2022年6月2日木曜日

ミッドウェー海戦から80年。特集①戦闘の総括

  

USS Enterprise

1942年5月26日、米空母 USS エンタープライズ (CV-6)が真珠湾に入港した。珊瑚海海戦の直後で同艦は続けてミッドウェイ海戦に加わった。 

 

ミッドウェー海戦がなぜ重要なのか

6月4日は、第二次世界大戦の太平洋戦争の転換点であり、史上最も決定的な海戦の一つミッドウェー海戦の80周年記念日だ。1999年、当時の海軍作戦部長ジェイ・L・ジョンソン大将は、2000年の記念行事から6月4日を海軍の誕生日10月13日のと同じ意味を持たせると発表したほど、同海戦は決定的な意味を持つ。「年に2回、海軍として一時停止し、誇るべき遺産を振り返り、伝統と歴史への新たな認識をすべての人に植え付ける」とジョンソン大将は述べた。 

 ウォルター・ロードのベストセラー『Incredible Victory』からゴードン・W・プランジの『Miracle at Midway』まで、同海戦について書かれた優れた書籍が数多くあるのを考えれば、この壮大な戦いをわずか1000字のコラムで正しく伝えることは難しいが、試してみよう。 

 

 

勝利への序曲

ミッドウェイは、日本海軍へのアメリカの最初の勝利ではない。その1カ月前に行われた珊瑚海海戦は、日本軍のポートモレスビー侵攻を阻止し、軽空母「祥鳳」を沈めた点で、アメリカにとって戦略的勝利であった。しかし、これらの成果が重要であったとしても、ミッドウェー海戦の大きさにはかなわない。

 日本海軍のミッドウェイ計画は、珊瑚海での戦略的失敗の前に進められていた。1942年4月16日、数ヶ月に及ぶ議論の末に、山本五十六連合艦隊司令官は、夏のミッドウェイとアリューシャン方面の戦略について参謀本部を説得同意させた。山本長官の考えでは、ミッドウェー島を占領すれば、日本は中央太平洋の難攻不落の東側防壁の背後でアジア政策の追求が可能となる。目玉は、アラスカへのフェイントとミッドウェイ侵攻であった。この大胆な計画が成功すれば、少なくとも1年間はアメリカ太平洋艦隊を事実上排除でき、将来のアメリカの攻撃を警告する前線基地が手に入るはずだった。

 その2日後、伝説的なドーリットル東京空襲が行われた。アメリカ国民の士気が大いに高まっただけでなく、日本側もミッドウェイへの攻撃予定日を前倒した。賽は投げられた。

 

ミッドウェー海戦の始まり

真珠湾攻撃と同様、ミッドウェー海戦でもアメリカ軍が先制攻撃を行った。6月4日早朝、夜間飛行中のPBYカタリナ4機が、ミッドウェー北西の日本軍輸送船を攻撃した。PBYの1機が艦隊のタンカー「あけぼの丸」を魚雷攻撃した。ミッドウェー島への攻撃は現地時間同日午前6時30分に本格的に始まり、愛知D3A「バル」空母艦上爆撃機(99艦爆)と中島B5N「ケイト」魚雷機(97艦攻)が、零戦に護衛され島の施設を爆撃した。

 米海兵隊のブリュースターF2AバッファローとグラマンF4Fワイルドキャット戦闘機は26機中17機を失う惨憺たる結果になったが、日本軍は基地施設にわずかな損害を与えただけであった。日本海軍は迎撃してきたバッファローとワイルドキャットに4機のケイトと1機の零戦を失い、さらに3機を基地防衛側の対空砲火で失った。

 

空母対空母の戦い

空母対空母の戦いは、アメリカ側にとってうまくいかなかった。午前9時30分から10時30分に、ダグラスTBDデバステーター魚雷爆撃機隊が、エンタープライズ、ホーネット、ヨークタウンの米空母3隻から発進した。デバステーターは日本海軍の空母に一発も命中させれず、日本軍の戦闘機と艦砲射撃で全滅した。ホーネットは雷撃機をすべて失い、ジョージ・ゲイ少尉(後の中佐)が唯一の生存者となった。 

 デバステーター隊の犠牲は無駄にならなかった。日本海軍の空母は、米海軍のダグラスSBDドーントレス急降下爆撃機による追撃を受け、赤城、加賀、蒼龍に地獄の雨を降らせた。ドーントレスの1000ポンド爆弾の効果は、日本空母がミッドウェー島再攻撃のため飛行甲板上に艦載機を並べていたためさらに悪化し、航空兵器と航空燃料の連鎖反応という地獄を引き起こした。3隻の空母はすぐに沈没してしまうが、「飛龍」は最初の猛攻を生き延びた。

