2019年1月9日水曜日

ウクライナからユタへ飛んだIl-76が米空軍に持ち込んだものは....

敵に勝つために敵を知る、これは米国人が一貫して行っていることでゼロ戦の捕獲解析、MiG-15もそうでしたね、その他非公表の旧ソ連製装備が大量に米国に渡っています。今回もその一環だったのか、得られる貴重な情報は今後の作戦に大いに役立ちそうですね

Ukrainian Il-76 Airlifter That Was Tracked Across U.S. Delivered Radar Asset To Utah Air Base
ウクライナのIl-76輸送機を追尾したら米本土を横断してレーダーをユタの空軍基地に搬送していた
A radar from Ukraine would allow American personnel to assess how much of a threat it, or similar systems that potential enemies use, might pose.
ウクライナから搬送したレーダーにより敵側が使用した際の性能を米側は評価できる

BY JOSEPH TREVITHICKJANUARY 3, 2019


クライナ空軍のIl-76「キャンディド」輸送機がソルトレイクシティ国際空港に隣接する州軍航空隊基地に姿を表した。同機は米空軍との契約で移動式レーダー装備を搬送したことが判明した。

オンラインの機体トラッカーがいち早く同機に気づいた。ウクライナ空軍は同型を5機しか保有していないが、一機がカナダ東部のオタワ・マクドナルト-カルティエ国際空港を2018年12月3日午前に離陸し西方に飛ぶのを見つけ、同機はソルトレイクシティに東部標準時午後12時前に到着している。

機体トラッカー@CivMilAir から同機は737旅客機登録番号UR-IVK(ウクライナのエアラインDriporavia)として表示と教えてくれた。だがドニポラヴィアに米国路線はなく、737が母国から飛ぶとすれば長距離飛行となる。@CivMilAir はトランスポンダーのエラーか意図的な操作を疑った。




@CIVMILAIR

@CIVMILAIR

@CIVMILAIR



その後東部標準時午後4時に機体スポッターのアンソニー・カーペネティがツイッターに投稿した写真で問題の機体がIl-76で、ソルトレイクシティ国際空港に隣接するローランド・R・ライト州軍航空隊基地にあることがわかった。同基地はユタ州軍航空隊のKC-135Rを運用する151給油航空団の本拠だ。
151航空団が「ヒル空軍基地がまとめた契約により移動式レーダー装備を搬出」させたと米空軍ケビン・ラーセン少佐がユタ州軍航空隊の報道官としてWar Zoneに電子メールで教えてくれた。そこでヒル基地に照会したが原稿執筆時点では広報担当からの回答はない。




Dave Honan
@DWHonan
· Jan 3, 2019
#avgeek spot: Ukraine Air Force IL-76 off Ottawa, heading towards the west coast. Destination unknown to me.@CivMilAir @Aviation_Intel @AviationPhotoAC

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Anthony Carpeneti
@AviationPhotoAC
Friend of mine got her. She’s at the ANG base at SLC. pic.twitter.com/tzGGk1tkGg

3
6:00 AM - Jan 4, 2019
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だがIl-76のレーダー装備搬送先がヒル基地でなくソルトレイクシティーになった理由は不明だ。ヒル基地は同空港の北25マイルの位置にある。また同基地がレーダー装備にどこまで関与しているのかも不明だ。ヒル基地内の契約業務担当が全米の空軍施設関連の契約全般を取り扱っている。その中にはネヴァダテスト訓練施設(NTTR)やトノパ射爆場(TTR)がありその場所は隣接するネヴァダ州にある。

そもそも米空軍がウクライナからこのレーダー装備を受領した理由が不明だ。Il-76は共用戦域発信機を米国に返却しに飛んだのか。これは各種の防空脅威内容を訓練用に模擬発信する装置で米軍はこうした装備を海外演習に持ち込むことがあるが輸送には民間契約企業を介し独自に行うことが多い。
判明している内容から総合すると可能性があるのは米空軍がウクライナのレーダーを購入あるいはリースで受領したことで、いわゆる「海外物資探査」"foreign materiel exploitation" (FME)の目的だったのだろう。米軍は常時「脅威対象の代表的装備」を入手して分解調査して弱点の把握に努めており、実際に運用された際に米軍にどんな悪影響を生むかを解明しようとしている。

