2017年10月9日月曜日

☆ステルス「爆撃機」B-21の姿と性能を予測すると...



LRS-Bという名称は爆撃機型のBであり、その他機種が想定されていることが分かります。とりあえずB型が登場しますが、もはや伝統的な爆撃機の機能を超えた「バトルプレーン」に近い存在になりそうです。その分だけB-2が遠回りをしたことになるのでしょうか。いや、時代がやっと当初想定していた環境になってきたのであり、単座小型戦闘機にはいよいよ終幕が近づくことになるのか、B-21に期待が集まりそうですね。

The B-21's Three Decade Old Shape Hints At New High Altitude Capabilities

Northrop Grumman seems to have gone "back to the future" with their next generation stealth bomber design, and that's actually really exciting.

ノースロップ・グラマンの次世代ステルス爆撃機は「バックトゥフューチャー」の観があり興奮を感じさせる設計だ

BY TYLER ROGOWAYOCTOBER 6, 2017

NORTHROP RENDERING

B-21レイダーの詳細情報はほとんど存在しないままだが本誌はこれまで多用途戦略ステルス機としての同機の基本形状や特徴をお伝えしてきた。最近になりノースロップ・グラマンから別の想像図が出ており、最新技術や製造方法を駆使して製作される同機の形状に新奇の観はなく三十年前のステルス爆撃機革命の黎明期に戻るようだ。
USAF
2016年2月26日に発表された想像図

一見するとB-21は同社のB-2スピリットと酷似しているがちゃんとした理由がある。ノースロップはB-2の設計を30年前に確立しており、B-21にも応用するようだ。当時米空軍が低空侵攻能力を追加注文しなければ実現していたはずの性能がいよいよ現実のものになろうといているのだ。

B-21が同じ形状として2017年9月の空軍協会年次総会で同社が掲示した宣伝媒体に見られた。
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#northropgrumman Gearing up for #afa2017 @usairforce looking good @Whiteman_AFB
低空飛行性能の追加はロシアの防空レーダーがさらに高性能化しB-2のステルス性能が無効になることを空軍がおそれたためだ。レーダー有効範囲の下をくぐる飛行がB-52やB-1でも同様に必要となり、以前のような高高度をステルス特性を生かしながら飛行し残存性を狙えなくなった。
この無駄な追加でB-2ではステルス性が一部犠牲になっただけでなく、機体重量が増え、上昇限度も当初の60千フィートが50千フィート程度に下げられる結果となった。さらに航続距離が短くなり、なんといっても機体価格が大幅にあがり、結果としてハイエンドを極めた高価な機体になってしまった。
ノースロップ提案の高度技術応用爆撃機(ATB)設計構想(後日のB-2)は「シニア・アイス」の名称が開発期間中につき今や有名なノコギリ状の後縁部はついておらず、かわりに大型ウェッジシェイプの 尾部となっていたのは現在のB-21レイダーと同様だ。ノコギリ形状は米空軍が前述したようにどたんばで要求内容を変更し低空侵攻能力を求めてきたことへの対応である。
PUBLIC DOMAIN
米空軍が低空侵攻能力を要求追加する前の当初のATBの形状

すべては1980年代のことでレーガン大統領が国防予算を増額させソ連が真剣に脅威とされていた時代の話だ。わずか数年で冷戦は終わり、議会が製造機数を大幅削減したこともありB-2の機体価格は急増する「死のスパイラル」に入り、生産はわずか21機で終了している。
NORTHROP/PUBLIC DOMAIN
ノースロップのATB原設計では傾斜角つき尾翼や主翼に垂直構造物さえも追加され全翼機のヨー制御を試した。最終的に分割式のラダー「エレボン」が採用された。B-2にはV字形の尾翼が残っていることに注目。低空性能の追加で設計内容には多様な悪影響が残った。

今日のB-2は「切り札」兵器システムの認識で高い需要に引っ張りダコの存在であり、米国の秘宝というべき存在だ。真価を発揮する機会も多々あり、直近ではリビアの第二回攻撃に投入された。小規模部隊だが改修を数回となく受け21世紀後半でも供用が期待される。
B-21想像図では排気口が見えないが、まさか後縁部や機体下部に配置されることはないはずだ。赤外線探知に一番弱い場所だからだ。だがこれは奇異なことではない。というのはB-2でも最初の公表図で排気系が全く描かれておらず、同機の機構上最も機微な部分であったためであり今日でも変わっていない。(米空軍基地でB-2を撮影する場合も機体後部の撮影は禁止されている)
USAF
初期のB-2想像図では排気口付近の描写を省略している。この角度で見るとB-2は2016年公表のB-21想像図と酷似していることに注意。
米空軍とノースロップ・グラマンがB-21でも1980年代後半を回顧してB-2の情報開示方法を参考にしているのは疑いない。
ノースロップがステルス爆撃機設計案を公開した30余年前のコンピュータ性能は今日の数分の一もなかったが、B-21の形状が初期のシニア・アイスに酷似しているのは新型爆撃機の有する性能に興味深い点が多々あることを示す。
B-21の機体形状が高高度侵攻機シニア・アイス構想に酷似しているのはB-21が高高度飛行用で究極の空力学特性を追求した兵器センサー搭載機であるためだろう。この事は極めて重要だ。ノースロップのATB原設計の実用高度は60千フィートが目標でB-21がこの高度を念頭に置いていることは想像に難くない。作戦距離からこの高度に意味があり、燃料消費・推力共に低くおさえRQ-4グローバルホークの飛行限界近くを飛べることでB-21にセンサー装備を搭載し長距離飛行させる可能性が生まれてくる。
USAF
B-2 スピリットの実用高度限界は要求内容の変更で犠牲になっている。だがB-21レイダーではこの制約はない。
同時にB-21ははるか下を飛行する戦術機よりも長時間滞空が可能となる。このため通信データリンク中継点として機能できF-35、F-22他無人戦闘航空機のデータリンクとつなぎ情報を吸い上げることが可能だ。また逆に各機に戦場の全体図をデータ「融合」して伝えることもできる。

