2016年2月10日水曜日

★米海軍>SM-6対空ミサイルを対艦攻撃手段に開発中と認める



対空ミサイルが対艦ミサイルにも使えれば、一見、費用対効果は高いように見えますが、課題も多いようです。短期間で開発を完了するということですが、実際に使える武装になるのか注目です。それにしても米海軍もトップの交代と中国ロシアのなりふり構わぬ振る舞いにさすがにこれではいかん、と方向性を変えてきましたね。

SECDEF Carter Confirms Navy Developing Supersonic Anti-Ship Missile for Cruisers, Destroyers

By: Sam LaGrone
February 4, 2016 5:00 PM

Launch of a SM-6. US Navy Photo
Launch of a SM-6. US Navy Photo

米海軍がレイセオンのスタンダードミサイル-6を改良し、超音速対艦攻撃手段にする開発を続けていることがアシュ・カーター国防長官の発表で明らかになった。射程は200カイリだという。

  1. 「全く新しい性能を実現する。SM-6を改造しミサイル防衛に加え艦船攻撃能力を付与する」とカーター長官はサンディエゴで記者団に語った。
  2. SM-6の最高速度はマッハ3.5で現行のボーイングRGM-84ハープーン対艦ミサイル(1970年代実用化)の性能を上回り巡洋艦・駆逐艦部隊の射程を伸ばす。
  3. 改良型SM-6には今後5年間で29億ドルを投じる。実現すれば強力な対艦攻撃能力となり、現有の誘導ミサイル巡洋艦・駆逐艦の威力が強化される。海軍が進める「分散攻撃力」 “distributed lethality” 構想にも合致する。.
  4. 「これまで長い間動きはなかったのに、海軍作戦部長の中国への姿勢が変化し、中国を同等の戦力を有する国家と認識する言い回しの変化に気づきました」と業界筋はUSNI Newsに先月語っていた。「これまでは攻撃されるまで待つ、という海軍の姿勢がアクションを主体的にとる方向に変わったのか。どんな効果がこれから出るかを注目です」
  5. 海軍は巡洋艦・駆逐艦部隊が高性能を有する中国・ロシアのような敵対勢力に対応可能にしようとする。課題は再装填が難しい垂直発射システムを最大限に活用することだ。
  6. aegissm-61

  1. 「海軍は搭載装備を柔軟活用し、とくにミサイルの有効活用をめざしている」とエリック・ワーサイム(米海軍協会出版「世界の戦闘艦船」の編者)はUSNI Newsに語ってくれた。
  2. 「驚くべきことではない。SM-2ですでに可能だった。今回は運用の柔軟性を強調しているにすぎない」
  3. 海軍はレイセオンとSM-6の対艦ミサイル転用可能性について口を閉ざしていた。前のモデルSM-2には対艦攻撃モードが設定されている。
  4. USNI Newsが昨年に国防総省高官を取材し海軍がSM-6を対艦攻撃用に投入する用意があるのか聞いてみたところ、答えは「誰に聞いてもこの点は確認できないよ」だった。
  5. ではどんな改良が必要になるのか。レイセオン関係者がUSNI NewsにはブロックIAの作業が進行中と告げていた。「今お話しできるのはGPS機能の追加だけです」
  6. SM-6は対空、対ミサイル用に開発されており、制限付きながら弾頭ミサイルにも対応する。弾頭は小さめでハープーンが500ポンド弾頭を付けているのとは対照的だ。改良で弾頭部も手直しするのかは不明だ。
  7. もう一つの疑問は対艦モードSM-6でもネットワーク機能が付与されるかだ。対空ミサイルとしてNIFC-CA(海軍統合対空火器管制)構想のネットワーク武器となる。
  8. NIFC-CAではノースロップ・グラマンE-2D改良型ホークアイが収集した標的情報を統合し、情報をSM-6に送り空中の標的を駆逐艦・巡洋艦の射程外で攻撃できる。
  9. 「E-2でSM-6を敵の水上目標に向けて長距離誘導することになるのだろうか」とワーサイムも疑問に感じる。■


北京がTHAADの韓国導入に反対する理由は 北朝鮮ICBM発射の余波



なるほど中国がTHAAD導入にあれほど反対しているのはマスコミが言うようなレーダー探知距離の問題ではないことがよくわかりますね。北朝鮮についてはあれこれコメントがあると思いますが、米韓日の各国が比較的冷静に対応し、特に韓国が現実を直視した防衛対応をとることになれば雨降って地固まるでしょうか。

South Korea, U.S. in Talks to Increase Regional Ballistic Missile Defense Capability

By: Sam LaGrone
February 8, 2016 4:38 PM • Updated: February 8, 2016 5:51 PM

THAAD Missile Battery. Missile Defense Agency Photo
THAAD Missile Battery. Missile Defense Agency Photo

PENTAGON — 北朝鮮が2月7日に弾道ミサイルを発射し衛星を低地球軌道に乗せたことを受け、国防総省報道官は米韓両国が韓国国内に新型移動式ミサイル防衛装備の導入で協議を開始したと確認した。

  1. 「北朝鮮の脅威が増している中で米国と韓国は正式にミサイル防衛の実効性を向上させる協議を始める決定を下した。具体的には最終段階高高度広範囲防衛システムを在韓米軍が運用することを検討する」とペンタゴン報道官ピーター・クックが8日報道陣に伝えた
  2. クック報道官の前に韓国国防筋から米国によるTHAAD搬入で導入済みのロッキード・マーティンMIM-104ペイトリオット短距離BMDの弱点をカバーする案の協議を始めたとの発表が出ていた。
  3. 800百万ドルのロッキード・マーティン製THAADは米陸軍のトラックに乗せ A/N-TPY-2 Xバンドレーダーと一緒に運用することで、射程120マイルを実現する。なおペイトリオットPAC-3は43マイルだ。
  4. クック報道官は具体的な日程案は提示しなかったが、昨年、韓国関係者からTHAADの導入を米国に迫る動きがあった。北朝鮮弾道ミサイルの性能進歩を見ての対抗策としてだ。中国は朝鮮半島へのTHAAD持ち込みに憂慮する姿勢を示している。「いかなる国も自国の安全保障を名目に他国の安全保障上の権益を損なうことは許されない」(中国外務省報道官華春瑩)「対ミサイル装備の持ち込みは朝鮮半島の緊張をさらに増す効果しか生まない。域内平和と安定都は逆効果であり、現在の状況を正しく処理することにもならない」

