2016年1月14日木曜日

イランは拿捕した米パトロール艇から秘密装備を入手したのか


これは微妙な問題です。米海軍水兵の解放ばかりが注目されていますが、議員先生がいうような秘密装備がそのままイランの手に入ったのか、それともそもそもそんな装備が搭載されていなかったのか、議論を呼びそうです。

Lawmaker to Pentagon: Did Iran Seizure of US Navy Boat Net Classified Tech?

By Joe Gould and David Larter, Defense News 4:23 p.m. EST January 13, 2016
WASHINGTON — 米下院軍事員会の委員一名がペンタゴンに対し米海軍艦船及び乗員がイランに拿捕された際に艇内の機密装備品をイランが入手したのかを調査報告するよう求めている。
  1. ダンカン・ハンター議員はイラク戦の従軍した元海兵隊員で、「テロリストを支援」するイランは米国にとって脅威対象国だが今回の事件で米国の暗号関連機器、衛星通信機器、センサー、ジャマーにアクセスしていると述べた。米海軍の警備艇2隻にイランは乗り込んできた。
  2. 「イランが手を付けていないと考える向きはないはず」とハンター議員(共、カリフォーニア)は述べた。「乗員が無事解放されたのは嬉しいが、イラン軍が各艇にに何もせずに停泊させていたはずがない。技術をリバース・エンジニアリングされるか、コピーされるのではないか」
  3. 13日午前にイランは米水兵合計10名を解放した。河川用舟艇2隻がイラン海域に入り込み拿捕されて交渉が16時間も続いていた。
  1. 解放はイランと米第五艦隊(在バーレーン)が発表した。乗員はファルシ島を現地時間11:45に河川用強襲艇に分乗し出発し、軍用機が回収したと発表。
  2. イランは2隻がイラン領ファルシ島でイランの活動を「嗅ぎまわっていた」と非難している。同島はイランのエリート準軍事部隊の基地で、10名は同地で一夜を過ごした。
  3. イラン軍は司令艇からGPS装置を押収したとの報道がある。艇は全長49フィートでジェット推進で42ノットで進み、秘密通信装置が指揮命令用に搭載されている。
  4. ある米国防関係者の言では2隻が機微装備を搭載していたか確認できないという。
  5. ハンター議員は今回の事件の詳細は知らないとしながらも、両舟艇はハイテク機器を搭載し、イランが拿捕したのなら当然手を付けているはずと見る。
  6. 「自分だったらそうする。我が国もそうするだろうし、ロシアや中国も同じだ。皆んな同じことをするはずだ。そうではないと考えるのはあまりにも甘い」
  7. 国防総省には議会あるいは議会内関連委員会に対し非公開審議でイランがどの装備を入手したかを伝える義務があり、イランの軍事力にどんな影響がでるのか、米軍将兵の安全を守るために取るべき対策も伝える義務があると同議員は述べた。
  8. 「イランが各舟艇が搭載した装備すべての秘密を知っている環境で作戦を展開することになる。ニュースで見ると小舟艇は相当の装備を搭載しているようだ」
  1. イランにはリバース・エンジニアリングで前例がある。2011年のこと、墜落した米軍のRQ-170を分解し複製を作るとイランが発言している。同機は亜音速偵察用無人機でロッキード・マーティンが製造し、CIAが当時は運用していた。
  2. クリストファー・ハーマーは戦争学研究所の上席海軍問題専門家でパトロール艇2隻が高度な監視偵察装置やハイテク兵器を搭載していた可能性は低いと見る。乗員は標準的な海軍用無線装置を運用していたはずで、拿捕の場合は極秘装置は船外に捨てるのが標準対応で、まず無線装置の極秘ソフトウェアのコードを消去することになっているが、「パトロール艇はスパイ用ではない」と発言。■

2016年1月12日火曜日

ウクライナ電力網を狙ったサイバー攻撃はあらたな戦争の手段の第一陣になった


ロシアはウクライナが憎たらしくてならないのかいろいろニュースが入ってきます。下の写真の応急措置は送電塔破壊で生まれた電力供給ストップへの対応ですが、この報復なのかウクライナ給電網をねらって何者かがサイバー攻撃を実施した模様です。インフラを狙う攻撃とすれば恐ろしいことですね。もはや禁じ手はないということでしょうか。途上国の場合はセキュリテイへの出費を惜しむ傾向がありますので、実施されればお手上げ状態でしょう。では日本はどうなのか。発生すれば「想定外」では済まない事態になります。

