2022年4月16日土曜日

ペンタゴンが軍用超小型原子炉の実用化にGoサインを出した



アイダホ国立研究所(アイダホ州アイダホフォールズ)のトランジェントリアクター試験施設(2017年11月14日)。国防総省は、アイダホ国立研究所に先進的な移動式核マイクロリアクターの試作型を建設したいと考えている。(Chris Morgan/Idaho National Laboratory via AP)

 

防総省はC-17輸送機で過酷地に搬送し、軍事基地で電力供給する超小型原子炉を建設すると発表した。

 


 国防総省の戦略能力室Strategic Capabilities Officeが4月13日発表した声明では、「プロジェクト・ペレ」の環境影響評価書作成作業を経て、建設とテストの決定を行ったと発表している。

 プロジェクト主幹ジェフ・ワックスマン博士 Dr. Jeff WaksmanBWXT Advanced Technologies LLC(バージニア州リンチバーグ), とX-energy, LLC(メリーランド州グリーンベルト)の二案を数週間で絞り込むとミリタリー・タイムズに語っている。

 

関連記事(2021年10月の記事)。

米軍の超小型原子炉テストにイールソン空軍基地(アラスカ)が選定された。軍用電力供給源として原子力の持つ意義とは。

 

 しかし、原子力科学者や監視団多数が装置に疑問を投げかけている。原子炉や核燃料が攻撃により破損したり、盗まれたり、壊滅的な故障を起こした場合の汚染の可能性について、厳しい内容のレポートや解説、分析結果を発表している。

 アラン・J・クパーマン教授Professor Alan J. Kupermanはミリタリー・タイムズ紙に「懸念は解消されないどころか増大している」と語った。

 2010年以来、コンセプトの図面段階は少しずつ進展しているが、最終設計と製造段階は始まっていない。

 政府文書によると、陸軍は2020年3月に3社と総額40百万ドルの契約を結んでいる。2020年度には、国防総省はプロジェクトに63百万ドル、さらに2021会計年度には70百万ドルを計上している。プロジェクト・ペレProject Pele報告書では、第4世代原子炉を商業運用に道をひらくものと歓迎している。

 「ペレ」の名称は、ブラジルの有名なサッカー選手ではなく、ハワイ神話の創造主であり、火と火山の女神である「ペレ」にちなんだものだが、プロジェクトの正式名称はPortable Energy for Lasting Effects(可搬型持続運用エナジー源)だ。

 計画では、20フィート輸送用コンテナ3〜4個に収まる40トンの原子炉を設置し、一度設置すれば、最長3年間、最高出力運転で1〜5メガワット電力を供給する。

 超小型原子炉は、アイダホ国立研究所でテストと実験が2024年に行われ、2025年までに実証実験するとワックスマン博士は述べている。

 「先進的な原子力技術は、国防総省と商業部門の両方で、戦略的ゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています」「採用の前に実際の運転条件下で実証に成功しなければならない」(ワックスマン)

 


陸軍は、前方作戦基地での電力供給用に移動式原子炉を開発し、実戦配備を狙っている。図は装置が戦場に運ばれる方法である。(国防総省)

 

 しかし、懸念を抱くクパーマンはテキサス大学オースティン校の核拡散防止プロジェクトのコーディネーターとして、2021年に国防総省計画に対し報告書「提案中の米軍の移動式原子炉:コストとリスクは利益を上回る」を執筆した。

 憂慮する科学者同盟の原子力安全プロジェクト会員も、2019年にArmy Timesに、設計コンセプトに関して、陸軍自身が、超小型原子炉が「直接の運動攻撃を生き残ることは期待できない」としたことに大きな懸念を持っている。

 ワックスマンは今週、Army Timesへの回答でこの懸念に応え、超小型原子炉は過酷地点に使用されるとし、具体的な想定地点は2018年の陸軍G-4報告書「地上作戦での移動式原子力発電施設の使用に関する研究で確認されている。(下参照)

