2014年9月20日土曜日

ロシア、中国の新型爆撃機開発の現況


西側との対決姿勢を示すロシアが軍事装備の拡充を図っているのは周知のとおりですが、伝統的な長距離航空戦力でも進展が生まれつつあるようです。中国はもっと秘密のベールに覆われていますが、空母と合わせ長距離爆撃機の開発を進めているのは間違いないようです。これに対し米空軍のLRS-Bが本当に開発できるのか、F-35で相当計画が狂っている各国の防空体制が中ロの新型機に対抗できるのか、今行われている投資が2020年代意向の航空戦力図を決定することになるのでしょうね。





Future Bombers Under Study In China And Russia

China may follow Russia in bomber developments
Sep 18, 2014Bill Sweetman and Richard D. Fisher | Aviation Week & Space Technology


Long-Range Plans
ラドゥガKh-101/-102ALCMは全長が大きく、Tu-95の爆弾倉に入りきらず主翼下パイロンに装着する。
VIA INTERNET

米空軍の長距離打撃爆撃機(LRS-B)開発が来年にも本格実施を目指す中、ロシア、中国も次期爆撃機を開発中。このうちロシアのPAK-DA(perspektivnyi aviatsionnyi kompleks dal’ney aviatsii、次期長距離航空システム)は1977年のツボレフTu-160以来となる新型爆撃機、他方、中国は初の国産爆撃機の実現を狙う。
  1. PAK-DAはユナイテッドエアクラフトUnited Aircraft Corp. (UAC) 傘下のツボレフが開発にあたる。ツボレフは第二次世界大戦終結後のロシア長距離爆撃機のほぼすべてを手がけてきた。開発の正式決定は2007年。新型爆撃機が登場するまで既存機種の改修が進められる。

  1. 亜音速全翼機あるいはブレンデッドウィング形式の機体にステルス性能を加えた案が2012年初頭に提出されている。実現すればロシア初の全方位高性能ステルス機となり、1997年就役のB-2と同等の基本性能を手に入れることになる。

  1. PAK-DA製造の最終決定は昨年末で、作業開始は2014年。UACにPAK-DAの設計、製造契約が交付され初飛行は2019年を予定。最終組み立てはUACのカザン Kazan 工場。2023年までに公試を終え、2023年から25年の間に就役、とロシア報道が伝える。エンジンはユナイテッドエンジンUnited Engine CorpのJSCクズネツォフ部門JSC KuznetsovがTu-160搭載のNK-32アフターバーナー付きターボファンを原型に開発する。

  1. それ以上のPAK-DA情報はほとんどないが、ロシア爆撃機部隊の構成やミッション内容から推測は可能だ。
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  1. 現有の長距離爆撃機部隊はTu-160(13機)、Tu-95MS(63機))と減衰中のTu-22Mバックファイヤーで構成。このうちTu-22M3は戦域レベルの陸上攻撃任務で小型だが使い勝手の良いスホイSu-34に切り替え中。

  1. Tu-160近代化改修を2020年までに完了しTu-160Mになるとロシア国防省が2012年に発表。Tu-95も改修を受けてTu-95MSM名称に変更している。ともに大規模な改修で新型レーダーや電子戦装備、計器・データ処理で改良を受けた。機体寿命の延長、エンジンの寿命も長くなった。2010年試算で80億ルーブル(220百万ドル)を2020年まで投入する。NK-32エンジンは2016年までに完成し、PAK-DAのエンジンの基礎となる。

  1. 両型とも長距離空中発射巡航ミサイル(ALCM)を搭載する。ロシアは二型式のALCMを開発中でタクティカルミサイル企業Tactical Missiles Corp.のラドゥガ事業部Raduga divisionが一手にとりくんでいる。このうちKh-555は通常弾頭だが80年代のKh-55核弾頭を改良し、慣性誘導、レーダー地形参照誘導、赤外線誘導を組み合わせる。

  1. これに対し新型で大型のKh-101/102(通常弾頭/核弾頭型)の生産が本格化しており、Tu-160は機体内部に12発、Tu-95MSは主翼下に計8発搭載する。ALCMでは最大で発射時重量は 5,300 lb.と推定。ターボファン動力であるのはKh-55と共通。ロシアの長距離巡航ミサイル在庫は850発。

  1. PAK-DA登場後も改修済み旧型爆撃機は10年ないし15年使用される見込みだ。一方PAK-DAは敵地侵攻任務に投入されるだろう。

  1. 新型爆撃機のエンジンをNK-32原型に開発するとの発表があったこと、ロシア爆撃機は空中給油への依存度が米国より低いことから、機体寸法は大型と推測できる。NK-32は3軸・低バイパス比エンジンでミリタリー推力は31,000-lb、アフターバーナー使用時55,000-lb.。PAK-DA用はアフターバーナーを省き、バイパス比をわずかに上げる。エンジン4発だと重量200トンとなり、B-2およびLRS-Bの推定寸法を上回り兵装搭載量と航続距離が大きくなるだろう。

  1. これに対して中国も新型爆撃機を開発中と伝えられている。人民解放軍空軍 (Plaaf) と海軍航空隊(PLAN-AF)が今でもソ連時代のTu-16を使用し続けているため中国は世界クラスの戦略爆撃機の製造に真剣でないと思われがちだ。Tu-16は中国には1959年から導入され西安航空機 Xian Aircraft Corp. (XAC) が轟炸六型(爆撃機6型、H-6)として製造。ただし改良を加えつつ製造継続していることから長距離空軍力への中国の関心度が推し量られる。

  1. 中国政府、人民解放軍(PLA)双方も今後の爆撃機開発について何も語っていないが、漏れ伝わる情報を総合すると新型爆撃機が開発中なのは明らかだ。H-20の名称で2025年までに登場するとのアジア某国政府の情報もある。

  1. H-20の登場時期は中国が目指す二つの戦略目標と一貫性がある。まず「第一列島線」と呼ぶ日本、台湾、フィリピンを結ぶ線に米国が接近するのを拒否する役目が新型爆撃機に期待できる。二番目に兵力投射の手段となり、中国空母部隊を補完し揚陸能力を整備する海軍を助ける事になる。

  1. これまでも次世代爆撃機の噂は非公式な筋から流れていたが、ノースロップ・グラマンB-2がベルグラードで中国大使館を誤爆した1999年5月が開発開始の契機といわれる。中国がB-2情報をノースロップ・グラマン技術者ノシル・ゴワディア Noshir Gowadia からどれだけ入手したか不明だ。ゴワディアは2011年に軍事機密を中国に渡した罪で刑期32年の有罪判決を受けた。