Hack of Ukrainian Power Grid Marks ‘New Territory,’ Analyst Says

POSTED BY: BRENDAN MCGARRY JANUARY 5, 2016



A mobile gas turbine power plant works to provide electricity in Stroganovka village outside Simferopol, Crimea, Sunday, Nov. 22, 2015. Russia's Energy Ministry says nearly 2 million people on the Crimean Peninsula are without electricity after two transmission towers in Ukraine were damaged by explosions. (AP Photo/Alexander Polegenko)
移動式ガスタービン発電機が投入され電力をストロガノフカ村(クリミア、シンフェロポル近郊)に供給。2015年11月22日。ロシアエネルギー省によればウクライナ国内で送電塔2基が爆破されたことでクリミア半島で百万人の住民が電気のない生活を強いられているという。. (AP Photo/Alexander Polegenko)

ウクライナの送電網へのサイバー攻撃は電力網を狙った初の攻撃事例となり、「新分野」として今後の軍事攻撃手段としての可能性を示すものと専門家が見ている。

  1. 12月23日にハッキングが発生し、イヴァノ・フランキヴスク地方のほぼ半数、数万世帯が停電したと複数の報道があった。電力は手動で復帰されている。
  2. iSIGHT Partners(本社ヴァージニア州、サイバー脅威専門の情報提供企業)によればマルウェアが域内電力会社少なくとも三社に侵入し、停電につながる「破壊的事象」を生んだと解説する記事がArs Technicaの安全保障担当記者ダン・グッディンDan Goodinにより発表された。
  3. サイバー攻撃はロシア、あるいはロシア系の集団が実行した疑いが濃い。 ロシアのウクライナへの軍事介入がその理由だ。確かに一部の悪質なコンピューターコードはSandworm gang と呼ばれる集団と関連があるようだ。同集団はロシアとつながりがある。だがスティーブン・ワードSteven Ward(iSIGHT Partners主任研究員)によれば実行犯や団体を名指しで指摘するのは時期尚早だという。
  4. 誰が実行したのかとは別に、今回の攻撃は政治、軍事面に大きな影響を生むとワードは指摘する。
  5. 「サイバーで情報収集目的以上の機能が地政学的で対立案件で行われたということに憂慮を感じます」
  6. 「全く新しい領域であり、これまでは踏み切ってはいけないと思われていた線の先に行ってしまいました。この意味は重い。ネットワークに侵入すれば簡単に大混乱を引き起こすことができるのですから」■



イスラム国が独自SAMシステムを開発中か

イスラム国を単なる狂信的な集団と思うとまちがいです。技術専門家も中におり、これまでは道端に即席爆弾を置き、輸送部隊を脅かしてきたのが空に拡大されかねません。今のところはまだ実用にならないようですが、看過できない状態だといってよいでしょう。

「IHS Jane」の画像検索結果The Islamic State's improvised SAM

       
Neil Gibson, London and Jeremy Binnie, London - IHS Jane's Defence Weekly        
       
10 January 2016
       
   
       
               
                                       

イスラム国は米国製シャパラル対空ミサイル車両(サイドワインダーミサイルを搭載)に相当する装備を自主開発しようとしている。            
                                                   
                       

  • イスラム国はR-13空対空ミサイルを地対空ミサイルとして搭載しようとしている。
  • この過激集団が技術上の課題を克服してもそのままでは同装備は有志連合軍の航空機や民間航空機への脅威にはならないだろう


Sky Newsが1月5日にイスラム国が空対空ミサイルを地対空ミサイルに転用しようとしていると報じた。

同報道ではシリア反乱分子から入手したという映像を紹介。イスラム国専門家がシリア国内のアルラッカの「聖戦大学」で「西側で老朽化した多数のミサイルを再利用するため」の作業としてバッテリーを入れ替えている様子を伝えている。

映像ではミサイルの全体像は写っていないが、誘導制御部分はAIM-9サイドワインダーのもののようだ。ただしミサイルの飛行制御部分はR-13(AA-2「アトール」)(ソ連製サイドワインダーのコピー)のようだ。可能性が高いのはシリア空軍基地を占拠した際に持ち出したR-13Mだ。

