アイダホ国立研究所(アイダホ州アイダホフォールズ)のトランジェントリアクター試験施設(2017年11月14日)。国防総省は、アイダホ国立研究所に先進的な移動式核マイクロリアクターの試作型を建設したいと考えている。(Chris Morgan/Idaho National Laboratory via AP)
国防総省はC-17輸送機で過酷地に搬送し、軍事基地で電力供給する超小型原子炉を建設すると発表した。
国防総省の戦略能力室Strategic Capabilities Officeが4月13日発表した声明では、「プロジェクト・ペレ」の環境影響評価書作成作業を経て、建設とテストの決定を行ったと発表している。
プロジェクト主幹ジェフ・ワックスマン博士 Dr. Jeff WaksmanはBWXT Advanced Technologies LLC(バージニア州リンチバーグ), とX-energy, LLC(メリーランド州グリーンベルト)の二案を数週間で絞り込むとミリタリー・タイムズに語っている。
関連記事(2021年10月の記事)。
米軍の超小型原子炉テストにイールソン空軍基地(アラスカ)が選定された。軍用電力供給源として原子力の持つ意義とは。
しかし、原子力科学者や監視団多数が装置に疑問を投げかけている。原子炉や核燃料が攻撃により破損したり、盗まれたり、壊滅的な故障を起こした場合の汚染の可能性について、厳しい内容のレポートや解説、分析結果を発表している。
アラン・J・クパーマン教授Professor Alan J. Kupermanはミリタリー・タイムズ紙に「懸念は解消されないどころか増大している」と語った。
2010年以来、コンセプトの図面段階は少しずつ進展しているが、最終設計と製造段階は始まっていない。
政府文書によると、陸軍は2020年3月に3社と総額40百万ドルの契約を結んでいる。2020年度には、国防総省はプロジェクトに63百万ドル、さらに2021会計年度には70百万ドルを計上している。プロジェクト・ペレProject Pele報告書では、第4世代原子炉を商業運用に道をひらくものと歓迎している。
「ペレ」の名称は、ブラジルの有名なサッカー選手ではなく、ハワイ神話の創造主であり、火と火山の女神である「ペレ」にちなんだものだが、プロジェクトの正式名称はPortable Energy for Lasting Effects(可搬型持続運用エナジー源)だ。
計画では、20フィート輸送用コンテナ3〜4個に収まる40トンの原子炉を設置し、一度設置すれば、最長3年間、最高出力運転で1〜5メガワット電力を供給する。
超小型原子炉は、アイダホ国立研究所でテストと実験が2024年に行われ、2025年までに実証実験するとワックスマン博士は述べている。
「先進的な原子力技術は、国防総省と商業部門の両方で、戦略的ゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています」「採用の前に実際の運転条件下で実証に成功しなければならない」(ワックスマン)
陸軍は、前方作戦基地での電力供給用に移動式原子炉を開発し、実戦配備を狙っている。図は装置が戦場に運ばれる方法である。(国防総省)
しかし、懸念を抱くクパーマンはテキサス大学オースティン校の核拡散防止プロジェクトのコーディネーターとして、2021年に国防総省計画に対し報告書「提案中の米軍の移動式原子炉:コストとリスクは利益を上回る」を執筆した。
憂慮する科学者同盟の原子力安全プロジェクト会員も、2019年にArmy Timesに、設計コンセプトに関して、陸軍自身が、超小型原子炉が「直接の運動攻撃を生き残ることは期待できない」としたことに大きな懸念を持っている。
ワックスマンは今週、Army Timesへの回答でこの懸念に応え、超小型原子炉は過酷地点に使用されるとし、具体的な想定地点は2018年の陸軍G-4報告書「地上作戦での移動式原子力発電施設の使用に関する研究で確認されている。(下参照)
次に、ワックスマンは、新設計原子炉「高温ガス炉」high-temperature gas reactorと、「高純度低濃縮ウラン三層構造等方性燃料」high-assay low enriched uranium tristructural isotropic fuelの両方で、旧世代の原子炉や燃料より安全対策を強化していると述べている。
また、新設計には、機密扱いの保護機能が組み込まれているとワックスマンは言う。さらに、防護壁や原子炉を地下に埋めることで防護強化になると言う。
さらに燃料が、もうひとつの防御層となる。
「ウランは直径1ミリ以下の何百万もの小石内に入り、それぞれカプセル化される」「燃料ペレット自体がバリアになる」(ワックスマン)。
しかし、クパーマンやカリフォルニア大学バークレー校の原子力工学博士候補のジェイク・ヘクラJake Heclaのような批判派は、カプセル化に頼るのは危険だと言う。
燃料ペレットは遠くまで飛散する可能性がある、とクパーマンは言う。「ペレットは基地内を飛び回り、放射能は被覆外へ漏出する」
ヘクラは、核物質を封じ込める「最後の砦」としてカプセル化や被覆に頼るのは、「起こりうる事故による結果の現実」をないがしろにしているとまで言い切っている。
陸軍G-4研究を推進した要素の1つは、2018年報告書によれば、前方作戦基地で超小型原子炉を使用することだった。イラクやアフガニスタンの作戦で見られた燃料消費と補給線への頻繁な攻撃を減らす期待だった。
現在の試算では、ペレ超小型原子炉1台でディーゼル燃料を年間100万ガロン節約できると、ワックスマンは述べている。
しかし、ワックスマンは、開発中の超小型原子炉は、戦術環境での使用は考慮されていないと付け加えた。
戦略能力室の広報官ティモシー・ゴーマン海軍中佐Lt. Cmdr. Timothy Gormanは、過去の報告と現在の計画の矛盾について質問され、「どんな新しいシステムも『実現可能な成果』をターゲットにしなければならない」と答えた。