低空を飛ぶステルス機から戦場情報を中継することも可能だろう。つまりB-21はステルスの戦場空中通信中継機材Battlefield Airborne Communications Node (BACN) となり、最前線近くまで進出する重要機材になる。
同じ構想がここにきて多数発表されており、米空軍も高い優先順位をつける問題解決手段となりそうだ。ネットワーク、情報共有に加えこれまでの機材中心の情報収集を「分散型」に変える動きにつながる。
LOCKHEED MARTIN
ステルス全翼機(ここではB-2)がステルス各機(F-35,F-22、UCAVS)の上空を飛行し通信ゲイトウェイになっていることに注目。EQ-4グローバルホークがBACN機材として同様の機能を果たす。B-21とRQ-180もステルス機同士で低探知性のデータリンクを実現するだろう。
同時にF-22ラプターと同様にB-21の兵装はJDAMから大型貫通爆弾まで多様であり、超長距離空対空ミサイルも含まれレイダーの高高度飛行を活用するはずだ。レーザーの搭載も実現すれば有効攻撃半径がさらに伸びるだろう。スタンドオフ攻撃能力があがりながら残存性が高まり、攻撃距離が延びることになる。
そうなるとB-21はステルス多用途機となり従来の爆撃機の分類は無理となり広範なミッションに高高度飛行で対応するはずだ。また同時に同機は構造上の要求内容からも複雑化を避けてエンジン推力も極端に強力である必要もなく、燃料搭載量も減らしながらミッション実施が可能となるはずだ。
ノースロップ・グラマンが厳しい米空軍の注文の中で製造コストを下げることが可能なのもこの背景があるからだろう。さらに機体形状は広帯域低視認性実現のカギともなる。ステルス機の機体が大型になっても機体全体での形状変更(水平垂直尾翼、機首の工夫等)があれば低周波レーダーに照射されても機体背後の放射線との区別がつかなくなる。
NORTHROP GRUMMAN
ノースロップ・グラマンの次世代爆撃機構想図はLRS-Bになる前のものだが、同社の特徴たる「つぶれた凧」形状が描かれており、B-2の全翼機構造とは異なる。
高高度飛行の要求により今回のB-21にはノースロップ・グラマンの代名詞ともいえるノコギリ状の主翼設計が採用されていないのだろう。同社のX-47B実証機にもノコギリ状の特徴がみられた。同社は機体形状を複数検討し、一部は初期の次世代爆撃機構想にも採用されていた。ただしLRS-B事業が始まると方向性に変化が生まれている。
本誌ではノースロップ・グラマンにはRQ-180高高度長時間航空機(HALE)についても数度にわたり話題にしてきた。同機が同じノースロップ・グラマンの設計に大きな影響を与えた可能性は排除できないが、米空軍にもB-21要求水準で影響を与えたのだろう。2000年代後半に国防総省がロバート・ゲイツ長官による大きな方向転換の中で新型爆撃機開発に乗り出した。
USAF
B-2は今日でも非常に未来的なマシンである。B-21は小型軽量化されるはずだが同機の登場でB-2も主役の座を奪われる日が来るだろう
RQ-180や次世代爆撃機実証機がこの流れを受けているのは確実で10年近く停滞はあったが努力が実を結んできたといえよう。RQ-180は少数機しかないが、B-21と良い組み合わせになりそうで、その関係はE-11とEQ-4によるネットワークゲイトウェイ機能、U-2SドラゴンレイディとRQ-4Bによる偵察ミッションに見られる関係と似ている。
また長距離打撃爆撃機構想の要求内容でB-2より軽量かつペイロードも少ない機材が想定されたことも安価でいながら高高度性能の実現を目指したためと判明している。ボーイングによるLRS-Bコンセプト図もB-21ならびに先立つシニア・アイスと酷似している。
BOEING
ボーイングのLRS-BコンセプトもB-21や高高度侵攻機「シニア・アイス」案と酷似している。
すべての事実はノースロップ・グラマンが「バックトゥザフューチャー」でB-21レイダーの設計をまとめたことを示しており、同機の性能はいかなる既存機種とも一線を画し、ミッション実施ではB-2をしのぐ存在になることを示唆している。世界初のステルス爆撃機登場から30年が経過してノースロップ・グラマンB-21で多くの点で本来あるべき爆撃機の姿を実現し、さらに多くの機能を果たす機体になることに一番の興奮を感じる。
新情報や詳細な図あるいは写真がグラマンから公開されればもっと多くがわかるのだが。
噂では新型機は同社の第42プラント(カリフォーニア州パームデール)で進行中だという。■

2017年10月8日日曜日

F-22はシリアで何をしているのか



シリアの不毛の地の上空に投入するとはちょっともったいない気もしますが、ステルス機の利点を生かして圧倒的な情報優位を確保している分だけ地上部隊初め僚機も安心して作戦実施できるのでしょう。であれば戦闘機を投入する必要がない気もしますが。それはともかくこれから半世紀近く供用しなければならないので米空軍も慎重なのでしょう。一時は生産ライン再開の話もありましたが計算すると非経済的な結果しか得られないためいつの間にか消えたようです。しかしF-Xが失敗したりするとなりふりかまわず近代化F-22の生産再開の話がいつ生まれるかわかりません。

F-22s Act as Flying Scouts Over Syria

Sensor fusion puts stealth fighters in a leading role

シリア上空のF-22の役割は空の監視兵
センサー融合機能でステルス機の優位性を発揮
F-22s Act as Flying Scouts Over Syria
WIB AIR October 4, 2017 Robert Beckhusen

