F-16との模擬空中戦で精細を欠いたF-35Aのニュースが当ブログでも話題になりましたが、根はもっと深いのです。ただし、とりあえず今回の記事でこの話題は一旦終了とさせてください。F-35が決して万能の機体ではないこと、F-35だけに依存することで防衛予算が消費されることがどれだけ危険かをご理解いただければ幸いです。
Behind That F-35 Air Combat Report
ロッキード・マーティンF-35共用打撃戦闘機(JSF)のテストパイロットによる報告書がリークされたが、以前にも同様事例があった。2008年の事例ではRAND研究所がF-35をスホイSu-35その他機体と比較した資料がリークされていた。
「米空軍による解析を引用しつつ、チャールス・デイビス中将’ Maj. Gen. Charles Davis 当時JSF推進責任者)はF-35は少なくとも空対空戦でスホイ含む各国の最新鋭戦闘機よりも少なくとも400%優秀だ。
「ロッキード・マーティンによればF-35の3型式でそれぞれ動力性能はいかなる第四世代戦闘機を凌駕しているという。比較の対象は遷音速加速性能で空対空装備のユーロファイター・タイフーンに対し、また高迎え角での戦闘能力でボーイングのスーパーホーネットにそれぞれ優越しているというもの。「F-35は空対空戦の各性能ですべて既存機を上回ている』とロッキード・マーティン社テストパイロット、ビル・フリンが語っている」
以上もあり今回はF-35がエネルギー機動性でブロック40のF-16に劣るとの報道が話題になったのだろう。F-16がタイフーンと飛行速度で同等だと思う人はいないはずだし、スーパーホーネットの高迎え角性能でも同等だとは思わない。あるいはSu-35がこの両者を実現していることも承知のはずだ。F-35推進派の反応も注視に値する。
まず出てきたのはロッキード・マーティンが資金を援助するレキシントン研究所のダン・グア Dan Goure による「F-35がドッグファイトをこなせないって? いいではないか」との記事だ。グアは航空戦闘の機体制御をすべてドッグファイトと関連付けているが、搭載銃による撃墜事例全数を調べた戦略予算評価センターのジョン・ステリィオン John Stillion による報告書を引用してセンサー、ネットワーク、武装の組み合わせが空中機動性を無意味にしたと断言している。「結論としてF-35はそんなに悪い機体ではない」とグアはまとめ、「一方で既存第四世代機はどんどん陳腐化している」とした。
英空軍の要求水準ではF-35Bに航空戦ミッションすべてを行わせ空母航空隊に編入する。F-35Bの空虚重量はF-35Aより3,200ポンドも重いので機動性で不利だ。ロッキード・マーティン重役で RAFでトーネードを操縦していたアンドリュー・リンステッドAndrew Linstead がデイリー・テレグラフ紙にF-35の状況認識能力を評価し、空中戦も変化していると語っている。「慣れ親しんだ方法論にしがみつく人は感情的なつながりさえ覚えるものだが、違う角度から考える必要がある。戦場の状況は二者択一の選択を求めてくる。敵を避けるか、必ず勝てる状況で対決するかだ」
グア、リンステッド、フリンの三人は論争の反対側にいるように写る。30年ほど前に戦闘機主流派がステルス至上主義者と論争したのは高性能戦術戦闘機(ATF)構想の要求性能が対象だった。当時、ステルスは潜水艦戦と同じだと主張する向きがあった。「最後に浮上して甲板の銃で戦う」のと同じだというのだ。AMRAAMミサイルが当時開発中であり、戦場ではたえず初回の 有視界外 beyond-visual-range (BVR) のミサイル交戦を生き残る機体が必ずあり、近接有視界射程within visual range (WVR)に入れば、ステルスに意味はないと主張した。
従来の主流派が勝利した。F-22ラプターは高度の機動性を備えた大型で多様な戦闘性能を実現すべく巨大な尾翼を備え、AIM-9ミサイルを機体前方ならどの方向にも発射できる機能を実現したが、代償に機内スペースを相当割いている。
