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ウクライナ小麦輸出へ海軍部隊派遣を求める声があるが、実施前によく考えるべきだ

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SHUTTERSTOCK



世界的な小麦不足と食糧価格高騰は、黒海での海軍力行使を米政権に迫りそうだ。だが1915年の英国の行動から多くの教訓が得られる。慎重姿勢が求められる。


界は食糧危機に直面している。高度なまで最適化されたグローバルな貿易システムへの一連の衝撃のため、小麦価格が急騰している。戦争でウクライナの穀倉地帯へのアクセスが途絶え、輸送システムは混乱状態に陥った。天候不順は、穀物の主要輸出国の作物に損害を与えた。そのひとつインドは、収穫物ほぼ全部を輸出禁止にした。食料価格上昇に伴い、暴動と予測不可能な政治的影響が懸念される。心配した指導者たちは、ウクライナの小麦へのアクセスを再び確立しようと躍起になっている。


似た状況は以前にもあった。


今回の食糧問題では、「前例がない」との言葉が飛び交っているが、実は前例があった。1914年、トルコは黒海と地中海を結ぶ唯一の水路であるダーダネルス海峡を封鎖し、オデッサからのウクライナ産小麦の移動を妨害した。現在は、ロシアの黒海艦隊と、双方が敷設した機雷が障害となっている。効果は同じであり、力学もまた同じである。これを理解することは、米国が1915年に英国が犯した悲惨な前例を倣わないため重要であろう。


現在、米国は食糧をほぼ自給しているが、このような供給ショックに見舞われる可能性はある。食料不足はないだろうが、食料はグローバル商品であり、海外での混乱はあらゆる国の価格に影響を与えるため、米国人は上昇し続ける価格へ対処を迫られれるだろう。その結果、ワシントンに政治的圧力が高まり、100年以上前に英国指導者が犯したような過ちに米国の指導者が追い込まれ、米海軍と海兵隊に直接的な影響を及ぼす可能性がある。


第一次世界大戦の前に、英国政府は食糧安全保障を慎重に研究していた。輸入小麦に依存することがアキレス腱であることを認識した英国政府は、グローバル化した国際経済の中で、真の危険は実際の小麦の不足ではなく、小麦が入手できなくなることと結論づけた。供給の問題ではなく、システムの問題だったのだ。当時も今も、システムに大きな衝撃が加われば、小麦価格は暴騰しかねない。


1914年の終わり頃、英国の指導者たちが恐れていた小麦価格の高騰が、一連の出来事で引き起こされた。COVID-19パンデミックと同様に、第一次世界大戦の勃発は、国際経済を狂わせた。そして、世界の小麦市場は、大嵐に見舞われた。7大小麦輸出国が次々と閉鎖された。トルコのダーダネルス海峡封鎖でウクライナとルーマニアの小麦がストップ、アルゼンチンでは季節外れの大雨で作物が壊滅、オーストラリアでは大干ばつの年だった。北米では、異常な冬の寒さで鉄道や水路が凍り、米国とカナダの収穫物が市場に出回らくなったが、結果的には控えめな収穫量に終わった。さらに、インド政府は小麦輸出を禁止し、イギリスを激怒させた。インド産小麦は不作ではなかったが、高騰する価格に魅せられ、インドの中心地から小麦が吸い上げられ、バザールで価格が高騰し、国内政治の混乱を招いたのである。


ロンドンでは、小麦の世界価格が4倍になると予想されていた。貧民の不安を煽られ、パンの値段を下げることに躍起になった。しかし、西欧資本主義社会では、価格統制と配給制はイデオロギー的に許されない。小麦の先物取引を秘密裏に行い、市場の機密情報の漏洩を防ぎ、期待値を操作した。しかし、市場の力はあまりにも強く、コントロールできなかった。


そこで英国閣僚は、最後の手段として、若き精力的な海軍大臣ウィンストン・チャーチルが提唱したダーダネルス海峡の強行突破を検討しはじめた。案はチャーチルの思いつきで、何の戦略的意図もない作戦と当初は見なしていたアスキス首相も、政権の維持という最も切実な戦略的意図を見出した。ウクライナの小麦を再入手できれば、穀物価格が下がり、パン暴動を回避できるだけでなく、イギリスの同盟国であるロシアが喉から手が出るほど欲しい外貨を獲得でき、イギリスから多額融資を受けずに済むようになる。価格統制や配給制という強引で政治的に不穏な選択肢に比べれば、「ダーダネルス海峡を襲撃する方がはるかに簡単で安上がりだ」とのケインズ発言が記録されている。海軍と軍の上級幹部は、失敗の危険性と潜在的な影響力を警告したが無視され、かわりに「できる」と断言する将校を優先した。



