2018年12月25日火曜日

F-15Xの米国調達案、商売上手なボーイングが笑うのか、ステルス命のロッキードが泣くのか

F-35が日本では注目されがちですが、中国が数の武器で向かってくるとすれば、センサーをF-35にまかせても片を付けるのは「ミサイルトラック」の新型F-15でしょう。米空軍のF-15新造調達は航空自衛隊にも驚きを持って受け止められているのではないでしょうか。実現すればF-15は1980年代から2050年代までと異例に長く供用される戦闘機になりそうですね。さて、日本はどうしますか。


USAF's Next Budget Request Will Include New F-15X Advanced Eagle Fighter Jets: Report 米空軍の次期予算案にF-15X高性能イーグル戦闘機が盛り込まれそう
We revealed the existence of the F-15X concept last July and now it seems like it may become a line-item in the upcoming 2020 defense budget. F-15Xコンセプトが2020年度国防予算で予算品目になりそうだ


年7月にボーイングのF-15X高性能イーグル構想を初めてお伝えしたが、その後同社はUSAFと交渉していたようだ。米国に残るF-15C/D機材と交代して調達される可能性がでてきた。C/D型の大多数は州軍航空隊が運用中だ。USAFはF-15Xにどこか冷たい態度だったがブルームバーグ記事によれば大きく変りそうだ。
F-15Xは単座だがその後登場した技術革新を取り入れる。F-15ストライクイーグルを原型にした最新のサウジアラビア向けF-15SA、カタール向けF-15QAが生まれている。F-15Xの機体寿命は20千時間と長く、最新式センサー、飛行制御装備、エイビオニクスを搭載し今後長く供用され、現行のF-15C/Dより大幅に低い運行コストを実現するので10年間運用で節減効果を十分に生むとしている。
ブルームバーグ・ガヴァメントのロクサーナ・ティロン記者がUSAFが「12億ドルでボーイングF-15X計12機」の調達を2020年度予算に盛り込むと伝えた。記事ではF-15X導入はペンタゴン内部の高官からの圧力で、USAF自体の要求ではないとある。



BOEING


予算要求の公表まで変化はありうる。だが今回のブルームバーグ記事は当方が見聞きしている内容と一致しておりペンタゴン内部の支持があることを記している。具体的な調達形態は不明で十数機で終わるのか追加調達や他の採用国が続くか不明だ。
こちらの情報源ではボーイングはF-15Xの売り込みでUSAFを再びイーグル供用部隊にしたいと熱心になっているという。派生型開発の開発費を低く抑えるあるいは徴収しない、機体単価の保証、さらに供用期間中の費用までボーイングが請け負っていると言われる。ボーイングがここまで熱を入れるのはUH-1更新機材案件、海軍のMQ-25スティングレイ無人給油機案件、さらにT-X次期練習機の契約受注と同じ様相だ。
F-15XはF-35に真っ向から対抗するのではなく、USAFに財務作戦両面で魅力的な「プラグアンドプレイ」方式の選択肢をF-15C/D型後継機として提供する。C/D型は235機残っており、今後も第一線運用を続ければ高額な改修作業が必要となる。


USAF

USAFもF-15C/Dの今後を検討してきたが、大幅性能改修も実施してきた。構造面と技術で大幅手直しをしているがいかんせん機体は製造後30余年が経過している。一挙に全機を退役させ、F-16をアクティブ電子スカンアレイ(AESA)レーダー換装して使う選択肢もあるが、物議を醸すことになりかねない。F-15Xが性能、予算両面で非常に魅力的な選択肢となるのはUSAFが保有するイーグル向けインフラがそのまま使えるからだ。
現実の任務を見ると本土防空や航空主権維持任務など多くでF-35の低視認性は無用の長物だ。大型戦闘機ならではのメリットが活かせる戦闘任務は多く、長距離飛行可能で大量装備を運べるのでステルス機のペイロードが制限され飛行距離も短いのと対照的だ。イスラエルも同じ結論に達したようである。F-15Xが真骨頂を発揮できる余地がUSAFにある。


USAF
F-15XはF-35Aの対抗馬の意図はないがF-35の裏に控える特殊利権を考えると話は違ってくる。戦術機にDoD予算を大量に割り当てればF-35の追加調達予算が犠牲になると考えると脅威と受け止められかねない。