三年前のこと、F-22ラプター四機が米主導多国籍軍によるシリア国内のISIS空爆第二波に加わり、爆弾投下した。ステルス第五世代戦闘機の同機で初の実戦投入となった。多国籍軍の作戦立案部門はF-22の低視認性と高性能センサーを生かす方法を模索しながら通常型機材の護衛にもあたらせシリアの戦闘機や防空装備が稼働した場合に備えていた。幸運にもシリア軍は動かなかった。
いきなり現在に飛ぶとF-22は今もシリア、イラク上空を飛んでいるが任務は護衛にほぼ集中している。「初めて当地に投入された際は95%が精密爆撃だったが今や95%が航空優勢の確保になっている」と「シェル」(コールサイン)中佐(第27派遣戦闘機隊)が語っている。
航空優勢確保こそロッキード・マーティンと米空軍がF-22に当初から期待する役割である。だが中東ではこのミッションは通常は偵察任務を意味する。「シェル」中佐によればラプター編隊は空域の「戦闘回避」効果に投入され、ロシアやシリア機を米軍やシリア民主軍(クルド人民防護部隊が中心の戦闘員部隊)から引き離すのが役割だ。
F-22がこの任務に最適なのはアクティブ・パッシブ両方の高性能センサーで各データを「融合」させパイロットの前の画面に映し出すせるからだ。またこれによりラプターはE-3AWACS同様の指揮統制機となっており、友軍各機に該当地区の情報を送り突然の脅威出現をいち早く知らせている。同時にロシア機には接近しすぎないよう無線で警告を与えている。多国籍軍機が標的近くまで接近するとラプターが誘導を助ける。
Above, at top and below — F-22 Raptors over the Middle East in 2017. U.S. Air Force photos

F-22は狙撃手の存在だ。自機の搭載する戦力も投入できるが、中東での主要な仕事は上空監視だ。2016年8月にはシリア北部で展開する米特殊部隊にシリアSu-24機が接近しすぎたためF-22編隊が追い払ったこともある。ステルス性能により敵になる可能性のある機体や地対空ミサイル陣地に接近しても探知される危険が少ない。
F-22は完成度が高い機体になっており、初飛行は1997年だったが、米空軍が少なくとも今後43年間供用する予定にしているのは機体に十分がある一方で、累積稼働時間がさほど長くないためだ。
航空戦闘軍団のアナリスト、トム・マッキンタイヤーは下院軍人員会で2017年6月に証言している。「ラプターは1990年代からさほど酷使されておらず構造試験においても積極的な寿命延長策をしなくても大体2060年までは十分に供用できるとわかっています」

とはいえラプターの生産は終了しており、生産再開した場合は恐ろしく高費用になりそうだ。コンピュータハードウェアは1990年代製で部品の大部分は生産終了している。空軍の言い分はF-22再生産は非合理的とし、結局、F-22の調達は予定381機が187機で停止した。
F-22が2060年代まで飛ぶには大規模性能改修はどうしても必要だ。2018会計年度予算では10億ドルが計上され、レーダー他アンテナの換装、新型エイビオニクスとしてディスプレイ、データリンクや暗号化ソフトウェアの導入が予定されている。
またF-35のステルス機構をF-22に流用する策もある。ヘルメット搭載型の標的捕捉システムが導入され、パイロットはどの方向を見ていても兵装を敵に向かわせることが可能となる。このハイテクヘルメットはスコーピオンと呼ばれるが、F-35ではヘルメットが重いこと、射出脱出の際に危険になることからF-22パイロットが果たしてこのヘルメットを希望するか疑問の声もある。
だがパイロットはラプターが気にいっておりイラク、シリアにおける監視任務で十分な機能を発揮していることから米空軍も高評価を与えている。■

★★航空自衛隊向けAMRAAM最新型の導入へ



Japan to receive additional AMRAAM missiles

  
Source: US Air Force

 Gareth Jennings - IHS Jane's Defence Weekly
05 October 2017

日本がレイセオンAIM-120高性能中距離空対空ミサイル(AMRAAM)を調達する。米国務省が売却を承認した。
米国防安全保障協力庁(DSCA)が10月4日に公表した案件内容によればAIM-120C-7ミサイル56発を売却するとあり、総額113百万ドルと見られる。
「同案件により日本に必要な本土防空能力の拡充が図られ同時に日本駐留の米軍関係者の安全も確保される」とDSCAは発表している。案件の実現には議会承認が必要だ。
航空自衛隊にはAIM-120C-7がすでに配備されており、導入は2014年から始まっている。導入済みAIM-120C5を補完し戦力強化となる。
AIM-120C7はAMRAAMの中でも際立った性能改修型だ。Jane’s Air Launched Weaponsでは同ミサイルのアンテナ、受信機、信号処理ハードウェアの改修で最新の脅威に対抗する能力が実現し、電子装備小型化で今後の性能向上のスペースが内部に生まれたとある。

同ミサイルにはアクティブレーダーシーカーがつく点でAIM-120Aと変わりがないが、ソフトウェア改修に加えAIM-120C-5と同等の推進系でロケットモーターが大型化している。■


2017年10月7日土曜日

米空軍の戦力低下と世界危機、ヘリテージ財団の警鐘


予算確保のため米軍は厳しい状況を意図的に伝える傾向があるのですが、米空軍の状況は実際に悪いようです。予算削減が続く中でしわよせが人的資源に現れた結果と思われますが、再建に数年かかるでしょう。その間に北朝鮮とイランという最悪の組み合わせで戦闘が始まれば戦勝の実現はおぼつかないというのが今回の報告書の指摘でしょうか。