サイドワインダーのバッテリーに手を入れることはきわめて困難だ。なぜなら目標探知装置と一体化されているためで、R-13でもおそらく同様だろう。

映像ではミサイルの誘導部分が航空機からの発射用ハードポイント調整装置が見える。これはミサイル発射まで電力を供給し圧縮ガスでシーカーを冷却しておくのが役目でパイロットは赤外線シーカーがロックオンすればミサイルを発射できる。■

2016年1月10日日曜日

機密漏洩を防ぐには秘匿扱いの拡大しかないのか

要は中国のハッキングへ効果的な対策がないということでしょう。もともとインターネットは情報の共有を目指しているので、確かに専門家の指摘どおり逆行する効果になるのかもしれませんが、当局としては打てる手がないのでしょうね。

「Defense News」の画像検索結果Fearful of Hacks, Pentagon Considers More Classified Programs

By Aaron Mehta 3:04 p.m. EST January 9, 2016

Frank Kendall
(Photo: JIM WATSON/AFP/Getty Images)

WASHINGTON —.ペンタゴンは昨年10月27日に長距離打撃爆撃機LRS-B事業の契約を交付しているが、機体の詳細性能はおろか主契約企業ノースロップ・グラマンの下請け企業名も非公開だ。空軍調達部門の責任者アーノルド・バンチ中将は詳細を秘匿するのは「情報管理であり保安対策のため」とその時点で発言していた。
  1. 今度は国防総省の調達部門トップ・フランク・ケンドール副長官が今後は秘匿扱いが当たり前になると指摘している。.
  2. ケンドールは「国防総省は関連情報の保護確立を強化する方向に向かう」と発言し、情報公開を制限し、極秘扱いとなる事業が増えるとの見込みを示した。その背景には米国の情報が盗まれると、米国自体がその結果として脅威を受ける恐れがある。
  3. 「敵に多くの情報が流れれば、それだけ攻撃の効果が増強されるのでこちら側の情報はいっそう保護が必要であるだけでなく、わが国が競争に負けないよう対策をすべてとる必要がある」とケンドールは発言している。
  4. 外国による米産業へのハッキング、それによる技術のs盗み取りは例に枚挙なく、なかでも最悪なのが2011年にロッキード・マーティンのデータが盗まれた事件で、中国はF-35のコピーそのもののJF-31を発表している。またく同社の米空軍向け三次元現地展開型長距離レーダー (3DELRR) のコピーも中国から登場している。。
  5. ペンタゴンはすでに保安手続きを産業界各社向けに強化しているが、その実施は迅速とは言いがたく、決定的な効果が生まれるかは不明だ。.
  6. 「効果が出てこないのならもっと厳しい対策で情報を守らないといけない」とケンドールは言う。
  7. その後ケンドールは契約下請け企業の弱点を懸念すると述べている。「最新の設計ツールを各社がリンクし、データベースが生まれるが外部侵入は比較的容易だ」
  8. これに対し専門家三名もペンタゴンの方向性は正しいとしながら、秘匿扱いをさらに増やすことが保安体制の強化になるのか疑問に感じている。
  9. 新しいアメリカの安全保障を考えるセンターのベン・フィッツジェラルドにいわせれば協力企業名や事業の詳細を秘匿扱いすることがハッキングの防止につながるのか疑問だとする。
  10. 「議論が真剣であることには疑う余地がないが、これが21世紀の保安体制として正しいのか。過去は秘密扱いにすればだれにも知られなかったが、現在はうわべを取り繕うだけの効果しかない」
  11. レベッカ・グラントは空軍勤務を経てIRISリサーチを主宰しているが、より多くの事業を秘匿圧かにすることで問題は解決しないとの見方で共通している。さらに財政負担の要素も付け加える。”
  12. 「、過剰に秘密扱いにすれば打ち合わせの実施でさえ困難になる。秘密対象の施設や出費が増えるとコスト上昇の要因になるが各事業はなるべく安上がりにしようとしているのが実態だ」
  13. スティーブン・ブライエンはレーガン政権時代にペンタゴンの技術政策を取りまとめていたが、「これは大問題だ。実施すれば一部の人員しか接することができず、問題になる」という。
  14. 「アクセス許可の発行だけでも時間がかかる。また関係者はアクセス許可を事前に取得する必要があり手続き上は悪夢となる」.
  15. 保安体制の課題としてフィッツジェラルドは関係企業の数が減っているため敵国もねらう対象が限定されていることにつながっていると指摘。
  16. LRS-Bが例となる。ペンタゴンはエンジンメーカー名を保安上の理由から公表していないが、軍用エンジンの在米メーカーは三社しかない。GEエイビエーションロールス=ロイスプラット&ホイットニーだ。
  17. このうちDefense NewsはGEエイビエーションはエンジン製造に当たっていないことを確認済みでロールスはもともと英国企業のため可能性は低い。そうなるとプラットが協力企業である顔脳性が高い。だがメーカーの数が少ないことからハッカーの側は広くネットを監視し、米国内でのエンジン供給体制として三社すべてにあたればよい。
  18. 「これでは保安体制が強化されるとはいいがたく、三社の保安措置を効果的にするためには口を閉ざし、『しゃべるな』というしか方法はない」とグラントは指摘し、問題の深さを言及した。
  19. 「どこからはじめたらよいのか。各企業も防衛部門の仕事をしていると口外できなくなるのか。まったくばかげた話だ」とグラントは述べ、「DoDが協力企業名を公表しないからといって機体設計の秘匿が万全になるわけでもあるまい。いささか見当はずれではないか。また悪い流れを作ることになると思う」■