 飛龍は、急降下爆撃機「ヴァル」と魚雷爆撃機「ケイト」によって、ヨークタウンに総員退艦命令を出すほどの損害を与え、一定の復讐をした。しかし、ヨークタウンは一命を取り留め基地へ回航途中の6月6日、日本海軍の潜水艦「伊168」の魚雷で救助活動中の駆逐艦「ハムマン」とあわせ沈められた。

 6月4日午後5時頃、エンタープライズのドーントレス隊が飛龍に致命的な傷を与えた。海軍は戦闘の最終日である6月6日に、エンタープライズとホーネットのSBDで重巡洋艦三隈を沈め、重巡洋艦最上を激しく損傷させ、とどめの侮辱を加えた。

 

最終結果

すべて終わった段階で、日本は貴重な空母4隻と重巡1隻、航空機248機、3,057人を失った。アメリカ側は、空母1隻、駆逐艦1隻、航空機150機、死亡307人(うち3人は捕虜として処刑)を失った。最も重要なことは、日本の空母打撃部隊の壊滅により、山本はミッドウェー侵攻計画を断念せざるを得なくなり、日本艦隊は西方へ退却を開始したことだ。

 当1945サイトはミッドウェー海戦のシリーズを続ける。戦いに参加した機材について考察し、潜水艦USSノーチラスがアメリカの勝利に偶然(あるいは不注意に)貢献した背景を説明する。乞うご期待。■

 

The Battle Of Midway Was 80 Years Ago: It Must Be Remembered

https://www.19fortyfive.com/2022/06/battle-of-midway-80-years-later/

 

ByChristian Orr

 

Christian D. Orr is a former Air Force officer, Federal law enforcement officer, and private military contractor (with assignments worked in Iraq, the United Arab Emirates, Kosovo, Japan, Germany, and the Pentagon).  Chris holds a B.A. in International Relations from the University of Southern California (USC) and an M.A. in Intelligence Studies (concentration in Terrorism Studies) from American Military University (AMU).  He has also been published in The Daily Torch and The Journal of Intelligence and Cyber Security. Last but not least, Mr. Orr is a Companion of the Order of the Naval Order of the United States (NOUS).

In this article:Battle of Midway, Battle of Midway Anniversary, Imperial Japan, World War II, WWII History

 


2022年6月1日水曜日

A-10をステルス機にするよりも、スタンドオフ攻撃機にするほうが実現可能性がある...というお話。

 


説の近接航空支援機材「A-10ウォートホグ」の未来が不確かな中、米国は同機をステルス化し、21世紀の紛争空域で使用できないだろうか?


との質問を、ここ数カ月、何度も受けているが、実際、みんな大好きコンセプチュアル航空アーティストのロドリゴ・アベラが、A-14ワイルドウルフと名付けた次世代A-10のグラフィックシリーズを制作し、このコンセプトに生命を吹き込んでいる


a-10 stealth lone wolf Rodrigo AvellaOriginal artwork by Rodrigo Avella — Make sure to follow him on Instagram!


 ただ誤解しないでほしい。ウォートホグは、過去20年間の戦闘を通じ崇拝されてきた。しかし「ステルス・ウォートホグ」というフレーズが新規の開発プログラムに刻まれれば素晴らしいが、A-10の交戦方法は、戦闘空域で目立たないようにするステルス機と相反する。だからといってA-10をすぐ処分していいわけではない。

 A-10を未来へ導く真の方法は、ステルスを追加することではない。デコイを搭載しスタンドオフ攻撃機へ変身させることだ。

a-10 stealth lone wolf Rodrigo AvellaOriginal artwork by Rodrigo Avella — Make sure to follow him on Instagram!



