Hermeus
米空軍は高性能複合サイクルエンジンを推進力とする極超音速機の製造契約をハーメウス・コーポレーションHermeus Corporationに交付した。空軍は今回の契約をもとに高速飛行可能なVIP輸送などミッションをこなす機材の実現をめざすとしている。
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ハーメウスは契約交付をAFWERXを通じ2020年8月6日に発表した。AFWERXとは米空軍が2017年に設立した技術インキュベーターだ。契約規模はおよそ1.5百万ドルでビジネスジェットほどの大きさで極超音速飛行可能な9から19席程度の輸送機設計の構想を確認する。
「空軍が求める高速機を既存の通信や空港、航空管制のインフラに統合する基礎作業により、そのまま将来の運用が可能となります」と同社報道発表資料にある。「さらに当社はテスト計画も準備し、技術リスクを下げ、空軍の要求性能の実現をめざします」
ハーメウスはアトランタに本拠を置く新興企業で今回の作業は空軍の大統領専用空輸局と実施する。同局はライト-パターソン空軍基地(オハイオ州)の空軍ライフサイクル管理センターにあり、ボーイング747を改装したVC-25A大統領専用機二機の管理にあたることで知られる。また更新機材のVC-25B二機の支援にもあたる。また757が原型のC-32A機材、737を改装したC-40クリッパー含む各種ビジネスジェットやターボプロップも管理している。
「大幅性能向上が敵の対応を狂わす上で重要だ」と空軍准将ライアン・ブリットン大統領専用空輸隊事業主幹が述べる。「民間投資を活用し空軍に新技術を応用すれば国防総省予算を最大限活用できる」
ハーメウスは2018年設立で極超音速技術を民生機材に導入することに注力している。設計の核心的部分が複合サイクルジェットエンジンで、同社は今年2月からテスト運転を始めていた。
複合サイクルエンジンとは従来型ジェットエンジンとラムジェット(スクラムジェット)を併用する技術で、後者は高速度域での未作動する。ラムジェットを付けた極超音速機はロケットブースターで設定速度域にまず加速する。
「当社の予冷技術を利用し、SR-71以上の速力を出せる条件で既存品のガスタービンを運用します。さらにラムジェットモードでマッハ4から5まで加速し、全域で極超音速空気取り入れ式推進を実現します」とハーメウスの最高技術責任者グレン・ケイスが説明している。
理論上は複合サイクルエンジンで通常型機同様に離陸し、極超音速域に加速し、着陸も通常通りに行い、特殊装備等は不要だ。低速域飛行中はジェットエンジンで飛行し、その後ラムジェットに移行する。実は同じ構想はロッキードのブラックバード後継機「SR-72」にも採用されている。既存空港施設を利用できる極超音速機ので民生用として大きな利点が生まれる。低速域運用も可能なため、これまで民生用超音速飛行に抵抗してきた飛行ルート下の居住地の懸念も解消できる。
「マッハ5だと時速3000マイル以上となり、ニューヨークからロンドンまで飛行時間は90分となり現行の7時間から大幅に短縮できる」とハーメウス報道資料にある。「高速飛行可能機ではスピードが差別化の手段となり、マッハ5機で世界経済が年間2兆ドル成長し、世界の問題解決に使える余裕が生まれる」と同社は報道資料で主張。
この技術は軍用にも応用できる。まずVIP用が新型機にはぴったりで、世界を迅速かつ効率的に移動したり、長距離飛行させるのがよいだろう。
このサイズの機体で極超音速あるいは超音速可能となれば情報収集監視偵察(ISR)、電子戦、あるいは長距離攻撃機に転用できる。ハーメウスは既存給油機に対応する空中給油能力も想定し、飛行距離がさらに伸びそうだ。
現段階では空軍もハーメウスとは初期段階にあるのみであり、実機がいつ実現するのか確かではない。契約規模も2百万ドル弱というのは高性能機材開発事業としては極めて小規模だ。
「大統領専用空輸局はハーメウス社を支援し、画期的な性能の実現をめざし、将来の機材を整備していく」とブリットン准将は声明文を発表。
ハーメウスの開発内容が今後のの空軍機材に反映される姿を考えると興奮してくる。■
この記事は以下を再構成したものです。
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