2021年5月9日日曜日

韓国軍が北朝鮮と同じソ連製An-2複葉機を運用する理由-----

 An-2 HL-1088 Cheongju

HYWEL EVANS

 

ここがポイント: 開戦直後に北朝鮮はローテク機材のAn-2で特殊部隊を南朝鮮に送り込むはずだ。でも南朝鮮も同型機を運用しており、同じ戦術を展開する可能性がある。

 

鮮半島で戦闘状態が再発すれば、北朝鮮が旧式An-2コルト複葉機がどう活用されるかこれまで推論されてきた。金正恩が率いる同国空軍でAn-2がよく取り上げられるのは、同機へ期待される役割を裏付けている。だが、休戦ラインの反対側にはさらに極秘の大韓民国空軍(ROKAF)が運用するAn-2部隊がある。

 

An-2は頑丈な多用途機で初めて姿を現した1947年当時でさえ、尾部には一部布地を使う複葉機は時代錯誤の印象を与えた。この構造を選択したオレグ・アントノフ設計局は軽量低速性能に最適な組み合わせとし、事実、同機マニュアルには失速速度に関する言及がない。

 

JERRY GUNNER/WIKIMEDIA COMMONS

ROKAF所属An-2は以前は暗緑色塗装だった。2005年撮影

 

 

同機はソ連の広大な農地への化学薬品散布に完璧な機体となり、同時に休戦ラインを低速低高度で突破するのにも最適となった。朝鮮半島で戦闘が再開すれば、北朝鮮がAn-2多数を南朝鮮領空に侵入させ、特殊部隊を重要施設攻撃に展開する予測がある。強襲作戦以外にもAn-2で爆弾・ロケット弾を投下したり、夜間に奇襲攻撃をかけた事例が朝鮮戦争中に見られた。

 

NORTH KOREA STATE MEDIA

低空飛行中のAn-2複葉機から降下する北朝鮮特殊部隊

 

 

こうした脅威から南朝鮮もAn-2部隊を編成し、アグレッサー部隊として防衛体制の訓練に投入している。ROKAF戦闘機で地上を這うように低速飛行するAn-2の撃破は簡単ではなく、通常から射撃訓練を行うことに意味がある。同様に地上防空部隊や海軍対空砲にも訓練が必要だ。そこで、An-2はROKAFの戦闘機戦術開発の中心地清州Cheongjuからほど近い星武Seongmuに配備されている。

 

現実感を出すためROKAFはAn-2に「レッド部隊」隊員を乗せ、草地や高速道路へ着陸させるほか、パラシュート降下も行う。コルトは落下傘降下に最適で、一部NATO加盟国の空軍も降下訓練に使っている。米空軍も第6特殊作戦飛行隊で敵陣営機材の一部として稼働させており、海外諸国の空軍部隊への指導も行う。米陸軍もAn-2をホワイトサンズミサイル演習場で運用しており、海兵隊も機材を借り戦術訓練に使う。

 

「レッド空軍」の役目をさらに現実に近づけようとROKAFではAn-2を北朝鮮機材の塗装にし、緑褐色のカモフラージュを上部に薄青色を下部に施している。これは北朝鮮機体の塗装パターンの変更に呼応したものだ。

 

他方でROKAFもAn-2を敵と同様に運用する訓練をしているかもしれない。南朝鮮の特殊部隊を展開する同じ戦術のため北領空に侵入する。こうした戦術は第二次大戦を想起させるものがあるが、実際に次回も実行されるシナリオがある。

 

HYWEL EVANS

ROKAFのAn-2

 

 

なかでも最悪のシナリオは南北それぞれの同型機が相手側に同時に侵入し、それぞれ特殊部隊員を展開することだ。

 

ROKAFにAn-2が何機あるかは把握しにくい。軍装備品一覧には同機は記されていない。民間機登録の形で表に出ないようにしており、HL-1082からHL-1091の番号があるので、少なくとも9機があったらしい。うち2機がエンジン故障の原因で2009年5月、2015年6月に喪失している。そのほか2016年2月に河川に不時着した機体もある。

 

2019年4月の衛星画像では星武航空基地の格納庫外に駐機中のAn-2の7機が写っていた。

 