A graphic showing the number of THAAD batteries that maybe needed to cover South Korea
韓国国内にTHAAD部隊をいくつ配備すれば全国をカバーできるのかを示す図

  1. THAADミサイル自体は比較的短距離なのだが、TPY-2レーダーはずっと長い距離を探査でき、米海軍のイージス誘導ミサイル駆逐艦や巡洋艦の発射するスタンダードミサイル3にも対応する。
  2. 2013年のテストではミサイル防衛庁はTHAADとSM-3(USSデカター(DDG-73))を同時にTPY-2レーダー(ハワイに設置)で管制するのに成功している。クック報道官は持ち込みを想定する装備の性能水準について言及を避けたが、第七艦隊のBMD対応誘導ミサイル駆逐艦・巡洋艦がTPY-2の目標捕捉情報の恩恵を受けるのは間違いない。■


2016年2月9日火曜日

★’16大統領選挙>サンダース当選の場合、国防予算はこうなる



米国が内向きになっているのは悲しむべきことです。今年の大統領選候補者を見ると今までなかった主張が堂々と述べられているのに驚かされますが、その最右翼は左翼のサンダース候補でしょう。当選の可能性はわかりませんが、こんな政策が実施されれば日本は相当防衛費を増やさないといけなくなるでしょうし、中国にとってサンダース候補が一番望ましい選択になってしまいます。

Feel The Bern! What A Sanders’ Military Might Look Like

By MARK CANCIAN on February 08, 2016 at 3:08 PM

Sen. Bernie Sanders
ひとつ思考実験をしてみよう。ヴァーモント州選出上院議員バーニー・サンダースが大統領に当選したらどうなるか。サンダースの国防政策はどうなるか。アイオワでの接戦で当選が確実になるものではない。党大会への道は険しい。だが国防の観点に絞れば検討する価値はありそうだ。
  1. まず国防予算は大幅に縮小する。同候補の掲げる社会対策に資金が必要だ。税率アップで費用を賄うが、当然ほかの予算が削られる。民主党討論会でサンダースはスカンジナビア各国の社会福祉制度に言及している。各国はGDP比1.3%を国防に使っており、これは欧州地域NATO加盟国の平均に近い。これに対して米国は2016年に3.1%相当を国防に使う。(ただしここには戦役継続予算を含まず) これを1.3%に削るとDoD予算は2,350億ドルになるが、それでも世界最大規模とはいえ、現行の5.350億ドルが半減する。サンダースはまだこの提言を公にしていないが、自身の考える政府の役割のあるべき姿では当然この方向に進む。ではこの予算で調達できるもの、犠牲になるものを考えてみよう
  2. この予算規模をCSISが作成した戦力経費モデルに投入すると興味深い結果が出た。まず戦力はおおよそ6割カットで調達の仕組みは大幅に変更となる。この予算規模では第二次大戦後ずっと守ってきた戦力構造は維持できない。また世界規模でアメリカが当然のごとく実施してきた戦略も実施不可能となる。その前にすぐ現れる予算上、事業での影響を見てみよう。
  3. サンダースはペンタゴンの「ムダ、不正、乱用」を一掃すると主張している。同意見のものは多い。議会内部には党派問わず同じ主張をする向きが多い。ただし実際に改善し、事業を効率化に向けるのは困難だ。国防の無駄を削るのは社会福祉の世界で「福祉不正受取者」を排除するのと等しい。確かにこの問題は存在しており、政府は毅然たる対策をとるべきだが、実施しても大きな節減効果は生まない。実際に予算を節約するには人員や装備を削るしかない。
  4. サンダースがまず手を付けるのは核戦力だろう。繰り返し予算が多すぎると主張し、今後10年間で1,000億ドル削減を公約している。サンダースが採用するのは「最小限抑止理論」で、破滅的な報復効果を発揮できるだけの核能力だけあればよいとする。このための弾頭数は300から400との見積もりがある。なお、新STARTでは上限は1,550発だ。ここまで弾頭数を削減すればICBMは全数使用終了とし、爆撃機も退役させ、ミサイル原潜も現行の14隻を6隻に削減する必要があろう。新型長距離打撃爆撃機(LRSB)は高価格を理由に打ち切りになるだろうが、LRSBはまず通常兵器運用から開始する想定なのだが。同様に国家核安全保障局(NNSA)も縮小されるだろう。同局は核兵器を開発、製造する部局だ。兵器開発研究施設でもローレンス・リヴァーモア(カリフォーニア)が閉鎖されるだろう。すべて実施すれば年間150億ドル相当の節約効果が生まれるが、まだ十分ではない。
  5. サンダースはミサイル防衛にも批判的だ。そのためここでも大幅削減となるだろう。だが実質的な節減効果は大きくない。ミサイル防衛庁予算は81億ドルで半分が国土のミサイル防衛、残り半分が戦域大のミサイル防衛だ。このうち戦域対象のミサイル防衛のTHAAD、AEGIS SM-3やペイトリオットがテスト結果では先行しており、国土防衛システムは遅れている。戦域防衛は海外展開中の米軍や同盟国の防御に役立つため,党派超えた政治的支持がある。そうなると年間節約効果は10ないし20億ドルにとどまり、やはり必要額に達しない。
  6. 実際に節約を生むのは以下の方策だろう。

