アメリカの国家安全保障を確保し、核戦争を回避することが、ウクライナにおけるバイデンの最優先課題である
西側諸国はロシア侵攻を阻止するために必要な武器のウクライナ向け緊急提供に注目しているが、同時にホワイトハウスは、将来にわたり、米国の安全保障を確保するため必要な長期的な戦略目標を速やかに決定する必要がある。
そのような目標設定は、効率的かつ成功をもたらす政策の形成に不可欠だが、残念ながら、ワシントンでは戦略的思考が希薄になっている。例えば、ブッシュ政権からトランプ政権に至るまで、アフガニスタン戦争で戦略目標を特定できず、ましてや達成もできなかったことが、現地での失敗の大きな原因となり、米国に大きな損害を与えた。
ブッシュ大統領は2001年の初回攻撃で達成可能な任務を軍に与えたが、その後、任務を無定形の「国家建設」目的に変更してしまった。その結果、その後の各政権も含め、アフガニスタン戦で達成可能な最終状態を明確にできなかった。最終状態が明確に定義されないと、政策の成否を政権が判断する客観的な指標も存在しない。
こうして指標がないまま、アフガニスタンでは各政権、各司令官が独自に成功を定義し、前任者と一致することはほとんどなく、しばしば真っ向から対立することになった。このように泥沼化した曖昧な政策が何をもたらしたのか。20年にわたるフラストレーションと究極の戦略的失策が、昨年8月の不名誉な撤退とタリバンのカブール再入城で幕を閉じたのである。
アフガニスタンでは、2万2千人もの兵士が犠牲になり、何兆ドルを無駄にしたものの、国家の存続にほとんど影響を与えなかった。ウクライナ政策についていえば、論理的かつ達成可能な戦略目標を設定できなければ、結果として、ロシアとの直接的な軍事衝突に巻き込まれ、核対決にエスカレートする可能性がある。
現在のウクライナ政策
昨年2月のプーチンのウクライナ侵攻以来、米国は欧州で行動の先頭に立っている。バイデンは、モスクワに対し、かつてない厳しい制裁を何度も科し、プーチンを公に悪者扱いし、ウクライナ軍に何十億ドルもの武器を提供し続けている。しかし、バイデンは、こうした行動の意図、あるいはどのような結果を望んでいるかを明らかにしていない。
政権の意図について、様々なリーダーやオピニオン・メーカーが意見を寄せている。ひとつは、ウクライナがロシア軍の侵攻を食い止め、最終的にウクライナ領内からロシアを追い出すために、米国がウクライナに武器を提供するべきというものである。これは魅力的に見えるが、米国が直接現地に乗り込まないかぎり成功の可能性は非常に低い。ロシア軍を追い出すのに十分な規模と威力を持つ部隊をウクライナに生み出すには、何年も何百億ドルもかかるだろうし、それさえも成功の可能性は極めて低い。
ワシントンでは、プーチンを追放するためモスクワの政権交代と、プーチン勢力を長期的に弱めるためウクライナの戦争を対露代理戦争に利用するとの2案が浮上している。プーチンが失脚する可能性は今のところなく(プーチンに続く者がより良くなる見込みもない)、モスクワを干上がらせようとすれば、必然的にウクライナの都市破壊が劇的に進み、死者が急増する(ロシアが攻勢を強め、軍事勝利を収めることもありうる)。
さらに厄介なのは、バイデン政権に何の戦略もなく、ただロシアの動きに呼応して行動しており、プーチンを苦しめること以外は特に成果を求めないという可能性である。このような政策の大きな問題は、一貫し論理的な戦略目標がなければ、各政策が米国に有益な結果を生む可能性は低く、むしろ逆効果となって状況を悪化させる可能性さえある点だ
米国がとるべき政策
ウクライナ戦争への米国の政策全般の指針として、現政権は米国の国家安全保障の維持と国民の繁栄の確保を2つの優先目標に設定すべきである。すべての行動、政策は、この2つの目標を支援し、促進するものでなければならない。それをサポートしないもの、あるいはそれに逆行するものは、すべて避けるべきだ。
以下の政策は、上記2つの目標の達成を促進し、支え合う。第1に、米国は欧州同盟国と協調して、ウクライナに自衛用の武器・弾薬を提供する現在の施策を継続すべきである。これによりロシアがさらに進出すれば流血と装備両面で高くつくので、双方を交渉による和平へ導くのを目的とするものである。
西側諸国は、ロシアが敗北し、ウクライナから追い出されるのを望んでいるが、ウクライナ国内の戦争被害を劇的に増大させずに、ロシアを追い返すことができるだけの攻撃的な軍隊を作るチャンスはほとんどない(ウクライナ都市部の物理的破壊が大幅に増え、民間人の犠牲者が劇的に増加するが、それでも最終的に軍事的成功は望めないだろう)。
第二に、キーウに自衛用武器を提供するのと同時に、ワシントンは外交力を総動員し、ウクライナ政府高官や欧州各国政府、さらに水面下でモスクワとも協力し、当事者が戦争終結に向けて合意できる道を見つけるよう支援する必要がある。
筆者は、交渉による解決を求めることは、戦争で発生中の深刻な殺戮と戦争犯罪の可能性のため、受け入れられない選択肢であると十分に理解している。しかし、この結果を追求することを拒否した場合、最も可能性が高いのは、戦争の延長、ウクライナでの死と破壊の増加、和解条件がウクライナにさらに不利になる可能性だ。アメリカにとっては、戦争が長引けば長引くほど、誤解や誤算、事故で、戦争がエスカレートする可能性が高まる。
最後に、バイデンは、いかなる攻撃からも米国を守り、NATO条約第5条の義務を果たすとのレッドラインを貫くべきである。すでにバルカン半島のほとんどの国が国防費を増やし、軍事力を拡大させると宣言している。ドイツも同様に、軍備強化に1000億ドルを投入すると発表した。米国は、NATOへの攻撃があった場合に決定的な軍事的支援を提供するとの確固たる責任を強化する一方で、欧州諸国が自国の安全保障へ責任を強化する姿勢を称賛すべきだ。
ワシントンの最後の一線とは
プーチンがウクライナで行っている戦争は、不道徳的かつ不必要であることに疑いの余地はない。世界はロシアに当然ながら反発しており、モスクワに厳しい罰則を科すのは適切である。しかし、ワシントンが確実に実行すべきは、まず米国の国家安全保障と米国の繁栄を保つことである。早期の戦争終結に向け努力し、ウクライナの国境を越えた紛争拡大を防ぐことは、上記2つの目的を促進することとなり、不可欠である。
バイデンは、ロシアに十分な罰を与えつつも、ロシアとNATOの直接衝突を招きかねない行き過ぎた行動を避けるよう、西側の対応をリードすべきだ。過激な行動は制御不能に陥り、核兵器の応酬にエスカレートする可能性があまりにも高い。核戦争が起これば、米国は壊滅的な打撃を受け、米国民何百万人が死ぬ可能性がある。そのような事態に絶対に陥らないようにすることこそ、大統領の第一の責務である。■
What Does Joe Biden Hope to Achieve in Ukraine? - 19FortyFive
Now a 1945 Contributing Editor, Daniel L. Davis is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who deployed into combat zones four times. He is the author of “The Eleventh Hour in 2020 America.” Follow him @DanielLDavis
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