2021年1月11日月曜日

歴史に残らなかった機体21 なぜこの機体は採用されなかったのか----戦略空軍でつなぎ機材として導入されたFB-111のストレッチ版とB-1の関係

 歴史に残らなかった機体21

FB-111H concept Art

GENERAL DYNAMICS

 

FB-111Aは戦略空軍用のF-111アードヴァークで人気を呼ばない機材だった。戦術用途のF-111は投入当初こそ問題があったが最終的に冷戦時の最優秀機材とまで評価される機体になった。一方でFB-111は戦略空軍で補完的な存在の機体で76機が製造され次世代爆撃機が登場するまでのつなぎだった。

だが当初構想のB-1が1977年に開発中止となると、FB-111にチャンスが急遽開けた。大型で高性能のB-1の後釜として空軍は改良型「スーパーFB-111」の可能性を検討し始め、B-1がレーガン政権で復活する1981年まで構想は残っていた。再開したB-1は今日のB-1Bランサーである。

FB-111Aのメーカー、ジェネラル・ダイナミクスでは1974年から同機の改修を検討しており、航続距離とペイロードの不足分は同機が戦略用途を想定していなかったためで、戦略空軍も意思に反して同機を運用していた。

U.S. AIR FORCE

76 機導入されたFB-111As がフライトラインで点検を受けている。

 

ストレッチ型FB-111AはFB-111Hと呼ばれ、ジェネラル・ダイナミクス社内で秘密のうちに開発構想を固める一方で、空軍はB-1に注力していた。同社は自社資金10百万ドルを投じた研究を開始し、風洞実験は800時間に及び、縮小モデルでレーダー断面積の測定までフォートワース(テキサス州)で行っていた。

ジミー・カーター大統領は1977年6月にB-1開発事業をキャンセルし、「非常に高価な兵器」で「今必要な機材ではない」としたのは「巡航ミサイルの最近の進歩」が理由だとした。敵地侵攻型爆撃機構想では速力を重視しており、スタンドオフ地点からの巡航ミサイル運用は想定していなかった。

空軍はB-1が消えたことで航続距離、搭載量をともに二倍にする大胆な改修案に注目した。

下院歳出委員会も代替策を模索し始めた。リストにはB-1再開、完全新型B-X侵攻型爆撃機、B-52の新型侵攻型案、既存B-52を巡航ミサイル母機にする、民間ワイドボディ機を巡航ミサイル発射機にする案、さらにFB-111H案があった。

下院はB-1を支持していたが、1977年9月に上院軍事委員会は1978年度にFB-111H検討を提言した。同機はB-1とほぼ同じ機能を実現できるが、兵装ペイロードはB-1の半分程度になるとあった。

FB-111H初号機は供用中のFB-111Aを改装すればよいので二年で運用開始できるとあり、試作2号機はその半年後に実現するとあった。

U.S. AIR FORCE

標準型FB-111Aが編隊飛行中。

 

ジェネラル・ダイナミクスは二機のテスト案を作成し、1号機で推進系含む性能と安定性、制御、フラッター、運用荷重等を、2号機は電子関係、地形追尾レーダー、航法爆撃制御をテストする予定だった。

性能で問題なければ、65機をFB-111A仕様から改装し、ジェネラル・ダイナミクスは生産ラインを再開し100機を新規製造する構想だった。

167機合計で総額70億ドルとの試算があり、機体単価は42.1百万ドルとB-1Aの半分未満だった。さらにFB-111Hの追加発注で、戦略空軍で老朽化してきたB-52の後継機種にもする目論見もあった。

 

U.S. AIR FORCE

FB-111H想像図では空気取入口、尾翼の設計変更部分がわかる。 

 

FB-111Aと構造が43パーセント共通でサブシステムの79パーセントも類似性があるH型は基本形アードバークと外観が大きく異なるはずだった。胴体を延長し新型エンジンを格納し、燃料搭載量が増え、兵装庫を拡大したため降着装置を再設計し、空気取り入れ口は別形状になる。F-111/FB-111独特の搭乗員射出モジュールはそのまま採用された。

エンジンはジェネラルエレクトリックF101ターボファン二基で、B-1Aまたその後のB-1Bと同じでアフターバーナーを使い各30千ポンドの推力を生むはずだった。

U.S. AIR FORCE

B-1Bが搭載する F101 ターボファンエンジンを見る見学者

 