GOOGLE EARTH

衛星写真で星武航空基地にAn-2が7機視認された

 

ROKAFのAn-2はロシアからの入手ではないが、南朝鮮軍にソ連、ロシアの制式装備品がよくみられることに注目すべきだ。

 

ロシアは南朝鮮に巨額の負債を抱え、カモフKa-32ヘリックスヘリコプター、イリューシンIl-103初等練習機を2000年代初頭にROKAFへ委譲した。Ka-32は同軸ローター方式で7機あり、制式名HH-32Aで救難捜索用に夜間飛行装備を付け、二次的に消火任務もこなす。Il-103の23機はT-103として空軍士官学校に配備され、An-2と同じく星武基地にあったが、その後国産KT-100に交代した。ともに北朝鮮が運用していない機材だ。

 

HYWEL EVANS

ROKAFが運用するロシア製HH-32A捜索救難ヘリコプター

 

抜群の耐久性と信頼性を誇る古兵An-2がROKAF運用を終了する気配がない。北朝鮮が同型機を運用している以上、南の空軍も追随すると見てよいだろう。■

 


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Soviet-Designed An-2 Biplanes Are South Korea's Secretive Aggressors

The An-2 may be low tech, but North Korea would send waves of them filled with commandos into South Korea during the opening stages of a war.

BY THOMAS NEWDICK MAY 6, 2021

 


日本が導入開始したばかりのRQ-4グローバルホークを早くも廃止し、新型ステルスISR機材RQ-180運用を開始したい米空軍と、これに反発する米議会の動向に注目だ。

 

An artist's conception of what the so-called RQ-180 stealth drone might look like based on publicly available information.

HANGAR B PRODUCTIONS

 

 

空軍はRQ-4ブロック30全機を今後2年程度以内に処分する案を検討中だ。後継機種として無人機数種類が候補にあり、「敵地侵攻型機」、「第5第6世代性能機」を含むという。RQ-180といわれるステルス新型スパイ機の報道が増える中、実用化が近づくといわれるが、就役済みの可能性もある。

 

これは空軍参謀総長チャールズ・ブラウン大将が2021年5月7日下院歳出委員会で明らかにしたもので、同委員会と上院歳出委員会向けに作成の空軍省文書に追加情報がある。

 

USAF

米空軍の RQ-4 グローバルホーク無人機

 

「既存ISR(情報収集、監視、偵察)機材は競合が激しい空域で残存性がなく、必要な機能を発揮できなくなってきた。こうした従来型機材は第一線から退くべきで、資源は新鋭かつ機能が高いシステムに投じるべきだ。空軍は計算済みリスクを甘受しつつ、これからのより大きなリスクの軽減につとめたい」と文書にある。

 

「例としてRQ-4ブロック30グローバルホークはこれまで及び今日のISRでは不可欠な機材だったが、厳しい環境に対応できない」「空軍はFY21NDAA(国防予算認可法)にあるRQ-4ブロック30の処分をすすめ、かわりに敵地侵攻可能ISR機材の調達をめざす。情報収集では各種システムのファミリーに今後移行し、従来にない形の機材、センサー、民生機材ならびに第5第6世代性能のハイブリッド編成にしていく」

 

2021年度予算で空軍はブロック20、ブロック30のグローバルホーク残存21機全機の廃止を要求していた。ただし、比較的新しいブロック40のRQ-4は保持する。

 

空軍はRQ-4全機退役を以前も試みている。だが議会がこの動きを制してきた。2021年度NDAAでは同型機退役開始について一定条件がそろえば執行猶予が認められており、条件としてISR能力不足が生じないこと、その他正当な理由を議会に説明できることが挙げられている。

 

こうした構想とU-2Sドラゴンレイディ有人スパイ機の関係は不明だ。RQ-4とU-2Sの今後をめぐり二機種が相互に関係している。2021年度NDAAでグローバルホーク処分に猶予が認められればU-2Sも同様の対応となる。

 

USAF

複座TU-2Sドラゴンレイディ練習機が着陸する中で、グローバルホークが地上移動中。カリフォーニア州ビール空軍基地にて

 

