2020年8月16日日曜日

米海軍潜水艦部隊にアグレッサー隊が誕生。ただし....

 海軍は潜水艦アグレッサー部隊を発足させており、潜水艦戦、対潜戦双方に中国、ロシアを想定した対応の訓練に投入し、新戦術、新手順で脅威に対抗する。焦点となる分野の一つに電子戦の潜水艦運用への影響を見極めることがある。

 部隊は略称がAGGRONで水中戦開発センター(UWDC)に所属する。UWDCの本部のあるニューロンドン海軍潜水艦基地(コネチカット州グロートン)とポイント・ロマアネックス(カリフォーニア州サンディエゴ)に拠点を置く。同隊は2019年春から夏にかけて発足していたことが潜水艦部隊の公式出版物でわかる。海軍はAGGRONの立ち上げを2018年時点で発表していた。

「目標は経験にたけたレッドチームを相手に戦闘原則、戦略、戦術を磨き潜水艦乗員に戦闘シナリオを体験させること。レッドチームのつわものはリアル、ヴァーチャル含め訓練に投入していく」とチャールズ・リチャード中将(潜水艦部隊司令、当時)が2019年春に語っていた。「さらに遠隔地の攻撃指令所からレッドチームへ命令を伝える接続性を試す」「レッドチームの知見を潜水艦学校に反映できるようになる。アグレッサー部隊と最良の訓練シナリオの実現をめざしていきたい」


USN

ロサンジェルス級攻撃潜水艦USSアッシュビルがフィリピン海を浮上航行中。2020年6月



 アグレッサー部隊は「対抗勢力」OPFORとも呼ばれ、敵方つまり「レッド」部隊として実際に使われている戦術や教義を忠実に再現する。演習に現実味が加わり、自軍の「ブルー」部隊に実戦で敵が示す動きを体験する機会が生まれ、作戦構想が有効か試すことも可能となる。

 AGGRONで副司令をつとめる主任訓練教官の職務リストには「SUBFORで対抗部隊OPFORの性能を模擬する主任教官役を務める」とある。「DON(海軍省)及びDoD(国防総省)での敵勢力潜水艦戦およびASW(対潜戦)戦術の専門家になること」ともある。

 AGGRONは今後登場する戦術の有効度を試す手段として、さらに自軍能力をチェックする役目を負うことになりそうだ。さらに海軍が2020年8月13日付で発出した職務リストでは「潜水艦運用により各種電子戦(EW)プロジェクトを支援し、UWDCのAGGRONにおけるEW SME(該当分野の専門家)となること」との項目もある。

各プロジェクトの中身は不詳だが、電子戦は米軍内で関心が急速に高まっている分野であり、敵勢力でも同様で特にロシアの動きがある。今年初めだがロシア海軍も潜水艦発射式の使い捨てジャマーにより敵のソノブイを使用不可にできると発表していた。

 潜水艦の性能では海軍の秘密におおわれたネットワーク化電子戦エコシステムのNEMESIS(統合センサー対抗ネット化複合要素音紋)もある。ネットワーク化電子戦エコスシステムは今後の戦闘の様相を一変させる可能性を秘めている。潜水艦から無人潜水機を発進させる技術も進展しており、ここに電子戦ペイロードを搭載すれば間違いなく効果を上げるだろう。

 いうまでもなく、電子戦以外でも水中戦さらに潜水艦対潜水艦の戦闘には複雑な様相を示すものだ。敵の対戦部隊も水上あるいは空中から複雑な運用を迫られる。

 直接対決の形で訓練を米潜水艦とあるいは同盟国所属の艦と実施すれば、有効性を実証できる。米軍では空軍と陸軍にOPFOR部隊がすでにある中で海軍には潜水艦アグレッサー部隊があれば効果が期待されながら、これまで存在してなかった。

 ただし、AGGRONの前にも海軍は同じ構想を試している。2000年代中ごろにスウェーデンからMSwMSゴトランドを借り上げ、大気非依存型推進(AIP)方式のきわめて静粛なディーゼル電気推進の同艦をアグレッサー役に投入したことがある。ゴトランドは米海軍の原子力潜水艦やその他対潜部隊に実戦に近い体験の機会を実現した。米海軍はディーゼル電気推進艦運用を終了しており、世界各地で広く運用されている同方式の艦しかも高性能新型艦を投入したのはまれな機会となった。

USN

2005年サンディエゴの乾ドックに入るHSwMSゴトランド。米海軍が借り上げ運用開始した直後。


 そこで新編成のアグレッサー部隊がこのギャップを埋めるには相当の時間が必要になりそうだ。リチャード中将が想定していた部隊は海軍航空部隊の有名なトップガン戦闘機パイロット養成事業の潜水艦版だった。トップガンでは訓練後に原隊に復帰する。また一部は教官となり、自らが学んだ内容を後輩に伝えるのだが、潜水艦部隊にもこの構想が応用できると考えたのだ。

 リチャード中将は昨年、AGGRONはすでに知見の共有に取り組んでいると指摘していた。アグレッサー部隊は水上艦、固定翼機、回転翼基含む広範な対潜部隊全般にも恩恵を与えており、敵部隊を模す相手に技術を磨いている。