 次に、ワックスマンは、新設計原子炉「高温ガス炉」high-temperature gas reactorと、「高純度低濃縮ウラン三層構造等方性燃料」high-assay low enriched uranium tristructural isotropic fuelの両方で、旧世代の原子炉や燃料より安全対策を強化していると述べている。

 また、新設計には、機密扱いの保護機能が組み込まれているとワックスマンは言う。さらに、防護壁や原子炉を地下に埋めることで防護強化になると言う。

 さらに燃料が、もうひとつの防御層となる。

「ウランは直径1ミリ以下の何百万もの小石内に入り、それぞれカプセル化される」「燃料ペレット自体がバリアになる」(ワックスマン)。

 しかし、クパーマンやカリフォルニア大学バークレー校の原子力工学博士候補のジェイク・ヘクラJake Heclaのような批判派は、カプセル化に頼るのは危険だと言う。

 燃料ペレットは遠くまで飛散する可能性がある、とクパーマンは言う。「ペレットは基地内を飛び回り、放射能は被覆外へ漏出する」

 ヘクラは、核物質を封じ込める「最後の砦」としてカプセル化や被覆に頼るのは、「起こりうる事故による結果の現実」をないがしろにしているとまで言い切っている。

 陸軍G-4研究を推進した要素の1つは、2018年報告書によれば、前方作戦基地で超小型原子炉を使用することだった。イラクやアフガニスタンの作戦で見られた燃料消費と補給線への頻繁な攻撃を減らす期待だった。

 現在の試算では、ペレ超小型原子炉1台でディーゼル燃料を年間100万ガロン節約できると、ワックスマンは述べている。

 しかし、ワックスマンは、開発中の超小型原子炉は、戦術環境での使用は考慮されていないと付け加えた。

 戦略能力室の広報官ティモシー・ゴーマン海軍中佐Lt. Cmdr. Timothy Gormanは、過去の報告と現在の計画の矛盾について質問され、「どんな新しいシステムも『実現可能な成果』をターゲットにしなければならない」と答えた。

「海軍にとって、原子力でもっとも実現可能な成果は潜水艦です。陸上原子炉の場合、戦術地帯を移動させるのは実際的ではなく、新型原子炉の応用例になりません」とゴーマンは説明している。

 クパーマンとヘクラは、だからといって、将来の超小型原子炉が前線近くに配備され、敵攻撃の標的にならないとは言い切れないと指摘する。

 「この種の原子炉は、攻撃の格好の餌食になる」とクパーマンは言う。

 さらに、クパーマンは、前線基地から非戦闘地域の過酷地点での運用へと用途が変わることに、別の問題点を感じている。

 「移動式原子炉のきもは、戦地に迅速配備することだ」とクパーマンは言う。「遠隔地にある基地は長期に渡り存在して堅牢だ。そもそも原子炉を必要としない遠隔地の基地に移動配備用の高価で丈夫な原子炉を建設しようとしている」

 ゴーマン中佐は、この計画は島嶼部での原子力を想定し、陸軍用語では、超小型原子炉は「移動可能」ではなく「運搬可能」であると明言している。ペレが想定する試作型は迅速な設営とし、設営に2週間もかかる現在の大型ディーゼル発電機より優れている。

 

陸軍は前方基地に設置する移動型原子炉の開発をめざしている。図は Holosシステム (Department of Defense)

 

 「運搬可能発電の利点は、必要な場所に迅速に移動できることと、信頼性に欠ける過酷地でも設置できることです」(ゴーマン中佐)

 ヘクラも用途変更に戸惑いを感じていた。「本当に言葉が出ません。この数年、超小型原子炉の正当性を主張する発言をたくさん耳にしてきました」。

 小型原子炉は陸軍では半世紀前から使われているが、結果はまちまちである。原子炉はかなり古い設計のものであった。

 超小型原子炉のコンセプトと設計が10年以上前からペンタゴン内を駆け巡っている。

 冷戦時代の陸軍原子力計画は1954年から1977年まで実施され、小型原子炉8基を建設した。出力は1〜10メガワットであった。

 8基のうち5基は、次のように使われた。

 