2016年1月8日金曜日

★米空軍>WC-135で北朝鮮核爆発の正体を突き止める



U.S. WC-135 aircraft will sniff for radiation near North Korea to determine what today’s explosion was

Jan 07 2016 -
Image credit: U.S. Air Force

米空軍所属WC-135はまもなく朝鮮半島付近で活動を開始し、北朝鮮が実施したと主張する核実験の放射性物質を検知する。

  1. ワシントン・ポスト紙は米国防関係者がWC-135コンスタント・フェニックス大気収集機を投入し今回の核爆発が本当に北朝鮮の言うとおり水爆なのか検証すると確認した。
  2. WC-135はボーイングC-135輸送支援機の派生型で、稼働可能な同型機は2機あり、第45偵察飛行隊(オファット空軍基地)が運用し、機内には空軍技術応用センターの第一分遣隊が搭乗する。
  3. WC-135は「探知犬」あるいは「お天気鳥」の名称がついており、最大33名が搭乗できる。ただし放射線被曝の危険を考慮して実際の飛行クルーは最低限にするのが普通だ。
  4. 大気は機体左右の取り入れ口で採取し、放射性降下物を閉じ込める。ミッションクルーは採取物をその場で分析でき、弾頭の特徴を把握することが可能だろう。このため同機の投入は爆発の正確な分類上極めて重要だ。
  5. ダリン・R・ファフはWC-135の乗員を務めた経験があり、同機について「機内には大型補助木炭フィルターがふたつあり、室内にはHEPA/ULPAフィルターもあり加圧状態をたもし、搭乗員は全員マスクから100%純粋酸素を吸う。この純粋酸素供給は計測器が安全水準に戻るまで維持する。また全員が線量計を身につけ危険な被爆を避ける」と述べている。
  6. 核実験監視とは別にWC-135はチェルノブイリと福島での核事故後の放射能レベルの計測にも投入されている。
  7. 北朝鮮がロケットを発射するとの予測から北朝鮮付近に配備されてきたWC-135が2013年8月には英国で目撃され憶測を呼んだが、シリア国内での化学物質飛散状況の監視に使われていたのだった。■


米海軍>新CNOの戦略方針案は戦闘能力重視を前面に掲げる


中国やロシアが好き放題に振る舞いつつあるのは米国の力を低評価しているためであり、もはや甘受できる段階ではないと米国防関係者が舵の方向を切り替え始めています。とくにオバマ政権が残り一年を切り、指導力がどうしても低下するこの時期だけに今回の新CNOは頼もしい発言をしています。問題はこのビジョンをどう実施に移していくかでしょうね。日本も当然無関心ではいられないでしょう。

CNO: Warfighting Trumps Presence; ORP, EW Win; LCS Likely Loser

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on January 05, 2016 at 1:27 PM