だがなんと言っても今回の記事は当方の見聞を裏付けてくれる。F-15Xはペンタゴン企画立案部門でしっかり生きており、その実現ニーズが今や明白になったのだ。最終予算案を見ないとF-15X調達が正式決定にならないが、イーグルがセントルイスの生産ラインから生産され米戦闘機部隊にふたたび供給される可能性がここ数年で一番高くなってきたと言えよう。■

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2018年12月24日月曜日

速報)国防長官代行に任命されたパトリック・シャナハンはこんな人

Meet Patrick Shanahan, the former Boeing executive nicknamed 'Mr. Fix-It' who's replacing General James Mattis as Defense secretary

Áine Cain 18m

Donald Trump Patrick Shanahan
"He will be great!" Trump wrote in a tweet on Sunday. Pablo Martinez Monsivais/AP Images

  • パトリック・シャナハン国防副長官がジェイムズ・マティス長官にかわり長官職を代行する。
  • マティスの次席に任命された2017年の前はボーイング重役を務めてきた。
  • ワシントン州出身でボーイング社内では「直し屋さん」として知らぬものがない。

パトリック・シャナハン副長官が長官代行として国防総省を指揮することになった。
マティスが長官職を退くのはドナルド・トランプ大統領がシリア撤兵を決定したためだ。辞意を伝える書簡でマティスは円滑な引き継ぎのため二ヶ月は長官として残りたいと記していた。
これに対しトランプはツイッターで日曜日に新人事を発表。シャナハンを高く評価し、「副長官として更に以前のボーイングでパトリックは数々の業績を残してきた。すごい仕事をやってくれるぞ」と記していた。
だがシャナハンとはどんな人物なのか。またワシントン州出身で三児の父の本人はどんな仕事をしてくれるのか。
そこで本人のこれまでの経過を見てみよう。

  • 三人兄弟の長兄として1962年に生まれた。父マイケル・シャナハンは警察官でヴィエトナム戦に加わり青銅章を受けている。

    Ted S. Warren, File/AP Images
    Source: Senate Armed Services Committee, The Department of Defense

    「成長の過程で戦争の理解は父やその親友から受けてきた」と本人は国防総省のウェブサイト上で記している

  • Evan Vucci/AP Images
    Source: The Department of Defense



    上院における人事承認審査で父親から「自らより義務を優先」する考え方を叩き込まれたと述べた。

  • 国防副長官の執務室にシャナハンは父の写真を飾っていた。

    Matthew Brown/AP Images
    Source: The Department of Defense


  • ワシントン州に生まれたシャナハンはワシントン大学で機械工学の学位を得た。その後も同校と関係を保ち、2012年から理事も務めた。
  • その後機械工学修士号とMBAをMITから受けた。


  • 1986年にボーイングに入社、キャリアを歩き始めた。


  • 同社でミサイル及び回転翼機事業を担当。


  • 社内では「何でも直す人」として知らぬものがない存在になった。


  • ニューヨーク・タイムズはトラブル続きだったボーイング787の解決に本人が一役買ったと伝えている。

Ted S. Warren/AP Images


  • その後、同社でサプライチェーン担当の副社長に昇格。


  • 政治献金は二大政党に公平に振り向け、1990年から2016年にかけて共和党や保守勢力に6,250ドルを民主党やリベラル勢力に5,000ドルを献金している。ただトランプには一切献金していない。


  • トランプは次期エアフォースワン案件でボーイングと口論になったが、半年後にシャナハンを国防副長官に任命した。2017年3月16日のことだった。


  • ただ任命承認の手続きはスムーズではなかった。上院審査では故ジョン・マケイン軍事委員会委員長からロシアと対立するウクライナの支援に関する質問をはぐらかしたとして追求を受けた。


  • だが結局92対7で人事案は承認された。2017年7月18日のことだった。


  • シャナハンはペンタゴンとの共同作業体制の確立でマティスの業績を評価。「長官が重要点を整理し、自分は技術者として実現させるのが仕事」と国防総省のウェブサイトで述べていた。


  • 本人はペンタゴン勤務の「実務面」ではいちいち恐れを感じることはないとしながら、「結果が違いを生む。ここの仕事で間違いをすれば結果は悲惨だ」と同上ウェブサイトに書いている。


  • また国防総省の力量を「素晴らしい」と評価する。シャナハンは2019年1月1日付で長官職につく。


Manuel Balce Ceneta, file/AP Images

F-35C運用を遅らせている最大の問題はなにか



The Navy's Version of the F-35 Has a Big Problem 米海軍向けF-35の大問題
The Navy plans to deploy its F-35C carrier-based jets in 2019—but less than one out of six were fully mission capable last year.海軍はF-35Cを2019年に艦上運用開始の予定だが、運用可能な機体は昨年6機中一機だった。


by Sebastien Roblin
December 22, 2018  Topic: Security Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarJetsF-35


