2017年8月10日木曜日

米国は北朝鮮ミサイルをどこまで監視追尾しているのか


北朝鮮を取り巻く状況がどうも悪い方向へ向かっています。ISRの重要性が今ほど重要になったことはないように思います。本当の性能はだれにもわかりませんが、抑止力の一つとして機能すればそれにこしたことはありません。

North Korea's New ICBMs: How Well Can American Intelligence Track Them?

北朝鮮のICBMをどこまで米情報機関は追尾できるのか

August 6, 2017

  1. 北朝鮮の核兵器開発が進展を見せているが米国は北朝鮮の核兵器運搬手段の所在地を把握し先制攻撃で破壊できるとくりかえし暗示している。
  2. 7月4日のICBMテスト直後に米軍は北朝鮮の発射準備を監視してきたと米関係者が報道陣に話している。Diplomatのアンキット・パンダの記事で「米国は発射前およそ70分の時点で発射台に乗っているミサイルを観察していた」と暴露している。発射の翌日にフォックスニューズのジェニファー・グリフィンも「米政府関係者は今回の発射準備の状況を米国が監視していた。液体燃料注入も監視していた」と伝えている。
  3. 7月28日の次回発射でも同じパターンとなった。米政府から報道機関に情報リークがあり、米情報機関は発射の兆候を事前につかんでいたという。リークは7月19日に始まり、翌週に激しくなる。発射当日の週には米側は発射日を「おそらく」7月27日の朝鮮戦争休戦日と予測していた。パンダは米政府関係者から「米軍情報部は火星14型の輸送起立車両をクソンで探知している」と聞いている。
  4. 前回テストが監視されてイラついたのか北朝鮮は二回目のICBM発射テストを北部慈江道(チャガンどう)舞坪里(Mupyong-ni)から発射した。また夜間発射にしたのは米偵察衛星の性能限界を熟知していたためだ。
  5. だが米国はだまされなかったと政府筋が再びパンダに伝えている。発射直後にパンダは以下報道している。「米政府は数週間にわたり発射準備を監視し発射24時間前に準備状況を把握していた」「情報筋は四時間前に発射が迫っていることを確信した」「評価の根拠は金正恩他政府上層部の視察用VIP席の準備が見られたため」
  6. 米監視活動の対象は北朝鮮の地上配備ミサイルだけではない。北朝鮮潜水艦の探知も可能と伝えている。通常潜水艦発射の弾道ミサイルは残存性が高いため機挑戦も整備を急いでいる。だが米政府関係者は平壌に対して潜水艦も米情報収集力の前に安全ではないと伝えようとしている。今週に入り米軍関係者がCNNに北朝鮮潜水艦活動が「きわめて異例かつ前例のない水準」になっていると語った。具体的には今月に入りミサイル排出テスト三回を確認しており、コールド・ローンチテストは今年四回実施している。テストは陸上での実施だったがこの関係者はさらに「北朝鮮サンオ型が黄海に展開したがその期間が長い。ロメオ型二隻が日本海に出動したが各艦一週間も展開した」と明らかにした。
  7. 総合すると米国は北朝鮮の核運搬手段をリアルタイムで追尾できる能力を有していると伝えようとしているのだ。この事は重要で米国が北朝鮮核兵器を発射前に地上で破壊する、おそらく先制攻撃の決定で大きな意味を持つ能力であるためだ。米関係者が意図的に明らかにしているのは北朝鮮指導部を怯えさせながら韓国など同盟国に米国の安全保障上のコミットメントは北朝鮮が米本土を核攻撃する能力を得ても有効だと伝える意味があるからだ。
  8. このうち前者での米国の試みは成功しているようだ。北朝鮮が今回のICBM発射で欺瞞工作を行ったのも核兵器の残存性に懸念を感じている証拠だ。残存性は核兵器整備を開始した段階の各国が直面する問題だ。アルバート・ウオールセッターが欧州内の戦略空軍基地がソ連の初期攻撃に脆弱だと証明すると米国はパニックになった。ジェフリー・ゴールドバーグとマーク・アンビンダーによればパキスタンは核兵器を民間車両に乗せて定期的に移動させて探知を逃れているという。北朝鮮の現状は特に脆弱である。弾頭数は少なく、ICBM福多数のミサイルは液体燃料方式であり、発射直前に燃料注入が必要だからだ。
  9. 一方で韓国を安心させことにはそこまで成功していない。韓国の主要紙朝鮮日報は今週に入り米本土が狙われるのであれば米国が韓国の防衛に本気になるとは「とても期待できない」と述べている。韓国は最悪の事態に備えて情報収集、監視、目標捕捉、偵察(ISTAR)に力を入れており、独自に北朝鮮を先制攻撃する能力を整備している。
  10. ただし北朝鮮の核兵器運搬手段を追尾する能力が本当に米関係者が言うほど有効なのかわからない。二回目のICBM発射の前に米関係者は報道陣に発射地点はクソンのはずと言っていた。発射後にはじめて舞坪里を以前から監視しており発射準備の様子を事前に把握していたと明らかにした。米軍の監視偵察能力が宣伝通りとしても先制攻撃はかなりのリスクとなるため先制攻撃はあくまでも最後の手段になるはずだ。第一撃を成功させるのが難しくなれば北朝鮮の核兵器整備と拡大の可能性は飛躍的にふえる。
Zachary Keck is a former managing editor of the National Interest. You can find him on Twitter: @ZacharyKeck.
Image: Reuters

2017年8月9日水曜日

★F-22の潜水艦版シーウルフ級の建造はなぜ三隻だけになったのか



 