  1. この新型爆撃機でも西安航空機が主契約企業となっる可能性が高い。ロシア、米国の新型機と同様にH-20も亜音速低探知性の「全翼機」形状となるだろう。
  1. 興味深い情報が人民解放軍の研究部門から出ている。中国報道ではPlaafのWu Guohui大佐(国防大学National Defense University 准教授)がステルス爆撃機が「国家の関心を再度呼び起こし」て「中国は爆撃機が弱体だったが今後は長距離打撃機開発をめざす」と発言しているのだ。
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  1. また同大学の准教授Fu Guangwenは2013年に中国の爆撃機開発の障害はエンジン、素材だという。一方で、新型機は第二列島線のグアム、南シナ海、インドを標的にし、ステルス性で侵入が容易になり、「情報対決」つまりサイバー電子戦に対応し、核・非核両用対応、と発言している。

  1. 新型爆撃機の設計は2008年に開始ずみとの報道が2014年1月にSina.comから出ている。報道では機体は全翼機形式で米西海岸が攻撃目標になる。

  1. 2013年にB-2に酷似した想像図が中国の技術報に出ている。2014年初めにはコウモリの翼形状のラジコン機がテストされている場面が流出している。中国が次世代軍用機の形式を真剣に検討中なのは明らかで、情報漏出は意図的な国内、海外向けだろう。

  1. このうち上記のラジコン機は長距離無人航空機 (UCAV) の想定かもしれず、中国が長距離無人攻撃機を開発している可能性を示す。メディアが大々的に全翼機「利剣」LiJian(瀋陽航空機 南昌Hongdu航空機共同開発)のデビューを2013年11月に報じている。ボーイングX-45Cと形状、寸法が酷似した利剣は両社から今後登場する大型UCAVの魁だろう。ロシア、米国に追随し西安航空機がH-20の無人機版を開発する可能性もある。

  1. また中国は超音速中距離爆撃機にも関心を示しているのが2013年に低視認性双発形状のモデル機が登場したことでうかがえる。実現すれば全長25メートルから30メートルで1950年代のコンヴェアB-58(西側では最大規模の超音速爆撃機)とほぼ同寸。しかし開発が進行中なのか不明で、過去の競作で不採択案なのか、予算がつかなかった案件なのか不詳。

  1. PAK-DAは合衆国内地点を目標とする戦略的野心作だが、中国の新型機が同様の想定とは考えにくい。とはいえ、長距離飛行し生存可能性高い機体で大量のミサイル搭載により中国の近隣地区の敵陸上基地や海軍部隊には大きな脅威になる。超音速ステルス戦闘機J-20の存在も考慮する必要がある。

  1. 一方でPLAはH-6新型の開発と既存各型改修も進めている。ロシアからTu-22M3購入を断られて、H-6の大幅改修に迫られた背景がある。
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  1. H-6Kはロシアが提供した推力26,500-lb.のUEC-サトゥルンD-30KP-2ターボファンを搭載し、1950年代のターボジェットから3割近く出力が増えている一方、高バイパス比 (2.24:1) で燃料消費効率が向上。戦闘行動半径は3,500 km と言われる。機首に新型レドームとし、電子光学式目標捕捉センサーを搭載。グラスコックピットに改装し、主翼下のパイロン6つは射程1,500-2,000-kmのCJ-10/KD-20 対地攻撃巡航ミサイルを搭載する。また精密誘導爆弾も中国国内企業4社が製造中で運用可能だ。

  1. 旧型H-6も改修中。空軍のH-6G三個連隊には新型超音速ラムジェット式YJ-12対艦ミサイルの配備が始まる。射程400 kmとみられる。さらに旧式のH-6MもCJ-10/KD-20 対地巡航ミサイル運用能力を付加されている。先出のアジア某国政府筋によるとPLAにはH-6が130機配備されているが、2020年には180機になるという。つまりH-6Kの生産が今後も続くということだ。

  1. PLA戦略爆撃部隊の将来は空中給油能力の整備に大きく左右される。今年3月から4月にかけてPlaafはイリューシンIl-76MD三機を取得してウクライナでIl-78給油機に改修している。各機には給油用ロシア製ドローグ・ホースシステム3組があり、旧式H-6U給油機(推定24機)は1組搭載で搭載燃料重量も小さいことから大きな進展になる。

  1. 将来は西安Y-20大型輸送機を改造した給油機も登場するだろう。ロシアとの間でワイドボディ輸送機開発の話もあり、この改装版になるかもしれない。
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  1. ただし今後の大型機へ対応するには給油効率を上げる必要があり、中国もフライングブーム給油方式の採用を検討するはずだ。2013年の学会発表として西工大 Northwest Polytechnical Universit yから北斗 Beidou 航法衛星の発信信号に光学システムを組み合わせホース・ドローグあるいはフライングブーム式の空中給油を自動制御する方法が提案されている。■



2014年9月19日金曜日

インド・ロシア共同開発で新型第五世代戦闘機開発へ

インドとロシアの第五世代戦闘機共同開発ですが、思惑通り進むのか興味津々ですね。
ロシアが狙うのはインドのエイビオニクス等高度技術のようですが、果たしてどうでしょうか。
交渉事ではタフそうな両国ですから途中で意見が衝突しそうな気もします。