F-111の可変翼構造はそのままだが、後退角はFB-111Aの72.5度が60度になった。これは低空での超音速「ダッシュ」飛行が不要となったためで、H型は海面上でマッハ0.95を出せるはずだった。

その他性能ではFB-111Hは高度36千フィートでマッハ1.6が最高速度で巡航速度はマッハ0.75、低空侵入速度は高度200フィートでマッハ0.85の想定だった。後者はFB-111のマッハ2.2より低速だが、かわりに航続距離や兵装搭載量が増えるはずだった。

胴体は104インチ伸び、全長88フィート2.5インチとなり、FB-111Aの73フィート6インチより大きくなる。機体重量も増え、空虚重量は51,832ポンド、最大重量は155千ポンドとなった。FB-111Aはそれぞれ116,115ポンド、122,900ポンドだった。戦略的な意味を与えるため、機体内部燃料搭載量が二倍の64千ポンドに増やす必要があった。

FB-111Hの真価は飛行距離だった。FB-111Aの5,300カイリに対し、FB-111Hは44%増の7,632カイリの予想だった。空中給油が前提で、低空で時速1,200カイリのダッシュ速度を示し、機内に核爆弾二基を搭載する。さらにFB-111HはFB-111Aと同じ飛行距離ならペイロードが三倍になるはずだった。

 

U.S. AIR FORCE

509爆撃航空団のFB-111がKC-135ストラトタンカーから空中給油を受ける。Pease Air Force Base, New Hampshire上空。

 

機内兵装庫は二倍に広がり、核兵器も4ないし5発まで収納可能だった。機外ハードポイントも12点に増え、うち6点は空気取り入れ口の下部、側部になるはずだった。FB-111Aも最大6発の核兵器を搭載可能だったが、H型は15発で、自由落下式爆弾、AGM-69短距離攻撃ミサイルの選択が可能で、後者は冷戦時の制圧兵器だった。

FB-111Hのエイビオニクス、機体防御装置はB-1用に開発された装備を流用し、AN/APQ-144レーダー、AN/APQ-134地形追尾レーダー、AN/APN-200ドップラー速度センサー、AN/AJN-16とSKN-2400の慣性航法装置、CP-2Aコンピューター二基、AN/ALQ-131と AN/ALQ-137電子戦ジャマー、AN/ALQ-153/154後部警戒レーダー、AN/ALR-62レーダー警報受信機、AN/ALE-28チャフ・フレア放出機となるはずだった。

FB-111Hを魅力ある選択肢にする別要因はペイロードだった。FB-111Aは戦略空軍所属だったが戦略機材の区分でなく、FB-111Hが実現していれば同じ扱いになっていただろう。そのため戦略兵器制限交渉(SALT)の対象から外れると見られていた。ソ連がTu-22Mバックファイヤーは非戦略機材と主張していたが、米国もFB-111HはFB-111の派生型と発表していたはずだ。

だが上院委員会がB-1ではなくFB-111H導入を決めると下院歳出委員会は不満を表明した。カーター政権に対し同機では期待される戦力とならず、別の機体で侵攻任務を行わせるべきと告げた。1977年10月末に下院は上院提案のFB-111H研究予算を却下し、B-1復活を提案した。

ただしFB-111Hはこれで息の根を止められたわけでなく、再度予算化されれば復活は可能との合意が議員間に見られた。

当時の国防長官ハロルド・ブラウン博士はFB-111Hについて以下記している。「当方の分析ではB-1に対し費用面の優位性は見つからなかった。このため、不確実性もあり、開発に要する時間も考慮すれば、既存機とほぼ同じ水準の性能を有する機体を今から調達する意義がない。ただし、B-1開発を取り消したことで、今後数年たつとFB-111の派生型を整備する方がB-1より安上がりになる可能性は残っている」

 

U.S. AIR FORCE

B-1A試作機がF-111チェイスプレーンと飛行した。January 1983

 

その後の予算にFB-111Hを求める動きはなかったが、1979年末に空軍はFB-111改良型のFB-111B/C構想に関心を示した。

これもFB-111Aのストレッチ案で燃料、兵装を増やし、エンジン換装をF101にする案だった。FB-111Bの離陸重量は140千ポンドになるとされた。予想兵装料はFB-111H案とほぼ同じだった。いずれも敵領空を高度200フィートでマッハ0.85で突破する構想だった。

