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ウクライナ戦から最初に得られた知見:統合防空ミサイル防衛体制への教訓

 Neptune Anti-Ship Missile

  ネプチューン対艦ミサイルImage Credit: Creative Commons.

 

シアとウクライナの死闘が新局面を迎えているが、米国と同盟国・同志国はこの熱い戦いから得られた重要かつ新しい洞察に耳を傾けるべきだ。100日以上にわたる激戦の後、米国と同盟国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)に対する明確かつ説得力のある見解が明らかになってきた。ミサイルと無人航空機(UAS)双方に対抗するIAMDの有効性は、今回の紛争における重要要素で、発射側と防御側の競争は進化し続けている。この力学と得られる重要な教訓を明確に理解することは、米国と同盟国が欧州、インド太平洋、その他世界各地で作戦アプローチを強化・修正しながら、能力整備し能力不足を緩和するため不可欠だ。ただし、今回はオープンソース情報で得た初期の洞察と予備的な教訓であるため、詳細な評価とより完全なデータからの洞察と修正が今後予想される。

 

 

ミサイルの脅威とIAMD

ロシア=ウクライナ紛争では、大量のミサイルやUASによる攻撃例が確認されている。ロシアは弾道ミサイル(主に短距離弾道ミサイル(SRBM))、巡航ミサイル、極超音速ミサイル、空中発射弾道ミサイルの合計2,100発以上を発射している(2022年5月25日現在)。さらに、各種プロファイルを持つミサイルと補完的な能力(例えば、サイバーやUAS)を投入した大規模かつ複雑な一斉発射が、同時またはほぼ同時にターゲットを攻撃するため使用されている状況には懸念すべき理由がある。

 使用されたミサイル種類の決定的な内訳はまだない。戦前のロシアのSRBM用TEL(Transportable Erector Launcher)の在庫から、TELの大部分(約150基)はイスカンダル(NATO名称イスカンダルMまたはSS-26ストーンなど)用の可能性が高い。イスカンダル砲台はSRBMと巡航ミサイル双方を発射できるが、大半はSRBM用だろう。ロシアの巡航ミサイルは、地上(TELを使用)、爆撃機や戦闘機による空中発射、水上艦や潜水艦による海上発射が可能だ。このため、紛争前のSRBMミサイルの発射台数、初期のミサイル攻撃やミサイル攻撃報告(主に巡航ミサイル攻撃と思われる)に基づき、ウクライナに発射されたロシアのミサイルの60%以上が、各種の巡航ミサイルであった可能性が高い。ロシアが発射した巡航ミサイルは、100日目までに120発と約1割が撃墜されている(ウクライナ政府関係者)との報告から、1000発を超えているとの見方もある。

 以前の報告では、巡航ミサイルが高い比率で目標に命中していないとされていたが、最近の米北方軍司令官グレン・ヴァンヘルク大将General Glen VanHercの証言で、この点に疑問が持たれている。 ウクライナは巡航ミサイル撃墜に一定の成果を上げているが、発射元(あるいは「射手」)を攻撃する能力がない。ミサイル(「矢」)を1発ずつ撃ち落とすことは、対ロシアIAMDの長期戦略として効果的ではない。発射場、発射装置、関連機器(レーダー、BMC2など)の破壊に成功すれば、もっとインパクトがあり、民間人、軍人、重要資産を防護できる。

 米国と同盟国(欧州をはじめ世界各国)が学ぶべき重要な教訓は、適切なIAMD能力だけでは不十分であることだ。IAMDシステムは、十分な規模を獲得し、紛争が始まる前に十分な態勢を整え、攻撃から保護されるべきだ。健全な態勢を整えるには、資産の分散、冗長性のある指示や警告に基づく分散、保護が必要だ。IAMD資産(S-300、PAC-3、THAADなど)の保護には、硬化シェルターやカモフラージュ-コンシールメント-ディセプション(CCD)などの受動的防御手段、対UASや巡航ミサイル防衛などの能動的防御、発射直後の反撃能力、敵発射機に対する報復攻撃能力などが必要である。イスラエルのミサイル防衛計画の父であるウジ・ラビン博士 Dr. Uzi Rabinによると、ウクライナ軍は初期に「S-300ランチャー22基と他の短距離地上配備型航空防衛(GBAD)砲台17基を失った」。 Jane’sのオープンソースのバトル・ダメージ・アセスメント(BDA)では、ウクライナのIAMD資産の防御力が相当低かったのを、受動的能動的両面で示しており、ラビン博士の報告書もこれを検証し、「効果的な防御がないため、ウクライナの空軍基地、物流センター、弾薬庫はロシアの深部攻撃用精密巡航ミサイルに大きく晒された」と述べている。

 