 残念ながらAGGRONには一つ重大な欠点が残ったままだ。少なくとも2019年末時点では専用の潜水艦を保有していなかった。とはいえ同隊にSSN数隻が配備されても、そのまま敵の戦力を反映するわけではない


RUSSIAN MOD

プロジェクト885ヤーセン級原子力誘導ミサイル潜水艦のセヴェロドヴィンスクはロシア潜水艦中で最高性能を誇る

 

 ロシアや中国では原子力推進の新鋭艦以外に高性能AIP搭載ディーゼル電気推進艦もその他各国と並び整備中だ。前述のように米海軍に同じタイプの艦がない。AGGRONもSSN向け演習でこうした艦がない中でディーゼル電気艦を模した運用を行うのは困難だ。

 ロシア、中国が潜水艦整備を進め、運用が活発になりつつあることへ懸念が高まる中、米海軍は潜水艦需要にこたえるのに苦慮し、定期整備も予定通り進んでおらず、AGGRONに専用艦が配備される日が早々に来るとは思えない。本誌では新型で低費用のディーゼル電気推進潜水艦を調達すれば、アグレッサー部隊の実効性があがると主張してきた。AGGRONで得られる成果は今後登場する新型原子力推進攻撃型潜水艦の開発にも資するはずだ。

 米海軍ではAIP搭載艦も含む同盟国の潜水艦との演習も定期的に実施している。その中で、ゴトランドと同様の借り上げ契約あるいはAGGRONが同盟国艦との共同訓練の機会を増やすことが現実味を増している。

 とはいえ、海軍に潜水艦アグレッサー部隊が初めて生まれ、現在のさらに将来の水中戦、対潜戦に対応する能力向上以外に潜水艦部隊にも現実の脅威への準備体制が高まることは間違いない。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

The Navy Now Has A Submarine Aggressor Squadron

 

  • The unit is intended to provide Navy submariners and anti-submarine forces with an opponent that fights just like a wide range of potential foes.

  • BY JOSEPH TREVITHICKAUGUST 14, 2020


2020年8月15日土曜日

統合参謀本部議長あて公開書簡への反論 軍が出動しても解決にならないし、期待するべきでもない

先に掲載した物議を醸す公開書簡への反論です。これが同じDefense One に掲載されたのはさすがに言論上のバランスをとる編集側の配慮があったからでしょう。

 

選したトランプをホワイトハウスからミリー大将が追い出すべきと考えるのでは無責任すぎるし、組織面でも無意味だ。

 

本稿はジョン・ネイグルおよびポール・インリンによるあまりにも無責任な見解が昨日公開されたことに反駁すべく準備した。両名は統合参謀本部議長に対し、米軍部隊でトランプ大統領をホワイトハウスから排除する命令の準備を求め、両名は共和政体の危険事態として解決が必要となる場合に備えるべきと主張した。この事態に備え検討するだけでも米国民と軍に所属する者の間の信頼関係を損ないかねない。選挙で選ばれていない軍関係者が判事、陪審員、執行者の職責を果たすべきと主張する両名は憲法を批判していることになる。

 

この国の建国では軍が選良の権利侵害をする可能性を懸念している。それは憲法に全軍最高司令官としての大統領と議会の間で責務を区別していることでもわかり、「軍部隊を整備し支援する」権限、「海軍を創設し維持する」権限、「武装を与え訓練させる」権限、「武装民兵を招集する」権限を与えていることでも明らかだ。常備軍の維持は当時は財政の浪費とみなされ、政治的な力の行使は個人の自由および共和政体双方に脅威とされてきた。

 

軍組織が選良ジョージ・ワシントンの権限を防護する役割に徹したのは実に幸運なことだった。米国民はその他民主政体では不可能なほど政策面で影響を受けており、自国の軍組織に信頼を寄せている。これは軍に服従の態度が深くしみこんでいるためである。軍事力行使をためらう態度があるため、軍の政治力発揮を妨げている。ネイグル-インリンの両名は米軍に政治結果の仲裁役を期待するよう国民をけしかけようとしており、これが実現すれば軍組織の精神ならびにこの国の特徴が不可逆的に一変してしまう。

 

憲法には大統領が辞職を拒んだ場合の解決策で規定がある。裁判所が選挙が法に従い執行されたかを判断し、下院が選挙団の投票結果を確認する。極端な場合でも、選挙結果を巡り意見が対立すれば、第20憲法改正分に条項が盛り込まれており、「大統領、副大統領の任期は1月20日正午をもち終了する」とあるのは、大統領承継にあたり法による支配が明確に存在する証左だ。新たに選出された、あるいは任命された大統領の宣誓式は主席判事が執り行い、前任職の権限はすべて消滅する。その時点から文官大統領を除き、軍やその他政府機関による命令は一切が非合法となる。

 

当然ながら法律とは自らで執行されない。軍以外の連邦政府機関が国内での法執行に責任を有している。この原則にも例外はあるが、各機関の法律上の権限と国内での権力を軍にそのまま移譲することは許されていない。