再度の提示案ではFB-111Aの66機を新仕様へ改装し、F-111Dも89機改装するとあった。後者は戦術空軍から移籍して同様の改装を施す予定だった。FB-111B/Cは1983年以降に戦力となり、改修作業は1985年に完了するとあった。

FB-111B/C構想では新規製造機体を想定せず、FB-111H事業より予算規模は縮小し、戦略空軍司令リチャード・エリス大将は「侵攻型爆撃機の直近の解決策として最善の策」と評していた。

FB-111B/C構想は1981年でも検討課題に残っていたが、同年10月にロナルド・レーガン大統領がB-1事業復活に踏み出した。低空飛行ミッションに最適化したB-1Bとしてであり、B-2ステルス爆撃機開発にも予算を投入した。

U.S. AIR FORCE

B-1Bの生産機体一号機がロックウェルインターナショナルコーポレーションのパームデイル工場のハンガーから姿を見せた。

 

FB-111の敗北はB-1の勝利であり、今日でもB-1は空軍の働き手として残っているが、これまで数回に渡り廃止案が出ている。FB-111HあるいはFB-111B/Cが採用されていれば、どんな働きを長期的に示したが不明だが、B-1Bが証明した通常型兵装の大量搭載能力は実現できなかっただろう。

FB-111派生型が低コストで多数調達できれば長距離兵力投射任務をこなしていたはずだ。B-1Bが冷戦後は通常兵器を搭載し今日もこれを定期的に果たしている。長距離運用可能な「域内爆撃機」になっていれば冷戦後の世界でも有効活用されただろう。

とはいえ、今から見ればFB-111は冷戦時の爆撃機で空軍の戦略部門での位置は不動のものでなかったことがわかる。

この記事は以下を再構成したものです。

This Stretched Super FB-111 Was A Low-Cost Challenger To The B-1 Bomber

BY THOMAS NEWDICK JANUARY 8, 2021


2021年1月10日日曜日

イスラエルの核兵器保有は公然の秘密。海中抑止力としてのミサイル潜水艦をイスラエルはこうして調達した。

 



スラエルは核兵器保有を公式に一度も認めていない。

 

非公式には同国は世界に核兵器保有国と認知されるのを望み、現実の脅威を前にした場合には核兵器使用もいとわないとする。イスラエルの核兵器保有数では80発から300発との推定がある。後者だと中国を抜く規模だ。

 イスラエル軍は当初は空中投下式核爆弾、ジェリコ弾道ミサイルを供用してきた。エジプト・シリア軍がイスラエルを攻撃した1973年のヨム・キッパー戦争ではイスラエルはF-4ファントム8機に核爆弾を搭載し、出撃体制を維持した。アラブ軍が前線突破すればカイロ、ダマスカスを核攻撃する計画だった。

 

 

 

 中東唯一の核保有国イスラエルはたえず敵の先制攻撃で核ミサイル、攻撃機が地上で撃破され、報復攻撃手段がなくなる事態を恐れてきた。現時点で先制攻撃能力を保有する敵対国はイラン、シリアに限られる。

 そこでイスラエルはイラク、シリア、イランのミサイル・核技術に強硬な対策をとり、空爆、妨害工作、暗殺まで実施してきた。加えて、第二次攻撃能力、つまり残存性の高い兵器体系を開発し、敵一次攻撃が効果を上げても一定の核報復能力を目指してきた。

 核保有国の大半は原子力弾道ミサイル潜水艦を供用し、数ヶ月潜航し、敵中枢を破壊する弾道ミサイルを発射する体制にある。

 だが原子力潜水艦にSLBMをそろえ整備するのはニュージャージー並の人口しかないイスラエルには耐え難い支出となるので、同国は負担可能な代替策を模索した。


 1991年の第一次湾岸戦争でアラブ諸国への弾道ミサイル技術、化学兵器の拡散でドイツ科学陣の関与が判明した。これでサダムフセインはイスラエルにスカッドミサイルで攻撃を加えた。実はイスラエルは1960年代初頭から工作員をドイツへ送り、アラブ陣営の依頼で働く兵器開発技術者の暗殺、拉致、爆殺を展開していた。

