2017年5月29日月曜日

★南シナ海航行の自由作戦で人工島6カイリ以内を通航した米海軍艦船と中国の反応




中国としては既成事実の積み重ねで逃げ切るつもりでしょうが、法による支配と相いれないとんでも主張であることは明確なのです。問題は北朝鮮他に目を取られる間に時間が経過することなのですが、今回の航行の自由作戦は意味が違うようです。中国といい朝鮮といい本当に面倒な隣国に日本は恵まれていますね。

USS デューイ(DDG-105)が南シナ海を航行している。 May 6, 2017. US Navy Photo

 

U.S. Warship Came Within 6 Miles of Chinese Artificial Island in Toughest Challenge Yet to Beijing South China Sea Claims

米艦が中国人工島から6カイリ以内を通航し、中国領有権主張に最大級の抗議を示した

 By: Sam LaGrone
May 25, 2017 1:04 PM • Updated: May 25, 2017 3:25 PM

  1. 米海軍駆逐艦が中国が造成した南シナ海内人工島から6カイリ地点を5月25日に航行し、中国主張へこれまでで最大の抗議活動となっていたと判明した。
  2. 同日現地時間午前7時にUSSデューイ(DDG-105)がスプラトリー島しょミスチーフ礁から6カイリ地点を航行したと米関係筋複数がUSNI Newsに認めた。
  3. 同艦は国際法で認める無害通航を行い、軍艦の権利として事前通告なしで他国領海を通航できる。
  4. 同艦はミスチーフ礁から12カイリ内を90分にわたりジグザグ航行した。乗員は艦外訓練も行ったと米関係者が伝えている。
  5. ただし航行中は中国フリゲ―ト艦が追尾し、無線で20回にわたり人民解放軍施設付近からの退去を求めてきた。
  6. 人民解放軍報道官は25日に中国海軍フリゲート艦部隊がデューイを「警告し遠ざけた」と伝えている。
  7. 今回はトランプ政権で初の航行の自由作戦(FON op)として中国の南シナ海領有主張に挑戦した形になった。USSデカター(DDG-73)がパラセル諸島でFON opを昨年10月に実施して以来となった。
2016年初めのミスチーフ礁。 CSIS Asian Maritime Transparency Initiative, DigitalGlobe Image

  1. ペンタゴン報道官ジェフ・デイヴィス大佐は航行の自由作戦の具体的事実を確認していない。「FON opsは通常通り実施しており、これまでと変わりなく、今後も継続していく」「作戦の総括は年間報告書で公表するがまだ刊行時期ではない」
  2. 反面、中国はデューイのミスチーフ礁航行の事実をさっそく確認し非難している。
  3. 「ミサイル駆逐艦USSデューイが南沙(スプラトリー)諸島付近に中国政府の許可なく進入してきた。中国海軍は合法的に同艦を米海軍艦船と識別し退去を求めた」と中国外務省報道官陸慷Lu Kangが述べている。
  4. 「米艦船の行動は中国主権の侵害であり安全保障上の利益も妨害するものであり、不必要な衝突につながりかねない行為だ。中国はこの行為に強く不満を表明し、明確に反対する」
  5. デューイが行ったFON opの性質、実施位置は人工島をもって領有権主張の根拠とする中国に明確にメッセージを送っている。
  6. 南シナ海ではほかにも人工島があるが、ミスチーフ礁の施設は他国の領有権主張と重ならない地点であることが異なり、引き潮時に姿を現す地点に建設されている。この事実は2016年のハーグ国際仲裁裁判所の裁定内容でも指摘されている。
  7. 国連海洋法条約では引き潮時の島しょはどの国も領有を主張できず領海の根拠とならない。
  8. 「今回はFON opsの中でも一番目立つ形となり、中国の南シナ海領有主張に真っ向から挑戦している」と米海軍大学校で国際法、海洋法、海洋政策を教えるジェイムズ・クラスカ教授がUSNI Newsに語っている。「その根拠はもし米国が無害航行と認識しないと領海ではなく、領海でなければ中国の領有主張が崩れる」
  9. FON opsを定期的に開始したのは2015年末のことで複数国が領有を主張する地点を対象に航行しており、中国の過剰な主張だけを対象にしたのではない。
  10. 戦略国際研究所内のアジア海洋透明性イニシアチブのグレゴリー・ポーリングは今回のミスチーフ航行は性格が違うとUSNI Newsに指摘。「ミスチーフは中国が領海外で実力占拠する唯一の地物featureであり、無害通航ではないFON opで現状に挑戦できる唯一の場所なのです」
  11. 「デューイはそのメッセージを送ったのであり、米国に関する限り、ミスチーフ礁とは人工島にほかならず、いかなる権利主張も発生しないと見ています。課題はこれを今後も続けるべきかという点です」
  12. USNI Newsは今月初めに国防長官官房が国家安全保障会議NSCに今後のFON opsの予定を提示し、NSCにいつ米艦船等の該当地区航行を選べるようにしたことを知った。NSC報道官からはNSCはFON op予定は把握していない旨の声明文がUSNI Newsに届いている。
  13. 南シナ海でのFON opsをカール・ヴィンソン空母打撃群が2月に同地を航行した際に実施できたが、ペンタゴンは同地区で意味のある戦略を構築する時間がなく見送られていたと国防関係筋複数からUSNI Newsに伝えられている。
  14. 今回の作戦はトランプ政権が承認した初の機会であったが、南シナ海では米艦船航空機は活発に運用されている。
  15. FON opとして地物の12カイリ地点を通航させるにはホワイトハウスの事前許可が必要だが、12カイリ地点の外側であれば米艦船はここ数か月継続して航行している。■
 