Navy photoジョン・リチャードソン大将
WASHINGTON: プレセンスという用語はこれまでたびたび海軍力や海軍艦艇整備の文脈で使われてきたが、新任の海軍作戦部長(CNO)による新しい戦略展望では一回も使われていない。かわりにジョン・リチャードソン大将の8ページにのぼる「海洋優位性確保の設計構想」“Design for Maintaining Maritime Superiority” では「戦争」「戦役」「戦闘」の語句が8回も現れている。
  1. 要は戦闘行為及び抑止力は平時のプレゼンスに勝り、性能が能力をしのぎ、質が数より優先するということだ。これは単なる用語の変更ではない。目指すべき方向の変更であり、戦略方針や予算状況の先が見えない中での変更だ。
Adm. Jonathan Greenertジョナサン・グリナート大将
  1. 確かにリチャードソンの前任ジョナサン・グリナート大将も「戦闘が第一」と戦略方針の最上位に掲げていた。だがグリナートは同時に海軍の平時プレゼンスを日常的に世界各地に展開することにも同じ比重を於いていたのであり、国力の誇示、海賊対策、友好国との演習を通じてこれを実現しようとした。またブリーフィングではまずスライドでその時点で艦艇何隻が世界のどこに展開中かを示すのが常であった。グリナートには艦艇隻数がすべてであり、小型かつ低価格艦として沿海戦闘艦を高く評価していた。だが単価5億万ドルのLCSより20億ドルの駆逐艦の戦闘能力が遥かに高いことがわかっていても両方を同時に調達するのは無理だった。
  2. これに対しリチャードソンの戦略構想では「プレゼンス」という用語が出ないだけでなく、艦隊の規模でも言及がない。隻数を確保して世界各地での平時ミッションをこなすこと(軍事用語ではこれは「能力」)は重要ではないとする。大事なのは各艦の性能でロシアや中国を(可能なら)抑止し、(必要なら)撃退することだとする。両国が「ハイエンド戦闘能力を整備している」との認識からだ。
  3. 「この25年間で始めて米国は大国間の競争に復帰しようとしている」というのがリチャードソンの認識でアシュトン・カーター国防長官およびロバート・ワーク国防副長官と共通する。
  4. リチャードソンが中国及びロシアを脅威と明確に発言したが、同時にイラン、北朝鮮、イスラム国も含めており、グリナート提督の発言とは鮮明なちがいが目立つ。「(中国との戦争について)もっとオープンに話すべきだという向きがある」とグリナートは2014年に海軍大学校で講演している。「これはできない。不必要な泥沼に入り込んでしまう」との発言を受けて下院シーパワー小委員会を率いるタカ派のランディ・フォーブス議員がグリナートを強く非難した。
Rep. Randy Forbesランディ・フォーブス下院議員
  1. だが時代背景、基調、CNOは変わった。リチャードソンが「ロシア及び中国が安定を損なうような行動をとっていることを課題として明確に認識するのはいいことだ。図上演習や艦隊演習から新構想が生まれて両国の勝手な主張に対抗できることになるから」とフォーブス議員はBreaking Defense へ文書で伝えてきた。「各国との関係を競争と率直にとらえているリチャードソン提督はアジア太平洋で米国のめざすものをもっと明確に示してくれる」
  2. そこで「海洋優越性確保の構想」では戦闘力の重要性を力説している。しかも文頭から「米海軍は海洋作戦を迅速かつ持続的に実施する準備体制を整える」としている。19世紀の海軍理論家アルフレッド・セイヤ・マハン(艦隊主義者)のパラグラフもあるが、同時期の英国人ジュリアン・コーベットについては僅かに言及するだけだ。コーベットは日常の戦闘を重要視していた。もしCNOがこの主張を実施に移したら、大きく異る結果が生まれる。海軍に沿海戦闘艦の建造を取りやめて浮いた予算を高性能ミサイル等に使えとの指示がカーター長官から出ている。これではLCSには将来がないがリチャードソンがLCS擁護に走るとは思えない。
  3. その他にもリチャードソンはグリナート時代からの重点項目を強調している。オハイオ級原子力ミサイル潜水艦の老朽化に対応した後継艦建造は海軍で最優先事業だがリチャードソンの戦略構想では「国家としての存続の根幹」だとしている。敵意を持ち核兵器で武装したロシアの抑止を念頭に置かないとこの言い方は大げさに聞こえる。
  4. 同様にグリナートはこれまで海軍が軽視してきた分野としてジャミング、なりすまし、電子信号排出管理の再整備に尽力し、各分野をサイバー空間に統合し、海軍用語で「電磁層作戦」“electromagnetic maneuver warfare”と呼ぶ概念を作り上げた。リチャードソンは「電磁操作作戦構想をさらに拡大」したい意向で繰り返し電子戦は将来の「情報化」“informationalized”戦場では当たり前になると主張。(「情報化」という語句は中国の文献からの引用であるようだ)
  5. わずか8ページの文書のため詳細部分はまだ決まっていない。「驚かされたのは海上ならびに沿海部へ向けての海軍力強化をうたった部分だ」と評するのはロバート・マーティネイジ前海軍次官だ。「ORP(オハイオ級ミサイル原潜後継艦建造)を特記しているほか、電子戦も重要視しているが『沿海部よりはるか先から兵力投射し極度に情報化され防衛体制が整備された環境で実行するシナリオ』で必要な能力は言及されていない」
  6. 「艦隊編成を実際にその方向で再構築することの意味は大きい」とマーティネイジは語った。「水上艦隊の構成で重要になるのではないか(例 ミサイル防衛重視に対して攻撃力の重視) 水上艦隊と潜水艦部隊のバランスと将来の空母航空隊の構成(強力な防衛体制地帯への長距離からの攻撃能力)に重要な影響をあたえるのではないか」
  7. リチャードソンがハイエンド脅威対象に重点を置くのはペンタゴンのトレンドと軌を一にしている。カーターとワークの相殺戦略とも通じるものがあり、ロシア、中国への警戒が高まる中、危険な技術が世界に拡散していることでも懸念が増大している。リチャードソンが海軍に提起しているのは切迫感a sense of urgency であり、これはこの15年間通じ対テロ陸上戦の支援に専念していた間に希薄になっているものだ。
  8. リチャードソンは文末でこう記している。「世界最高の海軍部隊であり続けるためには常時戦闘可能な状態である必要がある。対抗諸国も優位性を確保に注力しており、当方も速度を高め、打ち勝つ必要がある。勝利を確保する余地は極めて薄いとはいえ、差は決定的になる」■

