2019年10月16日水曜日

シコースキーのレイダーXは米陸軍の求める高速偵察ヘリコプターへの新たな提案


シコースキーの "Raider X" は米陸軍向けの
将来型高速武装偵察ヘリコプター構想への同社の提案だ
米陸軍がめざす残存性を備えた高速「ナイフファイター」ヘリコプターは激甚戦場への投入を目論む中、 レイダーXはこの任務に最適のよう
BY TYLER ROGOWAYOCTOBER 14, 2019
シコースキー


週はベルから360インヴィクタス高速武装偵察ヘリコプターが発表された。米陸軍のめざす次世代偵察機材(FARA)への同社の提案で、今回はシコースキーが「レイダーX」を公表した。同機はS-97レイダー実証機が原型で、同じく同社のX2複合ヘリコプター技術も活用し高速飛行と操縦性を実現している。同社には大型のSB>1デファイアントもあり、こちらは共用多用途(JMR)競作への提案で、さらに将来型垂直離着陸中型機への採用をめざし、これも他に例のない構造となっている。シコースキーX2技術は自社開発で今まで10年以上にわたり開発されてきた。 S-97についてWar Zoneが同社X2チームと独占インタビューしているので参照されたい

シコースキー

S-97 レイダー実証機がレイダーXの原型だが、一部が大きく変化している。

FARAOH-58カイオワウォリアーとAH-64アパッチの後継機も同時にねらう。FARAでは、ベル、シコースキー以外にも受注を狙う企業がある。シコースキーも現在はロッキード・マーティンの子会社であり、ボーイングAVXL3連合の他ケイレムノースロップ・グラマンレイセオンといった競争相手も存在する。ただボーイング含む残りの企業からFARA事業への提案内容は発表されていない。
シコースキーによればレイダーXは「迅速開発、迅速配備で様相を一変させる技術と性能を実現し、最も過酷な状況においても真価を発揮する機体。 レイダーXは将来の戦場で勝利をおさめるため必要な航続距離、防御能力、威力を備えた機体」とする。同社はさらに続ける。
-抜群の性能:X2.のリジッドローターにより性能が引き上げられる。操縦入力に敏感に対応し、低速ホバリング性能が向上し、軸を外したホバリングが可能であり、同じ加速率と減速を実現する。 Xは競合相手がないほどの性能を発揮する.
-アジャイルなデジタル設計。高性能デジタル技術による設計、製造はすでにロッキード・マーティン、シコースキーの他機種で実用に供されている。例としてCH-53K,CH-148F-35の各機があり、これにより陸軍は調達経費を引き下げるにとどまらず迅速かつ安価な改修で今後も変化していく脅威に対応可能となる。
-適応性: 新しいオープンシステム・アーキテクチャア(MOSA)によるエイビオニクス、やミッションシステムが「プラグアンドプレイ」により高い演算能力、センサー、残存性を実現し、高い威力と生存性につながる
-維持保守について:機材の運用コストを引き下げるため新技術を利用し、通常の整備点検方式を自機診断および実際の状況に応じた保守管理に変える。これにより機材の稼働率が上がり、前線での運用を容易にし、整備実施も柔軟に行える。
-今後の発展性、柔軟性: 将来の変わり続ける脅威環境に着目し、X2複合同軸ヘリコプター技術から他に比類のない今後の性能向上の余地が生まれ、飛行速度、航続距離、ペイロードの発展が期待される。 この将来への発展性から作戦運用上の柔軟性が生まれ、多様な用途に投入する柔軟性につながる。各種仕様と運用形態が実現するはずだ。
シコースキー
シコースキー・レイダーの実証飛行.

レイダーに盛り込まれているX2技術のその他について同社は以下のように述べている。
X2ファミリー機材の最新版レイダーXをシコースキーが公表した。 これまでX2が達成した性能は以下の通り。
·         250ノット超の最高速度
·         最高高度9千フィート超
·         低速高速での機体制御能力を生かして60度超の機体傾斜が可能
·         ADS-33B (Aeronautical Design Standard) レベル1の機体制御能力を複数パイロットで実現
·         飛行制御を最適化し、振動も抑える

