スキップしてメイン コンテンツに移動

T-72などNATO加盟国に残るソ連製装備品がウクライナへ譲渡される。中でもポーランドが注目される。

 UKRAINE-RUSSIA-CRISIS-DEFENCE-T72, Tank, T-72, Russia, Invasion

AFP VIA GETTY IMAGES

 

シアとの戦闘が新たな局面を迎える中、NATO諸国に残るソ連時代のT-72戦車のウクライナへの譲渡を米国が仲介するとの報道が出てきた。

 ニューヨーク・タイムズ紙が最初に報じた。ウクライナ軍はソ連崩壊後、T-72を受け継いだが、T-72と並びT-64やT-80を好んで使ってきた。これらの戦車は、ロシア軍自身のT-72や他のタイプの戦車と対決してきた。

 この種の報告は今回が初めてではなく、ポーランドからMiG-29の譲渡が噂され、最終的にご破算となった。

 

PHOTO CREDIT SHOULD READ VASILY MAXIMOV/AFP VIA GETTY IMAGES

T-72は両軍が多用している。写真は親ロシア分離勢力の車両. 

 

 報道が正確なら、ウクライナ向け武器供与がエスカレートしたのは間違いない。主力戦車は列車やトレーラーで、あるいは自走で簡単に国境を越えることができる。

 さらに重要なのは、NATOが保有するT-72の数が、多いことだ。ポーランド、ブルガリア、スロバキアにはMiG-29が残っており、これらの空軍の能力を維持するための補充は大変なことである。しかし、NATOのT-72の多くは予備に回されているか、より高性能ではるかに近代的な西側戦車に置き換えずみだ。

 

USMC

ブルガリア軍の T-72s. 

 

 ブルガリア、チェコ共和国、ハンガリー、ポーランド、スロバキアはT-72戦車を運用中、あるいは貯蔵している。

 ほとんどは輸出モデルT-72Mの改良型で、ロシア地上軍のT-72B3ほどの大幅近代化は受けていない。ロシア軍の最新型は、旧式輸出型に比べ装甲、火器管制、自己防護システムなどが改善されている。しかし、破壊されたロシア軍の戦車を示す報道写真が急増しており、ウクライナ軍はロシア軍の装甲を破壊する能力を十分に持っていることが明らかだ。うち何台が戦車同士の戦果かは不明だ。

 ポーランドが供給元となり得る。ポーランド軍には2020年現在、400両近いT-72M1があり、すべて近代化改修済みだ。並行して、200両を超えるポーランドのPT-91トワーディ戦車もある。PT-91は、オリジナルのT-72より改良されたデジタル火器管制システム、独自の爆発反応装甲(ERA)、改良型パワープラントが特徴。PT-91の一部は新造され、その他はT-72M1からのアップグレードである。

 

POLISH MOD

ボーランドのT-72

 

 ポーランドは譲渡する戦車の穴を埋める代替戦車も用意している。同国は249両のレオパルド2戦車(そのほとんどが2A4および2A5型)を保有するだけでなく、米国設計のM1A2SEPv3戦車250両を発注中で、今年中に第一陣が到着する。

 ブルガリア、チェコ、スロバキアは、T-72Mに若干の改良を加え運用している。しかし、いずれも100台以上は稼働しておらず、ブルガリアのみ250台を貯蔵していると言われており、かなりの予備となっている。しかし、チェコ共和国は4月1日に発表した取引で、旧東ドイツ軍のBMP-1を改良した歩兵戦闘車Pbv-501を56台ウクライナに送ることにしている。

 

BRFBLAKE/WIKICOMMONS

チェコの改良型T-72

 

 この三国はポーランドと異なり、エイブラムス、レオパルド、チャレンジャーといった西側諸国の近代化戦車を購入していない。しかし、NATOの指導者たちは、ウクライナに旧型戦車を提供する見返りに新型戦車を提供するという、噂されているMiG-29とF-16の取引のような移転となり、甘受する可能性がある。

 ハンガリーはポーランド同様に、T-72M1約130両の非稼働状態で、34機が現役となっている。同時に、ソ連時代装備の一部を置き換えるために、ドイツから44両のレオパルド2A7の納入を待っており、予備と代替の両方が手元にある。しかし、そうした条件にもかかわらず、ハンガリーのオルバン Viktor Orban首相は他のNATO加盟国よりもモスクワとの関係が温厚であるため、譲渡の可能性は低い。

 T-72は、入手しやすさに加え、広く使われていることとメンテナンスのしやすさから、ウクライナに最適な選択と言える。比較的単純な設計のため、高度な訓練なくても戦場でサポートが可能で、ロシアは多くのT-72を放棄しウクライナが捕獲している。損傷しているものも多いが、スペアパーツ供給源として十分だ。また、ウクライナはT-72をアップグレードした経験も豊富だ。このように、容易に維持できる戦力の強化は非常に論理的な動きに思える。

 戦車がどこから来るか、どのようにウクライナの手に渡るかは別として、新規に加わる装甲車両は南部と東部の領土奪還に向けた最終的な反撃の基幹となり、ロシアの攻撃を鈍らせることができよう。■

 

 

Soviet-Era T-72 Tanks To Be Transferred To Ukraine From NATO Countries: Reports

Reports state that a U.S.-brokered transfer of T-72 tanks to Ukraine from NATO countries’ Soviet-era stocks is imminent. 

BY STETSON PAYNE APRIL 3, 2022

 


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...