 その他支援機材では、高空を飛ぶ高速機による精密誘導弾が主流だが、A-10は低空で地上部隊を攻撃し、劣化ウラン弾のレーザービームを目標に照射する。ただ長時間滞空できない。



A-10 jet engine nacelle damaged by missile イラクの地対空ミサイルで損傷を受けた A-10 (U.S. Air Force photo)


 A-10搭載の機関砲は、1,000フィートから、1,000発の弾丸の80%を5メートルの円内に、毎秒70発という驚異的な速度で打ち込める。しかし、大きな問題がある。その過程でA-10パイロットは敵の攻撃を大量に浴びるのを覚悟しなければならない。ウォートホグは低空で高射砲や小火器の標的になりやすい。しかし、A-10パイロットはチタン装甲に包まれ、銃火をあびても平気だ。

 また、他の重要なシステムにもチタン装甲が施されている。ソ連の輸送部隊がレーダー誘導対空砲でウォートホグの急接近を探知する可能性が高いため、機体自体に冗長性を持たせて設計されている。そのため、A-10が戦闘中に大きくダメージを受けても、無事帰還し、着陸する姿を目にすることもよくある。


A-10 Thunderbolt II damage Kim Campbellキム・キャンベル大尉(当時)が自機の損傷具合を検分している。南西アジアでキャンベルのA-10は近接航空支援中に命中弾を受けた。2003年4月7日のことだった。大尉は332遠征航空団に加わっていた。(Courtesy photo)



 キム・キャンベル少佐Major Kim Campbelは、A-10のタフぶりの生き証人だ。少佐は、敵の猛烈な攻撃を受け、油圧を失った機体を滑走路まで飛ばした。クランクとケーブルで構成されたバックアップ制御システムにより、機体制御を続け、バグダッドから脱出できた。上の写真にある彼女の穴のあいたA-10は、英雄的なパイロット、回復力のあるジェット機、さらにステルス機の操作方法と全く違う戦闘のアプローチを如実に物語っている。

 A-10ウォートホグは、制空権が確保済みの空域で運用し地上攻撃に専念する設計のため、ステルス機と正反対の機体だ。A-10が敵戦闘機に対抗した事例があったが、A-10パイロットで実際に試してみたいとは思うものはない。A-10のパイロットは、F-15やF-22のような制空戦闘機に乗り換えるだろう。ウォートホグは空対空戦闘用のレーダーを搭載していないものの、AIM-9赤外線追尾空対空ミサイルを搭載できる。

 A-10サンダーボルトIIは、打撃を受けても倍返しできる素晴らしい航空機だ。しかし、戦闘空域で敵に自分の存在を明確に示し、低高度で標的にむけ飛行し、途中で小火器の攻撃を受けることは、ステルス機ではできない芸当だ。

 現代のステルス設計は、レーダー波を機体からそらすことに長ける。しかし、F-22やF-35のような機体は、機体の大半を覆うレーダー吸収材(RAM)のコーティングと機体のあらゆる隙間やくぼみにレイヤーを重ねることに大きく依存するのが現状だ。機体パネルのわずかな隙間でもレーダープロファイルが大きくなるため、継ぎ目をRAMテープで覆う姿をよく見かける。


このF-35には、ライトグレーのRAMテープの層がはっきり見える。 (U.S. Air Force photo)



 RAMは、入ってくる電磁エネルギー(またはレーダー波)の70~80パーセント以上を吸収する評価があり、ステルス用途に非常に有効だが、A-10のような攻撃機には非常に問題となる。現行のRAMは非常にもろく、特に超音速飛行の高熱にさらされると、強度が低下する。RAMコーティングの修理や交換は、F-22やF-35の運用にかかる莫大なコストの大部分を占める。今、A-10をこの高価な材料で覆った姿を想像してほしい。チタン防御は乗員を守るだろうが、発砲するたびにRAMを交換する必要があるだろう。

 そうなると、現在は安価に運用中のA-10も、あっという間に最も高価な航空機になってしまう。

 しかし、信じられないかもしれないが、ステルスA-10ウォートホッグの製造で最も高価なのは、RAMではない。航空機の設計を根本的に変更する必要があり、莫大な費用がかかるので、まったく新規の機体を作る方が良いだろう。

 A-10 サンダーボルトIIの設計は、1972年にほぼ完成していた。世界初のステルス機F-117ナイトホークが運用開始する約11年前のことである。つまり、ウォートホグはステルス機以前の設計であり、単に外観を変えるだけでなく、設計全体を見直す必要がある。

 F-35に、機首から突き出る油圧駆動の巨大な7銃身バレル・ガトリング自動砲がないことに気づいているだろうか。A-10のGAU-8/Aアベンジャー・カノンシステムがフォルクスワーゲン・ビートル1台分の大きさであることもあるが、機体前面に大きな砲が突き出ていればステルス性が損なわれるからだ。


a-10 stealth lone wolf Rodrigo AvellaOriginal artwork by Rodrigo Avella — Make sure to follow him on Instagram!


 ロドリゴ・アベラは、この事態を予見し、前面に大きな銃を搭載しないA-14Bも用意したほどだ。

a-10 black stealth lone wolf Rodrigo AvellaOriginal artwork by Rodrigo Avella — Make sure to follow him on Instagram!