 ドイツ首相ヘルムート・コールはイスラエルが被った被害への補償構想を温めながら、冷戦終結で打撃を受けたドイツ造船業の救済策も狙っていた。ドイツの造船業HDWはディーゼル電気推進潜水艦209型の輸出を1970年代から開始し、世界で60隻近くが採用されている。

 コールは209型拡大版二隻の建造費全額を補助する提案をし、ドルフィン級と命名された。また三隻目でも50パーセント補助が1994年に実現した。ドルフィン級の潜航時排水量は1,900トン、全長57メートル、乗員35名で特殊部隊隊員を10名まで収容可能だ。三隻は1999年から2000年にINSドルフィン、レヴァイアサン、テクマ(「復興」)として就役した。


 ドルフィン級の兵装は533㍉DM2A4大型光ファイバー誘導式魚雷の発射管6門、ハーブーン対艦ミサイルに加え、650㍉の発射管があり、他の艦と際立つちがいになっている。これは特殊部隊隊員用で偵察、破壊工作ミッションに使う。

 ただしこの大型発射管に別の機能として潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)発射があり、核弾頭搭載も可能だ。

 米国は1990年代に潜水艦発射式トマホーク巡航ミサイルの供与を拒否しており、ミサイル技術規制枠組みで射程300キロ超の巡航ミサイルの提供ができないのが理由だった。


 そこでイスラエルは国内開発で対応した。2000年に米海軍はイスラエルのSLCM試射が930マイル先のインド洋標的へ到達するをレーダー探知した。このミサイルがポパイ−ターボだといわれ、200キロトン核弾頭を搭載する空中発射式巡航ミサイルを改良したものだ。ドルフィン級は2013年にシリアのラタキア港を通常兵器弾頭の巡航ミサイルで攻撃したとされる。

 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ政権はさらに三隻のドイツ建造潜水艦ドルフィン2級を調達した。2012年にダーシュピーゲル誌がドルフィン追加調達分の任務に核兵器運用があることをドイツ技術陣が承知していたと暴露し、社会は騒然となった。メルケル首相が売却を承認したのはネタニヤフにパレスチナへ宥和的態度を取らせるのと交換条件だった。イスラエルは二隻、ラハヴ(「ネプチューン」)、タニン(「クロコダイル」)をまず取得し、三隻目ダカールが加わる。

 ドルフィン2級は2,400トンの新鋭212型で大気非依存型推進技術を搭載し、速力は25ノットに伸びた。AIPで静粛な潜航が実現し、低速なら数週間の潜航が可能となった。

 これでステルス政海艦が実現しただけでなく、核抑止長期哨戒任務が可能となった。弾道ミサイル搭載AIP推進艦は中国の清級32型潜水艦が他にあるのみだ。


 ただし、TNIでおなじみのロバート・ファーレイはイスラエルの水中配備核抑止力に地形上の制約を指摘している。現時点で想定する標的はイランのみだが、イスラエルから距離が離れている。イスラエル潜水艦が配備されているハイファからテヘランはイスラエル艦の有効射程930マイルぎりぎりで、巡航ミサイルはシリア、イラク上空を1時間飛翔する必要があり、航法と残存性で課題が残るという。

 ペルシア湾からなら近くなるが、スエズ運河(エジプト管理下)を通過する、アフリカを周回航海する(ドルフィン級では実質的不可能)あるいはイスラエル南端でアカバ湾にのぞむエイラート海軍基地に配備する(エジプト、ジョーダン、サウジアラビアに囲まれる)選択肢を迫られる。端的に言えばイスラエル潜水艦をイラン南方に配備するには中東他国の協力、支援が必要で、危機シナリオでは実現がむずかしい。


 イスラエルの核搭載SLCMより他の核兵器運搬手段の実用性が高いというファーレイの指摘は正しいのだろう。現時点でイスラエルは核兵器を保有する敵国に対峙していないが、第二次攻撃能力の点では海中発射式核兵器は純粋な軍事効果よりも政治的な兵器といったほうが正しいのかもしれない。■

 

と、2018年初出のこの記事はまとめていますが、2020年末にイスラエル潜水艦がホルムズ海峡を通過しペルシア湾に初めて進出しています。この際はエジプトが承認しており、状況は今や大きく変わり、イスラエルの抑止力はイランに照準をあわせています。例によってこの記事は以下を再構成したものです。

 

Known Secret: Why Israel Operates Nuclear Submarines

January 9, 2021  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarIsrael

by Sebastien Roblin

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. This first appeared in 2018.