ともに全く新しい話ではない。空軍の現有ISR機材各型は大部分がロシアや中国といった今後の厳しい環境に生き残れず、仮にリスク覚悟で進入しても帰還できないことは公然の秘密だ。空軍も「各種システムのシステム」方式で今後のISR要求にこたえていくと数年前から公言している。

 

同時に「侵攻型ISR機能」や「第5第6世代性能」に空軍が触れたのはRQ-180が念頭にあるためだろう。同機の存在は10年前からAviation Weekが明らかにしている。2019年10月に再びAviation Weekが同機が作戦運用に近づいていると報じて、実際にすでに実用化されている可能性もある。2020年11月に同機と思われる機体がモハーベ砂漠上空を飛行する画像がネット上に現れた。(下)

https://aviationweek.com/defense-space/aircraft-propulsion/possible-photo-highly-secret-rq-180-aircraft-surfaces-online

 

RQ-180は米空軍の上空偵察活動で革命を巻き起こす中心といわれ、その機能はISRに限定されない。あらゆる点で同無人機あるいはその派生型は他のステルス機への情報伝達で重要機材となるのは明らかで、空軍が目指す次世代制空機材(NGAD)として開発中なのかもしれない。一方でRQ-170ステルス無人機は戦術用途に特化しておりRQ-180と異なる。

 

RQ-180は空軍だけでなく他部隊のステルス機、非ステルス機含め地上、海上へ中継する機能を有し、共通ミッションコントロールセンター(CMCC)も対象に含むようだ。分散型ネットワーク機能は空軍他各軍で姿を現しつつあり、RQ-180が効果を倍増する役目を果たす存在になる。

 

HANGAR B PRODUCTIONS

RQ-180と言われる機体の想像図。

 

空軍は将来のISR機能として各種機材、性能を組み合わせるとしており、RQ-180のみに依存するわけではない。それでもRQ-4部隊の大部分が来年再来年に姿を消し、新型「侵攻型」機材が登場すると想像するのは困難があり、もう一歩で投入可能な機材がある、あるいは稼働中の機材があるといわなければ、議会も機能不在のリスクが生じないことに納得しないだろう。

 

空軍が目指す高性能ISR機能が今後どのような形で登場するのか、または極秘のうちに稼働しているのかが大いなる関心事だ。議会が空軍案を了承し、ブロック30仕様のグローバルホークが全機退役となるかが見ものだ。■

 


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Global Hawk Drones To Be Retired In Favor Of Secretive Penetrating Spy Aircraft

The Global Hawks cannot survive in highly contested airspace, so the Air Force is doubling down on surveillance assets that can.

BY JOSEPH TREVITHICK MAY 7, 2021

 


2021年5月8日土曜日

P-1は中国への抑止力である。機体にはさらに派生型が生まれる余地があり、今後の日本の安全保障に重要な装備となる。輸出は期待できないが....

 

 

 

 

ここがポイント: 日本は2014年に軍事ハードウェア輸出条件を緩和し、P-1の海外売込み活動を開始した。だが、ポセイドンの牙城は崩せず、ニュージーランド、英国で売り込みに失敗した。川崎重工製同機の単価は140-160百万ドル程度だがポセイドンのフライアウェイ価格は125-150百万ドルになっている。

 

水艦作戦で経済が苦境に陥った国は日本が唯一だ。大西洋ではドイツUボートが両大戦で英国の補給線を狙ったが、Uボートは連合軍の対潜作戦で除去された。これに対し、連合軍は日本の商船隊の55パーセントを第二次大戦中に沈め、日本帝国の細い補給線を遮断した。

 

これが海上自衛隊の記憶に残り、中国PLA海軍潜水艦部隊の急速な整備であらためて自覚されている。PLAN潜水艦部隊は間もなく世界最大規模になる。大部分はディーゼルやAIP推進方式の短距離対応艦といっても日本にとって慰めにならない。なんといっても日本経済は海上交通路の確保が生命線だ。

 