 同様に、A-10のジェネラル・エレクトリックTF34-GE-100Aターボファンエンジン双発双は、レーダーと赤外線の反射で大きな問題になっている。A-10の機体のほぼ全面を再設計する必要があるが、外装部品をすべて交換すれば、同じ機体と言えなくなる。

 それならいっそのこと、低視認性の設計要素と重火力兵器を組み合わせた新しいA-Xプラットフォームをゼロから作り直した方がコスト効率が良いのでは。しかし、その場合でも、前述した問題に直面する。ステルス機で敵の砲撃に飛び込むのは、費用対効果が悪いのが実情だ。


Original artwork by Rodrigo Avella — Make sure to follow him on Instagram!


 A-10サンダーボルトIIは、素晴らしい航空機でありながら、寿命が終わりに近づいている。しかし、退役は悪いことではない。ウォートホグが退役すればずば抜けた近接航空支援能力が惜しまれるのは事実だが、ステルス塗装やデザイン調整を施しても、同機が2040年代以降まで使えない可能性が高い事実は変えられない。

 実際、ステルス機能を導入したA-10でも、現代の戦闘で本来の仕事はできない。A-10が搭載する重量4,000ポンドの巨大な機関砲は、強力かもしれないが、実は読者が思うほど強力ではない。もともとT-55やT-62のような第二次世界大戦後のソ連戦車の装甲を貫通するため設計されたアベンジャー砲だが、効果が低いことが証明されている。

 1979年発表の海軍大学校の91ページに及ぶ報告書では、A-10の有名なGAU-8を各種装甲に対して評価し、ウクライナで見られるようなソ連時代の戦車に正面から砲撃すると、戦闘効果が低くなるとはっきり示されている。

 同報告書によると、アベンジャー砲はT-62のような年代物戦車の背面装甲なら貫通できるが、側面には苦戦した(ただし、サスペンションを破壊して戦車を戦闘不能に追い込んだ)という。しかし、重要なことは、各戦車の装甲が最も厚い真正面に効果がないと判明したことだ。



 実際、A-10のステルス性が大幅に向上しても、複合装甲式の中国99A型やロシアで実用化が長期延期中のT-14アルマタのような最新主力戦車はともかく、年代物の装甲と戦う際もウォートホグが最も有効なオプションになるとはいえない。

 A-10の伝説的な機関砲掃射は、地上支援手段として歩兵部隊に好まれているかもしれないが、互角の戦力を有する相手との紛争では、A-10で最も有効な攻撃手段は翼下に搭載する兵装だろう。A-10は70mmロケット弾やAGM-65マーベリック空対地ミサイルや各種爆弾を搭載して、新鋭戦車も軽々と倒せる。しかし、紛争空域で近距離の目標に爆弾やミサイルを投下するのが目的ならば、A-10は最適な選択とは言えなくなるだろう。

 しかし、防空網を混乱させ、スタンドオフ距離から攻撃する高性能兵器が追加されれば、大国間の戦いでも、A-10に新たな目的が生まれるかもしれない。

 空軍はA-10を退役させようと手を尽くしているが、議会は別の考えだ。A-10は2040年代まで飛ぶと予想され、ステルスに目をつぶる。しかし、疑問が出ている。互角の戦力を有する大国との対決が発生したら、A-10パイロットを多数戦死させずに、アメリカの勝利に貢献できるだろうか?

 答えは、A-10の評判を決定付けた機関砲頼みの作戦から脱却し、A-10が悪者を攻撃する必要があるときは長距離兵器とデコイで空域を氾濫させることにあるようだ。

 A-10兵器担当のモーリス・「スポーン」・グロッソ少佐Maj. Maurice “SPAWN” GrossoTask & Purposeに寄稿した素晴らしい記事の中で、同機にスタンドオフ兵器(SOW)を搭載すれば、現場指揮官に貴重な存在になると説明している。スポーンの評価によると、A-10は、AGM-158 Joint Air-to-Surface Standoff Missiles(JASSM)を4発ないし5発搭載し戦闘に参加できる。現在、供用中の戦闘機でこれに匹敵するのは、F-15Eストライク・イーグルだけで、同機には5発を搭載するスペースがある。空中発射式の巡航ミサイルは、飛距離が長く、1,100マイル以上といわれ、A-10は敵防空網の届かないところからミサイルを発射できるようになる。