うーん、若干わかりにくい論理ですね。訳が間違っているのでしょうか。



ボーイングが新型極超音速スペースプレーン契約を獲得


ボーイングは長期間無人運航をして地球に帰ってきている謎の無人シャトルX-37で知見を有しており、今回の構想はX-37の延長という感じで契約受注は当然と言えば当然でしょう。まず国防用途のようですが、民間利用も開放されれば低費用と柔軟な打ち上げのパラダイムチェンジで低軌道上のビジネス活動にあらたな可能性が生まれますね。

Boeing beats out competitors to build hypersonic space plane

DARPA:極超音速スペースプレーン製造でボーイング案を選定

By: Jill Aitoro, May 24, 2017 (Photo Credit: DARPA)

国防高等研究プロジェクト庁DARPAがスペースプレーン試験機XS-1でボーイング案を選定した。極超音速機として低地球周回軌道に数日間活動する新しい構想だ。DARPAが5月24日に発表した。
「XS-1は従来型の航空機や打ち上げ機でなく言ってみれば二つを組みあわせ、打ち上げ費用を十分の一程度に下げて現在は必要とされる打ち上げ準備時間を短縮し必要なときに使えるようにする」とDARPAのジェス・スポネイブルが述べている。「ボーイングがXS-1のフェーズ1で進展を示していることをうれしく思い、今後も密接に協力しながら予算を確保したフェーズ2および3つまり機体製造と飛行段階に向かいたい」
XS-1は短期間で飛行可能となり低費用で宇宙空間に到達できる手段として宇宙機とジェット機の長所を組み合わせた構想だ。フェーズ1はコンセプト構築で三社が契約を交付され民間宇宙打ち上げ企業とタッグを組んだ。ボーイングはブルーオリジンと、メイステン・スペースシステムズXCORエアロスペースと、ノースロップ・グラマンヴァージンギャラクティックとそれぞれ連携した。
フェーズ2ではボーイングが技術実証機の設計、製造、試験を2019年にかけ実施する。まずエンジンの地上運転を10日間で10回行い飛行テスト前に推進系の有効性を確認する。フェーズ3の狙いはテスト飛行の12回ないし15回実施で2020年予定とする。うちフライト10回を10日以上内に行う目標があり、ペイロードなしでマッハ5程度の飛行からはじめ、マッハ10まで伸ばし、実証用のペイロード900ポンドを3,000ポンドまで増やし低地球周回軌道に乗せる。
DARPAはXS-1を再利用可能な無人機とし、大きさはビジネスジェット程度でロケット垂直打ち上げ方式で極超音速飛行を狙う。
「航空機同様に飛行しオンデマンドで宇宙空間に普通にアクセスする手段を実現するのは国防総省のニーズに答えるとともに将来の商用用途にも可能性を開く意義があります」(DARPAの戦術技術室長ブラッド・タウスレイ)■

★F-15.F/A-18の発展改修型を売りこむボーイングの勝算



ボーイングは商魂たくましい企業ですから既存機種を改良して性能威力を向上させて勝算ありと見ているわけです。F-35があることでF-15やF/A-18が逆に注目されるのは面白い現象ですね。もし日本がF-15Jを改修するとしたら三菱重工業で対応可能なのでしょうか。米空軍がF-XあらためPCAに向かう中、日本も大型ステルス機F-3開発に乗り出していますが、途中でF-15の大幅改修は避けて通れないのではないでしょうか。

攻撃任務では高性能版F-15は小口径爆弾16発、AIM-120AMRAAM4発、AGM-88HARM2発、JDAM-ER(2千ポンド)一発、600ガロン燃料タンク二個を搭載するCredit: Boeing

 

Boeing Touts Advanced Fighter Versions As ‘Different Animals’ ボーイングが売り込む高性能版戦闘機各型は「別の生き物」になる

Aviation Week & Space TechnologyMay 25, 2017 James Drew | Aviation Week & Space Technology


