スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナに西側新鋭防空ミサイルの新規供与、米政府がまもなく発表か

 


NASAMS

Kongsberg

ウクライナは、ソ連時代の地上配備型防空システム(NASAMS)の装備更新を必要としている。



クライナからの度重なる地上配備型防空システム要求は、米国がNASAMS(National Advanced Surface-to-Air Missile System)を供給すると発表する日が近づいてきたとの報道により、実現しそうな雰囲気になっている。同システムは、ウクライナ側が過去に導入検討したものだ。

CNNが匿名の情報源を引用して報じたところによると、ウクライナ向けNASAMSシステム購入に関する米国の発表は、今週にも行われるようだ。このシステムは、キーウへの武器やその他の最新支援パッケージとして、砲兵弾薬や対砲兵レーダーとあわせ提供される見込みだ。

NASAMSの納入時期は明らかにされていないが、ウクライナ軍はシステム運用の訓練に時間を費やす必要がある。また、現段階ではシステムの数や総額も不明だが、CNN報道を見ると当初は一個のみのようだ。

NASAMSで AIM-120 AMRAAMミサイルを試射した. Kongsberg

ジェイク・サリバン国家安全保障顧問は本日の記者会見で、詳細は説明しなかったが、ウクライナが新型防空システムを入手する予定であると確認した。

「米国がウクライナに提供する準備を進めている高度な防空能力について、具体的な内容の報告を目にした。最終決定の過程にあることを確認できる。システムの詳細には触れません。しかし今週、大統領がG7の首脳に話したように、またゼレンスキー大統領に話したように、米国はウクライナ軍の高度な中・長距離防空能力を含むパッケージを最終決定の意向で、緊急に必要な他のアイテムもここに含まれる」。

以前、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、レイセオンがノルウェーのコングスベルグ・ディフェンスと協力して開発したシステム、NASAMSの提供をノルウェーに要請していた。ノルウェーは開戦以来、自走砲など重火器をウクライナに提供しているが、NASAMSの譲渡例はない。

ウクライナへの米国の次の安全保障措置は、先週発表された450百万ドルの軍事援助に続くものと予想される。このパッケージには、M142高機動砲ロケットシステム(HIMARS)4、パトロールボート18、105mm榴弾砲3万6000発のほか、戦術車両や小火器などが含まれる。

NASAMSは、現在ウクライナで使用されているS-300シリーズのような上位のSAMシステムの射程はないが、開戦以来同国に提供された地上配備防空システムの大部分を構成していた携帯型武器から大きく前進となる。また、ソ連時代の短・中距離防空システムよりはるかに近代的だ。さらに、紛争が始まって以来、ウクライナのS-300発射台少なくとも20が破壊されたと確認されており、喪失分のロシア製装備の代替品を調達する選択肢はほとんどない。

サリバン発言にある「ウクライナ軍の長距離防空能力」については、謎のままだ。ペイトリオットSAMシステムが将来納入されれば、NASAMSの上位互換として高い能力を発揮し、対弾道ミサイル能力も向上する。しかし、現段階では、ウクライナに向かう可能性のあるその他のシステムについて公式な情報はなく、単にNASAMSを説明したに過ぎない可能性がある。

NASAMSの性能は、冷戦時代のBuk(SA-11 Gadfly)に近いとされる。ブークは最大交戦距離22マイルだが、NATOやその他の友好国からウクライナに譲渡できる数が限られるという点では、S-300と同じ問題がある。

NASAMSの最大射程も約20マイルと比較的限られているため、重要インフラや人口密集地の防衛に最も適しており、米国ではワシントンDCを守るために常時配備されている。ウクライナがNASAMSを手に入れれば、先週末3週間ぶりにミサイル攻撃を受けたキーウを守るために配備されたとしても不思議はない。

NASAMSは、これまでの紛争でロシアが多用してきた低空飛行の巡航ミサイルとの交戦も想定する。NASAMSは、高度1,000フィート以下から50,000フィート以上の高度で標的と交戦可能と言われる。この能力は、有人戦闘機に対する大きなアドバンテージとなる。ウクライナ空軍のMiG-29パイロット「ジュース」は、巡航ミサイルのレーダー断面積の低さ、特に低高度飛行経路と第三者による電子戦妨害が重なると、戦闘機の旧式レーダーや目視では探知が不可能になると語っている。「これで毎日、巡航ミサイルを大量に破壊している」。

ロシアのミサイル攻撃に対抗する能力の強化を、ゼレンスキー大統領が今日のG7首脳との会談で呼びかけた。国家安全保障補佐官ジェイク・サリバンは、「同大統領のプレゼンテーションの最初の要求は、防空システム増強だった」と確認した。「特に、キーウなどウクライナ都市への一連のミサイル攻撃と、空中のロシアミサイルを撃ち落とすことができる追加の防空能力を得たいということが、念頭にあった。大統領はこの件に関して積極的に対応した」。

NASAMSのもう一つの利点は、ウクライナで使用中のAN/MPQ-64センチネルレーダーと組み合わせて使用できることだ。

さらに、ノルウェーが設計した配備センター(FDC)を介して、レーダーとミサイル部隊をNATO標準のデータリンクでつなぎ、分散配置が可能だ。9基のランチャーをフル装備し、ミサイル54発が発射可能だが、実際には72発の同時発射を管理できる。ネットワークは、ノード一部が破壊されたり、オフラインになっても、残りのノードが機能し、冗長性を持つ。このため、ロシア航空宇宙軍で増えている対レーダーミサイルKh-31Pシリーズ(AS-17クリプトン)を中心とした敵防空制圧(SEADS)任務でも、はるかに有利になる。

