2014年5月16日金曜日

集団的自衛権、その先にある課題を米海軍協会はこう伝えています


集団的自衛権をめぐり、日本国民は日本だけが安全であればよいという価値観の変換を求められている現実、これまでの「常識」が常識ではなかったという事実に直面せざるを得ず、とまどっているのではないでしょうか。フィクションの世界から現実に目を開かざるを得ない事態にあるんでしょうね;これは「開国」を迫られた時代や「国体護持」が維持できなくなった時と同じ状況でしょうね。思考変換が求められているともいえます。米海軍協会は早速以下の観測記事を掲載していますのでご紹介します。

Japanese Government Recommends Major Defense Policy Change

USNI News, By: Kyle Mizokami
Published: May 15, 2014 12:21 PM
Updated: May 15, 2014 12:28 PM

有識者会議から防衛政策の大幅変更の提言が安倍晋三首相に本日提出された。中国、北朝鮮との緊張の高まりを背景に有識会議は憲法解釈の見直しで集団的自衛権の行使を提言をしている。

これは自衛隊創設以来最大の防衛政策の転換になり、日本軍が米国など親密な関係の同盟国を防衛することが可能となる。この変更は日本にとって正常な防衛安全保障政策への道を開くものになる。

「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は日本も集団的自衛権の行使に踏み切るべきと提言しており、同盟国防衛に手を貸すべきだとする。「信頼できる諸国とともに対処した方が一国の安全は確実に確保でき、ともに助け合うことができる」と報告書は記述している。「集団的自衛権行使を可能とすることで信頼に足る各国との関係は強固となり、抑止力の増強で紛争を事前に防ぐことにつながる」

ただし提言は正式な政策ではない。変更を公式に実施するためには安倍首相は内閣の同意のもと、安全保障関連法案を国会で可決する必要がある。

その背景

日本国憲法はアメリカ人法律専門家集団が原案作成し、1947年に成立した。その第9条は以下の通り。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

第二次世界大戦終結直後の日本は一切の軍事力を保有せず、連合国占領軍による防衛に完全に依存していた。しかし朝鮮戦争勃発により駐留米軍が日本国内から戦場に移動し、日本は無防備状態になったので、準軍事組織として警察予備隊が75千人規模で組織された。その後規模は11万人に拡大し、海上警備隊が創設されている。

1954年に陸海空の自衛隊が創設され、日本政府は憲法が禁止する「陸海空軍」とは従来の概念での攻撃防衛能力を有する軍事組織であり、自衛権は憲法も認めているとの解釈に立った。
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その結果として自衛隊は世界で初めて攻撃能力を有さない軍事組織になった。自衛隊は現在でも純粋な攻撃戦術は実施せず、攻撃手段としての爆撃機、航空母艦、弾道ミサイルの保有は禁じられている。自衛隊の平時における弾薬在庫水準は世界平均を下回る。

集団的自衛権を認めないとは

日本政府は自衛権は認める一方、集団的自衛権は否定してきた。各国政府の大多数は国連も含め国家の権利として集団的自衛を認めているが、日本はかたくなに自衛の枠を超えることを恐れ、あるいは攻撃的性格を有する軍事紛争に巻き込まれる可能性を理由として否定してきた。自衛隊は日本に対する脅威にのみ対応でき、他国への脅威には対応できない。1960年の日米安全保障条約の成立でアメリカは日本を外敵から防衛する義務を有している。しかし集団手自衛権の否定により日本はアメリカを逆に援助できない。

この例外は日本が米海軍艦船を日本周辺で防衛する事態に前向きであることだ。オークランド大で日本の安全保障政策を研究するコーリー・ウォレスCorey WallaceはUSNI Newsに「もし米艦が日本近隣で作戦行動しているか、日本の1,000海里以内の海上交通路で作戦行動していると日本の防衛に直接あるいは間接的に関与しているとみなされ、米海軍が海自と共同作戦に従事していよう関係なく、日本政府はその状況で米海軍艦船が攻撃を受ければ日本の自衛権を行使するだろう」と話す。「米艦船への攻撃は日本に対する切迫かつ不法な侵略行為と日本政府がみなす」

今回提案されている変更内容とは

ただし自衛隊にはそのような事態に対応する能力に限界があり、対応するにも法的根拠が必要だ。集団的自衛権の見直しが浮上した背景には北朝鮮が弾道ミサイルを米本土を狙う軌道に打ち上げるシナリオがある。現行法では自衛隊はこの場合ミサイルを迎撃できない。

提案中の自衛隊交戦規則の改正では三つの条件が会わないと集団的自衛行為がとれないとされる。攻撃の対象国が日本と密接な関係にあること、該当国が日本に支援をもとめてくること、さらにその場合に日本が支援を拒否すれば日本の立場が大きく損なわれることである。この条件が合えば、次に以下の厳密な手順を踏むことになる。第一に総理大臣が日本の安全保障への危険があると認識すること。次に国会決議で事前承認すること。最後に攻撃対象の同盟国へ援助に駆け付ける場合の途中通過国すべての同意をとりつけることである。

不確定要素

日本国内の保守派は長年にわたり防衛方針の変更を求めてきたが、一般国民の反対により大胆な実施ははばかられてきた。しかし尖閣諸島をめぐる中国の脅威、北朝鮮の核・ミサイルの脅威によりこの問題が再浮上してきた格好だ。読売新聞の世論調査では日本国民の71%が集団的自衛権を承認している。

そこで方針転換の機運がたかまってきたことで安倍首相は内閣に全員一致での採択を迫るだろう。自民党閣僚はいいとしても、連立政権を組む公明党出身の大臣一名がいる。安倍は反対を表明する閣僚は内閣から外す傾向があるが、連立を崩すリスクは当然考慮するだろう。