Indo-Russian Jet Program Finally Moves Forward

Sep. 15, 2014 - 02:50PM   |  
By VIVEK RAGHUVANSHI   |   Comments
RUSSIA-AEROSPACE-MAKS-2013
第五世代戦闘機をロシアのT-50を基にインドとロシアが共同開発する。写真は2013年モスクワ上空を飛行する同型機。 (KIRILL KUDRYAVTSEV/ / AFP/Getty Images)
NEW DELHI — インドとロシアが第五世代戦闘航空機Fifth Generational Fighter Aircraft (FGFA) 共同開発で残っていた課題を解決したと在印ロシア外交筋が述べている。計画では200機を300億ドルで生産する。
  1. 課題がすべて解決したとインド国防省は認めておらず、両国間の作業分担率で合意できていなかった。
  2. ただナレンドラ・モディ首相Prime Minister Narendra Modi とウラジミール・プーチン大統領がこの問題を7月にブラジルで協議したことを外務省が認めており、FGFA事業の前進を確認していると消息筋が追加している。
  3. 2010年に初期設計合意がインド国営ヒンドゥスタン・アエロノーティクス・リミテド Hindustan Aeronautics Ltd. (HAL) とスホイ設計局の間で成立しており、FGFAを共同生産するとしていた。ただしこの最終版で生産を開始する予定だったが、インド空軍から設計案の承認が取れず、一方で両国の間で作業分担の合意が取れず棚上げになっていた。
  4. インドは分担率を25パーセント以上に引き上げる変更を求めている。両国は295百万ドルを投入ずみ。
  5. 上記ロシア外交官によればインドの作業比率はインド産業界の成熟に伴い40%まで増加し、高度技術の機体搭載が期待されるという。
  6. インドとロシアは今年末までに最終合意にサインする予定と外務省は説明している。ロシアもインド空軍の要求内容を認め、複座機体とすることを認めているといわれる。試作型は単座機となる。
  7. HALとスホイ設計局はシステム、サブシステムをそれぞれ整理中とHAL関係者が述べている。合意内容ではインド、ロシアは共同で推力方向変更システムを開発し、HALはミッションソフトウェアおよびハードウェア、エイビオニクス一式を供給する。
  8. インド開発の視界外有効射程ミサイル、アストラはインド国防研究開発機構 Defence Research and Development Organisation が開発中で、インド・ロシア共同開発のBrahMos超音速巡航ミサイルも別にある。これらをFGFAに搭載するのがインド空軍の目論見だ。
  9. スホイ設計局とHALの案はロシアのT-50を改良するもので、同機はまだ試作段階にある。T-50試作機あ計4機でテスト飛行回数は300回を上回っている。
  10. インド空軍としてはFGFA試作機一号機を2016年までに取得し、公試を実施し、2018年19年に一機ずつ引き渡しを受けるというもの。量産は2021年までに開始する。
  11. インドが第五世代機開発に参入したことからロシアにも恩恵が出てくる。インド空軍は「本来ならFGFAの設計段階から参画したかったが、インドのFGFA開発がロシアの第五世代機開発の資金になっているようだ」としている。
  12. インド外務省関係者によればプーチンーモディ合意ができたことで事業が迅速に進み、技術上の課題がHALとスホイ設計局間で整理できたことで両国はともに利益を享受できるとする。 ■

2014年9月18日木曜日

★★日本も陸上配備イージス導入か。海自イージス艦も性能改修へ



イージスはヨーロッパ向けに陸上配備の整備計画も進んでおり、日本も導入したいというのが今回の背景でしょう。なお、いつもながら防衛省の使っている「護衛艦」は駆逐艦と訳しています。ちゃんとDDGとなっていますからね。



Report: Japan Interested in Aegis Ashore for Ballistic Missile Defense

By: Sam LaGrone
September 16, 2014 1:23 PM
 The deckhouse for the Aegis Ashore system at the Pacific Missile Range Facility. This is the test asset for the Aegis Ashore system on Jan. 8, 2014. US Navy Photo
テスト用のイージス陸上型の指令制御建家が太平洋ミサイル試射場内に設置されている。 Jan. 8, 2014. US Navy Photo


防衛省がロッキード・マーティンのイージス陸上型 Aegis Ashore 弾道ミサイル防衛装備調達に関心を示していると毎日新聞が報道している。

  1. 記事では平成27年度に防衛省は数千万円規模の研究費を要求する。イージス陸上型はロッキード・マーティンのSPY-1Dレーダーとレイセオンのスタンダードミサイル-3を組み合わせる。

  1. 防衛省は導入済みの艦船搭載SM-3に加え、地上発射型SM-3で弾道ミサイル防衛(BMD)の実効性を上げる意向、と記事は伝えている。

  1. USNI Newsはロッキード・マーティンと米ミサイル防衛庁(MDA)に問い合わせたが、同記事について双方から言及がなかった。

  1. 日本関連で実施中なのはレイセオンの陸軍・海軍共用レーダー監視BMDレーダ(AN/TPY-2) が唯一の事例とMDA報道官はUSNI Newsに述べている。

  1. 日本はこんごう級イージス搭載誘導ミサイル駆逐艦4隻にSM-3を搭載し、長距離弾道ミサイルに対応しているほか、ロッキード・マーティンのペイトリオット性能向上型 (PAC-3) 移動式地上発射迎撃ミサイルを極地防衛用に運営している。さらにイージス艦を2018年までに8隻に増強する予定と報じられている。
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  1. 「大量のミサイルが同時に飛来すればPAC3では対応しきれないとの懸念がある」と記事は伝えている。

Japanese Aegis Destroyer JS Kongo (DDG-173) launches a SM-3 in 2007. U.S. Navy Photo
こんごう (DDG-173) のSM-3発射 (2007年)US Navy Photo

  1. ただし、こんごう級のイージスBMD装備は旧式化しており、BMD対応と防空戦を同時に実施できない欠陥がある。

  1. そこで一部艦船をベイスライン9仕様に改修し、BMDと対空対応(AAW)を同時に行えるようにする計画がある。

  1. イージス陸上型はベイスライン9で作動してもAAW装備は付随していないが、日米海軍艦艇で運用中のイージス装備が似通っていることから、将来的には能力拡大の余地があるとみられる。

  1. 「艦艇用イージス装備を流用することで、AAW以外に最終飛行段階や中間飛行段階防衛も可能だ」とジェフ・ウェストン海軍大佐Capt. Jeff Weston(陸上イージス計画主幹)が昨年行われたUSNI News取材で答えている。ウェストン大佐は米国向け陸上イージスはBMDを中心に対応する、とも述べている。

  1. ただし日本向けのイージス陸上型にAAW能力を追加し、BMDと同時に防空作戦を複数目標向けに行う可能性が出てくるだろう。■



2014年9月17日水曜日

ISIS戦略方針をオバマ大統領演説から読み解く


ISISとの戦いはこれまでのアルカイダ等イラク、アフガニスタンの戦いと様相がちがうものになりそうです。先日のオバマ大統領演説をメッセージ面で分析したのが下にご紹介する論文ですが、筆者は現役海軍大尉とのことで論旨の展開ぶりから今後が楽しみな人のようです。時々マハンはじめとする論客があらわれるのは米海軍のおもしろいところですね。ところでISIS包囲網に日本も加わっており、今後政治面で日本の役割を真正面から論じざるを得なくなるでしょうね。なお、トヨタにはIsisという車種がありますが、早晩車名変更せざるを得ないのでは。あまり関係ありませんが。