教訓と今後の方向性

ウクライナの能動的な防空・ミサイル防衛は、ロシアの脅威と航空戦力に対し、多くの専門家が戦前に考えていた以上の成果を上げたようだ。原因をロシアの失敗とウクライナの成功に求めてる専門家が多いが、まだ確定していない。とはいえ、紛争初期の数週間で、IAMDシステムと主要航空基地を失ったにもかかわらず、ウクライナ全土の既成事実づくりを阻止する点でウクライナ側の成功が重要要素だったようだ。

 米国、同盟国・同志国は、今回の紛争の終了後も、IAMDの教訓を分析する必要がある。分析から、IAMD資産の受動的防衛と、UAS、巡航ミサイル、弾道ミサイルに対する複合的かつ能動的防衛に関する勧告が出る。発射システムを軽減または排除するため、JP 3-01に規定されているような残存装備からの発射および攻撃作戦のための強化されたアプローチと、報復攻撃能力を開発する必要がある。さらに、この紛争におけるUASと対UASの相互作用、IAMD資産防衛の意味について包括的評価が必要だ。

 

 

 ロシア・ウクライナ紛争は、米国、同盟国・同志国のIAMDへのアプローチ、特に巡航ミサイルと UASに対する能力格差が大きいことを露呈している。米国および同盟国の各軍は、現在のところ、短期解決策をほとんど提供していない。例えば、米陸軍の間接火器防護能力増分2-迎撃ブロック1(IFPC 2-I)は、巡航ミサイル防衛能力や能力を実戦配備しておらず、米国外での配備やプレゼンスに何年もかかっている。対UASでは、米陸軍はIM-SHORADを記録的な速さで配備し、機動低速小型無人航空機統合防衛システム(M-LIDS)など新しい対UASシステムを採用しており、陸軍長距離持続センサー(ALPS)など重要センサーの開発も大きく前進している。その他IAMD能力にも同じような緊急性を促すべきだ。さらに、IFPC 2-I の遅延による能力ギャップを埋めるために、米海兵隊のアイアンドーム、戦略能力局(SCO)の超高速地上兵器システム、国家最新鋭地対空ミサイルシステム、日本の陸上自衛隊の中SAM、指向エナジーソリューションなど、他の選択肢も検討する必要がある。最後に、フランス製ミストラルがロシア巡航ミサイル撃破に成功したなど、携帯型防空システムの報告も少なくない。こうした技術革新も分析すべきであり、米国、同盟国・同志国のため、より専門的なシステムが実戦配備されるまでのつなぎとして追求すべきものもある。

 米国、同盟国・同志国が欧州とインド太平洋における防衛能力を強化するためには、完全統合された戦闘管理指揮統制(BMC2)も開発、実戦配備せねばならない。BMC2は、弾道、巡航、UASの脅威に対する防空とミサイル防衛を統合するよう設計とし、各軍およびパートナー国の統合を含める必要がある。MDAは弾道ミサイル防衛分野で成功を収めており、複数のミサイル脅威に対する地域的な防衛設計をサポートするアーキテクチャの開発で大きな進展を遂げている。MDAは、米国欧州司令部(EUCOM)、米国インド太平洋司令部(INDOPACOM)、国土安全保障省の支援を進めている。進行中の開発は、JADC2(Joint All-Domain Command and Control)の構想を最も具現化したものと言えるそうだ。C-sUASと従来の航空・ミサイル防衛(AMD)をBMC2で接続し、各軍や同盟国を完全統合するため、さらに作業が必要だ。

 

Kalibr Cruise Missile

カリブル巡航ミサイルを発射するロシア艦Image Credit: Creative Commons.

 

限定的ながらウクライナでの能動的防空・ミサイル防衛の成功は、特に巡航ミサイル防衛と対UASのため、IAMDを大規模展開する強力な根拠となる。米国では、対UAS 能力の成功の道筋がいくつか見えてきているようだ。しかし、巡航ミサイル防衛については、本国、EUCOMやINDOPACOMのいずれでも進展がなく、米国具体的な行動はまだないままだし、BMC2による統合・合同IAMD資産を主要同盟国同志国と統合する重要性にも気づいていない。■

 

Integrated Air and Missile Defense: Early Lessons from the Russia-Ukraine War - 19FortyFive

ByCarl Rehberg

 

About the Author: Dr. Carl Rehberg is a Non-resident Senior Fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments. Carl was founder and director of the Headquarters Air Force Asia-Pacific Cell, which played a pivotal role in the development of Air Force strategy, force development, planning, analysis and warfighting concepts supporting initiatives related to Asia-Pacific and the DoD Third Offset Strategy. Carl spearheaded the establishment of the China Aerospace Studies Institute (CASI) and led the development of innovative concepts and capability proposals to improve DoD’s joint resiliency and integrated air and missile defenses. Prior to this assignment, he was the Assistant Associate Director for AF Strategic Planning and Director, Analysis Division in the AF QDR organization, leading multiple assessments of future capabilities and force structure.


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