Aerospace Daily & Defense Report

Influential Think Tank Warns Of Drop In Fighter Capability

有力シンクタンクが米空軍戦闘機兵力の減衰に警鐘を鳴らす

Oct 5, 2017Lara Seligman | Aerospace Daily & Defense Report

F-15: Boeing
  1. トランプ政権に近いワシントンの有力シンクタンクが米空軍の戦闘機戦力の低下に警鐘を鳴らしている。
  2. ヘリテージ財団による「米軍事力指標」によれ戦闘機数がば昨年から大幅減少し空軍の第一線戦術戦闘機は現在923機とある。昨年より236機の減少で、ヘリテージが算出した二大戦役同時勝利に必要な水準1,200機からも277機不足している。同財団はこの機数を基準にして米戦力を評価した。
  3. パイロット不足も1,000名の大台に近づきつつあり、整備陣が3千名も不足しているため米空軍の有事対応力は減衰中と報告書で指摘した。
  4. 総合評価では米空軍の戦力、規模、即応体制は「最低限」と評価し、いいかえると現時点で同時に二方面で大規模戦に米国が巻き込まれると現状の戦力水準では要求にこたえられない。
  5. 総合評価は昨年から大きくは変わっていないものの訓練・機体整備両面の不足に加えパイロット自身の自己評価でも退潮は明らかとしている。
  6. 米空軍が状況悪化の進行を食い止められない一方で海外の敵勢力は戦力整備にまい進しているとヘリテージが強調している。
  7. 「米空軍の総合戦力評点は下降を続けており、米国の航空優勢確保は潜在敵国の技術力向上により脅かされている」と報告書はまとめている。同財団が特に懸念するのはF-15Cの第一線配備が106機しかないことで同型が全機退役した場合に生まれる能力ギャップだ。
  8. 朗報もある。F-35Aは価格面、日程面、さらに技術面で苦労を経験してきたが新戦力として期待できる存在に育ってきたと同財団は評価している。「同機パイロットは機体に多大な信頼感を寄せており、同機事業にはずみがついてきた観がある」
  9. 総合するとヘリテージ財団の評価は米軍の現時点の姿を「最低限水準」で「弱体化」に向かいつつあるとしており昨年版から変化はない。つまり、現状の部隊戦力で大規模地域戦闘が一つ発生するなら対応は可能だが、「それ以上になると苦しく」なり大規模戦闘が二つ同時進行で発生すると「装備不足」は否めないとする。
  10. ヘリテージ採点では米陸軍・海兵隊は「弱体」としながら米海軍は「必要ぎりぎり」としている。
  11. 同時に米核戦力も「最低限」としたのは旧式化著しい装備に依存しているためで潜在敵国の「野心的な」戦力整備に比べると「著しい」違いがあるとする。ヘリテージはロシア、中国、イラン、北朝鮮の事例をあげ、とくに北朝鮮のミサイル試射のペースが急であると指摘している。■

2017年10月6日金曜日

USSマケインの修理は横須賀で実施へ



Stricken Destroyer USS John S. McCain to be Repaired in Japan

衝突事故を起こしたUSSジョン・S・マケイン修理は日本国内で実施へ


誘導ミサイル駆逐艦USSジョン・S・マケイン(DDG-56)がシンガポールのチャンギ海軍基地に停泊している。同艦は民間船 Alnic MCとマラッカ海峡東で衝突した。事故調査は別途進められる。US Navy photo.

 By: Sam LaGrone
October 4, 2017 4:50 PM

THE PENTAGON — 8月21日にシンガポール沖で民間貨物船と衝突したUSSジョン・S・マケイン(DDG-56)の修理は日本で行うことになったと米海軍関係者がUSNI Newsに伝えてきた。
  1. 修理は横須賀の艦艇補修施設内で行うという。
  2. 「被害評価は事故直後にシンガポールで実施し工事は日本で完結することがわかり、最小の工費で同艦を現役復帰させられる」と米太平洋艦隊が発表している。「横須賀は前方配備海軍部隊 (FDNF) 用の施設があり乗員および家族にも安定かつそのまま同地に残る機会が生まれる」
  3. マケインにはタンカーAlnic MCのブルバスバウが突き刺さる形で衝突し艦内浸水と10名の乗員の犠牲が生まれた。深刻な被害だが浸水による艦内電子装備損傷は発生せず被害は一部に集中していた。
  4. 海軍の費用積算ではマケイン補修に223百万ドルが必要となり工期はほぼ一年だ。「艦修理の一方で乗員は訓練と即応性維持に従事しながら艦の復帰を待つ」と太平洋艦隊は発表した。
  5. 海軍は同艦をシンガポールから横須賀に移動する準備に入っており、今月末にも大型輸送船で運ぶ。
  6. 他方で損傷度が大きいUSSフィッツジェラルド(DDG-62)は横須賀からミシシッピ州パスカゴウラにあるインガルス造船施設に今年12月に移動され大規模補修工事に入る。同艦は日本沖合で6月17日に商船と衝突し7名を失っている。
  7. 両艦は駆逐艦戦隊15に所属し、前方配備空母USSロナルド・レーガン(CVN-76)の護衛部隊として域内弾道ミサイル防衛任務にも従事していた。米同盟国の防衛を主に北朝鮮を想定し展開していた。■

北朝鮮は米核攻撃に耐えられる---地図からの抹消は不可能では


政治家がえてして好戦的な発言をし、軍人が軍事作戦に及び腰に見えることがありますが、現実を知っているかいないかの違いです。今回の危機がどこまで続くかわかりませんが、北朝鮮が開戦数十分で地図から消えることはないようです。このブログの読者の皆さんは現実感をいつも維持してくださいね。


