2016年2月6日土曜日

カーター長官が公表した第三相殺戦略の技術要素を見る


第三相殺戦略で公表してもいい部分をカーター長官は発表しました。その推進役がSCO戦略戦力整備室です。

Robot Boats, Smart Guns & Super B-52s: Carter’s Strategic Capabilities Office

By COLIN CLARK and SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 05, 2016 at 4:00 AM

A US Air Force B-52 flies over the Pacific on a flight out of Guam. Bombers like this one challenged the Chinese air defense one earlier today.US Air Force B-52
WASHINGTON: 重武装機 arsenal plane、ハイパー高速発射弾、高速飛行マイクロドローンの群れ、...もっと多くの開発案件があるが、秘匿情報だ。ではこれらを開発しているのはどこか。戦略戦力整備室 Strategic Capabilities Office(SCO)で、アシュ・カーター国防長官が2017年度予算案の紹介で初めて公表したペンタゴンの新設組織だ。SCOはカーターが重視する第三の相殺戦略の源泉であり、ペンタゴンがめざすアメリカのグローバルパワー維持のためロシアや中国が追随できない技術を開発する部局である。
  1. カーターが同室を2012年に創設した目的は「既存のDOD、各種情報機関、民間部門に新しい役割を与えて画期的な技術を実用化することで敵対勢力へ対抗すること、重点はいかに早く実用化するかで、10年や15年ではなく早く第一線に投入する」としていた。
SecDef spoke at the Economic Club of Washington, D.C.Ash Carter previews 2017 budget at Washington Economic Club
  1. その後カーターは同室の仕事ぶりを評価し規模を拡大し、長期投資案件も任せたことで、名実ともに戦略的な能力整備を行う部署にした。
  2. SCOのとりまとめ役にカーターが選んだのはウィリアム・ローパーで、カーターが「優秀な物理学者」と称賛する人物だ。(カーターも理論物理学者である) ローパーは「ついでながらローズ奨学生だ」とする。(カーターも同様)
  3. では具体的な武器を見ていこう。
重武装機とは
  1. 重武装機というとB-52に何トンものセンサーや武装を施すように聞こえる。カーターはこう言っている。「古い機体(最新のB-52は1964年製造)を飛行発射台に変えて各種通常兵器を搭載する。重武装機は巨大な空中弾倉として、第五世代機へのネットワーク機として前方センサーや目標捕捉のため既存の各種システムの組み合わせで全く新しい機能を実現する」
  2. 本稿の記者の一人コリンは同機の詳細をつかもうとした。空軍の迅速戦力整備室(RCO)はこの件に参画していないと判明したが、普通に考えれば同室が絡むのが自然な流れだ。RCOは長距離打撃爆撃機(LRSB)案件と関連技術を取りまとめている。コリンはB-52改装の確証は取れなかったが、理屈の上では同機の選択はぴったりだ。
  3. 実現の暁にはノースロップ・グラマンの多機能高性能データリンク(MADL)または同様の装備で目標標的や脅威対象でF-35やF-22が集めて莫大な量のデータを処理するのではないか。ミサイルや各種精密兵器を搭載する兵倉庫もつくだろう。
A Navy patrol boat converted to operate unmanned as part of an Office of Naval Research experiment in autonomous "swarms."海軍の哨戒艇が無人艇に改造されたのは海軍研究所による自律型「大群」無人艇運用構想の一環だ。
  1. 構想の一部は前からある。単に見過ごさられてきただけだ。マッケンジー・イーグレンはアメリカ公共政策研究所でペンタゴン予算を検証したところSCO予算が2013年度から盛り込まれているのを発見した。同室が絡んだ案件としてカーター演説では重武装機含め三つの事例を紹介している。空中、水中を移動するマイクロドローンの大群とハイパー高速発射弾だ。
  2. さらに資料からイーグレンは「SCO予算が2014年の125百万ドルから2015年に175百万ドル、さらに2016年委530百万ドルへと急増している」のを見つけた。ここには海軍のシードラゴンや無人航空機用ペイロード案件が含まれ、「マイクロUAVで自律的に大群で運動する、またシーモブでは無人水上移動体を多数一度に協調的に運航する」のだという。
  3. カーターは政策スピーチでこのシーモブについてこう表現している。「海に関して自律推進舟艇の開発が完了しており、ネットワークで接続すればあらゆるミッションの実施が可能だ。艦船防御から接近偵察まで人員の生命を危険にさらすことはない。技術進歩によるところが大きい。たとえばマイクロドローンでは民間技術を応用して3-Dプリントで製作するし、小型艇も人工知能のアルゴリズムを応用して建造するが、火星着陸機でこの技術の原始的な応用がされていた」
弾丸でミサイル迎撃をする
  1. 本稿の共同執筆者シドニーはハイパー高速発射弾(HVP)についてこれまで調べてきた。カーター長官はハイテク案件を四つ紹介したがHVPは文字通り爆発的な効果をもたらす。精密誘導弾であり、陸軍の榴弾砲や海軍の艦載砲に応用してミサイルの撃破が可能になるという。
  2. 「このハイパー高速スマート弾を電磁レイルガンに応用すれば局地防衛に使えるはずだ」とカーターは述べている。「既存の砲門で発射が可能で、海軍の駆逐艦や陸軍のパラディン自力推進型榴弾砲に応用できる」(陸軍や海兵隊が多用するM777榴弾砲でも使える)
M109 Paladin howitzerM109 Paladin howitzer