シコースキーのテストパイロット、ビル・フェルがレイダーのテスト飛行大部分を操縦しており、以下X2技術について述べている。 
X2のパワーでヘリコプターの常識が変わる。 高速ヘリコプターの性能と航空機の巡航飛行性能を両立している。 S-97レイダーからFARA試作機となるレイダーXのリスクが低減できた。
レイダーXのコンセプトはS-97に似通っているが一部に改良が見られる。 低視認性への配慮が機体設計の基本にあったようだ。構想図を見るとレーダー反射面がない機体になっており、センサー、パイロン、アンテナ、兵装がきれいに格納されている。 その例として20mm機関砲も使用していないときは機体内に格納されているようだ。ローダーヘッドシュラウドも角度がついており、V字型空気取り入れ口の形状からガスタービンエンジンは機体内部奥深くに装備されているようだ。
排気もテイルブーム内部を経由し、冷却のしかけは同社から以前発表され不採用になったRAH-66コマンチと同様なようだ。テイル下部の形状がこの機能のために設計されているのだろう。コマンチでは高温排気は低温外気と混ぜてからここから排出されていた。


シコースキー
シコースキー
さらに胴体部のエッジにもコマンチ同様の加工がされているようだ。

こうした特徴から同機はヘリコプターとしての効率を追求しつつ可能な限りの高速度を実現する設計のようで、同時に低視認性設計の特徴も備え持つようだ。編集部はシコースキーにこうした特徴について確認を求めた。
また忘れてはならないのは、同機のレーダー視認性を低くする工夫として機体のレーダー断面積や赤外線特徴を低くするべく、コマンチほどではないが高い残存性を実現していることだ 同機が高速性能とともに状況認識能力を引き上げるべくセンサーを活用し、機体防御対策も高度化しておりこれからの戦場でも高い残存性につながるだろう。
SIKORSKY/LOCKHEED MARTIN
同様な設計上の特徴がFVL軽量版でも見られる。これはFARAより先に提案が募集されていた

レイダーXは同軸複合ヘリ仕様でFARA競合機の中では運動性能が一番上のはずだが、シコースキーからはX2技術を低リスクで実現できることを強調しているが、これは非常に主観的な意見だ。
同社がこの技術に賭け、10年余を費やしたのは事実である。だが量産機には応用されておらず、ベルよりリスクが高いのは事実だ。ベルはきわめて通常型のヘリコプターを提案している。複雑な機構を考えると、レイダーXの機体単価は相当高額になるのではないか。ただし、今の時点でこの点は明確にできない。すると、低コスト、低性能版のほうがFARAミッションに適していると言えないか。
高性能統合防空装備システム(IADS)と短距離防空装備の進歩に対し通常型ヘリコプターが高度防空体制を突破し残存できるのかとの疑問が生まれている。もうひとつが飛行距離の問題だ。接近阻止領域拒否の時代にヘリコプター運用基地が目標から150マイル以内にあるのでは現実的と言えるのか。
こうした問題については今後もご紹介していくが、飛行距離、速度、とくに残存性がFARAに数十億ドルを投じるにあたり重要な検討項目になるのではないか。または回転翼機による戦闘が過去のものとなっているのに無駄な検討項目になっているのかもしれない。
シコースキー
S-97の独特な機体構成を上から見るとびっくりする。

レイダーXは速度、飛行距離、操縦性でも優れているだろうが、残存性でもステルス特徴を生かし最新の防御策、センサー、兵装を実現する。これが実現しないと、開発リスクを抱えた複雑な機構のヘリコプターとして他社より機体価格が上昇しかねない。 だが再度、安価な競合作があるとしても、残存性が劣り将来のハイエンド戦に投入できない機体になればそれだけの高額を投じる価値があるのか。
その答えはFARAの考過程にあわせでてくるはずだが、現時点ではシコースキーの提案内容が判明したにすぎず、その内容は強い印象を与えてくれる。

2019年10月14日月曜日

第三次大戦はこの場所から始まる: 世界は危険な場所になってきた


When World War III Happens, It Will Start In One Of These 5 Places

第三次世界大戦はこの5地点から始まる
Diplomacy is needed to calm these conflicts.
外交努力で武力衝突を回避できるか
October 12, 2019  Topic: Security  Region: World  Blog Brand: The Buzz  Tags: World War IIWorldWar IIIMilitaryTechnologyHistory