ウクライナは米国に友好的な旧ソ連構成共和国で今も各種ソ連時代装備を運用しており、装備品の供給先として貴重な存在になっている。2018年9月には米陸軍が別のウクライナ防空レーダーS-300地対空ミサイル装備関連の36D6M1-1を入手したといわれる。

S-300派生型は今もロシアで運用中でありその他国でも同様だ。その一つが米国の潜在的国イランである。今回のウクライナのレーダーが同一型でなくても同様の装備である可能性がある。


UKROBORONPROM
ウクライナの移動式36D6M1-1レーダー


このレーダーがヒル基地に行かないとすれば、近接するユタ・テスト訓練施設(UTTR)に向かうのは確実だろう。あるいはネヴァダ州のTTRやその他地点に姿を表わすかは空軍契約の内容次第だ。

いずれにせよ、空軍はレーダーが稼働する空域に各種機材を飛ばすことを想定しており、このためレーダーがどのように標的をを補足するのかを知りたいはずだ。また米軍機が電子戦や防御装備をどう行えるかも関心あるはずだ。

ヒル基地は空軍のF-35主要基地のひとつであり、UTTRとも関連があり、レーダーテストには最高の地点だ。ステルス機以外にも非ステルス戦闘機として敵レーダーの制圧破壊任務(SEAD/DEAD)につく機体もテスト対象になる。電子戦、電子情報作戦以外にその他有人機無人機が同レーダーに映るのかも関心を呼ぶはずだ。

さらに外国製の軍事装備品は情報収集の宝庫だ。海外軍事装備品の解析の需要は常に高い。

.だが米軍が最近になり「大国間戦闘」に焦点をあわせたことで想定する相手のロシアや中国の装備品の入手の気運が高まっている。ウクライナからさらに装備品が搬送される可能性は高いはずで、同国がロシアと関係が冷却化していることを考えるとさらに可能性は高い。■




Contact the author: jtrevithickpr@gmail.com

2019年1月8日火曜日

これが米国式の正義だ 2000年のUSSコール爆破事件の犯人を元日に空爆で殺害

U.S. Airstrike Kills Terrorist Behind USS Cole Bombing
USSコール爆破事件に関与した犯人が米空爆で死亡


By: Ben Werner
January 4, 2019 4:49 PM


2000年にイエメンからMV ブルー・マーリンにより搬送されるUSSコール。 US Navy Photo

日の米軍空爆でジャマル・アル-=バダウィが死亡したようだ。2000年10月にアーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦USSコール(DDG-67)の爆弾攻撃を調整した人物と関係者が伝えている。


「ジャマル・アル-バダウィがイエメン空爆で死亡したとの報道は承知している」と米中央軍報道官ビル・アーバン大佐がUSNI Newsの照会に対して電子メールで回答してきた。「米軍が精密爆撃を1月1日にイエメンのマリブ行政区を実施しジャマル・アル-バダウィを標的とした。同人はアルカイダの伝説的工作員でUSSコール襲撃事件への関与で知られている」

CNNが1月4日午後にジャマル・アル-バダウィの死亡を伝えた


FBI指名手配書でのジャマル・アル-バダウィ FBI photo.

米軍は空爆の効果をまだ調査中で、しかるべく手続きを経てから本人の死亡を確認するとアーバン報道官が述べている。

2000年10月12日にコールはイエメンのアデン港で念慮補給中だったが、アルカイダ戦闘員二名がゴムボートで同艦左舷にまわり爆弾を起爆したと米海軍歴史伝統本部がまとめている。

.爆発でコールには40フィートの穴があき、水兵17名が死亡した。艦は残る乗員が沈没を食い止め、ミシシッピ州パスカゴウラに搬送され大掛かりな修理を行った。

爆破事件を受けてFBIは対テロリズム部門から100名超の捜査官を動員したほか、各地の駐在捜査官が事件を捜査した。その結果、FBIはアルカイダが事件を計画実施したことを突き止めたとFBIの捜査史にある。

連邦大陪審は2003年にアル-バダウィ及び共犯者フアハド・アルキューソをテロ関連犯罪50件の罪で有罪とし、コール以外に2000年にUSSザ・サリヴァンズ(DDG-68)の爆破も狙っていたと結論づけた。米政府は賞金5百万ドルでアル-バダウィ逮捕に繋がる情報を求めと米司法省の記録にある。