  • PM-1型は1962年から1968年までワイオミング州サンダンスで使用

  • PM-2Aは1961年から1964年までグリーンランドのキャンプセンチュリーで使用

  • PM-3Aは1962年から1972年まで南極のマクマード基地で使用

  • ML-1は、1962年から1966年まで開発実験に使用

  • MH-1Aは、1965年から1977年までパナマ運河地帯で使用


 1961年、アイダホ国立原子炉試験場のSL-1炉で炉心溶融と爆発が発生し、運転員3名が死亡する大惨事が発生した。同試験場は現在、アイダホ国立研究所となっており、ペレ超小型原子炉の試験場に計画されている。

 南極、グリーンランド、アラスカに原子炉3基が配備されたが、いずれも「信頼性が低く、運転コストが高い」ことが判明した。ワックスマンは、旧型炉の設計に問題があったことを認めている。 「安全性に問題があった」。

 しかし、特に紛争地域を通る、長くて脆弱な補給線を不要にできる利益が、このプロジェクトの重要性に拍車をかけているという。

 2018年の陸軍G-4報告書では、超小型原子炉の設置場所の候補地として、以下が挙げられていた。

 

  • トゥーレ(グリーンランド)

  • クェゼリン環礁

  • グアンタナモベイ(キューバ)

  • ディエゴ・ガルシア島

  • グアム

  • アセンション島

  • プエルトリコ・フォートブキャナン

  • アフガニスタン・バグラム空軍基地

  • キャンプビューリング(クウェート)

  • フォートグリーリー(アラスカ)

  • アゾレス諸島・ラジェスフィールド

 

 2010年に国防高等研究計画局Darpaがマイクロリアクターに関し産業界へ情報提供を要請していた。Darpaは、プログラムコンセプト開発に2012年度に10百万ドルの予算を組み、6年間で150百万ドルを投入しての製造を提案していた。

 だが資金不足で計画は立ち消えになった。

 議会資料によると、2014年、議会は年次予算案に、前方または遠隔の作戦基地に電力を供給する「小型モジュール炉」報告書の文言を盛り込んでいた。

 


 国防科学委員会による2016年報告書では、原子炉の電力要件が示されていた。さらに、2018年の陸軍G-4報告書は、同技術を推進する科学委員会の勧告を採用していた。

 批判派は、数カ月で設計案を選択し、2年以内にテスト可能なマイクロリアクターと燃料を用意する現在のスケジュールは、拙速だと発言している。

 ヘクラによれば、このスケジュールは新型原子炉で使う部品の開発スケジュールよりも短いという。

 しかし、ワックスマンは、1970年代以来初めて米国内に建設される陸上原子炉は、十分な技術、支援、研究を背景に持っていると述べ、試作炉は、将来の小型原子炉の開発、実戦配備にかかる時間とコストを削減するのにも役立つ、と付け加えた。

 

Pentagon to build nuclear microreactors to power far-flung bases

By Todd South

 Apr 16, 12:46 AM

 

About Todd South

Todd South has written about crime, courts, government and the military for multiple publications since 2004 and was named a 2014 Pulitzer finalist for a co-written project on witness intimidation. Todd is a Marine veteran of the Iraq War


コメント 日本では2011年のメルトダウン事故が発生して以来、中世の魔女狩りのように原子力を悪者にし封印した異常な状態が続いていますが、その間にも原子力関連の新技術が着々と開発されています。さらに、究極の手段、核融合もいつか実用化されるでしょう。今冬は電力不足が現実になりそうになりましたが、いつまで原子炉の商用運転を凍結したまま我慢するのでしょうか。リスクのない完全無欠な技術は残念ながら存在しないのですが...


ウクライナ戦の最新動向 4月15日 モスクワ喪失はウクライナミサイル攻撃が原因と米国防総省が認める。ロシアは報復でキーウへミサイル攻撃など。

  

Ukrainian personnel test a Neptune anti-ship cruise missile.