Opinion: The Strategic Communication Goals Behind Obama’s ISIS Speech
By: Lt. Matthew Hipple, USN
Published: September 11, 2014 8:18 PM
Updated: September 11, 2014 8:18 PM

obama-isis-speech-091014

アメリカは13年前に長期戦に突入している。9月10日にバラク・オバマ大統領は戦闘が継続中で、今度はイラク・シリアイスラム国(ISISまたはISIL)に立ち向かう旨演説したのは時期にかなうものである。

  1. 大統領演説を要約すれば、長期戦ということだ。

  1. 大統領の意図はISISの脅威を説明し、ISISを打破しアメリカがこれまでの13年間地上戦にくぎ付けとなった事態を回避することだ。アメリカはISISを滅亡させるが、アメリカ単独では実施しない。アラブ圏の友好国、イラク軍、シリア反対勢力を巻き込み、アメリカ軍事顧問団と空軍力で実施する。

  1. では今回の演説の中身から、政策そのものではなく、戦略的なメッセージ、その対象、意図する効果を論評してみたい。

全員へ:ISISとは脅威そのものであり、破壊されなければならない。


  1. 「本土では陰謀の実例はみつかっていませんが、ISIS指導部はアメリカおよび同盟国を脅かしています。情報機関によればヨーロッパ各国とアメリカ出身数千名がシリアとイラク国内で戦闘員として加わっており、訓練と実戦経験を踏んだこれら戦闘員が母国にもどり、攻撃を加える可能性があります。」

  1. とくにアメリカ国民向けに明確にISISの脅威が理解できるよう大統領は機会、能力、意図を組み合わせて説明している。ISISの残虐性は証明済みでだが、彼らの主張する目的には悪意ある人々をひきつける効果がある。これはヨーロッパの聴衆にも同じく受け止めれる。

  1. 「我が国を脅かすテロリストはどこにいようと一人残らず駆り立てると明言してきました。これは当政権の信条の中心であり、アメリカを脅かすものには安全な場所などありません」

  1. この内容に特に説明は不要だろう。

中東各国へ: 拳を、でも硬くせず

  1. 「これは我が国だけの戦いではありません。アメリカの力は決定的な結果を生みますが、イラクにかわってイラク国民が自分ですべきことを我が国が行うことはありません。同じようにアラブ各国の友好国にはすべきことがあります。対テロ作戦は一貫して休むことなく続け、ISISを除去すべく、我が国の空軍力および同盟国の地上軍を支援します。」

  1. 敵の敵と連携する事態が生まれるのを待つのか、挙国一致体制のイラク新政権が発足するのを待つのか、とはいえ大統領演説は周辺国に合衆国だけでこの事態を囲い込むつもりはなく、継続中の代理戦争は周辺国すべてを疲弊させてしまう可能性を示しているものだろう。合衆国が「飛び込んで」こないとわかれば、今回の対決中でもっとも憂慮すべき事態を引き起こすかもしれないのだ。
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  1. 演説ではイラク政府、クルド人部隊、あいまいにシリア反乱勢力へ言及があったが、個別名でのシリア反乱勢力、イラン、トルコ、ヨルダン、サウジアラビアおよび湾岸諸国もこの戦いに加わろうとしているのにもかかわらず言及されていない。何らかの意図があるのだろう。

  1. イラク政府軍とクルド戦闘部隊間に分裂があることがうかがえるが、別個に戦闘を実施する中でクルド人の功績が大なのが政治的に微妙な作用を及ぼしていることを理解すべきだ。

議会へ: しっかりと一貫性を


  1. 「総合的かつ一貫したい対テロ戦略でISISを追い詰め破壊する」

  1. 合衆国はISISを明確に相手とし、地上兵力除く多くの資源を投入していくだろう。これに驚く人はいないはずだ。だが大統領は議会に二点を伝えている。議会の承認を都度必要とせず交戦すること、およびシリアへの拡大だ。

  1. 「我が国は最強国家であり大統領と議会はともに手を携える。そのため議会の支援により世界に対してアメリカが団結して危機に対処していることを示したい。....かつてはアルカイダ支部だったものがイラクの部族間対立とともにシリア内戦も利用して支配地域を両国にまたがって拡大している」

  1. これはわかりやすい。大統領が議会の承認を求める発言をすると観測していたものがあるが、そもそも議会承認が必要なのかはっきりしない中で承認を取っているのと同じといってよい。同様にこれがISISはアルカイダと同類だと発言した理由でもある。

  1. 「追加的権限と資源を与え、ISISと対決する戦闘員の訓練および装備調達を可能とするよう議会に再度求めたい。自国民を残虐に扱うアサド政権には信頼を置くことができず、同政権は一度失った正当性を回復することはできないだろう」

  1. ここで大統領は以前からのシリアの関与についての議論を続ける格好だ。この部分はその他戦略部門の言及の中に埋もれているが、ISISの残虐性について言及してから、シリア大統領バシル・アル・アサドとの同盟関係はありえないとし、アサドも残虐性では同一だとする。現実主義者の立場ではこの点に違和感があるだろうが、大統領が演説中で示しているのはソフトパワー soft power とイデオロギー超越counter-ideologyの二点だ。これは今後も訴求される内容だろう。

アメリカ国民へ過去の「引き返せない点」は避けつつ、期待を実現せよ
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  1. 大統領は基本ルールを作って国民各層の支持を保持しようとしている。

  1. 「以前も述べたように米軍部隊は戦闘任務に投入しない。イラク地上戦へ再度引きづり込まれない。...アメリカ国民には今回はこれまでのイラク、アフガニスタンと違う戦いにしようとしている点をご理解いただきたい。米軍戦闘部隊が海外の地で交戦に巻き込まれることはない」

  1. 第一に合衆国は今回の紛争に全面参入せず、過去10年間の状況に「回帰」あるいは「巻き込まれる」ことはない。これがシリアを巡る議論の背景にある最大の懸念事項で、オバマも回避したい点だ。これには軍事作戦が知らぬ間に拡大しないかとの懸念を事前に防ぐ意味があり、議論そのものを遅らせる意図もあり、否定的な反応が起こる前に先手を打ったのだろう。

  1. 「世界にある邪悪な力をすべて消去することはできず、殺人集団は小規模とはいえ大きな害を及ぼす力を有しています....ISISのような悪性がんを根絶するには時間がかかります」