  1. ロッキード・マーティンのX-35がボーイングX-32を破り総額1兆ドルの共用打撃戦闘機に採用され、ボーイングはこれで戦闘機事業は先が見えたと考えたはずだ。だが16年たってボーイングのF-15とF/A-18は20年ほどのステルス熱狂時代を生き延び、旧式化する予測を跳ね返し、しっかり生き残っている。
  2. 一方でロッキードではF-35ライトニングIIと生産終了したF-22ラプターがともに費用超過と開発の遅れに苦しんでいるが、ボーイングはイーグル、スーパーホーネット、グラウラーの各機により高性能装備、センサーや兵装を組み込み、第五世代戦闘機に十分対抗できる機体になったとする。
  3. ボーイングはCH-47チヌークやAH-64アパッチの供用を2060年まで可能にする技術の順次応用「反復革新」により、同社の戦闘機生産ラインも2020年代初頭までの生産予定が確保され、さらにその先でも稼働させるとする。機体自体は2040年を越しても運用可能だ。
イーグル:ステルスはなくても火力はもっと強力になる
  1. 米海軍は当初構想どおりスーパーホーネットを全機導入したが、脅威の変化で120機程度の追加調達に向かいそうでブロック3機材を2019年以降に導入する。米空軍は120億ドルでC型イーグル、E型ストライクイーグルの改修を2025年にかけ行う。ここにはボーイング自社資金投入や海外運用国の改修分50億ドルはふくまれていない。
  2. ボーイングに言わせるとF-35やF-22に対してステルス性除けば十分対抗できる性能が実現しているという。高性能センサーや兵装がF/A-18やF-15に投入されているが、F-35では2020年代のブロック4まで待つことになるという。
  3. 低視認性や全方位ステルス性能はないが、「ドアを破れば航続距離、攻撃力、接続性を当社機材が提供します」とボーイングは説明。ボーイングのファントムワークスが開発中の新装備をF/A-18やF-15に搭載し統合防空体制下でもF-22やF-35同様に十分対抗できるようにする。戦闘シナリオの大部分では空対空、空対地、対艦攻撃のいずれでも「高性能版F-15」や「高性能版F/A-18」が理想的な機材になるという。
  4. 「生産中の航空優勢戦闘機でF-15に優る機材はありません」とボーイング・ミリタリーエアクラフト副社長F-15事業担当のスティーブ・パーカーは述べる。「同機の速力、高高度上昇性能、兵装搭載量以上の機材はありません」
Boeing fighter
ボーイングは電子戦能力、赤外線被探知性能の向上でF/A-18スーパーホーネットの残存性は大幅に向上すると説明。 Credit: Boeing

  1. 同社は以前提唱していた「サイレントイーグル」構想は取り下げた。兵装類を機内搭載しレーダー探知性を下げる構想だった。ボーイングによれば敵側もステルス性能に対して周波数変更で対抗しているという。またより強力なアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーの導入や長距離広範囲探査用の赤外線探知追尾ポッドが導入されつつある。
  2. サイレントイーグル構想で提唱された性能内容はサウジアラビア向けに引き渡しが進むF-15SAやカタールに提案中のF-15QAさらにイスラエルが検討中の高性能版機材に搭載される。
  3. 米空軍の改修策ではボーイングが世界最速の処理速度と説明するミッションコンピュータ(高性能ディプレイ・コアプロセッサーII)やきわめて強力な電子戦装備(BAEシステムズ製イーグル・パッシブ/アクティブ警告残存装備)を搭載する。
  1. ボーイングはレイセオン製APG-63(V)3 AESAレーダーを制空用F-15Cイーグル200機中125機に搭載し、さらにレイセオンのAPG-82(V)1をF-15Eストライクイーグル戦闘爆撃機200機近くに搭載する準備中だ。米国仕様のF-15技術ロードマップでは2025年までに120億ドルを投入することにしている
  2. 最新型イーグルではフライバイワイヤ飛行制御を導入し兵装装着ポイントNo. 1からNo. 9を利用可能とし、ソーティーあたりの兵装搭載量、センサー運用を増やしている。さらにミサイル22発を運用できる。
  3. 前席後席にデジタル共用ヘルメット装着目標標的システムが搭載し、将来は広範囲ディプレイを採用したコックピットや低照度ヘッドアップディスプレイを搭載すべくボーイングは各社と共同開発中。最新のF-15ではジェネラルエレクトリック製F110-129ターボファン双発をサウジアラビアが選定した。またGEのさらに強力なF110-132の搭載も可能でこれはアラブ首長国連邦がロッキードF-16E/Fに搭載中だ。
  4. 一番目立つ変更点は機体構造の寿命延長だ。米空軍が飛ばすイーグルは9千飛行時間まで供用できる設計だが、改修型F-15は主翼と胴体部分を改修し2万飛行時間まで延長する。
  5. 「全く別の生き物といってよいでしょう」とパーカーは言う。「見かけは同じですが、大きく異なる機体になっています。ロードマップではF-15を2040年まで供用する想定です」
  6. ほんの一二年前までボーイングはF-15とF/A-18双方で生産継続の見込みは少ないと見ていたが大きく様相が変わってきた。
  7. 現在の発注規模でF-15生産は2019年まで続けられると同社は見ている。追加発注で2022年後半まで伸びそうだという。「2020年代中頃までは確実ですね」とパーカーも述べる。ボーイングは「最大72機までの」カタール向けF-15QAの受注を固めており、中東では別の国も相当数の発注を検討中だという。おそらくイスラエルのことだろう。
  1. 米軍向けストライクイーグルの納入は2000年代中頃で終わったが、パーカーは新規受注に積極的だ。今のところ米空軍は新規製造のF-15に関心を示しておらずF-15Cの後継は第六世代機の侵攻型制空戦闘機(PCA)としている。PCA開発が完了し納入開始までF-15Cへの予算投入は続くとパーカーは見ており、1970年代製の各機を2030年代まで飛ばすべく構造面での改修が必要だとする。
スーパーホーネットの最新動向
  1. F/A-18では海軍はスーパーホーネット調達はF-35Cと並行し今後も進め攻撃戦闘機の機数を確保する。海軍は563機を導入済みだが、ボーイングとしては追加発注を期待したいところだ。2019会計年度以降に納入される国内外向け機材はブロック3仕様になる。
  2. クウェートは「上限40機」のF/A-18E/F調達を承認され、カナダも「つなぎ機材」で18機を新規調達し、旧式化したCF-18ホーネットに追加する。ただしカナダ向け商談はボーイングが提起しているボンバルディア商用機向けカナダ政府補助金を巡る論争の行方に左右されそうだ。そのほかインド、フィンランドでもスーパーホーネット売り込みが展開中で、カナダもさらに発注数を増やす可能性がある。ただし、デンマークではロッキードF-35に敗れ受注できなかった。
  3. グローバル戦闘攻撃機事業のグローバル営業部長ラリー・バートによれば含めF/A-18生産は2020年代中頃まで継続できるという。生産ラインの維持には年間24機のスーパーホーネット生産が必要だ。
  1. ブロック3も以前の機材から相当進化しているが、ボーイングはブロック4の性能検討も開始している。
  2. 「F-35はめざさない。すべてのミッションで第五世代機が必要ではないですからね」とバートは言うが、低視認性機体の新規開発よりF/A-18やF-15の性能を進化させていく方がはるかに容易だと指摘する。「ミッションシステムズ、センサー類は進化し続け、スーパーホーネットの性能は向上していきます」
グラウラーはどうなるか
  1. グラウラーはボーイング流の「反復革新」の例そのもので、米海軍は当初の88機導入を160機近くまで増やす。
  2. 海軍は同機の供用期間を2040年代まで延長する企画にとりくんでいる。「高性能グラウラー」で中心となるのがノースロップ・グラマンの次世代ジャマーで4月に重要な設計審査を通過したばかりだ。またグラウラー搭載のALQ-218レーダー警戒電子支援電子情報処理システムもノースロップが製造する。
  3. ボーイングによれば米海軍とグラウラー改修事業で交渉が継続中で、機体構造寿命を現行の6千時間を9千時間に引き上げる。GEのF414高性能エンジンをグラウラー、スーパーホーネット双方に搭載する案もボーイングが売り込んでおり、実現すれば推力が18%増える。
  4. グラウラーを運用するのは米国以外ではオーストラリアのみだがすでに次世代ジャマーの導入を決めている。カナダ、クウェート向けのスーパーホーネット商談ではグラウラー導入は入っていないとボーイングは確認している。■