Image: Reuters. 


2021年1月9日土曜日

2021年も台湾への中国機威嚇飛行は続く。台湾だけの問題ではなく、世界各国がますます中国への警戒心を強めるだけ。結局、中国が損するだけなのに...

 2021年も中国は台湾への嫌がらせを続けそうです。台湾問題は尖閣、沖縄先島を抱える日本がもっと敏感になるべきでしょうね。

 

  • 2020年は1月から11月間に中国軍機による台湾防空識別圏侵入は計91日と台湾のシンクタンクが発表。

  • 米国含む世界に対し台湾の軍事力及び国民を疲弊させると伝えることが北京の狙いと専門家は見ている

国が昨年台湾の防空識別圏への侵入回数を記録更新したが、中国の強硬姿勢は台湾への脅威以上に世界へのメッセージと見るべきというのが専門家の見解だ。

 ADIZとは領土周辺上空の空域で、民間機は所属を明らかにし指示に従う必要がある。一方的宣言で設定し国際法の裏付けはないが、軍用機がADIZに侵入すれば侵害行為と解釈される。

 台湾国防部報道官Shih Shun-wenは侵入事件の増加は「台湾及び域内の安全保障上の脅威になっている」と1月5日述べた。PLA機は「台湾軍の反応をテストし、防空体制にプレッシャーをかけ我が方の航空作戦空域を狭めるねらい」があるという。「台湾への威嚇行為はここ20年で最高水準」とした。

 中国空軍機による台湾ADIZ侵入は1月から11月まで延べ380回合計91日に及んだとの報告書を台北に本拠をおく国防安全保障研究院が公表した。報告書は同研究院が毎年刊行し、政治軍事社会各面での中国の台湾への対応をまとめている。

 それによると飛行回数の増加は米台両国の接近とともに米中関係悪化に対応しており、「2020年はPLAの活動がいつになく活発になった」と報告書にある。「米中関係の悪化と反対に台米関係の好転が米中台参加国の関係に影響を与え、PLAの台湾海峡上空の軍事行動が活発になった」と分析している。


FILE PHOTO: A Chinese H-6 bomber flies over East China Sea in this handout picture taken by Japan Air Self-Defence Force and released by the Joint Staff Office of the Defense Ministry of Japan July 23, 2019. Joint Staff Office of the Defense Ministry of Japan/HANDOUT via REUTERS

東シナ海上空を飛ぶ H-6 爆撃機 Reuters


 報告書では2020年の台湾空軍はADIZ監視に延べ2,972回発進し、255億台湾ドル(9.075億ドル)の支出を強いられたとある。

 だが専門家の間には侵入飛行は台湾軍、国民を疲弊させるというより、国防の決意を固める効果を招き、米国他へのメッセージとして受け取るべきとの意見がある。


Taiwan China

中国本土から数マイル先の金門島の揚陸阻止バリケードも老朽化している。April 20, 2018. (Photo by Carl Court/Getty Images)


 2020年に米国は高官を台湾へ派遣し、軍事装備品売却を承認した。中国は台湾関係強化に向かうトランプ政権を後ろ盾に台湾が独立への機運を強めるのを懸念しているというのだ。

 報告書は台湾が外交活動を展開すると直後に侵入回数が増えているのに注目している。

 香港バプティスト大政治学部のジャンーピエール・カベスタン学部長は米国で台湾関係法案数件が成立し、中国は苛立っていると指摘する。そのひとつ2018年台湾旅行法で高官の相互訪問が可能になった。

 カベスタンは不快感を表明する中国の新しく荒っぽい方法がADIZ侵入だとする。「中国は限界を試している」とし、「次期政権にこれ以上の台湾関係改善に進まないよう警告している」

 報告書では2020年の侵犯事件9割近くが台湾ADIZ南西部で発生しており、これまでの西太平洋から移動したのは中国が台湾が実効支配する南シナ海Pratas Islands東沙諸島の防衛体制に「見えないプレッシャー」を与えるためと分析している。


Taiwan air force F-16 fighter jet

緊急発進するF-16Vに向かう台湾空軍地上要員。台湾南部嘉義市での軍事演習にて。January 15, 2020. AP Photo/Chiang Ying-ying