  1. 第二に、現実に即した形で期待を維持することだ。示された戦略は長期にわたるもので、「世界からすべての悪を消去できない」というのは同様の脅威がこれからも発生するとの布石だろう。大統領は簡単に勝利を収められるとの期待や勝利への確信を回避したいようで、期待が裏切られ支持がなくなることを恐れているようだ。

  1. 「軍事行動には危険がつきもので、とくに軍に身を投じる男女が任務を実施する際には危険がつきまといます」

  1. 三番目に危険対応を予め準備させることだ。現場で任務に就く兵員や上空を飛ぶ航空機ではISISによる殺害あるいは誘拐あるいは撃墜の恐れという「低リスク」があるというだけで任務達成が困難になるできなる。紛争が長期化するという現実直視をすれば当初こそ支持に盛り上がりをかくことになりそうだが、一方でより堅実かつ現実的な理解を生み、作戦維持ができることになる。

中東各国および西側出身でISISへの「転向者」へ

  1. 演説を通じ合衆国が同地区を重要視しているのがわかるが、「空軍力」、遠隔地からの「対テロ作戦」、軍事顧問団という言葉遣いから合衆国には同地区を再占領する意図がないことがわかる。そうなるとISISに対しまだどっちつかずの国や「西側諸国の帝国主義」を心配する向きとも意思を疎通させなければならない。「帝国主義」や「聖戦」を否定することで合衆国はISISは「イスラム」にあらず、イスラムとの戦闘を展開するのではないと説明できる。ただしこのメッセージが戦闘地区内に届くことはないだろう。
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  1. ただし西側諸国や比較的安定している隣接諸国にいるものにとってはISISがソーシャルメディアを駆使して聖戦を訴えていることは要注意だ。

総括:


  1. 一部で戦略案そのものに異議をとなえるものや、ソマリアやイエメンの価値を引用する部分の正確さに違和感を覚えるものがあろうが、今回の演説は今後の戦略的な意思疎通を前面に出したことでは極めて率直なものだった。

  1. なぜ合衆国がISISを相手にしなければならないのか、我が国の安全そのものがかかっていること、さらに地域内の同盟国も自国の安全を目指して努力していることがはっきりと説明された。

  1. 公職最高位にあるものでここまで意思疎通を「戦略的に」行った事例は少ない。同時にその好例だろう。
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  1. 示された方針が合衆国にとって正しい選択なのかは我ら国民が議論することであり、時間の経過ではっきりしてくるだろう。■

2014年9月16日火曜日

スコットランド独立の場合 英国防力への影響はどうなるか 投票日は9月18日


女王まで異例の発言をするなど、分離独立を食い止めようとする勢力は必死になってきました。それだけ可決の可能性が高いということでしょう。記事が取り上げている内容どおりなら英国の国防計画は破たんしてしまいそうですね。東アジアのこちらは中央集権国家タイプですので、今回の騒動もなかなか理解できないでしょうね。




Scottish ‘Yes’ Vote Could Have Major Impact On U.K. Defense

Narrowing polls in Scottish independence referendum prompt U.K. defense concerns
Sep 15, 2014Tony Osborne | Aviation Week & Space Technology
Sources: Google Maps and AW&ST Art Dept.

9月18日にせまったスコットランド有権者4百万人による住民投票結果次第で英国の国防は大きく影響を受けそうだ。選挙運動の最終段階で賛成票が多数を占める可能性が現実味を帯びてきた。
  1. 独立反対の結果でもスコットランドには現在より大きな裁量権が与えられ、英国全体に影響する政策方針の変更は避けられないだろう。.
  2. ただし政治指導層が最も恐れているのが独立賛成の結果であるのは間違いない。独立となれば300年にわたる統合が崩壊し、国防分野がまっさきに影響を受ける。英国議会もこの投票の動向を意識しイラク国内でのイスラム勢力向け空爆への参加議決を見合わせている。
  3. 2010年の戦略国防安全保障検証 Strategic Defense and Security Review (SDSR) によりスコットランド駐留部隊は大幅縮小したが、スコットランドは英海軍のトライデント戦略ミサイル原潜の母港で、核抑止力のかなめであることにかわりない。
  4. 戦闘機や陸上部隊なら簡単に南部へ駐留地を移動できるが、核抑止力はそうもいかず国防関係者にとって頭の痛いところだ。さらにスコットランドが英国に潜水艦の即時撤去を求めるかもしれない。そうなると国内には潜水艦の運用に必要なインフラは他になく、NATO、EUそれぞれの加盟国にとっても核抑止力の空白は悪い結果となる。なおスコットランドは両組織へ加盟を希望している。
  5. それでもスコットランド国民党 the Scottish National Party (SNP) のトライデントへの見解は明白だ。独立を目指す白書の中で同党は「無差別かつ非人道的な破壊力であり、人類への侮辱」とまで言い切っている。
  6. SNPの主張では独立を実現すればトライデント後継ミサイル開発から自由になれるという。開発は1,000億ポンドで20年から30年かかるとみられる。
  7. 国民党は同時にスコットランドは英国防予算340億ポンドの1割を支払っているのにその半分しか恩恵を受けていないと主張。またスコットランドが拠出をやめれば国防省が今後10年でめざす1,600億ポンドの装備調達計画で130億ポンド不足が生じると説明。
  8. 2010年度SDSRにより空軍基地が二か所閉鎖されている。英海軍は水上艦基地をスコットランドには一か所も有していないが、基地閉鎖がスコットランド選挙区では暗い材料になったのは確かだ。
  9. 独立賛成票によりスコットランドの小規模ながら重要な国防産業も域外脱出を加速化するかもしれない。もっともリスクが高いのが造船で5,000名の雇用がかかっており、海軍艦艇や潜水艦は国内建造するのが現在の方針だ。エアクラフト・キャリア・アライアンス Aircraft Carrier Alliance がエジンバラ近郊のローサイスRosyth で英国の新型空母2隻を建造中だ。造船各社は南方への移動を模索するだろう。
  10. SNPは英軍装備を引き継ぎ自国防衛を図ると綱領で発表している。人口比からスコットランドは78億ポンド相当の装備を所有すべきで、防空用にユーロファイター・タイフーン12機ないし16機、ロッキード・マーティンC-130Jは6機を委譲を希望する。ただしこの交渉は難航するだろう。
  11. 住民投票で独立が否決されれば国防関係者は安堵するだろうが、スコットランド議会への権限委譲がさらにすすめばスコットランドから隣接する各地域へ発言権が増しても、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの各地方はスコットランドへ口出しできない。この問題は「西ロージアン問題」“West Lothian question” と呼ばれ、残る地方への権限移譲につながるかもしれない。
  12. 住民投票で可決されればSNPは独自の憲法制定に動き、2016年3月までに完全独立を目指す。■


