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制裁措置はロシアに対する経済戦争だ。冷戦時を思わすその効果でロシアの軍民両部門は今後苦しむことになりそう

 

Russia Sanctions

Russian military drilling with artillery. Image Credit: Creative Commons.

 

対ロシア技術戦争の行方

ロシアがウクライナ侵攻を開始した直後、米国はじめ各国は、モスクワに対して史上最も積極的な技術的制裁を開始した。

 ある意味で、冷戦時代にロシアの技術を締め上げた努力に類似している。冷戦時代、ソ連を国際的な技術開発から切り離すことが、米国の大戦略の中心だった。ソ連を孤立させるのが、米国による封じ込め政策で一貫した要素の1つだった。

 

冷戦型制裁で崩れるチップの信頼性

トルーマン政権やアイゼンハワー政権は、ロシアを技術から切り離せば、ソ連の経済力、ひいては軍事力に長期的な悪影響を与えられれるとの結論した。今回の制裁措置は、ロシアの科学技術発展を長期的に阻害するねらいがある。

 ウクライナで捕獲・破壊されたロシア製兵器を分析した結果、ロシア製兵器は西側コンピューターチップに強く依存している実態が明らかになった。自立した国で最も自立した産業であっても、統合と相互依存は避けられない。ロシアの軍事力への影響は重要だが、それは本筋ではない。

 ロシアは戦場で失った分を新規生産で補うことは不可能だろう。そのためロシアの戦車製造が遅れても決定的な要素ではないだろう。もっと重要なのは、ロシアの技術的な競争力に出てくる長期的な影響だ。影響は、軍事分野より、民生分野に強く出てくるはずだ。ロシアの航空業界は制裁を受け、今後数カ月はスペアパーツが不足し、メンテナンスに時間がかかるため、大きく打撃を受ける可能性がある。

 

中国が助けてくれるかも

もし中国が、西側諸国との関係を犠牲にしてまでもロシアを支援すると決意すれば、ロシアの技術的な問題の一部を解決できるだろう。しかし、中国は西側制裁の標的になることに強く敏感さを示してきた。中国のテクノロジー企業は世界経済と深く結びついており、世界市場から切り離されては困る。

 中国政府と技術部門の民間企業間の関係は複雑だ。中国政府がロシアを支援したくても、業界を強制的に動かせるかは明らかではない。ロシアと世界の二者択一なら、中国は世界を選んでもおかしくない。最後に、中国はロシアのテクノロジー企業をハッキングし、ロシアの状況を利用することを躊躇していない。

 

ロシアは深みにはまっていく

ロシアは、国際的な知的財産保護義務を放棄することで、自らを苦しめている。短期的には、西側の知的財産を流用するとの約束は、ロシア人にとって非常に魅力的に聞こえるだろう。一挙にモスクワは西側を攻撃し、西側のテクノロジー企業を傷つけ、コネのある企業に利益を分配することができる。しかし、ロシアが頼りにする中国企業は、ロシアによる知的財産権の侵害に対しユーモアのセンスは絶対にないだろうし、モスクワが知的財産保護に無頓着であるとわかったため、中国ハイテク企業はロシア市場に関わることを考え直すかもしれない。

 冷戦時代のソ連への科学的消耗戦は、物理的・知的レベル双方で戦われ、ソ連の学生、科学者、エンジニアが米国や他の西側諸国で学ぶ能力に大きな制限を加えた。米国の政策立案者は、特にハイテク分野で中国人留学生のビザ発給制限を示唆したため、米国の大学多数が中国との協力関係を縮小する措置を取ったのは確かだ。

 ロシア人留学生(約5000人が米国で学んでいる)を米国から追い出す提案をした議員があらわれたが、ほとんどフォローアップがないままだ。前述の航空会社の問題で多くのロシア人にとって海外渡航は物理的に難しくなっているが、正式な方法には制限されてはいない。もちろん、今はデータの流れがはるかに容易で、特定の場所に行くのは、冷戦時代ほど重要ではない。ロシアの学生、科学者、技術者を西側から排除して、リベラルかつコスモポリタンな価値観の基本的な放棄でないとしても、あまり意味がない。

 この戦争の意味についてロシアの考え方は、まだはっきりしない。モスクワは、西側の制裁の規模を予想し、侵略の代償とした上で、利益がコストを上回ると判断したのだろうか。プーチンは、戦争は短期終結し、西側諸国が忘れると考えたのだろうか。それとも、ロシアは制裁を巧みに利用し、国内の能力を高めつつ必要な技術にアクセスするつもりなのだろうか。 短期的には答えが出てこない問題だ。■

 

America Is Using Sanctions to Wage a Technology War on Russia - 19FortyFive

ByRobert Farley

 

Now a 1945 Contributing Editor, Dr. Robert Farley is a Senior Lecturer at the Patterson School at the University of Kentucky. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), and Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020).

 


 

コメント

  1. ぼたんのちから2022年6月12日 17:58

    ウクライナ戦争の帰趨は未だ鮮明でないが、結果の如何に関わらず、ロシア経済、及び軍事の大きな後退は間違いなく、少なくても今後10年は新たな冒険的行動の選択肢はないだろう。経済制裁は、即効性はないものの、長期にわたってロシア経済を締め付けることになる。
    米国は、競争する大国を近隣国への紛争へと駆り立て、その国力を奪う戦略を採ったと思われる。この思惑は見事に嵌まり、ロシアとプーチンは、歴史の舞台から降りることになる。
    さらに同様の出来事が東アジアでも起きる可能性がある。この場合、ロシアの役回りは、CCP中国であり、ウクライナは、台湾、そして日本となる可能性がある。
    CCP中国の台湾侵攻は、当然、台湾の強い抵抗を生み、さらに台湾がCCP中国に占領されたら死活的問題となる日本の参戦を促すかもしれない。そうなれば日中戦争となり、焦点は米国の介入の有無となる。米国の支援が無ければ、戦争の帰趨は全く不明になる。
    米国は、CCP中国/PLAが十分損耗したのを見計らって参戦しようとするかもしれない。PLAは容易に撃破されるだろう。この結果、米国は、将来30年以内に競合するかもしれない大国、日中露の国力を大きく損なうことができ、世界覇権が強化できることになる。
    このシナリオは、ただの憶測でなく、米国がすでにウクライナ戦争前に決定し、使用された戦略であり、東アジアでも同じ戦略を使う可能性を、日本は認識すべきである。このような認識があったとしても、日本の介入は避けられないだろう。
    さらに同様の認識をCCP中国も持つと考えない方が良い。CCPは、米国の思惑を中国国内の井戸の底からしか見ていない。愚かな行為を起こさないとの根拠は全く無い。

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