2015年5月3日日曜日

★LRS-B事業に適格なのはどちら? 米空軍の選定を前にふたつの主張



LRS-Bは先日のCBSA報告(「米空軍の主力機が大型機に統一される日が来る?」)が次世代の主力戦闘用航空機になるとみる重要な機種ですが、依然として秘密のベールの中で空軍は選定の作業を進めている模様です。以下ご紹介の応援文はそれぞれバイアスが露骨で笑えますが、事実がそれぞれ盛り込まれているのも事実です。であれば三社連合で最良のLRS-Bを実現すればいいのではないかと思えますが、選定は真剣にやってもらわないといけません。選定結果いかんで業界を去る企業が出そうというのがこれまでなかった事態ですが、さぞかし空軍関係者も胃が痛いのではないでしょうか。

Differing Views On Who Will Build The Long-Range Strike Bomber

May 1, 2015 Rupa Haria | AviationWeek.com


米空軍はステルス次期爆撃機長距離打撃爆撃機(LRS-B)の開発生産で主契約企業を今年中に選定する。ボーイングはロッキード・マーティンと組みB-2で実績を有するノースロップ・グラマンに対抗するが、勝者はどちらになるだろうか。
Aviation Week & Space Technologyはその行方を占う二つの見方を紹介する。まずローレン・トンプソン(レキシントン研究所最高業務責任理事)はボーイングとロッキード・マーティンが空軍の爆撃機・攻撃機の95%を提供している事実から両社連合が最良の選択だと主張。一方、ロバート・ハッファ(前ノースロップ・グラマン解析センター長)は空軍の要求水準からみてノースロップ・グラマンが圧倒的に有利な立場だという。

Opinion: The Boeing-Lockheed Team Is The Most Qualified

Apr 30, 2015 Loren Thompson | Aviation Week & Space Technology
米空軍は長距離打撃爆撃機の要求性能で事実上何も公表していないが、契約獲得を目指す二大勢力もともに提案内容について沈黙を保っている。外部からどちらの内容が優れているのか知る由もないが、どちらが有利なのかの評価は可能だ。
では選定の任に当たる関係者だとして、爆撃機の設計ではなく爆撃機開発チームを選ぶとして考えてみよう。選択はボーイングが主導し、ロッキード・マーティンが加わる連合とノースロップ・グラマンが率いる事業体の一騎打ちだ。これまでの実績、現在の技術水準、財務能力や業績からどちらが的確だといえるだろうか。
経験値が違う .
過去三十年間でボーイングとロッキード・マーティンは空軍向け爆撃機・攻撃機の95%を提供している。例としてF-15,F-16,F-22やF-35があり、B-1爆撃機もここに加わる。両社の納入実績は1980年以降で3,000機に上る。現在も両社は固定翼機で最大の納入実績を維持しており、2014年だけで戦闘機、輸送機、偵察機を計300機以上納入している。
対照的にノースロップ・グラマンの実績は小規模だ。この数年で同社は年間10機程度の固定翼機を納入しており、ターボプロップ機とグローバルホーク無人機(UAS)が中心だ。同社の軍事用途需要での役割はボーイングまたはロッキード・マーティン向け機体の一次組み立てが中心だ。
現在の実施能力では
ボーイングはセントルイスに戦闘機製造ラインを運営し、大型軍用機はP-8Aポセイドンのようにシアトル周辺で製造している。同社はあわせて民間商用機で世界最大規模のメーカーでもある。ロッキード・マーティンは第五世代戦闘機の量産ラインを有する唯一のメーカーである。同社のフォートワース工場は三軍向けF-35戦闘機を生産中で、その背景にはボーイングがロッキードと共同で作ったF-22の経験がある。
現状で多くの事業を展開していることで、ボーイング、ロッキード両社には技術陣多数があり、世界規模のサプライチェーンと整備ネットワークもある。ロッキード・マーティンは業界唯一の低視認性機材生産能力があり、業界の中でもソフトウェア応用技術は群を抜いている。ボーイングには複合材を使った大型機の生産では業界一の技術を有している。
ノースロップ・グラマンには以上のどれもない。パームデール工場(カリフォーニア)はUAS製造や既存機の改修にあたり、一次組み立て構造品を出荷している。同社は完成機を大量に生産していないので、サプライチェーンやコスト管理でも業界他社よりも見劣りがする。またリスク管理でも不足が目立つ。ロッキードはスカンクワークスでこの点一歩先を行っている。      
財務力はどうか
ボーイング、ロッキード・マーティンの2014年売り上げ総額は1,360億ドル。ノースロップ・グラマンは240億ドルで4年連続の減収。これだけ規模が離れるとボーイング=ロッキード・マーティンのほうが空軍の計画変更への対応に圧倒的に有利だ。空中給油機事業では空軍の度重なる要求変更にボーイングはKC-46で対応したが、ノースロップ・グラマンは撤退している。その理由は利益確保が難しいためとしていた。
実績の違い
ノースロップ・グラマンはB-2爆撃機生産の実績を強調するが、実は同機は大量の既成技術を使っており、その維持管理が大変である事実は無視している。(飛行4時間ごとにステルス性維持のため18時間の作業が必要) またB-2生産ではボーイングが最大規模の事業量を提供したことにも言及していない。ボーイングは1万人を雇用し、同機の主翼、機体後部、こう着装置、燃料系統、兵装運用部分を製造した。ボーイングはその後ロッキード・マーティンと組み第五世代戦闘機第一弾F-22を製造している。
長距離打撃爆撃機はB-2をすべての点で凌駕する性能となるだろう。要求性能の実現には成熟技術を中心に対応し、ボーイングやロッキード・マーティンには他機種の製造工程から開発製造段階に流用できる基盤がすでにある。これに対してノースロップ・グラマンはF-35のような本格ステルス機のソフトウェアを自社開発しておらず、大型機の複合材利用でも製造上のノウハウがなく各方面で相当の遅れを取り戻す必要がある。
こうしてみると結論は明らかだ。が新型爆撃機の製造で的確なのはボーイング=ロッキード・マーティンでノースロップ・グラマンの選定した場合はリスクがはるかに高くなる。
ローレン・トンプソンはレキシントン研究所の最高業務責任者である。同研究所はボーイングとロッキード・マーティンから運営費用を受け取っている。