Why It Might Be Nearly Impossible to Destroy North Korea's Nuclear Weapons

北朝鮮核戦力の排除は実は不可能に近いという事実

October 4, 2017


  1. 状況がさらに悪化しホワイトハウスの目指す経済外交圧力が機能せず朝鮮半島の非核化が遠のけば、いよいよドナルド・トランプ大統領は自ら口にした「世界のだれも見たことのない炎、怒り、軍事力で」北朝鮮に対決せざるを得なくなるかもしれない。
  2. 大統領が北朝鮮に核先制攻撃を実施する選択をしても平壌の核兵器を発射前に確実に殲滅する保証はない。とはいえトランプが開戦を選択すれば北朝鮮の核一次攻撃力あるいは通常兵力をもぎ取ることがワシントンの課題となるはずだ。
  3. 巡航ミサイル多数を投入した通常兵力攻撃で平壌の有する固定式核兵力は大部分を除去できるはずだ、ただし米情報機関が正しい攻撃対象の位置を把握している前提だ。だが移動式発射装置の除去は難易度が高い。さらに超強固に固めた地下施設もある。ノースロップ・グラマンB-2Aスピリットは30千ポンドGBU-57大型貫通型爆弾二発を搭載するが、この爆弾でも最大限の強度を実現した北朝鮮地下施設の完全破壊はむずかしいだろう。
  4. GBU-57は厚さ200フィートの強化コンクリート壁を貫通するといわれるが実際の性能は機密事項であり、流布している情報は多分に楽観的と見る専門家は多い。さらに北朝鮮施設が地下200フィートより深く構築されている可能性は高い。問題をさらに複雑にするのは米国が有するGBU-57は20発しかなく、北朝鮮は施設をもっと多く構築すればよいのだ。
  5. このため核兵器投入が北朝鮮核施設除去の有力な選択肢になる。米国の核兵器備蓄量は相当なものがあるが、そもそもは第三次世界大戦を予期してソ連を相手に想定して整備されたものだ。朝鮮半島の地理条件を考えるとミニットマンIII大陸間弾道ミサイルは投入に適さないだろう。というのは飛翔軌道がロシア、中国上空を通過する必要があるためだ。この二国との核対立を招けばもっと危険な事態になる。
  6. 潜水艦発射の弾道ミサイルを投入すれば中国が北朝鮮に近いこともあり快く思わないはずだ。SLBMが自国を狙ったものではないと中国を納得させるのは至難の業だ。このため、核兵器を北朝鮮に投入する手段で一番確かなのがB-2になる。B-2は北朝鮮に侵入し目標をさがしB61熱核爆弾を北朝鮮核兵器上に投下する。だが核兵器と言えども地下深くの目標への威力が十分ではない。
  7. 「核兵器でも地下深くの施設に対しては効果が限定される」と2005年観光の憂慮する科学者連盟による報告書は指摘している。「例として地中貫通型兵器に米最大規模の1.2メガトンB83弾頭を付けた場合、地下1,000フィート施設の破壊は可能だ。だが対抗して地下壕をもっと深くに構築すれば核攻撃にも対応可能となる」
  8. 仮に米国が北朝鮮の固定式核装備を除去したとしても移動式発射装置の追跡が残る。砂漠の嵐作戦で判明したように移動式弾道ミサイル発射装置の捜索破壊は極めて困難で時間もかかる。砂漠の地形でもくこうなので北朝鮮の地形を考えると状況は厳しい。そうなると北朝鮮は報復攻撃の実施に踏み切る可能性が出てくる。残存する核ミサイルが一発でも発射されれば大変な混乱が生まれる。
  9. 先制攻撃に踏み切れば別の可能性が生まれる。米国は国際社会でのけものにされ、日本、韓国との同盟関係は破たんし、ワシントンは中国ロシアの怒りを買い、簡単に収まることはない。さらに自由世界の指導的立場などアメリカにとって過去の話となり、世界の文明国はこぞってワシントンを敬遠するだろう。
  10. そうなると抑止効果の模索が今後のとるべき行動としてすぐれていることになる。■
Dave Majumdar is the defense editor for the National Interest. You can follow him on Twitter: @davemajumdar.

2017年10月5日木曜日

中国の台湾侵攻が2020年までに現実のものになる可能性

米国にとって北朝鮮などは実はとるに足らぬ脅威であり本質的かつ本腰を入れるべき相手が中国であることは明らかです。その中で北京政府の目の上のたん瘤とでもいうべき台湾にいよいよ手を出すかがこの数年間に警戒すべき課題ということでしょうか。北京からすれば内戦であり外国の干渉を受け入れない、その背後には「一つの中国」という大原則があるのでしょうが、台湾が台湾となり中国のアイデンティティを捨てれば大原則そのものが崩壊してしまい、だからこそ北京は台湾独立を忌み嫌うのでしょう。日本としては米国と連携した海洋勢力として台湾が中国に飲み込まれる事態は回避しなければなりません。それだけに台湾との関係は熟考を覚まられるパワーゲームと言えるでしょう。

China’s Secret Military Plan: Invade Taiwan by 2020

中国の極秘戦争計画は2020年までの台湾侵攻だ

Book based on internal documents says Beijing's invasion plan would trigger U.S.-China conflict