  1. これはどんな意味を持つのか。スカッドを生産してどこかに向けて発射するのは迎撃弾を生産しスカッドを撃ち落とすよりはるかに簡単にできる。つまりロシアや中国、あるいはイランや北朝鮮は安上がりな攻撃兵器の連続発射でこちらの高価な防衛網を圧倒しつつ迎撃手段が玉切れになるのを待てばよい。
  2. そこでレーザー兵器に関心が集まっており、飛来するミサイルを一回数ドル程度の電力消費で破壊する可能性がある。同様に海軍が開発中の電磁レイルガンも一発25千ドルのハイパー高速発射弾をマッハ7で100マイル先まで飛ばすことができる。ただレーザーもレイルガンも開発は完了しておらず、就役中の艦船が有する発電容量以上の電源が必要になる。そこで海軍研究所とSCOはレイルガン用の発射弾としてHVPを再考し、既存の火砲でも発射できるようにする。これなら既に数百門が利用可能だ。
  3. 米陸軍砲兵隊は155 mmのエクスキャリバー精密誘導弾を広く使っており、メーカーのレイセオンが海軍用に開発中の改造弾は高速攻撃艇を撃破できる。BAEシステムズのスマート砲弾にはフィンとロケット動力もついており、有効射程を広げられる。
  4. 「火砲から精密弾を運用する技術はすでに実用化しており、今やどこまで改良を進めるかの問題だ」とクリス・キング退役陸軍大佐は言う。キングはBAEの兵器システムズ部門で開発業務を率いている。
BAE Systems imageBAE Hyper Velocity Projectile (HVP)
  1. HVPはBAEシステムズの製品だ。BAEはロケット推進弾を二型式開発した。そのうち長距離陸上攻撃弾Long-Range Land Attack Projectile (LRLAP) は重量230 lb.射程63カイリで現在はロッキード・マーティンが海軍のDDG-1000ズムワルト級新型駆逐艦用に製造中だ。同艦は155㎜艦砲を搭載する。一方、重量100 lb射程54-nmの各軍共通誘導発射弾Standard Guided Projectile (SGP)はBAE自社開発で共通サイズの小型弾を陸軍の155 mm榴弾砲や海軍の5インチ砲(127 mm)で使う。
  2. 「LRLAPとSGPはBAEシステムズ含む業界でロケット推進で火砲の利用の延長でめどがついたのを示しています」(キング)
  3. HVPにロケット推進機構はついていない。このためHVPは安価かつ小型(68ポンド)だが射程も短く艦砲からは50カイリが限界だ。LRLAPやSGPに比べるとHVPは大型弾頭の長距離発射には適していないし海上艦船や陸上部隊の砲撃には適していない。ただし小型であるので機動性は高く、これまでの迎撃手段では不可能なミサイル防衛対策に応用できる可能性は高い。
  4. HVPの中核をなす「飛翔体」には誘導装置と弾頭を入れて28ポンドしかない。この中核部分を標的の種類にあわせ各種構成する。水上艦から巡航ミサイルを迎撃する、あるいは各種手段から発射が可能で、電磁レイルガンからでも、伝統的な火薬応用の火砲からでも運用可能だ。
  5. 「もともとレイルガン用に想定したが、海軍とDoDは他の火砲からも運用可能と見ていた。飛翔用の構成部品だけ変えればよい」とキングは記者に語った。
  6. どこが変わるのか。まず砲口速度、制御性、精密度でスマート砲弾は地上の静止目標を相手にすれば要求水準は高くない。GPS座標でホーミングしアクティブシーカーは不要だ。だが艦船のような移動目標に対しては砲弾は標的位置の情報を更新し進路を調整する必要がある。小型で超音速のミサイルのような標的が一番難易度が高い。
  7. カーター長官はミサイル防衛用にHVPだけ改修するのではなく、火砲にも手を入れる必要があるとみる。「砲の手直しもある程度必要で高速発射体に対応させるほか、これまでと違う砲弾への対応も必要だ」とキングは記者に語った。ミサイルが同時に多数飛来する場合には短時間で多数の砲弾を発射する必要があるが、「自動装てん機構が必要になるだろう。また砲身の寿命延長対策も必要だろう」
Navy Mark 45 5-inch cannon firingNavy Mark 45 5-inch cannon firing
  1. 「HVPだけ開発して火砲はそのままというわけにいかない」とキングは言う。新型砲弾を従来型火砲で発射して水上目標や陸上を攻撃するため改良が必要だとキングは言う。
  2. 同時に射撃管制やセンサーも改修が必要だ。海軍ではイージス防空ミサイル防衛システムを駆逐艦、巡洋艦に搭載しているが、HVPをどう接続させるか検討しなくてはならない。陸軍でイージスに最も近いのは統合対空対ミサイル防衛戦闘指揮統制システム(IBCS)だがまだ開発段階だ。
  3. カーター一派はHVPを安上がりに既存火砲に新しい用途を生む手段だと話している。HVPをミサイル防衛に使えば確かに高性能迎撃ミサイルやレーザー兵器をゼロから開発するより安価である。だが実際にミサイルを撃破するまでにはシステム開発が相当の作業になるとキングは言う。DIUx
もっとある新技術分野
  1. カーターの演説ではそのほかの技術も言及されているので実際にスピーチを見てもらいたい。
  2. SCOはカーターの進めるその他の大型技術革新にどう関与するのか。DIUx(国防技術革新統合実験)の名称でカーターはシリコンバレーに弑さなオフィスを開設しており、民間ハイテク部門にペンタゴンとの共同事業を進めさせ、これまでの深い不信を乗り越え、軍とは関係ないと考える民間の姿勢を変えさせようとしている。
  3. 「SCOとDIUxで一部重複部分があるが、前者は既存技術の応用を中心にしているようで、DIUxは予算もなく、ハイテク企業とペンタゴンの橋渡し機能で民間新技術を国防に使うのが目的だ」とイーグレンは指摘する。イーグレンはペンタゴンの政策決定層に対してDIUxとSCOの業務をもっとよく機能させる興味をそそる案を提示している。
  4. 「二つの組織が共同して機能していけるかが課題です。今のところはうまくいっていないのではないでしょうか。理想を言えば、DIUxは全く革新的な技術を発掘し、SCOはそれを受け短時間で試験評価をし、調達できるか判断すべきでしょう。つまりDIUxからSCOへの連携が必要です」(イーグレン)■
これはカーター演説を一度読む必要がありそうですね。もちろん公表できない範囲の極秘技術がもっとありそうですが。