 

防総省高官は、ウクライナ軍がロシア海軍のプロジェクト1164スラバ級巡洋艦モスクワに国産対艦巡航ミサイル「ネプチューン」を命中させたことが、同艦の沈没に直接寄与したとThe War Zoneへ述べた。米当局がこの評価に自信を深めているとの複数の報道が先に出ていた。

 ロシア当局の主張では、モスクワが嵐の中で曳航され、沈没したとあるが、喪失の正確な状況は多くが不明なままだ。ウクライナ軍による攻撃がロシア黒海艦隊の旗艦を破壊する直接の原因となったとすれば、ここ40年間で最も深刻な艦艇の損失事例となる。

 これと別に、ロシア軍は夜、キーウのミサイル・航空関連企業であるヴィザール・ジュルヤニ Vizar Zhulyany機械製造工場を標的にミサイル攻撃を行った。ロシア当局によれば、ウクライナの国境越え攻撃への報復であり、ウクライナ首都と周辺にさらなる攻撃が控えているという。

 ワシントン・ポストのダン・ラモテDan Lamothe記者は米国防高官がウクライナによる巡洋艦モスクワへのミサイル攻撃を報道陣に確認したと伝え、その後、複数の報道機関もこれを報じた。

 ワシントン・ポストは昨日遅く、米高官がウクライナ軍がモスクワを攻撃したと確認したのを先に伝えていたが、その際に、同高官は使用された兵器の種類は言えなかったという。ロイター通信は、米国高官が、モスクワはウクライナ攻撃を受け沈没した可能性が高いが、決定的な証拠は得られないかもしれないと述べたとのを報じていた。CNNは今日、情報筋の話として、米政府は、ウクライナ軍がネプチューン2発で同艦に深刻な損害を与えたとの主張には「中程度の信憑性」しかない、と報じた。

 モスクワで起きたこととその運命に関する米政府の評価は、ロシア国防省が沈没を認める前から、大きく進展していた。国防総省のジョン・カービー報道官は当初、火災と爆発の後も巡洋艦が自力で動ける兆候があったと述べていたが、昨日遅くには、判断は不可能であると記者団に語った。

 カービー報道官はまた、米軍は事件発生中のモスクワの画像にアクセスできたと述べていた。画像は、同地域に展開する有人・無人の情報・監視・偵察機材やスパイ衛星など、複数の情報源から得た可能性がある。傍受された通信内容やその他の電子情報が、巡洋艦に何が起こったかに関する米国の評価に寄与していることはほぼ間違いない。

 Naval Newsによると、商業プロバイダーのセンチネルハブによる合成開口レーダー(SAR)衛星画像で、攻撃後のモスクワが撮影されているという。荒天のため、通常型カメラを使う衛星では画像撮影が困難だった。

 ロシア当局は、モスクワ沈没に至った状況を調査中であり、乗組員の損害の有無について公式見解を示していない。ウクライナ内務大臣デニス・モナスティルスキDenys Monastyrsky の補佐官アントン・ゲラシェンコ Anton Gerashenko (Herashchenko) は、アントン・クプリン艦長Anton Kuprin が死亡したと述べているが、本稿執筆時点で未確認のままだ。

 英国防省は、モスクワの沈没は、同地域のロシア海軍部隊が重要な防空および指揮統制ノードを喪失した意味があると評価している。英国政府関係者は、紛争が始まって以来、ロシア海軍の主要艦艇の損失は、3月にアゾフ海のベルジャンスク港で破壊されたプロジェクト1171アリゲータ級揚陸艦「オルスク」に次いで、今回が2隻目と説明している。

 ロシアの巡航ミサイルは夜間にキーウ方面を攻撃し、ロシア当局者はヴィザル・ジューリャニ機械製造工場を狙ったと発表した。ロシア国防省の発表では、黒海のブヤンM級コルベットからカリブル巡航ミサイルを発射したとある。

 ウクライナ国内の防衛産業を標的とした、ロシアによる最新のミサイル攻撃となった。ヴィザルはソ連時代に設立された国営企業で、対艦ミサイル「ネプチューン」の部品製造をはじめ、ミサイルや航空関連業務を担っている。