中国国内文書を多数引用した新著では米中開戦の危険性まで発展する危険性を指摘

Chinese President Xi Jinping
Chinese President Xi Jinping / Getty Images
     
October 3, 2017 5:00 am

  1. 中国が2020年までに軍事作戦で台湾併合をめざし米中間で通常戦あるいは核戦争の危険が生まれる可能性があることが中国軍の内部文書から明らかになった。
  2. 人民解放軍(PLA)の秘密作戦案では大規模ミサイル攻撃のあと海軍と空軍が封鎖作戦を展開し最終的に40万名で台湾上陸作戦を行うとしている。
  3. この内容を紹介した書籍が今週刊行される。書名はThe Chinese Invasion Threat で著者イアン・イーストンIan Eastonはシンクタンク、プロジェクト2049研究所Project 2049 Instituteの中国専門家だ。
  4. 台湾紛争の危機はこの数年で拡大し、ワシントンと北京は南シナ海での中国の動きを軸に対立を深めさらに北朝鮮の核・ミサイル開発にも中国が裏で支援しているとの懸念もある。
  5. 「台湾を巡る武力衝突の可能性でも危険度も最大だ」と同書は指摘し、ペンタゴンもこの問題を避けて通れないとする。「中国は明確に圧倒的戦力を台湾にふり向け、必要なら米主導の各国戦力を打倒するつもりだ」
  6. 中国指導者へは民主政体の台湾は脅威と映る。台湾は中国沿岸から90マイル地点で「中国全土に自由の灯を照らしているからだ」と指摘。「このためPLAは台湾侵攻を最大任務ととらえ、戦いに備え軍拡を進めている」
  7. 台湾国防省が2013年にPLAの侵攻作戦案を初めて明らかにし2020年までに軍事作戦を展開するとしていた。
  8. 習近平主席も5年前の中国共産党会合で台湾侵攻案を自ら認め、「2020年案を進め、その年までに台湾に力の行使を展開する」と述べていた。
  9. PLA内の著作物を見ると中国は非軍事手段では効果がないと判断した場合に軍事力行使に踏み切るようだ。また前提として米国を蚊帳の外に追いやることが必要としている。米国では現行の台湾関係法(1979年)により米国は台湾に防衛装備を提供し、台湾への力の行使を防ぐとしている。
  10. 中国は今のところ非致死手段として心理戦、外交、宣伝、情報戦を台湾に展開している。打つ手がなくなれば、大規模揚陸強襲作戦実施に踏み切るだろう。
  11. ただし台湾侵攻は決して容易ではなく犠牲も発生すると同書は指摘。台湾は険しい地形、山地が多く、海峡ではトンネル効果が生まれ兵員装備の搬送は空海共に難しい。
  12. 台湾島は南北230マイル、東西90マイルで台湾軍は内戦に敗れ台湾に逃げ込んだ1949年以来侵攻に備えた体制を維持してきた。
  13. 1980年代以降、中国が急速に軍事力を整備し台湾を力づくで併合しようとしている。弾道ミサイル・巡航ミサイル1,000発以上が台湾をはさむ沿岸に配備されている。
  14. 同書によると中国では侵攻作戦を統合島しょ攻撃作戦Joint Island Attack Campaignと呼んでいるようだ。
  15. 「台湾を軍事占領してこそ『分離独立派』部隊の本拠地をせん滅し長きにわたる海峡を挟んだ軍事対立にも幕を下ろせる」とPLA教本は述べている。
  16. 作戦案ではまず首都台北を短期間に占拠し、政府機能を抹殺した後、その他主要都市に進軍し、残存台湾軍を一掃して全土を占領するとしている。
  17. 軍事作戦ではスピードと奇襲効果で沿岸防衛を圧倒し、初期段階で破壊を展開して米軍部隊の到着前に台湾を降伏させるとしている。
  18. 作戦内容は中国が固く守る秘密の一つだが軍内部の教本などで詳しく分析されており、技術文献がPLA内部でも漏れ伝わるようになっている。
  19. 「非常に詳しく検討されており、中国のこの作戦に対する対応がなみなみならぬものであるとわかる」と同書は述べている。
  20. 段階別に展開する侵攻案は三段階に分かれる。封鎖と爆撃、揚陸作戦、さらに台湾島内の戦闘だ。
  21. 第一段階は海空の封鎖と千地点へのミサイル攻撃だ。その後中国海軍が揚陸地点14か所へ大部隊を派遣する。
  22. 「侵攻軍が台湾沿岸部に上陸する前にPLAは数波にわたりミサイル、ロケット、爆弾、砲弾を沿岸防衛体制に加え、電子妨害で通信を遮断する」
  23. 中国から見る台湾は「反乱地方」であり再統一は中国が目指すグローバル規模の戦略目標達成の一部にすぎない。「同島を占拠し統制することで初めて国家再統一が完成する。『分離主義者』部隊勢力の残り火が再び発火しないとも限らない」とPLA文書の一つが表現している。
  24. PLA野戦マニュアルでは台湾の地形と防衛体制のため大規模かつ巧妙な軍事作戦の展開が必要とされ難易度は高く犠牲者も相当覚悟せねばならないとしている。
  25. PLAマニュアルの中でも入手しがたい「台湾海峡の軍事地形学習教材」では外国軍事勢力が中国の貿易通商路を遮断するのに台湾を利用し、さらに米軍が台湾を中国封鎖の基地として利用する恐れを指摘する。
  26. 中国の原油輸入が依存する海上交通が台湾海峡を通過しているので軍事封鎖にはぜい弱だ。「そこで戦略的に重要な海上通行路確保が軍事対応のみならず国家戦略の課題だ」とマニュアルは指摘している。
  27. また台湾は日本封鎖にも活用できると中国は見ている。
  28. 情報戦では中国は法律闘争とインターネット他を使い、心理戦で台湾の抵抗を弱体化させてから本格的軍事作戦を展開する構想だ。心理戦にメディア利用の他政治手段を組み合わせる。中国軍の内部資料では情報戦の活用をこうまとめている。
  29. 法律闘争と世論操作に心理戦の組み合わせで台湾国内の意思を分断弱体化させ戦闘力を低下させる。法律闘争は台湾内の政治集団が対象で心理攻撃を加えるのが目的だ。台湾への統合軍事行動は法律面で正当化され解放闘争の延長とする。世論を活用し、敵の軍事勢力へ心理戦で攻撃を加える。「独立」をこれ以上支持しても効果がないと達観させ...インターネットを利用して国内の非政府組織や国民に心理攻撃を加える。統一効果を前広に宣伝し『分離独立派』の社会基盤そのものを弱体化させる。
  30. 台湾指導部も攻撃対象であり、台北の総統府他主要官庁を標的とする。
  31. PLA文書は台湾統治機構と防御体制への関心を喚呼している。
  32. 「ハイテク兵器を使い台湾領空に侵入し精密かつ強力な破壊力で容赦ない攻撃を台湾の首脳部に加える」と文書は説明している。「確実に敵を倒ささねばならない」 中国は特殊部隊で台湾の政治上層部の誘拐または殺害を狙い、秘密作戦と強硬策も選択する。
  33. ペンタゴンでは中国の台湾占拠案は空軍で特に懸念を生んでいる。中国ミサイル他の攻撃が米軍基地特に嘉手納空軍基地を巻き込む可能性があるためで、嘉手納は太平洋地区の軍事的中心だ。
  34. 米海軍は中国潜水艦が米空母あるいは太平洋で唯一の指揮統制艦USSブルーリッジの撃沈を目指すことを恐れている。
  35. 「実際にどうなるかは誰にもわからないが、将来に中国が奇襲攻撃を実施すれば真珠湾攻撃と9/11を合わせた規模に発展するのは確実と全員が覚悟している」
  36. さらに台湾を巡る対決が米中核戦争に発展すると危惧する向きもある。
  37. 「引き金となるのは単なる事故や悪意のない事件かもしれないが敵意の表れと誤解されるかもしれない」と同書は述べている。「歴史には悪名高い出来事もあり、真相が理解されないままの出来事もある。第一次大戦の真因を巡る論争が一世紀にわたり続くがいまだに結論が出ていない」
  38. リック・フィッシャーRick Fisherは国際評価戦略センターInternational Assessment and Strategy Centerの上席研究員で同書から戦争抑止に必要な政策上の観点がうかがえると述べている。外部非公開の中国語軍事文献を引用することで中国の意図を理解する新しい材料となり、台湾を巡る作戦構想やねらいがわかるという。
  39. 「イーストンの業績により米国及び同盟国に重要な警告が伝わる。中国が2020年代前半に台湾侵攻を行う可能性だ。現在はすでに台湾海峡が危機状況にあり、危機へ対応するか、1950年代以来戦争を回避してきたが実際に開戦になるリスクを冒すかの選択を迫られていると言えよう」■

