2016年1月23日土曜日

身体能力を大幅に強化した兵士が出現する可能性

前回取り上げた人体強化兵士の話題ですが、次第に内容が判明してきました。正規軍はともかくテロ集団がこの技術を使えばどどんな惨事が発生するか、考えるだに恐ろしいことになります。記事で言うような国際会議で議論したとしても平気で無視する勢力が出るはずですから大変なことになりそうです。

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‘The Terminator Conundrum:’ VCJCS Selva On Thinking Weapons

By Colin Clark on January 21, 2016 at 6:04 PM

Terminator army: Warner Bros.
Terminator army from Terminator 3: Rise of the Machines Credit: Warner Bros.

WASHINGTON: 統合参謀本部副議長がインテリジェント兵器や強化型兵士の使用について国際議論が必要だと主張している。

  1. 「どこで線を引くのか、また誰が先に一線を越えるのか」とポール・セルヴァ大将は発言。マイクロエレクトロニクスの人体埋め込みの可能性をさしている。「人間としてこの一線を越える日がくるのか。そしてその実施にはじめて踏み切るのはだれか。これはきわめて倫理的な疑問だ」
  2. ペンタゴンは強化装甲、人工知能、超小型センサー、インテリジェント装具の開発に懸命であり、記者はセルヴァ大将に米国も同じ方向に進むのかとたずねてみた。実用化すれば兵士の能力は向上し、より早く走り、より高くジャンプし、暗闇でも目視でき、電子情報を収集し、長期間覚醒したままでいられる。これに対しセルヴァはロシアや中国に対抗して技術面で「大胆な変革」が必要としつつ、米軍がこの技術を先に実用化すれば人間性を問う「深刻な結果」を招くと慎重な姿勢だ。
Gen. Paul Selva
Gen. Paul Selva

  1. この技術は倫理人道上のみならず法律上も問題となる。映画ターミネーターのスカイネットを思い起こしてもらいたい。自ら考える兵器が人の命令とは別に勝手に作動したらどうなるか。セルヴァ大将は国際社会でこの問題を議題にすべきで国際法で認められる範囲内で成文化すべきだという。「国内、国際双方で議論が必要だ。敵対勢力がこの技術を実施したらどうなるか」と懸念を表明し、国際社会での検討を提案している。戦争行為を規定するジュネーブ協定のことのように聞こえるが、詳しくは述べていない。
  2. スティーブン・ホーキング、イーロン・マスク他1000名もの科学者、専門家が昨年7月に書簡を出し、人工知能を応用した兵器の禁止を訴えている。
  3. 「もし軍事大国のひとつがAI兵器開発で先行すれば世界中での軍拡になるのは必至で、技術開発の行き着くところは自律兵器がカラシニコフ銃のように普及することになる」
  4. 近い将来に実現する技術により何が可能になるのか。「一番実現の可能性が高いのがマイクロエレクトロニクスや人工知能を通信機能に組み合わせて大脳皮質に埋め込むこと、3Dプリント技術 additive manufacturingだ」とセルヴァは指摘し、脳信号で直接作動できる装具についても話している。「すでに試作品が完成しており、その作動は驚くべきものだ」とブルッキングス研究所で聴衆に紹介している。
  5. セルヴァからはペンタゴンに専用予算があり、第三相殺戦略構想の技術革新に使っていると紹介。ただし予算規模はあきらかにしなかった。
  6. 会場での質問に対してセルヴァは長距離打撃爆撃機に搭載する「各システムを制御するシステム」に触れている。「これまでで最高に複雑な地対空システムに対抗するもの」とし、開発段階でLRSBで「若干の初期不良があった」と述べたが、もちろん詳細には触れていない。■


2016年1月22日金曜日

ロシア空軍がSu-35S追加発注したのはT-50投入がさらに遅れるため


一見どうでもいいニュースに聞こえますが、重要なのはT-50 PAKFAが実戦化するのが2020年代以降にずれこむということで、原油価格低迷もありロシア経済がすでに低迷していると示唆していることです。