米陸軍は同盟各国とともに対中国抑止力の一環となる CSBA提言


アジア太平洋での陸軍の役割は拠点防衛であり、ハイテク部隊として領土を守りつつ空海軍の作戦を支援すること、というのでは米陸軍としても面白いはずがありません。ただし以下の構想はよく練られており、米議会内にも支持者が生まれそうですね。そうなると陸軍はますますしぶしぶ対応を迫られることになりますね。それにしても陸上自衛隊が対艦ミサイルを整備してきたのは先見の明があったのでしょうか。CSBAからはたくさんの提言が出ていますね。

 Reshape US Army, Asian Alliances To Deter China: CSBA

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 03, 2016 at 1:33 PM

Missile Defense Agency photo米陸軍のTHAADミサイル発射風景 
WASHINGTON: 米陸軍に太平洋で中国を封じ込める役目を与えるべきとワシントンDCでも著名な国防専門家が議会で本日語る。大きな役割として政治的にも財政的にもきびしい決断を下さないと新装備、新配備場所の確保は不可能とアンドリュー・クレピネヴィッチが議会での発言の前に記者に語ってくれた。
クレピネヴィッチの構想の中心はこうだ。米陸軍のミサイル部隊(対空、対艦、ミサイル防衛、長距離攻撃)を定期的にあるいは恒久的に西太平洋諸国に駐留させる。受け入れ同盟国もそれぞれの能力の許す範囲で地上部隊を提供して重要な役割を果たす。日本には初期段階だが対艦ミサイル部隊がある。フィリピンでは国が支援して非正規防衛隊を組織し、レバノンのヒズボラから技術上の教訓(倫理面は除く)を応用する。
Andrew KrepinevichAndrew Krepinevich
米軍と現地地上部隊をともに日本からインドネシアに至る第一列島線上に配置し、西太平洋防衛の強力な背骨にする。空軍、海軍、海兵隊が自由に活動する一方で島しょ部分に配備する陸軍部隊は不動の金床になる。
「地上部隊は空軍海軍兵力の重要な補完機能を果たす」とクレピネヴィッチは記者に語る。「列島上の地形のため地上部隊は地点防御に専念することになる。紛争発生時には各島の間の移動は困難になるからだ」(輸送機、輸送艦は途中で撃墜、撃沈される可能性が高い)
そこで「海空の部隊が機動作戦兵力の中心となる」という。「地上軍は多方面の作戦に従事する。C4ISR、対空、対ミサイル、沿岸防御や対潜戦も想定できる。第一列島線に沿って防御の姿勢をとることで、海軍や空軍の兵力は本来すべき仕事に専念できる」
上下両院で陸軍の役割拡大には大きな関心が寄せられているが、簡単に売り込める話でもない。影響を受ける方面が多数あるからで、陸軍自体、国防長官官房、また同盟各国も含まれる。
  • 同盟各国は米軍基地が恒久的に残ることを懸念するはずだ。既存の各国でも政治的な摩擦が増える。日本と韓国がその例で、今のところ基地のないフィリピンでも火種になる可能性はある。
  • 陸軍も島しょにとどまったままでの空軍や海軍の作戦の支援は望まない。第二次大戦で欧州を席巻した実績や第三次大戦で想定したロシアと正面から戦う構想に比べるといかにも華がないためだ。
  • 国防長官官房ではチャック・ヘイゲル前国防長官を除けば欧州を差し置いて西太平洋での任務を中心にした予算編成には抵抗があるはずだ。
「海兵隊も陸軍もハイテク戦場で相手方も高性能装備を投入してくる可能性を想定しており、まずロシアがあるが、中国との地上戦は想定外だ」と記者に語った国防高官がある。中国は巨大すぎるとしてこんなジョークもある。もし米陸軍が中国に上陸したら北京政府は現地警察署に全員逮捕すべしとの命令を出せばよい。
だがクレピネヴィッチが想定するのはアジアの地上戦ではない。陸上部隊に敵の海、空、サイバー空間の目標にあたらせるほか、中国が占拠する島しょ部分あるいは本土に長距離ミサイル攻撃を実施させる構想だ。このような分野横断的な作戦は新しい共用陸軍教本ですでに記述があるが、いまだに軍内部では理解しにくいあるいは快く思わない向きが多いままである。
米陸軍を変革する
西太平洋で将来発生する戦役を想定すればすべての軍部隊が変革を迫られる。「中でも最大の変化が米陸軍に必要だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「ちょうど特殊部隊がこの20年で急成長したように、列島防衛作戦で大きく伸びるのは砲兵隊、防空、ミサイル防衛、沿岸防御つまり対艦巡航ミサイル部隊であり、攻撃用のロケット部隊だ」
「特殊部隊と同様に陸軍が従来の地上部隊では重要視されてこなかった部門に優先順位を置くべきだと言っている。歩兵部隊については言及していない、装甲部隊も同様、重砲部隊も同様だ。旅団規模の戦闘部隊に各種装備を組み合わせる」
また陸軍が優先してきた部隊配備方法とも違う構想だ。冷戦終結後、陸軍は西ドイツと韓国に配備した大部隊を「遠征部隊の編成に切り替えてきた」とクレピネヴィッチは指摘する。
だが迅速展開はここでは必要とされない。いったん戦闘が始まれば中国の「接近拒否領域否定」の防衛体制が米国内から部隊が戦闘地域に移動するのを邪魔するはずだ。代わりに「列島防衛体制として第一列島線の最北部にある日本を支援するか、南方のフィリピンなどを守るのか、どちらにせよ陸軍の大部分は戦闘開始の段階で前方配備あるいは前方駐屯しているはずだ」という。
「これは一夜にして実現するものではない」とクレピネヴィッチは強調するが、それでいいのだ。「1949年時点で西ヨーロッパにはわずかな兵員しか配置していなかったが、その後拡張した。同じように西太平洋の安全保障リスクが高まれば、呼応して基礎固めが必要になり、時間をかけて軍の配備場所は前方に移動するはずだ」
そこで最初はゆっくりスタートし次第に加速して最後は一気に実現する方法論が良いとする。共同演習の頻度を増やし、その後定期交代で部隊を配備し、その後恒久的基地に配備する。
