2016年2月17日水曜日

★シリアへの地上軍展開でサウジアラビアはシリアの「流砂」で立ち往生しないか



日本からは今一理解が難しい中東情勢ですが、ここまで深刻になっている問題をどう解決するのか、答えはむき出しの暴力しかないのではないかと思います。平定後は民生復興にもっと努力が必要ですが、一度難民化した百万オーダーの住民を元に戻すためにも相当の努力が必要ですね。そうなると地上兵力の投入が避けて通れず、盟主を自任するサウジアラビア中心のアラブ軍だけで事に当たれるのか、米軍はじめとする西側軍事機構がどれだけ効果的な介入を実施できるかにかかっているのではないでしょうか。それにしてもここでもロシアの介入をむざむざと許したオバマ政権の失点が悔やまれますね。
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Syria: 'Quicksand' for Saudi Forces?

By Awad Mustafa and Aaron Mehta, Defense News10:03 a.m. EST February 14, 2016
(DUBAI and BRUSSELS — 米国に湾岸アラブ同盟各国からシリアでの有志連合軍活動への貢献拡大を約束する声が届いたが、現在展開中のアラブ各国によるイエメン介入を見る限り実効性が疑わしく見えてくる。
  1. 氏名不詳のサウジ政府関係者が今月初めに15万名を湾岸協力協議会に参加するスーダン、エジプト、ヨルダンの部隊をトルコ国内からシリアへ侵攻させると述べていたが有志連合軍に参加中の少なくとも二か国から否定されている。
  2. ヨルダン政府関係者はトルコあるいはアラブ主導によるシリア侵攻には参加しないが、国連決議が出て西側部隊も参加の上ロシアが調整するなら話は別と述べている。
  3. 「ヨルダンにシリア派兵の意向はないが、英米が中心となれば別個考える」と上記関係者は匿名を条件に述べている。「イラク、シリアとは550キロにものぼる長い国境線がある。ヨルダン軍含め地上軍派兵は国連が認めた上でロシアが調整に入れば実施できる」
  4. クウェート政府高官が2月9日ロイターにクウェートはイスラム過激派に対抗する国際努力を支持するが、湾岸アラブ諸国の憲法では防衛目的以外の参戦は禁じていると指摘していた。
  5. 「クウェートはサウジアラビアと全方位で国境を共にしている。我が国憲法の制約範囲内で可能ないかなる貢献を湾岸各国向けに提供する用意はある」とシーク・モハマド・アルムバラク・アルサバー内閣府相はドバイでロイターに述べている。
  6. 同相は作戦支援は情報共有や有志連合軍向けの拠点提供に限定されるとも示唆している。
  7. 地上作戦について国防長官アシュ・カーターが2月11日にブリュッセルで多数の選択肢をアラブ各国と検討中と紹介した。
  8. 「まず軍部隊と警察部隊向け訓練がある。訓練の実施に地上に部隊を配置する必要がある。次に、各国軍の支援と場合によっては同行がある。これは地上部隊で実施できる範囲だ。この可能性はすでに議論しているが、これ以上ここではお話しできない。特殊部隊に関する問題で、きわめて特別な能力に関する話題だからだ」
  9. 「また兵站補給の支援、ラマディ復興の支援についても検討した。すべて融資連合国が参画できる内容で、サウジアラビアも当然ここに含まれる。また課題のaあらゆる点を検討している」
  10. サウジがシリア、イエメンで二正面作戦を実施できるのかについてカーター長官はだれもその実施を望んでいいないとしながらサウジには能力とやる気があり、対ISIS戦闘に自国資源をつぎ込む覚悟ができていると述べている。
  11. 「サウジに代わりお話しできないが、イエメンで事態鎮静化を願うばかりだ、イエメン国民のためににも戦闘が下火になることが望ましい」
  12. ウバイ・シャバンダール(前米国防総省、現在ドバイのドラゴーマンパートナーズを主宰)によればシリア国内でサウジがプレゼンスをどれだけ示すかはサウジの関与次第だという。
  13. 「サウジは空輸能力と特殊部隊で特に兵力投射能力を整備してきました。迅速に移動させ現地で協力関係を作ります。これはアメリカのやり方を参考にしていますが、選び抜かれた精鋭部隊です。下命あれば素早く機動的に展開し、あらゆる事態に対応できます」「つまりサウジにとってトルコ南部への進駐は容易だということです。」
  14. ただしシリアの地政学的条件は複雑で、ロシアも介入し、イランが北部にプレゼンスを置いているため事情が異なるはずだとシャバンダールは指摘する。
  15. 「トルコ・アラブ連合軍がシリア北部に侵攻するためにはNATOが空から支援するか各国の支援が必要でしょう」
  16. サウジ軍のイエメン介入でアラブ側は多大な資源投入を迫られており、同じ水準で兵力を多方面に投射するのは難関と指摘する。
  17. 「兵站補給の問題があるからと言って派遣部隊を送ることを躊躇する理由にはならないし、シリア-ヨルダン国境に偵察部隊を送る、またはシリア-トルコ国境にトルコまたはヨルダン軍部隊を送ることも同様だが、不確定要素はNATO、米国のいずれかか双方が航空支援を効果的に提供できるのか、シリア南部北部のダーシュ(ISIS)を平定できるのかだ」とする。「ロシアが空爆を継続していることも忘れてはならない。結果としてシリア北部やダマスカス郊外でダーシュが力をつけている」という。
  18. またシーア派外国人戦闘員がシリア国内に搬送されており、その視点ではシリア北部に侵攻するアラブ連合軍は一義的な脅威にとらえると指摘する。アレッポ前線で戦闘に加わっているシーア派過激派がイラン革命防衛隊の指揮下にあり、その意味ではイエメンで抵抗するフーシと同じだという。
  19. サウジがイエメンに派兵しているのは自国南部方面の国境の保全が主目的であると湾岸地区の安全保障軍事面で詳しいマシュー・ヘッジスは指摘する。「サウジ軍は国内の基地から作戦を展開している」という。
  20. サウジアラビアが投入するのは特殊部隊と戦闘航空機および少数の兵員になりそうだ。ただし、イエメンでの投入規模(戦闘部隊3,500名、支援部隊6,500名)を上回ることはないだろうとヘッジスは述べた。
  21. 「イエメンなのかシリアなのかの選択で人員の質が大きく変わる。戦闘経験があるのは一部の兵員に限られ、両方面で有能な働きができる兵員数は多くないだろう。サウジアラビアがシリア地上戦の実施準備ができているとの報道は各国に対して対イスラム過激主義への戦闘を早く実施させ、アサド政権の復権にも対抗させようというねらいがあるのだろう」
  22. 国家国防大学校のポール・サリヴァン教授によればサウジアラビアは軍事活動、外交活動ともに手を広げすぎないよう注意が必要と指摘する。シリアは「流砂」になりかねないというのだ。
  23. 「もしサウジアラビアがUAEやその他GCC加盟国とともに関与しなければシリア問題は一時的な解決しか望めない。ISIS問題にはモスレム教徒の軍隊が対処すべきと考える向きが多い。それはある程度正しいのだが、サウジアラビアやその他GCC加盟国は多くの脅威に今日直面しているのだ」
  24. 「そこでシリア問題の大きな課題は軍事的対応で脅威の深刻化を避ける点だ。おしなべてどのように戦闘状態を下火にすることにかかっており、もっと大事なのはシリアを再建し、国民に希望を与え、仕事や住居を確保することだ」■