Why the U.S. Navy Stopped Building the 'F-22 Raptor' of Submarines

米海軍は「F-22ラプター」の潜水艦版の建造をなぜ途中で止めたのか

August 5, 2017


  1. シーウルフ級各艦は史上最強の潜水艦を目指し建造された。ロサンジェルス級攻撃潜水艦の後継艦として米海軍の水中優位性の維持をめざしたものの建造費超過とソ連崩壊で打撃を受ける。最高性能の潜水艦とはいえ隻数が削減されてしまった。多くの点で水中のF-22というべき存在だ。
  2. 1980年代の米海軍は危機的状況にあった。1980年にソ連がウォーカー一家のスパイ網から入手した情報で米海軍がソ連潜水艦のプロペラ音で追尾していると判明した。その結果、ソ連は高性能西側工作機械でプロペラ製造を狙った。1981年に東芝が現在は普通になった九軸CNCフライス加工機をノルウェー企業コングスバーグ経由でソ連に売却した。
  3. 1980年代末になるとソ連の新鋭工作機械が効果を表わし始めた。新型アクラ級は「音響ノイズ特徴が急減した」と政府関係者がロサンジェルスタイムズに語っている。「東芝製品を入手して潜水艦の静粛性が急に向上した」 潜航が静かになったのに加え、アクラ級は2千フィートまで潜航できた。これに対し米海軍の主力潜水艦ロサンジェルス級の最大潜航進度は650フィートだった。
  4. アクラ級の脅威に対抗すべく米海軍はシーウルフ級攻撃潜水艦を企画する。HY-100合金製の艦体は厚さ二インチで深度潜航に耐える設計だ。HY-100はロサンジェルス級のHY-80より20パーセント強い。これによりシーウルフの最大深度は2千フィートになり、艦体破壊深度は2,400フィートから3,000フィートと試算された。
  5. 全長353フィートとシーウルフ級はロサンジェルス級よりわずかに短いが、艦体は2割も幅広の40フィートになった。排水量は潜航時12,158トンにふえた。
  6. シーウルフ級の動力はウェスティングハウス製S6W原子炉一基で蒸気タービン二基から52千馬力を得る。ポンプジェット式推進を米潜水艦で初めて採用した。つづくヴァージニア級も採用している。その結果、シーウルフ級は水上18ノット、水中35ノットを実現し、静粛潜航時でも最大20ノット航行できる。
  7. BQQ 5Dソナーシステムを艦首に搭載し、艦の側部に高開口パッシブアレイもつける。就役後にTB-29Aえい航式アレイソナーシステムを搭載した。機雷など近接距離ではBQS24を使う。
  8. 戦闘データシステムとして当初はロッキード・マーティン製BSY-2を搭載し、モトローラ68030プロセッサー70基でネットワークを形成していた。このプロセッサーは当時のマッキントッシュコンピューターも使っていたが、現在はAN/BYG-1兵装制御システムに換装されている。
  9. シーウルフは真のハンターとして企画され魚雷発射巻数も8門と従来の2倍になった。マーク48大型魚雷、サブ-ハープーン対艦ミサイル、トマホークミサイルを組み合わせて50発まで搭載できる。また一部は機雷に変更できる。
  10. その結果誕生した同級は米海軍によればあらゆる音域で改ロサンジェルス級より10倍の静粛度があり、旧型ロサンジェルス級との比較では70倍の差があるという。静粛度を守りながら水中速度は以前の艦の二倍になった。
  11. 大幅な性能向上には大幅な価格上昇がついてきた。シーウルフ級建造計画は12隻で330億ドルの予定だったが、ソ連崩壊でアクラ級および後継艦の脅威が消えて縮小されわずか3隻を73億ドルで建造した。
  12. 極限までの静粛性を追求したシーウルフ級を見て米海軍は最終艦USSジミー・カーターを極秘作戦支援用に改装した。艦体を100フィート延長し、MMP多用途任務プラットフォームを搭載。MMPにより遠隔操作水中艇・無人水中艇やシールズ、ダイバーの運用が水中から可能となった。シールズ隊員50名まで収容できる。カーターには艦首艦尾に補助推進装置があり正確な艦の制御が可能で水中ケーブル盗聴などに活用する。
  13. 突出した性能を有するシーウルフ級潜水艦だが冷戦思想が設計に反映され高水準脅威に対応できる高性能を追求して生まれた。冷戦後に登場したヴァージニア級では従来型より性能を向上させながら建造費抑制を海軍は求められた。成功した級とは言えず三隻しかないヴァージニア級は今でも米海軍潜水艦戦力の中できわめて有用な艦でありヴァージニア級では不可能な性能を実現しているのだ。■
Kyle Mizokami is a defense and national security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
This first appeared last year.


2017年8月8日火曜日

人口減少社会の日本は防衛力を今後も維持できるのか



マルクスを笑ってもマルサスを笑えません。人口統計は時限爆弾であり将来の姿を示し、レトリックで変えられない事実です。21世紀の日本がこのままだと将来は暗いと言わざるを得ません。防衛体制も現状維持ができなくなればチャンス到来と虎視眈々と準備する野蛮な国があらわれそうです。変化を受け入れるのが下手で先を見ることが不得手な日本人ですがここは再び国家百年の計で100年=3世代と決して予測不可能ではない範囲で考え、行動する=子どもを増やす必要があるのではないでしょうか。あるいは移民?これは抵抗が強いでしょう。
http://en.kremlin.ru/events/president/news/55008/photos/49342

 

Japan's Demographic Crisis Will Only Get Worse. Here's Why That's Bad News for America

日本の人口構成の危機は悪化の一途。米国にも悪い予測が立ちふさがる

The Japan of the future will have fewer resources, both in men and money, to devote to its defense and economy.未来の日本で防衛に投入できる人的資源、資金は減る一方になる。
July 19, 2017

