技術の進化、地形、社会の変化で攻守のバランスが変化しており、ウクライナ以外の民主体制国家にも有利になってきた。
ロシア侵攻へのウクライナの反撃が予想外に成功していることは、戦争の性格が変わりつつある姿を示している。ロシア軍が予想外な無能ぶりを示した一方で、侵略側が思う通り進展できなくなる傾向だ。
これは、中国など征服により他国の領土を確保しようとする国々にとって悪い知らせだ(そして、先制攻撃戦をいまだ主張するアメリカのネオコンも同様だ)。逆に戦略目標の中心を防衛におく民主主義国家や、圧倒的な通常戦力に直面している小国には朗報だ。
何が変わり、なぜ変わるのか?ウクライナ戦争は、精密誘導火力、市街地化、国民動員という世界的トレンド3つの軍事的意味を浮き彫りにした。今回が初めてではなく、米国自身もイラクで同様の苦境に遭遇した。しかし、ロシア侵攻は、現代の戦場で各要素が展開する点で群を抜いて明確な例であり、台湾当局者が公言したように、中国の戦略家は台湾統一を強行した場合の影響を熟考する必要があろう。
火力
火力、防護、作戦のバランスは常に変化しながら、戦争の様相を形成している。歴史上、長距離兵器が防御力を上回ると、戦場の移動が危険になり、隠れるのが安全になる。その結果、攻撃効果は妨げられ、防御が有利になる。クレシーやアジャンクールでイギリスの長弓がフランス騎士団の進撃を妨げたように、西部戦線で機関銃が塹壕戦の膠着状態をもたらしたように、そしてウクライナがロシアの進撃を妨げた事例となる。
最も劇的な例は、英NLAWや米ジャベリンといった西側装備がロシア戦車を破壊したことだ。重装甲車両は最も難しい標的であり、対抗策のアップグレードも最も簡単だ。(例えば、米軍はイスラエルのトロフィーシステムをM1戦車に搭載している)。米国の経験から、軽量車両、特に前進の維持に不可欠な非装甲の補給トラックへの対ミサイル防衛装備の搭載は困難だ。そして、薄っぺらな車両は、高性能対戦車ミサイルだけでなく、小型弾を投下する無人機にも脆弱だ。実際、ウクライナのアエロズヴィドカAerorozvidka部隊は、自ら設計した爆弾投下型無人機でロシア部隊を停止させたと主張している。また、非武装の市販無人機でも、目標を発見することで、ウクライナ砲兵隊や待ち伏せ部隊の威力を増進できる。
スマート兵器の世界的な普及、そして標的探知用の長距離センサーの普及は、ウクライナにとどまらず、大きな意味を有する。ロシアと中国は、米軍による介入を阻止するため、長距離対空ミサイルや対艦ミサイルを用いた「接近阻止/領域拒否」防衛の構築を模索してきた。逆に、アンドリュー・クレピネビッチAndrew Krepinevichなど欧米の専門家は、フィリピン、日本、台湾を中国から守るため同様のシステムを主張しており、台北は同アプローチを検討している。いずれの場合も、陸上兵器により、敵航空機や軍艦を壊滅させるコンセプトだ。
揚陸侵攻部隊は、こうした防御に特に脆弱だ。陸上部隊と異なり、艦船では外洋には隠れる地形がない。航空部隊のように高速移動して攻撃を回避することもできない。従来、海軍は陸からの脅威を避けるため、射程圏外にとどまり、広大な海で発見されないようにしてきた。しかし、部隊を上陸させるのが目的だと、その選択肢はない。
中国が台湾を侵攻する場合、80マイル以上の海峡を渡り、さらに地球上で最も密集した市街地を内陸に向かい戦う必要が出てくる。それが次の話題につながる。
ウクライナの人口密度分布
ウィキメディア・コモンズ
市街地化
ウクライナは歴史的に侵略の通路であった。広い草原と小麦畑が広がり、モンゴルの騎馬民族からナチス戦車兵まで、侵略者の前進を妨げる自然障害物がほとんどない。では、なぜロシア軍はベラルーシから60マイルも離れたキーウや、ロシア国境から13マイルしか離れていないハルキウを占領できなかったのか。
答えの一つは、防衛側を有利に変えた市街地化だ。ウクライナの自然特徴は変わらないが、居住地は過去の戦争と大きく異なっている。ウクライナの人口は、ヒトラーが侵攻した当時とさほど変わらない。公式発表によれば、当時は4000万人強、現在は4500万人だが、都市部住民の割合は69%へ倍増した。ウクライナの人口密度マップでは、点在する都市の一つ一つが要塞だ。
紀元前6世紀、孫子は都市への攻撃は最悪の戦略だと警告していた。21世紀の都市はさらにタフだ。石垣はないが、上方から待ち伏せが可能な高層ビル、掩蔽壕に転用できるコンクリート構造、戦闘員が地下から作戦展開できるトンネルや地下鉄網がある。都市環境の複雑さは、攻撃側にとって悪夢であり、無数の裏ルート、隠れ場所、待ち伏せの可能性がある場所について防衛側ほど熟知していない。ロシアがウクライナで行っているように、都市を爆撃して瓦礫にすれば、民間人の殺戮では効果的だが、軍事的観点では、通りを瓦礫で埋め尽くしてしまうことになる。イラクのファルージャやサドルシティ、ウクライナのマリウポリなど、近代における最大に過酷な戦闘が都市が舞台となっているのは不思議ではない。
ウィキメディア・コモンズ