2017年5月28日日曜日

★★米陸軍が韓国から事前集積装備を米本国に送付するのはなぜか



一見すると韓国の防衛を放棄するような話ですが、よく見ると米陸軍が即応体制の高い部隊を交代で各地に派遣する体制づくりに投入されるのですね。朝鮮半島の危機はまだ続くと思うのですが、もっと大きな視野で運用を考えているようです。

Pre-positioned US stock leaving South Korea to create armored brigade 前方配備装備品を韓国から米本土に送り装甲旅団編成に投入する米陸軍

By: Jen Judson, May 26, 2017 (Photo Credit: Capt. Jonathan Camire/U.S. Army)

WASHINGTON — 米陸軍は韓国国内に集積した事前装備を米本土に呼び戻し装甲旅団戦闘集団(ACBT)の編成にあてる検討中と米陸軍参謀総長マーク・ミレー大将が明かした。
  1. この動きは旅団戦闘チームで軽装備歩兵中心から強力重装備の装甲旅団戦闘チームに再編成する意味がある。米陸軍は歩兵旅団戦闘チームを第15装甲旅団戦闘チームに再編成し、第16旅団用には韓国内の事前配備装備を活用する。
  2. 陸軍の事前集積装備はAPSと呼ばれ、各戦闘司令部下で迅速即応が必要な事態で緊急作戦用に使う想定だ。ただし陸軍は装備品セットを訓練で消費した分の補充に振り向け、さらに必要に応じ部隊規模を拡大する。このため事前配備装備を払い出し以前よりも頻度が高くなっている演習に投入する。
  3. 参謀総長の発言では従来の中心が対テロ作戦や国内治安確保作戦がイラク、アフガニスタンにあったが、部隊戦力を再構築し再び大国を相手にした本格戦闘に備える必要を実感しているのだという。
  4. 議会公聴会ではテッド・クルーズ上院議員(共、テキサス)がミレー参謀総長に韓国内装備を米本国に送還する必要について問いただした。参謀総長は装備品の本国送付で編成する第16ABCTは交替配備で後日韓国に展開され、陸軍の戦略方針の一環となるとし「リスクもたしかにあるが、許容範囲のリスクだ」と答えた。
  5. 韓国内にABCTを順繰りに配備するのは陸軍が進める交代方式の部隊配置方針と合致し従来のような継続前方配備はとらない。さらに陸軍は交代部隊は完全装備状態にさせる。
  6. 1月に交代配備による初のABCTを欧州に派遣したが、ドイツのブレーマーハーヴェン港到着からわずか14日でポーランドで装備品すべてを運用可能になっている。
  7. 米陸軍の迅速交代部隊派遣戦略では長年保管したままの装備品も使い作戦能力を誇示する。
  8. 前方配備部隊に装甲旅団規模の重装備を常時配備すべきかで論争があるが、ミレー大将は迅速な部隊派遣体制を維持するほうが良いと見る。「戦闘能力を高いままで、全部隊を恒久配備した際の固定費が不要になる」からだという。
  9. また同大将は下院軍事委員会委員長マック・ソーンベリー議員(共、テキサス)から欧州の前方配備ABCTの見直しを交代派遣の費用との比較で進めるよう求めがあったと述べている。
  10. ただミレー大将は「当方の提言として交代派遣をこのまま続け、...一国から別の国への移動を続けるべきと考えるのは部隊を一か所に貼り付けておくわけにいかないため」と述べた。さらに旅団を恒久的に駐留させると購買部や学校まで含めた体制の維持につながり、軍属家族を戦闘発生の可能性ある地帯に送ることになると述べている。
  11. 交代で配備する旅団は「戦闘を視野に入れた訓練体制を維持し、訓練内容も意味のあるもになる」と付け加えている。■