NASAMS部隊は通常、レーダー以外に、電気光学/赤外線センサーを搭載した車両も少なくとも1台含む。このセンサーは、敵がNASAMSに照準を合わさせるレーダー放射を行わず、パッシブにターゲット交戦を可能にし、生存性をさらに高める役割を担う。このセンサーは主に、敵標的を正確に識別するため、さらに交戦後のキル・アセスメントに使用される。

NASAMSの正確なバージョンは不明だが、現在NASAMS 2と3の両方が運用されており、後者が生産中である。NASAMS 2がAIM-120 Advanced Medium-Range Air-to-Air Missile (AMRAAM)の地表発射型であるのに対し、NASAMS 3は改良型AMRAAM-ERミサイルを採用している。AMRAAM-ERは、AIM-120C-7の弾頭とシーカーに、RIM-162 Evolved Sea Sparrow Missile(ESSM)のモーターを追加したもので、AIM-120C-7の弾頭とシーカーを搭載する。AMRAAMが選択肢の1つであるということは、NATOやその他の国々が自国の在庫から空中発射式AIM-120、特に旧型AIM-120A/Bをウクライナに提供できる可能性を意味する。さらに、NASAMS 3は、主に巡航ミサイル撃墜を目的とした赤外線誘導の短距離ミサイルAIM-9Xサイドワインダーを搭載できる。

さらにNASAMS 3には、欧州共通のIRIS-T SLミサイルを搭載するオプションもある。この形態で、M113装甲兵員輸送車にシステムを搭載した「移動式地上配備型防空システム」として、ノルウェーに発注されている。ウクライナのシステムにもこの技術が生かされている可能性があり、ドイツはすでにIRIS-T SLを供給すると約束しているが、これが利用可能となるのは早くても年末になるようだ。しかし、IRIS-TミサイルをNASAMSに搭載すれば、ドイツが供給するシステムと共通化できるという利点がある。

初期型のNASAMS1も、在庫があれば魅力的な選択肢になるかもしれない。第一世代のNASAMSは運用を終えているようで、ノルウェーの在庫の状況は不明だ。しかし、確保できれば、複雑でなく、輸出状況にも左右されにくいという利点がある。

 

ノルウェー軍のNASAMS部隊Soldatnytt/Wikimedia Commons

もう一つの選択肢は、ノルウェーが選択したM113ベースのオプションのようなNASAMSの移動型か、あるいはウクライナでも使用中のハンビー多目的実用車の後部に装備されたバージョンをウクライナが受け取ることだ。AMRAAMと組み合わせれば、米軍向けに開発されたSLAMRAAMシステムに近い構成になる。

AMRAAMを装備した Humveeをレイセオンが提示している  Wikimedia Commons

全体として、ロシア軍がウクライナ上空で大規模な航空戦力を行使し続けているのは明らかだ。米当局は、ロシアの航空作戦への評価で最新情報をあまり提供していないが、マリウポリ陥落後に大幅に減少した後でも、5月中旬には24時間で140回の出撃を記録している。同市の奪取前は、毎日250〜300回程度だった。一方、今月時点で、ウクライナのパイロットは1日20〜30回しか出撃していないという。

ウクライナ空軍は現在、ロシアが大きく前進中のウクライナ東部の部隊を支援するため、地上攻撃に重点を置いている。攻撃的な活動を行う航空機が増えれば、重要目標を守るため、また地上配備の防空システムの必要性はさらに高まる。さらに、NASAMSにAIM-120 AMRAAMミサイルが搭載されれば、ウクライナ空軍の戦闘機にも同ミサイルが搭載されることになり、ウクライナで同兵器の供用が確立される可能性がある。

ウクライナはソ連時代の戦闘機を西側モデルに置き換えるよう常に要求しており、その動きの前にAMRAAMを納入すれば、AMRAAM運用能力を持つ航空機を確保できる可能性が生まれる。注目すべきは、NATO以外のF-16輸出先の中には、AMRAAM取得を許可されていない例もあることだ。ウクライナの戦闘機パイロットは、優秀なロシアの戦闘機と対峙するため、AMRAAMのようなアクティブレーダーミサイルを最も必要な装備として挙げている。

ここ数カ月、ウクライナに供給されたさまざまな兵器の中で、NASAMSは際立っている。これまで納入されたSAMのほとんどは、肩から発射されるミサイルや、車両に搭載された同様の赤外線誘導ミサイルなどの低レベルの装備品であった。長距離型S-300PMUは1基しか納入されていない。

ウクライナのMiG-29パイロット、ジュースは、3月にThe War Zoneの取材に応じ、NASAMSを受け取る希望について次のように語っていた。「クソ高いことは理解している。しかし、それはこちら優先事項でもあるので、意思決定プロセスを開始する必要がある」。

「SF」が現実になる日が近づいてきたようだ。■

 

Ukraine To Get Same Surface-To-Air Missiles That Protect US Capital: Report


BYTHOMAS NEWDICKJUN 27, 2022 1:47 PM

THE WAR ZONE

 


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...