対潜戦(ASW)のカギを握るのは大型対潜哨戒機で、過去半世紀にわたり日本は米国設計のP-3Cオライオンを運用してきた。同ターボプロップ機は長時間哨戒し、艦船を追尾し、潜水艦探知もしてきた。だがオライオンも供用機間の終わりに近づき、日米で別々の後継機種開発が進んだ。

 

米国のP-8ポセイドンは双発のボーイング737-800旅客機を原型に、高高度哨戒飛行に特化した機体だ。これに対し、川崎重工のP-1は2007年初飛行の完全新型機でエンジン4発で、低高度高高度双方の作戦に対応する。P-1はC-2と同時開発され、重量で25パーセントの部品を供用している。

 

P-1の頑丈な主翼で失速速度が低くなり、低空飛行性能はP-8を上回る。全長38メートル、最大離陸重量88トンの同機は2018年ベルリン航空ショーで展示された。

 

エンジンはF7-10ターボファン四基で長時間哨戒飛行で冗長性を確保しており、P-3より10デシベル低い騒音レベルで音響ステルス性能を実現した。P-1は5千マイルの最大飛行距離を有し、時速518マイルで巡航しP-3より30パーセント早く対象海域へ到達できる。(最大速度は621マイル)到着後はエンジン二発で低速飛行し燃料を節約する。

 

パイロット2名、ミッション担当9名が運用する。光ファイバーによるフライバイワイヤ方式を世界初めて搭載した機体となり、信頼性が増し機内センサー装備は電磁干渉を受けない。

 

P-1の各種センサーでは、まず強力なHPS-106アクティブ電子スキャンアレイレーダー4基があり、機体全周を監視する。水上走査で艦船を探知し、潜水艦のシュノーケルやセンサーマストも探知可能だ。同時に航空監視も可能で臨時のAWACS機にもなる。電磁センサーアンテナがコックピット上部にあり、敵のセンサーや通信活動を探知し、HAQ-2赤外線電子光学センサーのタレットが機首下にあり、水上艦船を監視する。さらにHQA-7音響処理ユニットが潜水艦のディーゼル騒音を聞き取り、カナダ製ASQ-508(V)磁力異常探知装置(MAD)が機体後部につき、潜水艦艦体が生じる磁力特性を低空飛行で探知する。

 

ただし、ソナーブイの投下が潜水艦探知手段の中心で、P-1は37基を搭載する。キャビンも使えば70基を追加搭載する。センサー情報各種をHYQ-3戦闘指揮システムで統合し、人工知能を活用し探知した潜水艦の今後の移動を予測する。HYQ-3は海上自衛隊のSH-60Kヘリコプターなどその他対潜装備と情報交換し、海軍装備データベース、衛星偵察データベースとリンクアップし、潜水艦の正体を突き止める。P-1にはLink-16データリンクも搭載し、F-15Jや767AWACSやイージス搭載駆逐艦ともセンサー情報を共有する。

 

敵のミサイル攻撃を受けると、HLQ-9ミサイル警告装置が作動し、電子妨害とともにチャフ・フレアを放出し攻撃をかわす。

 

P-1は20千ポンドの兵装をハードポイント16か所に搭載しており、お返しに機雷、マーク46あるいは日本製軽量対潜魚雷、ハープーンあるいはASM-1C亜音速対艦巡航ミサイル、AGM-65マーヴェリック精密誘導ミサイルをお見舞いするだろう。

 

2018年央時点でP-1は18機が海上自衛隊第三航空隊(厚木基地)とVX-51試験隊に配備されていた。さらに20機が発注済みだった。運用面の詳細情報は少ないが、関係者はP-1が「P-3時代より遠距離地点で潜水艦を中低高度で探知するのが普通になっている」とAviation Weekに述べている。

 

最終的にP-1は60機ないし70機が導入され、P-3Cと交代する。またP-1搭載センサーの性能向上は10年ごとに実施する。自衛隊ではEP-3C通信情報収集機(5機)、OP-3C光学偵察機(4機)、UP-3C・UP-3D試験訓練機(4機)の代替用として改修したP-1の調達にも向かいそうだ。

 