2014年9月15日月曜日

KC-46空中給油機の初飛行日程も遅れる見込み


順調と思われていたKC-46開発ですが、思わぬところでつまづいているようです。設計段階に間違いがあったのであれば「詰めが甘い」と言われても仕方ないですね。固定価格で超過する分は海外輸出で回収するというのがボーイングの計算のようで、日本もその対象に既に入っているようです。KC-767の追加購入はKC-46に切り替えていくということでしょうか。





First Flight for KC-46 Tanker Platform Slips Further

Sep 12, 2014Amy Butler | AWIN First
Boeing

配線問題でKC-135後継機となるべきボーイング767-2Cの初飛行は早くても11月中旬と当初の6月から大きく遅れている。
  1. それでもジョン・トンプソン少将(KC-46事業責任者)Maj. Gen. John Thompson, program executive officer for the KC-46 programによればボーイングは第一期18機の納入を契約通り2017年8月に実行できると見ている。「稼働可能必要機数(equired assets available RAA)の実現に支障となる大きな問題はないが、日程管理は改善の余地がある」と9月11日にAviation Weekに発言している。
  2. ボーイングは2011年に固定価格制で44億ドル開発契約を獲得し、政府負担は49億ドルが上限となる。2013年に行った原価危険度評価では総額59億ドルとなったとトンプソン少将は述べた。差額はすべてボーイング負担で2017年を迎える事になる。最終的に空軍は179機を調達する。.
  3. ボーイングからは272百万ドルを投入し事業を予定通り進めるとの発表があった。問題は基本形767-2Cの配線だ。給油機として配線設定で空軍が二重あるいは三重の冗長性を求めているため、基本形767の配線は総延長70マイルだが、2Cでは50マイル分を追加している。冗長部分とは別に、重要システムでは安全の理由から配線間に一定の距離を保つ必要がある。今年早々にFAAテストの準備を進める中でボーイングは配線の5-10%で距離が十分に確保できていない、あるいはシールドが不十分であることに気づいた。
  4. この設計不備は「設計ツール段階に原因がある」ためとボーイング広報のキャロライン・ハッチソンBoeing spokeswoman Caroline Hutcheson は発言。「問題の本質は既に理解されており、既存技術で解決でき、追加作業を行うだけです」
  5. 配線の一部はテスト機材4機で設置ずみのためこの機材を一時的にテストから外している。残る3機は組立済みでボーイング施設内で配線取り付けを待っている状態だ。ただし、この三機の組立はほぼ同時並行で行われるので、設計見直しはフライトテストの制約となるかもしれない。
  6. 767-2Cは 767-200ERの貨物床を強化した給油輸送機仕様で貨物用扉など輸送機の特徴を持つ。操縦席は787を基本とし、予備燃料タンクと配管配線で給油用ブーム並びにミッションシステムズを運用する。ボーイングはワシントン州エヴァレット工場の民間機生産ラインで同型を組み立ててミッションシステムズは最終工程で組み付けることで最短の生産を目指している。
  7. 第一期開発用機材は2Cの呼称でFAAの追加型式証明を受ける。第二期機材がKC-46となり、初飛行は2015年4月予定でトンプソン少将によれば今のところ変更ない。しかし「4月第一週に飛行できないと、マイルストンC[ペンタゴンによる生産決定]を同年9月としているので深刻な日程遅延を毎日心配しなくていけなくなる」
  8. トンプソンはマイルストンC決定はペンタゴンの調達トップフランク・ケンドール次官が下すものでわずかに遅れても2017年8月のRAA目標が実施不可能となるわけではないという。ただし2C生産の遅れは開発生産を同時進行させるKC-46事業に影響を与える。開発開始時にはこの方針が逆にリスクを減らすと言われており、ボーイングが民間機を軍用に転換する経験が深いのがその理由だった。ただし、ペンタゴンが第一期分13機の生産を決定する時点で2Cのフライトテストは開始されたばかりのはずである。
  9. さらに同機開発では新しい「一回きりテスト」"Test Once" の考え方を導入しており、一回のテスト飛行でなるべく多くのテスト項目を各関係機関が実施することにしている。そこで遅延が発生すればさらに多くのプレッシャーが加わる。
  10. トンプソン少将は日程管理のプレッシャーを和らげる方法を検討するが、現時点では解決策を絞り込めていないという。
  11. ボーイングにとっては大日程の維持は高くつくが、トンプソンは同社にとって旨みのある事業になるはずと言う。KC-46導入へは日本と韓国が関心を示している。
  12. 配線問題が出る前にボーイング関係者からは機体完成時の価格試算は政府試算額を下回るとの見通しが出ていた。ハッチソンはトンプソン少将の見積額を否定しなかったが、「事業全体の大日程を追加コストを政府や納税者に押し付けることなく、設計通りに実現すべくボーイング負担を増やす」という。■


2014年9月14日日曜日

★★★オーストラリア潜水艦商戦へ土壇場で参入図るスウェーデン

hオーストラリアの次期潜水艦調達で伏兵が出てきました。

日本からの調達で決まり、のような報道が目立ちますが、相手はオーストラリアにも深い関係を持つしたたかなサーブです。時間はないのですが、ここに来て手を挙げる同社には一定の見込みがあること以外に調達する可能性のある他国へのアピールもあるのでしょうね。