  1. 先進国の将来の姿を知りたければ日本に注目すべきである。完全雇用がありながら日本の賃金水準は伸びず、GDP成長は最小限、低金利のまま政府の借金は高水準のままだ。一見すると矛盾に見えるこういった要素はどんな結果を生むのか。日本特有の問題なのかそれとも各国にも共通の症状になるのだろうか。
  2. 日本の場合は人口構成が大きな要素だ。日本は前例のない人口メルトダウンに直面しており2010年の128百万人でピークだったが、現在は126百万人で今後も減少する。現在の年率0.4パーセント減が2040年代には1.0パーセント減になると2050年の総人口は現在から23パーセント減となる。中世の伝染病による猛威を除くとここまで大きな人口減はだれも体験していない。さらに今世紀末には総人口は50百万人と最高時の4割になる。
  3. 65歳以上の人口は増えるが伸びが落ち着いていることが関心を呼ぶ。75歳以上人口は2020年代までは伸びる。最大の影響を受けそうなのが14歳未満および15歳から65歳のグループで後者は労働人口とされる。2017年から2050年までで14歳未満人口群は4割減になる。労働人口は同時期に34パーセント減となる。そうなると総人口の減少以上に労働人口の減少が加速する。
  4. GDP成長に労働人口減が足かせになる。生産性が伸びても労働人口減が相殺する。2050年のGDPは現状水準を超えないだろう。労働生産性は今後も年率1.4パーセントを維持するだろう。これ自体は問題ではない。だが労働者数が1.2パーセント減を続ける予測で2050年ごろにはさらに減少度を加速する。効率よく労働しても労働人口自体の減少で相殺されてしまうのが問題だ。
  5. そうなると日本のGDPは今後も停滞しそうだ。GDP減少は景気循環と別物で人口構成自体が原因になる。今後注目すべきは労働人口一人当たりGDP統計で日本経済の状態をGDP総額より正確に伝えてくれるはずだ。
  6. 日本には隠れた予備資源がある。高齢人口の雇用もその例で、GDP成長を後押ししそうだ。雇用率はわずかに伸びるが現状でもOECD標準で相当高い状態にある。ともにGDP成長予測を引き上げる効果があるが伸びは限定的だ。
  7. 人口構成が与える次の影響は国家予算だ。日本の国家債務はこの25年間でかなり増加している。労働人口ピークは1990年代で以後は減少中のためGDP成長は減少し、国内金利水準は低いままだ。一方で高齢人口が増え労働人口が減り、退職者が増え、低金利がさらに続く中で日本政府は容易に債務を増やせた。
  8. 日本の財政赤字が目立ち始めたのは1995年で今日まで続いている。債務総額がGDP比200パーセントを超えており、2025年に225パーセントとピークになる見込みだ。IMFでは債務÷GDP比60パーセントを堅実財政の上限と見ているが、日本はこの基準を20年前に超過したままで国家運営を続けてきた。だがいつまで続けられるのか。
  9. GDP成長がさして見込めないまま、日本は経済成長を続けつつ絶対的、相対的いずれでも債務水準を減らす財源が期待できない。.
  10. だが当方の分析では日本はこの難局を乗り越えられる。家計支出水準が実質的に伸びないのであれば国民は増税を受けいれ、国内外に大きなショックがなけれあば日本はなんとか立ち回るだろう。債務・GDP比は200パーセントあたりで落ち着き、それ以下にはならないはずだ。
  11. これでは納税者、政府資金の受益側双方によい結果にならない。日本政府がいかなる政策を講じても結果は変わらない。このシナリオでは実質税負担は80パーセント上昇しつつ経済成長はない。さらに政府支出は35年間全く増えず、想定外の事態が発生すればもっと長期になるかもしれない。今でさえ重税に苦しむ日本の納税者がさらに15パーセントの増税に耐えられるか。また受益者側も数十年にわたり現在の水準のまま我慢できるだろうか。日本国民が我慢強いといっても数年しか耐えられないはずで、これが数十年も続けばどうなるか。
  12. さらに労働人口減少で労働者あたり公的債務水準は2000年の50千ドルから今年は128千ドルになる。さらに2050年に208千ドルとなるが経済規模は一定のまま停滞する。比較すると米国連邦政府の労働人口一人あたり債務は75千ドルほどである。ただし米国の国民一人当たりGDP規模は日本より大きい。
  13. 最良のシナリオでも日本政府は国民に非常に多大な忍耐と辛抱を求めることになる。それでも政権が生き残れば納税者、受益者双方が反乱を起こさないか。
  14. 社会全体で「メイカー」「テイカー」ともに受け入れられないとなると大衆人気にあやかる指導者が登場し債務支払い停止や紙幣増刷他一見魅力があるが実は破壊的効果を生む解決策を提唱するかもしれない。関税引き上げもその例だ。
  15. 日本経済は外部ショックや世界規模の信用状態の前に脆弱だ。世界不況や天候不順、地震、世界金利水準の上昇への対応に苦労するだろう。金利が1パーセント高くなると日本政府はGDP2パーセントの支出増になる(すべての債務を借り換えた場合)で世界経済の成長が日本にとってクッションとなるのであり、増税や支出削減による調整を迅速に迫られるだろう。
  16. 日本は国際情勢の変化にもぜい弱差を示すかもしれない。小規模武力衝突の影響も大きく、国内有権者は対外勢力が日本国内の政治体制の不安定化を狙い支援する大衆扇動タイプの政治家の甘言を受け入れてしまうかもしれない。
  17. 他方ですべてが悪い方向ばかりではない。失業は一貫して最低水準のままで給与水準は堅実に伸びる。不動産価格は毎年下がり、雇用人口の購買力は上がる。さらに高齢化社会は革命的な公約には動かない。感受性の強い失業中青少年そのものが姿を消し、日本社会は過激思想や海外からの操作に影響を受けにくい安定した社会になるのではないか。
  18. 予測だが、中国経済の大恐慌が2025年ごろに発生すれば日本は不況に入るのではないか。中国の債務状況は日本以上に深刻であり、メルトダウンは遅かれ早かれ避けられない。日本もこの危機の影響を避けられず、1998年通貨危機の再来でアジア投資を大々的に引き上げることになろう。
  19. 米国へ多様な影響が出る。日本の国内政治はここ数年間不安定になり、一層人気取り政策の傾向を示している。さらに日本政府は再度財政危機に直面するかもしれない。人口減少で労働力と資金が減ると国防面で影響が出る。そうなると米国との集団安全保障に対する姿勢も内向きになり、日本は米国の関与を強く求めることになりそうだ。
  20. 人口構成で不利になるのは日本だけではない。日本の出生率1.4はOECD平均1.5よりわずかに低いだけだ。日本の場合はタイミングと規模が独特で日本がかたくなに移民を拒んでいるのが理由だ。OECD加盟国の大部分は人口が増えない状態で韓国は日本より深刻でドイツも同様だ。日本は先進国にとって炭鉱内のカナリアのような存在で、時間のちがいがあるだけだ。
  21. 米国とて例外ではない。経済は好況だが日本同様に米国も構造赤字前提で国家運営中で債務水準は予想より高くなりそうで米国65歳以上人口は2025年に1.5倍に増加する見込みだ。オバマケアの廃止代替策案の模索を巡る葛藤はこれを反映している。「温情ある保守層」は国民全員対象の健康保険構想を支持するが財源はない。米国民向け社会保障のしくみは転換点にあるといってよく、債務増の中で問題解決を迫られている。インフレ率や金利が低いままならもっと借金していいのではないか。それを行ったのが日本で、アメリカも労働人口減少と経済成長鈍化の中で非現実的に期待してしまう罠に陥りそうだ。この現象はイリノイ、ニュージャージー、コネチカット各州ですでに発生しており、年金支払いの公約が実現できなくなっている。あと十年で同じ現象が全国規模に広がりそうだ。
  22. 高齢者が受け取る年金がこれから生まれる国民の負担に依存する状態が1980年から続いている。長寿命で健康かつ繁栄する状態で教育費用が高くなり、こどもの数が減っている。どこかでこの傾向がかわるかもしれず変わらないかもしれない。人口自然増を可能とする水準まで出生率が回復しないと増税なしでは社会保障費用が賄えなくなる。社会支出を年長者から若年層さらに将来の世代に振り向けることが必要だ。現時点で50歳代の年齢層が80歳になるころ、はるかに厳しい環境に直面しているだろう。
  23. 米国の出生率は昨年史上最低記録を更新した。社会は今あるストックを食いつぶすことになり、まさしく日本と同じ人口構成の途をたどることになる。日本は2050年だが米国では2100年が転換点になりそうだ。
  24. 日本の経済活動の低迷を失われた二十年といわれてきた。人口統計をみればそれだけではすまないとわかる。日本は一世紀まるまる失いつつある。
  25. 苦悩する先進国は日本だけにとどまらないだろう。■
Steven R. Kopits is the President of Princeton Energy Advisors. He writes about oil markets and related geopolitics.
Image: Japanese prime minister Shinzo Abe meets with Russian president Vladimir Putin at the G20 Summit in Hamburg, Germany, July 2017.