アル-バダウィの起訴状によればオサマ・ビン・ラディンに近い筋により勧誘され攻撃を実施に至ったとある。またアル-バダウィが戦闘員用に隠れ家をアデンで確保したともあり、攻撃に用いたボートを手配し、tラックでボートをアデン港に運んだともある。

連邦大陪審がアル-キューソをコール襲撃幇助の一環で市内アパートから一部始終を撮影したと断定。アル-キューソは2012年に米軍の無人機空爆で死亡したとの報道がある。■

コメント これが米国の正義の意味です。地球の果まで自国人を殺害した犯人を追求し、欠席法定で有罪となれば本人を生死を問わず排除する。記事には全く触れていませんが、同人が偶然殺害されたのではなく、情報戦の勝利でしょう。では、過去日本人を殺害した複数案件の外国人を日本は起訴もしていないのはどういうことでしょう。当然、捜査も終結しています。遺族からすればやりきれないですね。

今年の展望 中国に警戒を。習近平体制は不安定化に向かうのか。


Will a Failing China Attack America? 
失速する中国が米国に攻撃を仕掛ける可能性はあるのか

"That’s an especially disturbing possibility now that belligerent Chinese officers are convincing themselves they can launch surprise attacks on the U.S. Navy and kill thousands of Americans."
「米海軍を奇襲攻撃し数千名の米国人を殺せると公言してはばからない中国関係者を見ると心穏やかではいられなくなる」


by Gordon G. Chang
December 31, 2018  Topic: Security Region: Asia  Tags: ChinaXi JinpingAmericaPLAU.S. Navy

「米国は死を最も恐れる」と海軍少将羅願Luo Yuanが2018年12月20日に深センで講演した。「こちらには東風-21D、東風-26ミサイルがある。空母キラーだ。あちらの空母を沈められる。一隻で5千人だ。二隻なら死傷者一万人になる。米国が恐怖を感じないはずはない」
羅少将は毒舌で知られるが、中国上層部の思考を反映している。1月1日の米国との国交回復40周年を直前に米艦船攻撃を公言する二人目の軍関係者となった。
戦争の話題は中国で軍以外からも聞こえる。今一番ホットな記事は1938年の毛沢東演説の再録だ。
中国国営メディアが米国への憎悪でいっぱいのときに毛沢東の言葉が人気を集めていることは要注意だ。中国指導部は内部抗争に勝つためにも戦争の話題を口にしている。
中国共産党は混乱しているようだ。中央委員会は第19回人民代表会議で第四次全体会を開けなかった。
昨秋、中国経済が厳しい状況ため習近平が年末までに全体会を招集し構造改革問題を取り上げると外部は見ていた。
中央委員会には全体会を開催すべき理由が別にある。「米国の対中政策が競合に方向を変え現体制の存続が危なくなっている」と中国問題で定評のあるサイトSinoInsiderが10月に評した。「そのため習近平には党エリートを集め国内外の危機に一致して対応させる必要がある」
ではなぜ四次全体会が開催されなかったのか。「習が権力集中を完成したため全体会を開催し不必要な波を立てたくなかったのではないか」と中国ウォッチャーが匿名条件で教えてくれた。「一人で全部決められるのは毛沢東時代と同じだ。つまり全体会は都合よく開催できるので、党から追放したい同志がいれば開催するのだろう」
習は毛への心酔で知られ、毛の発言をなぞっているので、現在の中国が習により完全に統制されている可能性は高い。
だが中国ウォッチャーの大部分は別の見方だ。習の地位は従来より不安定というのだ。Sinoinsiderがこのことに触れていた。「四次全体会が開催されないのは派閥抗争が激化し習も危うい状況にあるためだ」
香港中文大の中国ウォッチャー、ウィリー・ラムは「一部アナリストは習が地方幹部に不人気で四次全体会開催を見送ったと見ている」と記した。
この説明だと反習勢力が経済失速や米国との貿易摩擦など習の政策失敗を責めている現状と合う。前例のない権力集中を得た「全案件全地点全国民の主席」は逆に誰の責任も問えない。
そうなると2018年12月18日に習が内容の乏しい演説を第11次中央委員会の第三次全体会40周年の席上で行ったのも当然か。これは中国の「改革時代」の始まりとされている。中身がない演説に終始したのは党がそこまで分裂しているためだ。さらに分裂が進みそうな兆しがある。習の前任者かつ今もライバルの江沢民、胡錦濤がともに習の90分におよぶ13千語の演説に同席しなかった。
習の権力基盤が危うくなったとの観測は正しく、四次全体会開催に失敗したのは明らかだ。習が2012年末に就任後の党は淡々と定期的に運営されてきた。人民代表会議は五年周期に、全体会がその間に開催される予測どおりの展開だった。共産党へ関心を有する向きからはこの規則正しい実行を好意的に見てきた。
だが共産党はもはや規則正しい実行ができない。三次全体会は通例の秋にでなく2月に開かれた。習はこの機会を乗っ取り統治問題を取り上げ、任期上限を取り払った国家主席となった。また四次全体会の議題を三次でとりあげたため、四次全体会が未開催なのは上述のとおりだ。
中国軍関係者が米海軍を標的とする発言を普通に行うのは良くないがもっと悪いのは共産党トップが不安定になっているのが明らかなときにこうした発言をはばからないことだ。外部からは北京で何が起こっているのかうかがい知れないが、上層部の摩擦の兆候はだれにでもわかる。
この不調和のため米政府は対中関係を抜本的に見直すことになった。共産党内部の対立により米国にとって望ましくない方向に向かうのはあきらかで、意見対立の原因の一つに対米関係なのだ。
トランプ政権は対中関係の変更に舵を切り始めた。たとえば国家安全保障戦略が一例だ。ここでは中国にはロシアと並び「現状を変更しようとする勢力」の表現が見られる。これは従来よりも現実的な認識への第一歩であるが中国の状況が不安定化しつつ強硬な態度を増しているのは戦略方針の表現を超えている。落ちめの中国が強襲に出る可能性はある。