Russia Places New Order For 50 Su-35S Fighters

Jan 12, 2016Maxim Pyadushkin | Aerospace Daily & Defense Report

Sukhoi-35S: Aleksander Markin
MOSCOW — ロシア空軍はスホイ-35Sを50機以上、1,000億ルーブル(14億ドル)で発注する。ロシア業界筋関係者が伝えてきた。.
  1. 調達契約は昨年夏に調印済みと、スホイ親会社の合同航空機会社(UAC)の代表がAviation Weekに明かした。別の教会筋が経済日刊紙Vedomosti に発注の最終決定が遅れたのはロシア政府の2016年度予算の道筋がはっきりしなかったためだという。予算は12月中旬にやっとプーチン大統領が署名して発効した。
  2. 合同航空機代表によれば戦闘機は今年から年間10機のペースで引き渡すという。
  3. 単座型Su-35はSu-27フランカーの系列に属する最新型。以前のフランカー各型と比べるとエンジンが強力なNPOサトゥルンAL-41F-1Sに換装され、推力ベクトル制御と完全デジタル装備が特徴で、ティコミノフNIIPイルビス式フェイズドアレイレーダーも搭載される。ハードポイントは12箇所あり合計で8トンまでの兵装を搭載する。
  4. ロシア空軍はまず2009年にSu-35Sを48機発注しており、二年後に初号機が就役し、最終号機が昨年納入されたばかりだ。ロシア国防省の発表ではコモソモルスクオナムールの組立工場からカムチャツカ地方までフェリーフライトを今週実施したという。ロシア極東には拠点基地プリモリエがありそこまで移動した。
  5. Su-35はロシア軍にとって同じスホイのT-50代後世代戦闘機が登場するまでのつなぎの扱いだ。T-50の第一線配備は2020年より先になる模様で、ロシアの経済不振が原因だ。
  6. Su-35運用に加わるのは中国で、長年に渡る交渉の末に24機を20億ドルで調達する契約を昨年調印している。■

2016年1月17日日曜日

★台湾>AV-8ハリヤー取得の可能性

台湾に新政権が誕生し、中国の軍事力に台湾がどのように対抗していくのかが注目されます。まず中古ハリヤーの調達の可能性ですが、台湾は乗り気ではないようですね。どうせ導入するならF-35Bがほしいということですが、実現すれば米海兵隊につづき二番目のユーザーになるのですが、実現の可能性はどうなのでしょう。それにしても北京の圧力は米企業にも相当利いているようです。

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Despite Pressures From China, Taiwan Might Procure Harriers

By Wendell Minnick 5:15 p.m. EST January 16, 2016


TAIPEI — 台湾にAV-8ハリヤー取得の可能性が出てきた。米海兵隊がF-35Bへの機種転換を始めたためで米政府筋が認めた。
  1. ハリヤー各機は国防総省の余剰国攻防装備 Excess Defense Articles (EDA) として国防安全保障協力庁を通じ提供される。
  2. 台湾は垂直短距離離着陸(V/STOL)機を求めており、AV-8はこれに答える選択になる。有事には中国は台湾の各空軍基地を開戦数時間以内に破壊すると見られ、短距離弾道ミサイル1,400発を準備しているとの推定がある。そこでハリヤーのV/STOL能力があれば台湾空軍は内陸から航空作戦を継続できる。
  3. だが台湾空軍はAV-8に前向きではなく、むしろF-35B導入を希望している。
  4. 台湾の国防部報道官は超音速飛行、STOVL能力、ステルス性、見通し線外対応能力を持った機体が必要とし、AV-8も選択肢だが、「機体が老朽化しており、性能は今後の作戦要求に合致しない」と評した。
  5. V/STOL能力除くとハリヤーは亜音速機で、空対空戦能力が欠如していると台湾空軍の将官が述べている。「能力が限られているため台湾は同機を導入しないのではないか。改修コストも高く、支援補給も大変だ」
  6. 台湾在住の国防専門家Erich ShihはAV-8調達は「ばかげている」と見る。「作戦半径が極めて短く、中古機では維持費や部品調達が高くなり、さらにエンジンはとても複雑な構造だ」からだという。台湾国防部筋は米政府がF-16C/D戦闘機の台湾向け販売を拒否していることから高性能のF-35の譲渡は実現困難だと見ている。
  7. それでも台湾空軍はF-35取得をめざしており、米政府が認めない可能性は理解していないとErich Shihは言う。
  8. 台湾がF-35Bに執着している様子は台湾空軍が同機をあしらったパッチをすでに作成していることでもわかる。このパッチは2013年から出回っている。
In 2013, this collectible patch began to appear in