2017年8月7日月曜日

海兵隊MV-22Bオスプレイのオーストラリア沖事故について





事実関係を見ると事故は着艦失敗のようです。これで日本がオスプレイ運用の自粛を求めましたが、米軍は安全を確認して運行上必要なのでと無視しています。当然と言えば当然なのですが、これを米軍の不遜な態度と「印象操作」する勢力が現れるでしょうね。


3 Marines Missing Off Australia Following MV-22 Mishap; 31st MEU, Bonhomme Richard Leading Search

オーストラリア沖でMV-22が墜落し海兵隊員3名が行方不明、第31MEUとボンノムリチャードが捜索中

 By: Sam LaGrone
August 5, 2017 9:30 AM • Updated: August 5, 2017 10:01 PM


MV-22Bオスプレイ(海兵隊中型ティルトローター飛行隊VMM-265所属が揚陸強襲艦USSボンノムリチャード(LHD-6)への着艦に備え接近中。 Aug. 3, 2017. US Navy Photo.


  1. MV-22がオーストラリア沖で5日東部標準時午前2時ごろ墜落し行方不明の海兵隊員3名の捜索が続いている。第三海兵遠征部隊が声明を発表した。
  2. それによるとボンノムリチャード遠征打撃群(ESG)と第31海兵遠征部隊(MEU)が捜索中で救難活動にあたる。事故ではそのほか海兵隊員23名が救難されている。
  3. 「事故機は海兵隊中型ティルトローター飛行隊265所属で第31海兵遠征部隊(MEU)で運用中だった。同機はUSSボンノムリチャード(LHD-6)から発進し、通常の運航中だったが海中に墜落した」と声明文が述べている。
  4. 「艦から小舟艇航空機が直ちに現場に向かい捜索救難活動にあたった。第31MEUはボンノムリチャードESGとインドアジア太平洋地区へ通常の予定で展開中だった」
  5. オーストラリア国防省からは機内にオーストラリア軍隊員は登場していないと発表があった。
  6. 「米海兵隊所属MV-22オスプレイ一機がショールウォーター沖合で事故にあったとの報告を受けた」とマライズ・ペイン国防相が発表。「オーストラリア国防軍関係者は同機に搭乗していない。捜索救難活動は米国主導で行っている」
  7. NBCニューズ報道によれば問題のMV-22はUSSグリーンベイ(LPD-20)に接近中に事故にあった。事故でグリーンベイ飛行甲板が損傷している。
  8. 沖縄に本拠を置く31MEUとボンノムリチャードESGはこの数週間にわたりテイルズマンセイバー演習を珊瑚海で展開中。
  9. 事故調査が続いている。■

米空軍が次期エアフォースワン用に747-8二機購入したと発表



以下米空軍の公式発表内容です。さすがに米空軍はロシア発注の機体を購入したとはいえず、民間契約方式で民事商取引として購入したとぼやかしていますね。しかし民間専門家の読み通り、今週末の発表でトランプ大統領も再選されれば任期ぎりぎりで新型機に搭乗可能となるとの読みもぴったりでした。さすがです。

Air Force awards contract for two 747-8s to be modified as future Air Force One aircraft

米空軍が747-8型機二機の次期エアフォースワン機材への改修契約を交付

 Secretary of the Air Force Public Affairs / Published August 04, 2017


WASHINGTON (AFNS) -- 米空軍は2017年8月4日付でボーイングに契約修正を交付し、民生用747-8機体二機の調達・改修でVC-25Aボーイング747-200大統領支援機材二機を更新させる。

  1. 今回の修正内容は2016年のリスク低減契約に続くもの。空軍はボーイングに先に大統領専用機材の設計、改修、試験、就役に関する提案を求めており、その内容を今後の修正契約内容に反映させる。機体改修を2019年に開始し、2024年に初期作戦能力獲得を予定する。
  2. 空軍筆頭次官補ダーリーン・コステロも「交付は大きな一歩で事業を妥当な費用で実現する一歩となる」「今後も経費節減効果を求めていきたい」と談話を発表した。
  3. 新大統領専用機は2024年から運用開始となるが、それまでに各種改修と試験を完了する。連邦航空局が型式証明した民間向け747-8が大統領専用仕様に合うようボーイングが改修する。
  4. 2017年3月にホワイトハウスは大統領専用仕様に必要な裁定要求内容を再確認した。必要な機体改修内容として専用通信機能、機内発電容量の引き上げ、医療設備、大統領執務空間としての意匠、機体防御装備、自律型地上運用能力がある。 
  5. 「機体購入により旧式化しているVC-25A更新に向けた大きな一歩となる」とデューク・リチャードソン少将(大統領専用空輸機更新事業責任者)が述べた。「今回の契約交付で2024年目標の新大統領専用機の改修試験が進む」
  6. 今回は機体調達の手順で価格設定その他関連業務を民間方式で行ったため購入価格は公表できない。ただし、機体価格は全体事業経費の一部であり、契約内容に関し情報公開要求があれば今後の公表の途は残されている。■

北朝鮮が核兵器を投入する四つのシナリオ


核シリーズの今回は現実問題です。北朝鮮の存在を抹消したいと考えるイデオロギー対応ではなく、現実を見て金正恩の欲しいアメを与えればよいという趣旨ですが、これでは永遠に日本は北朝鮮の核兵器を意識して生きていくことになり、受け入れられないと考える方も多いかもしれませんね。それがイデオロギー教条的態度です。どちらにせよ今後の朝鮮半島情勢からは目が離せませんね。

North Korean leader Kim Jong Un meets scientists and technicians in the field of researches into nuclear weapons in this undated photo released by North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) in Pyongyang March 9, 2016. REUTERS/KCNA.