 同社はS-300シリーズ地対空ミサイルの生産にも貢献している。ウクライナ軍が7週間以上の戦闘を経て、ロシア軍の優勢を防ぎ続けているのは、S-300が重要な役割を担っているからだ。スロバキア政府はつい最近、ウクライナの防空能力を強化するため、S-300システムを追加譲渡した。

 ロシア国防省によると、今回のヴィザル工場への攻撃は、ウクライナによる越境攻撃への報復として実行され、キーウ周辺への攻撃を強化するという。昨日、ロシア当局は、ウクライナのヘリコプターがブリャンスク州の村落を攻撃したと発表したが、これは未確認のままである。ウクライナ当局は否定し逆にロシア当局の挑発行為だと主張している。

 今日、ロシアはベルゴロド地方の防空施設が攻撃に対応する様子をビデオで公開した。ベルゴロド州は、3月31日夜から4月1日にかけて、ウクライナ軍のMi-24ハインド攻撃ヘリコプターが燃料貯蔵所を攻撃したとロシア当局が発表した場所でもある。同事件の正確な状況は不明のままだ。

 ウクライナ当局によると、モスクワ沈没後、ロシアからの攻撃の急増に備えているという。夜間攻撃を考慮し、ウクライナのキーウ州知事は、避難住民に帰宅しないよう警告している。最近相次いでいる外国高官の首都訪問や、各大使館の業務再開に影響が出る可能性がある。

 地元当局によると、ロシア軍が2月に全面侵攻を開始して以来、キーウ周辺では少なくとも市民900人が死亡している。これには、ロシア占領下での戦争犯罪の疑いによる死者も含まれる。ウクライナ国家警察は現在、個別の戦争犯罪疑惑3000件を調査しているという。

 英国防省は、ウクライナのロシア支配地域の現在の範囲についての評価を示す最新の地図を公開した。

 

 ロシア国防省は、ウクライナ作戦の支援で使用中の電子戦システムを公式ビデオで公開した。その中には、Krasukha-4の映像も含まれている。3月にウクライナ軍は、同システムの司令部コンポーネントを比較的無傷な状態で捕獲している。

 下の写真は、砲身に英語で「WOLVERINES」と書かれたT-72戦車の残骸だ。今月初めには、BMP-2歩兵戦闘車両にも同様の落書きがが目撃されており、共に1984年のアメリカ映画「レッド・ドーン」の引用であることは間違いない。

 

 CNN道によると、米国政府は、ウクライナ紛争は少なくとも2022年末まで続く可能性があると評価している。

 独立系情報レジリエンスセンターによると、ウクライナ南部のロシア占領下の都市ケルソンKherson近郊の衛星写真には、大規模墓地が整備される状況が写っている。紛争で殺害された民間人と関連する可能性が高いと思われ、ロシア軍が占領地で恣意的な処刑などを通じて、ウクライナの非戦闘員を意図的に標的にしてきたという証拠が増え続けている。■

 

 

Ukrainian Anti-Ship Missiles Struck The Russian Cruiser Moskva: US Officials

 

A clearer picture of what caused the sinking of the cruiser Moskva is starting to emerge.

BY

JOSEPH TREVITHICK

APR 15, 2022 3:46 PM

THE WAR ZONE



2022年4月15日金曜日

ウクライナ向け8億ドル援助パッケージの中身を米国防総省が公開。スイッチブレード追加、元アフガニスタン向けヒップヘリコプターなど

Ukraine Is Getting M113 APC

 

 

国政府が安全保障支援パッケージ8億ドルの中身を本日発表した。軍用車両、有人・無人の航空機、軍需品、兵士の保護具多数がウクライナに送られる。

 国防総省は、この支援策の詳細を以下のように発表した。ウクライナ軍が東部と南部でのロシアの新たな攻勢に備え、間もなく提供を開始する。


  • 155mm牽引榴弾砲18門、砲弾数40,000発

  • AN/TPQ-36対砲台レーダー10基 

  • AN/MPQ-64 Sentinel航空監視レーダー2基

  • スイッチブレード自爆無人機300機

  • ジャベリンミサイル500発、その他対装甲システム数千発

  • M113 装甲兵員輸送車200両

  • 高機動多用途車輪車(通称ハンビー)100台

  • ロシア製Mi-17ヒップヘリコプター11機

  • 無人沿岸防衛船

  • 化学、生物、放射性物質、核(CBRN)防護具

  • ボディアーマー、ヘルメット 3万セット 

  • 光学機器、レーザー距離計2,000台以上

  • C-4プラスチック爆薬および地雷除去用解体機 

  • M18A1 Claymore対人地雷

 