 

ネイグル-インリン両名はトランプ大統領が暴力をふるうデモ参加者と呼び、治安部隊(両名は民兵と表現)が街頭にあふれる悪夢に触れており、正直に言うと当方もこの懸念を共有している。だがシアトル、ポートランド他米都市で活動する治安部隊には法的根拠があった。米軍部隊をデモ隊制圧に動員すれば、軍は文官統率から解き放たれる。これでは米国民が軍に示す信頼の基盤が崩れてるし、政治的紛糾を解決可能なのは軍のみとなってしまう。

 

両名には軍で方針決定の経験があるのに、統合参謀本部議長に指導者の役目を提唱するとは驚くばかりだ。ミリー大将には軍で知名度が一番高いことから主張を伝えたのだろう。あるいはブラック・ライブ・マターズ運動中のラファイエット広場への対処で大統領、司法長官とともに芳しからぬ騒動に同大将が巻き込まれたことが念頭にあったのかもしれない。

 

だが実際問題として、クーデターを提唱するのなら、指導者には実際の部隊に指揮命令権限を持つ人物をあてるべきだ。統合参謀本部にはごく少数の兵員が配置されているが、統合参謀本部議長には手駒となる兵員はいない。1949年に議会が統合参謀本部議長の役目を定義したが、議長職を基本的に弱くした理由は、まさしくネイゲル-インリンの主張と同じだった。

 

ネイグル-インリンはミリーに直属部隊がないことから軍事組織内では大統領選挙が紛糾した場合でも脅威になる人物ではないと値踏みしたのではないか。だが、この見方はミリーが憲法に反し軍事力を動員したら暴力の連鎖がますますエスカレートし、法の秩序が回復不可能となる可能性に相反する。また米国民が軍部に寄せる信頼にひびが入る可能性も無視している。

 

 

コリー・シェイクはアメリカンエンタープライズ研究所で外交防衛政策研究長を務める常勤研究員。

ジム・ゴルビーはテキサス大学オースチン校のクレメンツ国家安全保障センターの上級研究員で、戦略国際問題研究センターで民間と軍の関係に触れる"Thank You for Your Service" ポッドキャストの共同ホストを務める。NATOの米代表部で国防政策諮問を務めたほか、副大統領の特別補佐官、統合参謀本部議長の特別補佐、ウェストポイント士官学校で社会研究学部の助教授、イラク戦争では偵察小隊長を経験している。


この記事は以下を再構成したものです。


The Military Won’t Save Us – and You Shouldn’t Want Them To

It’s deeply irresponsible, not to mention organizationally nonsensical, to suggest that Gen. Milley should evict an election-losing Trump from the White House.

By KORI SCHAKE and JIM GOLBY

AUGUST 12, 2020


統合参謀本部議長への公開書簡 落選しても辞任を拒むトランプは米軍により除去せよ


  • 昨日(8月13日)にNHKがこの記事をかいつまんで報道して驚いたので、今回全文を翻訳してみました。あまりにも偏向した内容といわれても仕方ないのか、本当に信念をもって公開書簡を送付したのか、Defense Oneが掲示した意味に考えさせられます。しかし、翌日にすぐさま反論投稿を掲載しているのはさすがです。(これは次回掲載します)。

 

リー大将殿、

 

貴官は平時における統合参謀本部議長の職責をよくご理解いただいているものと存じます。最高軍事顧問として米大統領に意見具申するとともに大統領並びに国防長官の下す法に基づく命令を戦闘部隊に伝達することです。平時におけるこうした職責は貴官が就任時に宣誓した「あらゆる敵から、国内外を問わず米国憲法を支え、守る」一環であります。

 

ただし今は平常時ではありません。米国大統領は選挙制度を積極的に覆そうとしており、憲法に反しても現在の地位に留まる構えを示しています。今後数か月のうちに、貴官は法に従わない大統領に公然と反旗を翻すか、貴官の宣誓に反する行動をとるかの二者択一を迫られる可能性があります。我々両名は貴官の選択を支持いたします。ドナルド・トランプが憲法で定める任期を超えても大統領の座を降りるのを拒む事態が発生すれば、米国軍の力で本人を除去すべきであり、貴官はその命令を下すべきです。

 

事態が合わさり恐ろしい状況になれば、以前なら考えるのもはばかられたシナリオ、米国内に強権的統治を敷く可能性が現実に強まります。まず、トランプ氏が大統領選挙で敗北した場合、本人は選挙結果で示された民意を軽視するはずです。次に、トランプ氏が敗北した場合、刑事訴追を受ける可能性もあります。三番目に、トランプ氏が民兵を組織し選挙結果を覆すばかりか、通常の法執行機能も妨害する可能性があります。2021年1月20日の大統領就任日に各勢力が衝突すれば、憲法に定めた秩序を維持できる力を持つのは米軍部隊のみとなります。

 