内閣が方針転換を承認したのちに合計18個の関連法案として国会に上程される。安倍首相は経済テコ入れにより高い人気が背景になるが、経済実績が低迷すれば、あるいは連立を組む公明党が反対すれば法案審議が進まない可能性がある。


米軍部隊への影響は

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日本による集団的自衛権の見直しは当然日本周辺の米軍部隊
にも影響を及ぼす。米本土防衛に日本が支援することになれば、弾道ミサイル防衛で両国間協力はこれまで以上に強固になろう。現在両国はイージスレーダーシステムとSM-3迎撃ミサイルを装備した巡洋艦、駆逐艦6隻ほど日本周辺に展開していいるが、共同指揮命令機能により反応を短縮化し、無駄をはぶくことができる。

両国の陸海空部隊は共同訓練こそ実施しているが、運用は自国の指揮命令のもと別個になっている。戦術、兵站で高度の共通度を維持しているが、日本の法体系ではこれ以上の協力はできないことになっている。

そこで集団自衛として日本あるいは米国領土の防衛を目的として合同指揮命令系統を両国が整備することが許されよう。その根拠となる法的枠組みが早期に実現する可能性が高まっている。

ただし集団的自衛問題は安全保障関連の改革の一つにすぎない。安倍首相と自民党はその実施に前向きだ。最終目的は先制攻撃の実施能力及び自衛隊に在外日本国民の保護を認めることで自衛隊を軍事力に「正常進化」させ他国の国軍と同様に行動できるようにするのことである。今回の集団的自衛権を安倍首相が実現させれば、さらに追加的な変更が実現する可能性が出るだろう。

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カイル・ミゾカミは日本含むアジア関連の国防安全保障記者。Japan Security Watch, Asia Security Watch、War Is Boringの各ブログを運営。またMedium, The Atlantic.com, Salon, The Japan Times, The Diplomatの各誌(紙)に寄稿。

2014年5月15日木曜日

下院軍事委員会がペンタゴン提案を否決、ジョージ・ワシントン保持、A-10維持へ

米下院が国防支出削減のため考えた空母、A-10の削減などのペンタゴン案を拒絶しています。ペンタゴンとしてはあれやこれやと削っていかないと強制削減になるので仕方なく作成した案のはずですが、このままでいいのでしょうか。ジョージ・ワシントンンの運用が延長となっても、核燃料交換は日本で行えないので、ロナルド・レーガンへの交替は予定通り実現するのではないでしょうか。


HASC Votes Unanimously to Keep George Washington Carrier, Preserves Air Force A-10

USNI News By: Carlo Muñoz
Published: May 8, 2014 10:55 AM
Updated: May 8, 2014 10:55 AM
USS George Washington (CVN-73) and its strike group in 2013. The House voted to refuel the carrier rather than decommission the ship. US Navy Photo
USSjジョージ・ワシントン (CVN-73)と打撃グループ(写真は2013年撮影) 下院は同艦の核燃料再補給を議決し、早期退役と言う海軍提案を受け入れなかった。US Navy Photo



米下院の国防関連議員が大型装備の削減を伴うペンタゴン予算案に反対の意思を表明した。

否決された案は6,000億ドル相当で下院軍事委員会が先週火曜日に承認したパッケージの一部で、総額4,960億ドルは基礎分として確保、さらに800億ドルをアフガニスタン等での戦闘継続用に確保する内容だ。委員会原案の国防予算案は61対0の全会一致で承認された。

予算案の一部として委員会はUSSジョージ・ワシントン(CVN-73)の核燃料補給と耐用年数の20年間延長を承認したことで海軍が提案した空母11隻体制の10隻に縮小案は拒否した。

ランディ・フォーブス下院議員Rep. Randy Forbes (共、ヴァージニア州)が先頭に立ち、ジョージ・ワシントンの復活を図った。同艦退役は合衆国法に反する、なぜなら空母11隻体制の維持が法律で求められているから、と言うのが同議員の主張だ。

海軍が同艦退役を持ち出したのは予算強制削減に伴う予算規模縮小の目標達成のためだった。海軍案を支持する向きは今日の戦場における空母の意義は大幅に減少しており、空母は冷戦時代の遺産にすぎないと主張していた。

にもかかわらず、海軍提案は議会の強硬な反対に直面した格好で、オバマ政権としてもアジア太平洋地区で米軍のプレゼンスを大幅に拡大する案へも影響が出ることで反対の姿勢だ。

An A-10 returning from a training mission on Jan. 11, 2014. US Air Force Photo
An A-10 returning from a training mission on Jan. 11, 2014. US Air Force Photo


空母以外に下院議員は空軍のA-10攻撃機を予算削減の対象から外す議決をしている。A-10はベトナム戦争以降の近接航空支援(CAS)作戦の標準機種として議会にも相当の支持者がいる。

しかし空軍上層部はF-35ライトニングII共用打撃戦闘機(JSF)の配備が始まればCAS任務の実施も可能となり、A-10を維持する費用を考慮すると同機を退役させる時期が来たと判断した。

先週の評決に先立ち、下院軍事審議会主幹のバック・マケオン議員Rep. Buck McKeon (共、カリフォーニア州)からA-10の維持を求める妥協案が出たが、機体を長期保管状態に置くという内容だった。しかし、ボブ・ビショップ議員Rep. Rob Bishop(共、ユタ州)から同機を無期限に飛行可能に維持すべしとし、妥協案を葬ってしまった。