F-15E Strike EagleF-15EストライクイーグルにJASSMを搭載している。 (U.S. Air Force photo)



 スポーンの提案を、発射コストの観点で見てみよう。戦略国際問題研究所によると、A-10は飛行時間あたりわずか約2万ドルと、安価に運用できる。

 仮に4時間の飛行でJASSM5発を発射すれば、総費用は8万ドル、1発あたり約1万6千ドルとなる。F-16も1時間あたり約2万3,000ドルと非常に低運用コストだが、1回の出撃で搭載できるAGM-158は2発だけだ。つまり、5発のミサイルを打ち込むのに3機のF-16が必要で、1発あたりのコストは(6発打ち込む場合)46,000ドル、5発打てば55,000ドルになる。F-15Eは1回の出撃で5発のJASSMを搭載でき、時間当たりコストは3万2500ドル、1発当たりのコストは2万6000ドルとなり、A-10より1万ドル高い。

 これは単純化しすぎた例で、実際のコストは巡航速度など変数で大きく変わるだろう。しかし、A-10はステルスを必要とせず、目標に兵器を運搬しながら、大幅なコスト削減が実現できる。

 A-10にJASSMを搭載するスポーンの主張には説得力があるが、A-10で大量のADM-160小型空中発射デコイMALDを運搬すればもっと無視しがたい。

 MALDはレイセオンが開発し、アメリカや同盟国の航空機のレーダー痕を完全に模倣する画期的な空中発射型飛行体で、正確には兵器ではない。比較的安価なデコイで、約500マイルの航続距離を持ち、現在F-16ファイティングファルコンとB-52ストラトフォートレスから展開できる。大量使用すれば、敵の空域を偽装レーダー信号で飽和させ、防空システムが本当の標的を見つけるのを不可能ではないにしても、極めて困難にできる。

 さらに高度なMALD-Jはレーダー妨害機能も備え、地対空ミサイル運用をさらに複雑にする。F-16は、約300ポンドのMALDデコイを4個搭載し、戦場に送り込める。一方、巨大なB-52は、16個ものデコイを搭載できる。



ADM-160MALDを搭載したF-16 (U.S. Air Force photo)


 スポーンによれば、A-10のトリプルイジェクターラックにMALDデコイ2発が搭載可能で、最大16個の可変翼デコイを搭載できる。A-10がJASSMを搭載することで、コストを削減できると考えるならば、B-52は飛行時間あたり7万ドル以上のコストがかかることを知っておく必要がある。同じ数のデコイを運ぶのに1時間2万ドルですめば、コスト削減効果は無視できない。

 「A-10の4機編隊で、最大64発のMALDを戦場に送り込める。A-10の強固で機敏な戦闘能力(低水準メンテナンス費用、未改良または臨時の滑走路面からの運用能力)は、1機あたりMALD16発を搭載する能力と相まって、戦闘指揮官に多軸問題、目標飽和、水平エスカレーションオプションを作り出す能力を提供します」と、グロッソ少佐は記している。


MALDを搭載したA-10の想像図


 A-10は戦場に近い未整備滑走路から活動できることに価値がある。つまり、A-10は短時間の出撃で、JASSMやMALDを空域の外から攻撃し、また戻り再武装し同じことを繰り返す。また、JASSMではソフトウェアの統合が必要で、そのため資金が必要だが、MALDならその必要はない。スポーンが言うように、「母機との分離テストだけが考慮すべきコスト 」だ。

 「うまくいけば、航空戦闘軍団(ACC)と空軍総司令部(HAF)の支持を得られる」とSpawnは書いていた。「支持があれば、MALDは分離テストを通過し、数ヶ月でA-10への統合を完了できます」。■


Could a stealth makeover save the A-10? How to drag the Warthog into the future - Sandboxx

Alex Hollings | May 26, 20222

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.

 


映画『トップガン:マーベリック』はここに注目。

 F-22

Image: Creative Commons.