「現状では陸軍旅団で定期的に各国軍と演習をしている部隊がありますが、これをもとにストライカー旅団だけではなく防空任務、ミサイル防衛も進めるのです。時間がたてば各要素は通常の実施になります。そうですね数か月あれば十分でしょう」
「次の段階として現地に半年ほど駐留する部隊を指定し、帰国後二か月して別の部隊がまた半年駐留します」 最終的に米陸軍の恒久的プレゼンスを認める同盟国があらわれるだろう。
「このやりかたはゆっくり進めるのが肝要です。時間をかけて進化するもので各国もこのやり方の恩恵がわかるはずです」
Japan Ground Self-Defense Forces soldier.Japan Ground Self-Defense Forces soldier.
アメリカのプレゼンスを期待する域内各国
上院軍事委員会において戦略国際研究所のマイケル・グリーンはアジア太平洋地区は米軍プレゼンスをより多く受け入れる用意があると証言。ただし限界もあるとした。
「米陸軍のパシフィックパスウェイズ事業は域内で好意的に受け止められています」とグリーンは発言。「課題はアジアでストライカー旅団や巨大陸軍の編成を運用できる国は限られることです。(クレピネヴィッチが提唱するのはもっと小規模の部隊で容易に現地で受け入れられそうだ)
「この5年間でアジア10か国のエリート層を対象に調査をしており、ヴェトナム、インド、日本で戦略的に思考できる人たちが米軍増派を望んでいるのは注目に値します」とグリーンはジョン・マケイン上院議員に対して発言。「各国は協力体制の強化を望み、共同演習の回数増を望み、貿易協定の拡大を望んでいます。ただし基地の設置は各国とも歓迎していませんが、新しい取り決めを受け入れる用意はあります」
例としてオーストラリアは米海兵隊の巡回配備をダーウィンで受け入れており、まもなく米戦闘機部隊もオーストラリア空軍基地に配備できるようになるとグリーンは紹介。フィリピン最高裁は新規の「強化した防衛協力取り決め」を合憲とし、米軍部隊の駐留増加を認めている。ただしスービックベイやクラーク基地への恒久的駐留は話が別だ。今やかつての南ベトナムのカムランベイへの米軍寄港さえも可能になったという。
ただし複雑な法的問題により「台湾とは前方配備や前方基地設置の話ができない」とクレピネヴィッチは記者に述べている。「それでもシンガポール、フィリピン、ヴェトナムのような例を見れば5年10年前よりはるかに大きな機会を歓迎する機運がひろがっている」
Army photoUS Army soldiers train their Filipino counterparts.
フィリピンの「ヒズボラ」から巡航ミサイル運用まで
では各国別に何を期待でき、何を米国から期待するのか。以下まとめてみた。
日本は第一級の軍事力を保有しており、見方によっては中国を上回る戦闘能力だ。装備の多くは米軍と親和性があるが、「日本にあって米国にないのは沿岸防御能力だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「陸上自衛隊の部隊には対艦巡航ミサイルが配備されれており、列島防衛の任務では大きな役割を果たせると思う」
「また自衛隊は普通師団一個を迅速対応部隊に変換中だ」とし、「さらに一個旅団を揚陸教習部隊に変えて、米海兵隊のような兵力投入強化効果を狙っている」とする。
総じてクレピネヴィッチが接した日本側は第一列島線北部にあたる日本は中国に対して防衛可能だと自信を持っているが、南方に下がると台湾とフィリピンが大きな危険にさらされており、大規模な援助が必要だ。だが両国とも全く無力というわけでもない。
「フィリピン、台湾で共通して必要なのは侵攻部隊に手ごわい抵抗を与える能力の整備です」とクレピネヴィッチは言うが、どうやってこれを実現するのか。「現代に合った形の非正規部隊を創設するのです。ヒズボラ型の部隊です。フィリピンでは米軍が教官や顧問を送ることができます」
ヒズボラはよく「ハイブリッド戦」の実行例とされる。ゲリラ戦術に国家級の戦力を組み合わせている。ロシアが支援する分離派も同様にハイブリッド部隊の例だ。侵攻軍に楽しい思いを許しておく必要はないだろう。
「ヒズボラを見てください。ロケット弾があり、砲兵もあり、迫撃砲やミサイルも使っています。それでも非正規部隊の扱いですよ」とクレピネヴィッチは言う。「台湾やフィリピンでも同様の部隊を組織すれば敵側は簡単に占領できなくなります」
米側は(台湾以外なら)訓練を提供し、高性能でも安価な兵器類として精密誘導迫撃弾を提供するほか、連絡司令部をネットワーク接続し米軍の持てる力すべてとリンクさせる。衛星や無人機で情報収集監視偵察をすれば同盟国側は目くら撃ちしなくていよい、空爆や長距離ミサイルで精密攻撃を加えれば同盟国側が火力で圧倒されることはない。
ただしクレピネヴィッチ構想で最大の難関は基地取り決めではなく国防総省内部の価値観でもなければフィリピン版ヒズボラの創設でもない。それは長距離攻撃用ミサイルだ。多くの専門家が中国本土の目標を攻撃すれば即座に紛争はエスカレートすると恐れている。クレピネヴィッチはこれに対して長距離攻撃の実施が不可能であれば抑止力が弱まり、中国は一層多くの資源を攻撃に回してくると反論している。
「中国国内の重要目標の攻撃で中国にリスクを意識させる能力は米国の指導部に重大な選択肢となる。人民解放軍の側にも問題が生まれる。重要施設が米軍の攻撃対象ではないとなれば、防空体制や施設の強化が必要でなくなる。その分の資金は攻撃手段に回るはずで潜水艦やミサイルが強化されてしまう。もしこちらが相手方にリスクを感じさせれば、中国はPLAの装備強化を防御に回すことが多くなるはずでその分脅威が減る」という。
「中国との対決は1980年代の空陸一体型戦闘でソ連を想定した場合とは異なる。もし中国側が戦力を効果的に使っても周囲国を自分の思い通りにできないと判断すれば、攻撃の実行を思いとどまるのではないか」■