ジョージ・ワシントンとA-10は全廃を免れたが、巡洋艦11隻をモスボール保存する海軍案を覆す努力は無視された格好だ。
USS Cape St. George (CG-71) approaches Naval Base San Diego. US Navy Photo
USS Cape St. George (CG-71) approaches Naval Base San Diego. US Navy Photo


下院ではフォーブス議員提案によるタイコンデロガ級(CG-47)およびドック型上陸強襲艦(LSD)三隻の退役関連予算確保の阻止を求める動きを否決した。承認されれば海軍には巡洋艦22隻とLSD12隻しか残らないはずだった。
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そうなると各艦の退役で想定していた資金は逆に保持を続ける艦艇の維持管理、改修に必要となる。
 

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カルロ・ムニョス
フリーランス国防・安全保障専門記者でワシントンDC在住。上陸作戦、無人機戦、特殊作戦、対テロ作戦、情報収集に関心あり、国防総省や各軍で取材。


2014年5月13日火曜日

イラン製RQ-170は実機ではない



Iranian Copy of U.S. Unamnned Stealth Aircraft is a Fake

USNI News By: Dave Majumdar
Published: May 12, 2014 4:37 PM
Updated: May 12, 2014 4:39 PM
So-called Iranian version of the RQ-170. Iran claims it was able to reverse engineer the stealthy unmanned aerial vehicle. FARS News Service Photo
イランがRQ-170をリバースエンジニアリングしたと主張する機体。 FARS News Service Photo



イランがロッキード・マーティンRQ-170センティネル無人機からリバースエンジニアリングしたと主張する機体はモックアップにすぎない、と業界筋がUSNI Newsに伝えている。
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イラン国営ファルス通信がイスラム革命防衛隊がステルスRQ-170を改装した機体をテヘランの航空宇宙展示会で公開中と配信している。
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ただし米国製機体と違うのは、イランのセンティネルは武装しており、米海軍艦艇を攻撃すると言っている点だ。ただしセンティネルの詳細を知る筋はイランのコピー機はモックアップだとしている。
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「ファイバーグラス加工技術は向上していますね。作動可能なコピーなのか詳細なコピーにせよ、ランディングギアまで全く同じものにする必要はなかったはずです。F-5やその他余剰部品を使えばよかったはずです」

今回イランがモックアップを作るのに参考としたのは2011年12月4日に同国内に墜落したRQ-170 で、同機は中央情報局の情報集ミッションに従事していた。バラク・オバマ大統領は機体返還を要請していた。

An artist's concept
本物のRQ-170

イランからはサイバー攻撃でRQ-170を軍が奪取したとの主張が出ていたが、米側は通信が途絶したことで機体が墜落したと説明していた。
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その後、米側からイランの主張にも一部事実が含まれていることが示されている。同筋によるとイランがRQ-170のデータリンクを妨害し、同機を静かに着陸させる能力を有していた可能性が示されているという。■



2014年5月11日日曜日

韓国、北朝鮮、第七艦隊の戦力バランスはどうなっているか


日本の安全保障を考えると休火山のような朝鮮半島の情勢にはいつも関心を示しておく必要があります。今回は関連する三カ国の海軍兵力を海軍協会が紹介していますのでお伝えします。


Two Koreas, Three Navies

USNI News By: Kyle Mizokami
Published: May 8, 2014 3:25 PM
Updated: May 8, 2014 3:25 PM


朝鮮戦争(1950年―53年)は休戦協定により終結したが、平和条約は結ばれておらず、三カ国(韓国、北朝鮮、米国)は技術的に戦闘状態にある。朝鮮半島であらたな軍事対立が発生すれば、再活性化された韓国海軍、老朽化が進み弱体化した北朝鮮海軍、に加わり弾道ミサイル防衛能力を有する米海軍が関与することになる。

  1. 朝鮮半島をめぐる海軍力の均衡は韓国と米国に移っており、韓国の産業基盤により大型の建艦が次々に実現している。同時に北朝鮮は経済衰退により200トン以上の艦船は建造不可能になっている。

  1. 南北朝鮮のめざす目標は異なっており、韓国経済は海上交通路の確保が不可欠で、その結果韓国海軍 (ROKN)は大型ハイテク艦船で海洋海軍をめざしている。一方、ずっと小規模な北朝鮮の人民軍海軍(KPN)のミッションは、現政権を外部からの攻撃より防衛することだ。そのため、北朝鮮海軍は小型かつローテクの警備艇を多数建造して、南側に非対称戦を求めている。

  1. その背景に巨大な存在を示すのが米第七艦隊であり、その威力は南北朝鮮の規模をはるかに超えている。日本に本拠地を構える同艦隊は空と海で戦力を投射し、地域大で弾道ミサイル防衛を提供する能力を有している。

韓国海軍(ROKN)
Naval jack of Republic of Korea Navy
Naval jack of Republic of Korea Navy

  1. 韓国海軍は規模を拡大中で、国内の造船産業を活用し小型戦闘艦艇から大型ヘリコプター搭載艦まで進化してきた。ROKNは海軍戦力として重要な存在になっており、朝鮮半島を超えてより広範なアジア太平洋にも戦力を投射する能力を有しているが、有事の際は船舶航路の確保、防空、機雷対応、後方確保ならびに韓国海兵隊の支援が任務となろう。

  1. ROKNの規模は人員68千名、艦船120隻、航空機70機で、隻数では北朝鮮を下回るが、トン数では上だ。組織構造は米海軍と類似し、艦隊三つを作戦部長が統括している。長距離、国外作戦運用は新設の戦略作戦行動艦隊Strategic Maneuver Fleetが行う。