2017年10月4日水曜日

★★目が離せない次世代ヘリコプター競作の行方



Bell V-280 Vs. Sikorsky-Boeing SB>1: Who Will Win Future Vertical Lift?

ベルV-280対シコースキー・ボーイングSB>1
FVL次期垂直離着陸機構想で勝つのはどちらか。

The Sikorsky-Boeing SB-1 Defiant concept for the Joint Multi-Role demonstrator, a predecessor to the Future Vertical Lift aircraft.
Bell graphic
Bell V-280 Valor Joint Multi-Role Demonstrator (CGI graphic)
By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on October 02, 2017 at 2:02 PM

AMARILLO, TEX.: 米陸軍の次世代垂直離着陸機事業は現在のヘリコプターに比べ革命的な代替策のt実現を目指しているが、その実現方法は、またそもそもの理由は何なのか。答えは物理原則に基づくヘリコプター速度の壁にある。
  1. 競い合うベルシコースキーロッキード・マーティン傘下)はそれぞれこの壁を越えた画期的な高速回転翼機の実現を目指すのことでは共通だが、模索する方法が異なっている。ベルV-280ヴァラーは主翼がつき、燃料効率と長距離飛行性能でシコースキー=ボーイングSB>1ディファイアントより優れていることはあきらかだが、両陣営ともそれぞれの機体が機動性で優れていると主張している。
  2. では軍はどちらの設計案を採用するだろうか。海兵隊は画期的な回転翼機の導入に前向きで、すでにV-22オスプレイ(ベルとボーイングの共同事業)を導入している。空軍と海軍もオスプレイを導入している。だが陸軍は同機を一機も調達しておらず、米国最大のヘリコプター運用者としてUH-60だけでも2,000機超を運用中で後継機探しが課題だ。そこでベル、シコースキーにはともに陸軍の攻略が課題となる。
  3. そこでワシントンで来週開催される陸軍協会会議に先だちベルが記者を自社工場に招きV-280ヴァラーの利点を説き、SB>1の欠陥を吹き込んだのは驚くに当たらない。記者がシコースキーに対しベルへの反論を聞いてみたところ、同社は上席幹部を24時間もたたないうちに電話口に立たせ説明をしてきたのも驚くに当たらない。
  4. 両機では相違点もあるが、基本的な売り込み方は速力と航続距離で共通している。現在最速の陸軍ヘリコプターはCH-47Fチヌークで最高170ノットだ。つまり毎時195マイルで戦闘行動半径は200カイリ(230マイル)だ。これ以上の速度と航続距離を求めると根本的に違う設計が必要となる。ベル=ボーイングV-22がその答えで毎時270ノット(310マイル)で428カイリ(490マイル)まで進出できる。(これは空中給油なしの場合) これに対しFVL候補の二機種は初飛行をしていないが、ベルV-250が280ノット(320マイル)、シコースキー=ボーイングSB>1が250ノット(287マイル)を実現する。
  5. ヘリコプターは飛行せず、単に空中にとどまっているにすぎない。説明してみよう。
  6. 固定翼機ではジェットであれプロペラであれエンジンで前方へ進む推力がつく。前進で主翼上に気流が生まれ揚力となる。機体全体を前方へ動いて揚力を生むため、長い滑走路が必要となり、飛行中もたえず前方へ移動する必要がある。(速力が低すぎると失速し墜落の危険が生まれる)
  7. これに対しヘリコプターは主翼を回転させて気流を生み、揚力を得る。このため回転翼機と呼ばれる。推進力は回転ローターを傾けて生まれ、どの方向でも同じだ。このため垂直離着陸が可能となり、前後に移動できホバリングも可能だが水平飛行では高速移動できず燃料消費も劣る。
  8. 高速ではヘリコプターの回転翼があだとなる。半分は前進に機能するが残る半分が後退作用をもたらす。前進作用のブレードは確かに高速で揚力を生むが、後退ブレードはヘリコプターの速力を減らす効果を生み、揚力効果も少ない。
  9. 低速では前進後退ブレードの違いはほとんど気にならない。だが速度が上がると前進ブレードの速力は音速に近づき、危険な振動が生まれる。一方で後退ブレードは揚力が足らず失速気味だ。この時点でパイロットには速力を下げるか墜落するに任せるかの二者択一しかない。