Key point: The flashpoints for future conflict already exist.引火点はもう存在している

1945年以来大国間の武力衝突は回避されてきたが、米ソ両国では数回にわたり冷戦下で危機に近づいたのも事実だ。ベルリンの壁が崩壊し20年が経過した今は超大国の交戦は事実上想像しがたい事態だ。だが中国の軍事力が増加しており、ロシアが国際秩序の受け入れをあからさまに拒否する中、大国間の軍事衝突が再度想定されるようになっている。
TNIは将来予測をここ数年続けているが2019年の現在、最も危険度が高い引火点となる地域はどこか。

南シナ海:
南シナ海(SCS)は米中両国の貿易戦争の影に隠れている。今のところ両国の対立は関税や貿易制裁の域にとどまっている。米国、カナダは中国技術系企業ファーウェイ幹部の逮捕で事態をエスカレートさせ、中国はカナダ国民や米企業への制裁で対抗した。
米中両国は貿易戦争はSCSでの対立にからめられていない。しかし、両国関係が今後悪化すれば、一方が経済行為、言葉の応酬、法的措置の枠を超える決定をしないとは限らない。仮に米中両国が通商関係を停止すれば(この関係こそ今までの世界的な経済成長の基本条件であった)、大きなリスクとなり直接武力衝突が避けられなくなる。そうなるとSCSが両国が相まみえる舞台になる可能性がある。

ウクライナ:
アゾフ海への回廊部分でウクライナ哨戒艇に実弾が発射され、海上で衝突されたあげく乗組員が抑留された事件の記憶は新しい。きっかけがロシアだったのか、ウクライナだったのかは別にしても海上事件がここ数年間の危機状況を再点火したのは事実だ。ウクライナ政府が戒厳令を敷いたのは同国内の不安定さを象徴している。
ロシアにはウクライナの選挙前に既成事実を妨害する意図はないようだ。ウクライナ政府には現状が変更されても対応する能力が欠如している。これから実施される占拠で基本条件が変わることはないだろうが、不確定性は増えるはずだ。ロシアと米国間の緊張関係が続いていることから、小規模の変動でも難しいバランスを崩すきっかけになりかねず、東欧が混乱に陥る可能性がある。

ペルシア湾:
延々と続く中東地区の政治軍事両面の危機状況から退屈で単調な状況が生まれている。イランへの経済圧力がこれから増加する。米国がより強硬な貿易制裁をとるためで、サウジアラビアがイエメンでの作戦を継続しているが一向に終息の気配はない。シリア内戦は米ロ両国がそれぞれの支持勢力や代理勢力を通じ介入し小規模ながら長く続く状況になっている。
だがゆっくりとはいえ、対立が再度拡大する可能性がある。政治的混乱がイランで続けば地域大で不安定になり、イランはもっと強硬策に走ったり、自らの敵を照準に入れるかも知れない。クルド、トルコ、シリア、イラクの間に緊張が高まればいつあからさまな武力衝突に展開しても不思議はない。又サウジアラビア国王がリスク甘受の姿勢を再び見せていることから同王国内が不安程になるとの観測もあり、いったん安定が失われば米中ロの対決に発展しかねない。

朝鮮半島:
朝鮮半島の緊張が下がってきたのは疑う余地がない。これは金正恩が核、弾道ミサイルのテストを中止したこと、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮への対決姿勢を緩和したことが大きい。その意味で平和継続への甘い期待が1990年代中頃に比べ格段に高くなっている。
だが落とし穴が残る。大統領は北朝鮮との合意に自らの威信をかけているが、当の北朝鮮は核兵器、弾道ミサイルの製造中止というもっとも重要な点ではまったく実行していない。大統領の補佐官には根本的な食い違いを不快に思っている。トランプが金につらくあたれば、合意内容の履行を妨げる行為が政権内に生まれれば、金がトランプに厳しい対応をすれば、米朝関係は急速に悪化する。さらに中国、日本ともに南朝鮮との関係が悪化しており、核武装した北朝鮮への受け止め方でも両国に温度差がある。つまり朝鮮半島の情勢は楽観的な見通しの逆でやはり危険なまま、さらに危険はましているということだ。

