(Taiwan Ministry of National Defense via AP)
中国の侵攻の脅威に備え準備をしなければ、台湾はウクライナよりはるかに悪い結果に直面することになる。ウクライナ紛争の最初の1カ月間から、台北とワシントンの戦争立案部門が取り組むべき教訓が5つある。
【地理人口分布の課題】
第一に、台湾は中国の砲撃作戦、揚陸部隊および空挺部隊による攻撃で発生する可能性がある難民の流れに対応する設備がまったく整っていない。ウクライナの人口密度は1平方キロメートルあたり75人で、人口4500万人の4分の1にあたる1050万人もの難民を生み出し、そのうち650万人が国内避難民であった。台湾は人口は半分だが人口密度は9倍で、台湾人の90%は高雄、台南、台中、桃園といった中国に最も近いと思われる場所から30キロ圏内に住んでいる。このため、東部海岸に完全に国内避難し、台湾を離れることができない難民が2倍、すなわち1200万人発生する可能性がある。第二次世界大戦中の都市爆撃の記録によると、住居の70パーセントまでが破壊されると住民が移住せざるを得なくなるが、台湾ではアパート暮らしが普及しているため、この閾値は半分になると思われる。
【補給兵站の課題】
第二に、台湾では紛争時の補給が厄介な問題となる。軍事装備では、ウクライナはAT-4 6000発、NLaw 3615発、ジャベリン2000発、スティンガー1400発、その他8000発のミサイル、スイッチブレード100機、サクソン装甲車、ミル17ヘリ5機、砲弾、小銃弾2000万発を受領している。台湾では特に食料、燃料、武器の補給が困難である。台湾には28ヶ月分の米の備蓄があり、水産物の漁獲量は消費量を170%上回る。その他の食糧の自給率は40%以下で、米以外の食糧は94%を輸入しており、食糧備蓄は6カ月程度となる。その多くは、奇襲的な紛争となれば、輸送が可能と仮定しても、分散する前に破壊されてしまうだろう。紛争時の食糧輸入は、台湾東海岸の港(花蓮と蘇澳)に限られるが、各港は、簡単に封鎖される西海岸の各港の10%以下の能力しかない。石油では台湾は1日90万バレル以上を消費するが、備蓄は30日分しかない。さらに、タンカーは供給元からの石油の流れを維持するのに必要な容量の30%しかなく、液体天然ガスも14日分しか備蓄していない。西ウクライナは戦場から数百キロ離れており、ロシアのイスカンダルミサイルが時折飛んでいるが、台湾には聖域がない。中央部の高い山が隠れ家となるが、高速道路が寸断されれば物資の流れを極度に制限する。
【中国の核の恫喝への対応】
第三に、中国の習近平総書記は、ロシアのプーチン大統領の核兵器使用の脅しを真似て、民主的指導者に軍隊の戦場投入を躊躇させる可能性が非常に高い。台北ができることは、外交的対応の準備として大規模な政治的ウォーゲームを要請すること以外にはない。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が米国議会、英国、日本、欧州連合、カナダに対して行ったように、台湾の蔡英文総統も主要民主主義国の議会に同様の必死の訴えをする可能性がある。しかし、台湾を含む日米豪加仏独の艦隊による制海権、輸送船団護衛、水陸両用上陸、対潜戦、封鎖などの演習を毎年行えば、有事の際に意思決定者が利用できる政策オプションのメニューが生まれる。戦術核戦争の脅威に対抗するため、中国へのシグナルとして艦隊の分散を強調し、模擬核攻撃後の回復訓練も含めればよい。
また、西側の艦隊は、敵対行為が発生した場合、中国の弾道ミサイル潜水艦(普級6隻)を狙うという冷戦時代の戦略を再実施する必要がある。南シナ海、中国の浅い大陸棚、または海南島の基地のいずれかで6隻の「普」が破壊される前に、北京が台湾を確保できないとわかれば、西側はエスカレーション制御を確保し、中国による戦争開始の抑止効果を強化することになる。対ソ戦争時の当初の想定は、ソ連弾道ミサイル潜水艦隊の牙城であるバレンツ海、オホーツク海にNATOの相当数の空母艦隊を派遣することであった。現地に到着次第、ソ連の水上対潜ヘリ空母を破壊し、NATOのハンターキラー潜水艦を放ち、敵潜水艦を破壊するか北極の氷の中に追い込む想定だった。NATOは、有事になればこの策を追求すると明確に脅したため、ソ連と中国は、米国の核第一撃に弱い陸上ミサイルと爆撃機に頼らざるを得なくなる。ソ連が西ヨーロッパに通常侵攻した場合、モスクワが西ドイツを確保するまでは戦略的核交換にエスカレートする可能性は低かった。