  1. Defense Newsは2002年に台湾がペンタゴンに送った趣意書の写しを入手し、F-35Bの機体価格および導入可能性を当時台湾経済文化部(事実上の在ワシントン大使館)の国防調達部長Wang Chi-linが求めていたことがわかった。台湾が早い段階からF-35BのSTOVL能力に関心を示していたことがわかる。
  2. 「台湾の非先制攻撃方針を逆手に、敵(中国本土)は中華民国空軍の各基地への初回攻撃を最優先事項としているはずで、台湾は侵攻軍の撃退が困難になる。短距離離着陸能力がない機材では空軍力が使えなくなる」
  3. 「敵の初回ミサイル攻撃や特殊部隊攻撃で空軍基地が使用不可能になっても効果的な対応能力を確保しておくことが同機取得の主な理由だ」
  4. 元米空軍関係者によるとペンタゴンは台湾向けにF-35のブリーフィングしており、出席した台湾軍将校はその内容に「感銘」したという。ただし、ブリーフィング以上の要望にはこたえていないという。
  5. 台湾が求めたF-16C/D戦闘機売却を米政府は無視しており、その意図は明白だと米政府関係者は言う。「F-16取得がむりなら、F-35も同様だ」 中国政府はF-16新造機を台湾に販売するのは「最後の一線」だとしていた。
  6. AV-8Bのメーカー、ボーイングにも面倒なことになる。同機の再整備についてコメントを求めたが同社はこれをはねのけた。「ご想像のとおり、台湾向け販売の可能性については何も申し上げることはありません」(ボーイングディフェンスでアジア太平洋地区を担当するケン・モートン)
  7. モートンの発言は驚くに値しない。こ中国政府はボーイングへ台湾向け販売の停止を求めており、同社は台湾事務所を2006年に閉鎖した。ボーイングからはDefense Newsに対して繰り返し同社のAH-64アパッチ攻撃ヘリの台湾向け販売を記事にしないよう求めてきている。ボーイングは中国の民間航空需要に相当の投資と営業実績があり、中国政府はこれを利用してボーイングはじめ米企業へ台湾向け防衛装備の販売をやめるよう働きかけている。■


2016年1月16日土曜日

★★ノースロップ>次世代戦闘機はサイバー回復機能を搭載する




今のところ第六世代戦闘機(この用語が正しいのでしょうか)について中身が一番伝わってくるのがノースロップ・グラマンのようです。生き残りをかけて次期戦闘機事業の獲得を狙っているようです。今回の内容からは同社の目指す方向が見えてきます。