2017年5月27日土曜日

★歴史に残らなかった機体(10)Tu-4はB-29のクローン爆撃機



映画「原爆下のアメリカ」Invasion USAにもTu-4と思しき機体が米本土を空襲するシーンがありますが(記録フィルムのB-29を使用)この経緯からB-29フィルムを使っても問題なかったわけですね。それにしても米側が知的財産の補償をロシアに求めなかったのはなぜでしょうね。

One of America's Most Dangerous Bombers Also Flew for Russia and China 米空軍最強の爆撃機はロシア、中国でも飛んでいた


May 26, 2017

  1. 歴史に残るという意味で広島、長崎に原爆投下したB-29に比類する機材は少ない。
  2. 余り知られていないがソ連にもB-29があった。ほぼ全面的に同じ機体で、B-29をコピーした同機もソ連初の原子爆弾空中投下を行った。
  3. 第一次大戦中のロシアは重爆撃機分野で進んでおりシコースキー設計のイリヤ・ムロメッツ四発複葉機はドイツ攻撃に投入されていた。戦略爆撃構想の元となり、運用概念はすぐに主要国に広がった。
  4. ただし第二次大戦までにソ連空軍(VVS)は戦線付近の目標攻撃をねらう戦術航空部隊になっていた。VVSには戦略爆撃機と呼べる四発機のPe-8は93機しかなかったが、英米両国は重爆撃機数千機を運用した。
  5. 大戦中の米国でB-29スーパーフォートレスは最も高額な機材開発事業になった。B-29は速力、航続距離、兵装搭載量のいずれも以前の機種を凌駕していた。また遠隔操作式の防御機関銃砲塔を備え、乗員11名は完全加圧式機内の恩恵を受けた。
  6. 新型B-29は太平洋戦線に1944年から投入され、長距離性能を活かし日本本土空襲を開始する。広島、長崎の原爆攻撃にくわえ 東京に恐るべき焼夷弾投下をした。中国国内で運用を開始し、新たに占領した島しょ部に基地を移動した。
  7. 当時のソ連は米国からレンド・リース方式で機材提供をうけていたが、モスクワは二度にわたりB-29提供を米国にもとめたものの、毎回ワシントンは断っていた。
  8. 1944年7月から11月にB-29が満州、日本の空爆後に計3機ウラジオストックに不時着をし、さらに四機目が墜落し機体が回収された。大戦中の米ソは同盟関係にあったが、ソ連はその時点で日本と交戦しておらず、ソ連は米機を接収し、機体返還の要請に応じなかった。乗員も数か月間抑留の後に中立国イランに送還された。
  9. 戦略爆撃機が喉から手が出るほど欲しいスターリンはツボレフ設計局に独自設計案を放棄させ、かわりにB-29の完全コピーを命じる。捕獲した一機は完全分解され、残りの機材は飛行訓練用につかわれた。
  10. 大規模盗作で最大の困難は単位の違いだった。B-29のヤード・ポンド法に対してソ連はメートル法で都度換算が必要なだけでなくアルミ素材や部品製造では測定器具から新しく調達する必要があったのだ。最終的に設計局が60か所、工場が900か所に新設された。
  11. この結果生まれたクローン機材はTu-4とされ、原型B-29より機体重量がやや増えたが、相違点はごくわずかだった。Tu-4が搭載した2,400馬力ASh-73TK星型エンジンは原型の二重サイクロンエンジンの2,200馬力より大きい。さらにB-29搭載の50口径機関銃のかわりに23ミリ機関砲が採用されている。
  12. Tu-4の飛行速度はB-29の348マイルよりわずかに低いが、運用最高高度はB-29の31千フィートより高いとロシアは自慢していた。標準爆弾搭載量も違っていた。B-29は最大20千ポンドを搭載したが、Tu-4は2,200ポンド爆弾6発を搭載した。さらにTu-4の航続距離はB-29後期型より短く、兵装搭載時に往復で900マイルまで進出できた。
  13. 対日参戦に踏み切ったスターリンは1945年になりB-29一機を返還した。その二年後に西側参観者が航空記念日のエアショーでツシノ空軍基地でB-29そっくりの機体が4機編隊で頭上を飛行し驚かされる。NATOは同機に「ブル」のコードネームを与え、戦略爆撃機に備えた防空体制の整備が急きょ求められた。
  14. Tu-4飛行連隊の編成は1949年に始まり、二年後に同機は歴史を作った。特殊改装したTu-4Aはソ連初の原爆投下機となり、42キロトンのマーリャ爆弾がセミパラチンスクに1951年10月18日投下された。
  15. Tu-4の生産は847機で1952年まで続き、冷戦初期のソ連戦略爆撃機場部隊の中心となる。しかしTu-4では米本土を爆機器して帰還する航続距離が不足していた。そこで一部に空中給油機能をつけこの問題を解決しようとしていた。
  16. 1950年代なかごろにはTu-4はTu-16バジャージェット爆撃機や今でも供用中の長距離型Tu-95に交代されている。最後のTu-4は1960年代にソ連空軍から退役した。
  17. Tu-4は機体サイズを活かし各種新技術の試験に使われた。空中給油技術、電子戦、放射性偵察等である。Tu-4NMはLA-16無人機を発進させ、Tu-4Kは対艦攻撃用にKS-1コメート(レーダー誘導方式対艦ミサイル)を50マイル範囲で運用した。またTu-70旅客機やTu-75貨物機の原型となった。さらにTu-4の三百機がTu-4D兵員輸送機に改装されている。
  18. スターリンはTu-4の10機を1953年に中国に供与し、中国は1988年まで供用していた。人民解放軍空軍はうち2機をAWACSに改装し、人民解放軍空軍博物館で展示されている。
  19. 結果としてB-29は米ソ両軍で有益性の高い機体となった。だがソ連の実例はリバースエンジニアリングで埋めることが難しい技術ギャップがほどんどないことを実証している。
Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
This first appeared in October of 2016.
Image Credit: Creative Commons.