Opinion: Stealth And Integration Experience Point To Northrop Grumman LRS-B Advantage

Apr 30, 2015 Robert Haffa | Aviation Week & Space Technology
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ステルス長距離打撃爆撃機(LRS-B)の主契約企業の米空軍による選定時期が近づいている。同機は時と場所を問わず我が国の軍事力の行使を確実にするため必須の装備だ。表面だけ見て専門家はボーイングとロッキード・マーティンの連合とノースロップ・グラマンの一騎打ちと表現しているが、空軍の要求内容を詳しく見つつ各チームの能力水準を見れば、ノースロップ・グラマンがLRS-B製造に圧倒的に有利であることがわかる。以下説明する。
真剣に専念できるのはどちらか.
F-35やKC-46給油機の調達で不手際があったことで空軍は新型爆撃機では終始一貫して集中配慮し、必要な資材を投入する責任ある対応ができる業者の選定を求めている。しかるにボーイング/ロッキード・マーティンは空軍の他機種事業で手がいっぱいだ。ボーイングは給油機案件で予想外の負担を迫られており、ロッキード・マーティンはF-35で大きく遅れを発生させておきながら性能は想定以下だ。そうなると両社にとってLRS-Bの優先順位は低くなり、量産段階に入るKC-46とF-35のほうが利益を出しているはずだ。
実績が裏付ける。空軍がF-22の追加調達を求めたところ、F-35の売り上げ減を恐れたロッキード・マーティンはF-22推進の立場を急にひっこめている。同様にLRS-BのためにロッキードがF-35を断念したり、ボーイングがKC-46生産ペースを落とすことはありえない。むしろLRS-Bをトラブル続く事業のしりぬぐいにするのではないか。これに対しノースロップ・グラマンはLRS-Bに専念し、納期予算どおりの納入が可能な体制になっている。
関連した経験則が必要だ.
空軍の調達責任者は議会に対して新型爆撃機の機体単価は2010年の貨幣価値で550百万ドル上限のままの想定と証言しており、提案競争でも据え置きとなるだろう。ノースロップ・グラマンはステルス長距離爆撃機で開発、製造、維持の経験を有する唯一の企業である。B-2では機体維持費用の削減を実現している。維持費用はウェポンシステムとしてのライフサイクルコストの8割を占めるほどだが、B-2では同程度の大きさの空軍他機種より安くなっている。反対にボーイングとロッキード・マーティンはそれぞれ大型民間機や戦闘機生産の実績を強調しているが、高性能爆撃機を製造し維持することは複雑な作業であり、一貫して責任ある体制と技術力が必要とされる。そこで実績が重要となる。B-2の生産は民間機を給油機に改造するよりはるかに複雑な工程だが、それでもボーイングはKC-46の納入に10年以上かけているがまだ実現できていない。
ステルス関連サブシステムの実績があるのはどちらか
空軍の考えるステルスとは技術と戦術の組み合わせに、サブシステム各種を加えて低視認性を実現するものだ。ノースロップはステルス用のサブシステム多数で信頼の実績がある。ロッキードもF-22およびF-35のステルスレーダーでノースロップを頼りにしたほどで、ステルス通信リンクでも同様で、F-35では別に通信航法システム、赤外線センサー、ステルス空気取り入れ口含む機体中央部もノースロップが供給している。国防総省はLRS-B無人機型も推進するが、ノースロップ・グラマンの無人機空軍向けグローバルホークや海軍向けX-47Bでの経験が有利な要素だ。
ノースロップ・グラマンが有利な理由
空軍はLRS-Bの就役を時間内予算内に実現できる契約企業を求めている。ボーイングとロッキードが連合したのは単独ではこれが実現できないからだ。ボーイングにはステルスの実績がなく、ロッキードはF-35で大幅な遅延を招いている。
全方位ステルス性能では設計がすべてだが、ボーイングが主契約企業になってどのように協力企業の設計を承認するつもりなのか。ステルス戦闘機で設計実績のあるロッキードが経験値をわざわざ提供して自らの優位性を譲ったうえで「第六世代」戦闘機競争でボーイングを有利にするはずがない。
ステルス爆撃機製造の経験が欠如していること、ボーイング/ロッキード共同事業の経営リスクならびに両社が空軍の他機種事業に経営資源を投入せざるを得ないことから両社に次世代の長距離打撃爆撃機製造を任せるのは賢明な選択とはいいがたい。ノースロップ・グラマンなら経験、実績、専念の上経済的に新型ステルス爆撃機を開発・製造・配備・維持できる事業をまとめることが可能だ。そのため同社が受注に成功するのは明らかだ。
ロバート・ハッファは退役米空軍大佐でノースロップ・グラマン解析センター長を務めた。



2015年5月2日土曜日

中・露共同海軍演習>地中海で初の実施へ・今月


嫌われっ子がつるむようなもんですかね。ただし世界秩序は西側が勝手に作ったものだから従う必要はないという認識では一致しているので性質が悪いですね。地中海で演習を展開するのも露骨なメッセージですね。

Chinese and Russian Navies to Conduct First Ever Mediterranean Surface Exercises in May

By: Sam LaGrone
April 30, 2015 3:35 PM


ロシア海軍艦艇6隻、中国海軍艦艇3隻が5月に地中海で合流して水上戦演習を行い、実弾発射もすると中国国防省が4月29日発表した。
  1. 共同海上演習2015-Iは両国海軍による初の地中海での訓練となり、両国軍部が協力を深化させている証だ。
  2. 「演習の目的は二国間で実用的な協力を進め強化することにあり、両国海軍部隊が海での脅威によりよく対応できるようにすること」と同省報道官上級大佐Gen Yanshengが29日発表した。「今回の共同演習は特定の第三国を想定せず現実の地域情勢とも無関係だと強調したい」.
  3. 昨年11月のロシア国防大臣セルゲイ・ショイグと中国の国防相常万全Chang Wanquan の北京会談の後で演習案は発表されている。
  4. 会談直後にショイグは米国による太平洋地区再重視政策へ両国が懸念していると述べた。
130806-N-IU636-034 PEARL HARBOR (Sept. 6, 2013) The Chinese People's Liberation Army-Navy Jiangkai-class frigate Linyi (FFG 547) arrives at Joint Base Pearl Harbor-Hickam. This port visit is part of the U.S. Navy's ongoing effort to maximize opportunities for developing relationships with foreign navies as a tool to build trust, encourage multilateral cooperation, enhance transparency, and avoid miscalculation in the Pacific. (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Johans Chavarro/Released)
江凱II型フリゲートのLinyi 臨沂 (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Johans Chavarro/Released)