  1. 以前は旧米海軍アレン・M・サムナー級、ギアリング級の駆逐艦を運用していた。国産水上艦の一号は蔚山級フリゲートで1980年に進水している。その後の韓国海軍艦艇はすべて国産艦船。

ROKS Sejong the Great (DDG-991) in 2012. US Navy Photo
ROKS Sejong the Great (DDG-991) in 2012. US Navy Photo

  1. 戦力構成は駆逐艦12隻(うち三隻は世宗大王Sejong the Great 級誘導ミサイル駆逐艦)であり、世宗大王級にはSPY-1Dイージスレーダーが搭載されており、ほぼ米国のアーレ―・バーク級に匹敵し、ハープーンまたはヘソン対艦ミサイル8発、発達型シースパローおよびSM-2MR防空ミサイル発射セル128、5インチ砲1、ゴールキーパー近接防衛兵器1、ローリングエアフレームミサイルシステム1、324mm魚雷発射管6およびスーパーリンクスASWヘリ2機を搭載する。

  1. ただし各艦はイージス弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与せずに建造されているので、弾道ミサイルの追尾はできても交戦は不可能。北朝鮮のミサイル脅威を考えるとこの点は実に興味深い。

  1. 次に汎用駆逐艦忠武公李舜臣 ROKS Chungmugong Yi Sun-Shin 級6隻があり、ヘソンミサイル8発、SM-2MRミサイル用垂直発射セル32、5インチ砲1、ゴールキーパーCIWS1、RAMシステム1、魚雷発射管6およびスーパーリンクスASWヘリ2機を搭載する。さらにイージスレーダー搭載駆逐艦6隻を2019年から2026年にかけて建造する。

  1. これより旧型の広開土大王Gwanggaeto the Great 級駆逐艦は三隻で終了している。初の国産駆逐艦としてシースパロー防空ミサイル16発、ハープーンミサイル8発、Oto-メララ5インチ砲1、ゲイトキーパー1、魚雷発射管6およびスーパーリンクスASWヘリ2機を搭載する。

Republic of Korea Ulsan-class frigate ROKS Seoul (FF-952) in 2011. US Navy Photo
Republic of Korea Ulsan-class frigate ROKS Seoul (FF-952) in 2011. US Navy Photo


  1. フリゲート戦力には蔚山Ulsan級9隻がある。1980年代から90年代にかけて建造された同級は武装は砲中心で76mmのOto-メララ方とハープーン8発、40mm連装砲4、30mm連装砲3を搭載。蔚山級は仁川Inchon級で交替される予定。建造中の仁川は2,000トンで広開土大王Gwanggaeto the Great 級駆逐艦の武装からシースパロー発射装備を省いたものを搭載する。

  1. 一時は多数を誇ったコルベット艦は退役の方向にある。浦項Pohang級21隻は1985年から建造が始まった。排水量950トンの同艦にはエクゾセあるいはハープーン2発、76mm砲1、30mm連装砲2、魚雷発射管6、機雷敷設2条を搭載。同級は漸次退役あるいは海外売却される。

  1. 大型警備艇としてチャムスリChamsuri (Dolphin) 級74隻があり、各113トンで34ノット走行が可能、40mmと20mm砲を搭載する。後継はコムスクドリGumdoksuri級20隻で440トンに拡大され、ヘソン対艦ミサイル4発、76mm砲1、40mm連装砲2を搭載。

  1. 1990年代から9隻のドイツ製タイプ209潜水艦部隊を維持している。排水量1,100トンの同級は潜水時11ノット、浮上時22ノット航行が可能で、50日間の作戦が可能。SUT Mod.2魚雷または潜水艦発射パープーンを搭載する。

ROKN Type-209 submarine
ROKN Type-209 submarine
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  1. これにタイプ214潜水艦9隻が加わる。ドイツによる技術援助のもと韓国が建造した同級は209級より70パーセント大型化しているが、性能はほぼ同一。214級には非大気依存型推進を搭載。インドネシアが建造元の大宇に三隻を発注しており、2018年に引き渡し予定だ。

  1. 上陸作戦能力は独島級Dokdoヘリコプター空母三隻の建造で大幅に戦力増強される。独島級は排水量13,200トンで全通型飛行甲板、昇降機2、ドック型格納庫を有する。UH-60 ブラックホークヘリ10機と国産LSF-IIホバークラフト2隻を運用する。(後者は米海軍のLCACと外観上同一)兵員は700名、トラック10台、戦車6両、AAV6両、榴弾砲3を搭載可能。このうち完成したのは独島だけで、二番艦は予算計上済み、三番艦は計画中だ。

  1. 韓国海兵隊(ROKMC)は兵員2万5千名、二個師団と一個旅団編成だ。師団の構成は米海兵隊に類似し、歩兵連隊3、砲兵連隊1、戦車大隊、強襲上陸大隊1で成り立つ。AAV7A1強襲上陸車両124台、K1A1戦車50両、国産K-9ととKH-179榴弾砲が支援する。

北朝鮮人民軍海軍(KPN)

  1. 北朝鮮人民軍海軍(KPN)は約46千名420隻体制で、沿岸用潜水艦から港湾警備艇まで保有している。韓国海軍との最大の相違点はKPNは沿岸海軍の域を脱していないことだ。
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  1. 司令部はピョンヤンにあり、黄海艦隊(西海岸)と東海艦隊(東海岸)を統括している。有事の際は上陸作戦、情報集活動の支援、機雷敷設、沿岸防衛、後方治安維持の任務が与えられよう。

