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米海軍潜水艦部隊にアグレッサー隊が誕生。ただし....

 海軍は潜水艦アグレッサー部隊を発足させており、潜水艦戦、対潜戦双方に中国、ロシアを想定した対応の訓練に投入し、新戦術、新手順で脅威に対抗する。焦点となる分野の一つに電子戦の潜水艦運用への影響を見極めることがある。

 部隊は略称がAGGRONで水中戦開発センター(UWDC)に所属する。UWDCの本部のあるニューロンドン海軍潜水艦基地(コネチカット州グロートン)とポイント・ロマアネックス(カリフォーニア州サンディエゴ)に拠点を置く。同隊は2019年春から夏にかけて発足していたことが潜水艦部隊の公式出版物でわかる。海軍はAGGRONの立ち上げを2018年時点で発表していた。

「目標は経験にたけたレッドチームを相手に戦闘原則、戦略、戦術を磨き潜水艦乗員に戦闘シナリオを体験させること。レッドチームのつわものはリアル、ヴァーチャル含め訓練に投入していく」とチャールズ・リチャード中将(潜水艦部隊司令、当時)が2019年春に語っていた。「さらに遠隔地の攻撃指令所からレッドチームへ命令を伝える接続性を試す」「レッドチームの知見を潜水艦学校に反映できるようになる。アグレッサー部隊と最良の訓練シナリオの実現をめざしていきたい」


USN

ロサンジェルス級攻撃潜水艦USSアッシュビルがフィリピン海を浮上航行中。2020年6月



 アグレッサー部隊は「対抗勢力」OPFORとも呼ばれ、敵方つまり「レッド」部隊として実際に使われている戦術や教義を忠実に再現する。演習に現実味が加わり、自軍の「ブルー」部隊に実戦で敵が示す動きを体験する機会が生まれ、作戦構想が有効か試すことも可能となる。

 AGGRONで副司令をつとめる主任訓練教官の職務リストには「SUBFORで対抗部隊OPFORの性能を模擬する主任教官役を務める」とある。「DON(海軍省)及びDoD(国防総省)での敵勢力潜水艦戦およびASW(対潜戦)戦術の専門家になること」ともある。

 AGGRONは今後登場する戦術の有効度を試す手段として、さらに自軍能力をチェックする役目を負うことになりそうだ。さらに海軍が2020年8月13日付で発出した職務リストでは「潜水艦運用により各種電子戦(EW)プロジェクトを支援し、UWDCのAGGRONにおけるEW SME(該当分野の専門家)となること」との項目もある。

各プロジェクトの中身は不詳だが、電子戦は米軍内で関心が急速に高まっている分野であり、敵勢力でも同様で特にロシアの動きがある。今年初めだがロシア海軍も潜水艦発射式の使い捨てジャマーにより敵のソノブイを使用不可にできると発表していた。

 潜水艦の性能では海軍の秘密におおわれたネットワーク化電子戦エコシステムのNEMESIS(統合センサー対抗ネット化複合要素音紋)もある。ネットワーク化電子戦エコスシステムは今後の戦闘の様相を一変させる可能性を秘めている。潜水艦から無人潜水機を発進させる技術も進展しており、ここに電子戦ペイロードを搭載すれば間違いなく効果を上げるだろう。

 いうまでもなく、電子戦以外でも水中戦さらに潜水艦対潜水艦の戦闘には複雑な様相を示すものだ。敵の対戦部隊も水上あるいは空中から複雑な運用を迫られる。

 直接対決の形で訓練を米潜水艦とあるいは同盟国所属の艦と実施すれば、有効性を実証できる。米軍では空軍と陸軍にOPFOR部隊がすでにある中で海軍には潜水艦アグレッサー部隊があれば効果が期待されながら、これまで存在してなかった。

 ただし、AGGRONの前にも海軍は同じ構想を試している。2000年代中ごろにスウェーデンからMSwMSゴトランドを借り上げ、大気非依存型推進(AIP)方式のきわめて静粛なディーゼル電気推進の同艦をアグレッサー役に投入したことがある。ゴトランドは米海軍の原子力潜水艦やその他対潜部隊に実戦に近い体験の機会を実現した。米海軍はディーゼル電気推進艦運用を終了しており、世界各地で広く運用されている同方式の艦しかも高性能新型艦を投入したのはまれな機会となった。

USN

2005年サンディエゴの乾ドックに入るHSwMSゴトランド。米海軍が借り上げ運用開始した直後。


 そこで新編成のアグレッサー部隊がこのギャップを埋めるには相当の時間が必要になりそうだ。リチャード中将が想定していた部隊は海軍航空部隊の有名なトップガン戦闘機パイロット養成事業の潜水艦版だった。トップガンでは訓練後に原隊に復帰する。また一部は教官となり、自らが学んだ内容を後輩に伝えるのだが、潜水艦部隊にもこの構想が応用できると考えたのだ。

 リチャード中将は昨年、AGGRONはすでに知見の共有に取り組んでいると指摘していた。アグレッサー部隊は水上艦、固定翼機、回転翼基含む広範な対潜部隊全般にも恩恵を与えており、敵部隊を模す相手に技術を磨いている。

 残念ながらAGGRONには一つ重大な欠点が残ったままだ。少なくとも2019年末時点では専用の潜水艦を保有していなかった。とはいえ同隊にSSN数隻が配備されても、そのまま敵の戦力を反映するわけではない


RUSSIAN MOD

プロジェクト885ヤーセン級原子力誘導ミサイル潜水艦のセヴェロドヴィンスクはロシア潜水艦中で最高性能を誇る

 

 ロシアや中国では原子力推進の新鋭艦以外に高性能AIP搭載ディーゼル電気推進艦もその他各国と並び整備中だ。前述のように米海軍に同じタイプの艦がない。AGGRONもSSN向け演習でこうした艦がない中でディーゼル電気艦を模した運用を行うのは困難だ。

 ロシア、中国が潜水艦整備を進め、運用が活発になりつつあることへ懸念が高まる中、米海軍は潜水艦需要にこたえるのに苦慮し、定期整備も予定通り進んでおらず、AGGRONに専用艦が配備される日が早々に来るとは思えない。本誌では新型で低費用のディーゼル電気推進潜水艦を調達すれば、アグレッサー部隊の実効性があがると主張してきた。AGGRONで得られる成果は今後登場する新型原子力推進攻撃型潜水艦の開発にも資するはずだ。

 米海軍ではAIP搭載艦も含む同盟国の潜水艦との演習も定期的に実施している。その中で、ゴトランドと同様の借り上げ契約あるいはAGGRONが同盟国艦との共同訓練の機会を増やすことが現実味を増している。

 とはいえ、海軍に潜水艦アグレッサー部隊が初めて生まれ、現在のさらに将来の水中戦、対潜戦に対応する能力向上以外に潜水艦部隊にも現実の脅威への準備体制が高まることは間違いない。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

The Navy Now Has A Submarine Aggressor Squadron

 

  • The unit is intended to provide Navy submariners and anti-submarine forces with an opponent that fights just like a wide range of potential foes.

  • BY JOSEPH TREVITHICKAUGUST 14, 2020


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