 カベスタンによれば中国は2012年に独自に南シナ海上空にAIDZを設定したものの、実施に苦労している。台湾南西部ADIZに軍用機を送り、「一石二鳥」を狙うというのがカベスタンの説明で、Pratas Islands東沙諸島をねらうメッセージを訓練を一度に行っているという。

 報告書では派遣機材の中心は対潜哨戒機、偵察機だが、戦闘機で同地区の防空体制を評価しているという。

 シンガポール国立大政治学部のChong Ja Ianは侵入事件で台湾に中国への対抗心が一層強固になっているが、中国には「低コストかつ柔軟にして高度に目立つ」方法になっているという。

 航空機の消耗に加え、戦闘機を定期的に発進させ、即応体制を常時維持する台湾空は能力に限界が生じ効果が出ているという。「中国は大国であり、ここは自国の縄張りだと示せる」

 台湾に錯覚を与える狙いもある。「台湾がPLA機が決まった時期に飛来するのを見て、警戒心も備えもゆるくなれば、PLAは行動開始で優位になる」


A Taiwan Air Force F-16 fighter jet lands on a closed section of highway

高速道路から離陸する台湾空軍のF-16 Wally Santana/AP


 報告書では経済政治面で台湾に自国の意向を押し付ける手段が中国にここ数年で減少したと指摘。その原因に中国への台湾並びに世界の見方が厳しくなっていることを上げる。そのため「中国共産党には軍事行動が一番簡単かつ便利な手段」という。

 アナリストには中国の軍事脅威は今年も続くものの、エスカレーションの可能性は極めて低いとの見方が強い。

 シンガポールの南陽大S・ラジャラトナム国際研究大学院の主任研究員リチャード・ビッツィンガーは中国が強硬策をとり開戦となる可能性は低いが、プレッシャーはかけ続けると見ている。

 「中国が台湾へ圧力をかけ続けることは覚悟すべきだ。ただし、軍事行動一歩手前で。中国は侵略的な動きを順調に進めており、台湾が対象リストの最上段にあるのは間違いない」■


この記事は以下を再構成したものです。翻訳は人力で行っています。市販価格より2-3割低い翻訳がご入用の方は当方までご連絡ください。


PLA warplanes made a record 380 incursions into Taiwan's airspace in 2020, report says

William Langley , South China Morning Post



Read the original article on South China Morning Post. Copyright 2021. Follow South China Morning Post on Twitter.


完成近づくB-21レイダーでわかっている(わずかな)事項をまとめてみた。

元記事の内容はこのブログ読者にはわかりきったと思われるかもしれませんが、B-21が秘密開発事業なだけに納税者である国民に基本的な理解を深める一種の情報活動であるとも言えます。



ースロップグラマンB-21レイダーは10年以内に運用開始が期待されている。配備されれば前例のない高性能軍用機となりそうだ。

 米国のステルス機開発と運用はF-117ナイトホークが登場した1981年に遡る。その後、米国のみがステルス機を運用する状況が続いたが、F-117が撃墜されたのを契機に他国も追いついてきた。中国から大型ステルス爆撃機H-20の発表があり、ロシア・中国両国は第5世代戦闘機の実用化に成功している。両国の発表内容には誇張気味の点もあるが、一つ確かなことがある。米国のステルス機独占状況は終わった。

 さらに悪いことに防空体制が急速進歩している。ステルス技術には誤解もあり、レーダーに全く映らないわけではない。最高性能のステルス機といえども実態は各種手段を使い敵領空内で探知を逃れるのが実態だ。ステルスという一個の技術と見がれがちだが実は航空機設計や運用上で各種技術や手段を駆使する。



B-21 Raider

(USAF)


B-21レイダーのなにがすごいのか ノースロップ・グラマンB-21は極秘事業で契約交付の2015年以来その実態はほとんど外部へ出ていない。わかっているのは完全新設計機体はで今後の米重爆撃機兵力の3分の2を構成することだ。現状ではB-52ストラトフォートレス、B-1Bランサー、B-2スピリットが供用され、うちB-1BとB-2は退役予定でB-52が今後数十年にわたり供用を続ける。

 公表された唯一のB-21レイダー想像図にB-2の影響が強く見られるが、B-21はステルス性能が大幅に向上するはずだ。レーダー吸収塗料の改良やF-35と基本的に同じエンジンがその理由だ。ステルス技術の進歩によりB-21はレーダー探知が最も困難な機体になるが、これまでの膨大なステルス技術への投資があってこそだ。