2016年2月5日金曜日

前方配備空母の追加で日本は戦略的な安全保障思考を得ることができるか


二隻目の空母前方配備の話題は以前もお伝えしましたが、このたび別のシンクタンクもその方向性を指摘した報告書を刊行し、米上院において検討されているようです。配備先に日本が最有力ですが、実施となれば国内感情の視点ではなく、インド太平洋の安全保障の観点から支持したいと思います。さらに中国を封じ込めるのではなく、同じ土俵で行動できる国に変えていくというのが米戦略の骨子になるかもしれません。中国がまず抵抗するのは目に見えていますが、長い目でみればこの選択が最大の利益を引き出すことを頭のいい中国人はきづいているのではないでしょうか。

Independent U.S. Rebalance to the Pacific Report Calls for Study of Second Carrier Based in 7th Fleet

By: Sam LaGrone and John Grady
February 3, 2016 7:22 PM • Updated: February 3, 2016 11:29 PM

USS Antietam (CG-54), right, steams alongside USS Ronald Reagan (CVN-76). US Navy Photo
USS Antietam (CG-54), right, steams alongside USS Ronald Reagan (CVN-76). US Navy Photo

WASHINGTON, D.C. – 太平洋への再バランス政策を検討していた独立機関による結論は西太平洋に二隻目の空母を前方配備すべしというものだ。作成者の一人は乗員軍事委員会で2月3日に要旨を発表している。提言したのは戦略国際問題研究所(CSIS)で委員長ジョン・マケイン上院議員の意見と通じるものがあり、昨年に続きこれで第七艦隊に二番目の空母を前方配備うするよう求める意見が出るのは二例目になった。
  1. CSIS報告書は空母配備を明確に提言していないが、さらに検討を続けるとしている。
  2. 「この件について明確な提言を避けたのは作戦上の課題があるため」とCSISのマイケル・グリーンはメイジー・ヒロノ上院議員(民、ハワイ)の質問に答えている。
  3. 二隻目の配備先で最も可能性が高いのはすでに空母用施設が整備されている日本の横須賀だが、航空部隊をどこに収容するかの問題が残る。
  4. 「空母を追加配備すれば航空隊の配置先が必要で、岩国海兵隊航空基地は拡張中だが受入国としての日本政府を助けることになる」
  5. CSIS報告書は先月刊行されたが、西太平洋に二隻目の空母を前方配備する構想は日本報道陣の関心を呼び、「反発はそんなになかったです。日本政府の高官や防衛関係者は大いに関心を示しました。構想を実現した際の意味と戦力の増加が理由でしょう」(グリーン)
  6. 「同盟各国の懸念に対応できます。第七艦隊の空母一隻の持つ意味は大きく、各国は太平洋軍の動向を注視しています。各国とも難易度が増え続ける地域で対応せざるをえませんから」
  7. その難易度を生んでいるのは中国の人民解放軍 (PLA) の戦力増加であり、南シナ海・東シナ海でプレゼンスを強化していることだ。中国政府は軍事リスクを受け入れる覚悟ができているとグリーンは見る。
  8. 「この緊張状態は今後5年から10年続く可能性が大で、理由としてPLAの作戦要領にこの考え方が埋め込まれており、戦力構成や指導原則でも同様です。中国の外務省はじめとする政府機関は軍の動きを止めることはできません」
  9. CSIS報告書では太平洋への再バランスで米政府の目標が一貫していないことも指摘している。ここをしっかりしないと中国や米側同盟各国に明確なメッセージが伝わらない。
  10. 「ネットワークを組んでの協力体制は中国にルールに沿って行動させるきっかけになり、フィリピンや小規模国家の当事者能力を整備すれば地震や津波が発生してもすぐに弱体をさらすことはなく、さらに貿易協定も当然考慮すべき内容です」
  11. 「以上の点を原則とすれば米政権は各国と共同して確固たる戦略方針を持ち、中国を封じ込めるのではなく、ルールに基づいた秩序を模索すること、これが同盟各国やその他国との関係で重要な原則になります」
  12. 退役海兵隊中将トーマス・コナントは太平洋軍副司令官を務め現在は同報告書の監修も行ったが米国には明確かつ簡潔に再バランスのもたらす効果を伝える必要があると発言した。
  13. 中国が主張を強めているのにはいくつか理由があるとグリーンは解説した。ひとつには習近平主席はかつての鄧小平のような中国の役割を世界の中で見る観点がない。またリーマンショックで米国が大打撃を受け、もはや大国の地位を維持できなくなったとの誤った理解をしていることもある。
  14. フィリピンやベトナムは中国の拡張主義を警戒しており、「もっと取られてしまう」と見ているとグリーンは発言。そこで米軍や日本艦船による巡航の定期的実施も有効だと提言している。これはすでにオーストラリアが実施しているのと同様だ。
  15. 「NATOと同様の選択的な安全保障枠組みはどの国にも歓迎されないでしょうし、これでは中国を望ましくない方向においやってしまうでしょう」
  16. 中国経済の成長率がかつての9パーセント台から3ないし4パーセントに減速してもグリーンは逆に中国が米国の力を見誤った8年前と同じ過ちをすべきではないと警句を鳴らす。経済減速の結果は「今よりつつましい中国」あるいは「今より国粋主義で不機嫌な中国」のいずれかがこれから5年以内に出現するとグリーンは見ている。
  17. 中国の軍事装備近代化に経済不振が与える影響についてコナントは海軍力については「減速傾向は全く見られない」と述べた。■

2016年2月4日木曜日

オーストラリアの安全保障のとらえ方・コミットメントは日本にも参考になる


最近はインド太平洋Indo-Pacificという言葉が目立ちます。安全保障、通商上の権益を考えると太平洋だけでは不十分という意識の広がりからでしょう。日本にとっても単に潜水艦の調達問題以上にオーストラリアとの安全保障意識の共有は重要です。その中でオーストラリアで国防問題に精通した前国防相の発言が出ていますので、同国の問題意識をのぞいてみましょう。

Australia Taking Long View in Defense Spending in Emerging Sub, Frigate Programs

By: John Grady
February 3, 2016 9:57 AM

Collins-class attack boats HMAS Dechaineux leads HMAS Waller and HMAS Sheean in formation in Cockburn Sound, near Rockingham Western Australia in 2013. RAN Photo
2013年、西部オーストラリアのコックバーンサウンドを通過するコリンズ級潜水艦三隻、前からHMASデシャニューDechaineux、HMASウォーラーWaller、HMASシーアンSheean RAN Photo

オーストラリア軍の装備近代化の上位項目は潜水艦、フリゲート、遠洋監視艇だと前国防相が2月2日にヘリテージ財団で講演した。
  1. ケビン・アンドリュース前国防相はワシントンDCで自由民主党政権により国防支出をGDP2%相当まで引き上げると決定されたことで10年間にわたる「長期的展望」で安全保障上の抑止効果と各国との協力体制がより効果を上げると述べた。
  2. アジアがオーストラリアの主要貿易相手先であり、「安全保障上の権益を決定する要因だ」と述べた。
  3. また新型潜水艦ではまもなく調達先をドイツ、フランス、日本から選ぶとしている。「既成の潜水艦では選択対象にならない」とし、潜水艦事業はオーストラリアにとって大型案件であり、今後10年間が事業期間となり、艦隊就役もその後20年に及ぶと指摘した。
  4. オーストラリア政府はインド・太平洋諸国が軍事装備の近代化を進めるのを横目に見ながら事業を推進していくが、特に中国の動向を意識している。アンドリュースも中国が域内で最大規模の海軍力、空軍力を保有しつつサイバー・宇宙分野でも装備を拡充していることを指摘し、「オーストラリアも静観しているわけにいかない」と発言。