 

1980年代にポップカルチャーの象徴として一躍有名になった『トップガン』の劇場公開から36年、その続編が公開された。『トップガン:マーベリック』は、意外なほどまともな作品に仕上がっている。多くに愛された主人公が、指導者や世話役として成長することに挑戦している。エゴのぶつかり合い、ペーソス、ユーモアに加え、実機による飛行シーンがふんだんに盛り込まれ、スリリングな結末へ向かっていく。

 

技術的な細かさよりこうした要素のほうが映画を楽しむため重要だ。しかし、この映画からヒントを得た観客は、米国の空軍力を誤解するかもしれない。(以下、若干のネタバレあり)。

明白な解決策

『トップガン』は、エリートパイロットが身を切るような高速操縦で窮地を救うストーリーだ。そのため、優れた技術と根性で勝利することが求められる。

映画の中心となるミッションは、『スター・ウォーズ』のデス・スター攻撃のトレンチ・ランから引用されている。レーダー誘導地対空ミサイルが立ち並ぶ曲がりくねった渓谷を、ステルス機ではないスーパーホーネットが進んでいき、高度を上げる機体はすべて撃ち落とされる。敵の優秀なパトロール戦闘機(詳しくは後述)に迎撃されないよう、危険なほど高速で接近しなければならない。

目標に到達した複座のF-18Fは、わずか数秒で小さな目標にレーザーを照射し、レーザー誘導爆弾を誘導する。この爆弾が、デス・スターの熱排気口に命中した陽子魚雷のように、施設全体を破壊する。

これは明らかにスリリングな飛行シークエンスをつくるレシピだ。ただし、現実とまったくかけ離れたものではない。冷戦時代、長距離防空レーダーを回避する低空侵入戦術が軍事航空で重要になった。この方法は、純粋に挑戦的かつ危険なもので何百人ものパイロットが訓練で命を落とした。

しかし、最近の米軍は、侵入ミッションはほぼステルス機に頼っている状態だ。ステルス機は探知が困難だ。長距離レーダー誘導ミサイルでの交戦はさらに難しい。

米海軍の場合、映画冒頭に登場する『コウモリの翼』を持つF-35Cライトニング空母型ジェット機になる。F-35はスーパーホーネットほど機敏ではないが、強力な防空圏に侵入するため設計された。

トップガンの脚本家は、F-35が明白な解決策と認識しながら、映画では、谷間のGPSジャミングのため、同機では生存不可能であると却下される。しかし、F-35の使用が不可能になることはないはずだ。せいぜい、JDAMSのようなGPS依存の兵器が、ミッションに使えない程度だ。しかし、レーザー誘導や、映画に登場するトマホーク巡航ミサイルのような地形照合と慣性誘導を組み合わせた誘導兵器には、投入できるものがたくさんある。

複座FA-18F戦闘機の兵器システム士官は、地上目標へのレーザー照射などのセンサー操作や兵器運用タスクを簡単に処理できるのは事実だが、2機1組のF-35でもこのミッションに対応できる。危険な速度で渓谷を飛ぶのではなく、より高い高度で飛行し、敵ミサイルの影響を受けにくくできる。また、無人偵察機やB-2ステルス爆撃機でもこの任務を遂行できる。

トップガンとSEADの不在

防空網そのものを攻撃対象とすることも必要だ。これを『防空制圧』(Suppression of Enemy Air Defences、SEAD)と呼ぶ。

アメリカ海軍の空母航空団には、スーパーホーネットの派生型EA-18Gグラウラーという防空抑圧・破壊専用機がある。グラウラーは、レーダーや通信システムを撹乱する強力なジャマーを使用する。また、敵のレーダー信号をロックオンするAGM-88HARMミサイルを発射する。

F-35は、ASQ-239システムで敵の防空センサーの位置を特定し、スタンドオフ兵器で攻撃するSEADミッションも行える。

ちなみに、渓谷を守るミサイル砲台はレーダー誘導式と説明があった。S-125四連装発射機(NATOコードネームSA-3ゴア)に似ており、別の照準レーダーからの無線コマンドで誘導されるV-600ミサイルを発射する。

しかし、これらのミサイルは交戦距離が2.5〜3.5kmで、近距離の戦闘機には効果がない。原子炉は、おそらく赤外線/光学誘導を使用した短距離防空システムに守られるであろう。S-125はもっと遠くに位置するはずだ。

第五世代の敵機

空襲の成否に立ちはだかるのは、空戦における米軍の優位を終わらせたとされる第5世代戦闘機の存在だ。

しかし、米軍が航空戦で劣勢と考えるのはナンセンスだ。スーパーホーネットで第5世代戦闘機と戦うのは難しいかもしれないが、米軍にはステルス戦闘機で圧倒的優勢がある。2000年代に就役したF-22Aラプターでリードを築き、2010年代に数百機のF-35ライティングシリーズのマルチロール戦闘機で拡大した。