B-21 Raider

空中給油を受けるB-2スピリット(U.S. Air Force)


B-21レイダーは投入される作戦とは 高速B-1BとステルスB-2の後継機としてB-21レイダーはあらゆる標的にあらゆる時間帯であらゆる場所で対応可能な性能が求められる。B-21は亜音速機となるが長大な航続距離と空中給油機能で世界各地を攻撃範囲に収めるはずだ。同様に同機が世界各地に展開すれば米国は防御堅固な対象を数時間内に攻撃できる能力を実現する。


B-21 Raider

B61重力落下式核爆弾  (Greg Goebel on Flickr)


どんな兵装を搭載するのか 先代各機同様にB-21も核兵器運用能力があり、B61可変威力式重力投下爆弾や長距離スタンドオフ (LRSO) 巡航ミサイルを搭載可能だ。だがそれだけではない。B-21では大量の通常兵器も搭載可能となり世界各地の戦闘に対応かのうとなる。B-21のペイロード能力に関する情報は公開されており、これから推察した。

 それでB-21がロッキード・マーティンの長距離対艦ミサイル運用の役目をB-1Bから引き継ぐ意味がわかる。南シナ海の敵水上艦をねらうのにステルス機が最適だ。さらにボーイングのGPS誘導方式共用直接攻撃弾はじめ新型兵器が長距離から敵を狙う使用になっており、B-21は敵の探知できない距離から標的を定めるだろう。


B-1B

379遠征航空機整備隊のデイビッド・ベイカー曹長が機付長としてB-1Bランサーとポーズを取る。カタールのアルウデイド航空基地にて。May 21, 2014. (U.S. Air Force photo by Senior Airman Colin Cates)


新型爆撃機がどうして必要なのか 米国の現行大型爆撃機は157機だが多数は即応体制にない。各機が数十年にわたる供用を受け、各種改修はおこなっているが運航は高経費になり安全確保が大変だ。老朽化が進む機体をB-21に交代させれば空軍は長い目で経費節減が可能となり、旧型機依存を減らしても同じ効果が生まれる。

 だが経費節約だけがB-21取得の理由ではない。性能も大きな理由だ。防空能力が向上する中でロシアのS-400のような装備品が世界各地に拡散しており、米国にはさらに先をゆくステルス爆撃機が必要なのだ。

 B-21は2020年代後半に供用開始となる期待が寄せられ、一号機は2021年末ないし2022年初頭にその姿を表すはずだ。■


この記事は以下を再構成したものです。

The most advanced bomber ever: Here's what we know about the B-21 Raider

Alex Hollings | August 23, 2020

Feature photo by Airman 1st Class Taylor Phifer. U.S. Air Force


 

2021年1月7日木曜日

韓国タンカー拿捕事件で韓国海軍駆逐艦1隻がホルムズ海峡付近に移動完了。事件は外交で解決すると韓国政府は表明するが....

 The South Korean Navy's Chungmugong Yi Sun Sin class destroyer Choi Young.

USN

 

 

ラン革命防衛隊が韓国船籍タンカー、ハンククケミHankuk Chemiを拿捕した翌日に韓国海軍の李舜臣Chungmugong Yi Sun Sin 級駆逐艦1隻がホルムズ海峡付近に到着した。韓国政府は同艦は付近を通行する韓国商船を支援するとし、一方で拿捕事件は外交解決を目指すと表明。

 

韓国国防省は到着したのはチェヨンChoi Youngと認めた。同艦は中東、アフリカの角沖合の海賊対策で派遣中の清海部隊Cheonghae military unitの中核だ。

 

チェヨンは基準排水量4,400トンのKDX II級駆逐艦で供用開始は2003年と新しい。主兵装はMk 41 垂直発射 装備(VLS) 64セルで、米製スタンダードミサイル2ブロックIIIA対空ミサイル、韓国製玄武Hyunmoo-3対地攻撃巡航ミサイル、韓国式対潜ロケット砲(K-ASROC)を搭載する。同級駆逐艦はハープーン対艦ミサイル4発発射装置を二基搭載し、5インチ主砲、RIM-116ローリングエアフレイムミサイル(RAM)発射機、30mmゲートキーパーCIWSも搭載する。リンクス軽ヘリも2機まで運用可能だ。ただし現時点の同艦の兵装は不明だ。