Northrop Lays Out Vision for ‘Cyber Resilient’ Next-Gen Fighter

Lara Seligman 12:51 p.m. EST January 15, 2016
http://www.defensenews.com/story/defense/air-space/strike/2016/01/15/northrop-cyber-resilient-next-gen-fighter/78833308/
635884555563533319-NGAD-2.jpg(Photo: Northrop Grumman)
PALMDALE, Calif — ノースロップ・グラマンはF-35共用打撃戦闘機事業に参画しながら、次世代の機体構想を練っている。
  1. ノースロップで航空宇宙部門を統率するトム・ヴァイス社長は長距離無人戦闘機構想を今週発表して、レーザー兵器と高性能「サイバー回復力」“cyber resiliency” を搭載し、今よりネット化が進む2030年代の脅威対象に対抗する構想だという。
  2. ペンタゴンは第六世代戦闘機の初期構想作成にとりかかっており、空軍F-22と海軍のF/A-18の後継機づくりを2030年代の想定で進める。昨年はじめに空軍は将来の航空優越性確保に必要な技術要素の検討作業を開始している。
  3. 産業界も次の競作の準備を開始した。ロッキード・マーティンは第五世代戦闘機F-35で主契約企業だが、次代の戦闘機構想の作成にとりかかったと伝えられ、ボーイングはこっそりとモックアップ案数例を発表している。
  4. ノースロップはF-35で協力企業であり同時に第六世代戦闘機では主契約企業の地位をめざすとヴァイス社長は報道陣に1月14日話している。同社は次世代戦闘機の性能指標の決定を目指した研究を始めていると同社で技術研究と高度設計事業を担当するクリス・ヘルナンデスが述べている。
  5. ヴァイス社長発言は同社が主催したカリフォーニア州の同社施設査察旅行ででたもの。Defense Newsは旅費、宿泊費を同社から受け取っている。
  6. ペンタゴンがこれから解決すべき問題に機体のデータと通信内容の保全がある。これからはサイバーハッキングがあたりまえになる。サイバー攻撃をすべて回避することは不可能だ。かわりに侵入を探知し、被害の発生を防ぐ、とヴァイスは言う。
  7. 「人体は感染を受けやすいが、皮膚表面で感染をすべて食い止めるのは不可能だ。感染した場合に身体が反応する」とヴァイスは言う。「人体には素晴らしい機能があり白血球がウィルスを攻撃し、制御して身体に害が広がるのを防いでいる。2030年には同様のシステムが実用化しているだろう」 次世代の制空戦闘機にはデジタル版の白血球が搭載され、システムがサイバー感染しても広がるのを防げるとヴァイスは見る。
  8. もう一つ業界が考えているのは速度と航続距離の完璧なバランスだ。速度と飛行特性はこれまで戦闘機で最重要視されてきたが、ヘルナンデスによれば将来の機体では速度を犠牲にしても航続距離を重視するという。飛行距離は利用可能な基地が世界各地で減る中でもっと重要になっていくというのだ。 「飛行距離と速度は直交関係にある。亜音速機は超音速機よりずっと飛行時間が長い。次世代戦闘機でも超音速飛行性能はあるだどうが、現在の戦闘機ほどの速さには及ばないだろう。その分航続距離が重視されるからだ」
Northrop Grumman's rendering of a sixth-generationNorthrop Grumman's rendering of a sixth-generation fighter jet (Photo: Northrop Grumman)
  1. 第六世代機の課題には機体での熱制御もある。超音速飛行、指向性エネルギー兵器が排出する熱の処理だ。ここに高出力レーザー兵器が加わると熱制御はもっとむずかしくなるとヴァイスは指摘する。現在の熱制御のレベルは「不十分」と言う。
  2. 「高出力レーザー兵器システムを超音速機に搭載して発熱が発生しないとは誰も期待できない」とヴァイス社長は述べた。「そのため相当の時間をかけて熱の再利用を図る方法を模索していくことになりそうだ」
  3. ペンタゴンと業界はこれとは別に第六世代戦闘機がそもそも有人機になる必要があるのかで答えを模索することになる。答えはそんなに簡単ではないとヴァイスは言う。多分物理的に機内に乗員が入ることはないだろうが、遠隔操作でミッションをこなすのだろう。「ジェット機に人をこれからも乗せるのか、それとも人をミッションにあてておくのか。本当にコックピットに人が乗り込む必要があるのかで答えはそのうち出そうだ」
  4. 未来の飛行隊は有人機と自動飛行機の組合せで無人機を統率する「ミッション指揮官」が隊を指揮するのではないかとヘルナンデスは言う。
  5. だがロボットは頭脳のかわりにはならず、人間にはソフトウェア改訂がなくても最新の情報に適応できるとヴァイスは指摘する。そこでノースロップが取り組んでいるのは自ら学習して進化できるソフトウェアでリアルタイムで意思決定できる機能だという。
  6. この技術は第六世代機には間に合わないかもしれないが、その後の改修で搭載できるかもしれないとヘルナンデスは言う。
  7. 「生身のパイロットに何か新しいことを教えるときにわざわざ脳を取り替える必要はないでしょう。ならば、学習機能のついた機械もできるのでは。進化できる機械が可能ではないでしょうか」(ヴァイス)■

なるほど、人工知能、マンマシンインターフェース、自律飛行、排熱の再利用技術など新しい次元の課題がそこまできているということですね。ノースロップが費用負担した報道陣向けツアーであることをちゃんと記するのは良いことだと思います。


主張:F-35、LRS-Bにコスト削減圧力を求める、 F-15E後継機としての登用は可能か



Opinion: Keeping F-35, Bomber Contractors’ Feet To The Fire

Jan 8, 2016 Daniel Z. Katz | Aviation Week & Space Technology

F-15E後継機需要をてこにF-35とLRS-B両事業で競争圧力をかけておくことが可能なはずだ。Credit: USAF Airman 1st Class Joshua Kleinholz

経済学では競争があれば最低価格で最高の製品が手に入ると教える。残念ながら軍用機調達の世界ではこれはあてはまらないようだ。米軍最大の調達事業はF-35共用打撃戦闘機(ロッキード・マーティン)と長距離打撃爆撃機(LRS-B)(ノースロップ・グラマン)だが今後20年以上にわたり、競争状態は発生しない見込みだ。