  1. 中国からはタイプ54AJiangkai江凱II型フリゲートのLinyi 臨沂、 Weifang濰坊 および給油艦Weishanhu微山湖がアデン湾での商船護送任務から演習に参加する。ロシアが派遣する艦艇名は不明。
  2. 「演習項目には海上護衛、海上補給、護衛行動、航行安全を確保する共同作戦ならびに実弾発射訓練がある」(Geng大佐)
  3. 両国は太平洋でも共同演習を今年も実施している。
  4. クリミア半島を併合してから西側との関係が怪しくなったロシアは昨年は海上武装力の誇示を多数行い、従来までよりも遠隔地に海軍艦艇を派遣している。誘導ミサイル巡洋艦モスクワを南シナ海に送り、実弾演習を実施した。
  5. 同様に中国も従来の地域内水域を超えて活動を展開しており、ソマリア付近での海賊対策に加えイラン海軍と共同訓練を実施した。
  6. 中ロ両国は2012年から定期的な演習を実施し、黄海と東シナ海を演習海域としている。■

新ガイドラインが目指す方向性を分野別に展望 日本防衛はまず日本が主体的に取り組むべし



新ガイドラインは日本国民にも国境線と利益線の違いをちゃんと理解することを求めているようです。いろいろな可能性がこれから現実化するでしょうが、南シナ海での海上自衛隊のパトロールがすでに実施の検討に入っているようです。また宇宙・ISR機能の重視がこれから本当に必要になりますね。本ブログの趣旨にも合致します。

Inside the New U.S.-Japan Defense Guidelines

By: Kyle Mizokami
April 29, 2015 10:50 AM

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今週月曜日に日米両国が同盟関係をこれまでの50年から大きく変容させる合意に到達した。いわゆる「2+2」安全保障高級事務レベル協議 Security Consultative Committee (SCC) に米国務長官、国防長官、日本の外務、防衛両大臣が参加し防衛、安全保障でより緊密な関係を実現することとなった。

  1. SCCが合意したいわゆる日米防衛協力ガイドラインは1960年締結の日米安全保障条約を補完する。目標はいっそう緊密で切れ目のない協力関係を二国間で実現することで安全保障問題では 弾道ミサイル防衛から相互物資補給支援やサイバー戦まで含む。
  2. 両国のメリットはなにか。米国には自衛隊が米国資産の防御でき、米側と密接に共同作業できるようになるのが一義的な恩恵となる。日本にとっては自衛隊に課してきた制約を解き放ち、安部首相のいう普通の国の安全保障体制の中で軍事力を行使できるようになることだ。
  3. 日本の現行憲法は米国法律家が第二次大戦直後の環境下で起草して、軍事力整備および武力行使を厳格に制限する第九条が特徴だ。
  4. 憲法の足かせが長く日米同盟に影を落としてきた。戦闘任務で自衛隊は米軍部隊に海外では合流できず、日本の権益が危うくなっても同様だった。新ガイドライン以前に日本部隊は米軍部隊や米国領土の防衛に就くことはできなかった。ただし例外として日本から1,000カイリ以内なら米艦船の護衛はできる。

日本防衛

  1. 日米同盟の礎は両国が力を合わせて日本の防衛にあたることだ。新ガイドラインでは日本が攻撃を受けた場合、まず日本が主体的に自国防衛にあたるとし、周辺海域や空域も対象に海空からの侵入に備えるとしている。化学・生物・核(CBRN)兵器攻撃も含む。米国は日本を支援し補完的な役割を果たす想定だ。
  2. 新ガイドラインは攻撃任務は米軍部隊が実施すると暗示している。「米国は日本防衛に資する方法で地域環境を形成すべく行動し、平和と安全を回復させる」としている。これは戦闘状態の終結につながる攻撃的な行動であり、自衛隊では憲法上実施不可能な活動だ。

「政府全体」レベルの二国間協力

  1. 新ガイドラインでは「政府全体」のアプローチとして民生、軍事両面で連携を求めている。新たに同盟調整メカニズム Alliance Coordination Mechanism として両国部隊間での調整手順を合理化し強化することを提唱している。同メカニズムで情報・諜報の共有が進み、両国による緊急対応策の策定や二国間演習が円滑に行われる。
  2. これとは別に新しく二国間計画立案メカニズム Bilateral Planning Mechanism で共同作戦の調整立案を図る。自衛隊から米軍に連絡員を派遣し、米軍も逆に日本へ派遣する。
  3. 日米両国は情報収集監視偵察(ISR)分野での協力も強化し、無人・有人偵察機からの情報の共有と保護に務める。日本が将来配備するRQ-4グローバルホークや米側のRC-135偵察機が集めた情報が対象となる。「二国間ISR活動」で「連続した監視」を日本および地域への脅威対象を相手に行うことも合意された。

弾道ミサイル防衛

  1. 北朝鮮の核兵器貯蔵量の推定が見直されたが、中国も相当の核・通常兵器搭載の弾道ミサイルを多数保有していることが日米で共同作業を強化する背景だ。
  2. 日本は日本国内の弾道ミサイル防衛を主要任務とするが、米国が支援を提供する。BMD関連のデータを二国間でリアルタイムで共有し、弾道ミサイルの発射を早期探知する。新ガイドラインは相互運用にも言及している。
  3. 両国は早期警戒能力を整備し、想定脅威を探知にあたるネットワークを拡充する。米国製AN/TPY-2Xバンド監視レーダー2基が日本国内で稼働中だが、今後は日本南部に拡充し、琉球諸島への配備も想定される。

相互防衛

  1. これまでの日米同盟では自衛隊が米軍や米国領土の防衛にあたれないのが不満のたねだった。日本も普遍的な自国防衛権を主張し、他国防衛は不可としてきた憲法の解釈変更に取り組んでいる。
  2. 報道によれば新ガイドラインで日本部隊は米国を標的とした弾道ミサイルを撃ち落とすことが許されるというが現実はそんなに簡単ではない。
  3. 新ガイドラインでは相互防衛が認められる。「自衛隊と米軍部隊は相互防御をそれぞれの資産assetsを対象に適宜行い、日本防衛に資する活動を協力的におこなう」とある。非常に曖昧な表現であるが、「資産」とは実質的にすべてで、米海軍艦艇から米国の都市まで広く含まれる。
  4. 新ガイドラインを厳格に解釈すれば自衛隊がアメリカの国土を防衛できる場合は日本防衛から派生する事態に限定される。つまり米国が北朝鮮と一対一で対戦し日本が巻き込まれないと自衛隊の弾道ミサイル防衛は手出しができない。