2014年に日本は軍事ハードウェア輸出ルールを改正し、P-1の対外営業活動を開始した。だがポセイドンの牙城は崩せず、ニュージーランド、英国での商談は成約に至らなかった。P-1機体単価は140-160百万ドルだがポセイドンはフライアウェイ価格で125-150百万ドルといわれる。それでもタイ、ヴィエトナム両国が関心を示しており、フランス、ドイツへは老朽機材アトランティーク2哨戒機の後継機種として売り込みを図った。ただし、米国の軍事装備品調達ネットワークの強さ、737部品の入手が容易なことでP-1には不利だ。

 

それでもP-1にはP-8より優位な点が見られる。低空飛行性能、最高速度、ハードポイントの多さ(P-1が16、P-8は11)、四発エンジンによる柔軟運用、MADセンサーの搭載(P-8はインド向けP-8I除きこれを搭載していない)といった点だ。両機のセンサー機能の比較は実務上の知見がないと困難だ。ただしその貴重な機会が2018年6月にあらわれ、マラバール対潜戦演習で日本のP-1が米印両国のP-8と並んで参加した。

 

ここまで高性能な対潜哨戒機が海外販路を開けるかは別として、日本はP-1やそうりゅう級大気非依存型潜水艦に中国の潜水艦部隊整備からの防衛効果を期待している。■

 

 


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Without Firing a Shot, This Japanese Plane May ‘Sink' China’s Submarines

May 7, 2021  Topic: Submarines  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: SubmarinesAnti-Submarine Warfare JapanMilitaryChinaNavy

by Sebastien Roblin

 

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring .

This article first appeared in July 2018.

Image: Wikimedia Commons


2021年5月6日木曜日

航空機搭載レーザー兵器の実用度はここまで進んでいる。F-3の発電容量拡大も指向性エナジー兵器搭載を想定している模様。

Stars and Stripes

 

2017年にThe Driveが入手した米空軍のプレゼン資料では第六世代戦闘機に機体内部搭載あるいは「一体型」のレーザー装備を導入するとある。

 

4月23日、空軍研究本部(AFRL)が光ファイバー方式レーザーをホワイトサンズ試射場(ニューメキシコ)で実験し、「飛翔中のミサイル数発」を撃ち落とした。

防御用高エナジーレーザー実証装置(SHIELD)は大型の地上装備だが、空軍はSHIELDをポッド搭載可能になるまで小型化が可能と楽観視しており、2021年までにF-15で試射するとし、その後F-16やF-35のような単座戦闘機に搭載するとしていた。一部にはC-17やC-130輸送機でテストを開始するとの観測もあった。

 

航空機搭載レーザーが想定通り実用化されれば、航空戦闘の姿が大きく変わる。戦闘機、爆撃機、はては給油機や輸送機で対空ミサイルからの防御能力が画期的に高まる。さらに超高速空対空、空対地攻撃兵器になり、事実上無限の発射が可能となる。

 

まず、航空レーザーの強み、短所、応用範囲を理解しよう。その後、ペンタゴンが進めているレーザー兵器か計画三点をご紹介する。

 

レーザーのドッグファイトは実現するのか

 

レーザーの兵器応用は急速に進んでおり、小火器から、戦車搭載(中国がこれを開発中)さらに地上配備あるいはヘリコプター搭載対無人機装備(米陸軍がテスト中、近接防御装備として米海軍が実用化を狙う装備まで多岐にわたる。レーザーには発射速度(光速)、ステルス、精密度とともに一回の「射撃」コストが極めて低価格になり、事実上無尽蔵の弾倉が実現する。

 

ただし、レーザーには大電力が必要で特に長距離射程でこれがあてはまり、大気状態で効力を減じることがあり、発熱量が大きく冷却装置が必要となり、最近まではかさばる電源が必要だった。

 

SHIELDは敵ミサイルを撃破すべく開発されたアクティブ防御システムの最先端装備だ。ロシアには48N6地対空ミサイルやR-37空対空ミサイルといった長距離装備があり、無防備な早期警戒機や給油機を200マイル先から狙う。第4世代機、第5世代機がレーダー探知されるのはこれよりずっと短い距離で、高機動の短距離ミサイルを回避する可能性は20-30パーセントといわれる。

 