2016年2月16日火曜日

★米空軍>第六世代戦闘機は海軍とは別個の機体になる(参謀次長)



F-22やF-35の次に登場する戦闘機は現在の戦闘機と外観も変わっているかもしれませんし、高エネルギー兵器を搭載するため多大な発電容量も必要ですから機体寸法も大きくなっている可能性もあります。そうなると空軍は相当先を見越した機体開発が可能ですが、海軍は空母運用を前提にしますからそんな大型機では運用できないと考えるでしょう。ともあれ、少しずつ情報が出てきた第六世代機とは相当技術的に進んだ存在の想定のようです。F-15やF-16も2040年代まで供用する案もあるようなので、ドッグファイトは既存機にまかせて、6th Genが過日提唱されたBattle Planeに大化けする可能性もあるでしょう。その前身としてArsenal Plane構想は要注目ですね。一方でF-35で各軍共通機材の開発では相当ストレスが空軍に高まっていたようですね。
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Sixth-Gen Fighter Likely Won’t Be Common Across Services, Air Force General Says

Lara Seligman and Phillip Swarts, Defense News, Military Times 6:29 p.m. EST February 12, 2016
WASHINGTON — 各軍共通の機材としてF-35開発を進めた方法論とは反対に第六世代戦闘機は米空軍と海軍で共通要素のない機体になりそうだと空軍トップが語っている。
  1. 次世代戦闘機が各軍で別個の機体になりそうなのは空軍と海軍のミッション要求内容が異なることになりそうなためとジェイムズ・「マイク」・ホームズ中将(空軍参謀次長、計画立案要求性能担当)が述べている。第六世代機はF-22と海軍のF/A-18の後継機として2030年代実戦化を狙う。
  2. 「統合部隊といってもお互いに任務が違うので要求内容も異なる」とホームズ中将は報道陣に語った。「一部の技術要素は共通化できるだろうが、今の段階では同じ機体にはならないとみている」
  3. これは現在進行中の案件とは大きなかい離だ。第五世代F-35は空軍、海軍、海兵隊で共用の戦闘機として構想され、各軍向けに三つの型式が生まれた。
  4. 昨年は海軍と空軍が合同して代替策分析を実施し2030年代以降も航空優越性を確保する手段を模索するとしていた。だが海軍は独自にAOAを実施し、空軍はまだ行っていないとホームズ中将は述べた。ただし、両軍は強く連携していると強調するのは忘れなかった。
  5. 「意図的に一年を費やしもっと全体像を見るようにした」のだという。
  6. AOAを実施する代わりに、空軍は能力連携チームCapability Collaboration Team (CCT) を編成し、第六世代戦闘機の可能性を検討してきた。また空軍は産業界、その他の軍組織や学界、技術陣、政府研究施設とともに選択肢を二つまでにしぼったとホームズ中将は述べた。同チームは今春にも空軍上層部に検討結果を報告するとも明らかにした。
  7. 「多彩な領域を擁する空軍の中で問題解決も複数分野にまたがる方法を考えるのが空軍のやり方だ」とホームズは述べた。「宇宙、サイバー、飛行の各分野で何ができるかを見極め空対空の優位性を取り戻す方法を考える」
  8. 2017年度予算で空軍は複数の費目で実験と技術実証を求めており、第六世代戦闘機の開発リスクを低減するとホームズ中将は説明。第六世代機以外も含む広義の次世代制空戦闘機の予算は2017年度に20.6百万ドル確保し、2018年度2019年度は毎年13百万ドルを研究開発に使うと予算説明書は解説している。これとは別に2017年度から2019年度に75百万ドルが「イノベーションと実験」用に確保されており、第六世代戦闘機にも使われると空軍は説明している。
  9. 予算の使い方を空軍は今年中に決定するとホームズ中将は述べた。
  10. 「短期的にはまず実験と技術実証でリスク低減をこれから必要となる技術性能について行い、最終的には多様なシステムのファミリー構造が出現すると見ている」■