2017年5月24日水曜日

★★歴史に残らなかった機体(9)ライアンXV-5



うーん、これはどうだったんでしょう。画期的な技術ともいえずパワーも不足気味だったのでは。しかしメーカーさんとしてはこのアイディアをどう展開するかそこはしっかり考えていたようで、夢の宴の後、といった感ですね。広告宣伝が先に行き過ぎたのですね。ライアンという会社は1960年代末に吸収合併されちゃいましたけどね。

RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES

Ryan Aeronautical Had Big Plans for the Vertifan Jump Jet ライアン航空機は自社ヴァーティファン技術に大きく期待をしていた


Company artwork shows proposals for vertical take-off and landing fighter jets, interceptors, sub hunters, and more. 同社イラストから戦闘機、迎撃機、対潜哨戒機他に展開する構想がわかる。


  1. 国防企業は自社製品売込みのためならなりふり構わなくなるものだが、対象製品が未来の戦争に直結しているとは限らない。とはいえ、冷戦たけなわの時期に公表された各社構想図をながめている中でライアン・エアロノーティカルが売り込もうとしたヴァーティファンVertifan・ジャンプジェットが気になる。
  2. ライアンの試作機XV-5Aヴァーティファンの初飛行は1964年5月25日で、試作機は二機作られ、米陸軍が発注したが、同社は試作機は次の段階へ進む一歩でジャンプジェット戦闘機を米空軍、海軍向けに西ドイツ空軍には迎撃機、対潜哨戒機、小型ゲリラ戦対応機材と各種用途で垂直離着陸技術の売り込みを期待していた。
  3. 1950年代末、米軍や同盟国の間にジャンプジェット技術へ関心が高まった。第二次大戦中の経験で滑走路を狙われれば、敵空軍の勝利は確実とわかった。さらに核兵器の登場でソ連により空軍基地が全部消去される事態を米国は恐れていた。
The two Ryan XV-5A prototypes. RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
  1. 同じ懸念を共有していたのが西ドイツでソ連やワルシャワ同盟軍の隣にいるためだ。滑走路をつかわずに垂直離陸できる機体なら原爆投下含む攻勢を受けても有効に反撃できる。
  2. 垂直離着陸機はたくさんの国が実験しており、構想は多様だった。ライアンの設計ではジェットエンジンを複数装備し、離陸用のファン複数は水平飛行、垂直離着陸双方に使うねらいだった。ただしファン動力は独立していない。水平飛行から垂直飛行への切り替えにパイロットはジェット排気を一度遮断しファンの方向を物理的に回していた。
  3. ライアンは米陸軍向け試作機でジェットエンジン双発でリフトファンを主翼と機首に備えた。ヘリコプターの性能と固定翼機並みの巡航速度で陸軍は近接航空支援と救難任務を一緒に実現しようとした。
The COIN Vertifan RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
  1. だがライアンは次も考えていた。想像図を見ると対ゲリラ戦用大型のヴァーティファン機が見える。図はXV-5とノースアメリカン・ロックウェルのOV-10ブロンコのハイブリッド版のようだ。図ではターボジェットエンジンで尾部プロペラを回している。場面は東南アジアのようで、当時米軍はヴィエトナムで戦闘拡大の最中だった。主翼下にはロケットポッドを搭載し前線基地から出動しゲリラを攻撃している。
Vertifan fighter jets for the U.S. Air Force. RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
  1. ライアンは米陸軍以外の採用も想定した。別の図ではXV-5に近い機体が二機飛んでおり、空軍戦闘機への採用を想像している。手前の機体は主翼下に増槽二つを付けており、機関銃は四門のようだ。当時はF-100スーパーセイバーが現役で、同様の兵装だった。
A U.S. Navy Vertifan refuels in mid-air. RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
  1. 別の図では胴体を延長した機体が海軍向け塗装でA-4スカイホークとF-4ファントム編隊と飛んでいる。A-4がヴァーティファンに「バディポッド」システムで空中給油している。図の機体が戦闘機仕様なのか不明で、攻撃機なのか、偵察機の想定なのか。武装搭載はないがポッドらしきものが主翼に見える。ライアンはもっと大型機の対潜機仕様も海軍に提案している。
RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
Luftwaffe Vertifan intereptors. RYAN AERONAUTICAL VIA THE SDASM ARCHIVES
  1. 次が西ドイツ向けヴァーティファン三機の図だ。皆XV-5より胴体が長くファン二つずつが機体前方と胴体についている。前方にはM61ヴァルカン砲らしきものが見え、鋭くとがった機首は迎撃用レーダー搭載にうってつけだ。
  2. 当時のルフトバッフェは積極的に射出式離陸でF-104迎撃機を運用しようとしており、別途に国産でEWR VJ 101を開発中だった。ドイツVFW社は1970年代までこの開発を続け、 VAK 191B試作機にが生まれた。だがいずれもドイツ軍により採用されなかった。
  3. ヴァーティファンは結局失敗に終わった。信頼性の問題もあり、他軍との競争に勝てなかった。1965年4月にXV-5A試作機一機が飛行中に破壊され、パイロットが死亡している。翌年に残る試作機も事故でパイロットが死亡。事故は救難ミッションを再現し、マネキンを負傷者に見立て引き上げる途中でファンの一つにひっかかり機体安定性が失われた。
  4. ライアンはあきらめず、各種改良を施したXV-5Bを完成した。不幸としか言いようがないのは同じころに米陸軍は空軍との戦いに敗れ固定翼機運用を断念した。空軍とその支持派が陸軍のヴァーティファンを葬ったといえよう。
  5. 空軍は同技術に関心なく、試作機を廃止した。ライアンはヴァーティファンの買い手を見つけることはできなかった。ただ米海軍と海兵隊はホーカーシドレーP.1127のテストを開始し、その後海兵隊向けAV-8ハリアーに1971年として実現した。■
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2017年5月23日火曜日