レーザーに運動エナジー効果はないが、比較的小出力でもミサイルの光学誘導装置を妨害あるいは破壊できる。理論上は。より強力なレーザーだとミサイルの飛翔制御用フィンを破壊する、あるいは弾頭を加熱できる。地上発射レーザーで無人機を破壊した事例もある。

 

出力をさらに強力にすると敵機を狙う攻撃兵器となり、水上艦も標的になりうる。レーザーは同時にセンサー機能も発揮するので、極めて迅速な戦闘対応が実現する。

 

レーザーの破壊効果を左右する要素は射程距離や「焦がす」機能が何秒持続できるかだ。さらにレーザーが対応できるのは一回にひとつだけで、かつ敵を直線で狙う必要がある。

 

とはいえ、レーザーで弾薬数の制約がなくなり、資材や車両を相手に非殺傷で付随被害を押さえた攻撃を精密に実施できる。ここに特殊部隊が60キロワット級レーザーをAC-130Jゴーストライダー・ガンシップに搭載を進めている理由がある。

 

ステルス、非ステルスの戦闘機が制空権未確立の空域で行動する際にレーザーがあれば生存性が大幅に高まる。敵は飽和攻撃に近い形でミサイル多数の発射を迫られるだろう。

 

エナジー兵器は敵奥地に侵攻するB-2スピリットや間もなく登場するB-21といったステルス爆撃機に防御手段を実現する。B-2ではステルス性能だけが生存のカギとなっており、ミサイルが視界に入っても防御手段がない。同様に、レーザーが輸送機、給油機等の支援機材に導入されれば、こうした大型かつ脆弱な機体でもミサイル奇襲攻撃を回避する可能性が増える。

 

さらにレーザーが大規模導入されれば、ステルス戦闘機や視界外射程ミサイルの優位性が否定されることになり、敵はミサイルを多数発射して命中を狙うはずだ。過剰交戦が視界内ドッグファイトで実現し、レーザー攻撃も加われば、操縦性の高さで、あるいはおとり装置で生き残ることは困難になる。

 

LANCE とCHELSEA

 

空軍のSHIELDは総額155百万ドルの予算で開発が進み、構成要素は三つある。LANCEレーザーはロッキードが空軍研究本部と共同開発している。つぎがSTRAFE制御システムでノースロップ・グラマンが担当し、最後にレーザーポッド研究開発をボーイングが行っている。

 

初期のレーザーは不安定な化学物質を使ったが、LANCEでは光ファイバーのケーブルで光ビームをひとつにし「数万キロワット」級出力を実現する。モジュラー構造により出力規模を増減させる。エナジー効率が40パーセントと高効率が特徴だ。

 

LANCEでは高高度や高速飛行中に耐える改善がまだ必要だが、ポッド搭載可能なまで小型化できれば作動中に生まれる発熱を防ぐこともできる。F-35のブロック4性能改修ではエンジン改良で発電容量を引き上げることになっており、指向性エナジー装備搭載を念頭に置いているのだろう。

 

2019年1月にAFRLから期間6カ月で高エナジーレーザーサブシステム技術評価(CHELSEA)の公告があり、「2024年までにレーザー小型化を実現する最も有望な技術を特定する」ことを目的としていた。CHELSEAレーザーがゆくゆくSHIELDにとってかわれば、攻撃用途に道が開ける。

 

T2017年にThe Driveが入手した空軍プレゼン資料では空軍はレーザーを第6世代機の機内あるいは「一体型」として搭載するとあり、機体の空力特性を犠牲にしない方法でステルス性能も確保するとある。また、100KW級出力を実現し対空、対艦攻撃に使う展望が示されていた。

 

三番目にステルス無人機へのレーザー兵器搭載があり、敵の弾道ミサイル施設上空に滞空し、発射後の加速中ミサイルを狙う構想だ。

 

2010年初頭に空軍は改装747ジャンボジェットに化学酸素イオンレーザーを搭載し、弾道ミサイル2発を撃破する実験を行ったが、その後同事業は中止となった。理由として非ステルス機では敵空域で生存が望めないためだ。F-35で指向性エナジー兵器を搭載し、弾道ミサイル撃破に使う構想も検討されたが、同機の航続距離が短く滞空時間が限られる点が障害になると判明した。