Saab Makes Late Pitch For Australian Sub Project

Sep. 13, 2014 - 04:28PM   |  
By GERARD O’DWYER   |   Comments

HELSINKI — サーブが最後の土壇場でオーストラリア政府に潜水艦取得の方向を変えさせようと必死だ。現在、ドイツと日本のいずれかが採用になりそうなのだが。
オーストラリアの次世代潜水艦はトニー・アボットの自由党政権が国外建造艦の調達を掲げてから政争の種となっている。野党からは政府が日本の川崎重工-三菱重工製そうりゅう級選定に傾いていることへの批判があり、一方ドイツのティッセンクルップThyssen­Krupp はタイプ214潜水艦を提案している。
オーストラリア政府はまだ最終的な調達規模を決めていない。アボット政権では8隻から12隻としている。
ここにきてサーブが高性能潜水艦の受注生産提案を出してきた。サーブCEOハカン・ブスへ Håkan Buskheによれば同社はまだ正式な入札をしていないが、「もし顧客側が当社の提案に耳を傾けて頂ければ」サーブから公開入札に応じるという。
なお、オーストラリア次世代潜水艦調達は180から270億米ドル規模事業となる見込み。ここに来てサーブが手を挙げる真の理由は同社が49.6百万ドルで潜水艦事業を取得したことである。今年7月にティセンクルップのスウェーデン国内の潜水艦建造所を手に入れている。サーブが入手したのはティッセンクルップマリンシステムズ(TKMS、旧名称コッカムズKockums)および艦艇設計案である。
サーブによるTKMS買収はスウェーデン政府の後押しもあり、ティッセンクルップがスウェーデン国内の潜水艦建造技術を廃止するとの恐れもあり実現したものだ。ティッセンクルップはコッカムズを2005年に買収していた。
ドイツ親会社がTKMSの輸出営業を縮小する決定をし、オーストラリア、シンガポール、ノルウェー向け輸出の自主決定権を制限したことで、政府はテッセンクルップへの信頼を失していた。
TKMSはサーブコッカムズABへ統合されて新型A26級潜水艦の設計建造にとりかかっており、スウェーデン海軍向けにゴットランド級潜水艦の後継を狙っている。
「TKMSを参加に入れたことでサーブはオーストラリア政府に対し正式に次代潜水艦の提案が可能となりました。」とブスへは発表している。またTKMS買収でオーストラリアのコリンズ級潜水艦関連の知的所有権も手にいれたことになる。
サーブとしては潜水艦本体およびサブシステムズをスウェーデンとオーストラリア双方で制作する意向だ。またブスはA26級潜水艦(3,000トン)をスウェーデン・オーストラリア間の潜水艦技術協力案件にしてもよいと示唆している。
オーストラリアが運用中のコリンズ級は浮上時に3,050トンの通常型潜水艦で設計はコッカムズが全て行い、6隻が1996年から2001年にかけ引き渡されている。
サーブ提案はスウェーデン政府も支援すると国防相カリン・エンストローム Karin Enströmが発言している。「スウェーデン国内に高性能潜水艦を設計建造し、海外へ販売する基盤を維持することは重要。サーブはコッカムズ時代もありオーストラリアへ関心を示すのは当然」とDefense Newsに語っている。
サーブはTKMSを海洋・水上部門システムズ技術の中核に据える計画で、潜水艦開発部門はマルモMalmoにあり、カールスクロナKarlskronaに水上艦・潜水艦建造部門を構えている。
サーブは潜水艦案をオランダ、カナダ、ポーランド、ノルウェーに提出する以外に海軍兵力増強を進める東南アジアではタイやマレーシアにも関心を示している。
「スウェーデンは十分競争力がある。70年代の国防予算はGDP比3%だったのが今では1.2%になっており、厳しい予算の中で勝ち残る方法を体得している」とブスへは自信満々だ。■



2014年9月13日土曜日

米海軍のF/A-XX構想に垣間見える海軍の考え方の違い


米海軍と密接な関係にある海軍協会は海軍版のF/A-XX構想で微妙に米空軍のF-Xとの違いが生まれつつある内部事情を伝えています。空軍がこれまでの延長上の制空戦闘機を考えているのに対し、ネット中心の戦闘のセンサー搭載機で必要な能力があれば既存機の流用でもいいとこれまでにない考え方が海軍から垣間見えます。日本のF-3も流れとしてはF-Xに近いと思われますが、海軍の考え方にも参考になるものはあると思えます。人工知能だの、高エネルギー兵器だの、これまでにない趣向はあるのですが問題は価格でしょうね。とくにこれからの予算環境を考えると。


Navy Taps Industry in Quest For Next Generation Fighter

By: Dave Majumdar
Published: September 10, 2014 10:04 AM
Updated: September 10, 2014 10:05 AM
A Boeing artist's conception of a potential design for F/A-XX. Boeing Photo
ボーイングの考えるF/A-XXコンセプト。. Boeing Photo


米海軍が技術情報の交換会合へ正式に民間防衛産業の参加を要請し、2030年代をにらんだ次世代戦闘機のヒントを得たいと考えている。

  1. 交換会は技術情報会議 Technical Inerchange Meetings (TIMs) の名称でF/A-XXの代替策検討作業 analysis of alternatives (AOA) に先立ち実施する。AOAは2015年に開始。

  1. 会議では価格と現行機種スーパーホーネットやF-35CがF/A-XXの要求性能にどこまで合致するかが検討の重点だという。さらに選択肢として海軍は完全新型機または現行システムの派生型開発 family of systems (FoS) の検討もする。同時にミッションシステムズ、エイビオニクス、次世代兵装システムも検討する。

  1. 海軍関係者はロッキード・マーティン、ボーイング、ノースロップ・グラマン各社の先端技術開発チームに加え、機体コスト低減に役立つ技術要素を有する企業へも打診する方針だ。

  1. 「機体がまったくの新型機になるのかならないのか、無人機とするのか有人機とするのかも未定」と海軍関係者は語る。「むしろ将来の予算状況だとFoS方式でギャップを埋めていくことになるだろう」

  1. 海軍の選択肢の一つが最低限の予算で高性能で敵戦力に十分対抗できる武装をどう実現するかだ。
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  1. 海軍統合火器管制対空作戦能力開発構想(NIFC-CA)では一機種にすべてのセンサーを搭載する想定はない。むしろデータ活用を重視する。データでリンクされた情報はノースロップ・グラマンE-2Dのような機体からイージス巡洋艦・駆逐艦へと伝わり、目標照準情報となる他、F/A-XXが発射する兵器の照準にも利用される。

  1. 「そこでF/A-XXが機体はホーネットと大差なくても、新型兵装で射程距離延長し、担当地域での戦闘を実施のために各種兵装システムを火器管制とリンクできればよい」と海軍関係者が語っている。

  1. そうなるとF/A-XXは「ペイロード」を運ぶ「トラック」であればよいのであり、スーパーホーネットやF-35のように敵を捜索、探知、追跡、照準、交戦、評価まで自己完結型で行う必要はなくなる。

  1. これは海軍作戦部長ジョン・グリナート大将Chief of Naval Operations AdmChief of Naval Operations Adm. Jon Greenert. Jon Greenertの持論「機体よりもペイロード」に合わせることだ。