  1. しかし両事業で競争の圧力をかけることは可能。F-15Eストライク・イーグルの後継機問題により、上記大型事業二件でも費用を最小限に抑え、最大の性能を実現させる効果が生まれる。
  2. だがペンタゴンがこれだけの効果を最初から実現できるだろうか。国防総省がまず期待するのは技術開発・生産準備檀家で、単一契約企業体を選定し、提案書通りの技術を実現する段階だ。生産関連契約多数が成立すると別の契約企業が入り込んできて作業進展が遅れるとこけおどしをかける。
  3. 契約の仕組みで知恵を使えば契約企業の実績が悪くても影響を緩和できるはずだ。ただし一定の限度までだが。業界内で競争状態が製造期間中ずっと存在すればその結果で高い製品品質と低価格が実現する前例は僅かだが存在する。米会計検査院はF-16で二番目のエンジン選択肢を準備したことで納税者の負担は2割も減ったと確認している。
  4. 残念ながらF-35、LRS-Bのいずれにも競争状態はないままだ。F-35では日程からの遅れは6年分になっており、機体単価はほぼ5割上昇したが空軍のF-16、海兵隊のAV-8Bそれぞれで他に選択肢はなく、海軍も有人戦闘機でステルス機の選択肢がない。LRS-Bの方ではもう少しまともな成果が出ることを期待するばかりだが、現在出ているボーイングによる不服申請の手続きが終われば、やはり無競争状態になってしまう。競合相手がいればコストを中核的な比較条件にし、空軍内部の迅速戦略整備室が納期と予算の目標に合致した事業展開を進めたはずだ。だが現実にはB-52やB-1の後継機としてはLRS-Bを100機生産する以外にない。
  5. 少しでも競争環境を生む圧力をF-35やLRS-Bで実現できないだろうか。そこでF-15Eの後継機問題が出てくる。米空軍はF-15E217機対象に改修作業中だが、完成すれば2040年頃までは実用に耐える攻撃戦闘機として稼働できる。
  6. さいわいにF-35もLRS-Bもその頃には生産がほぼ最終段階に達しているはずだ。ペイロードや機体コストを考えると両機種とも攻撃機として投入が可能なはずだ。最新資料ではF-35Aの機体調達単価は2037年で83.5百万ドル、また1,763機の平均では103百万ドルになるという。LRS-Bではほとんど資料が公開されていないが、例外的に上限価格帯は判明している。まず100機分の平均調達単価は607百万ドル(ただし2016年度貨幣価値で)である。つまりLRS-Bは単純に言ってF-35Aの六倍高いことになる。ペイロードの比較はもっとむずかしい。LRS-Bの性能諸元が非公開のためだが、LRS-BのウェポンベイでB-1Bが搭載する2,000ポンド爆弾が運用可能であるはずなので、爆弾搭載量でF-35Aの4.8倍だ。
  7. 無論、性能が優先する。LRS-Bが航続距離でF-35Aを大きく引き離し、ステルス性能も高く、より多くを搭載できる。一方で、LRS-Bが空対空ミサイルを搭載する可能性は少ないし、超音速まで一気に加速することもないだろう。そうなるとどちらを取るかは簡単ではないが、いずれか一方、あるいは両機種がF-15Eの任務を引き継ぐことは可能だ。
  8. 効果は大きい。F-35Aを200機追加生産するのか、LRS-Bをあと40機生産すれば200億ドル規模の事業になる。政府にとっての利点はすぐに発生する。ロッキードとノースロップはともに既存事業で遅延や費用超過を発生させればF-15E後継機の受注が遠のくことを理解できるはずだ。
  9. これ以外の機体が登場する可能性として第六世代戦闘機またはステルス無人戦闘航空機がF-15E後継機の候補になるかもしれない。仮に新型機が時宜にかなった形で生産に入れば、選択肢が広がり、競争が活性化される。ペンタゴンはまずF-15E後継機としてF-35とLRS-Bを候補として考えると発表すれば、両機種の事業で競争圧力が生まれることになる。これを実施すれば納税者にも数十億ドルの節減効果が生まれるとともに高性能の機体が手に入る事になるはずだ。■
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ドワイト・Z・カッツはAviation Week Intelligence and Data Servicesで国防アナリスト次席を務めるが、米陸軍で特殊部隊隊員として従軍のあと、国防長官官房で勤務した経験がある。


2016年1月14日木曜日

イランは拿捕した米パトロール艇から秘密装備を入手したのか


これは微妙な問題です。米海軍水兵の解放ばかりが注目されていますが、議員先生がいうような秘密装備がそのままイランの手に入ったのか、それともそもそもそんな装備が搭載されていなかったのか、議論を呼びそうです。

Lawmaker to Pentagon: Did Iran Seizure of US Navy Boat Net Classified Tech?