そのため、各軍隊は都市への接近を避けるようにしてきた。しかし、世界人口が都市化を深め、市街地が広がるにつれて、接近回避は難しくなってきた。世界銀行によれば、1960年に世界人口の3分の1が都市部に住んでいたが、2020年は60%近くになるという。
中国の最重要ターゲットである台湾では、人口の約80%が都市部に居住している。台湾の人口はウクライナより少ないが(4,500万人に対し2,400万人弱)、国土が狭いため、人口密度は9倍(1平方マイルあたり1,709人、185人)にもなる。さらに人口が集中している西側に中国の侵略軍が上陸する可能性が高い。(東海岸は本土から遠くなるだけでなく、急峻な山地が多い)。
ここまで密集した都市部は、侵略の物理的な障害になるだけでない。人的な障害にもある。住民は、社会的ネットワーク、集団抗議行動、暴動、あるいは反乱軍が容易に生まれる。テクノロジーで大衆動員はかつてなく容易になっている。
国民動員
今日のウクライナの大部分は、300年以上にわたりロシア支配下にあった。しかし、ウクライナを服従させるのは困難になっている。歴史的に見れば、ウクライナ人の多くは自給自足の農民で、孤立した村落に住み、外部のニュースやアイデアはゆっくりとしか入ってこなかった。しかし現在では、ほとんどのウクライナ人が都市部に住み、60%以上がスマートフォンを持つ。農民にとって、戦争や政治は天候のように不可解で、危険で、しばしば災いをもたらし、耐えることはできても影響を受けることはなかった。現代のネットユーザーにとって戦争はインタラクティブな存在であり、ソーシャルメディアは抵抗、抗議、入隊、火炎瓶製造、補給隊への攻撃などを促している。勝利と残虐行為の画像は日常となり、ゼレンスキー大統領は国民に直接訴えている。
この現象は、インターネットの登場以前にもあった。チャーチルがラジオでイギリス国内の抵抗を結集させたのは有名な話だ。それ以前にも、新聞、パンフレット、書籍の大量印刷は、アメリカ独立戦争までさかのぼれば、民衆の抵抗運動の炎を燃え上がらせてきた。独裁者もマスメディアを利用し、ヒトラーやスターリンは、工業化以前の専制君主では到底不可能な方法で、国民を総力戦に向け奮い立たせるプロパガンダを利用した。共通する要因は、大量動員を可能とするマスコミュニケーションだが、なかでもインターネットは最新かつ最も効果的な形態だ。QAnonの台頭やアメリカでの1月6日暴動を見ればわかる。
2021年8月24日、ウクライナの独立記念日のパレードで、大きなウクライナ国旗を運ぶ軍部(Brendan Hoffman/Getty Images)
もちろん、ウェブサイトはハッキングされ、通信は妨害され、印刷機は押収される可能性がある。しかし、ウクライナでロシアが通信遮断できなかったことは顕著だ。とはいえ、強い国民性が形成されれば、手遅れだ。長年にわたりマスメディアに接することで、国民は共通の言語、思想、経験に触れ、学者ベネディクト・アンダーソンBenedict Andersonが言う「想像の共同体」“imagined community” を形成し、対面のつながりで得る以上のアイデンティティが確立できる。ひとたび自分の村を超えた価値観に共感できれば、それを守るために動員される可能性が高くなる。
今日のウクライナでは、何百万人が国家的大義のため戦うと強く共感している。 台湾はどうか?台湾は世界で最も電脳化され、動員された社会の一つだ。2021年の時点で、人口の98%がスマートフォンを持つ。うち67パーセントが選挙に参加し、2020年には75パーセントに増加する。
さて、歴史的には、北京と台北間で台湾が統一中国の不可分の一部であることに同意できていた。ただ、どちらが主導権を握るかで意見が分かれていただけだ。しかし、最近の世論調査では、台湾人口の68%が自らを台湾人だとし、中国人と答えたのは2%以下、28%が両方であると答えている。64パーセントが台湾を守るため「絶対に」または「おそらく」戦うと答えた。
この数字は、ウクライナ式の国土防衛が台湾で新兵多数を獲得できると示唆している。最新のミサイルや無人機で武装し、さらに都市部の地形で守れば、中国の侵略には手強い障害となり得るだろう。
攻撃が時代遅れになったとは言い難いし、中国はロシアよりずっと強力だ。しかし、ウクライナは正しい形の防衛が有効だとあらためて示唆しており、世界各地の民主主義国はウクライナを参考にすべきだ。■
Three reasons why defense is beating offense in Ukraine - and why it matters for Taiwan
Changes in technology, terrain and society have shifted the balance between offense and defense in ways that favor democracy's defenders in Ukraine — and beyond.
on April 08, 2022 at 9:13 AM
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