F-35ライトニングIIステルス戦闘機は経費超過、遅延、性能不足などの嵐にさらされてきた。ペンタゴンは敵防空圏内への侵入能力が価値を発揮する日が来ると一貫して主張してきた。2018年になり各問題で沈静化の動きが出始めており、機体単価が下がる中、イスラエル空軍及び米海兵隊で実戦の試練を初めてくぐった。
だが艦載型F-35Cが最大の技術課題に直面しており、初期作戦能力(IOC)の獲得が2019年と一番最後になる。批判派はIOCが政治判断で勝手に宣言され、技術問題が未解決のままだ、試験評価段階が未完了と声を上げているが、IOCとはそういうものだ。
米会計検査院(GAO)のジョン・ペンドルトンが2018年12月に議会証言で海軍向けF-35Cで任務実施可能な機体は2017年で15%のみだったと証言している。状況は2018年に入っても悪化のままのようだ。「2018年6月にF-35で信頼性、整備性で改善の兆しが見られないと報告したが、必要な性能項目の半分で不満足な結果しかでていない」
海軍仕様のF-35Cの単価は陸上配備型F-35Aより50%高い150百万ドルだ。世界初のステルス海軍戦闘機は大きな「コウモリ状の」主翼で揚力を稼ぎ空母発艦に備える。また拘束フックで着艦時にケーブルをつかむ。機首降着装置を強化して衝撃に備え、折りたたみ式主翼で艦内格納に対応する。

機体重量が増えた分だけ燃料タンクを大型化し、海軍仕様の給油方式はドローグ・プローブ=ドローグ対応で空軍のブーム方式とことなる。ただプローブ先端の破損が頻出といわれる。重量が増えた分だけF-35Cの動作は鈍いが海軍戦闘機でよく見られることだ。
F-35Aと異なり、F-35Cが機内に25ミリ機関砲を搭載していないのは機体重量軽減のためだ。オプションの外部ガンポッドを試験中だが、F-35Aの機内砲が右寄りに流れる現象がある中でこちらのほうが優秀な結果を出しているのは皮肉だ。
F-35Cは2014年11月にUSSニミッツで初着艦を行った。
ただし機首降着装置に問題があり、カタパルト発艦試験ではパイロットは機首降着装置ストラットが振動して機体も大きくバフェットすることに気づいた。このためコックピット計器が読み取れず、パイロットが105回の発艦中92回で「中程度」から「重い」痛みを訴えた。ただこの現象は完全戦闘装備を搭載しない場合に発生したと言われる。構造面の手直しは2019年以降に持ち越されている。
だがF-35Cの最大の問題は補給面だ。ペンドルトンは「数ヶ月、場合より半年以上待たないと部品修理がすまず現場に戻ってこない」と議会で述べている。
ロッキードが機体を可能な限り迅速に生産したことが、交換部品の在庫が不十分なままなのだ。このため補給処の修理能力が「予定より6年遅れ」になっており、部品修理に二倍の時間がかかっている。
この問題はF-35各型で深刻だが特に海軍海兵隊の機材で稼働率が低い。空軍飛行隊で6割から7割なのに対し海軍海兵隊では4割ないし5割程度で修理部品を「作戦機材」から取り外して共食いで対応している。つまり作戦投入可能機材は公表機数より低い。ジェイムズ・マティス国防長官が8割の実現を2018年に求めたが海軍海兵隊では6割に達するかどうかという水準だ。

それでもF-35Cは連続作戦テストを2018年8月にUSSエイブラハム・リンカンで開始し、2019年のIOC獲得に備えた。ステルス機の空母運用は補給面が課題となる。レーダー吸収剤の定期的補修やALIS補給システムのサイバー保安体制の維持さらに交換部品の輸送があるが、エンジンは通常の輸送機では大きすぎて運べず、ヘリコプターやCV-22オスプレイの機外吊り下げで搬送している。しかしリンカン艦長は報道陣にF-35の運用はすぐに普通のことになると語っていた。
スーパーホーネット全機に交代するはずだったF-35C発注数は削減されライトニングと改修型ブロックIIIのスーパーホーネットの併用に変更された。海軍の戦闘機には任務がふたつある。陸上海上の標的への攻撃であり、空母任務部隊を敵爆撃機、ミサイルから防御する役目だ。ライトニングはステルス性能のかわりに航続距離が犠牲になっており、空母は敵の対艦ミサイルの射程により近い地点まで進出する必要がある。またライトニングは最高速力が低く、防空戦闘機としては致命的な性能不足だ。
そうなるとF-35のセンサー性能、スーパーホーネットの搭載量の大きさを組みあわてそれぞれの不足点を補える。米海兵隊も海軍の大型空母からF-35C計5個飛行隊を運行する予定で、小型揚陸艦空母で運用するF-35Bとあわせ二形式となる。■



Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring .

Image: Wikimedia Commons.

2018年12月23日日曜日

★★速報 米国がF-15X調達を決定か

Ore Huiying/Bloomberg
シンガポール空軍のF-15  


Pentagon To Request $1.2 Billion for New Boeing F-15 Fighters ペンタゴンが12億ドルでボーイングにF-15新造機材発注を予算要求か

  
December 21, 2018
Roxana Tiron

ンタゴンはボーイングからF-15X戦闘機計12機調達を2020年度予算で12億ドル要求する見込み。案件に詳しい二名が情報を確認したが、公式情報ではないため匿名での情報提供だ。

導入案は2月4日公表の正式予算要求の一部となる。今回の決定はペンタゴン上層部が下し、空軍みずからの発案ではないといわれる。


最新型F-15の調達はペンタゴン最上層の決定でパット・シャナハン副長官の肝いりと言われ、空軍の決定ではないと上記筋が述べた。シャナハンは元ボーイング社役員であり、上院による人事任命承認でボーイング関連案件に関与できない条件がついている。
同じく匿名の政権関係者によればシャナハンはボーイング関連案件で何ら決定していないという。同関係者は予算要求も2月4日の正式な要求案提出前であり正式ではないという。
F-15X導入は州軍航空隊で機体維持が高負担になっているF-15Cの後継機の位置づけという。C型生産は1980年代に終了と軍用機に詳しいTealグループ副社長リチャード・アブラフィアが述べている。
ボーイングはF-15をセントルイスで生産し、スーパーホーネットも製造しているが同機は議会の大盤振る舞いの恩恵を受けてきた。

「ボーイングは新型版を韓国、シンガポール、サウジアラビア、カタールに販売して生産を維持している」とアブラフィアは解説し、装備やセンサーを新型に変えていると指摘した。
「F-15は航続距離、性能がすぐれている別格の存在」とアブラフィアは述べ、F-35共用打撃戦闘機より高速かつ搭載量が大きい。F-35は最新かつ最高価格の機材だがステルス性能でF-15より優れるとアブラフィアは解説。
F-15最新版導入で議会、ペンタゴン内のF-35支持派は予算を取られる懸念のため落ち着いていられないはずだ。

F-15C、D、E各型は1991年の砂漠の嵐作戦に投入され空対空戦での撃墜36機のうち32機はF-15の実績であり、その他地上標的も攻撃している。1994年にはボスニアに投入され、セルビアのMiG-29を三機撃墜した。不朽の自由作戦ではアフガニスタンで攻撃を加え、F-15Eはイラクの自由作戦で対地攻撃ミッションに投入された。

ペンタゴン予算案に関しボーイングは論評を避けている。■

2018年12月22日土曜日

★ステルス戦闘機にはステルス給油機が必要だ。ではその実現方法は?






Stealth Can't Fix This Problem: The 1 Challenge the F-22 and F-35 Can't Seem to Shake ステルスで解決できない問題とは。解決手段はあるのか。


by Sebastien Roblin
Key Point: Another problem with the short range of stealth and non-stealth fighters alike is the need to deploy them airbases or aircraft carriers well within range of an adversary’s ballistic and cruise missiles.
December 21, 2018  Topic: Security Blog Brand: The Buzz  Tags: F-22F-35MilitaryTechnologyWorld.