  1. 経済が不振な北朝鮮は海軍機能を小型警備艇、ミニ潜水艦、情報収集艦の三つに集約している。経済衰退で北朝鮮の海軍は従来の価値観では弱体化しているが、中核任務の遂行では今でも能力を保持しているといえる。
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  1. 北朝鮮は韓国海軍に対し、非対称的作戦を実行することで自国海軍の能力を最大限活用している。艦船は小口径銃砲やロケット砲で武装してあるが、小規模の戦隊で韓国海軍との軍事衝突を起こしている。韓国の天安Cheonan がミニ潜水艦により沈没した2010年の事件がこの例である。韓国の大型艦はKPNに有効に対応できなくなっている。

Soviet OSA-1 missile boat similar to the type used by the North Korean navy
Soviet OSA-1 missile boat similar to the type used by the North Korean navy
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  1. 小型艦艇ではまずソジュSoju級誘導ミサイル戦闘艇10隻がある。これは1950年代のソ連製Osa-1のコピーで、SS-N-2Aスティックス対艦ミサイル4発を搭載する。200トン超の哨戒艇は10隻に満たず、多くは40トンから80トンの範囲だ。武装には85mm砲、57mmないし30mm砲、重機関銃、BM-21ロケット発射装置を対艦用途に改造したものもある。大部分が30年以上前の装備で昨年だけで2隻を演習中に喪失したといわれる。

  1. 潜水艦はミニ潜水艦(米情報部のコードネームはサンオ((サメ))Sang-o級)が中心。同級は295トンで水上7ノット潜水時8ノットで航行可能。魚雷4本と機雷16個を搭載し、国家情報機関の偵察局工作員の侵入に使われている。

Sang-o class North Korean submarine in 1996
Sang-o class North Korean submarine in 1996

  1. そのうち一隻が1996年の光陵事件 “Gangneung incident” に関与し、工作員15名が韓国江原道江陵に上陸している。艦は海岸近くで座礁して、工作員は乗員11名を殺害し陸路北朝鮮に帰還しようとした。13名が韓国軍の追跡を受けて射殺され、1名捕獲、もう一人は北朝鮮へ帰国したものと思われる。

  1. サンオ型潜水艦は38隻配備されている。新型は改良を加えサンオII級と呼ばれ、2011年に配備されている。船体が若干延長されており、潜航時13ノットで航行できる。

  1. 10隻のヨノYono-級ミニ潜水艦は潜水時130トンで2010年の韓国海軍天安の沈没はこの級の潜水艦がCHT-02D大型聴音型ホーミング魚雷を発射したためとみられる。

  1. 漁船形状の「母船」が複数型あり、韓国と日本を対象とした極秘任務に投入されている。総数は不明だが、12隻が清津を母港としており、日本向け工作活動に関与している。総数は30隻を超えているとみられる。

  1. この母船から運用される各種装置にはダイバー運搬用の半潜水型や潜水艇がある。大部分は国内調達で対レーダー用のステルス塗装がされているものがある。母船が付近まで同行し、侵入用の機材が韓国あるいは日本の領海に入るまで見守る。
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  1. 2001年12月には身元不明の漁船が日本の情報機関により探知され、北朝鮮工作船である疑いが出た。海上保安庁が追跡し、警告射撃をしたところ銃撃戦となり、北朝鮮船が火災を発生した。乗組員15名全員が死亡したとみられ、日本の海上保安官3名が負傷した。

Kongbang hovercraft
Kongbang hovercraft

  1. 最後にコンバンII・IIKongbang II/III I級ホバークラフトがある。40名の兵員を40ノットから50ノットで輸送できる。北朝鮮が保有する艦艇では最新型となる同級にはレーダー、ガトリング銃、対空ミサイルが搭載されている。一部には対艦巡航ミサイルや57mm砲や30mm自動機関砲も搭載されている。北朝鮮はホバークラフト130隻を保有しており、人民軍年鑑では大多数がコンバンIIないしIII級であるとしている。

米第七艦隊
7th fleet logo

  1. 第七艦隊は東アジアにおける合衆国の象徴であり、横須賀に司令部を置き空母打撃集団1をUSSジョージ・ワシントンおよび遠征打撃集団(ESG)1を擁するUSSボノム・リシャールを中心に構成している。機雷対抗部隊に水雷艇6隻があり、グアム潜水艦部隊の原子力攻撃潜水艦3隻を指揮している。

  1. 朝鮮半島で有事発生の際に第七艦隊は米韓地上軍へ航空支援を提供するとともに、制空権確立の上、対地攻撃を行うだろう。上陸部隊は沖縄駐留の海兵隊部隊を前線後方に揚陸させるだろう。原子力潜水艦は情報収集任務とともに巡航ミサイル攻撃を行うだろう。

  1. 北朝鮮および中国の弾道ミサイルは米韓両軍にとってアジア全域にわたる脅威となっており、そのため弾道ミサイル防衛(BMD)が第七艦隊の任務で高い優先順位を与えられている。韓国にはBMD能力を有する艦船はないが、米太平洋艦隊全体では16隻がBMD対応可能だ。また横須賀に配備中の第七艦隊艦艇では大部分がBMD能力を有している。巡洋艦USSシャイロー、駆逐艦ステサム、カーティス・ウィルバー、ジョン・S・マケイン、フィッツジェラルド、ラッセンの各艦だ。

  1. 今年4月にはチャック・ヘイゲル国防長官からさらに2隻のBMD対応艦艇を横須賀へ2017年までに前方配備する。■


2014年5月9日金曜日

次期大統領専用ヘリにシコルスキーS-92が選定されました


Sikorsky Wins $1.24 Billion Contract for Presidential Helo

USNI News By: Dave Majumdar
Published: May 7, 2014 5:05 PM
Updated: May 7, 2014 5:05 PM
An artist’s rendering of Sikorsky’s bid for the VXX presidential helicopter. Sikorsky Photo
An artist’s rendering of Sikorsky’s bid for the VXX presidential helicopter. Sikorsky Photo