 

ステルス無人機なら残存性とともに長時間滞空性能が実現する。2018年秋にミサイル防衛庁はロッキード・マーティン、ジェネラル・アトミックス、ボーイングの三社に契約交付し、「低出力レーザー実証機」の作成を求めた。低速飛行の無人機は目標地点まで1,900マイル移動し、高度63千フィートの楕円飛行パスで、36時間滞空後に帰還する。レーザーは140から280キロワットで30分照射可能なバッテリーを搭載する。

 

レーザー装備導入を想定するのは米空軍だけではない。仏独共同開発のFCAS、英国のテンペストの両ステルス戦闘機、ロシアのMiG-41迎撃機では指向性エナジー兵器(DEWs)の搭載を最初から想定している。さらに日本のF-3、タイフーン両機のエンジンはターボ発電機能を採用し、発電容量に余裕を持たせているのはDEWs他搭載の想定のためであろう。■

 

 

2021年5月5日水曜日

風向きが変わってきた。F-35にしびれを切らす民主党議員が生産数削減をちらつかせはじめている。支持派にもさすがにこのままではまずいとの警戒心が生まれている。

  

F-35s in flight

F135の整備遅れ、ソフトウェア問題に議会が忍耐力を試されている。 

Credit: Tech Sgt. Benjamin Mota/U.S. Air Force

 

F-35事業の遅延ぶりに我慢できず、下院有力民主党議員の中に生産数を削減し、ペンタゴンが請求もしていない予算追加を許してきた動きには終止符を打とうという動きが出てきた。

 

ロッキード・マーティンF-35をめぐる問題の山には費用超過、エンジン整備の大量遅延、保守管理システムのあてにならない作動、さらに重要改修の停滞がある。

 

「今後も予測通りの費用削減ができないと、予算は他事業に回し、戦術機材800機の不足発生に対応することになる」とドナルド・ノークロス下院議員(共、ニュージャージー)が下院軍事委員会(HASC)戦術航空地上部隊小委員会委員長としてF-35に関する公聴会で発言している。

 

予算要求規模以上の予算計上を封じる発言を議員が発すること自体が通常ではない。だが、議会は2015年以来F-35調達数を増やし、生産増強を助けてきた。ペンタゴンの2021年度要求は79機だったが、議会が17機追加し、96機になった。議会は2020年度にも20機追加し、計98機にしていた。

 

ジョン・ガラメンディ下院議員(民、カリフォーニア)はHASCの即応体制小委員会委員長として追加調達が整備問題を悪化に導いたと指摘している。

 

「同機事業に予算を回しすぎた。予定通りの性能が実現できていない。ミッション能力が軍基準に達していない。納税者負担で追加予算を投入する選択肢を取ってきた。もう認められない。安易すぎた日々は終わった」

 

ガラメンディ、ノークロス両議員が流れを変えF-35の予算要求拡大の流れにストップをかけねない。ただし、2021年度予算審議でHASCはその他委員会でのF-35追加調達の動きを止めるのに失敗した。

 

同事業に懸念を表明する共和党議員も、公聴会で具体的な対応に言及しなかった。「我が国産業界がF-35維持コストを下げる方策を迅速に実行しないと、反対派が事業に打撃を加えかねない」とHASC即応体制小委員会を率いるダグ・ランボーン議員(共)が述べている。

 

議員も懸念を隠せないのは稼働可能F135エンジンの不足だ。4月8日時点で利用可能エンジンの不足のためF-35の20機が飛行不能だった。「数機は数カ月数か年も飛行できない状態のまま」とF-35統合の責任者デイヴィッド・アバ准将が説明している。「このままだと2025年までに20%の機材がミッション実行不能(NMC)状態になり、2030年に43%に上昇する」

 

F-35事業統括のエリック・フィック中将もアバの見方に同意している。保守監視装備や技術データの納入が遅れており、F135パワーモジュールの修理範囲が拡大していることで、補給処でのエンジン整備が遅れている。

 