予測不可能な地域?
米陸軍大学校の大佐が問題の本質をうまく言い表している。「米国は朝鮮戦争以後の戦闘状況をすべて誤って予測してしまった。第三次大戦も例外ではないだろう」 大国は外交、軍事、政治の持てる力を自らが考える最重要な状況に集中投下する傾向がある。重要とされない武力衝突には関心が示されないことから、逆にこれが気づかないうちに深刻な対立に発展する可能性がある。破壊的な結果を呼ぶ衝突はバルト海、アゼルバイジャン、カシミール高原、はてはヴェネズエラでも発生の可能性があるが、関心を払う余裕があるのは米中ロのみだ。第三次大戦が勃発するとすれば、まったく予想外の場所からかもしれない。

結論:
世界は一年前より危険な場所になっているのか。おそらく、そうではないが、米中両国間の関係悪化が今後の前兆となる。引火点は時とともに変化する。米軍事力の優位性が揺らぐ結果、世界秩序も動揺すると近未来の世界はこれまでより危険度が高まりそうだ。■
Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is a Visiting Professor at the United States Army War College. The views expressed are those of the author and do not necessarily reflect the official policy or position of the Department of the Army, Department of Defense, or the U.S. Government. This first appeared at the beginning of the year.

2019年10月13日日曜日

C-2グレイハウンドの退役が迫り、オスプレイに交代するとCOD任務はこうなる

With the Osprey Waiting on Deck, Delivery Service to Carriers is About to Change

オスプレイの艦上運用が近づき、空母への貨物輸送任務が変わる

Farewell to the Grumman C-2 Greyhound, which has been running supplies at sea for more than 50 years.

海上の空母へ物資人員を50年にわたり運んできたグラマンC-2にお別れのとき

MV-22 Osprey
MV-22オスプレイがUSSワスプに接近している。2018年撮影。新型オスプレイが長年稼働してきたグレイハウンドに交代し2021年から空母への補給活動に従事する。 (US Navy / Specialist Daniel Barker)
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OCTOBER 2019
暁の空をノースロップ・グラマンC-2グレイハウンド「ローハイド78」がフロリダ北東沖合100マイル地点の空母USSハリー・S・トルーマンに向かい悪天候の雲を通過している。トルーマンは9ヶ月におよぶ配備の準備中で艦載機でいっぱいだが離着艦はしていない。今日は艦長の交代式典の日だ。ローハイドの搭載貨物は軽微だ。F/A-18のアクセスパネルがかさばるものの一点、乗組員の私物二十点ほど、乗客用座席が28も空席だが、不安を隠しきれない筆者が一席を占める。数分前に別のC-2が式典に参列する幕僚多数を乗せ先に飛んでいる。
C-2はいとこの関係のE-2ホークアイとともに最重量の空母艦載機だが、パイロットは空母艦上での運用に誇りを感じている。高度800フィートで空母艦上を通過し、機体を激しく左バンクし、フラップと降着装置を下ろし、高度と速度を下げる。グレイハウンドがトルーマンのグライドスロープに乗ると機体は甲板の三本のワイヤーを捉え、停止する。即座にパイロットは主翼を畳み、駐機場へタキシーさせる。
機体移動中でもランプは下がり、トルーマン乗組員が集まってくる。貨物は無造作に車輪付き黄色バスケットに放り込まれる。F/A-18用パネルは艦の下方デッキに運ばれた。交代する艦長が最後の訓示を艦内PAでしているがグレイハウンド乗務員はまったく気にする様子が無い。かわりに天候をチェックし、貨物マニフェストを最終確認し、補助発電機を点検し、艦のエアボスの指示を書き留め、飛行甲板要員と打ち合わせている。訓示が終わった。搬送する乗客9名が揃い、機内に乗り込む。一名は腕を骨折し、本土に移送し直ちに治療を受ける。エンジンを始動し第三号カタパルトへタキシーしたと思ったらローハイド78は発艦していた。目的地は海軍航空基地(NAS)ジャクソンヴィルだ。同機が艦上にあったのは40分足らずで、空母補給物資輸送(COD)任務を教科書どおりに実施した。
Persian Gulf C-2A Greyhound
2015年にISIS攻撃ミッションでペルシア湾に展開するトルーマンに着艦しようとするC-2Aグレイハウンド。このあと、バーレーン基地に戻ったはずである。 (US Navy / Specialist 3rd Class Justin R. Pacheco)