 

チェヨンはイラン側が韓国船籍商船を追加拿捕しないよう抑止力になるはずだ。ホルムズ海峡を通過するタンカーは世界の石油輸出の2割を運搬しており、韓国は石油輸入国トップ10に入る。韓国商船平均6隻毎日同海峡を通過している。

 

チェヨンは単艦行動のため、各地を同時にカバーできず、追加拿捕のリスクが消えたわけではない。韓国は米主導の国際海上警備体制に加わっていないが、積極的に協調しているという。同体制はイランによる攻撃を抑止すべく、民間商船含む海上交通を監視するのが目的で2019年に発足している。

 

なお、韓国は外交チャンネルでハンククケミの解放を目指し、乗員20名は韓国、ミャンマー、インドネシア、ヴィエトナムの混成だという。

 

韓国外相康京和は「在ソウルイラン大使館、在テヘラン韓国大使館を通じ状況把握に努めており、問題解決を模索している」と報道陣に語った。

 

イランは環境取り決め違反でタンカーと乗員を拘束したと説明したが、運行会社タイクン海運はこれを否定している。「言われるような海洋汚染なら、沿岸警備隊が接近してくるはず。実態は武装兵が乗船し船内捜索を乗員に告げてきた」と同社はワシントンポストに伝えている。

 

VIA IRNA

イラン革命防衛隊がハンククケミに近づいている。Jan. 4, 2021.

 

 

イラン当局は拿捕の理由に韓国がイラン資産70億ドル相当を制裁措置の一環として凍結していることだと公然と認めている。韓国はイラン原油の大手輸入国だったが、2020年5月以降は米政府の顔色を見て買付を中止した。

 

ハンククケミ拿捕は人質なのかとの報道陣の問いにイラン政府報道官アリ・ラビエイは「人質をとっているのは韓国政府であり、70億ドルは我が国のものだ」と答えている。

 

今週末に韓国外務副大臣がイランに急遽移動し本件を協議すると韓国政府関係者は明らかにし、これと別に「作業ベレル」の外交団をイランへ派遣するとも述べている。韓国とともに米国もタンカー及び乗員の即時釈放を求めている。

 

イランが民間商船を拿捕するのは今回が初めてではなく、攻撃を加えた事例もある。2019年にイスラム革命防衛隊(IRGC)は英英国官憲がジブラルタルでイランに向け高航行中だったタンカーを差し押さえた事件の報復として国船籍のタンカー、ステナ・インペロを奪取し、リベリア船籍の別の英国商船も短期間ながら拿捕し、環境規則等の遵守状況を見るため臨検したと説明していた。ステナ・インペロは9月に解放されている。

 

オマン湾では2019年6月にイランとつながる勢力が日本船籍のタンカーを襲撃しており、当時は安倍晋三首相がイラン公式訪問中で最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイと会談の予定だった。

 

IRGCがハンククケミ拿捕に走った背景にイランと米国の緊張の高まりがあり、問題は多々あるが、ひとつにイランがウラン濃縮で20パーセント純度を確保し、兵器級の核物質確保に近づいたことがある。その前に核科学者モーセン・ファクリザデの暗殺事件が発生しており、イラン側はイスラエルの犯行と非難していた。

 

IRGC将官カセム・ソレイマニの殺害があった2020年1月3日から一年になり、イラン軍あるいはイランの支援を受けた戦闘集団が中東とくにイラクで攻撃に走るのではとの懸念が根強い。イラン側は報復を誓い、ドナルド・トランプ大統領自身も攻撃の対象だと声を上げていた。

 

このため大統領はスーパー空母USSニミッツの本国帰国を中止させ、中東へ戻るようペンタゴンに命令したと言われる。前後してB-52爆撃機が繰り返し中東で飛行し、オハイオ級誘導ミサイル潜水艦USSジョージアを意図的にホルムズ海峡を異例の浮上通過させペルシア湾に移動させていた。

 

現時点で米国の権益への攻撃の事実は中東地区では発生していないが、ハンククケミをめぐる状況で韓国軍艦がホルムズ海峡付近に姿を表したのは、これまでになく流動的な状況であり、同地区を通過する各国の海運に安全はない。■

 

この記事は以下を再構成したものです。翻訳は人力でお送りしています。