トランプ氏の落選は間違いないといってよいでしょう。160千名超の米国民がCOVID-19で死亡し、さらに合計数は11月には300千名に上ってもおかしくない状況です。米労働者の10名につき1名が失業状態にあり、米経済は直近の四半期で史上最大規模の景気後退に直面しています。米国民の7割近くが国の針路が誤っていると感じています。エコノミスト誌によればトランプ氏の落選可能性は91パーセントです。

 

暗い予測の中、トランプ氏は組織的な情報操作で選挙制度への国民の信頼を揺るがせております。同氏は郵送方式による投票は「不正確かつ不正」と根拠のない主張を展開しております。米郵便公社の業務を積極的に妨害し、郵送方式投票を遅らせ、信頼に泥を塗っています。また大統領投票の先送りも示唆していますが、本人にその権限はありません。

 

2020年大統領選挙の結果はトランプ氏にとって極めて重要です。落選の場合、刑事訴追を受ける可能性があります。マンハッタン地区地方検事はトランプ組織が銀行・保険両面で金融資産を過大評価する詐欺を働いたかどで調査を進めています。ニューヨーク州法務長官も同様の調査をしており、トランプの財務記録をドイツ銀行に提出させるのに成功しています。トランプ氏は駐英大使に対し全英オープンゴルフトーナメントをトランプ・ターンベリ・リゾートのあるスコットランドで開催するよう英国政府に圧力をかけさせました。この件は大統領在任中に利益誘導を禁じた連邦刑法で訴追対象となり、他にも多くの事例が出ています。

 

政界で有望な人物への恫喝が多数あるのに加え、自身の富と名声を使うトランプ氏の行いは歴史上の独裁者と同一であります。自身は私兵を組織し、命令一下で動く部隊としています。シーザーはローマで法の裁きを受けそうになり、出廷を拒むどころか、忠実を誓う武装兵をローマ政庁に放ちました。トランプ氏は歴史の成績はよくありませんが、シーザーの前例を踏む様相を強めています。大統領は武装した国土安全保障省係官を準軍事部隊として国内の政治デモ参加者に向かわせましたが、これは法的根拠のない行為でした。この私兵は警察等の所属を示すものを隠し、法執行ではなく、大統領の政敵を抑え込むのを職務としています。

 

大統領の落選、選挙制度そのものへの攻撃、本人の刑事訴追の可能性、私兵の組織化すべてが組み合わさると、来年1月20日の衝突は必至です。権力移譲を平和的に進めるのが米民主政体の確固たる特徴ですが、これを受け入れたくないトランプ氏が大統領退任を拒絶する可能性があります。選挙結果自体が詐欺だと、手あかのついた嘘八百を申し出るでしょう。トランプ氏の右派メディア内協調勢力がこうした虚偽の主張を拡散すれば一見根拠のある口実となります。権力の座を退くのを拒否する大統領により南北戦争以来最大の憲政史上の危機が現実となります。

 

米国の政治体制、法体制はこの瞬間に機能不全となります。上院内共和党議員は従属的な存在となっており、沈黙を保ち不活性なままでしょう。議会内多数派勢力の座を守ることに汲々とするはずです。一方、民主党が多数を占める下院が大統領選出団の結果を承認すれば、トランプ氏はフェイクニュースと一蹴するでしょう。各地の裁判所に民主党、トランプ氏の代理双方から訴えが殺到し、判決を下すまで数か月を要してもトランプ側は控訴するか無視を決め込むはずです。

 

しかし時間は着々と進み、2021年1月20日午後12時01分となっても、ドナルド・トランプは大統領執務室に陣取っているでしょう。街頭デモ隊がホワイトハウス周辺に集結するでしょうが、トランプ私兵がホワイトハウスに陣取るはずです。下院議長がトランプの任期終了を宣言し、ホワイトハウスからトランプを退出させるようシークレットサービスと連邦保安官に命令を出します。しかし連邦政府係官はトランプ私兵が数の上でも武装でも上回る事態に気付き、決定の時がついにやってきます。

 

この憲政史上の危機状態に際し、選択肢はふたつしかありません。第一は米軍部隊により前大統領をホワイトハウス敷地から移動させることです。トランプ私兵は軽武装の連邦係官には高圧的な態度でも82空挺師団の一個連隊の前にはひとたまりもありません。二番目の選択肢とは憲法が機能不全となっても米軍を動員しないことです。政権移譲は超法規的なトランプ私兵と民間デモ隊間の暴力の応酬に任せることになります。この場合の混乱は想像に難くありません。

 

米軍の上位将校として二つの選択はまさしく貴官にあるのです。憲政上の危機状態は上述の通りですが、貴官の職務は米軍の力で憲法で定めた政権移譲に向けた確固たる命令を下すことにあります。貴官が沈黙を保てば、クーデターに加担することになります。貴官はラファイエット広場に陣取るデモ隊に対し軍部隊を動員すべしとの大統領の意向に抵抗なく関与して公然と批判されました。政治権力の超法規的掌握に受動的にせよ関与すれば状況はさらに悪くなります。

 