中国の南シナ海進出>西沙諸島でのヘリコプター基地造成でヴィエトナムとの対立招く


後世の歴史解釈ではオバマ政権が中国の拡張政策に有効な手を打たなかったことがその後の世界秩序の崩壊につながる遠因となったといわれかねませんね。中国の価値観は全くゆがんだ構造になっているので、既成事実の積み重ねを黙認していくことがいかに危険か世界は思い知らされることになるでしょう。戦争をおこさずに支配を強める、自分たちの都合のよい世界を作る、という中国の発想にどう対抗するのか、今必要なのは戦略です。
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China Reclaimed Land for South China Sea Anti-Submarine Helicopter Base Near Vietnam

By: Sam LaGrone
February 15, 2016 2:56 PM

PLAN Chinese Z-18F Anti-Submarine Helicopter
PLAN Chinese Z-18F Anti-Submarine Helicopter


最新の衛星画像解析から人民解放軍が南シナ海でヘリコプター基地を造成中で対潜作戦(ASW)の拠点に使用される可能性が浮かび上がってきた。
  1. 画像は最初にニュース専用ウェブサイトThe Diplomatが公開したもので、ASWヘリコプター基地に転用可能な大規模埋め立て工事がダンカン島(ヴェトナム沿岸からおよそ200マイル)で進行中と示している。同島は領有権を巡り紛糾中のパラセル諸島にある。
  2. 基地が完成すれば「中国のASW能力が南シナ海で増強される象徴となり、一連のヘリコプター基地や燃料補給拠点が域内に完成すれば域内のほぼ全域が作戦範囲になる」とヴィクター・ロバート・リーが分析している。
  3. 「各基地を中継すればASWヘリコプターは燃料の制約から自由に、また艦船の収容能力からも自由になり連続かつ切れ目のない対潜監視対応能力が手に入る」
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  1. さらに分析では「水上艦作戦や航空戦の戦略見直しにつながるだろう」としている。
  2. この点に関し、ペンタゴン関係者は再度域内各国に対し埋め立て工事に対する警戒を求めており、USNI Newsは2月14日にこれを入手した。
  3. 「米国は引き続き関係各国に島しょ造成向上の中止、南シナ海における軍事施設建設、軍事転用の中止を求めるものである」と報道官ビル・うアーバン中佐が述べている。「米国はいかなる領有権の主張にも組しない立場だが、中国による一方的な行為に懸念を強めており、中国の戦略意図が一層不確実さを生んでいることを問題視する」
  4. 海軍アナリストのエリック・ワーザイムはUSNI Newsに対し「分析が正しければ、中国の軍事選択肢は大幅に広がる」と述べている。
  5. 「南シナ海を制圧しようと精を出す中国のもう一つの実例だ」とし、「各基地が完成すれば不沈空母になり大きな意味が生まれる」
  6. ワーザイムによれば各基地はPLANの新型唱河Z-18F対潜ヘリ(フランスのSA321シュペルフルロン大型ヘリが原型)(行動半径450カイリ)の運用拠点になるという。ダンカン島からなら簡単にヴィエトナムの領海に出動可能だ。
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  1. 太平洋軍司令官ハリー・ハリス大将が昨年9月に上院で南シナ海で中国の施設整備拡張をどう見ているかをこう語っている。
  2. 「各施設を詳細にみると、ミサイル発射施設、監第五世代戦闘機運用可能な滑走路、監視偵察拠点などから中国が戦争せずに南シナ海を支配する仕組みが浮かび上がってきます」「戦時には各施設は攻撃の標的になりますが、戦争一歩手前の状況なら各地の軍事拠点化は域内の各国にとって大きな脅威になります」
  3. 今回のニュースが出たのはヴィエトナムが潜水会部隊の近代化を図り、ロシア製改キロ級ディーゼル電気推進潜水艦6隻を導入するさなかとなった。ハノイも領海防衛のため海軍力の拡張に乗り出したところだ。
  4. ただヴィエトナムと中国の海軍力の差は明白で、中国には海軍とは別に重武装の海警艦船もある。2014年にこれが痛感されたのは中国が10億ドルの沖合石油掘削施設をヴィエトナムの排他的経済水域の内部に移動させ、周囲を監視艦船で包囲したことだ。もし中国が同じような動きに次回出れば、ヴィエトナムも潜水艦部隊を整備したこともあり、中国のASWヘリコプターとの衝突のリスクが生まれることになる。
Victor Robert Lee image.

  1. 中国はパラセルを1970年代中ごろから実効支配しており、ヴィエトナムと台湾がそれぞれ領有を主張している。
  2. ダンカン島の施設は1年前の比較で50パーセント以上拡張したが、パラセルではウッディ島、ノース島、トゥリー島で航空基地を造成している。
  3. 「トゥリー、ノース、ダンカン各島での拡張は北京がパラセル諸島での守りを固めているのを示す。スプラトリー諸島での建設工事の陰で目立たない存在になっていた」とリーは記している。■

2016年2月15日月曜日

★★航空自衛隊の戦力整備方針はこのままでいいのか



X-2公開で事情をよく知らないマスメディアなど大騒ぎしていますが、さすがアナリストの視点は冷徹ですね。いよいよ日本も国産開発にこだわる姿勢を捨てて費用対効果、リスク低減効果を大上段に国際共同開発に進むのか、いくらお金をかけても国内産業基盤整備を貫くのか方向を決めなければいけない時期にきているのでしょう。(これは航空関係だけの話ではありませんが)皆さんはどう思われますか

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Japan Faces Challenging Choices for Cash-Strapped Air Force