好戦的な中国関係者が米海軍に奇襲攻撃をかけ数千名の米国人の生命を奪えると公言する中でこれは不安を煽る可能性だ。■



Gordon G. Chang is the author of The Coming Collapse of China . Follow him on Twitter @GordonGChang.

Image: Reuters

2019年1月7日月曜日

レイルガン海上公試で中国が一歩リードか、米海軍の動きはどうなっている


China's Navy Railgun Is Out for Sea Trials. Here's Why It’s a Threat to the U.S. Navy.
中国海軍のレイルガン海上公試は米海軍への脅威になる

by David Axe Follow @daxe on TwitterL
The Chinese navy apparently has sent a high-tech electromagnetic gun to sea for tests.
January 6, 2019  Topic: Security Region: Asia  Blog Brand: The Buzz Tags: ChinaMilitaryTechnologyWorldNavyRailgun



2018年12月、中国国内のインターネットに流布した写真は海軍揚陸艦に試作型電磁レイルガンが搭載されていた。

写真が本物なのかとともに撮影の時期場所の確認は困難だった。だが写真に映る艦はその前に中国がレイルガンのテスト用に使った艦と同じだ。

レイルガンは磁力を応用し、爆発薬は使わずに発射体を投射するもので距離と破壊力が従来型兵器より優れる。

レイルガン開発は長く各国で進められているが相当の電力消費が必要なため実戦配備が困難なままだ。

だが新型艦では最初から発電容量を重視するようになっている。これによりレイルガンが実験レベルから実戦レベルに移行する事が可能になる。

.中国のレールガンは2018年1月に072型揚陸艦海洋山Haiyang Shan に搭載され揚子江の武漢で視認された。同艦の前方に搭載され大きな砲塔が見られた。

2018年3月に中国国営通信がこれを試験用レイルガンと認めた。PLAが運営するportal 81.cnが海軍技術者Zhang Xiaoが直流でレイルガンに電力供給すると述べるのを伝えていた。

それによれば電力供給系統の開発のため5万回に及ぶテストをし、数百回の失敗に直面したという。

理論上はレイルガンで発射体をマッハ7まで加速し100マイル先に飛ばせる。これに対し従来型火砲では10マイルが限界だ。

レイルガンで水上、陸上の目標に加え飛行中の航空機やミサイルを狙うことも可能だ。だが電力供給量やサイズの制約のため搭載は大型艦に限定される。

中国は055型巡洋艦(全長590フィート)を建造中だ。将来型ではレイルガン搭載も可能だろう。米情報機関筋は中国の実用型レールガンは早ければ2025年に登場するとの見方をCNBCに伝えてきた。米海軍では艦内の空間と発電容量が障害となっているが2012年に陸上配備型のレールガン試作型二種のテストを開始した。