2016年1月7日木曜日

中国がスプラトリー諸島で離着陸テストを再度実施(1月6日)


スプラトリー諸島の新設航空施設に民間機が初着陸したとの報道はすでにご存知と思いますが、ではどんな民間機だったのかちっともその後のフォローアップがなく不満に思っていました。今回人民解放軍の広報ブログChina Military Onlineで記事が見つかりましたので、ご紹介します。中国発の記事はこれが初めてですかね。1月2日にやはり民間機で着陸に成功したと報道があったので今回はそのフォローアップなのでしょうかね。それにしても中国も英語で各国向けにちゃんとしたメッセージを送っています。

China conducts successful test flights at newly-built airfield in South China Sea

Source: Xinhua Editor: Dong Zhaohui
2016-01-07 00:220

1月6日、永暑礁飛行場を離陸する民間機。同日に民間機2機を使っての運用テストが新設の飛行場施設で行われ成功裏に終わった。永暑礁は南シナ海南沙諸島にある。 (Xinhua/Jin Liwang)
HAIKOU, Jan. 6 (Xinhua) -- 中国は南シナ海で新設の空港施設においてテスト飛行に1月6日に成功した。

民間機2機は海南省省都の海口Haikou,の美蘭空港 Meilan Airport を離陸し、南沙諸島の永暑礁 Yongshu Jiao に10:21 a.m. 10:46 a.m. それぞれ着陸した。2機は同日午后に海口に戻った。
永暑礁飛行場に着陸する民間機。1月6日。 (Xinhua/Cha Chunming)
永暑礁に新設した飛行施設に無事着陸したあと記念写真を取る関係者。1月6日撮影。テストには民間機が2機投入された。 (Xinhua/Xing Guangli)

フライトテストに使用したのは海南航空と中国南方航空の機体ですね。今のところは民間機ですがいつ軍用機が離着陸を開始するかが関心の的ですね。さすがに島とは呼べず原文でもYongshu Jiao 常暑環礁 と呼んでいますね。