日本国外での協力体制

  1. 従来の日米同盟の実施範囲は日本国領土に限定されてきた。新ガイドラインで両国は世界を視野に入れる。「同盟は日本の平和と安全保障に重大な影響を及ぼしかねない事態に対応していく。そのような事態は地理条件の制限を受けない」
  2. シナリオの一つに朝鮮半島からの非戦闘員の退避作戦がある。韓国国内に日本国民が常時33千名おり、観光旅行の繁忙期には100千名まで増える。安倍首相はくりかえし日本政府は有事の際に邦人退避をさせると言明している。
  3. 日本政府関係者は有事の邦人退避に韓国政府の支援は期待できないと結論づけており、韓国も主権の観点から自国内への自衛隊の展開は認められないとしている。そうなると米艦船、航空機を使う邦人避難が日本韓国双方の選択肢になるだろう。

その他分野

  1. 兵站補給:両国間の協力は補給活動にも広がる。新ガイドラインにより両国は相互に補給支援活動を現地で提供する。補給、整備、輸送、設営、医療活動が含まれる。日本は同様の合意をオーストラリアと2010年に締結している。
  2. 日米の防衛装備品では相当の共通化が進んでおり、水上艦向けGE製ガスタービンエンジンからF-35戦闘機に及ぶ。新しい兵站補給支援での合意で両国は共通化を利用し補給や整備で援助しあう。
  3. 海上作戦: 新ガイドラインではISR、訓練、演習を海洋関連の協力活動として特記している。新ガイドラインは海上作戦での協力を強調し、両国は「密接に協力し合い国際法に則り海洋秩序を維持する。航行の自由も含む」としている。最後の部分は南シナ海の主張を力で実現しようとする中国への間接的な言及であり、海上自衛隊が南シナ海で活動を展開する想定を示しているのだろう。実際に今年1月に第7艦隊司令官ロバート・トーマス大将がこの方向性を支持している。
  4. 宇宙空間: 日米同盟は宇宙空間にも展開される。目的は 「責任ある平和的かつ安全な宇宙の利用」だ。両国は情報を共有しつつ宇宙空間の脅威対象に対応し、宇宙配備の海洋監視で協力し、さらに「宇宙システムズの能力向上と弾力性の強化につとめる」
  5. 具体的には両国は「宇宙配備の早期警戒体制、ISR」で情報共有を進め、「衛星の配置、航行、時間調整」でも同様とし、「気象観測や指揮命令統制通信」も共有し、「作戦遂行上不可欠な位置づけの宇宙システムズの回復力を確実にする」としている。
  6. サイバー空間:新ガイドラインで日米両国はサイバー空間でも脅威対象と脆弱性について情報共有をする。両国は共同で重要インフラの防護にあたる。民間業界と協力し秘匿情報の保全をめざす。そのため訓練や教育を共有する。
  7. サイバー攻撃も他の攻撃と同様に日本が主体的に自衛隊で防衛をし、米軍が支援に回るのは共通だ。

結語

  1. 日米の合意内容の大部分は同盟関係の進化に伴う漸進的変化だ。日本にとっての意味が大きい。相互に自国防衛をうたう中で日本も一定の条件で防衛支援を提供できるようになる。米国が提供するリソースの規模と引き受けるリスクの大きさを考えればこれでやっと公平になる。
  2. 同盟関係の新しい可能性が開く。共同作戦立案、共同作戦や国家戦略レベルでの情報交換などだ。新ガイドラインが日本国憲法が定める武力行使の範囲をめぐり緊張を招くことはあるが違反にならないのはほぼ間違いない。安倍首相は最終的に第9条を廃止したいと思っているかもしれないが、新ガイドラインでとりあえずその可能性は先送りとなろう。■


2015年5月1日金曜日

★拿捕事件>米海軍護衛でホルムズ海峡通過へ(米国船籍に限る)



今回の騒動の背景は一応法的な問題のようですが、ホルムズ海峡の海上通航をいつでも妨害できることが今回立証されたわけなので今後要注意です。またその任務にあたるイラン部隊が宗教的な影響を直接受ける組織であることにも要注意です。原油価格はまだ大きく高くなっていないようですがわかりません。

U.S. Navy Ships Will Accompany American Merchant Ships Through Strait of Hormuz to Prevent IRGCN Harassment

By: Sam LaGrone
April 30, 2015 4:59 PM
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4月28日にM/Vマースク・ティグリスが拿捕されたことを受け、米海軍艦船は米国船籍商船を護衛しホルムズ海峡を通過させることとし、イランイスラム革命防衛隊海軍(IRGCN)の妨害に備えていることが米国防省関係者からUSNI Newsに30日明らかになった。
  1. 米海軍中央司令部(NAVCENT)は「必要と判断する艦船を投入する」と述べており、「IRGCNの妨害活動ならびに航路妨害を未然に防止する」という。
  2. NAVCENTが同海峡とペルシア湾内で護衛任務に投入できる艦船はサイクロン級警備艇5隻とアーレー・バーク級誘導ミサイル駆逐艦4隻、掃海艦USSデバステイター(MCM-6))、誘導ミサイル巡洋艦USSノーマンディー (CG-60)があるとUSNI Newsは理解している。
  3. 28日以降、米海軍艦船はイランの港湾都市バンダル・アバス近くに停泊中のマースク・ティグリスを監視している。
  4. イラン裁判所からデンマーク海運会社へ法的請求が発出されたのが拿捕の理由とイランの港湾海運機構 Ports and Maritime Organizaiton が発表している。
  5. ニューヨーク・タイムズは30日に「同船が停船を求められたのはイランからUAE向けに2005年に搬送されたコンテナー10個分で紛糾があるためとマースク社が言っている」と報じている。
  6. 28日の拿捕事件の前に24日にはM/Vマースク・ケンジントンにIRGCNパトロール艇4隻が妨害行為を行っている。
  7. イランの主張では拿捕は法的問題が唯一の理由としているが、専門家の中にはそのまま受け止めていない向きがある。
  8. 「イランがマースク・ティグリスを拿捕したのは自国民に対する示威の意味と外国に対しては核交渉が西側と進行中だが同国の軍部、海上部隊は決して態度を軟化させていないと示す意味があるのだろう。またその気になればいつでも海上交通を妨害できる能力があると示したいのだろう」とエリック・ワーサイム Eric Wertheim(U.S. Naval Institute’s Combat Fleets of the World 著者)がUSNI Newsに29日に語っている。
  9. IRGCNはイラン海軍とは別個の組織でイスラム階層構造と密接につながっている。.またホルムズ海峡、ペルシア湾の沿岸警備を2007年以降担当している。■