米会計検査院(GAO)はペンタゴンがF135パワーモジュールの修理能力拡大を補給処で実現すべく対策を実行中とするものの、当面は稼働可能機体数が焦点になると指摘している。

 

このパワーモジュールの平均修理期間は2020年10月時点で207日と、目標122日を大きく上回っている。そのため2020年末でパワーモジュール65基の修理が終わっておらず、2021年度末からエンジン取り外し件数が増える見込みだ。

 

加えてエンジンコストが増加している。ロット15では3パーセントになる見込みで原因はトルコが共同開発体制からの脱落だ。これはレセプ・タイプ・エルドガン大統領がロシアからS-400対空兵器装備を導入したに端を発する。

 

トルコは高品質部品を低価格で提供してきた。F135メーカーのプラット&ホイットニーはトルコで製造してきた部品188種類を他国に展開する必要に迫られており、米国にも移転される。188種類中の2割を海外で、8割を米国内で調達する。

 

他方でF-35の補給体制に再び急展開が発生している。ペンタゴンはこれまで自動補給情報システム(ALIS)をクラウドベースのネットワークに移転するとし、これを運用データ統合ネットワーク(ODIN)と呼び、2022年までに完了するとしてきた。だが、ペンタゴンはODINへの移行は「戦略的一時停止」とし、2021年度予算が42%削減されたためとした。

 

とはいえF-35共同開発室(JPO)が放置していたわけではない。ロッキード・マーティンはテスト用のODINハードウェアを9月にユマ海兵隊航空基地(アリゾナ)に納入した。ODINベースキットはこれまでのALISより処理速度が速くなり、補給活動での効果増進が期待される。

 

ODINは設置面積や重量がALISハードウェアより小さく、同時にコストは3割低くなる。JPOは今年夏にこれを追加導入する。

 

同時にロッキード・マーティンはALISの性能改修にも取り組んでいる。最新版ではWindows7を10に変更し、サイバーセキュリティも強化した。

 

「ODIN配備が始まるまではALISを使い、フライトラインの整備陣の要望に応える」「JPOとともに四半期ごとにソフトウェア改良を行っており、ユーザーニーズに迅速対応できるようになった」とロッキード・マーティンエアロノーティクス執行副社長グレッグ・アルマーが語っている。

 

遅延を招いているその他要素に技術刷新3(TR-3)とブロック4開発がある。ロッキード・マーティンはTR-3の遅れで60百万ドル分の支払いを受けられなくなった。TR-3では、処理能力の拡張、メモリー、オープンシステムのアーキテクチャアを目指している。同社はサプライヤー側に新型コロナウイルスの影響が出て遅れているという。

 

「主契約企業としてロッキード・マーティンはこの問題に責任を感じており、当社首脳部が直接進展を追っている」(アルマー)

 

ブロック4が遅れているのは年間予算投入に一貫性がないためだ。JPOが重視するのはロット15全機をTR-3仕様で納入し、ロット17ハードウェア仕様を固めることだ「JPOはソフトウェア独立審査チームの提言を受けソフトウェア能力でTR-3とブロック4のサポートを求めている」と同社は解説している。

 

2022年度予算策定では、議会が生産予算削減をちらつかせるのは脅かしに過ぎないとの見方がアナリストにある。その一人Cowen & Coのロマン・シュワイザーは開発段階から低率初期生産に移行した際でも同じような状況があり、研究開発費とともに機体単価の高さが疑惑を呼んだという。

 

「F-35は新たなリスク段階に入った。反対派は文句のつけどころをたくさん手元においている。コスト高や技術面の課題とか。これまで同事業については強気のしせいだったが、これまでより心配の種が増えていることを認めざるを得ない」シュワイザーは投資機関向けニューズレターで書いている。

 

Capital Alpha Partnersのバイロン・キャランによれば立法院議員には故ジョン・マケイン上院議員の精神が伝承されており、公聴会で大規模倉部品事業に厳しい目を向けているのだという。「F-35に対する議会内の環境は変化しており、2023年以降のシナリオでの機体単価、維持コストが焦点になりそうだ」と投資機関向けに書いている。■

 

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US Lawmakers Vow To Limit F-35 Production

 

Lee Hudson April 28, 2021