巡洋艦モスクワの最後を祝いウクライナが急遽発行した切手の構図には開戦初期にスネーク島を守った守備隊が描かれている(Ukrainian government)
4月15日、ロシアは黒海艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦モスクワが爆発と火災で廃墟と化し曳航中に沈没したと認めた。ウクライナは、対艦巡航ミサイル「R-360ネプチューン」2発を同艦に命中させたと主張している。ロシアは反論したが、米国防総省はウクライナの言い分を支持している。
ロシアの否定にかかわらず、この事件は、ロシアの侵略戦争以外に、世界各国の海軍部隊の運用とリスクに深い意味を投げかけている。
全長611メートルのモスクワと同規模の艦船が敵に撃沈されたのは40年ぶりだ。1982年、アルゼンチンの軽巡洋艦ARAへネラル・ベルグラノは、フォークランド紛争中に英海軍の潜水艦コンカラーの魚雷攻撃を受けた。敵艦撃沈で海戦の規模が大きくなったのは、第二次世界大戦後はじめてだった。それ以来、米国はじめ列強諸国は、戦争に備え海軍力を開発し維持してきたが、供用期間を通じ、同規模の海戦を経験することはないと思われる。
スラヴァ級の構造に問題があった
サガモア研究所の上級研究員で元海軍大佐のジェリー・ヘンドリックスJerry Hendrixは、「モスクワの事例は、艦設計と艦隊運用に教訓を与える」と言う。
モスクワでは、甲板火災がミサイル発射管に到達し、より大きなダメージを与え無力化させた。スラヴァ級巡洋艦は、超音速巡航ミサイルP-500バザルト発射台を上部構造の両脇に16基搭載する設計になっている。
「発射管は)甲板の上にあるので、損傷や破片に非常に脆弱で、艦が攻撃されれば、自艦に損害を与える」(ヘンドリックス)
「ミサイルを撃ち落とせなければ...そのミサイルは他のミサイルに延焼し、艦は事実上自滅する」という。
対照的に、米海軍タイコンデロガ級巡洋艦は、ミサイル発射管を甲板下に格納する。そのため、火災が発生しても、乗組員が注水し、ミサイルは格納庫内で安全に連鎖反応を防げる、とヘンドリックスは説明した。
それでも、アメリカはモスクワの教訓を生かし、外部搭載兵器を艦内側に移動させるべきだとヘンドリックスは言う。例えば、ボーイング製の水平線超え発射ミサイル「ハープーン」は、甲板上のランチャーに格納している。
敵沿岸近くでの作戦はどうなる
さらに重要なのは、モスクワの喪失が、海上武力衝突が現実味を帯びる世界において、分散型作戦の必要性を浮き彫りにしたことだろう。
ロシアの首都にちなんで名付けられたモスクワは、黒海での任務には過剰な艦だったとヘンドリックスは言う。大胆な戦力の誇示よりも、小型艦船と適切なサイズの任務の価値が重要だ。
「フリゲート艦がやるべきことを巡洋艦にやらせてはいけない、とよく言っている。黒海は限られた水域で、フリゲートがふさわしい。それに、黒海では対艦巡航ミサイルの任務もない」「では、なぜモスクワは黒海にいたのか?威信のためだ。ロシアは今回の事件で威信を失った」。
米海軍は、コンステレーション級フリゲートを少なくとも20隻建造するが、ヘンドリックスは、分散型運用も考えるべきと提言している。海軍と海兵隊の上層部は、太平洋のような広大な活動領域で効果的に活動する方法として、分散型海上作戦と遠征型前進基地作戦の概念を長年にわたり推進してきた。しかし、海軍は伝統的に、水上艦5、6隻を大型空母の防衛のため周囲に集めた空母打撃群を展開している。
「戦力をどのように分散させ、広い海域に分散させ、素早く集合させ、殺傷力の圧縮パルスを与えるかで集中的に議論しています」「すべては、敵が対艦巡航ミサイルを大量に陸上で保有し、付近での活動は非常に難しいという前提に基づいています」(ヘンドリックス)。
ロシアにとって、モスクワ沈没は戦略的失敗で最新のものとなった。ロシア黒海艦隊副司令官アンドレイ・ニコラエヴィチ・パリ一級大佐Captain 1st Rank Andrei Nikolayevich Palyは、3月にマリウポリで戦闘中に死亡したと伝えられている。ウクライナ当局によると、戦闘で7人のロシア将官が死亡したというが、全員の死亡が確認されたわけではない。キーウへの長期間攻撃の後、ロシア軍は今月初め、同市を制圧できず撤退した。
ヘンドリックスは「ロシア軍部はますます血眼になっている」「スラヴァ級は重要な軍事装備で、海軍予算で大きな部分を占める。だから、ロシア軍内部で、今回の戦争の遂行方法を再検討する圧力が強まるだろう」(ヘンドリックス)。
紛争初期にロシア海軍は、ウクライナ軍数十人が守るスネーク島を攻撃した。その際、ウクライナ国境警備隊が「ロシア軍艦、くたばれ」と言い降伏を拒否したとの記録が残っている。
その艦がモスクワだった。
Sinking of Russian flagship hastens new era of naval warfare - Sandboxx
Hope Seck | April 18, 2022
Hope Seck
Hope Hodge Seck is an award-winning investigative and enterprise reporter who has been covering military issues since 2009. She is the former managing editor for Military.com.
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