2015年4月30日木曜日

イラン革命防衛隊によるマーシャル船籍貨物船拿捕>続報


同じニュースですがイランの内部事情はこちらのUSNI Newsのほうがよくわかります。革命防衛隊の有する海上部隊は正式なイラン海軍とは異なるものの有効な武装勢力であること、どうも船会社とイランとの間で金銭トラブルがあったこと(これはイランの主張ですが)がわかりますね

Iran Seizes Marshall Island Ship Maersk Tigris; U.S. Destroyer On Station

By: Megan Eckstein
April 28, 2015 11:21 AM • Updated: April 28, 2015 6:39 PM

An updated photo of Revolutionary Guard Corps Navy patrol vessels. FARS News Photo
イラン革命防衛隊海軍のパトロール艇、 FARS News Photo
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イラン海軍艦艇がマーシャル諸島船籍の貨物船にホルムズ海峡で発砲し、イラン領海へ移動を強要したとペンタゴンが確認した。米海軍部隊中央司令部(NAVCENT) が航空機を送り、USSファラガット(DDG-99)に状況把握を命じてい
  1. 拿捕されたのは総重量52,600トンの貨物船マースク・ティグリスでイラン革命防衛隊海軍の哨戒艇数隻が包囲したとペンタゴン報道官スティーブ・ウォーレン陸軍大佐が認めた。「船長はイラン領海内への移動を命じられた」
  2. 「船長が拒否したところ、IRGCN舟艇の一隻がマースク・ティグリスのブリッジに向け数発を発射したため、船長はイランの要求を受けいれララク島付近のイラン領海へ進めた
  3. ウォーレン大佐によるとNAVCENTは船会社と連絡中で、状況把握に努めている。船会社から同船にアメリカ人は乗船していない旨回答があった。
  4. イラン国営のファース通信社はイランが「米国貨物船を拿捕した」のはイラン港湾海運局(IPMO)の要請としている。
  5. 「同船を拿捕したのは法廷命令が出たため」と事情筋が語る。同船の所有会社と金銭面でIPMOの主張が相違していること、IRGCNが同船をバンダル・アバスまで回送するとも付け加えている。
  6. 民間船舶の追跡サイトVessel Finderによれば同船はジェッダ(サウジアラビア)を最後に出港しており、今月前半はトルコ各地へ寄港しており、ジェベル・アリ(アラブ首長国連邦)が次の目的地だった。21:30 UTC/Zulu(グリニッジ標準時)に到着予定だったが、最後の報告は バンダルアバス沖合で14:20 Zuluとなっており、ホルムズ海峡でも一番狭い地点近くだと確認できる。ウォーレン大佐によれば IRGCN舟艇が同船を包囲したのは0905 Zulu.だったという。
The track of the M/V Maersk Tigris before and after the seizure by IRGCN forces. Screen grab from MarineTraffic.com
拿捕前後のM/Vマースク・ティグリスの航跡 Screen shot from MarineTraffic.com


  1. IRGCNはイラン革命(1979年)後に編成され、イラン・イラク戦争の教訓から1990年代に強化されている。イスラム共和国イラン海軍(IRIN)とちがい、IRGCNは政治的に厚遇を受け、その地位が高く予算も多いと海軍情報部(ONI)はまとめている。.
  2. マースク・ティグリスが向かうと見られるバンダルアバスにはIRIN司令部があり、フリゲート艦、駆逐艦の母港になっている。
  3. 2007年にイランの海軍部隊2つで責任分野を分けた。IRINはカスピ海、オマーン湾を活動海域とし、IRGCNがペルシア湾全体を統括することになった。「イランの海軍統制原則は接近拒否が基本なのでIRINがオマーン湾に展開し、IRGCNの高速舟艇、自殺攻撃舟艇、沿岸警備巡航ミサイルをホルムズ海峡とペルシア湾に集中させることで海軍艦艇をイランの多層的防衛体制に組み込むことができるようになった」とONIによるイラン海軍分析はまとめている。
An undated photo of M/V Maersk Tigris. Damietta Port Authority via Defense News
M/Vマースク・ティグリス、エジプト・ダミエッタ港にて。撮影時期不詳 via Defense News

  1. IRGCNはもっと目立つ形で2007年に拿捕を実施している。英海軍駆逐艦HMSコーンウォールの臨検チームを捕獲した。英海軍隊員はイラクの自由作戦の一環でペルシア湾内の商船を臨検していた。15名が二週間にわたり身柄を拘束され、イラン政府はイラン領海に侵入したと主張。
  2. マーシャル諸島共和国は主権国家だが条約を通じ米国と結びついている。外交は自国で行うが、「マーシャル諸島の安全と防衛には米国が完全な責任を有する」と国務省は説明している。
  3. 以下ペンタゴンが4月28日発表した声明文
  4. 4月28日おおよそ0905 Zuluに貨物船M/Vマースク・ティグリス(船籍マーシャル諸島)にイランのIRGCN警備艇数隻が接近したが、同船はイラン領海内にありホルムズ海峡を湾内に向け航行中だった。船長に連絡が入りイラン領海内へ進むよう指示があったが、船長はこれを拒否したところIRGCN舟艇の1隻がマースク・ティグリスのブリッジに向け数発を発射した。船長はイラン要求に従い、ララク島付近まで同船を進めた。NAVCENTはDDG(USSファラガット)にマースク・ティグリスおよびIRGCN舟艇にもっとも接近できる地点へ全速力で進むよう指示した。NAVCENTは該当開運会社と連絡を保ち、状況の把握に努めている。運航会社の回答で同船にアメリカ国籍乗員はいないとのこと。■

