ドイツ・ハンブルグにあるDESY HERA 粒子加速器 SIMONWALDHERR
使用済み核燃料をリサイクルし、より安く、より危険の少ないものにできれば、中国がエエナジー自立にちかづく。
中国科学院現代物理研究所が最近完成させた試作型「粒子ビーム砲」は、SFに聞こえるかもしれないが、原子炉から発生する危険な廃棄物をリサイクルする斬新な新技術だ。中国が原子力エナジーシステムへ莫大な投資をしてきた成果の画期的技術で、中国はエナジー自給に向かい、天候にやさしい技術での世界的リーダーシップがさらに強固になる。
典型的な核分裂炉では、ウラン235のような重い同位体原子がばらばらになり、エナジーを放出する。その際、余分な中性子も放出され、これが他の原子と衝突し、連鎖的に原子をバラバラにする。壊れた原子は使用済み燃料となり、数年間冷却され、数世紀にわたり慎重に保管される。しかし、今回の「大砲」、つまり陽子加速器を使う新型原子炉では、使用済み燃料をリサイクルし、安価で安全な電気を作れる。
加速器駆動システムaccelerator-driven system(ADS)は、陽子を発射する陽子加速器、核分裂させる重元素を入れる核破砕ターゲット、核分裂させる燃料を入れる未臨界炉の3部分で構成し、陽子加速器から発射される陽子と核破砕ターゲットで核分裂を発生させる。陽子加速器は、使用済み燃料と新しい核分裂性物質(トリウム232またはウラン238)のブランケットに囲まれた重元素(ビスマスが多い)に陽子を発射する。標的は分裂し中性子を放出するが使用済み燃料に吸収され、核分裂性の重い同位体、つまり新しい核燃料に変わる。
重要なのは、このプロセスが自己完結型であり、連鎖反応やメルトダウンの危険性がないことだ。現代物理学研究所の加速器プロトタイプの完成は、ADS実用化に向かう大きな一歩であり、先進的な原子力エナジーシステムへの中国の巨額投資が、技術革新という配当をもたらした典型例と言える。
原子力を完全放棄した多くの国と異なり、中国は核分裂を未来への鍵と見なしている。原子力は風力や太陽光より効率が良く、化石燃料とは異なり、温室効果ガスや粒子状大気汚染物質を排出しない。石油消費量が世界第2位の中国は、エナジーをより多く必要としており、不安定な立場に置かれている。中国の石油の70%は、主に中東輸入に頼っており、海上交通の要所多数を通過しなければならない。中国は2035年までに4400億ドルを投じ、原子炉を少なくとも150基増設する。中国がADS技術開発を続ければ、原発から出る廃棄物を有効利用し、増大するニーズに合わせてさらに多くのエナジーを生産する再利用が可能となる。
中国は安全な新システムを開発することにより、放射性物質の漏出や制御不能な連鎖反応の可能性を低減しようとしている。福島とチェルノブイリの原発事故は、最も有名な最悪の例だが、中国も2021年6月、広東省泰山原発で燃料棒破損による放射能漏れが発生し、問題に直面した。中国は、新世代の海洋浮体式原子力発電所に100億ドル近くを投じる計画で、核分裂より安全な方法として核融合も模索している。
中国は原子力分野では米国を圧倒している。2009年以降、米エナジー省DOEが原子力のインフラと耐障害性を向上させるため支出した額は9億ドル未満にすぎない。DOEが、燃料サイクル研究開発への2400万ドルを含む、原子力大学プログラムへの4880万ドルの追加を発表したことは、米国の原子力コミュニティの基準からすれば、大きなニュースだった。DOEの200億ドル規模のクリーンエナジー実証室の原子力プロジェクトに、さらに資金が投入されるかもしれない。
米国ではジョージア州ウェインズボロ近郊のボグル3・4号機の2基が新設され、もう1基のニュースケール炉は計画段階だ。それ以前の米国最新の原子力発電所は、それぞれ1996年と2016年に開所していたが、原子炉21基が廃炉になっている。全米電力に占める原子力の割合は20%前後を維持しているが、2050年のエナジーポートフォリオ予測では、原子力の割合が著しく低下するとある。
中国の粒子線加速器と ADS研究は、同国の産業、エナジー戦略、そして技術から気候変動に至るまで、広範かつグローバルなリーダーシップで重要となる技術だ。米国も技術革新へ投資を続ければ、同様に新しい選択肢や技術が実現可能になるかもしれない。
ADSで可能となる先進的な原子力エナジー源は、従来よりはるかに安全であり、気候変動に関する目標を世界が今後数十年で達成するため重要になるというのが、大半の専門家の意見だ。
中国がエナジー・リーダーシップに向け疾走しているのは確かだが、中国だけが利益を得る構図にしてはならない。■
China's 'Particle Beam Cannon' Is a Nuclear-Power Breakthrough - Defense One
By THOMAS CORBETT and PETER W. SINGER
JUNE 13, 2022 10:19 AM ET
Thomas Corbett is a research analyst with BluePath Labs. His areas of focus include Chinese foreign relations, emerging technology, and international economics.
P.W. Singer is Strategist at New America.
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