By Paul Kallender-Umezu, Defense News11 a.m. EST February 14, 2016
TOKYO — 航空自衛隊へ懸念が高まっている。第五世代機導入を少数にとどめ大部分がF-2とF-15で構成する第四世代機のまま、相互運用性がない機種を開発していいのかという声だ。
  1. 現状の予算では航空自衛隊はF-35をわずか42機しかも年間数機のペースで調達するが、貴重な財源を旧式機の改修に割り振っている。今年の航空自衛隊の調達はF-35を6機、F-2の近代化改修はデジタル通信装置をつける11機にとどまる。
  2. 鳴り物入りで公開に踏み切った第五世代機X-2心神ステルス実証機および海上自衛隊のDDHいずも級ヘリコプター空母への短距離離陸垂直着陸F-35Bの導入可能性は航空自衛隊が分かれ道にきていること、より実効性のある戦力整備が課題であることを示す。しかし実施できるのか。
  3. Tealグループ副社長のリチャード・アブラフィアは予算制約、費用とF-2に将来がないことから、航空自衛隊が想定するシナリオではF-35追加調達とF-15改修の可能性が一番高いとみる。日本が新型のF-15を導入する選択肢もあるが、42機のF-35が優先順位が高く追加F-15の予算はねん出不可能だろうと語る。
  4. 「F-15が今後も航空自衛隊の最重要機種の地位に留まるのは確かです。航続距離、ペイロードでF-15は大変有能な機種で改修が高い優先事項です。F-15はF-35と相乗効果を上げるが、F-2改修はどちらかといえば三番目の優先事項でしょう」
  5. 「日本はF-35に相当の投資しているとはいえ、今以上の機数をすぐには調達できない状態です。F-2の重要度は国内防衛産業の温存だけといってよい」と語るのはスティーブン・ガンヤード(アヴァセントインターナショナル社長)だ。ガンヤードは一番すっきりする選択肢はF-15の改修で、航空自衛隊のF-15は耐用年数は残っているものの性能改修は避けて通れないと指摘した。
  6. 「日本にとっての脅威は中国の戦闘機ではなく、数千発に上る巡航ミサイル・弾道ミサイルで九州から南が分断されてしまうことです。これこそF-35とAESAレーダー搭載の改修F-15が必要な理由で低空飛行する巡航ミサイルの一斉発射に対抗するのです。同時に南西諸島には移動式レイルガンの配備が重要になるのではないでしょうか」(ガンヤード)
  7. その観点で日米は共同開発で費用負担をし、リスク低減と相互運用性を引き上げる方向に進むはずだ。その成果となるのは米国、イスラエル、オーストラリア、シンガポールも今後保有するのと同じ構成の空軍部隊で、第五世代機と能力向上第四世代機を組み合わせ統合運用を行うのだ。
  8. だがもっと根深い問題は各アナリストが見るように国際市場で競争力が大してない機体への資金投入を中止できるかという点で、F-2、C-2、P-1がその例だ。浮いた資金を研究開発の重要案件のほか、自国で製造できない装備の調達にあてるのである。.
  9. そうなると心神は無駄な支出にしか映らないとアナリスト陣は見る。
  10. 「心神が低価格ステルス戦闘機になってヨーロッパや米国が共同開発に関心を示す機体になるでしょうか、インド、オーストラリア他の各国が真剣に購入を検討するでしょうか。実現すれば機体単価を相当下げますが、心神の今後でよい点が見えてきません」と語るのは明治大学国際総合研究所客員研究員奥村準だ。奥村が以前所属していた経済産業省は国産防衛装備開発を支援している。
  11. アブラフィアも心神への資金投入は数十億ドル使ってよくわからない機体を作るだけなら防衛力整備で逆効果と見る。「防衛上のニーズよりも技術開発と自尊心の国家的な象徴にしかならないでしょう。ただし輸出を視野に入れた高い目標が本当にあれば話は別でしょうが」
  12. 一方で日本がF-35B取得に向かうとの観測が数年前から強まっている。DDHいずも級ヘリコプター駆逐艦にF-35B運用も可能な昇降機が装備されていることも材料のひとつだ。
  13. 「F-35Bはぜいたく品であり航空自衛隊が真剣に調達するとは思えない。航空母艦は低速で脆弱性があり、多大な支援を必要とする。海軍力を南シナ海以遠まで投射する意図があり、日米同盟が崩壊するのでない限り導入の可能性は考える価値がないですね」(奥村)
  14. アブラフィアも同意見で、固定翼機の空母航空戦力は兵力投射や域内プレゼンスの観点では魅力があるが、日本には高すぎる買い物だという。
  15. 「空母打撃兵力の整備はあまりにも高費用で踏み切れば問題は悪化するだけだ。もし日本が数十億ドルの防衛予算追加を決意すれば話は別だが、17機のV-22導入も何とか支払える範囲だったのではないか」
  16. だがガンヤードはF-35B導入が遠のいても米海軍の新鋭フォード級空母に搭載した電磁航空機発進システム(EMALS)にヒントがあるという。
  17. 「DDHにEMALSと拘束装置をつければよい。斜め飛行甲板をつけ、若干排水量と全長を伸ばせば海上自衛隊も固定翼機運用に復帰できる」
  18. 「ここまの方向転換では政府上層部もおいそれとは動けないだろうが、日本が空母戦力を再度整備すれば得られるメリットは戦略的に大きいのではないか」■


中国の軍拡でアジア太平洋の軍備調達は急成長中(日本、韓国、シンガポール等)


ちょっと事実錯誤の部分もありますが、中国の周辺国がおしなべて軍事装備の整備に動いているのは事実です。
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Asian Procurement Takes Cue From Chinese Modernization

By Wendell Minnick, Defense News11:50 a.m. EST February 13, 2016

CHINA-WWII-PARADE(Photo: Greg Baker/AFP via Getty Images)