★米海軍>F-35C調達が間に合わない、スーパーホーネット追加調達へ



F-35Cの調達があまりにも遅いため米海軍はしびれをきらしたようです。またこれ以前の海軍からの発言を見てもステルス命という姿勢を海軍は(有人機では)取っていないことが明らかですね。メーカーのボーイングにとっては海外販売の可能性が薄いところに海軍からの追加調達が本当に実現すれば生産ラインを維持できるわけで産業基盤の維持にもつながります。


Navy Leans Toward Building More Super Hornets After F-35C Delays

by KRIS OSBORN on APRIL 22, 2015

2SuperHornet
米海軍はF/A-18スーパーホーネット調達を2017年以降も継続する。これはF-35Cの生産が遅れているのに加えホーネットへの需要が高まっていることへの対応。
  1. F/A-18スーパーホーネット生産は2017年で終了し、共用打撃戦闘機に更新する予定だった。
  2. だが作戦上のリスク回避のためにスーパーホーネット二ないし三飛行隊を追加し、A型からD型が耐用年数の限界に到達しても対応する。
  3. 「CNO(海軍作戦部長)が言うように2020年代、30年代を見越すとF-35C調達を進める一方でスーパーホーネット二個ないし三個飛行隊を追加しないと作戦上のリスクに直面する」と海軍航空戦を統括するマイケル・マナジール少将 Rear Adm. Michael Manazir はMilitary.com取材に答えている。
  4. 各空母は10機編成の飛行隊2と12機編成の飛行隊2で合計44機の攻撃用機材を擁する他に電子戦機材等がある。そこで海軍が求める追加機材数は20機を超える規模だとわかる。
  5. 空母飛行隊ではスーパーホーネット24機とホーネット20機を揃えるのが多い。旧型ホーネットのA型からD型はF-35Cに置き換えるはずだった。
  6. F/A-18A型とC型では8,000飛行時間に到達すると耐用年数延長の改修を受け、10,000時間まで飛行可能となる。しかし実際には大掛かりな修理が必要となることが多く旧型機のうち54%が使用できない。F-18は各地で必要となっており、改修作業が間に合わないのが現状だ。
  7. スーパーホーネットは2030年代まで十分実用に耐えるよう計画されているが、2040年代まで延長が必要との声が多い。マナジール少将によれば2020年までに導入できるF-35Cは20機程度だ。
  8. 「F/A-18を年間350時間ほど操縦していたが、みんなが同じペースだと年間35機か39機を新型機に更新する必要がある。F-35Cはこの規模にならないので、機数が不足する。攻撃戦闘機は必要だが近い将来に不足が発生するのは目に見えている。」とマナジールは言う。
  9. 2016年度の要求にスーパーホーネット12機とF-35C8機が加えられているが予算の裏付けのない追加調達の願望リストとして議会に送られ、年間予算に組み込むかを検討する。
  10. ボーイングのF/A-18生産ラインでは F/A-18 E/Fスーパーホーネットに加えてEA-18Gグラウラー電子攻撃機も生産中。F/A-18 E/F累計生産数は500機ほどだという。F/A-18E/Fの調達予定は563機だが、増えそうだ。
  11. ボーイングとしては生産ラインの継続のため今年末までに決断が出て、リードタイムが長い部品の調達にとりかかりたいところだ。.
  12. F/A-18関連の産業分布は44州に渡り、年間経済規模は90億ドル程度で、間接直接含め9万人分の雇用が実現している。
  13. マナジール少将は航続距離等の性能面でF/A-18スーパーホーネットの性能改修を企画しているという。
  14. その中に機体一体型燃料タンク、エイビオニクス能力向上やレーダー反射を抑えた外部武装ポッドがあるという。
  15. これらはボーイングが自社負担で準備中だが、もし海軍が563機を超える調達をしても全機に改修実施できないという。
  16. マナジールはスーパーホーネットとF-35Cの共同運用も考えている。ただし専門家の中にはステルス性が劣るスーパーホーネットあるいはグララ-がF-35Cと組むと敵に探知されやすく、結果としてF-35のステルス性が無駄になると懸念を示す向きがある。
  17. 敵陣営の技術の急速な進歩で防空体制が変わってきたことでF-35Cのステルス技術があってもグラウラーと一緒に運用する必要があるとの認識だ。
  18. 「すべての帯域で有効なステルスが重要で、ある特定の帯域だけに特化したステルスがあっても残りの帯域のことを忘れていいわけではない。高性能の防空体制を相手にするのであれば低レーダー断面積に加え敵を妨害する性能も必要となる」とグラウラーとの同時作戦投入をマナジールは必要と考えている。■


速報>イランがマーシャル諸島貨物船を拿捕、ホルムズ海峡リスク高まる


イランは外交上のゲームをするつもりなのでしょうか。民間貨物船の拿捕というのは久しぶりです。これでホルムズ海峡リスクが一挙に高まりそうですが、米海軍がどう対応するかが鍵となるでしょう。しばらく目が離せません。集団安全保障の議論の中で、ホルムズ海峡がなぜ日本の安全保障に関係あるのかとトンチンカンな発言をしている政治家がいましたね。