.018年に米議会は25億ドルで電磁砲関連の技術研究と開発を認めた。「相当の技術上の進展を見た」と海軍研究本部の技術主幹トム・バウチャーが2017年5月に語っていた。

だが米海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦の新鋭フライトIII艦でもレールガン搭載の空間、電力が不足する。「全員がDDGフライトIIIでゆくゆくエネルギー兵器搭載を実現したいと考えている」とロン・ボクソール少将が2018年に語っている。

米海軍はレールガンのズムワルト級駆逐艦(全長610フィート)搭載を検討したが取りやめ、かわりに全長340フィートの高速輸送艦に試験用レイルガン一門を搭載し、電力を貨物倉野発電機から供給することにした。
2019年初頭現在で米国のレイルガンは海上公試に至っていない。

米海軍艦船ではレイルガンのほかレーザーも想定した空間と発電容量を最初から想定した新型艦を2023年から建造開始する。

それまでに中国海軍のレールガンが5年もの海上公試をしているはずだ。その時点で実用型の使用も二年経過していることになる。■



David Axe edits  War Is Boring . He is the author of the new graphic novels MACHETE SQUAD and THE STAN.


レールガンと表記する向きが多いと思いますが、本ブログではレイルガンとしています。英語の発音になるべく近づけたカタカナ表記にすべきと考えるためです。ご了承ください。


主張 極超音速兵器の登場で国防の本質から逸脱してはならない


Hypersonic Weapons are No Game-Changer
Hypersonic weapon systems are coming. That is a fact. But these new weapons will not change the fundamentals of strategy, the long-term logic of defense planning or military capability development.
極超音速兵器は戦闘の様相を一変させる存在ではない
極超音速兵器が実用化に向かうのは確かでも防衛、軍事力整備両面の戦略が本質的に変化することはない


by Jyri Raitasalo
January 5, 2019  Topic: Security Blog Brand: The Buzz  Tags: HypersonicHypersonic MissilesU.S. StrategyRussiaU.S. Armed Forces
https://nationalinterest.org/blog/buzz/hypersonic-weapons-are-no-game-changer-40632


超音速兵器についてロシアや中国の先行配備で米国及び西側が弱体になるとの論調が大半だ。この論法だと極超音速ミサイルに有効な防衛対策はなく、極超音速滑空体 Hypersonic Glide Vehicles (HGV)が注目を集めている。米戦略軍司令官ジョン・ホイテン大将は上院軍事委員会で2018年3月に「このような装備へ対抗措置はない」と述べた。ロシアや中国の極超音速兵器の脅威を煽り立てる西側の論法だと米国は数ヶ月あるいは数カ年のうちに無防備になり、最短でも10年この状態が続くという。
極超音速兵器を巡る騒動を前に、どこか見覚えがあるという方もあるだろう。.軍事革命 (RMA)がその例だ。戦場につきものの不確定さを取り除く発想だった。国防関連用語で複雑な安全保障環境中の脅の理解がかえって難しくなる事が多い。だが新兵器の出現で防衛関連戦略の基本が一夜にして変わることはない。