  • 陸軍正規部隊を25万名まで削減する。現在は47.5万名体制。そのかわり予備役はさほど削減させず、29万名を州軍および陸軍予備部隊に維持する。サンダースの主張では海外各国に駐留する米軍部隊の削減、特に裕福な欧州や日本で減らす。陸軍は前方配備よりも急派部隊に性格を変える。それでも戦力は相当のものがあり、戦闘旅団25個を維持できるが、海外派遣には時間がかかり、砂漠の嵐作戦の再来は無理だ。
  • 海軍は160隻程度に縮小し、空母(「冷戦時の遺物」)は5隻にする。ここまで縮小すると時間が相当かかるので、一部艦船は予定より早く退役させることになろう。米海軍は現有の艦船であと10年20年は生きながらえるだろう。しかし艦隊規模の縮小は海外プレゼンスの縮小につながる。太平洋を優先すると、欧州は全面撤退、中東も大部分撤収することになり、太平洋リバランスも想定より規模が縮小する。西太平洋諸国は撤退気味の米国より国力が伸びる一方の中国に依存することが多くなる。艦船建造の基盤産業力を維持するため、数隻の建造は続くだろうが、閉鎖に追いやられる造船所も現れる。まずカリフォーニアのNASCOとメインのバスアイアンワークスが消えるだろう。コネチカットのエレクトリックボートも存続が危うくなる。
  • 空軍では第五世代戦闘機としてF-35(「驚くほどの浪費」)の生産は既存機の耐用年数延長に切り替え、F-16やF-15の稼働を続ける。空軍には清算済みのF-35やF-22で構成する第五世代機の在庫があるが想定より相当縮小する。
  • 海兵隊は9万人(常備部隊)水準まで削減。これでも世界最大規模の陸戦隊といえるが、前方配備の維持は無理となり、第二次大戦終結後維持してきた体制が崩れる。

  1. 国防関係者がサンダース候補のキャッチフレーズ「バーン(=バーニー)の息吹きを感じろ」を実感すのは間違いないだろう。■
著者マーク・カンシアンはオバマ政権の予算管理局で主席国防予算アナリストを務め、現在は戦略国際問題研究所で国防アナリストを務めている。


2016年2月8日月曜日

米海軍用オスプレイの正式名称はCMV-22B、2018年度から調達開始



Navy’s Osprey Will Be Called CMV-22B; Procurement To Begin In FY 2018

By: Megan Eckstein
February 5, 2016 1:49 PM

MV-22 Osprey assigned to Marine Medium Tiltrotor Squadron (VMM) 163 launches from USS Makin Island (LHD-8) on Aug. 24, 2014. US Navy Photo
海兵中型ティルトローター飛行隊(VMM)163所属のMV-22オスプレイがUSSマキンアイランド(LHD-8)で運用された。2014年8月24日撮影。US Navy Photo

米海軍の次期空母輸送機(COD)となるオスプレイの呼称はCMV-22Bと発表した。

  1. 海軍は一年前にV-22導入を発表していた。同機は空軍特殊作戦軍団と海兵隊が海陸で運用中。COD任務には現在はノースロップ・グラマンC-2Aグレイハウンドターボプロップ機が使われ、人員、郵便物、補給品その他を陸上から空母へ輸送している。
  2. 海軍はもともとC-2A後継機に固定翼機を想定していたが、昨年の決定でオスプレイ投入が決まり、現在生産中の同機の生産ライン、完熟した補給体制、訓練施設を利用できる。海軍はV-22を駆逐艦他水上艦からも離着陸ができるよう型式証明をとり、固定翼機より運用柔軟度が上がると期待。
  3. USNI NewsはC-2Aがベル=ボーイングV-22より有利と考えていた。たとえば高高度飛行能力があるが、COD候補の検討で旧式化したC-2Aの機材更新は予想以上に高くつくことが判明した。
  4. 海兵隊はMV-22、空軍はCV-22と呼称しており、海軍はその二つを合わせた形とする。空軍の機材呼称方針でCは貨物であり、機体は「重量貨物、人員および、あるいは傷病兵を運ぶもの」としている。Mは多用途機能であり、「特殊作戦の支援機材」とされる。Vは垂直離陸または短距離離陸が可能な固定翼機に使う。
  5. これまで海軍と国防総省は海軍仕様のオスプレイをHV-22と呼称しており、Hは回転翼機の頭文字であり、捜索救難機にも使われている。たしかにオスプレイが捜索救難ミッションにも活躍しそうだが、CODミッションとは別物だ。
  6. そこでCMVの呼称がCODミッションを一番よく体現すると海軍航空システムズ司令部’NAVAIR)は発表しており、「統合軍海上部隊に時間を有効活用し、長距離空輸を可能とする手段となり人員、郵便物、重要貨物を前方基地から海上基地に輸送する」のだという。
  7. 海軍のミッション要求ではCMV-22Bは長距離飛行用の燃料系統、高周波見通し線外通信機能および機内通報装置を追加する。
  8. 海軍は当初48機を必要としていたが、その後44機で十分と結論づけた。NAVAIRによればCMV-22Bの生産は2018年度に始まり、納入は2020年以降だ。
  9. 海軍は上記三項目の改良の技術改良提案(ECP)をMV-22設計をもとに進める。ECP契約はまだ準備できていないが、2016年度予算に組み込まれるはずだ。つまりあと数か月で決定となる。■

2016年2月7日日曜日

F-35>初の大西洋横断飛行はイタリア組み立てのイタリア空軍機が実施


米側が最初に狙っていた大西洋横断飛行を反対側のイタリアが先に行いました。イタリア空軍も虎の子のF-35に大事があっては大変と大規模なバックアップ部隊を随行させているのがわかりますね。今年はいよいよファンボロショーで機体を展示できそうですね。