これに対し、ロシアは映画で描かれた第5世代機のSu-57では量産型を10機弱受領しているだけだ。Su-57は非常に機敏だが、F-35よりレーダー探知されやすい。

中国にはJ-20ステルス戦闘機が50~100機ある。しかし、J-20は、目標性能の達成に必要な高推力エンジンをまだ搭載していない。(Su-57も同様だ)。

こうした航空機が米軍に突きつける課題は今後大きくなっていく。とは言え、米軍に優位性があり、はるかに優れたパイロット訓練と支援資産がこれを維持強化している。海軍が攻撃部隊に護衛戦闘機、特にF-35Cステルス機を派遣するのを危険すぎると判断するとは信じがたい。

実際、この映画ではレーダー探知機やステルス機はほぼ登場しない。しかし、Su-57が現実でないような回避行動をとるシーンでは、Su-57の性能が表現されている。Su-57は推力偏向エンジンのおかげで、素晴らしい機動が可能で、状況によってはミサイルの回避もできる。

F-22も推力可変エンジンを搭載するが、米国のその他機種のほとんどは同技術を排除している。このような作戦は速度と高度を大きく消耗するため、回避しても航空機はその後、脆弱な状態に置かれる。

イラン軍F-14と『トップガン』の非政治的な政治学

『トップガン』に登場する匿名の『悪者』たちのモデルは明らかにイランだ。テヘランの核開発は、タカ派が長く、先制攻撃のターゲットに提唱しており、なかでも最も特徴的なのは、敵国がF-14トムキャット戦闘機を保有していることだ。

現在、F-14を保有するのはイランだけだ。イラン革命前の1970年代に79機を受領した。米国のF-14より多くの空戦を経験し、イラク軍の少なくとも50機を撃墜してきた。イラン軍トムキャットは、国内でのアップグレードや部品・武器の代用により、数十年経った今でも飛行し続けている。

『トップガン』は米軍事力を讃える作品だが、脚本家は当然ながら、軍事力の行使をめぐる論争に首を突っ込むことはない。確かに、マーベリック同様の軍人は、政治指導者の決定を忠実に実行するのが目的である。トップガンの観客は、戦闘機パイロットのファンタジーとドラマチックなエゴのぶつかり合いを求めて入場料を払うのであって、中東政治を解剖するため来たわけではない。

しかし、映画的な描写と現実を混同してはいけない。イラン核開発は、デス・スターのように1発ないし2発のミサイルで吹き飛ばすことはできない。

映画ではハッピーエンディングが用意されているが、たとえ表向き成功したように見える攻撃でも、その後報復と反撃のサイクルが長く続くはずだ。■

Top Gun: Maverick Imagines a World Where Stealth Fighters Don't Work - 19FortyFive

BySebastien Roblin

 

Sébastien Roblin writes on the technical, historical and political aspects of international security and conflict for publications including The National Interest, NBC News, Forbes.com, War is Boring and 19FortyFive, where he is Defense-in-Depth editor.  He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China.  You can follow his articles on Twitter.


ドイツ:憲法改正で大幅軍事費追加支出に目処がつく。だが、どう支出したらいいのか国防省が悩んでいる模様。

 

2022年5月10日、ドイツ・ミュンスター近郊のヴェッティナー・ハイデ演習でパンツァーハウビッツェ2000自走榴弾砲を整備するドイツ兵 (Morris MacMatzen/Getty Images)

 

 

イツの政権連立与党と野党幹部は、ロシアのウクライナ侵攻後の2月末にオラフ・ショルツ首相Olaf Scholzが提唱した1000億ユーロ(約1080億米ドル)の防衛基金を確保する憲法改正を承認するよう、所属議員に働きかけている。

 

 

 同基金は、装備や弾薬の不足を補うのが目的で、NATO合意の国内総生産2%を防衛費に充てる目標に向けドイツを軌道に乗せる鍵となる。ドイツ連邦議会が承認すれば、年間500億ユーロ強で凍結された軍事予算に今後数年間にわたる上乗せになる。

 追加支出は、新規債務を制限する政策と衝突するため、例外として認めるには3分の2の賛成が必要だ。社会民主党、自由民主党、緑の党による連立政権と野党キリスト教民主党の各政党は、週末に合意し、同提案の可決の可能性が高くなってきた。

 政府関係者は、7月上旬の夏期休暇の開始前に法改正を成立させたいとする。並行し、追加予算をどのように使うか、さらに重要なのは、いつ支出するかという優先順位付き調達希望リストを作成している。

 月曜日、3人の著名な社会民主党議員、ショルツ首相、クリスティーネ・ランブレヒトChristine Lambrecht国防相、ロルフ・ミュッツェニヒRolf Mützenich連邦議会議長が法改正への投票支持を議員に求める書簡を出した。