Royal Australian Navy MH60R 'Romeo' Seahawk, flies past HMAS Canberra. RAN Photo
HMASキャンベラのわきを飛行するオーストラリア海軍所属のMH-60R『ロミオ」シーホーク。RAN Photo

  1. ますます自己主張を強める中国は東シナ海、南シナ海で大部分を自国領土と主張している。サンゴ礁を人工島に変換させ、米駆逐艦より大きな海洋巡視船を建造し、海洋進出の動きで野心を隠そうともしていない。
  2. 米駆逐艦が最近になり問題海域を航行したが「中国にとっては脅威と感じられない」形で人工島の近辺を航行しただけだとアンドリュースは指摘する。またオーストラリアも同海域に艦船を派遣しており、米国と同様に自国機を上空飛行させているほか、マラッカ海峡では30年にわたり監視活動を展開しているという。
  3. 「航行の自由を主張すると中国の利益にかなうことになる」とし、問題海域での領有権を巡っては平和裏に交渉すべきだと主張。
  4. アンドリュースは昨年行われたオーストラリア北部での演習に米海兵隊2,500名が参加しており、今後はダーウィン協定で海兵隊の規模は増えると紹介した。またダーウィンの軍港施設は拡張工事中でさらに大型の艦船の利用が可能になると言及。
  5. 「日本とは良好な関係にある」とアンドリュースは通商と安全保障の両面で権益を共有し、自衛隊との演習に米軍も加え実施していると紹介。インドとの関係は労働党政権で「険しくなった」が関係は改善しつつある。シンガポール、インドネシア、マレーシアとは強いつながりがあると述べた。
Three F/A-18 Hornets, Royal Australian Air Force, fly in a training mission during Red Flag 12-3 March 9, 2012. US Air Force Photo
オーストラリア空軍所属のF/A-18ホーネット三機編隊がレッドフラッグ演習で飛行中。2012年3月9日撮影。US Air Force Photo

  1. 中東ではオーストラリアはイラク政府を米国に次ぐ規模で支援しており、イスラム国との闘争を助けているという。イラクでは900名のオーストラリア軍隊員がイラク正規軍、特殊部隊の訓練にあたっており、空軍も作戦を展開している。F/A-18ホーネット・スーパーホーネット6機を派遣し、イラク・シリアで空爆を実施中であり、空中給油機、空中指揮統制機もそれぞれ1機派遣している。ただアンドリュースは空軍ミッションの三分の二は弾薬を投下せずに帰還していると推測している。目標情報が不正確なためだという。
  2. イスラム国との戦いが続くが、アンドリュースは「ラマディ奪還はモスルやラッカよりも重要度は低い」と述べた。モスルはイラク第二の都市でラッカはシリアでイスラム国が首都と称する都市である。ラマディはイラクのアンバール地方の中心都市だ。
  3. アンドリュースはインド太平洋地区の各国とオーストラリアは域内でイスラム過激主義が台頭していることを懸念していると強調した。ジャカルタで発生したテロ事件で8名が死亡したが、インドネシアが容疑者を釈放したこと、イラクやシリアから外国人戦闘員が帰国していること、さらにフィリピン南部でゲリラ活動が依然続いていることをオーストラリア政府は他国とともに注意深く観察していると述べた。■

米海軍の航行の自由作戦を非難する中国の自己矛盾



一方で国際法を順守し、他方で国際法と異なる解釈を堂々と主張する中国の論理構造はどうなっているのでしょうか。中国は既成事実を積み上げれば自分の勝ちと考えているのでしょうか。習金平主席の提唱する中国の夢が中華思想そのもので全部中国のものと勘違いしているとすれば大変な代償が待っているのに認識していないのでしょうか。しかし無害通航では相手国の領海であることを認めてしまうのですが。

China Upset Over ‘Unprofessional’ U.S. South China Sea Freedom of Navigation Operation

By: Sam LaGrone
January 31, 2016 11:48 AMUpdated: February 1, 2016 10:52 AM

USS Curtis Wilbur (DDG-54) in 2012. US Navy Photo
USS Curtis Wilbur (DDG-54) in 2012. US Navy Photo

中国から米海軍による1月末の航行の自由作戦を非難する声明が複数出ている。パラセル諸島のうちトライトン島を実効支配する中国の眼前で米誘導ミサイル駆逐艦が12カイリ以内を通航したためだ。
  1. USSカーティス・ウィルバー(DDG-54) が通過直後に中国国営通信は外務省と国防省の声明を伝えている。.
  2. ウィルバーによるFON作戦は「大人げなく無責任....米国の行為は中国法に違反し、平和、安全保障と秩序を乱した」と国防省報道官楊宇軍Yang Yujunは1月30日に発言している。”
  3. 「これまで米側から艦船航空機の安全通行を保障する方策の提案があったが、繰り返し中国の領海領空に自国艦船・航空機を送り込み、中国の抗議を無視し、両国の海軍空軍部隊の一触即発状況を招いているのは米国だ」
  4. 外務省報道官華春瑩Hua Chunying は声明文で「米軍艦は中国法に違反し、中国領海に許可なく侵入した。中国は同艦を終始監視し音声により警告を発した」としている。
  5. ペンタゴンからはUSNI Newsに1月30日にウェルバーがトライトン島付近を通過したのは無害通航であると伝えてきた。海洋法では軍艦は他国領海内を「領有国の秩序安全を乱さない限りにおいて」通航することが国連海洋法条約第19条で認められている。.
  6. 中国の両報道官とも1992年制定の中国国内法を根拠としており、外国艦船はいかなるばあでも事前許可なく中国領海に侵入することはできないとしている。両名は中国が1996年に該当島嶼部分に基準線を引いており、これで該当部分は中国領土になっていると説明。
  7. 「米側はこの事実を認識しているにもかかわらず中国領海に軍艦を送り込んできた。これは意図的な挑発行為そのものだ」(国防省Yang)
  8. 米側は中国に無害通航に関し事前通告を求める権利はあるとは認めず、中国が領有の根拠とする基準線も認めていない。
  9. 30日にはベトナム外務省報道官 Le Hai Binh がベトナム(パラセル諸島に一部領有権が重複している)は自国領海での無害通航権の行使を認めると発表。
  10. 中国は同様の無害通航を米領土のアリューシャン列島で昨年9月に行っており、米北方軍司令部は「国際法に従っていた」と発表していた。
  11. 米国の航行の自由作戦は1979年に始まっており、米国から見て過剰な領有宣言や国際法に違反する主張に対応するもの。昨年10月にはUSSラッセン(DDG-84)がスプラトリー諸島のスビ環礁上で中国が建設した人工島付近を航行するFON 作戦を実施している。■