  Iran Intercepted US-Flagged Ship

By Joe Gould, Staff writer2:11 p.m. EDT April 29, 2015
WASHINGTON — イランがマーシャル諸島共和国船籍の貨物船を拿捕したが、イラン海軍艦艇による米船籍民間船舶への妨害は以前にも発生していたとペンタゴンが認め、イランと米国の間で緊張が高まっている。
  1. 米海軍駆逐艦ファラガットおよび警備艇3隻は29日も引き続きマーシャル諸島船籍のマースク・チグリスMaersk Tigrisの監視を続けている。同船は前日に発砲を受け、船内に乗り込まれた後に拿捕された。同船はホルムズ海峡のララク島Larak Island沖に停泊したままになっている。
  2. ペンタゴン報道官スティーブン・ウォーレン大佐Col. Steven Warrenは米海軍艦艇が「すべてに監視の目を光らせている」と語り、「対応が必要な場合に行動できるよう近居場所に配置してある」という。
  3. ファラガットとともにサイクロン級の沿岸警備艦サンダーボルト、ファイヤーボルト、タイフーンの三隻(バーハーレン配備)が展開中。チグリスの救難信号が28日に発信された時点で、米艦艇は海上安全確保作戦に従事しており、状況を傍受していた。
The coastal patrol boat Firebolt.沿岸警備艇ファイヤーボル (Photo: William H. Clark/Navy)
  1. 米軍は各艦以外に、偵察監視機を上空に飛行させているほか、「保護が必要となった場合、ファラガットは任務実施の準備ができている」(ウォーレン大佐)
  2. チグリスは現在イラン領海内にあるが、米国の対応は不明だ。ウォーレン大佐によれば米政府はマーシャル諸島共和国政府と協議中で、米国は同国の防衛に条約上の責任を有している。責任範囲にマーシャル諸島船籍船舶も含むとウォーレン大佐は説明。
  3. しかるべき対応とは「大統領の決断になるのは明らかで、条約の内容を具体的に検討しておく必要があるが、行動が必要となった場合は米国が裁量を有するとの条項があると理解している」(ウォーレン大佐)
  4. 国防総省はイランと連絡をしておらず、イランの意図は不明とウォーレン大佐は述べた。
  5. 「イランの行動の背景理由は理解困難。航行の自由など国際的に認められた海洋法を尊重するように注意喚起するのは当然のことで、イランも署名国であり、その他の既存プロトコールの順守を求めていく」(ウォーレン大佐)
  6. マースク社から29日に声明文が発表され、チグリスは定期用船契約船舶でリックマースグループRickmers Groupからマースクが借り上げているとのこと。「なによりも船員の安全と健康が最大の懸念事項」とマースク広報ティモシー・シンプソンTimothy Simpsonが述べている。「リックマースと連絡を密にし情報を得る一方、状況の打開方法を探っています。またデンマーク政府外務省とも協議中です」
  7. ウォーレン大佐は4月24日にイラン革命防衛隊海軍Iranian Revolutionary Guard Corps Navy のパトロール艇4隻が米船籍コンテナー船マースク・ケンジントン Maersk Kensingtonに嫌がらせをしていた事実を認めた。イラン側舟艇は後方から接近し15分から20分にわたり追尾し、「ケンジントン乗員は敵対行為と解釈した」という。
  8. マースク社によれば事件発生地点はドバイ北北西30カイリで、イラン舟艇とケンジントンの間に無線交信はなかった。ケンジントンはアラブ首長国連邦ジェベル・アリからジャワハラル・ネール港(インド)へ向かっていた。
  9. 「イランはホルムズ海峡で二隻の民間船に嫌がらせをし、しかも4、5日の間に発生している。貨物船舶が同海峡を通過する際にはリスクを覚悟せざるを得ない状況になっている」(ウォーレン大佐)
  10. ただしウォーレン大佐はマースク・ケンジントンが海軍海上輸送司令部の傭船契約にあったのか、軍事貨物を搭載していたのか言及していない。チグリスについても同様で、ウォーレン大佐は事実を把握していないと述べるにとどまっている。■

2015年4月28日火曜日

★日米防衛新ガイドラインは予想以上に多面的かつ画期的



ガイドラインの改定で国内報道は近隣同盟国(韓国、オーストラリア等)への対応などを中心にややバランスを欠いた記事の構成になっていませんか。本稿ではそれとはちがう視点(米国防高官=?)の発言を引用する形で広範囲の話題をコンパクトにまとめていますのでご紹介します。

