鮮半島近くに、ニミッツはペルシア湾での任務を終え母港キツァップ-ブレマートン(ワシントン州)への移動途中。ロウズヴェルトは10月7日サンディエゴを出港しニミッツと交替し対ISIS作戦につく途中。
  • 各打撃群は第七艦隊で初の三空母同時訓練を行うと国防関係者がUSNI Newsへ伝えた。
  • 「三空母は北朝鮮を特に意識していない」「わが方による同地域への安全保障の責任の通常の印だ」と統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将が先週発言していた。
  • 演習はドナルド・トランプ大統領のアジア歴訪と重なり、米朝間の緊張が高まる背景で行われそうだ。
  • ヴィンソンはF-35C共用打撃戦闘機のフライトテストに供されており、ステニスは修理後の訓練航海でキツァップ-ブレマートンを先週出港した。リンカンは核燃料交換と大規模補修を終えて5月に復帰し各種証明取得中だ。フォードは各種試験中で正式な艦隊編入は2020年代初頭となる。
  • 海軍は展開中空母の数は海軍の対応がうまく行っていることの証明と胸を張る。
  • 2016年には6隻が訓練、出動合わせ展開し、ジョン・リチャードソン作戦部長が「画期的」と述べた。
  • 2004年のSummer Pulse 04 演習では空母打撃群7つを展開し空母部隊の戦力を誇示した。
  • 「ほぼ同時に空母打撃群7つを展開したことで海軍および統合戦闘部隊司令官に訓練機会を実現しつつ世界各地での緊急事態への対応能力を維持できる。地域内安全保障を強化し各国との関係も強めながら戦闘司令官の要望に応えるべく前方配備を通じ同盟各国連合国へ当方のコミットメントを示す効果がある」と海軍は2004年6月に述べていた。■

UAE向けF-35売却検討の解禁は新たな中東の動きの一環になるか


北朝鮮や南シナ海、中国とともすれば我々の関心は近隣国に偏りがちですが(それだけ緊急性が高いのは当然ですが)中東へも関心を維持していく必要があります。その中でイラン包囲網としてアラブ諸国が仇敵のイスラエルと対立ばかりしてられない状況が生まれつつあるのでしょうか。F-35が販売できればロッキードは大喜びでしょうが、日本としても原油供給しか見ていないUAEの躍進ぶりには十分注意を払ってしかるべきでしょう。


Trump could let the UAE buy F-35 jets

トランプはUAEにF-35売却を許すのか

米空軍F-35AライトニングII。トランプ政権はF-35のUAE売却の検討に入る。 (Master Sgt. John R. Nimmo Sr./U.S. Air Force)