F-35 Makes First Transatlantic Crossing

By Lara Seligman 12:17 p.m. EST February 6, 2016
NAVAL AIR STATION PATUXENT RIVER, Md. –イタリア空軍所属のF-35が同機初の大西洋横断飛行を2月5日に実施し、同機の国際展開が展開される今年で大きな一歩となった。
  1. 同機はAL-1の呼称でポルトガル領アゾレス諸島のラジェス空軍基地を離陸し7時間後に当基地に着陸した。機体は2月2日にイタリアのカメリ基地を出発しており、本来は3日に米本土に到着するはずだったが、天候条件と整備の理由で遅れていた。
  2. 風速120ノットの向かい風で飛行は安定しなかったが、同機は移動を問題なく実施したとジアンマルコ少佐(コールサイン「ニンジャ」)は語った。同機にはC-130輸送機二機、ユーロファイタータイフーン一機とイタリア空軍給油機二機が随行し、カメリからラヘスまで途中三回、大西洋上空で四回の空中給油を実施した。
AL-1 Arrival at NAS Patuxent River, MD on 5 February,AL-1 は2月5日にパタクセントリヴァー海軍航空基地に到着した。海外生産のF-35が大西洋を横断して米本土に着陸するのはこれが初めて。(Photo: Andy Wolfe)
  1. 今回は二つの点で初の挙行となった。まずAL-1は大西洋横断飛行をした初のF-35となり、海外製造機で大西洋横断をした初の機体になった。カメリの最終組立点検補修施設(FACO)で組み立てられた。ジアンマルコ少佐は初の大西洋横断機がイタリア製でイタリア人パイロットが操縦したことに誇りを感じると発言。
  2. ジアンマルコ少佐は昨年11月にルーク空軍基地(アリゾナ州)で同機操縦の訓練を修了している。
  3. F-35の初の大西洋横断飛行は2014年に予定されており、ロイヤルインターナショナルエアタトゥーおよびファンボロ航空ショーでお披露目するはずだった。だが予定されていた米海兵隊のF-35Bは直前に発生したエンジン発火事件とその後の全機飛行停止措置で実施できなくなった。
  4. 今年は米空軍がF-35A二機をRIATおよびファンボロに今夏派遣する予定で、F-35Bも同様に2機派遣され現地で合流する。
  5. 今回大西洋を横断飛行したイタリア機は米国で三か月に及ぶ「電子環境評価」(E3)テストを行い、高出力レーダー、通信系統、落雷の影響を調べる。一定の範囲の電磁波の影響下でも機体が正常に作動することを確かめるのが目的だ。なお、当地パタクセントリヴァーでは米軍向けF-35BおよびF-35AのE3テストを完了しており、米海軍向けF-35Cのテストも最終段階にある。
  6. E3評価が完了したあとのAL-1はF-35国際パイロット養成センター(ルーク基地内)に配属されるとウィリアム・カウチ(米海軍航空戦センター報道官)は述べている。
  7. イタリア空軍はAL-1を皮切りに合計5機を国際パイロット養成用に投入するとカウチは発表。なお、イタリア空軍は合計90機のF-35(A型およびB型)を調達する。■

2016年2月6日土曜日

カーター長官が公表した第三相殺戦略の技術要素を見る


第三相殺戦略で公表してもいい部分をカーター長官は発表しました。その推進役がSCO戦略戦力整備室です。

Robot Boats, Smart Guns & Super B-52s: Carter’s Strategic Capabilities Office

By COLIN CLARK and SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 05, 2016 at 4:00 AM