By Joe Gould and David Larter, Defense News 4:23 p.m. EST January 13, 2016
WASHINGTON — 米下院軍事員会の委員一名がペンタゴンに対し米海軍艦船及び乗員がイランに拿捕された際に艇内の機密装備品をイランが入手したのかを調査報告するよう求めている。
  1. ダンカン・ハンター議員はイラク戦の従軍した元海兵隊員で、「テロリストを支援」するイランは米国にとって脅威対象国だが今回の事件で米国の暗号関連機器、衛星通信機器、センサー、ジャマーにアクセスしていると述べた。米海軍の警備艇2隻にイランは乗り込んできた。
  2. 「イランが手を付けていないと考える向きはないはず」とハンター議員(共、カリフォーニア)は述べた。「乗員が無事解放されたのは嬉しいが、イラン軍が各艇にに何もせずに停泊させていたはずがない。技術をリバース・エンジニアリングされるか、コピーされるのではないか」
  3. 13日午前にイランは米水兵合計10名を解放した。河川用舟艇2隻がイラン海域に入り込み拿捕されて交渉が16時間も続いていた。
  1. 解放はイランと米第五艦隊(在バーレーン)が発表した。乗員はファルシ島を現地時間11:45に河川用強襲艇に分乗し出発し、軍用機が回収したと発表。
  2. イランは2隻がイラン領ファルシ島でイランの活動を「嗅ぎまわっていた」と非難している。同島はイランのエリート準軍事部隊の基地で、10名は同地で一夜を過ごした。
  3. イラン軍は司令艇からGPS装置を押収したとの報道がある。艇は全長49フィートでジェット推進で42ノットで進み、秘密通信装置が指揮命令用に搭載されている。
  4. ある米国防関係者の言では2隻が機微装備を搭載していたか確認できないという。
  5. ハンター議員は今回の事件の詳細は知らないとしながらも、両舟艇はハイテク機器を搭載し、イランが拿捕したのなら当然手を付けているはずと見る。
  6. 「自分だったらそうする。我が国もそうするだろうし、ロシアや中国も同じだ。皆んな同じことをするはずだ。そうではないと考えるのはあまりにも甘い」
  7. 国防総省には議会あるいは議会内関連委員会に対し非公開審議でイランがどの装備を入手したかを伝える義務があり、イランの軍事力にどんな影響がでるのか、米軍将兵の安全を守るために取るべき対策も伝える義務があると同議員は述べた。
  8. 「イランが各舟艇が搭載した装備すべての秘密を知っている環境で作戦を展開することになる。ニュースで見ると小舟艇は相当の装備を搭載しているようだ」
  1. イランにはリバース・エンジニアリングで前例がある。2011年のこと、墜落した米軍のRQ-170を分解し複製を作るとイランが発言している。同機は亜音速偵察用無人機でロッキード・マーティンが製造し、CIAが当時は運用していた。
  2. クリストファー・ハーマーは戦争学研究所の上席海軍問題専門家でパトロール艇2隻が高度な監視偵察装置やハイテク兵器を搭載していた可能性は低いと見る。乗員は標準的な海軍用無線装置を運用していたはずで、拿捕の場合は極秘装置は船外に捨てるのが標準対応で、まず無線装置の極秘ソフトウェアのコードを消去することになっているが、「パトロール艇はスパイ用ではない」と発言。■

2016年1月12日火曜日

ウクライナ電力網を狙ったサイバー攻撃はあらたな戦争の手段の第一陣になった


ロシアはウクライナが憎たらしくてならないのかいろいろニュースが入ってきます。下の写真の応急措置は送電塔破壊で生まれた電力供給ストップへの対応ですが、この報復なのかウクライナ給電網をねらって何者かがサイバー攻撃を実施した模様です。インフラを狙う攻撃とすれば恐ろしいことですね。もはや禁じ手はないということでしょうか。途上国の場合はセキュリテイへの出費を惜しむ傾向がありますので、実施されればお手上げ状態でしょう。では日本はどうなのか。発生すれば「想定外」では済まない事態になります。

Hack of Ukrainian Power Grid Marks ‘New Territory,’ Analyst Says

POSTED BY: BRENDAN MCGARRY JANUARY 5, 2016



A mobile gas turbine power plant works to provide electricity in Stroganovka village outside Simferopol, Crimea, Sunday, Nov. 22, 2015. Russia's Energy Ministry says nearly 2 million people on the Crimean Peninsula are without electricity after two transmission towers in Ukraine were damaged by explosions. (AP Photo/Alexander Polegenko)
移動式ガスタービン発電機が投入され電力をストロガノフカ村(クリミア、シンフェロポル近郊)に供給。2015年11月22日。ロシアエネルギー省によればウクライナ国内で送電塔2基が爆破されたことでクリミア半島で百万人の住民が電気のない生活を強いられているという。. (AP Photo/Alexander Polegenko)