 

 ウクライナ軍には、野砲運用など訓練を必要とすると思われるが、カービー報道官は、ウクライナ国内から部隊を選抜し、教育し、再び戦場に送り込むことで達成されると述べた。

 国防総省高官は、ウクライナ軍の訓練の現状と将来について、今日、記者団に次のように語った。

「ウクライナに提供するシステムで追加訓練が必要となる場合、訓練をどのように行うか、さまざまな選択肢を検討する。今ここで推測したくないし、現状を先取りするつもりもない。ご存知のように、以前から訓練計画にもとづき米国内でウクライナ軍にスイッチブレード運用の訓練を行っている。スイッチブレードの追加訓練を検討している。NATOの東側に展開する部隊の活用も選択肢となるがオープンな選択肢のままだ」

 カービー報道官は、ウクライナ軍で使用中、あるいは比較的早く操作を習得できる装備が多いと述べているが、必ずしもそうではない。装備の運用と、戦争中に装備品を維持するのは別の話だ。

 しかし、米国はM113もハンビーも欧州内の基地に配備済みであり、ウクライナは比較的早く入手できるはずだ。AN/TPQ-36は、2015年からウクライナに納入されており、使用中だ。

 ウクライナ軍は、ロシア軍と同様に、Mi-8/Mi-17を運用している。今回のMi-17ヘリコプターはすべて(うち5機はすでにウクライナに送られている)、当初は今は亡きアフガン空軍に用意されていたもので、米国から配送される。

 沿岸防衛用無人装備については、ウクライナ海軍が1月に無人水上艦(USV)による海上機雷探知能力の強化案を発表しており、米国防総省が寄贈することになった。このUSVは、USV Inspector 90選択的有人運用自律型巡視船である可能性が高い。ウクライナ海軍のオレクシー・ネジパパ司令官Rear Admiral Oleksiy Neizhpapが紛争開始前のインタビューで強調していた装備だ。

 

Inspector 90 USV. Credit: ECA

 

カービー報道官からは、今回の国防総省による軍事援助リストは、ウクライナ東部と南部で再び侵攻しているロシアに対抗するウクライナ軍の強化を狙うものだと説明があった。

 カービー報道官は、ウクライナにスイッチブレード数百機を供与すると、ペンタゴンの装備品にどのような影響が生まれるかについてはコメントしなかった。以前の援助パッケージにあった最初の100機のスイッチブレードは大部分がウクライナにあり、残りはまもなく到着する。

 

スイッチブレード無人機 (U.S. Marine Corps Photo by Lance Cpl. Tyler Forti)

 

 「状況を毎日見ている」とし、「長官は、ウクライナに提供中のシステム全点において、米国自身の準備に支障はないと確信しています。該当装備は大量に購入されたシステムではない」と述べた。米国内の特定の兵器や同盟国の兵器在庫が流出する可能性が懸念されるようになってきた。

 スイッチブレードは-300型と、強力で対装甲能力を向上した-600型の両モデルが混在しているという。殺傷力の高い同無人機は、敵軍に対する運動兵器として投入する以外に、偵察任務に利用できる。

 政治面では、米国のジョー・バイデン大統領が水曜日にウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、ゼレンスキー大統領は戦闘継続と反撃のため攻撃型兵器の必要を声高に訴えた。

 

 

ウクライナは AN/TPQ-36を2015年から使用し取扱を熟知している

 

バイデン大統領は声明で、「ウクライナ軍は、我々が提供した兵器により壊滅的な効果を上げている」と述べた。「ロシアがドンバス地域での攻撃の準備を続けているので、米国はウクライナに自衛能力を提供し続ける」と述べた。