結果は大失敗だった。ダーダネルス海峡を攻撃した艦隊の4分の1が(機雷で)沈没した。損失を取り戻したい欲望から、エスカレートの論理が支配的となった。イギリスは、ガリポリへの上陸攻撃で事態収拾を図った。これは屈辱的な敗北となり、アスキス政権の崩壊に直結した。さらに、上陸直後、イギリス政府はオデッサに小麦在庫がないのを知り、愕然とした。農場から穀物を運ぶ列車が、収穫前にすべてロシア軍に徴発されてしまったのだ。 


ここから、今日の米国が学ぶべきことが2つある。


まず、穀物の価格高騰を前に何もしないという選択肢はないだろうが、行動するリスクを理解し、認識する必要がある。海軍を派遣して護衛任務や機雷掃海を行えば、長期かつ高リスクの作戦となり、エスカレートの危険性も高い。国内の政治・経済問題を解決するため、軍事的な解決策を押し付けること、あるいは軍事的な解決策しか残さないようにすれば危険と言わざるをえない。事態は手に負えなくなる。


1915 年時点の英指導者たちは、軍事行動のリスクを過小評価し、インフレの中で生活し、配給制を受け入れ、ロシア向け大規模借款を支払う形で国民に犠牲を求めれば選挙に影響が出ると恐れていた。ダーダネルス海峡での軍事行動は、英国人に何かを断念する要求するのを避けるためと思われたかもしれないが、犠牲を納税者や消費者からガリポリで戦い死んでいった兵士に移しただけだった。


今日、自国民に犠牲を求めることに熱心な欧米政府はないようだ。そして、小麦の作付けが始まるカナダ西部(世界最大級の小麦輸出国)の状況が、今年は最適とはいえないため、食料価格の上昇傾向は続くだろう。カナダの収穫が予想より少ないと確認され、さらに米国で中間選挙が近づいていることから、バイデン政権への圧力が高まるに違いない。


第二の教訓は、米国は、ウクライナの小麦がオデッサから輸出可能であり、さらにこれから輸出されるとの主張を前提にした作戦に賛同する前に確認が必要だということである。ウクライナ産小麦が港で眠っているのは確かなようだが、処理施設は機能しているのか?岸壁は荒れていないか?また、通常、小麦を農場から港に運ぶの鉄道インフラはロシアの猛攻に耐えられているのか?港にある穀物はサプライチェーンの一部でしかない。サプライチェーンとは、農場から港までのベルトコンベアーと考えた方がいい。重要なのは、介入は単に入出港し、小麦を掴んで出発すれば終わりではないということだ。小麦は流れなければならないし、それには時間がかかるし、時間が経てばリスクも高まる。



Ukrainian corn, wheat, and sunflower crops

ロシア侵攻前にウクライナは小麦の世界市場で9%のシェアだったが、戦闘によりウクライナから搬出できなくリ、世界の食品価格上昇につながっている(Shutterstock)

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だが米国が教訓を学ぶ見込みは怪しい。ひとつには、米軍の指導層は、戦略的環境を構成するグローバル経済力の理解に関心を払っていない。この関心の欠如のため、政治家と政治家自身の条件に合わせることができず、政治的問題の解決に必死な民間に蒸し返される脆弱性を高めている。一方、政治・経済・戦略の各要素のダイナミックな相互作用について、文民指導者が把握できているかは不明である。過去20年間、各政権は一貫して軍事行動に頼りすぎ、その結果生じる影響を過小評価してきた。商務省、財務省、農務省が米海軍の上級幹部と会談し、商業的な海洋の流れを話し合ったのはいつが最後だっただろうか。定期的に開催されるべきなのに、なぜ開催されないのか。まるで、軍民の双方がそれぞれ片隅に引っ込んで、戦略、政治、経済が相互に作用し、何十億人の運命を決定する中間地点で会うのを拒否しているかのようだ。


この夏、食糧価格が上昇し続ければ、バイデン政権に対して黒海に米海軍を展開せよという圧力がかかるだろう。小麦2千万トンを運ぶには海路しかない。その前に、ホワイトハウスと国防総省は、ガリポリと1915年の英国の教訓を考慮する必要があろう。行動を起こすコストは、消費者が毎日のパンのために支払うコストより大きくなると判明するかもしれない。■


Look Before You Leap


By Nicholas A. Lambert

June 2022 Proceedings Vol. 148/6/1,432

COMMENTARY VIEW ISSUE

https://www.usni.org/magazines/proceedings/2022/june/look-you-leap?mc_cid=1937a3c0c2&mc_eid=75a6d71837


Nicholas A. Lambert

Dr. Lambert is author of The War Lords and the Gallipoli Disaster: How Globalized Trade Led Britain to Its Worst Defeat of the First World War (Oxford University Press, 2021), which is short-listed for the Gilder Lehrman Military History Prize.


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