  1. 2013年末にマイク・マナジール少将(海軍航空戦闘部長)Rear Adm. Mike Manazir, the Navy’s director of air warfare がF/A-XXはミサイルに加え指向性エネルギー兵器用の出力・冷却機能を搭載し、センサーは最小のレーダー断面積目標も探知できるだろうとUSNI Newsに語っていた。マナジールはF/A-XXファミリーは戦術サイバー戦能力も備えると紹介していた。

  1. 海軍は米空軍と連携しており、空軍もF-X次期戦術航空機をロッキード・マーティンF-22AラプターとボーイングF-15Cイーグル制空戦闘機の後継機にしようとしている。共同作業しているとはいえ、各軍の想定にはまだ大きな差がある。

  1. その例としてエンジン技術を巡る見解の相違がある。空軍は次世代適応サイクル型ジェットエンジン技術に自信を持っているが、海軍航空システムズ本部の技術陣は空軍研究所の主張する適応サイクル型エンジンの長所を信じず、海軍の要求水準には対応できないと考えている。■



2014年9月12日金曜日

即時全世界攻撃構想に対しロシアは核戦力増強に走るのか


日増しに米ロの対立緊張が高まっていく観がありますが、米軍の即時全世界攻撃構想にロシアは防御を固める構えです。これは80年代のスターウォーズ計画で当時のソ連が破たんしたのとはスケールが違いますが、どこか似た構図になっています。まずロシアの言い分を聞いてみましょう。


Russia Announces Plans To Upgrade Nuclear, Air Defense Forces

Sep. 10, 2014 - 02:38PM   |  
By AGENCE FRANCE-PRESSE   |   Comments

MOSCOW 任意の目標を一時間以内に攻撃できるとする合衆国の「即時全世界攻撃」構想に対抗し、ロシアは核部隊、防衛戦力を高性能化すると副首相が9月10日に発表している。
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  1. 「即時全世界攻撃戦略には戦略核部隊や海軍部隊の能力向上で対抗する。同時に作成済みの計画に従って防空、宇宙防衛を進める」と副首相ドミトリ・ロゴジン(国防担当)Deputy Prime Minister Dmitry Rogozin が語ったとインターファックス通信が伝えている。

  1. 発言はウラジミール・プーチン大統領がロシア国防支出会議の席上で西側各国がウクライナ危機を契機にロシアに対する挑発に出ており、「NATOが復権しようとしている」と批判したのを受けた形。

  1. 冷戦時代と同じ話し方ででプーチン大統領は「新たな脅威があらわれつつある」とし、NATO軍が東欧で増強されていること、ヨーロッパとアラスカでの米軍のミサイル防衛体制、そして「即時全世界攻撃」を例に挙げた。「いわゆる全世界武装解除攻撃の理論が現実のものなろうとしている」とプーチン大統領は発言。

  1. 即時全世界攻撃構想は通常兵器により世界中どの目標も一時間以内に攻撃するものだ。

  1. 国防副大臣ユーリ・ボリソフDeputy Defence Minister Yury Borisov からは同じ10日にロシアも新兵器に対抗する技術開発を迫られるが防衛的な性質である旨強調する発言があったとRIAノヴォスティ通信が伝えている。■

ではその即時全世界攻撃構想とは何で、どこまで進んでいるのかを米議会調査局の報告書から見てみましょう。

Conventional Prompt Global Strike and Long-Range ballistic Missiles: Background and Issues

Congressional Research Service

通常型即時全世界攻撃手段と長距離弾道ミサイルに関する議会調査局報告書(2014年8月)

要約

通常弾頭即時全世界攻撃兵器 conventional prompt global strike (CPGS) により合衆国は地球上いかなる地点も一時間以内に攻撃する能力を手に入れる。紛争が発生しても初期段階から高価値の目標や急速移動中の目標を攻撃する能力を有すれば敵に対する抑止力・破壊力につながる。議会は即時全世界攻撃をおおむね支援してきたが、予算に制約を課し、CPGSが核兵器の代替ではなく合衆国保有の通常兵器能力の補完とするとことを条件に予算変更を加えてきた。CPGSは「すきま」能力であるが、ごく少数の同兵器を選択した重要目標にあてることができる。


ただし敵国が通常弾頭ミサイル発射を誤解し、核兵器搭載とみる可能性を指摘する専門家がいる。国防総省では長距離攻撃能力を実現するシステム数種を検討中である。空軍と海軍はともにそれぞれが運用中の長距離弾道ミサイルに通常弾頭を搭載する案を検討中である。

海軍はトライデントII潜水艦発射弾道ミサイルに通常弾頭を搭載しようとしてきた。2008年度に議会はこの予算を却下したが、海軍はその後も中距離弾道弾で即時攻撃の検討を続けている。

空軍は国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)とともに国超音速滑空搬送機の開発中で、同機は改造したピースキーパー陸上配備弾道ミサイルに搭載する通常型打撃ミサイルconventional strike missile (CSM)と呼ばれる。議会は2008年度にCPGSミッションの研究開発支援予算を創設しており、2014年度の計上額は65.4百万ドルである。オバマ政権は2015年度分として70.7百万ドルを要求している。


CPGS予算要求の審議では国防総省に対して同事業の意義を再度尋ね、合衆国が紛争開始直後あるいは途中で目標を即座に攻撃する必要があるのかを問いただす可能性がある。また前線配備陸上あるいは海上兵力があるのにさらに配備の必要があるのかも問われよう。議会ではこの兵器が実現した場合に核兵器への依存度が下がるのか、合衆国の攻撃が誤解され核の使用につながらないかも併せて検討されるだろう。後者では合衆国のPGS兵器発射を探知した国が弾頭が核非核の区別ができないことがリスクになるといわれる。

議会からはこの問題の可能性をすでに提起しており、空軍により極超音速搬送システムを改造した弾道ミサイルに搭載する開発の進展を期待する専門家がいる。これは通常型攻撃ミサイルconventional strike missile (CSM) として知られる構想で、HTV-2と呼称される極超音速飛翔体だが、テストはまだ成功していない。

それに代わる滑空機はAHWとして知られ、海上配備ミサイルに搭載されるだろう。議会はその他のCPGSを実現する手段も検討する予定で、爆撃機、巡航ミサイル、スクラムジェットあるいはその他高度技術を取り上げるだろう。打ち上げ後滑空するシステムで搭載する弾頭は2010年の新START条約では制限されない。それは新規の攻撃手段となるため。ただし既存型式で大気圏再突入する飛翔体を既存型式の弾道ミサイルに搭載すれば同条約に違反することになる。