 ウクライナ戦争は、欧州の安全保障構造に大変化をもたらすと、書簡は主張した。「自由の中で生きるには、自由を守り抜く軍事力が必要と教えている」。

 政府が資金をどう使うべきか、ドイツで数カ月にわたる議論の的となってきた。国防省は、通常の国防予算より250億ユーロ追加され、年間総額750億ユーロにされても、能力強化につなげらないからだ。計算では、現在の経済見通しを考慮し、新資金を4年間にわたり均等支出し、毎年NATO目標に達する想定だ。

 Defense Newsが入手した社会民主党の書簡によると、党全体の妥協案は、目標達成に多少余裕を持たせている。計画は、5年間でGDPの2%という「平均的」な支出率を達成するもので、特にNATOでのドイツの責務に関連した投資を行う。

 書簡によると、弾薬の補充だけでも200億ユーロを要するとある。

 党の交渉担当者は、配分の詳細と関連する買収の開始時期を交渉してきた。妥協案では、2022年から始まる「重要な」複数年の調達投資で能力ギャップを埋めると想定している、と書簡は伝えている。

 ベルリンは、核シェアリングミッションでF-35を35機購入したい意向だ。また、ボーイングロッキード・マーチン両社からオファーが出ている新型大型輸送ヘリコプターも検討対象にある。

 EUの東欧諸国はドイツとフランスから離れつつある。かつてはEUの防衛政策の舵取り役だったドイツとフランスが各国のウクライナ向け武器供与政策に怒ったためだ。ロシアに近い欧州諸国は、テンポが遅すぎる一方で、プーチン大統領との会談を重視するのは見当違いと考えている。■

 

 

German government tees up $108 billion defense boost for a vote

By Sebastian Sprenger

 Jun 1, 04:35 AM

 

About Sebastian Sprenger

Sebastian Sprenger is Europe editor for Defense News, reporting on the state of the defense market in the region, and on U.S.-Europe cooperation and multinational investments in defense and global security. He previously served as managing editor for Defense News.

 


2022年5月31日火曜日

ハープーン沿岸防衛巡航ミサイルを発注する米海軍。仕向け先はウクライナか台湾か気になる。

 Harpoon Block II


米海軍航空システム本部(NAVAIR)は、ハープーン沿岸防衛巡航ミサイル(HCDCM)の生産について、ボーイングと協議開始の意向を明らかにした。



2022年5月30日付の米国一般調達庁の公示によると、海軍航空システム本部の精密打撃兵器プログラムオフィス(PMA-201)は、基本発注契約(BOA)に関しボーイングと単独交渉し、固定価格(FFP)で発注を出す意向とある。 

 この契約は、パートナー能力構築(BPC)の支援として移動式沿岸防衛巡航ミサイルの設計、製造、試験、納入を提供するものだ。

 「本契約は、連邦調達規則(FAR)サブパート6.302-1で実施される10 U.S.C. 2304 (c)(1) の法的権限の下で、単独調達で進められており、供給元は1社のみで、他社では要件を満たさない」。


U.S. may enhance Ukraine's defence with Harpoon missilesトラックトレーラーから発射される陸上用ハープーンミサイル。



ハープーンはどの国に納入されるか?


今回の発表には、どの国が沿岸運用ハープーンミサイルを受け取るのかは示されていない。ただ、発注は、「パートナー能力構築」の一環で、安全保障協力を通じあらゆる能力を支援するプログラムだと示されている。

 既報の通り、米国国務省は台湾に対し、RGM-84L-4ハープーン沿岸防衛システムおよび関連機器を最大100基、概算費用23億7000万ドルで外資系軍事売却(FMS)する可能性を承認している。

 一方、米国はウクライナに対し、ロシアの海上封鎖に対抗するため、ハープーンまたはネイバルストライクミサイルといった新鋭対艦ミサイルで支援する意向を表明している。

 第3の顧客の名は出ていないので、おそらく台湾かウクライナのどちらかに用意されるのだろう。Naval Newsでは、この件で進展があれば報告する。


US Navy to order Harpoon Coastal Defence Missiles from Boeing - Naval News

Tayfun Ozberk  30 May 2022

 

AUTHORS


Posted by : Tayfun Ozberk

Tayfun Ozberk is a former naval officer who is expert in Above Water Warfare especially in Littoral Waters. He has a Bachelor Degree in Computer Science. After serving the Turkish Navy for 16 years, he started writing articles for several media. Tayfun also offers analysis services on global naval strategies. He's based in Mersin, Turkey