ラプターの退役はまだ始まっていないが、残された時間は減りつつある。 (U.S. Air Force Photo by Staff Sgt. Kaylee Dubois)
ペンタゴンは先週2023年度予算要求を発表し、ロッキード・マーティンF-22ラプター30機超の供用終了が目立つ。同機は現時点で最高性能の制空戦闘機と言われる。米国は同機生産を186機で終了し全機が引き渡し済みなので、今回の削減でラプターのほぼ2割が姿を消すことになる。
F-22は航空優勢確保に特化し生まれた機体で米国の競合相手が有する高性能戦闘機の打破をめざしたものだ。第5世代戦闘機としては最古の存在となっているが、高性能、センサー有効範囲、極めて低い視認性により今日の制空戦闘機のベンチマークとなっている。
F-22は航空戦闘で今も優位性をほこるものの、空軍は未来を展望し、あらたな制空戦闘機をシステムとして開発中だ。これが次世代制空(NGAD)事業だ。空軍は最古参のF-22計33機を用途廃止して今後8年で18億ドルを確保し、残る153機の性能改修に使う。これによりNGADに次ぐラプターの高性能を維持できる。
(U.S. Air Force photo)
F-22は世界最高峰のステルス性能を持ち、レーダー断面積(RCS)はF-35の0.0015平方メートルの10分の一とされる。F-22、F-35はともに低視認性で他国機の一歩先にあり、J-20は1980年代のF-117ナイトホーク(0.025平方メートル)程度とされ、ロシアのSu-57は0.5平方メートルとステルス性能が劣る。
言い換えれば、正面方向でのレーダーでF-22はビー玉程度、Su-57はiPad13台分の大きさに映るはずだ。
ただし、レーダー断面積は一定のままではない。F-22は正面方向でのRCSを最小限とする設計だが、角度によってはレーダー反射が増える。ただこれは、ステルス戦闘機全般で同じでF-22のみではない。とはいえ、レーダーをかいくぐり忍び込む性能でF-22がその他機種より優れていたのは事実だろう。
ステルスの威力が戦闘で実証されたのが2013年のことで、イランのF-4ファントム編隊が米MQ-1プレデターに嫌がらせをしている場面にF-22単機が接近した。F-22のケヴィン・「ショータイム」・サターフィールド中佐は探知されずに自機をイラン編隊に移動させ、相手の搭載兵装を確認したあと、機首を上げファントム編隊に並び、「もう帰投したほうがいいぜ」と告げたのだった。イランパイロットは新世代機につきまとわれていたことにはじめて気づきパニックとなった。
(U.S. Air Force photo)
米ステルス戦闘機各機が世界最高峰の戦術機であるのは事実だが、運用経費も高いのは公然の事実だ。
F-16ファイティングファルコンは米空軍で広く使用され、第4世代で最大の成功作といわれるがフライト時間経費は$8,278で、ここに燃料費から保守整備人件費まで含む。
国防総省は2018年にF-35Aで毎時$28,455、F-22は $33,538と発表している。外部独立分析でこれを低すぎると見る向きもあるが、いずれにせよF-22が恐るべき水準の運行経費を必要とする機体であるのは確かだ。
ここまで経費が高くなった大きな理由に脆弱なレーダー波吸収塗料がある。ステルス機はレーダー波の反射だけではレーダー探知を逃れられない。そのため、機体をポリマー素材で被覆し、照射レーダー波の電磁エナジーの80%を吸収する。この素材によりステルス効果が増える一方で、熱による劣化に非常に弱い。超音速飛行で機体は高熱にさらされる。補修は手間がかかる作業でF-22はこの問題に終始悩まされてきた。
(U.S. Air Force photo by Christian Turner)
米空軍にはF-22を当初750機と大量導入し、さらに戦闘爆撃機型FB-22まで150機調達する構想もあった。だが、2006年に国防の優先事項が超大国相手の戦いから対テロ戦に移り、ステルスに頼る制空機能のみが売り物の戦闘機の出番が減ったため、F-22生産は186機で打ち切りとなり、生産設備等はF-35へ転用された。
とはいえF-22の186機の意味を理解する必要がある。戦闘機生産は段階を追って進展し、これをブロックと呼び、各ブロックで改良点や調整が行われる。ロッキード・マーティンはブロック20仕様の36機をまず納入したが、戦闘装備は完全ではなく、訓練用途に適合していた。その後、ブロック30、ブロック35で戦闘投入可能なF-22が製造された。
その後少なくとも4機喪失したが、残る機材も老朽化もすすみ、実戦投入可能な機体は更に少なくなった。ブロック20の訓練用ラプターを実戦対応仕様に改装する案もあったが、費用があまりにも高額になり合理性がないと判断された。
そこでブロック20機材を退役させ、浮いた経費で戦闘仕様機を改良する。ということは、戦闘仕様機材も訓練に投入して機体の摩耗疲労が増え、飛行時間も消費することになる。
F-22の設計寿命は8千時間で、近代化改修で倍増されたといわれるが、そもそも残る機数がここまで減ると各機に残る時間も減りそうだ。
そうなると、実弾を一回も発射しないまま退役するラプターが生まれそうだ。高額な予算を投じた機体なので失策に聞こえるが、実は勝利と言える。F-22のような高度装備品は競合相手への抑止効果をねらったもので、F-22の勝利とは第三次大戦で航空戦闘を展開することではなく、そもそも開戦を防ぐことにあるためだ。
訓練用F-22の退役によりラプターの供用そのものも終了に近づく。必要な訓練用フライト時間を残る機材にふりむけるためだ。だが同機供用が終わっても米国の航空優勢確保機材の今後には明るい未来がある。
米空軍でドッグファイトや航空優勢を確保する次の機材がNGADでラプターの優位性を引き継ぎ、一機種ではなく各種用途に応じた多様な機種構成となり、有人操縦のステルス戦闘機以外に無人機も生まれる。無人型機でセンサー有効範囲が広がり、モジュラー式のペイロードを採用し、有人機を護衛する無人機も生まれる。■
Why the Air Force wants to retire nearly 1/5 of its F-22 fleet - Sandboxx
Alex Hollings | April 1, 2022
Alex Hollings
Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.
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