4 Frightening Ways North Korea's Nuclear Weapons May Actually Be Used 北朝鮮が核兵器使用に向かう4つの恐ろしい可能性


August 5, 2017

  1. 金正恩がまた動いている。ICBMを再度発射し、米国を挑発する言葉の攻撃を加えた。にもかかわらず米国および同盟国は今のところ北朝鮮の核攻撃を受けていない。金正恩は冷静な演技者であり、すべてはひとつの目的すなわち自らの生き残りのためだ。米国あるいは同盟国を核攻撃すれば報復核攻撃を受けるか政権転覆につながる侵攻を受けるのは必至だ。National Interestでロバート・ケリーが言うように「平壌は攻撃に踏み切っても得られるものがないのを承知している」のだ。
  2. だからといって世界が北朝鮮の核攻撃から安全であることにはならない。同国が核兵器投入に踏み切るシナリオ4つが想定できる。外部侵攻、国内騒乱、原子力事故、テロリストによる入手だ。
シナリオ1 外部侵攻
  1. 金正恩が核兵器使用をためらうのは高い代償のわりに得られる結果が少ないためだが、トランプ政権が軍事行動で反応すれば情勢は一気に変わる。金正恩は権力基盤とともに自身の生命が危険になったと判断し核兵器投入を決断する。攻撃軍に対する最後の手段として使い、軍装備を壊滅させるとともに政治的意思の減衰を期待するか、敵国本土への報復として使うだろう。
  2. だが金正恩が果たしてこの通りに行動するか測りかねる。近年の介入事例ではサダム・フセインを放逐した米国、ムアマ・カダフィを退位させたNATOがあるがともに攻撃対象の政権は大量破壊兵器を数年前に廃棄していたからだ。もしそのまま保有して自らの最後が来たと知れば核兵器を使っていただろうか。答えはわからない。
  3. そこで第二次大戦末期を見るとアドルフ・ヒトラーが敵に圧倒された場合に占領地多数の自軍に破壊命令を(通常兵器でだが)出している。そのうち二例が有名だ。パリを「がれきの山に」変える、ワルシャワを「まっ平に」する命令を出しいる。ヒトラーは連合軍の進軍を遅らせる効果があると考えたのだ。またドイツが確保できないのなら地球上から消してしまえばよいと考えた。破壊を命じても連合軍の報復は受けないと考えた。
  4. パリの現地司令官はナチ党員でなくヒトラーの精神状態を疑っていたので命令を無視した。ワルシャワではイデオロギーに忠実なSS高官が司令官で命令を執行し、ワルシャワ市街を破壊し150千名から180千名が死亡した。北朝鮮では軍部隊が政治的に洗脳されており、政権に服従しているので金正恩の命令を受けた指揮官はワルシャワと同じ行動を採るだろう。
シナリオ2 国内蜂起
  1. 北朝鮮国内が反乱状態となると金正恩の理性も消える。極度の治安締め付けで国内蜂起の発生はきわめて考えにくいが一度起これば金正恩も最悪の可能性と直面せざるを得なくなる。深刻な危機であり核兵器投入もやむなしと考えるかもしれない。対象は反抗勢力の国民あるいは外部で反乱を支援支持する対外勢力になるだろう。
  2. 国内騒乱の鎮圧に核兵器を使った国はないが、他の大量破壊兵器なら使用実績がある。サダム・フセインは1988年と1991年の二回にわたり自分の統治を脅かす反乱勢力に化学兵器を投下している。もっと最近ではシリア内戦でバシャー・アルアサドが数回にわたり反乱勢力に化学兵器を使っている。金正恩政権はさらに狂信的であり自国民あるいは国外の支援勢力への核兵器投入をためらわないかもしれない。権力基盤が挑戦を受ければこう決断してもおかしくないのだ。
シナリオ3 原子力事故.
  1. 逆に北朝鮮が意図しない形で核兵器を発射・爆発させる場合が想定される。同国の核開発の歴史は浅く他の核運用国との交流を避けてきたため原子力安全措置が危険なほど未発達である可能性がある。このため核ミサイルを発射し核弾頭がハードウェアあるいはソフトウェアの不具合で勝手に爆発する可能性がある。事態を悪くしているのは北朝鮮が核兵器、弾道ミサイルを増産しようと非常に急いでいることだ。国家が核武装をどんな犠牲を払っても進める姿勢の場合、核・ミサイル双方で安全措置に目をつむる可能性がある。開発ペースを落として安全措置に留意するようにならないかぎり、弾頭やミサイルの事故は発生して当然だろう。.
  2. 別の可能性は北朝鮮の早期警戒システムが無害な飛行物体を巡航ミサイルと誤認識し核兵器による対応を選択することだ。核大国もこのような誤謬を経験し、現場の判断、勇気、個々人の対応で乗り切ってきた。例として1983年にソ連は飛来するICBMと思われるもの5発を探知、緊張下で現場指揮官は探知内容は間違いと判断した。なぜなら米国による攻撃なら5発だけのはずがないからだとした。その判断は正しかったのだが、そこまで考えずにイデオロギーに忠実な指揮官だったら、ミサイル攻撃が迫っていると報告し、報復攻撃を進言していたかもしれない。北朝鮮の専制主義的傾向を考えると早期警戒システムの画面をそのまま解釈する可能性が高く、ソ連指揮官のような分析判断力は期待できない。そうなると北朝鮮が勝手に攻撃と判断し核ミサイル発射に移る可能性がある。このリスクは北朝鮮政権が偏執狂的に外部世界を見ることで高まり、偶発的に核兵器を起動する可能性は大いにありうる。
シナリオ4 テロリストが入手したら
  1. 最後が北朝鮮の核兵器をテロ集団が入手する場合だ。金正恩政権は通常兵器でブラックマーケットの大口売り手だ。ミサイル部品や核技術も同様で核爆弾完成品でも高値がつけば平気で売るだろう。そこにテロ集団が入ってくる。北朝鮮が経済不振や農作物不作に直面すれば売却をためらわないのではないか。核セキュリティ状況をまとめた2016年版報告では核兵器盗難防止など北朝鮮体制を100点満点で38点としている。米軍が北朝鮮核施設を空爆すれば逆効果になる可能性がある。北朝鮮の核貯蔵施設の保安体制も破壊してしまい、核装置が盗難紛失しやすくなるからだ。
  2. 北朝鮮核兵器をテロ集団が入手すれば事態は深刻だ。テロ集団に理性は期待できず国家より行動予測がむずかしい。またテロ集団は行動にも制約が少ない。その例がオウム真理教で最終決戦の日が近いと信じ込み大量破壊兵器を敵に投入した。このカルト集団は世界の終末が近づいており、化学兵器・生物兵器を使用したが、核兵器の取得もめざし、入手していれば使用をためらわなかったはずだ。テロ集団が北朝鮮から核兵器を入手すれば使用をためらうとは思えない。
言外の意味
  1. 米国にとって冷酷な事実は北朝鮮に核兵器があり、各シナリオで投入が想定されることだ。
  2. 受け入れがたいと思うが米国の最良の選択は北朝鮮を核保有国と認め上記シナリオが現実にならないよう同国にはたらきかけることだ。その過程で金正恩に対して米国が北朝鮮を侵攻せず、国内外の反抗勢力を支援することもないと保証することになろう。また中国、ロシアを介して同国と共同作業することになるかもしれないが核兵器の安全体制を引き上げる効果が高まればよい。また合法的チャンネルで同国経済の振興に手を貸せば北朝鮮が急に経済不振や自然災害にあって核兵器をテロ集団に売却するリスクも減るはずだ。
  3. 国務長官レックス・ティラーソンが金正恩に対して出した最近の声明では「米国は政権転覆を求めず、政権崩壊を求めず、半島の再統一を急いで求めず、38度線より北に兵力を送る言い訳を求めず、...米国は貴国の敵ではなく、貴国の脅威でもない」としており、正しい方向に向かう兆候が感じられる。北朝鮮を核保有国ではないと否定する代わりに米国は同国をより安定し安全かつ保安体制の取れた核運用国にするのを助ければ、同国の核兵器の脅威度が低くなるはずだ。■
Francis Grice is an assistant professor of political science and international studies at McDaniel College in Maryland. He has a Ph.D. in defence studies from King’s College London (2014) and recently co-edited the Palgrave Handbook of Global Counterterrorism Policy and the Future of U.S. Warfare. He specializes in Asian Security Studies and International Relations. More of his work can be found here.
Image: North Korean leader Kim Jong Un meets scientists and technicians in the field of researches into nuclear weapons in this undated photo released by North Korea's Korean Central News Agency (KCNA) in Pyongyang March 9, 2016. REUTERS/KCNA.