極超音速兵器が革命的装備にならない理由がいくつかある。まず米国の軍事力は他国に劣らず数年どころか数十年にわたり変わらない。極超音速兵器の脅威に極超音速で対応する必要はない。米国には多様な軍事対応策に必要な資源がありロシアや中国に仮に数ヶ月遅れても対応策を生むはずだ。さらに防衛手段が存在しない兵器があると考えること自体が不自然だ。米国が世界のリーダーでありいつの時代も全分野で強いと考えること自体が傲慢である。
敵国に全面的な強みを維持するのを基本にすると一国の戦略は必然的に失敗する。ジョン・ルイス・ガディス が雄弁を誇るように戦略にはバランスが必要で無限と言ってよい目標を限定された材料で希求することを意味する。軍事装備品すべてで優越性を求めると結果は悲惨だ。軍事計画立案部門および政策決定層がこのことに早く気づけば結果は良くなる。達成不可能な目標に力を注ぐとこれは不可能だ。つぎはぎだらけの敵に完全無欠な軍事力で対応するのは「無法国家」からほぼ同程度の実力を有する大国を相手にするのと同じだ。
次にこちらも極超音速兵器で対抗する想定が多いが、敵に対応して極超音速兵器を配備すれば効果は減る。軍事力開発は長期にわたる事業である。今日の戦闘の主役は過去半世紀に開発された装備である。ロシア、中国も国防における長期性の制約から逃れられない。ロシアや中国が極超音速兵器開発で進展を示しても自動的に大量展開できるわけではない。いかなる国家も一年間で更新できるのは全軍事力の2-3%だ。歴史や軍事装備開発のこれまでの実績は防衛にもあてはまる。防衛部門で革命的な変化を平気で口にするものはいるがUターンや迅速な変化はありえない。
最後に抑止戦略だ。これは現実の戦闘能力を基本にしないと成立しないが、敵側が「極超音速の利点」で米国に差をつけるのを防止する抑止効果を過小評価してはならない。米国に対して極超音速兵器を投入すると脅かし自らの首を締める国があると想像するのは非現実的だ。ほぼ全地球的に兵力を展開する米国を脅迫しながら安泰でいられると考える国はない。
極超音速兵器の実用化が近づいているのは事実だ。だが長期にわたる国防の計画立案の本質を一変するものではない。極超音速ミサイルが登場しても最強兵器としてロシアや中国が戦場で米国より優位に立つことはない。まして極超音速ミサイルで米国がグローバル軍事大国の座から追い出されることはない。
逆に言えば米国が極超音速兵器を開発配備してもロシア、中国が自由世界の秩序や米国に対し強める圧力が消えるわけではない。新技術や新兵器は重要だが、そこまでの重要性はない。極超音速兵器レースに恐れおののくかわりに国防の本質を正しく理解すべきだ。冷戦後は対戦闘員戦が長く続いているが、米国あるいは欧州の各軍は従来型装備の大規模攻勢に対抗できるだろうか。■



本稿の著者ジリル・ライタサロ中佐はフィンランド国防大学の戦史研究の教官。本稿は著者個人の所見である。

2019年1月6日日曜日

習近平の新年あいさつ「戦闘準備引き上げ」ことばだけなのか、それとも....?

Xi orders armed forces to enhance combat readiness 
習近平が各軍の即応体制引き上げを指示

SourceXinhuanetEditorLi JiayaoTime2019-01-04
http://english.chinamil.com.cn/view/2019-01/04/content_9396346.htm

2019年1月4日に北京で開催された中央軍事委員会で訓示する習近平中国共産党総書記長兼中央軍事委員会委員長。 (Xinhua/Li Gang)

近平主席は1月4日、中国各軍に対し戦闘準備を高め、強力な軍事力整備の新基盤づくりを新たな視点で進めるよう指示した。

中国共産党中央委員会の総書記長兼中央軍事委員会(CMC)の委員長も務める習は北京のCMC会合で上記指示を与えた。
第18回人民代表会議以降の軍事面での功績を称えつつ習は国家主権の守り手としての軍が厳しい状況に耐えつつ複雑な状況に直面していると述べた。

「世界が過去一世紀中で見られなかった大きな変革期にある中でさらなる成長に向けた戦略的好機という重要な時期に中国は引き続き立っている」とし、リスクと課題の高まりに注意喚起した。
各軍は中国の置かれた安全保障と開発の潮流を正しく理解し、危険、危機、戦闘への意識付けを高くし不屈の努力で戦闘準備体制を保ち・党と人民の求めに応じて任務遂行をめざせ、と習は述べた。

.戦闘能力を唯一かつ基本基準として習はすべての作業、努力、資源を戦闘準備体制の維持に集中配分し大きな進展を模索すべしと命じた。
合わせて迅速な軍事対応と高効果の危機対処を強調し、軍部隊に共同作戦時の指揮命令能力向上、新規戦闘部隊の育成、軍事訓練を実戦環境で行えと指示した。
党と政府各省庁は中央、地方合わせ国防軍事開発で支援を求められている。
CMC副委員長として会合をとりまとめた許其亮Xu Qiliang空軍大将と同じく副委員長の張又侠Zhang Youxia陸軍大将から模範部隊10個、模範個人20名の表彰の発表があり、習含む委員会上層部が授与した。