【経済制裁の不都合な事実】
第四に、ロシア経済への制裁が急速に実施されたにもかかわらず、ポーランドやバルト海のパイプラインを通じドイツ、イタリア、ハンガリーに流れ続けるロシアのガスは、ウクライナ戦争の資金となっており、ロシアと戦うためNATOが提供する兵器の効果を打ち消して余りあるものがある。ウクライナがロシアの天然ガスを自国の領土を通してドイツ、オーストリア、イタリア、スロバキア、ハンガリー、チェコ共和国に積み替えざるを得ないというのは、さらに痛ましく皮肉なことである。1812年戦争でアメリカを封鎖していたイギリス艦隊にボストン商人が不正に物資を供給したことや、第一次世界大戦で中立国オランダがドイツ帝国の海上貿易を継続させたことは、繰り返し起こる矛盾の例である。2022年の名目GDPで米国経済の74%の経済規模を持つ中国との戦争は、南・東南アジアの大部分、韓国、南米の大部分、中東、アフリカを含む中立国による重大な制裁回避につながるだろう。中立国を強制的に疎外するのではなく、説得して対中封鎖体制に応じさせるには、代替市場を提供するため、米国と欧州が事前に調整する必要がある。しかし、バージニア大学のデール・コープランドDale Copeland教授が警告するように、こうした計画は台湾奪取と明確に関連付ける必要がある。なぜなら、そうした有事が対中政策の必然性のように見え始めると、北京は孤立の予想から軍事的解決策を検討し始めるだろうからだ。このような誤解による不安から、ドイツは第一次世界大戦中、最大の貿易相手国であるにもかかわらず、海軍の軍拡競争に走り、イギリスを攻撃するまでになったのである。
【情報戦】
第五に、西側諸国が有効な情報戦戦略をとるためには、中国の主流派ナショナリズムと北京の共産党が擁護する外交政策の歪みの違いを理解させるために投資が必要だ。西側諸国は、経済制裁によるプーチンの一時的な人気上昇を見誤っている。ロシア国民は、国家安全保障を向上させた強力な指導者に非常に恭順的となり、ウクライナを戦争をしてでもNATOに加盟させるべきではないという国民のコンセンサスが広く存在する。また、ロシアには動員できる若者が十分にいない。中国本土も同様に、欧米や日本の帝国主義者による歴史的蹂躙からナショナリストであり、台湾の独立を非合法と見なす可能性がある。どちらの場合も、一人当たりの所得水準が十分に向上し、統治の質が国民の関心事となっていることから、指導層の腐敗と不道徳に焦点を当てたメッセージが有効になるはずである。
台湾侵攻の抑止を成功させるコストは、軍事コストと北京との外交的な不安定さの両方において、西側が無策という惰性に賭けるよりもはるかに高くつくはずだ。しかし、備えのない台湾に対する中国の敵対行為がエスカレートし、米国や西側同盟国を巻き込んだ場合、イラクとアフガニスタンでの数十年にわたる作戦を1年に凝縮したような出費規模になるだろう。■
The West Is As Poorly Prepared to Help Taiwan As It Was for Ukraine | RealClearDefense
April 19, 2022
Dr. Julian Spencer-Churchill is an associate professor of international relations at Concordia University (Montreal), former army engineer officer, and has written extensively on Pakistan, where he conducted field research for over ten years.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。