米海軍はVXX次期大統領専用ヘリコプターにシコルスキーS-92を選定した。契約規模は12.4億ドルとペンタゴンの契約広報で報じている。
  1. テスト用6機および関連支援設備、政府指定搭載システムとの統合、訓練システムとして飛行訓練装置および保守点検訓練装置、兵站、技術全般、試験評価での支援を含む、と発表があった。
  2. 最終的な調達規模は運用機材21機とテスト用2機。
  3. VXXはシコルスキーS-92で老朽化進む同社製VH-3とVH-60のVIP仕様各機と交代させる内容だが、同社の一社入札に終わった。
  4. 2013年7月時点でアグスタ・ウェゥトランドAW101大型ヘリコプターが脱落した。ボーイングはCH-47チヌークとV-22オスプレイのどちらも提案しなかった。
  5. 一社入札になったが、海軍は法的には標準手順を守る中でシコルスキーが正式に採択されたことで、今後の展開は加速するとみられる。海軍はテスト機材一号機の受領を2016年に期待している。初期作戦能力獲得は2020年末の予定で、完全稼働は2022年となる。.
  6. 2009年にもVXX入札があり、ロッキード・マーティンとアグスタ・ウェストランドの合同提案が採択されたものの、費用超過のため取り消しとなり、これが2008年の大統領選挙でも争点となった経緯がある。■


2014年5月8日木曜日

南シナ海で何が起きているのか ベトナム、中国の対立



Hanoi: Chinese Ships Rammed Vietnamese Patrol Boats in Escalating Oilrig Dispute

USNI News By: Sam LaGrone
Published: May 7, 2014 11:29 AM
Updated: May 7, 2014 11:50 AM
Chinese ships firing water cannons at Vietnamese patrol vessels. Vietnam National Border Committee Photo
ベトナム艦船に対して放水する中国船。ベトナム国家国境委員会発表

ベトナムが自国警備艇が中国艦船から海上で衝突されたと抗議している。発生個所は中国の10億ドルの価値がある海上石油掘削施設の周囲で、ベトナムと中国がそれぞれ排他的経済水域と主張しているもの。

「ベトナムの漁業監視部隊はわが方の主権と管轄権を守り、中国側に海域からの退去を求めた」とベトナム国家国境委員会副委員長チャン・ヅイ・ハイTran Duy Hai, deputy chairman of the Vietnam National Border Committeeが7日のハノイでの記者会見で発表している。「ベトナムはこれまで自生してきたが、中国艦船が今後もベトナム船舶に衝突をしてくれば、当方も自衛手段を取らざるを得なくなる」

A Chinese ship ramming a Vietnamese patrol vessel on May 3, 2014. Vietnam National Border Committee Photo
ベトナム警備艇に衝突してくる中国船(5月3日) ベトナム国家国境委員会発表
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また、中国海上警察の複数艦船がベトナム監視艇複数に放水している画像がベトナム国家国境委員会から公開された。
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「わが方の海上警察および漁業保護部隊はこれまで極限まで自制しており、今後も同海域にとどまる」とベトナム沿岸警備隊副指令ゴ・ゴ・チューNgo Ngoc Thuが記者会見で述べている。「ただもし(中国船が)引き続き衝突を試みれば、当方も同様の方法で自衛策をとる」

ベトナムによれば中国は石油掘削施設の周囲に80隻を展開中という。掘削場所はベトナム本土から120カイリの位置にある。問題の海上原油掘削機は海洋石油981 Haiyang Shiyou 981の名称で、中国海洋石油China National Offshore Oil Corporation (CNOOC) が所有しており、5月1日にパラセル諸島近くに移動してきた。この海域はベトナムと中国がそれぞれ領有を主張している。

今月5日にベトナムは中国側の動きを「不法かつ無効」としたが、中国は自国の権利とし保護すると主張。「この施設による石油掘削行為は中国領海内で行われており、ベトナム側による妨害工作は中国の主権に違反するもの」と中国外務省は7日に語っている。「掘削は完全に合法であり、ベトナム側には一切の妨害行動を中止するよう求める」(Hua Chuning報道官、7日)
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これに対し米国務省は6日に状況を慎重に見守る姿勢を見せた。
「最近の南シナ海における緊張を見ると、中国が問題が発生している海域で石油掘削を実施する決定をしたことは挑発行為そのものであり、地域内の平和と安定に何ら貢献するものではない」と報道官ジェン・サキが発表している。■


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コメント 中国はなぜこの時期にこんな行動に出たのでしょうか。民間企業の海域進出に妨害が出ればいよいよ次は海軍の出動となるのでしょうね。ところで思い返せば覇権主義を最も非難していたのが中国だったのですが、時がかわればかつての姿勢など振り返る余裕もないのでしょうか。

トルコがF-35A導入で正式契約に調印



Turkey Approves Buy Of First Two F-35As

aviationweek.com May 6, 2014Amy Butler | AWIN First
USAF
トルコがF-35A2機の調達契約に調印した。
トルコが導入するのはブロック3F仕様で調印は5月6日。トルコは1999年から同機の共同開発国の一員。トルコの生産分担は機体中央部分だ。
トルコ政府によりプラット&ホイットニーF135エンジンの最終組立点検および保守管理用施設の国内建設も承認され、「トルコ企業及びトルコ空軍施設」を活用し、F-35使用国すべてに施設を開放するという。
トルコのF-35導入規模は100機で、今回の2機は低率初期生産(LRIP)では第10ロットの機材となる。
小規模とはいえ、今回の動きはF-35が着実に支持を得つつあるもう一つの事例となった。米空軍のクリストファー・ボグデン中将(F-35開発最高責任者)は参加各国の参画とそのタイミングが全体に影響すると繰り返し発言している。トルコの例では以前にLRIPからの調達を遅らすと決定したため一機あたり百万ドル分の価格上昇が同じロット内の全機に発生している。■