ヴィエトナムがF-5再生を実施?


観測記事に過ぎないのですが、機数確保だけが目的ならあり得る話です。ただし、高温多湿の環境に何十年も放置されていた機材をつなぎ合わせても完成は少数機にしかならず、実効性の弱い発想ではないでしょうか。ハノイの空軍博物館にはF-5も展示されていましたね。


Is Vietnam Really Planning on Bringing Back 50-Year-Old American Fighter Planes? ヴィエトナムは真剣に50年前の米製戦闘機の再整備を検討しているのか


The National InterestMichael Peck May 21, 2017


ヴィエトナムは南ヴィエトナムから捕獲した機齢50年の米製F-5を本当に再生しようとしているのか。それともロシア製機材の購入に向かわせるためのロシアの策略なのか。ハノイが西側機材導入に前向きとの観測がある。
  1. 問題の機材は1975年に北ヴィエトナムが南を制圧した際に捕獲したF-5だ。北はこの他に大量の米製戦車、火砲、銃砲(M-16が百万丁あった)も入手し、1970年代中頃のヴィエトナム軍は世界有数の重装備となった。そこにF-5Aフリーダムファイター87機、F-5EタイガーII27機があった。ノースロップ製の軽量戦闘機は低価格で米国が冷戦時に第三世界に輸出を進めていた。
  2. ヴィエトナムは機体評価用にF-5を数機ソ連圏に送り、ソ連パイロットはタイガーIIの性能に感銘を受けたといわれる。一方で残りの機材は1978年のカンボジア侵攻時にハノイが利用した。ヴィエトナム空軍の主力はもちろんソ連製機材だが、パイロットはF-5を好んだといわれる。特にコックピットと機体取り回しが楽というのが理由だった。しかし、交換部品不足から機材を使いまわし使用可能なF-5Eは減った。
  3. ながらくヴィエトナムのF-5は全機飛行できない状態と思われていたが今週になりロシアのスプートニクニュースが「タイガー戦闘機の復活がヴィエトナム航空界にどんな意味を持つのか」との記事を配信し、「ヴィエトナムのメディア」筋がF-5の再稼働を検討中だと記事で伝えた。
  4. 西側アナリスト陣にとってこの記事は驚きだ。「F-5は全機修理不可能だと思っていました」と東南アジア安全保障を専門とするザカリー・アブザ(米国家戦争大学校)は述べている。「先月もヴィエトナム訪問しましたがだれもこの可能性を話ていません」
  5. 一番興味をひかれる点はスプートニク記事は単なる報道でなく、ロシア軍専門家筋の分析を伝えていることだ。ロシアのマカール・アクセネンコはイスラエル企業が機材再整備を行うのと見ている。タイのF-5で実績があるためだ。ヴィエトナムの場合は「短期間で安価に戦力予備機材を確保する」狙いがあるという。
  6. ただし記事では再整備したF-5はあくまでも緊急手段であり、ヴィエトナムは新機材が必要と指摘する。同国はロシアSu-27、Su-30を約40機運用しているが隣接する中国と比較すればいかにも小規模だ。
  7. アブザは「ヴィエトナムは練習機、戦闘機を導入する意向を公表している」とし、「価格、性能、信頼性や親和性からスホイの追加導入が一番よいはずですが、かなり時間をかけて検討中なのでモスクワもいらいらしはじめているはずです」と述べる。
  8. 確かにここ数年間でヴィエトナムが欧米軍用機の導入に前向きになっているとの記事が数回にわたり出ている。2016年5月にバラク・オバマ大統領がヴィエトナム向け武器禁輸の解除を発表した。
  9. 「ヴィエトナムは最大のロシア製武器購入国に入り、最近こそ規模が伸びていませんが、モスクワとしては路線変更は歓迎できないのは間違いないでしょう」
Michael Peck is a contributing writer for the National Interest. He can be found on Twitter and Facebook.
Image: F-5E Tiger II. Wikimedia Commons/Creative Commons/Peng Chen