240年の長きにわたり、米国は暴力で政権移譲する恐怖を回避できました。完全な形ではなくてもこの国の政体は完璧さを希求し、平和的に権力移譲を実施してきました。憲法が定める法の支配によりこの奇跡が可能となってきたのです。しかしながら、憲法上の秩序は自動的に維持されるものではありません。米国民は歴史を通じ、生命を犠牲にしても統治形態を維持する道を選択してきました。こうした英雄たちが築いてきた未完の仕事が続けられるかは貴官にかかっています。

 

以下を忘れないでください。

 

「私、マーク・A・ミリーは謹んでここに誓います。あらゆる敵から、国の内外を問わず、米国憲法を支え守り、また誠意と忠誠をもって職務にあたり、喜んで責務を受け入れ、躊躇することなく、逃避することなく、これから始める職務を忠実かつ良好に実行いたします。神のご加護を」

 

われらが共和国の運命は上記宣誓に忠実であるかにかかっています。

敬具

 

ジョン・ネイジおよびポール・インリン

 

ネイジは退役陸軍将校でイラク戦争二回に従軍し、フィラデルフィア郊外のヘイヴァーフォード校の校長を務める。インリンは中佐で陸軍を退役し、イラク、ボスニア、砂漠の嵐作戦に従軍した。

 

この記事は以下を翻訳したものです。

 

“. . . All Enemies, Foreign and Domestic”: An Open Letter to Gen. Milley

If the commander in chief attempts to ignore the election’s results, you will face a choice.

By JOHN NAGL and PAUL YINGLING

AUGUST 11, 2020

 


2020年8月14日金曜日

米中両国は開戦に近づいているのか

 中国の戦力を過小評価すれば深刻な過ちにつながる。中国軍は自国近海なら米軍に十分対抗できる実力を有している。

 

政府は中国との新冷戦に進む決定をしたようだ。中国の在米ヒューストン領事館閉鎖を迫ったのが最新の動きで、中国は成都の米領事館閉鎖を命じた。世界一位二位の経済大国の軍事対決に一歩ずつ近づくのか。両国を開戦一歩手前に進ませないためには政策を即座に変更するしか手段がないようだ。

 

はっきりさせよう。中国のここ数年の動きは米国の権益に真っ向から挑戦するものだった。知的財産侵害を巡る争いに中国はさしたる関心をしめしてこなかった。中国は「台湾問題」解決に軍事力行使も辞さないと公言した。中国は香港住民に自由を与える約束を覆した。さらにコロナウィルス拡散を進めたのは中国の事実隠ぺいだ。だがこうした問題に対し米国は断固たる態度で臨む決心をしている。

 

マイク・ポンペイオ国務長官は中国に対抗する「連合を構築」すると7月にロンドンで発言した。真意は「力を合わせ中国共産党の行動を変えさせること」と本人は説明している。英国訪問に先立ち、さらにヒューストン領事館閉鎖の前に、米国は中国に極めて厳しい態度を示しており、香港の貿易上の特別待遇の取り消し、中国政府関係者への渡航制限、コロナウィルスを巡り中国の落ち度を非難し、米海軍の南シナ海での活動を強化し中国の主張に対抗したことが含まれる。

 

これに対し、中国も南シナ海で軍事演習を展開し、ヒューストン領事館閉鎖を巡り対抗措置を講じたのは予測通りといってよい。中国外務省報道官汪 文斌Wang Wenbinは領事館閉鎖は「国際法違反...であり中米関係を悪化させるための試み」と論評した。中国が米領事館閉鎖に動いたのも予想通りの動きだった。

 

米中両国はこのような動きと対抗措置を延々と繰り返していくだろう。関係悪化で恩恵は何ら生まれず逆に軍事対決の可能性が増えるだけだ。偶発的な戦闘もありうる。不幸なのはワシントンに頭を冷やそうという動機が見られないことだ。

 

米国の世論に影響を与えかねない言論人多数は意図しなうちに戦闘がおこるはずがないと達観しているようだ。米国は強大であり、何でも好きに行動でき、戦闘が発生しても敗北はないと信じこんでいるようだ。砂漠の嵐作戦が完了した1991年、翌年のソ連崩壊以来この考えが流行している。

 

中国は砂漠の嵐作戦での米軍作戦を熱心に研究している。1996年にはビル・クリントン大統領が台湾海峡に空母一隻を航行させ、中国は台湾への脅威をひっこめざるを得なくなり面子を失った。それ以来10年単位で軍全体の変革を行ってきた。戦闘第一の部隊編成にし、戦闘の教義を整備し、装備品を劇的に一新した。すべて米軍が中国攻撃にやってきても敗退させるためだ。

 

今日の中国軍は朝鮮戦争で米軍の前に数十万名を失った古色蒼然たる歩兵中心の軍ではない。また1996年に米軍に対抗できなかった旧式装備の軍でもない。中国共産党首脳部は自らの軍組織を近代的かつ強力な威力の軍に変革し、米国を相手にしても十分戦える組織に仕立て上げた。中国近海を舞台に米軍が容易に勝利できると思ったら大間違いだ。

 

米国の動きを見て中露両国は往年の対立をわきに置き経済ならびに軍事面でつながりを強めている。中国はイランともエナジー・軍事両面の協力協定を結んだばかりだ。さらに習金平主席は欧州、アフリカ、ラテンアメリカ各国との関係強化を効果的に進めている。

 

ワシントンは対中タカ派であふれている。その中で中国と戦闘回避することで米国の地位を守れると主張すれば「宥和派」のレッテルを貼られかねない。理性的な外交を続けることで安全も繁栄も将来にわたり実現するはずなのに、これを捨てて武力を前面に中国に強気で対抗する態度に出たことが結果として悪い選択にならなければよいのだが。■

 

この記事は以下を再構成したものです。


America and China Hurtling Towards War?