2016年2月3日水曜日

2017年度国防予算の概要が明らかになる 総額5,827億ドル


オバマ政権が最後に編成する国防予算が数年先に望ましい結果を生むことを祈るばかりです。研究開発関連では長官が発表した以外のプロジェクトがあるはずですから期待しましょう。F-35調達が犠牲になりそうですが、ますます機体価格が上昇しそうですね。それにしても大国対応と同時並行で戦闘員への対抗策さらに同盟国防衛のコミットメントまで米国の国防政策は大変ですね。日本はじめとする同盟各国への期待や要求が高まるのも当然ですね。カーター長官はオバマ政権としては優れた人事だと思います。


Carter Unveils Budget Details; Pentagon Requests $582.7 Billion

By Aaron Mehta 9:31 a.m. EST February 2, 2016

635877556554241486-DFN-P-P-Americas2.JPG(Photo: Air Force Senior Master Sgt. Adrian Cadiz/DoD)
WASHINGTON — オバマ政権による2017年度予算法案では国防に5,827億ドルを計上し、うち714億ドルを研究開発、75億ドルはイスラム国集団への対応、潜水艦に81億ドル、18億ドルを弾薬類調達に使うとアシュ・カーター国防長官が2月2日に表明した。
予算案公表を次週に控え、カーター長官は開発中の新技術で国防総省にとって「大局的な観点」が必要となる長官のいうところの「大きな変曲点」に対応すると紹介した。
予算案では5つの視点がある。二大大国としてロシア、中国それぞれの台頭、北朝鮮が米国・太平洋同盟各国へ脅威となっていること、イランの湾岸諸国への「悪影響力」、イスラム国集団への戦闘の継続の5つである。
「敵対勢力が一つだけというぜいたくな環境にはないし、現在の戦闘と将来の戦闘の区別もできない、ともに今対応する必要がある」とカーター長官は述べ、「そのための予算案を作成した」
言い換えれば、予算案はペンタゴンが直面する脅威の二面性に対応するものだ。米国とほぼ同格のロシア、中国へは新開発技術で対抗し、同時に対戦闘員作戦にも対応する。
「そのためにカギとなるのがもっとも強力な競争相手を抑え込むことだ。有力な敵対国が挑発的な行動に出るのをあきらめさせるため、または実行した場合に深く後悔させるだけの大きな対価を支払わせる必要がある」とカーター長官は述べ、さらに「この意味でロシア・中国が我が国にとってもっとも重要な競争相手だ」と付け加えた。
カーター長官は以下数字を列挙した。
  • ISISには2016年予算より50%増の75億ドルを計上
  • 18億ドルを2017年に支出し精密誘導弾45千発以上を調達する。これはISIS対応予算とは別扱い。長官は言及しなかったがこれは海外有事作戦(OCO)勘定になるとみられる。
  • A-10退役は2022年まで先送りとする。それまでにF-35Aが第一線に投入される前提。A-10で議会は空軍が同機を早期退役させるようとこれまで二年度予算にわたり働きかけた。2022年まで先送りし、さらに後年度国防計画Future Years Defense Program (FYDP)からも外すことで、オバマ政権は同機退役の決断を次期政権に委ねる格好だ。
  • ヨーロッパ諸国向け安全保障再保証構想(ERI)は2016年の789ッ百万ドルから一気に4倍増の34億ドルに増やす。これはロシアのウクライナ侵攻(2014年)を受けて各国を支援するための事業だ。
  • 81億ドルを潜水艦に支出する他、今後5年間で400億ドル以上を出す。これでヴァージニア級攻撃潜水艦9隻を調達し、既存のヴァージニア級にもペイロードモジュールを追加装備する
  • サイバー分野では70億ドルを計上し、今後5年間で350億ドル程度の規模を支出する
  • 宇宙関連では長官は数字を挙げていないが、ペンタゴンは昨年を上回る支出をすると発言している。昨年は50億ドルとしていた。
  • 二年度連続で研究開発勘定を増額し、2017年は714億ドルとする
最後の点がペンタゴンが進めるいわゆる第三の相殺の技術開発でカギだとフランク・ケンドール副長官が述べている。「もしR&Dをしないと何も生産できなくなる」とケンドールは述べ、「これは固定費用だ。R&Dをなくせば未来はなくなる」
予算案は新規プロジェクトでの開発について、カーター長官は2012年に新設した戦略技術室により「DoD、情報各機関、民間技術を再定義しそれぞれに新しい役割並びに画期的な能力を与え、敵対勢力に挫折感を与える」と述べている。
カーター長官がまず紹介したのは爆弾誘導技術で「スマートフォンで利用されているのと同じ小型カメラとセンサーで小口径爆弾の命中率を上げる」ものだという。その目標はその他の搭載物にも応用できるモジュラーキットの開発だ。
二番目は自律無人機の多数同時運用だ。
「空の分野ではすでにマイクロドローンを開発済みで高速かつ回復力が高い。強風下でも飛行でき、マッハ0.9で飛行中の戦闘機から放出することに昨年アラスカでの演習で成功しており、イラクの砂漠で陸軍隊員が放出することも可能だ。水中でも自律潜航艇を開発しており、ネットワーク環境で作動し艦艇防御から接近偵察までこなすことができ、人工島だろうと天然の島だろうと周回しても人員の生命を危険にさらすことはない」
次に電磁レイルガン用に開発した発射体があり、これは既存兵器にも搭載可能で、「海軍駆逐艦が搭載する5インチ砲や陸軍のパラディン迫撃砲にも応用できる」とし、既存の火砲をミサイル防衛用に転用できる。カーターはパラディンで新システムを先月に実験し成功したという。
最後にカーター長官は「大量武装機」 “arsenal plane”の概念を紹介した。これは空軍の旧型無武装機材を「すべての通常搭載物の空飛ぶ発射台に転換する。実現すれば同機は巨大な飛行武装機となり、ネットワークで第五世代戦闘機の前方センサーとなり、同時に目標補足情報の中心となる。すでに実用化している各種システムを統合し全く新しい機能を実現する」ものだという。
カーターが言及しなかったのはF-35で、優先順位が高い他事業のため同機の調達は削減される見込みだ。また海軍のUCLASSを空中給油機CBARSに転用する案も口にしなかった。これは2月1日ににDefense Newsが初めて伝えたニュースだ。■