2017年8月6日日曜日

ナチドイツが原爆開発できなかった理由


原爆特集です。イデオロギーがからむと科学の進歩には逆効果になる証明でしょうか。一方で戦後に罪に問われないよう自己保身できれいごとを並べる科学者の姿は情けないですね。(731部隊の医官で戦後日本の医学界にのし上がった人たちも同じだったのでしょう)あらためて信念を貫き通すことのむずかしさを感じました。

The Scariest History What-If Ever: Nazi Germany with a Nuclear Weapon 最も恐ろしい架空史、ナチドイツが核兵器を手に入れていたらどうなったか



August 4, 2017

  1. 第二次大戦の架空戦史で最大の悪夢はナチドイツが原子兵器を入手した想定だ。1945年春の段階で米国の核開発が最終段階に入っていたがナチの原子力開発は南部ドイツの洞窟内に作られた実験原子炉がひとつあるだけでしかも運用に携わる科学者に原子兵器製造の知識は不足していた。
  2. 仮にドイツ科学陣に十分な知識があったとしても兵器製造に必要な放射性物質がなかった。第二次大戦の驚くべき事実はナチが原爆開発で道を誤ったことだ。
  3. 原子力エネルギーが秘めた力はアインシュタインの相対性理論E = MC2から導かれた。方程式の意味を簡単に解説するとあらゆる物質はエネルギーであり、物質内のエネルギーを求めるには質量に光速の自乗をかければよい。光速は毎秒186千マイルとわかっており積算の結果は恐ろしく規模になる。
  4. 20世紀初頭の物理学ではいかなる物質(たとえばレンガ)でも内部のの原子力エネルギーを解放すれば最終兵器ができることは理解されていた。幸いにもレンガ含むほとんどの物質内の原子は極めて安定しており、連鎖反応をひきおこしそうになかった。だが1930年代に入ると不安定物質のウラニウムを使った実験で核エネルギーによる恐るべき威力を持った装置の可能性が見えてていた。

「ユダヤ物理学」を排斥したナチドイツ

  1. 理論の世界では1930年代のドイツは原子力研究で世界に抜きんでいた。当時の核物理学研究者のトップは多くがドイツ人やオーストリア人だったからだ。1938年に原子核を初めて分割したのはドイツのオットー・ハーンだった。後年ハーンは功績を自慢するが、当時は自分で何をしたのかわかっていなかった。
  2. ハーンの発見を認めたのはリーズ・マイトナーでオーストリアのユダヤ人科学者だった。マイトナーはウラニウムに中性子をぶつけ、ウラニウムの原子核を分割させたことで巨大なエネルギーが生まれたと理解できた。信じられない話だが、ナチ政策によりハーンはじめ「ドイツ人」科学者はマイトナーをベルリン近郊のカイセル・ウィルヘルム化学研究所から放逐しスウェーデンに亡命させた。マイトナーは聡明な科学者であったが、社会的にも政治的にも疎くハーンをそのまま支えたが、ハーンは彼女をユダヤ人として政府方針と同様に処遇していた。
  3. マイトナーはともかく、ユダヤ系科学者はそこまで運に恵まれなかった。1930年代末になるとドイツ、オーストリアのユダヤ系か物理学者はほとんどが英米等に国外脱出している。中でもアインシュタインが有名だが偉大な科学者は他にも多数いる。
  4. ナチ科学者がその後を引き継いでユダヤ人が去った研究機関でで高位職を貪欲に独占していった。去ったのは他に外国人や反ナチ学者が多数いた。新しく登場した中には二流の教員や科学者もおり、人種思想的に劣等と見ていた者が残した成功例に嫉妬していた。物理法則やアインシュタインの相対性理論を見下す者まであらわれた。
  5. こうした科学者やナチ高官はアインシュタインの相対性理論やその後の成果を「ユダヤ物理学」と呼んでいた。唯一有効な物理学は「ドイツ」の「国民」物理学のみであると主張し、古典的実験物理学の域を出ずアイシンシュタインが解明した現実を無視しがちだった。とはいえドイツ物理学者の全員が「ユダヤ物理学」を軽蔑したわけではなく、ナチ高官の中にも原子力超兵器の可能性を評価する向きもあらわれた。