  10. このヘリコプター特有の速力上限を打ち破るには二つの方向がある。ティルトローターと複合推進だ。前者がベルV-280、後者がボーイング=シコースキーSB>1で、単純に言うとティルトローターには主翼がつき、ローターブレイドが角度の変化でヘリコプターのローターまたはプロペラの機能を果たす。複合推進では主翼はなく、ブレードを二基つけ一つを回転翼としもうひとつをプロペラとして利用する。
  11. V-22の場合は1970年代に実験機XV-15で知見を積み2007年に軍での運用を開始した。ベルはティルトローターで業界をリードし、高速飛行と燃料消費の向上を一気に実現した。ただし欠点は機械系統が複雑で、ティルト機構が重量増につながること、また飛行中にモード変更の必要があることだ。
  12. シコースキーの複合ヘリコプター実験も1970年代にXH-59実験機で始まり、X2実証機に進化した。(同機はスミソニアン博物館で展示中)S-97レイダーに発展しさらにSB>1になったわけだ。「複合」と呼ぶのはブレード二式があるためで、同軸ローターふたつが反転し、各ローターが生む揚力がバランスを取り、夫々の後退力をうちけすものの高速では過剰振動は消えないが、ローター機構は強固になっており振動制御機構も高性能になっているとシコースキーが説明している。
  13. 次に高速飛行の実現のため機体後部に推進プロペラを搭載している。複合ヘリコプターがホバリングする際は機体上部の双ローターにエンジン出力の大部分を伝えるので従来型と同様だ。高速前進飛行に入るとエンジンは9割の出力を後部推進プロペラに伝え前方飛行の推力とするので従来型のプロペラ機と同様になる。
  14. どちらが優れているのか。答えはミッション内容とともに何を重視するかで変わる。
  15. 複合ヘリコプターは「長距離飛行ではティルトローターより効率がやや劣る」とシコ―スキーのイノベーション担当副社長クリス・ヴァン・ブイテンChris Van Buitenが認めている。「だがミッションは長距離を飛べばよいという単純なものではありません。ティルトローターは確かに巡航時は効率が優れますが目的地近くで苦労することになります」
  16. 現行ブラックホークの後継機として砲火の下で狭い地点に着陸し、兵員を下ろし手から離陸する必要がある。できれば後退方向へ飛行すれば機体を旋回させる必要がない。アパッチの後継機種には低空飛行とともに低速飛行で地形の陰に隠れ敵の対空装備から逃れつつ臨機応変に姿をあらわし機関銃ミサイルで攻撃する能力が必要だ。ローターが傾くまで待っているような余裕はないはずとヴァン・ブイテンは述べる。
  17. ベルは当然ながらこれに反論する。V-22から多大な教訓を学んだとV-280事業主査クリス・ゲーラ―は述べており、「低速域での取り回しは大幅に改良された」と報道陣にアマリロ工場で語っている。このためローターの挙動の変更が必要となり、素材面で進展があり機体に対しローターが大型化された。V-280はV-22と同程度の機体だが重量は半減しており、低速度では「V-22比で制御に回せる出力が5割増えた」とゲーラ―は述べ、ブラックホーク、アパッチをしのぐ水準だという。
  18. 高速域ではティルトローターの利点が生きて複合ヘリコプターより操縦性が高いとゲーラ―は説明する。「現時点の複合同軸ローターでは高速回転がまだ未解決です」という。
  19. たしかに初歩的な複合ヘリコプターではそれは正しいが自社製品にはあてはまらないとヴァンブイテンは述べる。その理由として反転回転ローター二つの効果が大きいという。「高速飛行時にローターが主翼同様の効果を生み相当の機動性が実現しています」
  20. では外部専門家はどう見ているのだろうか。「総じてティルトローターでは複合ヘリの機動性敏捷性は期待できません」とTealグループの航空アナリスト、リチャード・アブラフィアは述べる。
  21. アブラフィアはミッションが異なり運用部隊が違えば機体も異なって当然と記者に述べた。軍としてはティルトローター、複合ヘリコプター、従来型ヘリコプターをそろえるべきという。今のところは陸軍が次世代推力離着陸機事業で中心となっているが、「陸軍回転翼機の圧倒的大部分の任務は輸送で、FVLの利点が生かせません。ただしボーイング=シコースキーのレイダーを偵察攻撃ミッションに投入してはどうでしょう。残存性と攻撃力は十分あるはずです」
  22. 「V-280には海兵隊向けの設計思想が見えますね」とアブラフィアは指摘する。各種作戦や多様なドメインでの戦闘を口にするものの陸軍が速力と航続距離だけに大金を払う意思があるのか疑問視している。すでにV-22でこれは実現しているではないか。そこで次のように推察している。海兵隊はティルトローターを重視し、陸軍は従来型ヘリコプターの改修を続けながら複合ヘリコプター少数を調達し、ガンシップ兼偵察機に使うのではないか。■