August 2, 2020  Topic: Security  Region: Americas  Tags: ChinaXi JinpingWarConsulateHong Kong

It would be a grave mistake to underestimate Beijing’s ability to fight the U.S. forces on its home turf.

by Daniel L. Davis Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former lieutenant colonel in the U.S. Army who retired in 2015 after twenty-one years, including four combat deployments. Follow him @DanielLDavis1.

2020年8月11日火曜日

やはり中国が嫌がらせ。エイザー長官の蔡英文総統会見直前に戦闘機編隊を台湾領空へ侵入させた

今回の長官訪台は今後の台湾承認、台湾独立につながる布石と見ています。中国の主張が真っ向から否定された形で北京はヒステリー状態になるはずです。トランプの思考形式が中国の凝り固まった思考を粉砕している構図ですね。面子をつぶされた中国共産党が次に何をするか注視する必要があります。それにしても習金平が全く姿を現さないのも変ですが

 

国が成都J-10、瀋陽J-11戦闘機編隊を台湾海峡上空に8月10日飛行させた。編隊は海峡中央線という極度に微妙な地点を短時間ながら通過したと現地報道が伝えている。中央線は非公式ながら中国本土と台湾を分ける境界線となっている。今回の飛行は米保健衛生省長官アレックス・エイザーAlex Azarが8月9日に台湾へ到着し、前例のない米高官訪台が始まったことを受けて実施された。

 

中国の示威行動はエイザー長官が蔡英文総統との会見を始める直前だった。人民解放軍空軍 (PLAAF) が戦闘機を出撃させたことで台湾国防部は以下声明文を発表した。「PLAAFジェット機が意図的に台湾海峡の現状を侵害し破壊したことで地域内の安定と安全が深刻な被害を受けた」

 

J-10やJ-11は現地時間午前9時ごろ台湾海峡の台湾側空域に侵入した。中国機は台湾が陸上に配備した対空ミサイル装備で追尾された。台湾側は台湾空軍が中国機を「追い出した」と発表しているが、中国から発表はない。

 

CHINESE INTERNET

 

 

CHINESE INTERNET

A Chinese J-11B.

 

 

エイザー長官は40年間で訪台した米政府関係者で最高位となった。ときあたかも米中関係が悪化している中でのことだ。中国は同長官訪問を米外交政策がトランプ政権になり台湾寄りになっている表れと非難しえいる。中国は内容不詳だがエイザー訪台へ報復措置をとると明言している。

 

台湾、中国が展開している軍事示威行為の中で今回の侵入は最新の出来事になった。台湾はF-16にAGM-84ハープーン実弾を搭載し、南シナ海の中国海軍演習周辺を哨戒飛行させた。米軍も監視偵察ミッションを強化しており、同海域で演習をオーストラリア、日本と共同で展開している。

 

中国は台湾を反乱地方省とみなし、中台間で政治軍事両面で緊張がここ数年高まっている。トランプ政権は中国と貿易戦争を展開しており、台湾への武器売却に前向きになっているほか、COVID-19を巡る意見対立もあり、米中台間で冷たい空気が一層強くなっている。今回の米高官の訪台により中国本土はさらに苛立ちを強め、台湾も有事に備え部隊を展開している。特に台湾空軍は米台外交折衝を横目にしながら敵対行為に備え高度の警戒態勢を維持しているはずである。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

Chinese Fighters Cross Into Taiwan’s Side Of The Strait As High-Level U.S. Visit Begins

The Chinese fighters emerged over the channel as U.S. Health and Human Services Secretary Alex Azar was about to meet with Taiwan's president.

BY JAMIE HUNTER AND TYLER ROGOWAYAUGUST 10, 2020

 

Contact the author: jamie@thedrive.com


F-15EXの先を行く「デジタル・センチュリーシリーズ」構想の驚くべき内容とは

 米空軍が目指す「デジタル・センチュリーシリーズ」でF-15EXが一番手になるのだろうか。 防衛記事担当編集者スティーブ・トリンブルが以下答えている。

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F-15EXはデジタル技術で成熟ずみ機材を再強化される好例になりそうだ。ただし、米空軍のデジタル・センチュリーシリーズ構想でのアプローチとF-15EXは異なる。同構想は空軍次官補ウィル・ローパーが提唱する調達、技術、維持全般にわたる新しいアプローチだ。

 