空母打撃群は予備部品、補給物資、乗組員がそろい移動準備ができたが、艦には絶えず物資、人員の補充が必要だ。そのための唯一の手段がC-2で貨物10千ポンドあるいは28名を一度に運ぶ。米海軍の空母が出港すればグレイハウンド2機が補給活動を続ける。
C-2は各艦航空団に所属しない点でその他艦載機と別の存在だ。米海軍は飛行隊二個を運用し、VRC-30がNASノースアイランド(サンディエゴ)、VRC-40をNASノーフォーク(ヴァージニア州)があり分遣隊で太平洋、大西洋に展開する空母部隊をカバーする。分遣隊は空母出発時には艦載されているが、航続距離内に陸上目的地が入ると往復飛行を開始する。
空母が航行を続けると50名規模の分遣隊は基地から基地へと移動する。VRC-40では最初の移動先がアゾレス諸島になることが多い。その次にスペインのロタに一週間滞在し、イタリアのシゴネラへ移動し、クレタ島のソウダベイ、そして最後にバーレーンで空母打撃群がペルシア湾で展開する数ヶ月を過ごすことが多い。目標は一日二回の空母補給飛行を実施することだが距離の関係で一回となることンが多く、グレイハウンドの整備上の制約も受ける。VRC-40は今年7月時点で分遣隊2個を運用しており、ひとつはジャクソンヴィルからトルーマンを支援し、もう一隊はバーレーンでエイブラハム・リンカンの支援にあたっていた。アイゼンハワーの派遣に備え三番目の分遣隊の編成準備に入っていた。
陸上にもどれば各分遣隊は独自に機体整備や貨物輸送を計画し、乗務員の滞在を手配する。長年に渡りC-2乗務員は自給自足体制の評価がついている。
とはいえC-2乗組員は陸上で毎晩過ごすことができ、艦乗組員の羨望を集める。日当での宿泊費やりくりや各地のバー飲み歩きといった話題は口にしないよう釘は刺される。「航空団はわれわれが朝10時に起床し、コーヒーを飲んでから仕事に入り、帰還するとビーチで酒を飲んでいると思われているようですが」とVRC-40隊長エリック・ブロムリーが語る。「一時間もしないうちにわれわれがどこかに飛んでいくと不思議がられます。たしかにうまくこなしていますが、外から見るほど楽な仕事ではありません」
CODの第一の仕事は人員輸送だ。赴任や休暇掛けの乗組員や修理専門員、医療要員や交代要員以外に防衛産業の技術要員や視察に訪れる提督幕僚が絶えず艦にやってくる。なんと言っても空母は米国の影響力を広げる一番のツールであり、関係国の要人にも空母の威容を見せつけることが多い。運ぶ貨物は重要かつ時間で制約のあるものだ。HH-60シーホークのローターブレイドや艦内の温水パイプ修理部品や着艦ギアのピストンなど必要な貨物ならC-2が運んでいる。
「3日前ですが本当にゴミ入れを運びましたよ」とブロムリーが言う。その他の乗員から新鮮卵を満載したとか、花、コピー用紙、されは作業用車両1台まで運んだという。
The C-2—unstable in pitch, roll, and yaw—is a handful to fly, much less land aboard an aircraft carrier, yet this crew appears to execute a flawless approach to the <i>Abraham Lincoln</i> in 2018.
C-2はピッチ、ロール、ヨーが不安定で操縦は容易ではない。写真ではエイブラハム・リンカンへ文句のつけようが無い着艦をしているのがわかる。 (US Navy / Seaman Shane Bryan)