これに対しJSF推進派は機動性を重視しないが立案者はBVRで勝利をおさめることは可能と主張した。それはステル性と状況認識能力によるものであり、WVRでは360度標的捕捉能力と分散型開口システムDistributed Aperture System (DAS) で対空ミサイルを発射できると見ていた。
ここで語られていないのは実は同機は両方とも実施できないことだ。F-22や成都J-20やスホイT-50のような機体側部兵装庫がなく、AAMをレイルから発射できない。F-35 ではAIM-9 を外部搭載するとステルス性はなくなるとロッキード・マーティンは認めている。
これは偶然ではなく、事業の実施で実現したことでもない。F-35は「空対地攻撃に7割、空対空戦に3割」という構想で始まった機体だ。これは共用高性能攻撃機技術 Joint Advanced Strike Technology (JAST)と呼ばれていた1995年時点に責任者ジョージ・ミューリナー George Muellner,が使っていたことばだ。F-117ナイトホークは第一次湾岸戦争のヒーローになったが、3つの制約があった。自機で目標を補足できず、移動目標は攻撃できず、状況認識能力も昼間の生存に必要な装甲もなかった。そこでJASTはすべての任務をこなした上で外部兵装搭載ポイントもつけ、防衛網を破壊したあとの第二陣攻撃に投入されるF-16の役割も果たそうとしたのだった。
1995年当時の空軍は F-22を442機調達しいかなる敵戦闘機にも対応させる構想で、短距離離陸垂直着陸機にはAAM搭載用の機体側部装備は大きさと重量の問題からそぐわないと判断された。Stovlには機体重量と主翼の大きさ、さらに機体全長で制約があった。
ATF正統派がまちがっていたらどうなるか。グアとリンステッドがこの点を指摘しているようだ。またWVR戦闘を避けることができるか。グアがスティリオン報告書を引用したことに2つの皮肉な効果がある。まず、スティリオンは前出のRAND報告の共同執筆者であり、二番目にスティリオンによるCSBA研究成果によれば将来の空中戦に勝ち残るためにはF-35もF-22も不要であり、高度ステルス無人航空機からAAMを発射すべきだという。無人機の制御は長距離打撃爆撃機のような機体から行えば良いとする。高性能な戦闘機はどうしても短距離しか飛行できず、それ自体は強力としても給油機は脆弱なままだ。(中国のJ-20が給油機等支援機材を直接狙う機体と考えるのは筆者だけではない)
この航空戦の捉え方の裏付けに航空戦の実績を広く研究したスティルトンの成果がある。機銃から短距離AAR、さらにBVR用AAMへの変遷がある。しかし、ここでちょっと待てとの疑義が出し、。これとは違う流れを見る向きもあろう。MBDAメテオ事業の関係者はBVR戦闘には今以上の機体操縦を高速度で行う必要があると見ている。歴史は確かに何かを教えてくれるが、それで全てが決まるわけではない。
注目すべきは空対空戦ではこの30年間でバランスが欠けていることだ。 米国および同盟国側が装備面で大きく有利な形で交戦してきた。西側にはスホイ高性能戦闘機との交戦経験はないし、ロシア製新型戦闘機と対戦しているが、ほとんどが初期型のMiG-29で、短距離しか飛べず、ソ連時代の地上管制による指示を受けて飛行していた。訓練と経験では西側が大きく有利だった。また空中早期警戒機の支援も西側にあり、その他情報収集機や電子妨害機の支援もあった。
交戦事例からBVRが生まれたのは驚くに値しないが、WVR交戦に持ち込むのは危険だとの認識が敵側にも生まれている。だが、このような均衡を欠いた状態がいつまでも続くはずがない。ダン・グアはF-35の機動性欠如を問題視していないようだが、本人は戦闘に参加しないのだ。■
うーん、よんでもF-35の致命的欠点とか、根深い問題とか読み取れないんだけど。
返信削除調達もさっそく量産効果出てきてるし、少なくとも陸自のアパッチよりははるかにお買い得な機体になったと思う。
根深い問題って何?