空軍は144機調達を目指すF-15EXで二機を先行発注し、2021年8月に引き渡しの予定だ。機体で目を引くのがBAEシステムズによるEpawss(高性能パッシブ/アクティブ警戒監視装置)だが、その他はF-15QA(カタール向け)と共通する。F-15QAの主翼と前部胴体は新設計で軽量化されている。ボーイングはデジタルエンジニアリング手法で設計し、生産方式を安価ながら高効率で実現した。

 

この手法を応用し、ボーイングは新規サプライヤーに再設計主翼と機体の競作を行わせる。ボーイングによれば再設計部品は整備コストも大幅に引き下げる。従来の航空機製造方式と比べ大幅な改良になるが、空軍はデジタル・センチュリーシリーズでさらにその先を狙っている。

 

空軍は次世代制空機材(NGAD)がデジタル・センチュリーシリーズのビジネス事例になるとみている。モデルではボーイングがF-15EXで使ったデジタルエンジニアリングが採用されそうだが、空軍の要求は機体の全部品でデジタルモデルを使うことにある。もう一つ違うのは機体の設計で空軍が権利を取得することだ。F-15EXの知的財産所有権はボーイングにあるが、デジタル・センチュリーシリーズでは政府に売却あるいは使用許諾することになる。

 

デジタル・センチュリーシリーズでは複数機種を同時並行製造するのを目指すが、生産数は10機単位あるいは多くても100機単位となる。機種形式は異なるが共通部品を極力採用し、再設計コストを抑え、生産施設の経費や機体維持コストを抑える。全機種で共通のオペレーティングシステムとし、ソフトウエア上の改良を機材全機を対象に同時かつ即座に行う。■

 

F-15EX aircraft in flight

Credit: Boeing


この記事は以下を再構成したものです。

 

Is F-15EX A Good Example Of USAF's Digital Century Series?

Steve Trimble August 05, 2020


2020年8月10日月曜日

戦車全廃! 大胆すぎる米海兵隊の変革は中国との戦闘を想定したものなのだが......

 

  • 海兵隊の大胆な戦力再編で戦車中隊の一部が解隊されている

  • 再編は迅速な戦力展開をめざすためだが、他軍に海兵隊業務を任せると各軍間の関係が悪化すると危惧する向きもある


兵隊は戦車を全廃し太平洋の離島伝いに展開できる機動力の整備を進めているが、陸軍が業務を引き受ければ軍間の分断状態が発生すると防衛専門家が警句を鳴らしている。


海兵隊戦車中隊の一部で運用停止がすでに発生しており、今週も第二戦車大隊C中隊がノースキャロライナ州のキャンプ・レジューンで解隊された。同中隊のM1A1エイブラムズ戦車が搬出された。第一戦車大隊でも同様の光景が展開された。


この動きには複雑な心情もあり、方針に不満を感じる退役海兵隊員は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団主催の仮想イベントで「これからの戦闘にむけた海兵隊再編はそもそも必要なのか、それとも狂気の沙汰なのか」と題するセッションを開いた。


Marine Corps tank

第一戦車大隊にあった最後の戦車がカリフォーニア州の海兵隊航空地上戦センターから搬出された。2020年7月6日。 US Marine Corps/Sgt. Courtney White


「海兵隊は自らをスイスアーミーナイフと見られるのを好む」とマーク・キャンシアン退役海兵大佐(現戦略国際研究所顧問)が発言。「だがスイスアーミーナイフの持ち主はもう不要になったからと切れ刃数枚を外してしまった」


キャンシアンと、退役中佐フランク・ホフマン(国防大学特別研究員)はともに強力な敵を相手とする次の戦闘に備える海兵隊総監のデイヴィッド・バーガー大将の部隊再編構想には良い点もあるとも認めている。


ホフマンは改編は国家防衛戦略につながる点が多いと指摘。長射程精密火砲や小型揚陸艇への予算重点投入は中国と開戦の際に必要な措置とキャンシアンが追加コメントした。


ただし両名は海兵隊から戦車全廃の決定には懸念を表明した。


「海兵隊でなくなる能力は陸軍が提供してくれるという。だがこれは実現しないと思う」とキャンシアンは述べ、「海兵隊で必要な場面が発生すれば陸軍に助けを求めることになる。そうなると軍間で利害が対立するのではないか」


エリック・スミス中将は海兵隊で戦闘開発本部を率い、Military.comに即応部隊としての海兵隊は可能な限り軽装備で移動可能にする必要があると今年初めに語っていた。


「国防総省にはその他の軍組織があり、そもそも統合運用をしているので大規模な威力を発揮できる」とスミスは述べ、「例として陸軍に戦車大隊は37個もあり、戦車戦力として十分な規模だ」とした。


m1a1 abrams tank

キャンプペンドルトンのホワイトビーチで海兵隊のM1A1エイブラムズ戦車を揚陸舟艇から誘導する海軍隊員。 US Marine Corps


これに対しホフマンは海兵隊構想が統合部隊の戦略方針に合うかまだわからないと指摘した。陸軍部隊に海兵隊任務を補完させるのであれば、今までと違う訓練や戦闘方針が必要という。