US, Japan Strike New Military Agreement

By Aaron Mehta and Paul Kallender-Umezu 4:43 p.m. EDT April 27, 2015
WASHINGTON and TOKYO — 日米両国が新しい防衛協力改訂に月曜日合意した。日本の防衛面でのプレゼンスを世界規模にひろげ、サイバー、宇宙、産業分野で二国協力を強化するとの内容だと米国防関係高官が明かした。
  1. 新日米防衛ガイドラインは月曜日ニューヨークシティで日米間の外交、防衛トップによる2+2協議で合意された。
  2. 上記米国防高官は合意書署名に先立ち記者団に内容を話し、合意内容は日本を米国の軍事上のパートナーとして世界規模で再定義する意味があり「非常に大きな出来事」と評した。
  3. 日本は攻撃を受けた域内の同盟国を防衛することができるようになる。米国に向けて発射されたミサイルを日本のミサイル防衛で迎撃できることも意味し、上記高官は北朝鮮が地域安定度ヘの「脅威度を高めている」と評した。
  4. さらに日本が世界規模で平和維持活動や人道救助活動を展開すること、さらに情報収集・監視・偵察活動(ISR)の強化が見込まれる。
  5. 新ガイドラインは常設の「同盟間調整メカニズム」 ”alliance coordination mechanism" の創設を謳い、日米の防衛・外交関係者で構成するとしている。この機関が日米の作戦活動を調整・統制することが期待される。過去に同様の機能がなく防衛関係が進まなかった経緯がある。
【日本の観点】
  1. 各論は今後両国で詰めるが、まずガイドラインを日本の国会で審議可決する必要がある。障害はほとんど見られず順調に進展するだろう。
  2. 政策研究大学院大学の道下徳成教授は新ガイドラインは日本の安全保障を強固にする基盤と見ており、攻撃を受けた日本を救援する責任が米国にあることが前提とする。
  3. 2014年を通じ日本側関係者から異口同音のように日本が紛争に巻き込まれることへの警戒心と反撥する国内感情があると主張していた。日本と直接関係しない他国の紛争に巻き込まれることを警戒していると道下は説明する。
  4. 日本の観点とは世界は言うまでもなく地域内でも力を露骨に誇示する国には関わりたくないというものと道下は説明する。集団的安全保障に道を開く立法措置が今後生まれるが、妨害や制約を受けている。同様に新ガイドラインは米艦船を日本が守るための白紙小切手とは見られていない。
【中国】
  1. 今回のガイドラインは安倍内閣が昨夏示した日本の防衛での変更点をあらためて盛り込んだものだ。東アジアでの安全保障面の課題への対応を重要視しており、とくに中国による軍事外交面での挑戦を意識している。
  2. この点で日米両国は中国の台頭をいかに封じ込めるかで広範な合意形成ができており、今回の改訂でも重要課題と位置づけている。そこで中国や北朝鮮が今回の合意形成を歓迎することはない。両国とも兵力投射能力の拡大につながると見るのは必至であるが、新ガイドラインでは特定の国名は表記していないと上記高官は説明している。
  3. また上記高官によればガイドラインのあらましは中国側に説明済みで、今週も詳細なブリーフィングを行うという。ただし高官は新ガイドラインに中国がどう反応しているかの説明は避けた。
  4. 明治大学国際総合研究所の客員研究員奥村準によれば中国の対日姿勢はこの数カ月で厳しさが減っている。
  5. 「ここに来て日本に対する発言で中国にソフトさが出てきたのは経済の理由だけではない」と奥村は言い、新ガイドラインで同盟関係の「基礎重要部分」が強化されると見る。
  6. ただし日本が一夜にして軍事大国に変容すると期待しないよう釘を指している。
  7. 逆に奥村は「情報活動の共同作業の日常化」に焦点が当たることへ期待している。情報収集衛星の相互利用や南シナ海での共同パトロール、さらに防衛装備の研究開発を想定している。
【宇宙空間】
  1. 上記米国防高官も宇宙とサイバーを協力拡大の二大分野だと強調していた。日本の宇宙におけるプレゼンスは着実に増えており、今年早々に新宇宙利用10ヶ年計画が完成している。
  2. 上記米高官は宇宙空間状況認識データの共有拡大が新ガイドラインで示されていると注意喚起している。宇宙空間が一層混雑していく中で米国は地球を周回する物体の追跡能力、同盟各国とデータを共有する能力に重きを置いている。
  3. 「日米両国はこの分野で優れた能力を有しており、情報共有を拡大したい」と高官は述べている。
  4. 両国間で情報の流れが太くなるのか、日本も米空軍の合同宇宙オペレーションズセンター(米、英国、カナダ、オーストラリアが参加中)に加わるのかは不明。
【産業協力】
  1. 米高官は米国内産業も両国関係の強化で恩恵を多方面で受けるはずと語った。
  2. 「ガイドラインでは日米協力を共同開発、共同生産、軍事技術の共有で進めるとの条項があり、ぜひこれは進めたい」
  3. 高官は米国防総省の改革案の下でペンタゴンの調達業務改革も進み、海外同盟国との産業協力を拡大させる動きがあると指摘。
  4. 「この点は日本側と特に協議したい点だ」
  5. 日米間の軍事技術連携はすでに強固だが、日本がF-35共用打撃戦闘機の導入を決めたてさらに強くなった。
【ISR】
  1. ただ日本のグローバルナプレゼンスが増えれば防衛装備拡充の必要性も大きくなるはずで、特に日本がISR分野を世界規模で行うことになる場合で顕著になろう。日本はグローバルホーク無人機導入を決定済みだが、導入規模を拡大するかもしれない。あるいは低高度飛行ISR機材としてMQ-1プレデターやMQ-9リーパーの増設を決めるかもしれない。
【ミサイル防衛】
  1. 米高官はミサイル防衛も重要視しており、迎撃ミサイルシステムの追加もありえる。その場合艦上発射型か陸上発射型のどちらになるかまだ不明。■


2015年4月27日月曜日

★敵防空網を低コストUAV多数で突破する新構想



盾と矛の話のようですが、高性能の防空体制が生まれればそれを打ち破る新しい方法も出てきます。高価なミサイルを打たなくてもいいのであればそれに越したことはありません。伝統的にアメリカのほうが攻撃を重視している気がします。

ONR: Swarming UAVs Could Overwhelm Defenses Cost-Effectively

Apr 23, 2015 Graham Warwick | Aviation Week & Space Technology

海軍研究所(ONR)が費用対効果の高い防空網突破手段を2016年度に実証することになった。構想では自律飛行型の小型無人機多数を放出し、敵の防空網を無効にする。
  1. 低コストUAV大量投入技術 Low-Cost UAV Swarming Technology (Locust) の名称がつき、ONRはレイセオン製カヨーテ Coyotes 30機をフロリダ沖海軍艦艇から発射し、各機は即座に集団を形成し、自律的にミッションを実施する。
  2. カヨーテは発射管方式の電動小型UAVでもともとONR向けに高性能セラミクス研究所が製造したもの。同研究所はBAEシステムズに買収され、後にセンシンテルに売却され、レイセオンが同社を1月に吸収した。
  1. ONRはカヨーテ発射実験を3月に数回行っており、自律同調化と編隊飛行の実証を9機で実施済み。集団化実証はONRが運用する試験船シーファイターからフロリダ州エグリン空軍基地の沖合で実施した。
  2. カヨーテは高速発射されると低出力無線で相互通信環境を確立し、位置情報他を共有する。集団内で「親子」関係を作り、主導する一機が残りを従える。
  3. 「各機は相互の位置を把握し、それぞれに今いる場所を伝えるのが通信の目的です」とLocust事業をまとめるリー・マストロヤンニ Lee Mastroianni は語る。
  4. ONRの目標は集団自律飛行だ。「発進後に各機へこちらからは連絡したくないのです」とマストロヤンニは言う。集団を分割して小集団を作るとか一機ずつにちがうミッションを与える命令の送信は可能なので、ISR任務を割り当てることもできる。
  5. カヨーテUAVは消耗品扱いでミッション後の回収はしない。「安く一回きりの使用にして使う効果を上げました」(マストロヤンニ) ONRの目標は単価を1万ドル以下にすることだ。「5千から7千ドルにできたらいい」
  6. 重量12ないし14ポンドのカヨーテは90分まで飛行できる。
重量12から14ポンドの電動カヨーテは90分まで飛行可能で、翼を広げるとこうなる。Credit: Graham Warwick/Aviation Week
  1. 2016年に実施予定の海上発射公試では海中生物への被害を回避するため機体は回収するが、実際には陸上目標に多数の機体を命中させるとマストロヤンニは言う。
  2. 30機のカヨーテを30秒以内に発射し、集団を迅速に形成するのが鍵となる。
  3. Locust実証は「自動飛行への大きな一歩で、自律運航にみんなを慣れさせる」目的があるという。昨年8月の実証ではヴァージニア州ジェイムズ・リヴァーで小型無人水上艇が群れを作り敵船を包囲している。
  4. この技術をすべての艇に搭載することが可能だ。Locustは自律運航技術を確立し、水上、水中、空中問わず応用できると海軍研究部門のトップ、マット・ウィンター少将は見ている。■