TAIWAN — 中国の進める装備近代化がアジア各国の防衛装備調達を動機づけている。中国は第五世代戦闘機を開発する一方でロシアからSu-35を導入し、国産空母を建造し、弾道ミサイル軍の戦力拡大に向かい、南シナ海の支配を狙い、台湾進攻と日本が実効支配する尖閣諸島の占拠をほのめかしている。
  1. 「中国が南シナ海の軍事化に走り、日本への敵意をあらわにするのを横目で見る各国が防衛装備を追加調達して強力で強圧的な中国に対する保険を考えるのは当然でしょう」と語るのはリチャード・ビッツィンガー(シンガポールのラジャラトナム国際研究校の主任研究員)だ。
  2. 中国は伝統的に数の威力を求めてきたが、ここにきて技術面でも域内主要国と肩を並べるようになってきたと指摘するのはダグラス・バリー(ロンドンの国際戦略問題研究所の主任研究員)だ。
  3. 「成都J-10、瀋陽J-11にロシア製Su-35がそろえば2020年代に十分通用する戦闘機の基盤が完成します。域内の各国空軍は対抗上高性能機材に投資するのか、スタンドオフ兵器への依存を高めるのか選択を迫られるでしょう」(バリー)
  4. 中国のたくらみ以外に北朝鮮がミサイル・核兵器の開発で常軌を逸した脅かしに直面する各国の反応はさまざまで、韓国、台湾、シンガポールがF-16の耐用年数延長改修に向かう一方、国産戦闘機開発に韓国がKF-Xで日本がステルスX-2心神で挑み、そのほかにも台湾の国産防空戦闘機で性能改修を図る動きがある。
  5. ビッツィンガーは中国空軍の最新装備を心配するのは各国にとりごく自然だとし、自国空軍基地がまず攻撃対象になると憂慮しているという。このことから短距離離陸垂直着陸機のF-35Bや改修ずみAV-8ハリアー、V-22オスプレイ輸送機への需要が高まっている。
  6. F-35Bはオーストラリア、日本、韓国が導入予定で(?)シンガポールもまもなくここに加わる見込みだ。台湾もF-35Bを希望しているが、政治的な事情で実現しそうにない。北京が相当のロビー活動をワシントンで展開しているためだ。
  7. 台湾からはブロック50/52のF-16C/Dを導入して老朽化してきたミラージュ2000とF-5を更新したいとの要望が出たが米政府は拒絶しており、アナリストの間ではこれ以上の高性能機を台湾に提供すれば中国が黙っていないとみる向きが多い。当然F-35がその対象だ。かわりに米政府筋によれば台湾に改修ずみAV-8の提示をするという。
  8. 各国が垂直飛行可能な機材に目をつけるのは中国が弾道ミサイル・巡航ミサイルを強化しているためだ。台湾のシナリオでは中国は短距離弾道ミサイル1,400発を発射して空軍基地を粉砕し、指揮命令系統を破壊し、地上の対空陣地を壊滅させる。これに対して防空力の維持に有効な策はひとつだけで、F-35Bあるいは再生AV-8を導入し、台湾中部の山岳地方に機体を隠すことだけだ。
  9. 中国が島しょ部分への脅かしをかけてきたことで垂直着陸輸送機への関心が高まっている。長距離を高速飛行し兵員・物資を輸送するためにティルトローターのベル=ボーイングV-22オスプレイを発注したのは日本だが、韓国とシンガポールも関心を示している。オスプレイはシンガポール航空ショー(2月16日ぁら21日まで)で展示される。
  10. 弾道ミサイルの脅威は中国だけでなく北朝鮮からもあり、地上配備の防空ミサイル装備への関心が高くなっている。ここには最終段階高高度地域防衛(THAAD)が韓国向けに、また新型ペイトリオット性能改修-3(PAC-3)が日本と台湾向けにある。
  11. 台湾は西海岸に沿って高性能緒距離早期警戒レーダーを最近導入したばかりで、中国内陸まで監視し、ミサイルだけでなく戦闘機の動きもモニターする。日本は信号情報収集(SIGINT)やレーダー監視設備を琉球諸島に強化している。
  12. 台湾のSIGINT体制は世界でも高性能な部類に入り、米NSA(国家安全保障局)は台湾の国家安全保障局(NSB)と共同で高周波方向探知アンテナ施設を台北北方の陽明山Yangmingshan Mountainで運用中だ。またNSBは独自にアンテナ施設を北部の林口Linkou と南部の檳榔村Betel Nut Villageに設置した。
  13. NSAを退職した筋によれば米国が集める中国関連の信号情報の7割は台湾で得たものだという。
  14. 航空ショー主催者によればアジア太平洋の防衛予算は2018年までに19パーセント増えて6,120億ドル規模に膨れ上がるという。■