WASHINGTON ― アラブ首長国連邦向け拡大戦略協力の一環でトランプ政権はUAEが求めていたF-35共用打撃戦闘機の購入要請を検討することで合意した。
  1. 正式決定ではないが検討に合意したことでUAE向け機微情報ブリーフィングが可能となり、第五世代戦闘機取得の第一歩となればオバマ前政権の政策から大きな変化となる。オバマ政権は同国からのブリーフィング要請を2011年以来拒絶していたからで、その理由をイスラエルのいわゆる質的軍事優位性Qualitative Military Edge(QME)が脅かされるからとしていた。
  2. 湾岸諸国の専門家、産業界幹部へインタビューするとトランプ政権に対して米議会が求めているQME維持の動きを回避するよう望んでいるのが分かった。QMEではイスラエルが望む武器援助を提供して同国防衛の実現を優先して求めている。同時にワシントンは5月発表の米UAE防衛協力を拡大したいとする。
  3. 「トランプ政権は要請を検討することにした。これは『イエス』でないが、状況が落ち着けば実現するのは間違いない」とペンタゴン前高官がDefense Newsに語ってくれた。発言の裏にはUAE、サウジアラビア、バーレインがカタールと紛糾している事態がある。トランプ新戦略でイランの核・非核両面の脅威に対抗する動きを実行に移す前に解決が求められる問題だ。
  4. 専門家の間にはUAEがF-35にアクセスできる背景に同国が1991年湾岸戦争以降の米主導連合軍に唯一参加したアラブ国家であることを指摘する向きがある。同国は米空軍第380遠征航空団の駐留を受け入れた。
  5. まずイスラエルの紅海の都市エイラートから20キロしか離れていないサウジアラビアと異なりUAEはイスラエルと海上陸上いずれも国境線を共有していない。またサウジや他の湾岸協力協議会加盟国と異なり、UAE空軍はイスラエルとの演習に堂々と参加しているし、米空軍のレッドフラッグ演習にも参加している。
  6. イランの脅威で共通していること、ワシントンとの契約交渉のリードタイムを考えるとイスラエルは今後10年間は中東で唯一のF-35運用の座を守れそうだと関係筋は見ている。
  7. イスラエル国防省はF-35販売制限をUAEに解禁する可能性について論評を拒んでいる。ただしイスラエルはUAE限定で他のGCC加盟国になし崩し的に門戸を開かないのであれば反対しないと見る向きがある。
  8. 「両国に同盟関係はなく、友好国でもありませんが、UAEがイスラエル攻撃にF-35を使うなどと主張する人は現実を見ていないことになります」とワシントンに本拠をおくジューイッシュ政策センター専務理事のショシャナ・ブライエンは言う。
  9. 米UAEビジネス協議会を主宰するダニー・セブライトは米政策で技術移転が制約を受けてUAE政府に不満がたまっているという。「我が国の政策はイスラエル対アラブ各国という構図です。だがUAEはイスラエルには悪意はなく、対戦するつもりもありません。そのためアラブ諸国がイスラエルのQMEにどう影響するかという観点だけで決定が棚上げになっている状況ががまんならないのです」
  10. セブライトは米国政府はUAE要望を長期的提携関係の視点で検討し、UAEを域内安定化に貢献させるべきと主張する。新しく生まれた15年間有効の防衛協力合意は包括的でF-35のみならず最新鋭米装備や共同開発研究の実現に道を開いており、特殊作戦でも協力できその他の二国間事業が可能だと指摘する。
  11. 米UAEビジネス協議会が発表した13ページにわたる報告書でセブライトは対テロ作戦からアフガニスタン再建まで多様な分野を一覧にし、UAEが米安全保障に貢献した事実はアラビア湾を超えた範囲に及ぶと指摘。またUAEは米海外軍事販売の主要顧客であり国防支出で世界上位15カ国に入る。
  12. 「米UAE基地協定、共同訓練、武器販売だけが実績ではない。UAEは安全保障関連の消費国だけでなく湾岸地区中東全域で安全保障の提供国になっています」(セブライト)
  13. にもかかわらず米国が課す制約のためUAEは西側以外の供給先に目をむけるとセブライトは警告する。今年初めにUAEはロシアと第五代戦闘機をMiG-29原型から開発する意向書を取り交わし、モスクワはUAEがスホイSu-35調達に関心を示したと発表している。
  14. 「この事態をどう見るか。UAEが米調達プロセスに不満を感じているからでしょう」(セブライト) セブライトはF-35要望がいまだ実現していないのは特異な事例ではないとする。UAEは中国製UAVを導入したがプレデターが入手できなかったためだ。ワシントンは同機の攻撃能力を理由に要望を拒否したのだ。
  15. 「UAEは米安全保障にも貢献している...非西側サプライヤーからの購入を検討しても米国製装備を優先してくれる...米国による訓練支援を含め二国間安全保障協力を強化していくことが極めて重要だ」と報告書はまとめている。
  16. ワシントンインスティテュートの湾岸エネルギー政策研究をまとめるサイモン・ヘンダーソンからはサウジアラビアが米主導の演習に参加してイスラエルに対する同国の態度への懸念を払しょくする可能性を指摘している。
  17. 「米国はサウジがイスラエルへの脅威でないと判断できればF-35売却を検討するだろう。イスラエルへ脅威でないとなればサウジアラビアとイスラエルが同時に航空演習に参加できるようになる」(ヘンダーソン)■

Opall-Rome is Israel bureau chief for Defense News. She has been covering U.S.-Israel strategic cooperation, Mideast security and missile defense since May 1988. She lives north of Tel Aviv. Visit her website at www.opall-rome.com.