A US Air Force B-52 flies over the Pacific on a flight out of Guam. Bombers like this one challenged the Chinese air defense one earlier today.US Air Force B-52
WASHINGTON: 重武装機 arsenal plane、ハイパー高速発射弾、高速飛行マイクロドローンの群れ、...もっと多くの開発案件があるが、秘匿情報だ。ではこれらを開発しているのはどこか。戦略戦力整備室 Strategic Capabilities Office(SCO)で、アシュ・カーター国防長官が2017年度予算案の紹介で初めて公表したペンタゴンの新設組織だ。SCOはカーターが重視する第三の相殺戦略の源泉であり、ペンタゴンがめざすアメリカのグローバルパワー維持のためロシアや中国が追随できない技術を開発する部局である。
  1. カーターが同室を2012年に創設した目的は「既存のDOD、各種情報機関、民間部門に新しい役割を与えて画期的な技術を実用化することで敵対勢力へ対抗すること、重点はいかに早く実用化するかで、10年や15年ではなく早く第一線に投入する」としていた。
SecDef spoke at the Economic Club of Washington, D.C.Ash Carter previews 2017 budget at Washington Economic Club
  1. その後カーターは同室の仕事ぶりを評価し規模を拡大し、長期投資案件も任せたことで、名実ともに戦略的な能力整備を行う部署にした。
  2. SCOのとりまとめ役にカーターが選んだのはウィリアム・ローパーで、カーターが「優秀な物理学者」と称賛する人物だ。(カーターも理論物理学者である) ローパーは「ついでながらローズ奨学生だ」とする。(カーターも同様)
  3. では具体的な武器を見ていこう。
重武装機とは
  1. 重武装機というとB-52に何トンものセンサーや武装を施すように聞こえる。カーターはこう言っている。「古い機体(最新のB-52は1964年製造)を飛行発射台に変えて各種通常兵器を搭載する。重武装機は巨大な空中弾倉として、第五世代機へのネットワーク機として前方センサーや目標捕捉のため既存の各種システムの組み合わせで全く新しい機能を実現する」
  2. 本稿の記者の一人コリンは同機の詳細をつかもうとした。空軍の迅速戦力整備室(RCO)はこの件に参画していないと判明したが、普通に考えれば同室が絡むのが自然な流れだ。RCOは長距離打撃爆撃機(LRSB)案件と関連技術を取りまとめている。コリンはB-52改装の確証は取れなかったが、理屈の上では同機の選択はぴったりだ。
  3. 実現の暁にはノースロップ・グラマンの多機能高性能データリンク(MADL)または同様の装備で目標標的や脅威対象でF-35やF-22が集めて莫大な量のデータを処理するのではないか。ミサイルや各種精密兵器を搭載する兵倉庫もつくだろう。
A Navy patrol boat converted to operate unmanned as part of an Office of Naval Research experiment in autonomous "swarms."海軍の哨戒艇が無人艇に改造されたのは海軍研究所による自律型「大群」無人艇運用構想の一環だ。
  1. 構想の一部は前からある。単に見過ごさられてきただけだ。マッケンジー・イーグレンはアメリカ公共政策研究所でペンタゴン予算を検証したところSCO予算が2013年度から盛り込まれているのを発見した。同室が絡んだ案件としてカーター演説では重武装機含め三つの事例を紹介している。空中、水中を移動するマイクロドローンの大群とハイパー高速発射弾だ。
  2. さらに資料からイーグレンは「SCO予算が2014年の125百万ドルから2015年に175百万ドル、さらに2016年委530百万ドルへと急増している」のを見つけた。ここには海軍のシードラゴンや無人航空機用ペイロード案件が含まれ、「マイクロUAVで自律的に大群で運動する、またシーモブでは無人水上移動体を多数一度に協調的に運航する」のだという。
  3. カーターは政策スピーチでこのシーモブについてこう表現している。「海に関して自律推進舟艇の開発が完了しており、ネットワークで接続すればあらゆるミッションの実施が可能だ。艦船防御から接近偵察まで人員の生命を危険にさらすことはない。技術進歩によるところが大きい。たとえばマイクロドローンでは民間技術を応用して3-Dプリントで製作するし、小型艇も人工知能のアルゴリズムを応用して建造するが、火星着陸機でこの技術の原始的な応用がされていた」
弾丸でミサイル迎撃をする
  1. 本稿の共同執筆者シドニーはハイパー高速発射弾(HVP)についてこれまで調べてきた。カーター長官はハイテク案件を四つ紹介したがHVPは文字通り爆発的な効果をもたらす。精密誘導弾であり、陸軍の榴弾砲や海軍の艦載砲に応用してミサイルの撃破が可能になるという。
  2. 「このハイパー高速スマート弾を電磁レイルガンに応用すれば局地防衛に使えるはずだ」とカーターは述べている。「既存の砲門で発射が可能で、海軍の駆逐艦や陸軍のパラディン自力推進型榴弾砲に応用できる」(陸軍や海兵隊が多用するM777榴弾砲でも使える)
M109 Paladin howitzerM109 Paladin howitzer
  1. これはどんな意味を持つのか。スカッドを生産してどこかに向けて発射するのは迎撃弾を生産しスカッドを撃ち落とすよりはるかに簡単にできる。つまりロシアや中国、あるいはイランや北朝鮮は安上がりな攻撃兵器の連続発射でこちらの高価な防衛網を圧倒しつつ迎撃手段が玉切れになるのを待てばよい。
  2. そこでレーザー兵器に関心が集まっており、飛来するミサイルを一回数ドル程度の電力消費で破壊する可能性がある。同様に海軍が開発中の電磁レイルガンも一発25千ドルのハイパー高速発射弾をマッハ7で100マイル先まで飛ばすことができる。ただレーザーもレイルガンも開発は完了しておらず、就役中の艦船が有する発電容量以上の電源が必要になる。そこで海軍研究所とSCOはレイルガン用の発射弾としてHVPを再考し、既存の火砲でも発射できるようにする。これなら既に数百門が利用可能だ。
  3. 米陸軍砲兵隊は155 mmのエクスキャリバー精密誘導弾を広く使っており、メーカーのレイセオンが海軍用に開発中の改造弾は高速攻撃艇を撃破できる。BAEシステムズのスマート砲弾にはフィンとロケット動力もついており、有効射程を広げられる。
  4. 「火砲から精密弾を運用する技術はすでに実用化しており、今やどこまで改良を進めるかの問題だ」とクリス・キング退役陸軍大佐は言う。キングはBAEの兵器システムズ部門で開発業務を率いている。
BAE Systems imageBAE Hyper Velocity Projectile (HVP)
  1. HVPはBAEシステムズの製品だ。BAEはロケット推進弾を二型式開発した。そのうち長距離陸上攻撃弾Long-Range Land Attack Projectile (LRLAP) は重量230 lb.射程63カイリで現在はロッキード・マーティンが海軍のDDG-1000ズムワルト級新型駆逐艦用に製造中だ。同艦は155㎜艦砲を搭載する。一方、重量100 lb射程54-nmの各軍共通誘導発射弾Standard Guided Projectile (SGP)はBAE自社開発で共通サイズの小型弾を陸軍の155 mm榴弾砲や海軍の5インチ砲(127 mm)で使う。
  2. 「LRLAPとSGPはBAEシステムズ含む業界でロケット推進で火砲の利用の延長でめどがついたのを示しています」(キング)
  3. HVPにロケット推進機構はついていない。このためHVPは安価かつ小型(68ポンド)だが射程も短く艦砲からは50カイリが限界だ。LRLAPやSGPに比べるとHVPは大型弾頭の長距離発射には適していないし海上艦船や陸上部隊の砲撃には適していない。ただし小型であるので機動性は高く、これまでの迎撃手段では不可能なミサイル防衛対策に応用できる可能性は高い。
  4. HVPの中核をなす「飛翔体」には誘導装置と弾頭を入れて28ポンドしかない。この中核部分を標的の種類にあわせ各種構成する。水上艦から巡航ミサイルを迎撃する、あるいは各種手段から発射が可能で、電磁レイルガンからでも、伝統的な火薬応用の火砲からでも運用可能だ。
  5. 「もともとレイルガン用に想定したが、海軍とDoDは他の火砲からも運用可能と見ていた。飛翔用の構成部品だけ変えればよい」とキングは記者に語った。
  6. どこが変わるのか。まず砲口速度、制御性、精密度でスマート砲弾は地上の静止目標を相手にすれば要求水準は高くない。GPS座標でホーミングしアクティブシーカーは不要だ。だが艦船のような移動目標に対しては砲弾は標的位置の情報を更新し進路を調整する必要がある。小型で超音速のミサイルのような標的が一番難易度が高い。
  7. カーター長官はミサイル防衛用にHVPだけ改修するのではなく、火砲にも手を入れる必要があるとみる。「砲の手直しもある程度必要で高速発射体に対応させるほか、これまでと違う砲弾への対応も必要だ」とキングは記者に語った。ミサイルが同時に多数飛来する場合には短時間で多数の砲弾を発射する必要があるが、「自動装てん機構が必要になるだろう。また砲身の寿命延長対策も必要だろう」
Navy Mark 45 5-inch cannon firingNavy Mark 45 5-inch cannon firing
  1. 「HVPだけ開発して火砲はそのままというわけにいかない」とキングは言う。新型砲弾を従来型火砲で発射して水上目標や陸上を攻撃するため改良が必要だとキングは言う。
  2. 同時に射撃管制やセンサーも改修が必要だ。海軍ではイージス防空ミサイル防衛システムを駆逐艦、巡洋艦に搭載しているが、HVPをどう接続させるか検討しなくてはならない。陸軍でイージスに最も近いのは統合対空対ミサイル防衛戦闘指揮統制システム(IBCS)だがまだ開発段階だ。
  3. カーター一派はHVPを安上がりに既存火砲に新しい用途を生む手段だと話している。HVPをミサイル防衛に使えば確かに高性能迎撃ミサイルやレーザー兵器をゼロから開発するより安価である。だが実際にミサイルを撃破するまでにはシステム開発が相当の作業になるとキングは言う。DIUx
もっとある新技術分野
  1. カーターの演説ではそのほかの技術も言及されているので実際にスピーチを見てもらいたい。
  2. SCOはカーターの進めるその他の大型技術革新にどう関与するのか。DIUx(国防技術革新統合実験)の名称でカーターはシリコンバレーに弑さなオフィスを開設しており、民間ハイテク部門にペンタゴンとの共同事業を進めさせ、これまでの深い不信を乗り越え、軍とは関係ないと考える民間の姿勢を変えさせようとしている。
  3. 「SCOとDIUxで一部重複部分があるが、前者は既存技術の応用を中心にしているようで、DIUxは予算もなく、ハイテク企業とペンタゴンの橋渡し機能で民間新技術を国防に使うのが目的だ」とイーグレンは指摘する。イーグレンはペンタゴンの政策決定層に対してDIUxとSCOの業務をもっとよく機能させる興味をそそる案を提示している。
  4. 「二つの組織が共同して機能していけるかが課題です。今のところはうまくいっていないのではないでしょうか。理想を言えば、DIUxは全く革新的な技術を発掘し、SCOはそれを受け短時間で試験評価をし、調達できるか判断すべきでしょう。つまりDIUxからSCOへの連携が必要です」(イーグレン)■
これはカーター演説を一度読む必要がありそうですね。もちろん公表できない範囲の極秘技術がもっとありそうですが。