2014年5月4日日曜日

米比防衛協定の中身と対中国戦略の枠組みの現状

中国は相手国の実力、姿勢で対応をそれぞれ使い分けており、フィリピンは完全になめられているとしか思えません。経済が上向きとはいえ、まだまだ余裕のないフィリピンが米国や日本に期待するものが大きいのは当然です。しかし国内憲法の縛りがある中、今回の合意内容はなかなかうまくできているようです。そんなフィリピンの姿勢を西側諸国が支援していけば、中国はいっそう頑なに包囲されていると感じ、予想外の行動に出るかもしれませんね。フィリピンの対応は隣国のベトナムやマレーシアも注視しているはずです。


New Defense Agreement Between The Philippines and U.S.

USNI News By: Armando J. Heredia
Published: April 29, 2014 2:43 PM
Updated: April 29, 2014 4:06 PM
U.S. Navy and Philippine military officials during the humanitarian aid and disaster relief operation in Tacloban in 2013. US Navy Photo
U.S. Navy and Philippine military officials during the humanitarian aid and disaster relief operation in Tacloban in 2013. US Navy Photo


フィリピン国防相ヴォルテール・ガズミン Defense Secretary Voltaire Gazmin と駐比米国大使フィリップ・ゴールドバーグ Philip Goldberg が4月28日に歴史的文書に署名し、米軍が同国に復帰することになった。

防衛協力強化合意書Enhanced Defense Cooperation Agreement (EDCA)は米軍によるフィリピン国内の基地施設利用に道を開く枠組みであり、戦闘だけでなく人道援助・自然災害援助 humanitarian assistance and disaster relief (HADR) 任務用資材の事前集積も可能となる。

1991年に基地使用料の値上げ更新を求める声が高い中50年の基地利用協定が失効して米軍部隊は撤退している。そこに輪をかけるようにルソン島ピナツボ火山が噴火し、基地施設が火山灰や泥流に覆われた。天然の良港であるスービック海軍基地と修理施設を保持したいという声もあったが、冷戦は終結に向かい、ジョージ・H・W・ブッシュ政権は同国残留に経済価値を見いだせなかった。

一転して現在は中国が海上領有権を巡り東南アジア各国と紛糾するなか、米国の政策目標は地域内安定の維持をめざし、太平洋地区に軸足を移すというものだが、かつてとは地域内の力の均衡が変化している。

中国が狙っているのは派遣拡張をねらう九段線Nine-Dash Line 構想でフィリピンを最初の事例とすることだ。少しずつフィリピンの排他的経済水域に中国海上警察と人民解放軍海軍(PLAN)が進出しており、一部は実力占拠されている。

一方フィリピンは長年にわたり対テロ作戦など国内治安維持活動に忙殺されており、通常戦力は削減してきたため、軍事対立は避けてきたのが現状だ。ベニグノ・アキノ政権は強力に軍と沿岸警備隊の装備近代化を図ろうとしているがまだ効果が出ていない。このため従来からの同盟各国都の連携を求めている。

協定書では目標を米・比共同軍事作戦の強化としており、相互運用、フィリピン国軍の近代化を目指した人材育成、周辺部におけるフィリピン国軍の強化、海洋安全保障と海洋領土の保全を掲げている。

EDCAにより米比両国は共同演習バリカタン(協力)の定期的実施、台風被害でのHADR業務、米特殊作戦部隊による助言が可能となる。

ECDAと1991年時点の協定との重要な相違点はフィリピン憲法を尊重する精神が盛り込まれたことで、フィリピンは米国による活動全般ならびに米軍の定期的移動に同意している。フィリピンは国内の各基地を完全に掌握し、米国以外の同盟国にも提供できる。

今回の協定で中国の立場は大きく制約される。対象施設はすべてフィリピン国軍の基地としたのは同国憲法の制約を配慮したもの。

今後発生する新規施設建設作業は米国あるいはフィリピンが実施するが、米国が資金・建設工法などの負担をする。さらに戦闘用あるいはHADR用資材の事前集積はフィリピン国軍も利用可能とされる。(弾薬、特殊作戦装備、大規模作戦用兵装等)

EDCAはフィリピンの外国軍駐留協定の精神と合致しており、部隊は定期的に異動するので常駐ではないとされる。さらに相互防衛委員会Mutual Defense Board (MDB)で軍事面を、さらに安全保障委員会 Security Engagement Board (SEB) でそのほかすべての案件を取り扱うことになる。

協定書では基地名称を明記していないが、米軍がこれまで利用していた地点に戻る可能性が高く、スービック湾、旧海軍航空基地クビポイント、旧クラーク空軍基地になるだろう。新規設備により米軍の立場が強化されるが、さらにパラワン諸島ではオイスターベイにパトロール基地を設置しその近郊のブルックスポイントに海兵隊を駐留させる案が出ている。後者の二施設が利用可能となると紛糾の現場であるスラウェシ海やスプラトリー諸島へ直接アクセスが可能となる。