たとえば,米陸軍が歩兵部隊の5.56mmの自動小銃を全廃して,代わりに歩兵全員に高性能センサーと12.7mm対物ライフルを装備させれば最強の歩兵部隊になると主張したらどうなるでしょう? 市街戦においてもセンサーが壁越しに敵兵の姿を探知できるので壁を貫通して部屋の中の敵兵を殺す事ができるから,敵と直接接触せずに安全な距離を保ち続けることができる。だから問題ないと主張したらどうでしょうか。確かにそういう一面もありますが,それだけで全てと考えて良いのでしょうか? これと似たようなものがあるように思えます。
返信削除とはいえ,F35に何もかもを求めるのは無理というものです。ブログ主さんの言わんとすることも全体の戦力構成やバランスの観点から何らかの戦術的冗長性の担保もまた必要ではないか?という問いかけではないかと私は理解しました。
F-22もF-35も従来の戦闘機とは異なる次元のカテゴリーに属する戦闘用航空機であり,既存の戦闘機や攻撃機の上にアドオンとして使えば絶大な総合力と統合力をもたらすが,既存機すべてを置き換えて更新するところまでいくと戦力構成に隙ができる。そして,敵は多くの場合,その隙を狙って想定外の攻撃をかけてくる。それが戦争というものです。
貴ブログ15日の記事「★米新軍事戦略が想定する考えたくない危険な可能性」も踏まえて読むと米軍当事者たちの危機感は一般の私たちよりも深刻なような気がします。
持ち株会社を作って統合するのは良いが,じゃあ持ち株会社だけで全ての業務ができるのか?といえば無理。だから,できない部分は子会社化・外注・委託・下請けに任せるから問題なしという流れになっていくのと若干似ているような。
自分がアメリカだったら現有の第四世代機の生産ラインを維持しリーズナブルな価格と性能で現地の同盟国に提供していくでしょうし,自軍内においても,予算との兼ね合いからF-35の調達数をある程度減らしても州軍保有も含めてF-15とF-16の戦力をなんらかの規模で,かなり長期にわたって高いレベルで維持し続けようとするでしょう。
BVRしか起こらないならF-35に空中戦をさせる意味がなくなる
返信削除それでもF-35を戦闘機として買うのか
WVRが起こるならF-35はシステムにも戦術開発にもまだまだ金と時間がかかる
それまで各国の既存機材と財政は持つのか
と読めたが
> BVRしか起こらないならF-35に空中戦をさせる意味がなくなる
返信削除> それでもF-35を戦闘機として買うのか
ご指摘の通り,F35は戦闘機ではなく,対地攻撃が主任務の多機能な「対空攻撃機」でしかないのだと思います。
対地攻撃が主任務だからこそ,対地攻撃時における主たるエアカバーは空対空も含めて特化した制空戦闘機に任せ,空対空戦闘脅威下にある空域では表には出てこずに,空対空戦闘に特化した制空戦闘機の陰に隠れて,陰に隠れながらも効果的な空対空戦闘の支援攻撃をしつつ,速やかに当該空域からは離脱して安全な空域に占位し,その状態で空対空戦闘が行われている空域の友軍機に対して,さらなる情報ネットワーク支援のためのノードに徹するのだと。これならば相手がステルスっぽい敵機であっても,第四世代の制空戦闘機が情報ネットワークの支援で十分な能力を発揮できると。
エアカバーを担当する空対空戦闘にも特化した制空戦闘機と,そうではないF35。制空戦闘機がステルスであれば,なお好都合であり,米空軍であればF-22がその役割を果たすのでしょう。同時に将来戦においてはF35を導入した国は米空軍のF-22のエアカバー無しには戦うことのできない局面も想定されると。しかし,そのような局面は当面の間はロシアや未来の中国との戦争状態ぐらいだろうと。
そういう意味では,既存の第四世代機とF35の組み合わせで,かなりの高レベルの局面を含めて,ほとんどの局面については対処できるだろうと。もちろんF35を導入している同盟国に対しては,アメリカも必要に応じて情報・ネットワーク・指揮統制システムなどでバックアップ・支援ができるから,導入したF35だけで戦うということはないし,それ以上の局面とは世界規模の大規模な戦争ぐらいであろうと。
こういう風に有機的にジョイント(統合)されているのかな?と。