★★★F-35の戦闘能力に深刻な制約あり、とペンタゴン試験部門報告書が指摘



今までもF-35の諸問題が取り上げられていますが、今度はペンタゴン内部から厳しい判定が出ました。テストが長引くのも種々の問題が出ているためなのですね。機体だけ完成してもソフトウェアなければカタログ上の能力を発揮できません。F-35開発が鳴り物入りではじまった2000年代から無人機や防空体制の進歩がどんどん進み、ついには第六世代機まで話題になってきています。本当にこんな機体に西側の防衛を託していいのでしょうか。事業に従事する方々は真剣に対応されていると思いますが、問題の山が着実に解決されて実戦化した段階で世界は当初の想定と相当変わっているでしょう。大きすぎてつぶせない、とリーマンショックの際の某大企業のような感じです。皆さんはどう思われますか。

Test Report Points to F-35’s Combat Limits

Jan 31, 2016 Bill Sweetman | Aviation Week & Space Technology

ブロック2B搭載のF-35で米海兵隊が昨年7月に初期作戦能力(IOC) 獲得を宣言しているが、支援なしで敵に戦闘を挑めないとペンタゴンのマイケル・ギルモア(作戦試験評価部長[DOT&E])が明らかにした。このたびAviation Weekは間もなく公表される全48ページの事業報告書の写しを入手した。DOT&Eは報告書内で「F-35Bブロック2B機材は敵との交戦を避ける必要がある....敵の抵抗が予想される状況では....また友軍の追加投入も必要」としている。
  1. 米空軍で初期作戦能力を得たF-35Aブロック3iでも制約がある。「一部欠陥を補正しているが、ブロック3i搭載機材の戦闘能力は大した違いを生んでいない」
  2. 報告書は「事実として正しい」とF-35共同開発事業室は公式に認めるものの、「判明した問題や日程上のリスクを解決しようと努力中の状況は完全に記述していない」という。ロッキード・マーティンは同室の見解を支持すると伝えてきた。
  3. 12月のメモでソフトウェア欠陥の詳細を述べたギルモアによれば武器放出正確度(WDA)テストがブロック2B開発中に実施されたが12回中11回でチームがシステムの欠陥を補正し、テストが成功するように手を入れたとしている。ギルモアによれば戦闘状況でのF-35の性能は「その場での解決策の有用性に頼るところが多い」とテスト中の解決方法を指して述べている。
  4. WDAテストが難航した原因にギルモアはWDA実施前の部品テストが「契約上の要求水準に合致しているか、に重点をおき、戦闘実施に適しているかを重視しなかったため」としている。部品テストでは構成部品の作動だけを求めていた。実際のWDAテストで全体の作動状況から「欠陥が浮かび上った」という。F-35事業の統括責任者は一部を意図的に「命中」と判定しており、標的の動きを制限したり対策を講じて無理やり結果を作っている。
  5. また海兵隊もIOCを宣言したとはいえ不良現象をそのまま受け入れている。この結果「ミッションシステムの作動状況と正確度」で問題が生じ、具体的には機体のデータ融合システムとレーダー性能が問題として表示されたままだった。
  6. 技術的な問題が残っているため飛行速度や機体制御に制限がかかっていると報告書は指摘。地上温度が華氏90度(約32C)以上の場合に兵装庫扉を10分以上閉めたままにしておくと兵装庫内温度が限界を超える。(兵装庫扉を開放するとステルス性がなくなる) F-35Aでは現在速度制限は高度により500から600ノットになっている。
  7. 発熱問題は数年前から判明していたが、燃料ポンプ他の変更で解決したとされてきた。F-35は燃料をヒートシンクに使って機体内部及び各システムを冷却するが、冷却能力が不足する状況がある。2014年12月にはルーク空軍基地から燃料車両を白色塗装にして熱問題を軽減したと発表があった。開発関係者は「これはF-35の問題ではない。燃料温度関連でF-35には何ら制約はないはず」と述べていた。
  8. また燃料を内部に満載した状態のF-35ではg制限がある。原因は空気がサイフォン燃料ラインに入るとタンク内圧力が限界を超えるためだ。補修作業が進行中。
  9. 全体として報告書は「欠陥の解決のペースが新たな不良現象の発見に追いついていない」とし、問題多数がテスト中に見つかるが、解決は遅れる一方だとする。「よく知られた問題の中でも重大なもの」として自動補給支援情報システムの欠陥、エイビオニクスの不安定、なかなか解決しない機体・エンジンの信頼性、点検整備の件がある。
  10. 機体数がそろわないこともあり実績記録からDOT&Eはこう結論付けた。フライトテストはブロック3Fの供用開始までに間に合わない。ブロック3Fは海軍用及び輸出用機材のIOCの必要条件であり、システム開発実証(SDD)段階終了の条件にもなるが予定日程に間に合わないのだ。ブロック3F開発用のフライトテストは2015年3月に始まっている。予定ではブロック3FのWDAは48項目あり、ブロック2Bのテストより複雑かつ難易度が高いが、このままでは2017年5月まで完了できない見込みが大で、「大幅に工程の達成度のペースを上げない限り無理」だとする。
  11. さらにDOT&Eが予見するのは初期作戦テスト評価(IOT&E)には生産段階の機体で計器類を完全装備した機体が2017年8月までは確保できない可能性だ。IOT&EはSDDの後で軍が主体となるテストで作戦能力獲得宣言の前に位置する。IOT&E部隊はまず各機体を乗りこなし訓練しておく必要があり、その後IOT&Eが始まる。ギルモアはこれは2018年8月以前の開始は無理とみている。
  12. IOT&Eでは敵脅威を正確に再現し、シナリオも相当複雑で実弾発射では実現できない内容の試験を行う。ギルモアはこの数年間にわたり同機事業の検定シミュレーション(VSim)のサブシステムに不良があり日程も遅れていると警鐘を鳴らしてきた。2015年8月、突然VSimは中止され(2010年以来合計250百万ドルが支出されている) 代わりに政府が主体となった共用シミュレーション環境Joint Simulation Environmentを使うこととした。だがこれはIOT&E開始までに間に合わないので、テスト部隊はシナリオを使うのをやめるか高価かつ時間がかかる実弾発射テストの実施に踏み切るか決断を迫られる。■