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IPEFには安全保障の意義もある。中国へ対抗する域内経済メカニズムの機能を正しく理解しよう。

 

NHK


IPEFは安全保障の意味を有する経済構造だ。


国へ対抗し、地域の経済的関与を促進するため米国が主導する取り組み「インド太平洋経済枠組み」が正式に始動した。インド、ベトナム、インドネシア、タイ、ブルネイ、フィリピンが、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアが枠組み交渉に参加し、貿易を中国から米国に振り向けさせる。新協定が成功するためには、経済的要素や機会が新しく生まれる中で、既存の安全保障同盟枠組みを活用する必要がある。


経済同盟

インド太平洋を支配しようとする勢力にとり、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の参加は不可欠だ。だが米国は遅れを取り戻す必要がある。過去数十年間、米国は中東と北大西洋へ優先順位を置いてきた。アジア太平洋諸国は、米国からの経済支援は期待できないことを理解していた。中国にとってASEANは経済面で重要な同盟国だが、実はその真価は輸出志向の中国に海上アクセスを提供することにある。中国がASEANに注目するのは、偶然ではない。


ASEAN and the IPEF


 ASEAN諸国の経済発展には、強力な経済大国と同盟を結ぶしかない。中国の経済問題は、投資プロジェクトの停滞、貿易の不安定化、環境・社会問題による「一帯一路」構想の頓挫などがあり、信頼性が疑われている。COVID-19の大流行やウクライナ戦争などを考えれば、ASEANは安定したパートナーを必要とする。米国経済は比較的安定しており、米国は中国封じ込めのため、アジアに軸足を移そうとしている。

 インド太平洋経済枠組み(IPEF)は、ASEAN諸国を米国のルールや基準に合わせる方法だが、加盟国間の経済活動を活性化させるのが重要だ。IPEF参加国は、デジタル貿易と貿易円滑化、クリーンエナジーと脱炭素化、サプライチェーン強靭化、汚職防止と税金を対象の交渉を継続することだけ約束している。各分野で何を交渉するかは署名国が決定し、各分野でオプトインやオプトアウトが可能だ。(ASEAN加盟国は、中国を怒らせたり関係を危うくしたくないので、柔軟性が初期段階で重要となる。)


China-ASEAN Trade & Investment


礎石

しかし、IPEFに安全保障の要素があることは否定できない。加盟国の参加を確保しようとするワシントンの戦略は、安全保障上の利益の共有を軸に、既存同盟国の強化、インドとの関係改善、南シナ海の権利主張国との関係改善という3本の取組みで構成している。

 既存の安全保障上の同盟国がIPEFの自然な基盤となる。日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどだ。各国はいずれも、貿易の多様化や政治・軍事行動の活性化により、インド太平洋がより強く、より弾力的になるのを望んでいる。

 日本と韓国の地理的位置が特に重要だ。日本と韓国は黄海と東シナ海に面し、太平洋に直接アクセスする中国を制限するのに役立つ。日本と韓国は、歴史的な不満や中国への対抗で相違があるが、ともに地域における米国の軍事プレゼンスを支持し、経済が非常に発達しており、中国が地域覇権を握るのを阻止することに関心を持つ。IPEF枠組みを通じ、日本と韓国に有利な貿易ルートを開拓し、中国に依存してきた地域諸国を日本と韓国の経済軌道にしっかりと固定できる。

 オーストラリアとニュージーランドは、米国の安全保障機構にさらに密接に統合されている。英国、カナダとともに情報同盟「ファイブ・アイズ」のメンバー国であり、歴史的なルーツ、共通の文化、安全保障上の利益を共有している。米国と豪州は、太平洋の海洋問題で緊密に協力している。豪州は米国の海軍資産に戦略的拠点を提供し、米国は海上貿易に大きく依存する豪州の商業利益を守るため軍事支援を提供している。キャンベラは、北京に代わる存在としてIPEFに特に熱心だ。注目すべきは、ニュージーランドがIPEFにやや懐疑的なことだ。中国との貿易関係があるためだ。ニュージーランドは、潜在的な影響をもっと容易に判断できるよう、今後のIPEF交渉で選択肢の明確かつ詳細な定式化を望んでいる。協定は、ASEAN諸国との貿易リンクと新しいサプライチェーンを提供することで、中国に代わる実現可能な選択肢を提供する可能性を秘める。しかし、ニュージーランドには、韓国と同様に、対中関係を慎重に管理する必要がある。

 第二に、インドとの関係強化も重要だ。インドは地理的位置のため、中国を陸路で西に封じ込める米国戦略にとって極めて重要だ。インドは、米国、日本、オーストラリアとともに四極安全保障対話に参加しているが、グループ内で最も慎重な存在だった。米国は、IPEFが安全保障協力の促進につながる経済的インセンティブになるよう期待している。一方、インドはIPEFを、他の地域を走る輸送や供給ラインをIPEFに移動させることによって、自国影響力を東・南東に拡大する機会と考えている。さらに、IPEFの取り組みは、ネットゼロ経済への移行、電気自動車製造の世界的ハブとすること、クリーンな再生可能エナジーへの移行など、インドの国家経済開発イニシアティブの多くと合致している。

 また、インドがIPEFに参加することで、タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポールなど、インド貿易の重要性が増している国々の参加を促進することも重要だ。こうした各国はインフレが進んでおり、食料と燃料の安定的な輸入が必要だが、インドが提供できる。インドがIPEFを通じ提供できれば、4カ国は対中依存度を大きく下げられる。

 残るIPEF参加国であるフィリピン、ブルネイ、マレーシアは、中国の約束の失敗に幻滅している国であり、したがって米国には絶好のタイミングとなる。各国は安定した外国直接投資の流入でインフラの近代化を必要としている。一帯一路プロジェクトはフィリピンとマレーシアで停滞しており、ブルネイは約束額の投資を受けていない。米国、日本、韓国は自由で開かれたインド太平洋の枠組みを通じ、これらの国々における中国の一帯一路の取組みに対抗し、場当たり的な取り組みを進めている。この枠組みは、地域内国家の福利を向上させる意図では有望なものの、十分に構造化されていないままの仕組みとなっている。IPEFは、こうした各国の経済活動を改善し、インフラのニーズを満たすため先進国経済との結びつきの強化、アクセスを支援する。

 しかし、IPEF加盟のその他国と同様、経済関係の改善には安全保障の側面もある。この三カ国は、長引く南シナ海紛争で海洋領有権を主張している。もちろん、中国との関係で緊張を強いられる。だが、3カ国が単独で中国に対抗し、揺さぶりをかけることはほとんどない。米国や日本、韓国など安全保障上の強力な同盟国の支援があれば、中国から離れ、米国に接近するよう誘導できるだろう。

 IPEFに含まれていないASEANのメンバーもいる。カンボジア、ミャンマー、ラオスだ。各国はASEAN内で発展が遅れており、特に海外直接投資で中国に最大に依存しているため、参加要請を受けなかった。中国と関係が近すぎ、国内事情もワシントンにとって障害になりすぎるためだ。

 その他国も有望な候補であることは間違いないが、疑問がないわけでもない。その参加は、協定のルールと構造、裕福で熱心で地理的に便利なパートナーである中国を回避するのに本当に役立つのかにかかる。米国にとっては、これ以上ない好機といえよう。■


A New Trade Pact in the Indo-Pacific - Geopolitical Futures

By Victoria Herczegh -June 13, 2022


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