米陸軍は同盟各国とともに対中国抑止力の一環となる CSBA提言


アジア太平洋での陸軍の役割は拠点防衛であり、ハイテク部隊として領土を守りつつ空海軍の作戦を支援すること、というのでは米陸軍としても面白いはずがありません。ただし以下の構想はよく練られており、米議会内にも支持者が生まれそうですね。そうなると陸軍はますますしぶしぶ対応を迫られることになりますね。それにしても陸上自衛隊が対艦ミサイルを整備してきたのは先見の明があったのでしょうか。CSBAからはたくさんの提言が出ていますね。

 Reshape US Army, Asian Alliances To Deter China: CSBA

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 03, 2016 at 1:33 PM

Missile Defense Agency photo米陸軍のTHAADミサイル発射風景 
WASHINGTON: 米陸軍に太平洋で中国を封じ込める役目を与えるべきとワシントンDCでも著名な国防専門家が議会で本日語る。大きな役割として政治的にも財政的にもきびしい決断を下さないと新装備、新配備場所の確保は不可能とアンドリュー・クレピネヴィッチが議会での発言の前に記者に語ってくれた。
クレピネヴィッチの構想の中心はこうだ。米陸軍のミサイル部隊(対空、対艦、ミサイル防衛、長距離攻撃)を定期的にあるいは恒久的に西太平洋諸国に駐留させる。受け入れ同盟国もそれぞれの能力の許す範囲で地上部隊を提供して重要な役割を果たす。日本には初期段階だが対艦ミサイル部隊がある。フィリピンでは国が支援して非正規防衛隊を組織し、レバノンのヒズボラから技術上の教訓(倫理面は除く)を応用する。
Andrew KrepinevichAndrew Krepinevich
米軍と現地地上部隊をともに日本からインドネシアに至る第一列島線上に配置し、西太平洋防衛の強力な背骨にする。空軍、海軍、海兵隊が自由に活動する一方で島しょ部分に配備する陸軍部隊は不動の金床になる。
「地上部隊は空軍海軍兵力の重要な補完機能を果たす」とクレピネヴィッチは記者に語る。「列島上の地形のため地上部隊は地点防御に専念することになる。紛争発生時には各島の間の移動は困難になるからだ」(輸送機、輸送艦は途中で撃墜、撃沈される可能性が高い)
そこで「海空の部隊が機動作戦兵力の中心となる」という。「地上軍は多方面の作戦に従事する。C4ISR、対空、対ミサイル、沿岸防御や対潜戦も想定できる。第一列島線に沿って防御の姿勢をとることで、海軍や空軍の兵力は本来すべき仕事に専念できる」
上下両院で陸軍の役割拡大には大きな関心が寄せられているが、簡単に売り込める話でもない。影響を受ける方面が多数あるからで、陸軍自体、国防長官官房、また同盟各国も含まれる。
  • 同盟各国は米軍基地が恒久的に残ることを懸念するはずだ。既存の各国でも政治的な摩擦が増える。日本と韓国がその例で、今のところ基地のないフィリピンでも火種になる可能性はある。
  • 陸軍も島しょにとどまったままでの空軍や海軍の作戦の支援は望まない。第二次大戦で欧州を席巻した実績や第三次大戦で想定したロシアと正面から戦う構想に比べるといかにも華がないためだ。
  • 国防長官官房ではチャック・ヘイゲル前国防長官を除けば欧州を差し置いて西太平洋での任務を中心にした予算編成には抵抗があるはずだ。
「海兵隊も陸軍もハイテク戦場で相手方も高性能装備を投入してくる可能性を想定しており、まずロシアがあるが、中国との地上戦は想定外だ」と記者に語った国防高官がある。中国は巨大すぎるとしてこんなジョークもある。もし米陸軍が中国に上陸したら北京政府は現地警察署に全員逮捕すべしとの命令を出せばよい。
だがクレピネヴィッチが想定するのはアジアの地上戦ではない。陸上部隊に敵の海、空、サイバー空間の目標にあたらせるほか、中国が占拠する島しょ部分あるいは本土に長距離ミサイル攻撃を実施させる構想だ。このような分野横断的な作戦は新しい共用陸軍教本ですでに記述があるが、いまだに軍内部では理解しにくいあるいは快く思わない向きが多いままである。
米陸軍を変革する
西太平洋で将来発生する戦役を想定すればすべての軍部隊が変革を迫られる。「中でも最大の変化が米陸軍に必要だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「ちょうど特殊部隊がこの20年で急成長したように、列島防衛作戦で大きく伸びるのは砲兵隊、防空、ミサイル防衛、沿岸防御つまり対艦巡航ミサイル部隊であり、攻撃用のロケット部隊だ」
「特殊部隊と同様に陸軍が従来の地上部隊では重要視されてこなかった部門に優先順位を置くべきだと言っている。歩兵部隊については言及していない、装甲部隊も同様、重砲部隊も同様だ。旅団規模の戦闘部隊に各種装備を組み合わせる」
また陸軍が優先してきた部隊配備方法とも違う構想だ。冷戦終結後、陸軍は西ドイツと韓国に配備した大部隊を「遠征部隊の編成に切り替えてきた」とクレピネヴィッチは指摘する。
だが迅速展開はここでは必要とされない。いったん戦闘が始まれば中国の「接近拒否領域否定」の防衛体制が米国内から部隊が戦闘地域に移動するのを邪魔するはずだ。代わりに「列島防衛体制として第一列島線の最北部にある日本を支援するか、南方のフィリピンなどを守るのか、どちらにせよ陸軍の大部分は戦闘開始の段階で前方配備あるいは前方駐屯しているはずだ」という。
「これは一夜にして実現するものではない」とクレピネヴィッチは強調するが、それでいいのだ。「1949年時点で西ヨーロッパにはわずかな兵員しか配置していなかったが、その後拡張した。同じように西太平洋の安全保障リスクが高まれば、呼応して基礎固めが必要になり、時間をかけて軍の配備場所は前方に移動するはずだ」
そこで最初はゆっくりスタートし次第に加速して最後は一気に実現する方法論が良いとする。共同演習の頻度を増やし、その後定期交代で部隊を配備し、その後恒久的基地に配備する。