グレイハウンドは名前の由来となった競争犬のすっきりした姿とは似ても似つかない。むしろ別の由来のバスに近い。小型ターボプロップ機で垂直安定版4枚が鹿の角のようにつく。
C-2は操縦も難しい。とくに練習過程を終えたばかりの新米パイロットには。直系のE-2ホークアイ同様にピッチ、ヨーが不安定だ。グレイハウンドではロールも不安定となる。「これまで総縦してきたT-6、T-44、T-45と比べてもこんなに操縦が大変で肉体的にストレスを感じさせる機体はありません」とパイロットの一人が述べた。
ヴァージニア南部の上空8千フィートでパイロットのポール・マステラーがコパイロットのストーヴァル・ナイトとC-2の飛行特性を実演してくれた。「プロペラが大きく強力なため、ラダーを相当踏み込まないとブレイドの力に勝てないのです」とマステラーは飛行前に説明してくれた。「この機体に初めて乗るパイロットが混乱するのは左旋回しようとすると右ラダーを相当強く踏んで連携させる必要があるからです」
飛行中に出力を落とすとC-2の機首はすぐ左ドリフトとなり高度が落ちる。出力を上げると機首は右ドリフトを開始する。オートパイロットは高度と進路を維持するだけで、突然機能しなくなることが多いため、パイロットは全行程を手動操縦することになる。
こうした特性は艦載機としては理想的と言えないし、空母の基準から見てC-2は巨大機になる。翼幅81フィートだと着艦時に左右の余裕は10フィートずつしかない。着艦についてブロムリーは「何回やっても変わらないし、楽にもならない。毎回違う状況になる」と言い、「前の体験が役に立たない。毎回集中して自己保存本能をフルに使い、安全かつ予測できる形で着艦するだけです」
マステラーもフェントレス海軍着陸場で最終アプローチを実演してくれた。ノーフォーク配属のパイロットが空母アプローチの訓練用に使う施設だ。スロットル、操縦桿、ラダーをひっきりなしに操作してグレイハウンドをグライドスロープに向かい風で乗せた。着陸信号士官が地上からギリギリのタイミングで合図をしたのはいかにもC-2らしい着陸だ。
航空管制官から機体のトランスポンダーが作動していないと言ってきた。レーダー反射だけ識別できたので一定の地点や高度についたら連絡してほしいとのこと。空母アプローチの模擬を2回するとフラップが作動しなくなり、上がったままになったのでノーフォークでは高速着陸をせざるを得なくなった。
「総合的には非常に信頼性がある機体です」とブロムリーは述べる。「機齢30年ですが以前からの技術をベースにしています。故障はちょくちょくありますが整備員が優秀です。そのためにいるわけで、着実に修理してくれます」
艦上輸送機は当初は戦闘部隊の「余剰機材」を使い、兵装を取り外し座席と貨物スペースを作っていた。最初からCODとなった機材は第二次大戦の終結前にはなかった。当時はTBMアヴェンジャー雷撃爆撃機を6名搭載用に改装していたが、1950年には大型双発のグラマンC-1トレーダーが登場した。同機は当時は新型の艦載対潜哨戒機を改装したものだった。
冷戦初期の戦略思想では弾道ミサイルや空軍の大型爆撃機に注目が集まったが、海軍は空母が戦術核兵器運用で役目を果たせると説得し、超大型空母の建造を認めさせた。問題はC-1の貨物搭載量が過小で核兵器あるいはジェットエンジンの輸送ができないことで、特に当時のジェットエンジンは稼働中に使用不可となることが多かった。1960年に新型早期警戒機E-2開発が始まり、海軍はC-1後継機を同機から作成することとした。E-2の機体を輸送機として再設計させた。この際の改修は本格的でC-2試作機がまず2機製造された。一機はロングアイランドサウンドでのテスト中に墜落したが、残る一機を試用したあと、海軍はグラマンに17機製造を求め、引き渡しは1966年開始となった。
C-2部隊は海軍航空のキャリア上で吹き溜まりになった。海軍では機種転換はめったになく、グレイハウンドは小規模で魅力がなくキャリヤでは先が無い存在だった。しかし1980年代に入ると次第に状況が変わったのはC-2乗員がE-2搭乗員と統合され、キャリアパスがCOD以外にも広がったためだ。しかし一旦できた行き詰まりの印象を変えるのは時間がかかり、現在でも解消していない。
空母は機材に過酷な環境で1980年代に入ると海軍はグレイハウンドの後継機材を模索しはじめた。だが構想から先に進んだものは皆無だった。(737の艦載型提案もあった)結局海軍はC-2A(再調達)として再生産を決定し、今回は39機が生産され、強力なアリソンT56エンジン、エイビオニクス更新、新型補助エンジン、貨物室の強化が実施された。追加生産は1985年から1990年にかけて行われた。
V-22 landing
V-22が性能を発揮するのは垂直着艦時で、C-2では無理な小型艦や揚陸艦への着艦も可能だ。写真は揚陸強襲艦ニューヨークへの着艦。(2015年) (US Navy / Specialist 3rd Class Jonathan B. Trejo)