「海軍にとって、原子力でもっとも実現可能な成果は潜水艦です。陸上原子炉の場合、戦術地帯を移動させるのは実際的ではなく、新型原子炉の応用例になりません」とゴーマンは説明している。
クパーマンとヘクラは、だからといって、将来の超小型原子炉が前線近くに配備され、敵攻撃の標的にならないとは言い切れないと指摘する。
「この種の原子炉は、攻撃の格好の餌食になる」とクパーマンは言う。
さらに、クパーマンは、前線基地から非戦闘地域の過酷地点での運用へと用途が変わることに、別の問題点を感じている。
「移動式原子炉のきもは、戦地に迅速配備することだ」とクパーマンは言う。「遠隔地にある基地は長期に渡り存在して堅牢だ。そもそも原子炉を必要としない遠隔地の基地に移動配備用の高価で丈夫な原子炉を建設しようとしている」
ゴーマン中佐は、この計画は島嶼部での原子力を想定し、陸軍用語では、超小型原子炉は「移動可能」ではなく「運搬可能」であると明言している。ペレが想定する試作型は迅速な設営とし、設営に2週間もかかる現在の大型ディーゼル発電機より優れている。
陸軍は前方基地に設置する移動型原子炉の開発をめざしている。図は Holosシステム (Department of Defense)
「運搬可能発電の利点は、必要な場所に迅速に移動できることと、信頼性に欠ける過酷地でも設置できることです」(ゴーマン中佐)
ヘクラも用途変更に戸惑いを感じていた。「本当に言葉が出ません。この数年、超小型原子炉の正当性を主張する発言をたくさん耳にしてきました」。
小型原子炉は陸軍では半世紀前から使われているが、結果はまちまちである。原子炉はかなり古い設計のものであった。
超小型原子炉のコンセプトと設計が10年以上前からペンタゴン内を駆け巡っている。
冷戦時代の陸軍原子力計画は1954年から1977年まで実施され、小型原子炉8基を建設した。出力は1〜10メガワットであった。
8基のうち5基は、次のように使われた。
PM-1型は1962年から1968年までワイオミング州サンダンスで使用
PM-2Aは1961年から1964年までグリーンランドのキャンプセンチュリーで使用
PM-3Aは1962年から1972年まで南極のマクマード基地で使用
ML-1は、1962年から1966年まで開発実験に使用
MH-1Aは、1965年から1977年までパナマ運河地帯で使用
1961年、アイダホ国立原子炉試験場のSL-1炉で炉心溶融と爆発が発生し、運転員3名が死亡する大惨事が発生した。同試験場は現在、アイダホ国立研究所となっており、ペレ超小型原子炉の試験場に計画されている。
南極、グリーンランド、アラスカに原子炉3基が配備されたが、いずれも「信頼性が低く、運転コストが高い」ことが判明した。ワックスマンは、旧型炉の設計に問題があったことを認めている。 「安全性に問題があった」。
しかし、特に紛争地域を通る、長くて脆弱な補給線を不要にできる利益が、このプロジェクトの重要性に拍車をかけているという。
2018年の陸軍G-4報告書では、超小型原子炉の設置場所の候補地として、以下が挙げられていた。
トゥーレ(グリーンランド)
クェゼリン環礁
グアンタナモベイ(キューバ)
ディエゴ・ガルシア島
グアム
アセンション島
プエルトリコ・フォートブキャナン
アフガニスタン・バグラム空軍基地
キャンプビューリング(クウェート)
フォートグリーリー(アラスカ)
アゾレス諸島・ラジェスフィールド
2010年に国防高等研究計画局Darpaがマイクロリアクターに関し産業界へ情報提供を要請していた。Darpaは、プログラムコンセプト開発に2012年度に10百万ドルの予算を組み、6年間で150百万ドルを投入しての製造を提案していた。
だが資金不足で計画は立ち消えになった。
議会資料によると、2014年、議会は年次予算案に、前方または遠隔の作戦基地に電力を供給する「小型モジュール炉」報告書の文言を盛り込んでいた。
国防科学委員会による2016年報告書では、原子炉の電力要件が示されていた。さらに、2018年の陸軍G-4報告書は、同技術を推進する科学委員会の勧告を採用していた。
批判派は、数カ月で設計案を選択し、2年以内にテスト可能なマイクロリアクターと燃料を用意する現在のスケジュールは、拙速だと発言している。
ヘクラによれば、このスケジュールは新型原子炉で使う部品の開発スケジュールよりも短いという。
しかし、ワックスマンは、1970年代以来初めて米国内に建設される陸上原子炉は、十分な技術、支援、研究を背景に持っていると述べ、試作炉は、将来の小型原子炉の開発、実戦配備にかかる時間とコストを削減するのにも役立つ、と付け加えた。
Pentagon to build nuclear microreactors to power far-flung bases
By Todd South
Apr 16, 12:46 AM
About Todd South
Todd South has written about crime, courts, government and the military for multiple publications since 2004 and was named a 2014 Pulitzer finalist for a co-written project on witness intimidation. Todd is a Marine veteran of the Iraq War
コメント 日本では2011年のメルトダウン事故が発生して以来、中世の魔女狩りのように原子力を悪者にし封印した異常な状態が続いていますが、その間にも原子力関連の新技術が着々と開発されています。さらに、究極の手段、核融合もいつか実用化されるでしょう。今冬は電力不足が現実になりそうになりましたが、いつまで原子炉の商用運転を凍結したまま我慢するのでしょうか。リスクのない完全無欠な技術は残念ながら存在しないのですが...
この規模なら我国のSSK改造AIP-SSNに使えますね。
返信削除是非とも欲しい技術です。