「現状では陸軍旅団で定期的に各国軍と演習をしている部隊がありますが、これをもとにストライカー旅団だけではなく防空任務、ミサイル防衛も進めるのです。時間がたてば各要素は通常の実施になります。そうですね数か月あれば十分でしょう」
「次の段階として現地に半年ほど駐留する部隊を指定し、帰国後二か月して別の部隊がまた半年駐留します」 最終的に米陸軍の恒久的プレゼンスを認める同盟国があらわれるだろう。
「このやりかたはゆっくり進めるのが肝要です。時間をかけて進化するもので各国もこのやり方の恩恵がわかるはずです」
Japan Ground Self-Defense Forces soldier.Japan Ground Self-Defense Forces soldier.
アメリカのプレゼンスを期待する域内各国
上院軍事委員会において戦略国際研究所のマイケル・グリーンはアジア太平洋地区は米軍プレゼンスをより多く受け入れる用意があると証言。ただし限界もあるとした。
「米陸軍のパシフィックパスウェイズ事業は域内で好意的に受け止められています」とグリーンは発言。「課題はアジアでストライカー旅団や巨大陸軍の編成を運用できる国は限られることです。(クレピネヴィッチが提唱するのはもっと小規模の部隊で容易に現地で受け入れられそうだ)
「この5年間でアジア10か国のエリート層を対象に調査をしており、ヴェトナム、インド、日本で戦略的に思考できる人たちが米軍増派を望んでいるのは注目に値します」とグリーンはジョン・マケイン上院議員に対して発言。「各国は協力体制の強化を望み、共同演習の回数増を望み、貿易協定の拡大を望んでいます。ただし基地の設置は各国とも歓迎していませんが、新しい取り決めを受け入れる用意はあります」
例としてオーストラリアは米海兵隊の巡回配備をダーウィンで受け入れており、まもなく米戦闘機部隊もオーストラリア空軍基地に配備できるようになるとグリーンは紹介。フィリピン最高裁は新規の「強化した防衛協力取り決め」を合憲とし、米軍部隊の駐留増加を認めている。ただしスービックベイやクラーク基地への恒久的駐留は話が別だ。今やかつての南ベトナムのカムランベイへの米軍寄港さえも可能になったという。
ただし複雑な法的問題により「台湾とは前方配備や前方基地設置の話ができない」とクレピネヴィッチは記者に述べている。「それでもシンガポール、フィリピン、ヴェトナムのような例を見れば5年10年前よりはるかに大きな機会を歓迎する機運がひろがっている」
Army photoUS Army soldiers train their Filipino counterparts.
フィリピンの「ヒズボラ」から巡航ミサイル運用まで
では各国別に何を期待でき、何を米国から期待するのか。以下まとめてみた。
日本は第一級の軍事力を保有しており、見方によっては中国を上回る戦闘能力だ。装備の多くは米軍と親和性があるが、「日本にあって米国にないのは沿岸防御能力だ」とクレピネヴィッチは指摘する。「陸上自衛隊の部隊には対艦巡航ミサイルが配備されれており、列島防衛の任務では大きな役割を果たせると思う」
「また自衛隊は普通師団一個を迅速対応部隊に変換中だ」とし、「さらに一個旅団を揚陸教習部隊に変えて、米海兵隊のような兵力投入強化効果を狙っている」とする。
総じてクレピネヴィッチが接した日本側は第一列島線北部にあたる日本は中国に対して防衛可能だと自信を持っているが、南方に下がると台湾とフィリピンが大きな危険にさらされており、大規模な援助が必要だ。だが両国とも全く無力というわけでもない。
「フィリピン、台湾で共通して必要なのは侵攻部隊に手ごわい抵抗を与える能力の整備です」とクレピネヴィッチは言うが、どうやってこれを実現するのか。「現代に合った形の非正規部隊を創設するのです。ヒズボラ型の部隊です。フィリピンでは米軍が教官や顧問を送ることができます」
ヒズボラはよく「ハイブリッド戦」の実行例とされる。ゲリラ戦術に国家級の戦力を組み合わせている。ロシアが支援する分離派も同様にハイブリッド部隊の例だ。侵攻軍に楽しい思いを許しておく必要はないだろう。
「ヒズボラを見てください。ロケット弾があり、砲兵もあり、迫撃砲やミサイルも使っています。それでも非正規部隊の扱いですよ」とクレピネヴィッチは言う。「台湾やフィリピンでも同様の部隊を組織すれば敵側は簡単に占領できなくなります」
米側は(台湾以外なら)訓練を提供し、高性能でも安価な兵器類として精密誘導迫撃弾を提供するほか、連絡司令部をネットワーク接続し米軍の持てる力すべてとリンクさせる。衛星や無人機で情報収集監視偵察をすれば同盟国側は目くら撃ちしなくていよい、空爆や長距離ミサイルで精密攻撃を加えれば同盟国側が火力で圧倒されることはない。
ただしクレピネヴィッチ構想で最大の難関は基地取り決めではなく国防総省内部の価値観でもなければフィリピン版ヒズボラの創設でもない。それは長距離攻撃用ミサイルだ。多くの専門家が中国本土の目標を攻撃すれば即座に紛争はエスカレートすると恐れている。クレピネヴィッチはこれに対して長距離攻撃の実施が不可能であれば抑止力が弱まり、中国は一層多くの資源を攻撃に回してくると反論している。
「中国国内の重要目標の攻撃で中国にリスクを意識させる能力は米国の指導部に重大な選択肢となる。人民解放軍の側にも問題が生まれる。重要施設が米軍の攻撃対象ではないとなれば、防空体制や施設の強化が必要でなくなる。その分の資金は攻撃手段に回るはずで潜水艦やミサイルが強化されてしまう。もしこちらが相手方にリスクを感じさせれば、中国はPLAの装備強化を防御に回すことが多くなるはずでその分脅威が減る」という。
「中国との対決は1980年代の空陸一体型戦闘でソ連を想定した場合とは異なる。もし中国側が戦力を効果的に使っても周囲国を自分の思い通りにできないと判断すれば、攻撃の実行を思いとどまるのではないか」■