フリゲート艦改造巡視船、房総沖に情報収集艦、人工島滑走路にテスト飛行...懸念広がる中国の海洋活動



Chinese operations prompt protests from Japan and Vietnam

Andrew Tate, London - IHS Jane's Defence Weekly
05 January 2016

12月末に尖閣諸島に接近した中国沿岸警備隊所属の巡視船は元PLAN所属タイプ053H2G江滬1級フリゲートを改装したもの。海上保安庁撮影
昨年12月末、中国沿岸警備隊所属の艦船3隻をめぐり日本が懸念する事態が発生した。3隻は尖閣諸島の12カイリ以内海域に侵入した
うち1隻は改造したタイプ053HG江滬1型フリゲート艦で人民解放軍海軍(PLAN)が譲渡したものだった。中国沿岸警備隊で初の武装艦が問題地帯で航行したと日本では報道された。実際は一時間ほど該当海域を航行していた。沿岸警備隊所属となり31239の艦番号をつけた同艦は2015年7月に改装工事を終え、ミサイルと100mm砲塔は除去したが37mm機関砲二門を四カ所に残したままだ。
インターネットの PLA Daily サイトは日本側の懸念を一蹴し逆に日本の海上保安庁艦艇はすべて武装しており、中国が同様の装備を有することに何ら問題はないとする。
また12月末にはPLANのタイプ815東調級情報収集艦(艦番号851)が房総半島沖を航行しているのが発見された。国際海域であるが、日本の海岸線からは比較的近い地点で数回折り返し航行し、三日間に渡り同じ海域にとどまっている。
一方、南シナ海の領有問題を巡り、ベトナム政府は1月2日に中国がスプラトリー諸島(中国名永暑)で埋め立てた人工島上の滑走路に民間機が初めて着陸したことに抗議した。■

確かに海上保安庁の各艦船は軽微な武装をしていますが、フリゲート艦を改造して巡視船だと主張するのはいかにも中国流ですし、首都圏に近い海域で情報収集活動を展開していることも気になりますね。
sin

北朝鮮の水爆実験は本当なのか。それより中国の対応が注目だ。さらに核抑止力整備に弾みがつきそう


韓国には北朝鮮を軍事脅威と見ない向きが多いと聞きますが、あらためて今回の事件できびしい情勢への認識が高まったのではないでしょうか。また中国とのからみでTHAADの持ち込みを拒否してきたソウルがこれからどう対応していくのかも注目されます。前回の実験でも規模があまりにも小さいためいろいろ言われてきましたが、北朝鮮のねらいはブラフだけでなくEPM攻撃も視野に入れているかもしれず引き続き警戒が必要なのは言うまでもありません。

 North Korean H-Bomb? Unlikely. What Will China Do?

By COLIN CLARK on January 06, 2016 at 5:54 PM
WASHINGTON:---北朝鮮国営メデイアが水爆実験成功を金切り声で伝えたが実験は成功したとはいえない。
  1. ホワイトハウス報道官ジョシュ・アーネストは「初期分析結果は北朝鮮発表と一致しない」と述べ、北朝鮮の最重要国たる中国が決断を迫られるだろう。国連安全保障理事会に本件が提示されるとどうなるか。習近平は金正恩に何を伝えるのか。
  2. 「中国外務省は今回の実験は事前に通知を受けていないと声明で発表した。中国が実験に対応し経済制裁を実施すれば望ましい展開になる。また一時的に北朝鮮空路を閉鎖するのも効果的だ」と北朝鮮に詳しいヴィクター・チャ(戦略国際問題研究所)が述べている。
  3. ペンタゴンの声明文は予想通りで今回の核実験を「受け入れがたく無責任な挑発行為であり、国際法をあからさまに無視し、朝鮮半島のみならずアジア太平洋地区の安全安定への脅威」としている。
  4. この声明文で最も興味をそそられる点はアシュ・カーター国防長官が韓国国防相との電話会談の前に在韓米軍司令官カーティス・スカパロッティ大将から「状況最新報告」を受け取っていたとする部分で、長官が北朝鮮部隊の南進はないと事前に把握していたことを意味し、おそらくU-2が収集したデータから放射線、同位元素の内容を知っていたことだ。U-2が実験直後に上空を飛行したのはほぼ確実だ。
  5. ただし心配なのは北朝鮮が巨額の予算を核兵器開発に引き続き支出し、各地で必要な機材の購入にあたっていることだ。米国と同盟各国は制裁を厳しく課すだろうが、実験強行で制裁効果にあらためて疑問が生じるだろう。
  6. 米議会の反応も予想通りで、両党議員がそろって北朝鮮を非難する中、共和党は今回の核実験をオバマ政権非難に利用している。
  7. 「世界各地で米国の指導力が弱体化していると見られており、現政権の無策無為ぶりは事態を悪化させるだけだ」とマック・ソーンベリー議員(下院軍事委員会委員長)が声明文を発表した。同議員は具体的対応策も示している。「米国は韓国と共同してミサイル防衛装備を展開すべきで、THAADも含め朝鮮半島の安全を確保すべきだ。米本土のミサイル防衛も強化すべきだ。同時に核抑止力の強化は待ったなしであり、抑止力は防衛体制の根本である」
  8. 下院軍事委員会の戦術空軍・地上部隊小委員会の委員長かつ下院情報活動委員会の委員を務めるマイク・ターナー議員からは北朝鮮の核実験には「効果的な対応と非難を国際社会が与えるべき」との発言があり、NATO国会議員会議の議長も務めるターナー議員は7月のNATOサミット(ワルシャワ)で「現在の危険な状況を明確に再確認し、核抑止力が引き続き同盟各国の安全で最終保証手段であることも改めて確認する」だろうと述べた。
  9. このことから想起されるのがオハイオ級後継艦整備事業への支持が深まり米国に核抑止力三本柱中で残存力が最大の手段を実現することだ。また長距離打撃爆撃機事業への関心が高まり、核ミッション能力を向上することだ。■