2017年5月22日月曜日

★★米海軍レイルガン開発の最新状況



レイルガンは砲弾自体の運動エネルギーで標的を破壊する構想ですが、莫大な電力が必要となるのがネックですね。海軍艦艇で対応が可能な艦が限られます。一方で並行して開発がすすむ新型砲弾HVPは既存火砲での運用も可能で効果が期待できます。

Navy Railgun Ramps Up in Test Shots はずみがつく海軍のレイルガン発射実験

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on May 19, 2017 at 4:00 AM

PENTAGON: 重量35ポンドの金属の塊がマッハ5.8で飛翔すると想像してほしい。毎分10回発射でき、砲身が使えなくなるまで1,000回発射できる。これが米海軍が進めるレイルガンで二年間以内に実用化する構想の進捗は順調だ。
  1. 「大きな技術進歩に向かいつつあります」と海軍研究部門のトム・バウチャー部長は述べる。バウチャーのチームが記者にペンタゴンで背景説明をしてくれた。省内での科学技術の展示会の席上だ。
  2. 三年前、当時の海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将がレイルガン開発を発表した。火薬を使わない電磁パルス効果の発射手段で海上試射をすると述べた。それ以降海軍は開発の方向性を変え、高速輸送艦(JHSVあるいはEFPと呼ばれる)に臨時配備するより陸上の恒久施設でのテストが費用対効果が高いと判断した。昨年11月17日にポトマック川を望む海軍水上戦センター(ヴァージニア州ダールグレン)にBAEシステムズが32メガジュールのレイルガンを設置し、初の射撃に成功した。(その時の様子はhttps://youtu.be/Pi-BDIu_umo を参照されたい)さらにレイルガン二基目が陸軍のホワイトサンズミサイル試射場(ニューメキシコ州)に搬入中で射撃用の空間が十分とれることから100カイリ以上という最大射程をためす。
  3. ホワイトサンズが長距離射撃性能を試す一方でダールグレンは兵装装備の確認が目的だ。これまでのテストでは中世さながらに砲撃を一日数回行っているだけだ。ダールグレンはバグ修正で毎時数回の発射をしようとしており、今年末までに毎分10回という目標の実現をめざす。比較すれば標準的な5インチ艦砲は毎分20発発射が可能だが、一分間で弾倉が空になる。戦艦の16インチ主砲は毎分二回だった。
  4. 毎分10回発射が可能となれば、ダールグレンは次に研究課題の中心を砲身寿命に移す。10年前の研究段階のレイルガンは発射一回で摩耗していた。莫大な圧力に耐える新素材で砲身の実現を目指すが現時点の試験用兵器では発射100回で砲身交換となる。目標は1,000回発射に耐える砲身の実現だ。
  5. 次の課題は出力だ。現在のレイルガンは 16 kg 弾を秒速2千メートル(マッハ5.8)で発射すると32メガジュールを毎回消費する。10回発射すれば20メガワット電力が必要だ。これだけの電力を供給できるのは原子力空母11隻とズムワルト級駆逐艦の3隻しかない。
  6. レイルガン発射には付帯設備が必要だ。一つのモデルがダールグレンにあり、海軍は20フィートコンテナー複数にバッテリーを満載し50回発射を可能とした。元海軍の戦略思考家ブライアン・クラークはレイルガンをEFP改装の輸送艦に搭載し、電源を貨物スペースに入れミサイル迎撃手段に転用できると述べている。
  7. レイルガン技術は現行の火砲にも応用できるので陸軍も欲しいはずだ。ペンタゴン戦略戦力整備室の支援を受けて、陸海軍は超高速発射弾Hyper-Veolocity Projectilesをレイルガンで実験しており、既存の5インチ海軍砲から155ミリ榴弾砲への応用も想定している。(HVPとしては共通だが異なる送弾筒sabotで包んでいる) 電磁インパルスの代わりに火薬を使うと初速は低くなるが5インチ砲でHVPを発射すると30カイリと通常の二倍程度の射撃が可能となる。
  8. HVPは火薬で発射できるがあらゆる点でレイルガンには匹敵しない。電磁発射式兵器は長距離に加え命中時の打撃効果が大きく、高性能火薬弾頭は不要となる。ただし巡航ミサイル迎撃のような重要任務の際はHVPを発射する火砲が30カイリ程度の範囲で第二防衛ラインを形成する。100マイルまでの長射程では大型レイルガンが対応することになる。■