ドイツ最高の物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルグ

  1. 1930年代のドイツで最も有名な物理学者はヴェルナー・ハイゼンベルグだった。(アインシュタインはニュ―ジャージーに移っていた)ハイゼンベルグは国際的にも量子論や本人名を付けた不確定性原理で知られる優秀な理論物理学者であり、数学者でもあった。ドイツ最年少で正式な教授職に就任した。
  2. ハイゼンベルグは1932年のノーベル物理学賞を不確定性原理で受賞したが先行員会はハイゼンベルグのカリスマ性の前に他の優秀な物理学者を冷遇したのだった。37年にはライプチヒ大の先任教授職に就く。
  3. 本人はナチ信奉者ではなかったが、ドイツ人として愛国精神に富んだ人物だった。当時のドイツ科学者や兵士同様に本人も政治性がなく、政府へ忠実であろうとした。ドイツの原爆開発の中心人物になったのは当然のことだった。
  4. ところが1937年7月にハーンが原子核分割に成功する数か月前にハイゼンベルグはSS機関紙の攻撃を受ける。非難を扇動した著者はヨハネス・スタルク、熱狂的反ユダヤ主義でハイゼンベルグの成功とユダヤ人物理学者とのつながりを不快に思っていた。ハイゼンベルグの研究分野ではユダヤ人学者との交流は当然だった。記事はハイゼンベルグを「白いユダヤ人」と非難し、アインシュタイン相対性理論を広め、真正ドイツ人の活躍の場を奪い、ナチ党を軽視しようとしたと述べた。
  5. このような個人攻撃はナチドイツで日常茶飯事で、強制収容所送り、さらにもっと深刻な結果も生まれた。ハイゼンベルグは親友の助けを求め、ナチ上層部にさえ頼り汚名返上を狙った。ハイゼンベルグの母親がハインリッヒ・ヒムラーの父親の知己で書簡をSS親衛隊長官に手渡した。SSによる徹底的調査を経てヒムラー自らが本人の容疑を晴らした。
  6. ヒムラーは本人の研究の継続を許したが、相対性理論他ユダヤ人科学者の研究成果を用いる際は事前申請するとの条件付きだった。ハイゼンベルグもこの条件を受け入れ、真剣にドイツ原爆開発にとりくんだ。

重水炉という選択

  1. ドイツは国家プロジェクトとして原子力研究を連合国より数年先行して開始したがその活動が気付かれないはずはなかった。ドイツ帝国を逃れた物理学者が多数おり、連合国の各国政府もドイツの意図を急速に理解し始めた。米国での研究を加速したのがアインシュタインでフランクリン・D・ロウズベルト大統領へ書簡を送りドイツが核兵器開発に成功した場合の懸念を伝えた。
  2. 1941年までにドイツは実験原子炉事業を二型式で運用していたが、成功は限定的だった。ハイゼンベルグのチームはドイツ全体の研究を危険にした工学上の選択をしている。
  3. 反応炉はウラニウム238の連鎖反応を誘導して作動する。反応をはじめるため中性子を放射性アイソトープの周りに流すが、黒鉛や重水で減速させる必要がある。ドイツは重水を選択したが、自然界にほとんど存在せず、製造も困難な物質だ。
  4. 1940年にドイツ軍はノルウェーのベルモック重水工場を占拠した。英軍情報部はドイツ反応炉の基本情報をつかんでおり、ノルウェーの重水供給が脆弱な要素だと理解した。1942年なかごろまでにノルウェー工場は年換算10千ポンドの重水を生産しハイゼンベルグのライプチヒ、ベルリン両拠点に供給していた。英軍落下傘部隊による第一回強襲作戦はグライダーが離れた地点で墜落し悲惨な結果に終わった。
  5. 英軍は再度工場攻撃をやや慎重に実施した。ノルウェー人特殊部隊が工場内に侵入し水タンクを吹き飛ばすと、英潜水艦が海上輸送を止めた。重水の喪失でドイツ研究活動は遅れたが取りやめにはならなかった。

U-235濃縮への挑戦

  1. 重水補給路はその後も攻撃対象となったが1941年までにドイツ科学陣は原子爆弾製造方法で米国の研究とほぼ同じ結論を得ていた。(1)濃縮ウラニウム分裂装置、(2)プルトニウム分裂装置、または(3)「反応炉」爆弾のいずれかだ。米国が原子炉製造に成功し、ウラニウム爆弾・プルトニウム爆弾双方を大戦終結までに完成させたのに対し、ドイツ科学陣は作動可能な原子兵器製造に必要な具体的構想を完成できなかった。
  2. 広島上空で炸裂した米製原爆はウラニウム分裂装置だった。この爆弾製造のカギは十分な量の高度濃縮ウラニウム235の確保にあり、自然界に豊富にあるウラニウム238内に微量があるだけだ。U-238からU-235を抽出するには化学製法ではだめとわかり時間がかかり高価なガス拡散工程が必要だ。
  3. ここでナチの人種政策が原爆製造で大きな障害になった。ガス拡散技術ではグルタフ・ヘルツが最先端だったが本人の叔父がユダヤ人だった。そのためグスタフはベルリン工科大物理学部長の地位を追われ、後を引き継いだドイツ人科学者はヘルツの業績に関心を示さず、研究を続ける能力もなかった。このためドイツはウラニウム・アイソトープ分離技術を実用化できなかった。
  4. 両陣営が原爆製造にU-235がどれだけ必要なのかという疑問に直面した。この問題はとくにウラニウム分離の技術的困難さのため重要となった。ハイゼンベルグ率いるドイツ側はU-235分裂装置で決定的かつ深刻な理論的間違いを犯した。実際より多くのU-235がないと実用に耐える兵器はできないと考えてしまった。
  5. この間違いがその後に続く論議を生んだ。ハイゼンベルグはU-235の臨界量をおおまかに計算しようとしていたようだ。臨界量は連鎖反応をひきおこすものだ。本人たちはまちがって臨界量までにはU-235が1トン必要と結論付けてしまう。
  6. 実際には米科学陣が求めたように臨界量はU-235が100ポンド未満で十分だった。ドイツ側は濃縮U-235の1トン生産は事実上不可能とわかっていた。

シュペーアの支持を取り損なう

  1. ドイツがマンハッタンプロジェクトに相当する開発を開始するかはハイゼンベルグやドイツ科学者ではなく帝国の軍需相アルベルト・シュペーアの責任だった。シュペーアは科学陣が終戦までに強力な兵器を開発できるかを知りたかった。ハイゼンベルグは1942年にシュペーアに会見し、原子力の可能性を軍やSS関係者にも説明している。
  2. 会談でシュペーアがハイゼンベルグに何を話したかは不明だが、あきらかにハイゼンベルグはウラニウム原料の原子力兵器実現の短期的可能性さらに実用的反応炉機関を搭載した潜水艦、水上艦の実現可能性をシュペーアに納得させていない。ハイゼンベルグは研究開発予算の大幅増を要望していない。
  3. シュペーアはドイツ原子科学者の戦争への貢献度は皆無と結論付け、かわりに有望なロケットエンジン、ジェット推進を重視すると決めた。ドイツ科学陣はU-235を十分に抽出して爆弾製造できるとは信じておらず、シュペーアにドイツ産業界の全力をもってアイソトープ分離事業にあたらせるよう求めていない。だが米国ではテネシー州に巨大なオークリッジ施設を建築しこの作業を行ったのだ。