2016年1月6日水曜日

★韓国>KF-Xで先行き不透明のまま開発開始か



お隣の国ながら先行き心配な事業のスタートですね。なんとかなる、と始めるのはいいのですが、結局絵に書いた餅にならないよう必要な計画変更や予算手当をしてもらいたいところです。しかしダメダメな政府の代わりに借り入れで資金調達までしたKAIは立派ですね。

South Korea Contracts KAI For KF-X Development

Dec 28, 2015 Bradley Perrett | Aerospace Daily & Defense Report

SYDNEY—韓国政府は韓国航空宇宙工業(KAI)にKF-X戦闘機の調達契約を期間2016年から26年、納入開始を2026年設定で12月28日付けで交付した。
  1. 双発でユーロファイター・タイフーンとほぼ同寸のKF-Xの開発ではインドネシアの支援を受ける。だがKAIが2016年中に契約をどこまで履行できるか不明だ。国防省が確保した当初12ヶ月分予算がきわめて少ないため。
  2. さらに米国技術にどこまでのアクセスを韓国が許されるかも不透明だ。
  3. 開発期間を10年半とすると韓国国防調達庁(DAPA)が発表している。
  4. 発足式典は1月予定と韓国経済日報が伝え、1号機は2026年9月に引き渡し予定だという。まず40機を生産し、その後80機を2029年から2032年に製造する。
  5. KAIが2016年に支出できる額は不明だが小規模のようだ。国会は670億ウォンを認めたが国防省原案の1,620億ウォン、財務省が開発期間全体で認めた8.8兆ウォンに比べると相当低い。
  6. インドネシア議会もKF-X向けに1.07兆ルピア(79百万ドル、910億ウォン)をすでに10月に承認しているが、全額が2016年に利用可能ではないものの、韓国自体の予算規模よりは大きくなるだろう。仮にインドネシアが20%に設定した開発費用の負担枠いっぱいに支出しても、当初10年間で想定した予算規模のわずか1.3%しか手当できないことになる。比較のため、F/A-18ホーネットでは開発初年度だけで総開発期間7年の7.5%相当の予算がついていた。
  7. 昨年10月にDAPAは次年度のKF-X開発予算として600億ウォンの追加要求をしたとの報道を否定している。先行したT-50超音速練習機とスリオンヘリコプターの両開発事業でKAIは自社で資金を借り入れ予算不足による開発遅延を回避している。
  8. さらに開発予算総額は財務省の精査を受けている。国防省傘下のシンクタンク韓国国防研究院によれば10兆ウォン超の追加投入が必要と見積もっている。
  9. DAPAはKAIを昨年3月に契約企業と選定し、エアバスと組んた大韓航空を認めなかった。ロッキード・マーティンはKF-X開発で技術支援をすることになっており、その見返りで韓国はF-35ライントニングII40機をF-X第三段階として導入する。
  10. 米国は中核技術をKF-Xに導入する許可を出していない。軍事機密の漏洩を恐れているためだ。インドネシアが参画しているが、米国は同国には軍事技術をほとんど供与しておらず、米政府としても前向きになれない。米韓両国はこの問題で結論を出し切れていない。■