無人飛行船でミサイル防衛まで期待するJLENSは再稼働に向かっているとNORADが発表



After Blimp's Wild Ride, JLENS Program Will Fly Again, NORAD Says

By Jen Judson, Defense News 4:10 p.m. EST February 11, 2016

US Army's Joint Land Attack Cruise Defense Elevated Sensor System (JLENS) launch(Photo: Senior Airman Tiffany DeNault/US Air Force)
WASHINGTON — 共用陸上攻撃・巡航ミサイル防衛用空中ネットセンサーシステムJoint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor System (JLENS)はメリーランドで制御不能となり、係留用ケーブルをひきずったままペンシルバニア方向へ漂流する事件を昨年秋に発生させたが、運用試験は再開に向かうようだ。
  1. 事故調査の報告書がまとまり、関係機関の間でJLENSは再開の調整にはいった。火器管制用飛行船の新造追加、人員訓練、提言内容の実施の他予算の増額が必要と北米防空司令部(NORAD)および米北方軍の報道官べス・スミス少佐がDefense Newsに述べている。
  2. JLENSはメリーランド州アバディーンの実験施設で係留から外れ、ペンシルベニアへ漂流した。途中の送電線を係留ロープが切断し広範囲で停電が発生している。追跡にF-16が2機発進し、ペンシルバニア州内の移動を見守った。途中で内部の気体が漏れはじめ高度を下げ、最終的にゆっくりと着地した。州軍が発砲し、飛行船を完全にしぼませた。
  3. JLENSはレイセオンが製作し、火器管制用と測定用の飛行船二機で構成し、三年間の運用実験に入っていた。
  4. 同システムは多数の小舟艇や移動体を追跡するとともに巡航ミサイル探知も行う構想で、ヴァージニア州ノーフォークからボストンまで一度に「見る」能力がある。米陸軍は現在の二機以上を導入するのか、メリーランドでずっと係留したままにするのかを演習で決めるはずだった。
  5. 陸軍戦闘即応センターと巡航ミサイル防衛システムの共用防衛装備準備室が出した結論はJLENS漂流の原因は設計上の瑕疵ではなく、設計、運用上の人的ミス、手順上の問題が複合したためととスミス少佐は説明。
  6. 尾部フィン内の空気圧が低下し事故が発生したと分かったとスミス少佐は紹介。低下の原因は「パイロットチューブ、つまり気圧感知装置の作動不良」だという。気圧が低下した飛行船は空中で不安定になった。
  7. 「空力効率がなくなった反面抗力がふえたことで係留ケーブルに張力が増し切断に至った」(スミス)
  8. 調査結果は軍内部に伝わり、アシュ・カーター国防長官も説明を受けた。長官もJLENSの運用試験継続を認めている。
  9. NORADおよびNORTHCOM司令官ビル・ゴートニー海軍大将は声明文で「JLENSは他にはない巡航ミサイル防衛機能を我が国の統合防空システムのうち首都地区で実現するもの。同事業を継続することが国益上最善の選択である。事故調査で原因を詳しく調べたため、同飛行船の安全な運航再開にめどがついたと確信している」と発表。
  10. 次は議会がJLENSをどうするか決定する番だ。予算は2016年度に30百万ドル削減されている。その結果、使える資金は10.5百万ドルしかない。削減理由は「テスト日程の遅延」だった。
  11. オバマ大統領の2017年度予算要求ではJLENSに45.5百万ドルを求め実戦演習の実施を想定している。陸軍が2018年度にはわずか6.7百万ドルの予算を計上する予定になっているのが注目される。同年度は実験演習の最終年度だ。
  12. 2017年度予算要求では「新規装備の訓練、JLENS演習の実施によりNORAD/NORTHCOMのノーブルイーグル作戦を支援すること、および政府によるJLENS演習の実施支援」の想定がわかる。
  13. 前回の事故で破損した装備の補修や対策の実施に予算が必要だ。また保管中のJLENSの「再稼働」も予算に含まれると予算要求文書は述べる。■

2016年2月14日日曜日

★米海軍>UCLASS取りやめ、空中給油無人機とF-35C追加調達せざるを得ない苦しい事情


あれだけ騒いだUCLASS仕様を巡る議論が蓋をあければ給油機にするとの決定で落ち着くのかどうか。予算が厳しいことはわかりますが、マケイン議員はじめ議会が黙っていないでしょう。ただし、下の高官(どうもワーク副長官ではないかと思います)の説明は極めてわかりやすいですね。もともとは空母運用機種を大幅に統一してきたのが悪いとは思いますが、スーパーホーネットが給油任務に投入されているのは確かにもったいないことです。


Good-Bye, UCLASS; Hello, Unmanned Tanker, More F-35Cs In 2017 Budget

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 01, 2016 at 2:48 PM
PENTAGON: 米海軍のUCLASS無人機を巡る論争は長距離ステルス爆撃機とすべきか軽武装偵察機にすべきかでまとまらなかったが、国防総省がついに決断を下した。そのいずれでもなく、2017年度予算案では無人艦載空中給油機にするとしている。

  1. 「もうUCLASS(無人艦載攻撃偵察機)ではなくなる。空中給油機として空母部隊に編入する」と国防総省高官は語る。「F/A-18のE型F型を追加購入し、現在給油任務についている同型機を解放し、F-35も増やすのが直近の課題解決に一番役立つ」のだという。「給油任務にE型F型を投入するのは、ただでさえ戦闘機が不足する中で問題になっている」
  2. 「『空母に無人爆撃機は要らないのか』と聞いてくる向きもあるだろうが、確かに必要とはいえ、現時点では分析の結果、これが最善の解決策になると答えよう。予算が潤沢に確保できない」
  3. 空中給油機には通信中継能力もあり、偵察任務も実施できるはずだが、武装はない。機体はスーパーホーネットと同等だがステルス性能はなしとする。
  4. UCLASSが想定した敵領空内への侵入はせず、給油機は攻撃戦闘機を本来の任務に戻し、飛行距離を伸ばす効果を実現する。戦闘用無人機に資金を投入するかわりに有人戦闘機を多く購入する(2017年ではなく2018年に)ことで攻撃機材不足を補おうのが予算案の骨子だ。
  5. 「これがステルス機を最速で艦上配備できる案であり、空母の戦闘能力を長距離から実現する道だ」と上記高官は述べる。ロシアや中国の脅威が高まる中で「空母にステルス機を2020年代前半までにもっと配備する必要がある」とするが、完全な新型機を開発するには時間が足りない。
  6. そこで「F-35C調達を急ぐことにした。これについて『UCLASS一本に絞るべきだ』という向きもあろうが、その場合ステルス性能の艦上運用が遅れることになる」
  7. F-35Cは現在低率初期生産段階にあり、初飛行も完了しているが、無人攻撃機はまだ設計中だ。無人機の完成を待つよりも今使えるF-35を投入することが得策だと高官は語る。
  8. 「ステルス性能や攻撃能力がなくても無人機とF-35を空母に投入することが優先順位が高いと判断した。無人攻撃機の開発を続けるかの決定はもうしばらく先だ」
  9. 実際に予算は大変厳しく、F-35の優先順位は高いので、海軍はF/A-18E/Fを今年は購入する余裕がないが、有人攻撃機材の需要は高い。
  10. 「17年度予算では機材調達の余裕がなかった」という。かわりに2016年度予算でスーパーホーネット14機を調達する。このうち12機分は議会が追加したもので、2機は事故喪失の補充用だ。2018年にも14機を導入する。
  11. ではボーイングのセントルイス工場の生産ラインを2017年も維持する発注はあるのか。「クウェイトのF/A-18商談で穴が埋まるとみている」と同上高官は述べた。
  12. 長期的にはF/A-XXまたは次世代航空制圧機の導入を海軍は期待するが、ここでも有人か無人かを巡る仕様上の議論が活発化している。(海軍長官レイ・メイバスはF-35が海軍にとって「最後の有人攻撃戦闘機」となると公言している)なおF/A-XXの代替策分析作業(AOA)は先週正式に始まった。
  13. だがUCLASS構想の放棄は中国やロシアの高性能防空網を長距離ステルス機で突破するペンタゴンが目指す構想に矛盾しないか。また「第三相殺戦略」で自律型無人機や「ヒトマシンのチーム化」を目指す動きにも矛盾しないだろうか。
  14. 空軍が正式契約したステルス長距離打撃爆撃機がA2AD問題への答えだと高官は述べた。無人機分野では「現状の無人機とはまったくちがう各種機材がある。一部は予算で計上するが、ブラックとしてまったく計上されない機種もある」■