プルトニウム爆弾に向かう

  1. ただしハイゼンベルグに全く希望がなくなったわけではなかった。ドイツ科学陣は実用的な核反応炉の実現に向かっていた。ハイゼンベルグは仲間と反応炉自体を「汚い爆弾」として使う構想を練っていた。炉ではU-238を使い、真の意味の原子爆発につながる急速な連鎖反応は無理だが、臨界段階まで作動させて通常爆発物で強力な放射線を生むことを構想ししていた。その結果大量の放射能汚染が発生する。1トンのウラニウムで作る原爆と同様にこの構想も非現実的だった。そもそも炉爆弾をどうやって運搬するのか。
  2. ドイツの最後の望みは反応炉で相当量のプルトニウムを生産し分裂爆弾の材料とすることだった。長崎で投下されたのがプルトニウム爆弾だ。ドイツは高放射性のプルトニウムが炉内でU-238の「燃焼」の副産物として生まれると理解していた。十分な量があればプルトニウムはU-235と同等あるいは以上に原子爆弾の原料となる。ハイゼンベルグたちはシュペーアやその他ナチ高官との会談でこの点を指摘していた。
  3. ハイゼンベルグのシュペーア等との会談で明らかなようにドイツの反応炉研究が学術研究の域を出ていないのは驚くべきことだ。ドイツも実験用炉数点を作ったが、各チームばらばらで成果を共有せずドイツは炉内でウラニウム堆積がどんな形状になるかを理解するのに連合国より長期を要してしまった。ハイゼンベルグ以下研究陣は原子力研究を他の学術研究で空いた時間で進め、占領国へプロパガンダ目的で訪問したり、論文執筆にいそしんでいた。
  4. ドイツ国内の序列構造のため産業界を原爆製造に動員できなかった。ドイツにはロスアラモスのような科学界重鎮を集めた施設はなく、テネシーの巨大分離工場に匹敵する拠点もなかった。ドイツは不確かな重水供給に頼らざるを得ず、英米の空襲で重要な産業拠点、交通施設、研究施設が次々に破壊されていた。
  5. 1945年までにドイツ研究チームはなんとか研究用反応炉をドイツ内政部のスヴァビアン地方の洞窟内に完成させソ連赤軍を避けていたが、この地は偶然とはいえ若きアインシュタインが青春時代を送った場所だった。ハイゼンベルグの努力にもかかわらずドイツは連鎖反応に成功しないまま米軍が到着した。
  6. 米軍と行動を共にした連合国側の科学者がドイツの成果に目を奪われない状況にドイツ科学陣は驚くことになる。ドイツ製反応炉は好奇心をそそるだけの存在だった。米側の懸念はウラニウム残滓、重水だけであとはドイツ物理学者をロシアの手に渡さないことだった。

ナチ原爆開発はどこでつまづいたのか

  1. 終戦でハイゼンベルグたちは自分たちのプロジェクトが失敗したのはハイゼンベルグが意図的に妨害したためとほのめかした。ハイゼンベルグはU-235の臨界量を1942年時点で理解していたが、わざとシュペーアに誤った情報を与え進捗に不満を感じさせたと説明している。ハイゼンベルグは師と仰ぐデンマークのニルス・ボーアとコペンハーゲンで1941年に会見したが大きな関心を呼んだが、ハイゼンベルグがナチ原爆の可能性を知り道義的に悩んだと描く戯曲がある。
  2. ドイツの失敗の理由は実は戦後に科学者たちが告白した道義上の問題と無関係だとわかる。手に入る証拠のほとんどからドイツ物理学者は条件さえあえば原爆を喜んで作っていたことがわかる。実際に製造できなかったのには明白な理由がある。
  3. 一番はドイツが深刻な頭脳流出に苦しんだためで、原因はナチの反ユダヤ主義にある。ドイツやヨーロッパの優秀な科学者が外国に逃げ、多くは英米でナチ打倒に才能を活用した。ハイゼンベルグなど残された科学者も優秀ではあったがマンハッタンプロジェクトに終結した頭脳力の比ではなかった。
  4. 連合国側の組織力もドイツを上回るものだった。ドイツにレズリー・グローブス将軍やロバート・オッペンハイマーに匹敵する人物はいない。ドイツの事業は各省庁のたらいまわしで結局終戦までこのままだった。科学者も調整ないまま無駄な努力を余儀なくされた。
  5. ドイツは米側の進展具合を戦争中一貫して知らずに幸せだった。だがこれはドイツ側の自己満足にすぎない。いかにも傲慢にドイツは自国科学水準がアメリカの後塵を拝するとは信じようとしなかったのだ。連合軍側の情報管制が有効であったことも一因だ。

ナチ科学者の犯した間違い

  1. ヨーロッパから科学者が続々と脱出する中で1943年に加わったボーアがドイツでの進捗状況をかなり詳しく(同時に遅れた状況も)連合軍情報部に供述した。戦後に捕獲されたドイツ科学者たちは日本への原爆攻撃を知らされた後の会話をこっそり盗聴されている。テープでは彼らが驚き、困惑しながら言い訳を言う様子が残っている。
  2. ハイゼンベルグと仲間たちは戦時中に根本的概念で間違いを犯しており、原爆製造は困難かつ非現実的と思いこんでしまった。間違いにはU-235分裂に必要な臨界量算出から反応炉内でU-238を形成する最良の条件の把握、アイソトープの分離まで多々ある。こういった問題をすべて比較的容易に解決したのが連合国側の科学陣であった。
  3. 最後にドイツに文化的偏見があったことは政権にとどまらず、科学者層のほとんど、政府官僚、軍人まで共通でドイツは本格的な開発に入れず、一方で「真正の」ドイツ人科学者はロケットやジェット開発に従事した。その成果のジェット機やロケットは確かに連合国の技術水準を上回っていたが、軍事的に優柔不断な意思決定が見え無駄も多かった。
  4. 反面、もしドイツが終戦までに原子力兵器数発を完成していれば、V-1やV-2数千発を英国に向け発射する代わりに歴史は明らかに変わっていたはずだ。このもう一つの歴史が現実にならなかったことは幸運以外の何物でもない。■
This article by Jonathan F. Keiler originally appeared on Warfare History Network.
Image: Wikimedia Commons