ECDA関連でフィリピン国軍は旧米沿岸警備隊のハミルトン級カッターの三隻目を取得したい意向で、フィリピン西部の海域の長期間パトロールに投入したいとする

同協定の非排他内容としてフィリピンは同国内施設をASEANやアジア域内の各国に提供する意向が出ている。すでに韓国から軽量攻撃ジェット機を調達しており、日本は老朽化した沿岸警備隊艦船を新造40メートル長の哨戒艇に更新する資金を長期低利で提供する。

フィリピンは国際法廷の場で自国の排他的経済水域の認知を求めている。4千ページ近くの文書が国連仲裁裁判所に3月31日に提出されている。国際海洋裁判所(ITLOS、在ハンブルグ)が提訴を精査中で次の段階に進むべきかを決定する。一方で、中国はかたくなに仲裁手続きを拒否しており、提訴で二国間関係が危機に陥っていると逆に非難している。■


☆ 海洋監視技術でJAXA技術が防衛分野で貢献できる日が来そうです

意外に広がりを示しているJAXAの活動にあらためて注目です。海洋監視はレーダー観測技術の応用で当然考えていっていい内容ですが、紹介の仕方自体で妙なアレルギー反応が市井から出ても困りますね。



L-band SAR Satellite May Help JAXA’s New Military Job

JAXA may get ocean-surveillance job with its new space-law assignments
aviationweek.com May 1, 2014Frank Morring, Jr. and Bradley Perrett | Aviation Week & Space Technology
.日本の民生用宇宙機を軍事目的にも転用出来る道が新しい宇宙利用政策で可能となった。写真はH-IIAロケットにGPMミッションを搭載し、打ち上げを待つJAXA種子島施設。
Bill Ingalls/NASA
JAXA宇宙航空研究開発機構が開発した衛星が宇宙基本法改正により防衛機能が付与される。ALOS-2(域観測技術衛星だいち2号)の打ち上げが今月に行われるのが、この先行事例となる。海上自衛隊は衛星データから域内の艦船追尾が可能となる。
JAXA理事長奥村直樹はJAXAの三つの課題の最初に「安全保障と災害対応の準備」を掲げており、民生用宇宙機への投資見返りを増やそうとしている。.
JAXAは引き続き宇宙科学研究で日本が先頭に立つことを掲げているが、防衛分野はこれまで見られなかったものである。ただ、JAXAは2005年に宇宙偵察衛星4基を打ち上げている。
日本は米戦略司令部と非公開の宇宙状況認識 space situational awareness (SSA) 情報の交換を外務省経由で昨年末に合意していることもあり、JAXA理事長の発言になっている。「JAXAの収集情報は外務省へ提供しています。新たに軍事衛星を開発するという話ではなく、現有の機材を利用して情報を提供するものです」(奥村理事長)
ALOS-2レーダー衛星により海上自衛隊は艦船の追尾が可能となる。 Credit: JAXA Concept


検討しているのは海洋監視機能だ。奥村理事長は Aviation Week の取材で「民生用宇宙技術でこれまで開発してきたものをSSAにも活用していく」と発言している。「防衛用の利用は防衛省がとり行います」
同理事長は海洋監視への利用はまだ決定されたわけではないと強調する。「今のところはSSAだけですが、利用構想自体は秘匿内容ではありません」
JAXAが海洋監視用途を実施する場合はALOS-2(だいち2号)を利用するはずである。JAXAはNASAと共同で全球降水観測 Global Precipitation Mission (GPM) による南北緯度65度内の降水降雪観測を宇宙から行なっている。
ALOS-2打ち上げはH-IIAロケットにより種子島から5月24日の予定だ。同衛星は三菱電機が制作しており、Lバンドの合成開口レーダー(SAR)を搭載することで本来の任務である陸地観測の解像度を上げること以外に海洋監視機能が実現する。
冷戦期にはソ連製の宇宙機がSARで艦船航行を監視していた。これは航跡を認識して航行中の艦船を識別するものであった。ALOS-2は昼夜を問わず解像度1から3メートルで50ないし350キロメートルの航跡を識別できる。またSpaise2という自動識別装置も搭載しており、艦船が搭載するAIS船舶自動識別とSAR画像を組み合わせ船舶名称を特定し、追尾することができる。
実現すれば中国や北朝鮮の脅威に日本が直面している現状で、JAXAはより大きな防衛への役割を果たすことになるが、宇宙利用の大きな目標はJAXA技術・機材で日本経済を活性化することにある。
「新たに事業推進機能を立ち上げ、、これまで宇宙とは縁がなかった産業界を支援し、宇宙で実験や事業を展開したい企業を支援できます」(奥村理事長)
この新組織はNASAが立ち上げた国際宇宙ステーションの民生利用を促進するための宇宙科学促進センターCenter for the Advancement of Science in Space (Casis)と類似している。JAXAはISSでも最大規模の加圧モジュールを運用しており、各社に同施設の利用を勧奨している。
利用例にヤクルトがあり、同社は抗がん薬剤の開発を進めている。「ヤクルトとの共同開発研究で宇宙飛行士の免疫力低下防止策がわかれば将来の宇宙旅行の範囲がひろがります」(奥村理事長)JAXAではきぼう実験棟でタンパク質結晶化を低重力下で行い地上より簡単に薬剤開発を進められるという。
さらに新型打ち上げ機H-XとしてH-IIIの開発も進めている。エンジンはLE-7の改良型で初打ち上げを2020年としている。これまでのHロケットでは打ち上げコストの関係から不可能だった商用打ち上げビジネスへの参入を期待し、奥村理事長もスペースXのファルコン9のような低コスト打ち上げ機には対抗できていない現状を認めている。
「これまでは衛星打ち上げやロケット開発で事業成果を評価してきましたが、今後は宇宙基本法が求める三分野でどれだけ貢献できたかで評価をうけるでしょうね」■