国は巨額予算でステルスの戦闘機、爆撃機、巡航ミサイルを開発し、ステルスのスパイ無人機まで作った。ではステルス給油機は予算の無駄使いになるだろうか。
ステルス給油機構想は常軌を逸するものではない。F-35やF-22ステルス戦闘機は21世紀の航空戦力の要だが、航続距離が不足する。
一見するとF-35の後続距離800マイルは既存機種のスーパーホーネットやF-16と比べ劣っていない。だが非ステルス機は燃料タンクを主翼下につけ戦闘に向かうが、F-35が主翼下に装備をぶらせげればレーダー断面積の利点を自ら失うことになる。
ステルス、非ステルス問わず戦闘機の短距離性能から別の問題もある。敵の弾道ミサイル、巡航ミサイルの射程範囲内の基地や空母から運用する必要があることだ。第二次大戦終結以来の戦闘で高性能戦闘機といえども地上では格好の標的にしかならないことを示している。(空母艦上でも同様)大国同士の戦闘ではミサイルの雨が前方基地を襲うのは必至で、何機が無傷で残るか誰が考えても明らかだ。
幸い米戦闘機は空中給油を受けられる。だが旅客機が原型の給油機は敵戦闘機の活動範囲から遠く離れる必要がある。またロシア製R-37のような長距離ミサイルにも脆弱だ。(同ミサイルは射程250マイル)ロシア、中国のステルス戦闘機は少数だが集中配備し米軍支援機材を狙うだろう。給油機が叩き落とされれば太平洋上で帰投する燃料が足りなくなる。
ステルス機の任務が敵空域侵攻にあることを考えるとジレンマとなる。最新の地対空ミサイルの例にS-400があり、現在でも機動性の劣る機材を250マイルまで標的にしている。つまり現行の給油機各型は数百マイル後方で待機を迫られるが、その地点でもレーダーに捕捉され敵戦闘機から攻撃を受ける可能性がある。
そこでレーダー断面積の少ない給油機が解決策となる。ただしステルス戦闘機並みの低探知性は不要だ。

KC-Zがここで登場する。
米空軍はボーイング767原型のKC-46Aペガサス179機の調達を目指しKC-135、KC-10の400機は順次退役させる。航空機動軍団は比較的既存機種に近いKC-Yを2024年以降導入してからステルス給油機のKC-Z調達に移る予定だった。
ただし2016年にカールトン・エヴァートハート大将がKC-Yは取りやめ、KC-46改修型の追加調達を優先しKC-Z導入を早めることにしたとDefense Newsに述べていた。
すでにKC-Zでは各種提案が出ており、映画アベンジャーズに登場する機体そっくりの異様な機体もある。
2018年6月、ライト・パターソン空軍基地内に本拠を構える空軍研究所が「高性能空中給油機」構想をAIAA総会の席上で発表した。
ロッキードもステルス給油機構想を「高性能給油機コンセプト」(写真下)として発表しており、スターウォーズに登場してもおかしくない形状だ。ロッキードは全翼機形状でステルスを前面に打ち出し高バイパス比ターボファンを主翼上に装着しレーダー断面積を減らすとしていた。


ただし、純粋の全翼機形状でなく、空軍が先に発表していた「ブレンデッドウィンボディ」(BWB)給油機構想にヒントを受けた。BWB機は主翼と胴体が一体化されている。「ハイブリッドウィングボディ」としても知られ、純然たる全翼機ではないのは胴体部と尾部にフィンがつくためだ。
全翼機の主翼曲線は揚力を得るのに効率が高く、機体に鋭敏な角度がつかないためレーダー断面積は小さい。ただし給油機は輸送機としても使われるのでステルス給油機でも貨物搭載用の空間や荷物扉が必要だ。そのため純然たる全翼機では不十分となり、ハイブリッド形状に落ち着いた。
ステルス貨物機の利点に敵背後への特殊部隊投入がある。また接近阻止領域拒否の下にある前方基地に物資補給ができる。とはいえ貨物輸送用のステルス給油機が完全な全翼機形状給油機よりステルス性能が劣るのはやむを得ない。
ステルス給油機の調達価格を抑えるためステルス戦闘機、爆撃機のレーダー波吸収剤(RAM)に注目する必要がある。RAMで運用経費が上昇し、小型ステルス戦闘機でも整備は大変だ。ステルス給油機の機体が大きく飛行時間も年間数千時間と大幅に長いため経費は大幅に増えてしまう。費用対効果が高いRAMが登場しないと、B-2爆撃機の運行費用毎時169千ドルの再来になる。
空軍には将来の給油機の生存性を高めるべくアクティブ防御装備を搭載しミサイルを撃墜する構想もある。そう、レーザーだ。次世代レーダージャマーを敵レーダーの周波数に自動対応させれば、レーダー捕捉が困難になる。また高度の自律運用で乗員数を減らし給油時間を短時間で可能にできないかも模索されよう。

ただし、航空機動軍団はもっと革新的なステルスKC-Z提案も歓迎するとし、海軍のMQ-25にならい小型ステルス無人給油機の採用も検討している。■