そのC-2A(R)に休息のときが必要だ。VRC-40で最古参の機体(識別番号1162144)は過酷な空母着艦発艦サイクルを1,000回こなし、飛行時間も11千時間超だがまだ飛行可能だ。機種として退役は2024年予定だが当初の2027年から前倒しになっているのはミッション即応率が予算を投入しても2018年にやっと40%になったにすぎないためもある。現在では問題を抱えた機種は改良するより引退させることが多い。
そこでベルボーイングCMV-22オスプレイに交代する。CMV-22は外観こそ海兵隊と空軍が運用するV-22と酷似するが、内蔵燃料タンク、高周波無線装置、機内案内装備が追加されている。
オスプレイにはグレイハウンドと違う点もある。まず良い面ではCMV-22の航続距離が伸びる。6千ポンドのペイロードで1,150カイリとなるが、C-2は850カイリだ。グレイハウンドはばら積み貨物搭載だが、オスプレイはパレット式となり予め貨物を準備して積み込み時間が短縮できる。垂直離着陸方式のため空母への接近を遥かに低速で可能とし、機体にストレスとなる拘束ワイヤ着艦やカタパルト発艦が不要となる。CMV-22パイロットの第一陣は夜間着艦訓練中で、C-2では困難だった内容だ。
だがオスプレイには欠点もある。まず機内容積が小さく、従来どおりの人数や貨物が運べない。またF-35用エンジンも保護キャニスターのままで対応できない。これはCODのもともとの要求内容だったはずだ。またティルトローターのためエンジンナセルが垂直方向になると飛行甲板が排熱で損傷を受ける。機内は非与圧のため人員を乗せて悪天候では高高度飛行できない。ティルトローターは複雑な構造で整備工数もかかる。CMV-22分遣隊は従来の2機から3機へ、50名体制も88名に増える。
marines in Osprey
V-22にはC-2なみの物理的空間がない。もともとオスプレイは海兵隊員を強襲作戦で運ぶため開発された。(写真は2014年のタイでの演習時のもの)また大容量の貨物運搬も想定していない。CMV-22は新型だが機体が拡大しているわけではない。 (DOD)

CMV-22編成の最初の飛行隊VRM-30は2018年11月にNASノースアイランドで発足ずみだ。パイロットと整備員は海兵隊のV-22訓練飛行隊が有るMCASニューリヴァー(ノースカロライナ)で訓練中で2019年10月末にも新型CMV-22の一号機を受領する。
VRM-30を率いるのはC-2のベテランパイロット兼教官のトレヴァー・ハーマンで新型機が気に入っている。「ホバリングするのは初めてで、全く新しい経験だった」「ナセルの方向転換で速力をあげるんですが、失速すると思いましたが、最初からそういう設定なんですね。実にクールです」
CMV-22初の展開は2021年に予定され、新型機としては異例の早い時期での実用化だが、最初の展開はいつも学びの機会であり、ハーマンも心配していない。「なんでも最初は大変ですが、色々想定を試しながら調整していきます」
グレイハウンドを40年飛ばしてきたジェイムズ・ウォーレスも「すごい機体でヨーロッパ各地の上を飛び、艦にも飛ばし、その他いろいろ試してみました」という。海軍を退役しウォーレスは航空関連企業数社を起業した。「C-2の体験から学んだ再興のことは航法、フライトプランのまとめからであり、税関当局との交渉もあり、すべては海軍の他の部署では体験できないことです」
古い軍事上の言い伝えだが、アマチュアは戦術を勉強し、プロは兵站を学ぶという。グレイハウンドは空母部隊の複雑な補給活動で不可欠な要素として任務を黙々とこなしてきた。C-2はトップガンに登場することはないが、マーヴェリックも同機がなければ航海中に愛機をとばせない。CMV-22がそのままグレイハウンドの後継機になれるかは不明だが、C-2を飛ばしてきた部隊は同機の運用で学べたことを決して忘れないだろう。■
コメント:今回はちょっと長文になってしまいました。空母への人員物資の補給活動は大変そうですね。世界を舞台に展開する米海軍はその必要があるのですが、日本の「空母」第一陣は果たしてここまでのシステムが必要でしょうか。そのうちに必要になりそうですね。