 バイデンは8億ドルのパッケージを承認したと確認し、「新しい支援パッケージは、提供ずみの非常に効果的な兵器システムの多くと、ロシアがウクライナ東部に仕掛ける予想の広範囲の攻撃に合わせた新しい能力を含む」と述べた。

 「米国と同盟国協力国がウクライナに提供してきた武器供給は、ロシア侵攻への戦いを維持する上で極めて重要である」とバイデンは続けた。「プーチンがウクライナを制圧し支配する当初の目的を確実に失敗させた。ここで休むわけにはいかない。私がゼレンスキー大統領に保証したように、米国民は自由のために戦う勇敢なウクライナ国民と立ち上がり続けるだろう」。

 

 

M113 装甲兵員輸送車Armored Personnel Carrier (APC)

 (U.S. Army National Guard photo by Edwin L. Wriston)

 

 ロイド・オースティン国防長官は両国国防トップ間の対話の一環として、水曜日朝にウクライナ側と電話会談した。

 双方は「ウクライナの自衛のために米国が行っているすべて」について話したと、カービー報道官は水曜日午後の記者会見で述べた。同報道官によれば、ウクライナ側は援助に感謝し、現地状況の評価を伝えたという。ロシアがドンバスとルハンスク地域の東部と南部前線に沿って機甲攻撃を開始する予想で野砲と対野砲能力が具体的な要請であったという。

 しかし、ウクライナ軍がどう米国製武器を配備するかは、すべて現地指揮官次第であるとカービー報道官は述べた。

「こちらはウクライナに武器を届けるが、その時点で彼らのものとなる。どこで、どのように、どの部隊で使用するかは、ウクライナが決定する」■

 

Here's Exactly What's In The $800 Million US Military Aid Package To Ukraine

U.S. will provide Ukraine artillery, munitions, vehicles, helicopters and more.

BY

DAN PARSONS

APR 13, 2022 8:14 PM

THE WAR ZONE

 


 

2022年4月14日木曜日

ロシア黒海艦隊旗艦モスクワがミサイル攻撃により喪失。ウクライナ沿岸にロシア海軍が近づけなくなり、艦名の持つ意味もあり、影響はこれから大きく出そうだ。

 Moskva seen from the air in 2009

巡洋艦モスクワRussian MoD picture.

 

クライナ軍がロシア黒海艦隊の旗艦スラバ級巡洋艦モスクワを攻撃し、艦内に深刻な被害を与えたと報じられている。ロシア通信社も被害を確認した。巡洋艦モスクワに関してこれまでに判明していることをまとめた。

 

 

 4月13日夜、ソーシャルメディア上で、ウクライナ軍がロシア巡洋艦モスクワを攻撃し、艦内に大きな被害をもたらしたとの噂が流れた。ロシア海軍の艦船がウクライナの砲撃に遭ったという同様の(しかし検証されていない)主張が過去にあったため、この主張に各人は懐疑的だった。哨戒巡洋艦ワシリー・ビコフとフリゲート艦アドミラル・エッセンが被害を受けたと噂されたが、事実でないことが判明した。

 真夜中に、国営の RIA Novosti や TASSを含む複数のロシアメディアが、巡洋艦モスクワ艦上で爆発があったと確認した。ロシア国防省は本事件に関して声明を発表していないが、ロシアメディアの情報源は国防省だった。

 RIA Novostiによると、モスクワ艦内で弾薬が爆発し、乗組員は避難した。タス通信も同様の声明を出し、その理由を「弾薬の爆発」だとした。

「ロシア黒海艦隊のミサイル巡洋艦モスクワが火災とその後の弾薬の爆発で深刻な被害を受け、乗組員は避難したと、ロシア国防省が木曜日に発表した」

 ウクライナの主張とロシアメディアの発言から、巡洋艦モスクワに長距離ミサイルが命中したと推測される。使われたミサイルの種類について公式発表はまだないが、ソーシャルメディアTelegramで流れたオデーサ州知事の声明によると、ウクライナは現地で設計・製造した対艦ミサイル「ネプチューン」を同艦に命中させたとある。

