スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナに勝利の可能性はない----軍事面の現実を直視しよう----侵略国ロシアを容認することはできないが

 Russia

Russian artillery firing. Image credit: Creative Commons.

 

増え続ける犠牲者...戦いの潮流はウクライナに不利に傾いているという冷酷な事実

 

 

シアによるウクライナへの侵略戦が始まり数週間後、ロシア軍がキーウ郊外で停滞していることが明らかになったため、欧米ではウクライナが最終的に勝利すると考えるのが普遍的に近くなった。識者の多くには、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ軍に武器と弾薬を十分持たせるだけでよい、との主張まで登場した。しかし、4カ月が経過した今、状況はロシアに有利であると明らかになっている。

 軍事的に見れば、ウクライナが戦争に勝利できる合理的な道筋はない。軌道修正しなければ(しかもすぐに)、ウクライナ全土が最終的に危険になる可能性がある。

 開戦から数週間、ロシア軍兵士がキーウとハルキウ北部のウクライナ軍兵士に「大敗」した後、多くの識者がロシア軍を「無能」と断じ、勇敢さと技術が広く賞賛されるウクライナ軍(UAF)を破るのは不可能であると示唆した。

 4月下旬、キーウを訪れたオースティン国防長官は、西側諸国は「適切な装備」と「適切な支援」を提供できるとゼレンスキーに伝えた。オースティンは、ウクライナの勝利と「ロシアの弱体化」を望んでいた。戦場での直接支援に加え、西側はプーチンから継戦能力を奪う目的で経済的手段も行使していた。

 戦争の初期にバイデンは、ホワイトハウスが「史上最も影響力があり、協調的で、広範囲な経済制限」になると評した制裁を発動した。6月3日、欧州連合(EU)は第6弾として、ロシアの石油とガスの大半の輸入を一部禁止する制裁措置を発動した。こうした懲罰的な経済的措置のねらいは、プーチンがウクライナで戦争を続ける能力を弱め、停止させ、キーウが戦争に勝つため装備を整えることにあった。しかし、この戦略はともに失敗しているのが明らかになりつつある。

 開戦3カ月間、米国とウクライナ双方の指導層は、ウクライナ国内からロシアを「追い出す」と示唆し、キーウはいかなる領土もロシアに譲り渡す交渉解決は受け入れないと、ほぼ例外なく肯定的に発言していた。しかし、今週初め、ロンドンのThe Independent紙は、漏洩したウクライナ機密報告書の一部を公開し、これまでよりはるかに厳しい戦場の現実を暴露した。

 それによると、戦争開始から100日以上にわたるロシアのウクライナ軍への執拗な砲撃により、ソ連時代の装備の大部分が破壊され、砲弾の在庫も枯渇したという。その結果、ウクライナの前線部隊は、砲兵では20対1、砲弾では40対1という驚異的な劣勢に立たされている。航空戦力(1日あたり出撃最大300回、ウクライナは3〜5回)や兵力でもロシアが優位に立ち続けているのを考えれば、ウクライナがドンバスで手詰まりになっているのも無理はない。

 ウクライナのオレクシー・レズニコフOleksiy Reznikov国防相は、毎日100人以上のウクライナ戦死者(1日200人に近いという報告もある)、500人以上が負傷と認めている。ゼレンスキーは、ロシアがウクライナ領土の20%以上を占領しており、日に日に増えていると認めている。ウクライナ指導者が、侵略国に国土を譲り渡すつもりがないのは十分理解できるが、それ以外にも考慮すべき厳しい現実がある。

 つまり、ウクライナは領土を手放すべきか否かではなく、今すぐ領土を手放して被害をここで抑えるのか、それともいつの日か全土を取り戻す期待して戦い続けるのか、多大な犠牲を払いながら、領土をさらに失わない保証もない中で選択を迫られる。例えば、今日でもウクライナはドンバスの重要部分(北部のスラビャンスク/クラマトルスク峡谷、中央部のアブディフカ地域、南部のドネツク地域の大部分)を保持している。ハルキウやオデーサは今も完全にキーウの支配下にある。だが時間が経つにつれて、ウクライナが支配する都市リストは縮小していくだろう。

 欧米がウクライナに重火器とくに榴弾砲に必要な大量の大口径砲弾を提供しても、ウクライナの火力面での大きな劣勢を均衡させるのは、ほぼ不可能だろう。米英両国が最近供与した最新のロケットランチャーでも、バランスを大きく変えないだろう。

 ゼレンスキーとウクライナ国民は、戦闘継続は国民と都市と軍隊にさらなる死と破壊をもたらすだけで、敗北は食い止められない醜い見通しにまもなく直面する。軍事面の基礎条件と戦力は、モスクワに有利だ。キーウとその勇敢な人々の敗北を回避して、時間経過とともに各要因は好転しそうにない。これが戦争の醜く苦しい現実なのだ。■

 

There Is No Military Path for Ukraine To 'Defeat' Russia - 19FortyFive

ByDaniel Davis

 

Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who deployed into combat zones four times. He is the author of “The Eleventh Hour in 2020 America.” Follow him @DanielLDavis1.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...