2016年2月13日土曜日

★★第三相殺戦略のカギとなるAIをDARPAはどう開発・活用しようとしているのか



ここにきてAI人工知能が良く出現するキーワードになってきました。第三相殺戦略ではマンマシンインターフェースが一つのカギなのでしょうね。それだけ戦闘状況が人智を超えた速さで進展する想定があるということでしょう。ロシアや中国は人体にチップを埋め込む手術を行っているようですが、米国は(今のところは)Aiによる最適選択肢の提示を目指しているようです。最後のオチはDARPAがインターネットの原型の開発元だということの反映ですね。それにしてもDARPAはすごいですね相当先の世界を見越しています。

Faster Than Thought: DARPA, Artificial Intelligence, & The Third Offset Strategy

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 11, 2016 at 4:00 AM

computerscreens
ARLINGTON: 国防高等研究プロジェクト庁 (DARPA) が開発中の人工知能はデータの洪水状態からヒトによる判断を助ける。戦闘中でも。このような「ヒト-マシン連携」は非公式にケンタウロスモデル the centaur model と呼ばれ、ハイテク時代の聖杯として国防総省が進めるロシア・中国対抗策としての第三相殺戦略で要となる。
  1. 「副長官と中身の濃い意見交換ができました」とオフセット構想の提唱者ボブ・ワーク国防副長官を言及して語るのはDARPA長官アラティ・プラバカールだ。「当方の進める事業の多くでこの技術の応用が可能です」と同戦略との関連を示唆する。たが個別具体的な技術より技術へどう向き合うかのほうが重要だ。
  2. 「まず第三相殺戦略の背景に国防総省が当庁の高度技術開発能力を再活性化する必要があると認識しています。以前と同様のことを以前と同様のやり方で進めていては目標にいつまでたっても到達できないというとらえかたです」(プラバカール長官)
  3. 「今の組織は一枚岩で各サブシステムがそれぞれ複雑になっており、問題が発生してもどこが原因なのか判明しにくいほどだ」とDARPA長官は言う。一枚岩体質では開発時間が延び、問題解決も遅れ、改修も長時間必要となるので、敵方nの迅速な進歩に対抗できない。そこでDARPAは新構想として「複雑な軍事機構を再考する」根本策を打ち出した。
  4. 兵器開発では戦闘機にせよ艦船にせよ何十年もかけて専用ソフトウェアと専用ハードウェアを一体化してきた。各装備ではソフトウェアのデバッグ作業が悪夢となり、問題の所在をさぐるのは「スパゲッティ」をほぐすのと同じだとプラバカールは表現する。
  5. そこで専用の高度統合システムを多数作るよりモジュールでオープンな構造とし、簡単に必要な要素をソフトウェアでもハードでも交換してもシステム全体をそのまま動くようにしたくなってくる。
  6. 高価な有人装備を少数整備するより「不均一」な有人無人装備を各種とりそろえるほうが良いはずだ。全長130フィートの自律運転ボートから使い捨ての手のひらサイズの無人機までだ。特定の目的や一定の部隊規模専用の構成より拡大縮小が可能なシステム構成にしておけば変化に対応できる。また送信地点、中継地点がわずかで分断されやすいネットワークよりも高度分散ネットワークなら物理的な攻撃や、ジャミング、ハッキングに強靭性を発揮できるはずだ。
  7. ただしジャミングやハッキングへの対抗は難しい。ネットワーク規模が大きくなればサイバー攻撃はそれだけ簡単になる。ネットワークを無線で構築すれば、電子戦で送信元を探られ、システムの作動を止められる可能性が高くなる。DARPAはそこで最新の研究成果を応用しようとする。
  8. そのプロジェクトがHACMS(高信頼度サイバー軍事システムズ)で「形式手法」と呼ばれる数学手法でサイバー上の弱点を見つけ解決をめざす。最近の事例ではHACMSチームが特殊作戦用のAH-6リトルバードのミッションコンピュータのソフトウェアで新しい「カーネル」を上書きしたという。
  9. ハッカー経験者で構成したレッドチームが侵入できなず、HACMSのソースコードを部分公開したが、侵入個所を見つけられなかった。
  10. 「各システムは完全に『ハッキング不可能』ではない」とプラバカールは警告する。「だがあきらかに攻撃する側は数学的に証明可能な方法で封じ込めることができる」
  11. DARPAは電子戦にも新手法を応用する。航空機が未知の信号を傍受すると、例えば敵のレーダー、あるいは未知の無線交信でも、データを記録し、基地まで持って帰るのが通例だ。そこで専門家が数か月あるいは数か年かけて敵システムを理解し、対抗策を考え出す。レーダーが個別に作動し簡単に性能更新ができない時代はこれでよかった。だが今日では送信はデジタル化されており、ソフトウェアで簡単に波形変更が実施できる。信号がどんどん変化していくのに対応するために「認知電子戦」では人工知能がリアルタイムで送信を探知、分類、対抗措置づくりを進める。