キャンシアンも同じ意見で、海兵隊構想で陸軍に追加任務が課せられると指摘。両名は海兵隊予備部隊に戦車を温存すべきと提言した。


「これならリスク対応としては妥当な戦略方針だ」とホフマンは述べた。両名とも海兵隊予備部隊にいたことがある。


だが予備部隊では第四戦車大隊A中隊がすでに解隊されている。第四大隊の六個中隊は大隊司令部と2021年までに解隊される。■


この記事は以下を再構成したものです。


The Marine Corps' big plans to get rid of its tanks could end up being a hassle for the Army


Gina Harkins, Military.com 18 hours ago


2020年8月9日日曜日

発足2年目の新興企業に極超音速機を開発させ、次期大統領専用機にする米空軍の大胆な決断

 

Hermeus 

 

 

空軍は高性能複合サイクルエンジンを推進力とする極超音速機の製造契約をハーメウス・コーポレーションHermeus Corporationに交付した。空軍は今回の契約をもとに高速飛行可能なVIP輸送などミッションをこなす機材の実現をめざすとしている。

ハーメウスは契約交付をAFWERXを通じ2020年8月6日に発表した。AFWERXとは米空軍が2017年に設立した技術インキュベーターだ。契約規模はおよそ1.5百万ドルでビジネスジェットほどの大きさで極超音速飛行可能な9から19席程度の輸送機設計の構想を確認する。

 

「空軍が求める高速機を既存の通信や空港、航空管制のインフラに統合する基礎作業により、そのまま将来の運用が可能となります」と同社報道発表資料にある。「さらに当社はテスト計画も準備し、技術リスクを下げ、空軍の要求性能の実現をめざします」

 

ハーメウスはアトランタに本拠を置く新興企業で今回の作業は空軍の大統領専用空輸局と実施する。同局はライト-パターソン空軍基地(オハイオ州)の空軍ライフサイクル管理センターにあり、ボーイング747を改装したVC-25A大統領専用機二機の管理にあたることで知られる。また更新機材のVC-25B二機の支援にもあたる。また757が原型のC-32A機材、737を改装したC-40クリッパー含む各種ビジネスジェットやターボプロップも管理している。

 

「大幅性能向上が敵の対応を狂わす上で重要だ」と空軍准将ライアン・ブリットン大統領専用空輸隊事業主幹が述べる。「民間投資を活用し空軍に新技術を応用すれば国防総省予算を最大限活用できる」

 

ハーメウスは2018年設立で極超音速技術を民生機材に導入することに注力している。設計の核心的部分が複合サイクルジェットエンジンで、同社は今年2月からテスト運転を始めていた。

 

複合サイクルエンジンとは従来型ジェットエンジンとラムジェット(スクラムジェット)を併用する技術で、後者は高速度域での未作動する。ラムジェットを付けた極超音速機はロケットブースターで設定速度域にまず加速する。

 

「当社の予冷技術を利用し、SR-71以上の速力を出せる条件で既存品のガスタービンを運用します。さらにラムジェットモードでマッハ4から5まで加速し、全域で極超音速空気取り入れ式推進を実現します」とハーメウスの最高技術責任者グレン・ケイスが説明している。

 

理論上は複合サイクルエンジンで通常型機同様に離陸し、極超音速域に加速し、着陸も通常通りに行い、特殊装備等は不要だ。低速域飛行中はジェットエンジンで飛行し、その後ラムジェットに移行する。実は同じ構想はロッキードのブラックバード後継機「SR-72」にも採用されている。既存空港施設を利用できる極超音速機ので民生用として大きな利点が生まれる。低速域運用も可能なため、これまで民生用超音速飛行に抵抗してきた飛行ルート下の居住地の懸念も解消できる。

 

「マッハ5だと時速3000マイル以上となり、ニューヨークからロンドンまで飛行時間は90分となり現行の7時間から大幅に短縮できる」とハーメウス報道資料にある。「高速飛行可能機ではスピードが差別化の手段となり、マッハ5機で世界経済が年間2兆ドル成長し、世界の問題解決に使える余裕が生まれる」と同社は報道資料で主張。

 

この技術は軍用にも応用できる。まずVIP用が新型機にはぴったりで、世界を迅速かつ効率的に移動したり、長距離飛行させるのがよいだろう。

 

このサイズの機体で極超音速あるいは超音速可能となれば情報収集監視偵察(ISR)、電子戦、あるいは長距離攻撃機に転用できる。ハーメウスは既存給油機に対応する空中給油能力も想定し、飛行距離がさらに伸びそうだ。

 

現段階では空軍もハーメウスとは初期段階にあるのみであり、実機がいつ実現するのか確かではない。契約規模も2百万ドル弱というのは高性能機材開発事業としては極めて小規模だ。

 

「大統領専用空輸局はハーメウス社を支援し、画期的な性能の実現をめざし、将来の機材を整備していく」とブリットン准将は声明文を発表。

 

ハーメウスの開発内容が今後のの空軍機材に反映される姿を考えると興奮してくる。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

Air Force Eyes Hypersonic VIP Passenger Aircraft In New Deal With Aviation Startup                  

BY JOSEPH TREVITHICKAUGUST 6, 2020