2016年2月5日金曜日

前方配備空母の追加で日本は戦略的な安全保障思考を得ることができるか


二隻目の空母前方配備の話題は以前もお伝えしましたが、このたび別のシンクタンクもその方向性を指摘した報告書を刊行し、米上院において検討されているようです。配備先に日本が最有力ですが、実施となれば国内感情の視点ではなく、インド太平洋の安全保障の観点から支持したいと思います。さらに中国を封じ込めるのではなく、同じ土俵で行動できる国に変えていくというのが米戦略の骨子になるかもしれません。中国がまず抵抗するのは目に見えていますが、長い目でみればこの選択が最大の利益を引き出すことを頭のいい中国人はきづいているのではないでしょうか。

Independent U.S. Rebalance to the Pacific Report Calls for Study of Second Carrier Based in 7th Fleet

By: Sam LaGrone and John Grady
February 3, 2016 7:22 PM • Updated: February 3, 2016 11:29 PM

USS Antietam (CG-54), right, steams alongside USS Ronald Reagan (CVN-76). US Navy Photo
USS Antietam (CG-54), right, steams alongside USS Ronald Reagan (CVN-76). US Navy Photo

WASHINGTON, D.C. – 太平洋への再バランス政策を検討していた独立機関による結論は西太平洋に二隻目の空母を前方配備すべしというものだ。作成者の一人は乗員軍事委員会で2月3日に要旨を発表している。提言したのは戦略国際問題研究所(CSIS)で委員長ジョン・マケイン上院議員の意見と通じるものがあり、昨年に続きこれで第七艦隊に二番目の空母を前方配備うするよう求める意見が出るのは二例目になった。
  1. CSIS報告書は空母配備を明確に提言していないが、さらに検討を続けるとしている。
  2. 「この件について明確な提言を避けたのは作戦上の課題があるため」とCSISのマイケル・グリーンはメイジー・ヒロノ上院議員(民、ハワイ)の質問に答えている。
  3. 二隻目の配備先で最も可能性が高いのはすでに空母用施設が整備されている日本の横須賀だが、航空部隊をどこに収容するかの問題が残る。
  4. 「空母を追加配備すれば航空隊の配置先が必要で、岩国海兵隊航空基地は拡張中だが受入国としての日本政府を助けることになる」
  5. CSIS報告書は先月刊行されたが、西太平洋に二隻目の空母を前方配備する構想は日本報道陣の関心を呼び、「反発はそんなになかったです。日本政府の高官や防衛関係者は大いに関心を示しました。構想を実現した際の意味と戦力の増加が理由でしょう」(グリーン)
  6. 「同盟各国の懸念に対応できます。第七艦隊の空母一隻の持つ意味は大きく、各国は太平洋軍の動向を注視しています。各国とも難易度が増え続ける地域で対応せざるをえませんから」
  7. その難易度を生んでいるのは中国の人民解放軍 (PLA) の戦力増加であり、南シナ海・東シナ海でプレゼンスを強化していることだ。中国政府は軍事リスクを受け入れる覚悟ができているとグリーンは見る。
  8. 「この緊張状態は今後5年から10年続く可能性が大で、理由としてPLAの作戦要領にこの考え方が埋め込まれており、戦力構成や指導原則でも同様です。中国の外務省はじめとする政府機関は軍の動きを止めることはできません」
  9. CSIS報告書では太平洋への再バランスで米政府の目標が一貫していないことも指摘している。ここをしっかりしないと中国や米側同盟各国に明確なメッセージが伝わらない。
  10. 「ネットワークを組んでの協力体制は中国にルールに沿って行動させるきっかけになり、フィリピンや小規模国家の当事者能力を整備すれば地震や津波が発生してもすぐに弱体をさらすことはなく、さらに貿易協定も当然考慮すべき内容です」
  11. 「以上の点を原則とすれば米政権は各国と共同して確固たる戦略方針を持ち、中国を封じ込めるのではなく、ルールに基づいた秩序を模索すること、これが同盟各国やその他国との関係で重要な原則になります」
  12. 退役海兵隊中将トーマス・コナントは太平洋軍副司令官を務め現在は同報告書の監修も行ったが米国には明確かつ簡潔に再バランスのもたらす効果を伝える必要があると発言した。
  13. 中国が主張を強めているのにはいくつか理由があるとグリーンは解説した。ひとつには習近平主席はかつての鄧小平のような中国の役割を世界の中で見る観点がない。またリーマンショックで米国が大打撃を受け、もはや大国の地位を維持できなくなったとの誤った理解をしていることもある。
  14. フィリピンやベトナムは中国の拡張主義を警戒しており、「もっと取られてしまう」と見ているとグリーンは発言。そこで米軍や日本艦船による巡航の定期的実施も有効だと提言している。これはすでにオーストラリアが実施しているのと同様だ。
  15. 「NATOと同様の選択的な安全保障枠組みはどの国にも歓迎されないでしょうし、これでは中国を望ましくない方向においやってしまうでしょう」
  16. 中国経済の成長率がかつての9パーセント台から3ないし4パーセントに減速してもグリーンは逆に中国が米国の力を見誤った8年前と同じ過ちをすべきではないと警句を鳴らす。経済減速の結果は「今よりつつましい中国」あるいは「今より国粋主義で不機嫌な中国」のいずれかがこれから5年以内に出現するとグリーンは見ている。
  17. 中国の軍事装備近代化に経済不振が与える影響についてコナントは海軍力については「減速傾向は全く見られない」と述べた。■