ウクライナの送電網へのサイバー攻撃は電力網を狙った初の攻撃事例となり、「新分野」として今後の軍事攻撃手段としての可能性を示すものと専門家が見ている。

  1. 12月23日にハッキングが発生し、イヴァノ・フランキヴスク地方のほぼ半数、数万世帯が停電したと複数の報道があった。電力は手動で復帰されている。
  2. iSIGHT Partners(本社ヴァージニア州、サイバー脅威専門の情報提供企業)によればマルウェアが域内電力会社少なくとも三社に侵入し、停電につながる「破壊的事象」を生んだと解説する記事がArs Technicaの安全保障担当記者ダン・グッディンDan Goodinにより発表された。
  3. サイバー攻撃はロシア、あるいはロシア系の集団が実行した疑いが濃い。 ロシアのウクライナへの軍事介入がその理由だ。確かに一部の悪質なコンピューターコードはSandworm gang と呼ばれる集団と関連があるようだ。同集団はロシアとつながりがある。だがスティーブン・ワードSteven Ward(iSIGHT Partners主任研究員)によれば実行犯や団体を名指しで指摘するのは時期尚早だという。
  4. 誰が実行したのかとは別に、今回の攻撃は政治、軍事面に大きな影響を生むとワードは指摘する。
  5. 「サイバーで情報収集目的以上の機能が地政学的で対立案件で行われたということに憂慮を感じます」
  6. 「全く新しい領域であり、これまでは踏み切ってはいけないと思われていた線の先に行ってしまいました。この意味は重い。ネットワークに侵入すれば簡単に大混乱を引き起こすことができるのですから」■



イスラム国が独自SAMシステムを開発中か

イスラム国を単なる狂信的な集団と思うとまちがいです。技術専門家も中におり、これまでは道端に即席爆弾を置き、輸送部隊を脅かしてきたのが空に拡大されかねません。今のところはまだ実用にならないようですが、看過できない状態だといってよいでしょう。

「IHS Jane」の画像検索結果The Islamic State's improvised SAM

       
Neil Gibson, London and Jeremy Binnie, London - IHS Jane's Defence Weekly        
       
10 January 2016
       
   
       
               
                                       

イスラム国は米国製シャパラル対空ミサイル車両(サイドワインダーミサイルを搭載)に相当する装備を自主開発しようとしている。            
                                                   
                       

  • イスラム国はR-13空対空ミサイルを地対空ミサイルとして搭載しようとしている。
  • この過激集団が技術上の課題を克服してもそのままでは同装備は有志連合軍の航空機や民間航空機への脅威にはならないだろう


Sky Newsが1月5日にイスラム国が空対空ミサイルを地対空ミサイルに転用しようとしていると報じた。

同報道ではシリア反乱分子から入手したという映像を紹介。イスラム国専門家がシリア国内のアルラッカの「聖戦大学」で「西側で老朽化した多数のミサイルを再利用するため」の作業としてバッテリーを入れ替えている様子を伝えている。

映像ではミサイルの全体像は写っていないが、誘導制御部分はAIM-9サイドワインダーのもののようだ。ただしミサイルの飛行制御部分はR-13(AA-2「アトール」)(ソ連製サイドワインダーのコピー)のようだ。可能性が高いのはシリア空軍基地を占拠した際に持ち出したR-13Mだ。

サイドワインダーのバッテリーに手を入れることはきわめて困難だ。なぜなら目標探知装置と一体化されているためで、R-13でもおそらく同様だろう。

映像ではミサイルの誘導部分が航空機からの発射用ハードポイント調整装置が見える。これはミサイル発射まで電力を供給し圧縮ガスでシーカーを冷却しておくのが役目でパイロットは赤外線シーカーがロックオンすればミサイルを発射できる。■

2016年1月10日日曜日

機密漏洩を防ぐには秘匿扱いの拡大しかないのか

要は中国のハッキングへ効果的な対策がないということでしょう。もともとインターネットは情報の共有を目指しているので、確かに専門家の指摘どおり逆行する効果になるのかもしれませんが、当局としては打てる手がないのでしょうね。

「Defense News」の画像検索結果Fearful of Hacks, Pentagon Considers More Classified Programs

By Aaron Mehta 3:04 p.m. EST January 9, 2016

Frank Kendall
(Photo: JIM WATSON/AFP/Getty Images)