ネプチューンミサイルで襲撃したとするオデッサ州知事のメッセージ

 

ネプチューンミサイルは、2022年4月にウクライナ軍に納入される予定だった。開戦当初からウクライナでの沿岸ミサイル配備の必要性は常に提起されてきたが、ロシア黒海艦隊が領海付近で活動し陸上攻撃にミサイルを発射しても、ウクライナは対艦ミサイルを配備していなかった。多くの専門家やアナリストによると、戦争のため納入スケジュールが中断され、ウクライナに対艦ミサイルの能力が欠如していたのだという。ウクライナと英国が対艦ミサイルの納入について協議を行っている中で発生した巡洋艦モスクワへの攻撃は驚くべき事件となった。

 

Loss of Russian Cruiser Moskva: What we know so far
ネプチューン対艦ミサイル

 

 

また、ウクライナのメディアは、TB2ベイラクタル無人機がロシア巡洋艦の気をそらす中で対艦ミサイルを発射したと主張している。だがモスクワは複数の脅威に同時対処する能力を持つため、この主張は非現実的だ。

 モスクワは旗艦であるだけでなく、武器やセンサーでもロシア黒海艦隊中で最も強力な艦であった。同艦は2020年にメンテナンスとアップグレードを終えており、開戦以来、艦隊の先頭に立ち、スネーク島攻略で重要な役割を果たし、水陸両用部隊を支えた。

 損傷の低度や同艦の現状は目視では確認できないが、入手可能な証拠から沈没の可能性が濃厚だ。最も重要な証拠は、乗組員の避難だ。救命が不可能で、これ以上の努力も無駄と判断された場合、艦を放棄することがある。判断は、艦長によってなされることがあり、乗組員は艦から脱出する。したがって、避難は、直前に艦が沈み始めていたことを明確に示すものである。

 もし確認されれば、モスクワの喪失は、開戦以来、ロシア軍で最大の犠牲となったことは間違いない。主要艦の喪失は、通常、国民的トラウマを誘発し、ロシアの首都からとった艦名は、心理的影響を強める。軍艦の損失は、当該国の本土の一部とみなされるため、他の資産の損失と全く異なるが、モスクワの名前と役割が損失の重要性を高めている。

 

 

ロシア海軍艦艇の展開の様子を示した図は3月26日以降の動きをもとにしている(Credit: https://twitter.com/TheShipYard2)

 

 今回の事件は、ウクライナ軍が獲得した対艦ミサイルを見抜けなかったロシア軍情報部の失敗も浮き彫りにしている。

 先にアリゲーター級LSTを失ったにもかかわらず、ロシア艦隊は黒海で無制限に行動していた。抵抗も脅威もないため、ロシア軍艦はあえてウクライナ海域に侵入し、オデーサ付近を哨戒した。この事件以降、ロシア軍艦は黒海での活動に慎重になり、対艦ミサイルで設定したA2AD(Anti Access-Area Denial)地域に入らないよう、ウクライナ沿岸からスタンドオフの距離を保つようになる。

 また、東地中海は同級の巡洋艦2隻が航行しているが、トルコ海峡が閉鎖されているため、黒海艦隊の増強に使う選択肢はない。

 ロシアは、ウクライナの陸上からの艦艇攻撃を無力化するために、オデーサへの激しい空爆で報復を試みることも可能であろう。しかし、それでは自国の旗艦がウクライナの砲撃で失われたと認めることになる。

 モスクワ事件の後、新たな展開が待っていることは間違いない。一方で、フォークランド紛争でアルゼンチン巡洋艦ARAジェネラル・ベルグラノが喪失して以来の近代海戦上の一大事になった。■

 

Loss Of Russian Cruiser Moskva: What We Know So Far

Tayfun Ozberk  14 Apr 2022

https://www.navalnews.com/naval-news/2022/04/loss-of-russian-cruiser-moskva-what-we-know-so-far/

Story by Tayfun Ozberk with additional reporting by Xavier Vavasseur