  12. 「ヒトの対応よりずっと早くしたいのです」とプラバカールは言う。「このためにまずリアルタイムで全スペクトラムを走査し、つぎに人工知能のもっとも素晴らしい機能であるマシン学習能力も使い、『強化学習』reinforcement learningのような技法で敵が電磁分野で何をしているかを学び、搭載ジャマーに敵より先手を打たせるのです」
  13. 自動制御防衛は防空、ミサイル防衛で実用化ずみで、海軍イージス艦はヒトの頭脳では処理できないほど多数の目標が一度に高速で飛来するとミサイルを自動発射する仕組みになっている。
  14. ではヒトの役目は何になるのか。マシンに強力な兵器の使用を判断させたいと思う者はいない。すくなくとも米国には。だが戦闘があまりにも迅速に展開し、ヒトの頭脳では処理しきれないほど複雑化したら、戦闘の指揮を司令官が実施できるのだろうか。
  15. 「情報すべてを与えてヒトの頭脳に過負荷をかけたくないはずです。決断に必要な情報だけがほしいはずです」というのはDARPAのスティーブン・ウォーカー副局長だ。状況の推移に応じてコンピュータにすべてを追わせ、敵味方とわず、有人無人装備すべての動きを把握させる。解析させ、「とるべきアクションを二案ないし三案」提示させヒトが選ぶ。
  16. そこで記者が手をあげた。ちょっと待って、ワシントンに長くいれば、「意思決定者」とは実は幕僚や補佐官の操り人形にすぎず、彼らが選択すべき案を上司にまず示し、最適案の太鼓判を押しているではないのか。提案されている構想ではコンピュータに幕僚の役を振り、ヒトは不運な主犯となるのではないか。指揮官がコンピュータの言うことをそのまま聞くと限らないのでは。
  17. 「ご質問は問題の核心に触れています」とプラバカールは率直に発言した。「マシンシステムの能力を向上させれば、返ってくる答えに対するヒトの信頼の問題、実際の状況に即して観察しているのか、どんな選択の幅を提示してくるかが大事になります」
  18. 「この新しい波の背後にあるのがAIです」と局長は続け、ペンタゴンによるその活用が求められる。「しかし、深層学習deep learning の大部分で理論的な土台がまだ確立されていない事実もありますが、各種システムが従来の常識で受け入れられない解決策を提示しているのも事実です。なぜならシステムが文脈と無関係に作動しているからです」
  19. その例はアップルのSiri音声作動ソフトウェアだ。「最初はSiriに驚かされるものです」とプラバカールは言う。「でも質問を三つもすれば、つまらなく感じるはずです」(ちなみに記者の子供たちはSiriが返す意味のない答えを楽しんでいる始末だ)
  20. DARPAにはすでにこの問題に対処する案があるとプラバカール長官は述べたが、「AIで新しい基礎の開発が始まればこの分野でもっと問題が見えてくるでしょう」という。
  21. 人工知能の新しい基礎とは何か? スケールが大きい話題に聞こえる。だが、そこはDARPAである。「目標は本当に高いのです」とプラバカールはユーモアたっぷりに述べた。「開発主査のひとりにこう言うのが好きなものがいます。『この職場ではインターネットを開発しなければ優評価は取れないぞ』と■


ロシアがシリアに持ち込んだ最新鋭防空装備に注目



Russian deployment of new Pantsyr to Syria confirmed

Jeremy Binnie, London and Nikolai Novichkov, Russia - IHS Jane's Defence Weekly
08 February 2016
新型レーダーを搭載したパンツィーリがフマイミム空軍基地で初めて確認された。RTが2月3日に放映した画像から。 Source: RT
ロシアが新型パンツィーリ Pantsyr 防空装備をシリアのフマイミム Humaymim 空軍基地に導入していたのがRTニュースチャンネルで2月3日に明らかになった。
  1. 同基地をパンツィーリS1で防御していたのは国防省が同装備の写った写真を昨年10月に昨年10月に公表して判明していた。RTはパンツィーリS2だとし、2015年に実戦化したとのロシア軍の説明を紹介している。
  2. RTの映像では新型双方向レーダー装備が導入されているのがわかる。また新型パンツイーリがロシア軍で供用されているのが写ったのはこれがはじめて。
  3. この形式の双方向性レーダー装備はすでにアルジェリア、イラクで導入しており、型式名称はパンツィーリS1だとロシア国内で2015年5月に開催のMAKS航空ショーで紹介していた。
  4. この装備の売りは各レーダーを正反対の方向に向けることで360度走査が可能になることだ。ただし、映像で見えるレーダーは回転しており、片方のレーダーしか作動させていなかった。
  5. パンツィーリをフマイミム基地に配備するのは長距離防空ミサイルS-400トリウームフ Triumph の運用を助ける近接防空の任に充て、巡航ミサイル他の精密誘導兵器へ対抗するためだ。
  6. ただし今のところS-400に新型40N6長距離ミサイルが搭載されているか確認できていない。■