習は2019年初のCMC指令として各軍の訓練動員命令に署名した。■


コメント 新華社配信の記事を英訳したものを日本語にしているのでどこまで伝わっているのか不安ですが、中国独特の言い回しの中にもどことなく緊張感がつたわってきます。しかし例年のあいさつとどこがちがうのかわかりません。東シナ海、南シナ海以外にもサイバー、宇宙で今年のPLAがどんな行動に出てくるのか、中央のいいぶりを末端がどう理解するのかが注目されます。中国事情に詳しい人のコメントをお願いしたいところです。冷戦時代にはソ連(ロシア)事情に詳しい専門家が多数アメリカに生まれましたが、日本では中国の軍事情勢を正しく読み取れる専門家は何人いるのでしょう。

東シナ海が今や最重要活動空域になった航空自衛隊の現状と展望をRANDが分析しています

米空軍の委託研究でRANDが航空自衛隊の現況に特化した形で南西諸島部分における中国航空活動の強化に対応している現状を分析し、今後の対応策を説明する報告書を昨年末に発表しました。以下そのダイジェストです。このブログをご覧の皆さんには周知の事実かもしれませんが、米国でも共通の認識をしてもらえるのは助かりますね。また日本の一般国民にも認知してもらいたい事実です。航空自衛隊には毎日大変な仕事ですが、ストレスに負けず精進していただき、国民も支援していきたいところです。

China's Military Activities in the East China Sea
Implications for Japan's Air Self-Defense Force
東シナ海での中国軍事活動は航空自衛隊にどんな影響を与えているか

by Edmund J. Burke, Timothy R. Heath, Jeffrey W. Hornung, Logan Ma, Lyle J. Morris, Michael S. Chase
Related Topics: Air Defense, Aviation Maintenance, China, Fighter Aircraft, Japan, Military Strategy

長年に渡る日中間のライバル関係がここにきて激しさを増しているのは両国で国力の差が縮まってきたためだ。両国間のせめぎあいは政治・経済・安全保障の各分野に及ぶが尖閣諸島を巡る対立が焦点なのは間違いない。本報告書の著者は中国が日本周辺で海空戦力をどこまで増強しているか、特に尖閣諸島近辺での動きを分析した。また中国艦船航空機の動きに対する日本の対応も分析。結論として戦闘機の数的制約により航空自衛隊が中国航空活動に十分対応できていないことがわかった。中国が戦闘機数で優位にあるため、日本は現状を維持できなくなる。著者は提言として今後発生する課題への米国と日本による対応策の道筋を示した。

主な所見
中国と日本で日本近辺ので軍用機同士の遭遇が劇的に増えている。
  • .中国軍用機の尖閣宮古両諸島近辺での飛行が増えており、中国の戦略として第一列島線を突破する飛行経路として重要視しているのがわかる
  • 活動が増加しているため日本も装備の配備調達を加速化し中国のプレゼンス増加に対応しつつ日本領空の防御に追われている。

中国の航空活動強化への対抗策として日本にとって最良の道は防衛力増強である。
  • 日本政府は島しょ部防衛で航空自衛隊の能力向上に向けた装備調達とともに防衛的な姿勢堅持を重視してきた。
  • また海上保安庁(JCG)予算を増額し尖閣諸島を意識した巡視活動を確立した。

中国の航空活動に常時対応するため薄く広がらざるを得ない航空自衛隊にさらにストレスがかかっている。
  • 運用テンポの早まりで整備保守が悪化しており、機体点検や整備の回数が増えているのが原因だ。
  • 航空自衛隊パイロットが現実状況で経験を増やすのは結構だが、日本領空侵犯が増えているためパイロット養成にも悪影響も出ており、訓練に専念できない状況が生まれている。

提言

  • 日米両国は中国軍用機が日本周辺で突如として大規模活動を展開する想定にも迅速かつ効果的に対応できるよう知見を交換しておくべきだ。
  • 両国は米軍の展開再検討に際し、日本が南西部に機材を優先配備することをあらかじめ認識すべきだ。
  • .米側からは冷戦期に状況の変化に呼応してスクランブル方式をどう変えていったかの経験を共有できる。
  • 米国は既存及び今後予定される地上配備防空装備により中国の領空侵犯に対応をある程度可能とする訓練を日本と行うべきだ。

.日本にはその他諸国とも各分野で協調して中国の領空侵犯への対抗策を模索する可能性がある。■