WASHINGTON —.ペンタゴンは昨年10月27日に長距離打撃爆撃機LRS-B事業の契約を交付しているが、機体の詳細性能はおろか主契約企業ノースロップ・グラマンの下請け企業名も非公開だ。空軍調達部門の責任者アーノルド・バンチ中将は詳細を秘匿するのは「情報管理であり保安対策のため」とその時点で発言していた。
  1. 今度は国防総省の調達部門トップ・フランク・ケンドール副長官が今後は秘匿扱いが当たり前になると指摘している。.
  2. ケンドールは「国防総省は関連情報の保護確立を強化する方向に向かう」と発言し、情報公開を制限し、極秘扱いとなる事業が増えるとの見込みを示した。その背景には米国の情報が盗まれると、米国自体がその結果として脅威を受ける恐れがある。
  3. 「敵に多くの情報が流れれば、それだけ攻撃の効果が増強されるのでこちら側の情報はいっそう保護が必要であるだけでなく、わが国が競争に負けないよう対策をすべてとる必要がある」とケンドールは発言している。
  4. 外国による米産業へのハッキング、それによる技術のs盗み取りは例に枚挙なく、なかでも最悪なのが2011年にロッキード・マーティンのデータが盗まれた事件で、中国はF-35のコピーそのもののJF-31を発表している。またく同社の米空軍向け三次元現地展開型長距離レーダー (3DELRR) のコピーも中国から登場している。。
  5. ペンタゴンはすでに保安手続きを産業界各社向けに強化しているが、その実施は迅速とは言いがたく、決定的な効果が生まれるかは不明だ。.
  6. 「効果が出てこないのならもっと厳しい対策で情報を守らないといけない」とケンドールは言う。
  7. その後ケンドールは契約下請け企業の弱点を懸念すると述べている。「最新の設計ツールを各社がリンクし、データベースが生まれるが外部侵入は比較的容易だ」
  8. これに対し専門家三名もペンタゴンの方向性は正しいとしながら、秘匿扱いをさらに増やすことが保安体制の強化になるのか疑問に感じている。
  9. 新しいアメリカの安全保障を考えるセンターのベン・フィッツジェラルドにいわせれば協力企業名や事業の詳細を秘匿扱いすることがハッキングの防止につながるのか疑問だとする。
  10. 「議論が真剣であることには疑う余地がないが、これが21世紀の保安体制として正しいのか。過去は秘密扱いにすればだれにも知られなかったが、現在はうわべを取り繕うだけの効果しかない」
  11. レベッカ・グラントは空軍勤務を経てIRISリサーチを主宰しているが、より多くの事業を秘匿圧かにすることで問題は解決しないとの見方で共通している。さらに財政負担の要素も付け加える。”
  12. 「、過剰に秘密扱いにすれば打ち合わせの実施でさえ困難になる。秘密対象の施設や出費が増えるとコスト上昇の要因になるが各事業はなるべく安上がりにしようとしているのが実態だ」
  13. スティーブン・ブライエンはレーガン政権時代にペンタゴンの技術政策を取りまとめていたが、「これは大問題だ。実施すれば一部の人員しか接することができず、問題になる」という。
  14. 「アクセス許可の発行だけでも時間がかかる。また関係者はアクセス許可を事前に取得する必要があり手続き上は悪夢となる」.
  15. 保安体制の課題としてフィッツジェラルドは関係企業の数が減っているため敵国もねらう対象が限定されていることにつながっていると指摘。
  16. LRS-Bが例となる。ペンタゴンはエンジンメーカー名を保安上の理由から公表していないが、軍用エンジンの在米メーカーは三社しかない。GEエイビエーションロールス=ロイスプラット&ホイットニーだ。
  17. このうちDefense NewsはGEエイビエーションはエンジン製造に当たっていないことを確認済みでロールスはもともと英国企業のため可能性は低い。そうなるとプラットが協力企業である顔脳性が高い。だがメーカーの数が少ないことからハッカーの側は広くネットを監視し、米国内でのエンジン供給体制として三社すべてにあたればよい。
  18. 「これでは保安体制が強化されるとはいいがたく、三社の保安措置を効果的にするためには口を閉ざし、『しゃべるな』というしか方法はない」とグラントは指摘し、問題の深さを言及した。
  19. 「どこからはじめたらよいのか。各企業も防衛部門の仕事をしていると口外できなくなるのか。まったくばかげた話だ」とグラントは述べ、「DoDが協力企業名を公表しないからといって機体設計の秘匿が万全になるわけでもあるまい。いささか見当はずれではないか。また悪い流れを作ることになると思う」■