F-16ファイティングファルコンは、40年以上にわたりアメリカ空軍で主力戦闘機として活躍しているが、空母搭載型がアメリカ海軍の主力戦闘機となるかと思われた時期があった。
1974年初飛行し、4,600機が納入されているF-16はアメリカの航空支配の屋台骨であり続けている。F-16の幅広いマルチロール能力と圧倒的な性能は、映画「スター・ウォーズ」初公開された時点の機体にもかかわらず、今も世界トップクラスの戦闘機として知られている。
40年経っても健在だ (U.S. Air Force photo)
F-16は米国、イスラエル、パキスタン、トルコ、エジプト、オランダ、ノルウェー、ベルギーなどで飛んでいる。しかし、この高性能な第4世代戦闘機が米国の超大型空母で供用される可能性があった。 1975年にF-16が空軍の新型戦闘機材(ACF)契約を獲得した直後、当時のジェームズ・シュレシンジャー国防長官は米海軍にも同機の採用を働きかけた。
シュレシンジャー長官は、海軍もF-16を採用すれば、国防総省はF-16を大量調達でき、両軍の兵站が合理化できると考えた。
この考え方は、最終的にF-35統合打撃戦闘機という悪夢の調達につながったが、F-16でも空軍、海軍、海兵隊、海外の異なるニーズを満たす単一の戦闘機プラットフォームとなる期待があった。もし、ヴォートのモデル1600(空母搭載型F-16)として就役していたら、F-16も失敗作になっていたかもしれない。
AIM-9サイドワインダーミサイルを搭載したYF-16(手前)とノースロップYF-17。(米海軍撮影:R.L.House)
F-16とF/A-18の前身が一度ならず対決していた
YF-16が空軍の主力戦闘機となる前に、まずノースロップYF-17という厳しい競争相手と戦わなければならなかった。YF-17は、制空戦闘機であるF-15イーグルに代わる低コスト戦闘機として開発された軽量試作戦闘機だった。F-15は大型で強力、かつ高価格であるため、多くの場面で必要以上の威力を発揮する。そこで、安価ながら高い能力を持つ戦闘機が、アメリカの戦闘機隊を補完することができると、軍上層部は考えていた。
最終的にYF-16は、空軍のテストでノースロップYF-17を上回ったが、共に高性能な両機が契約をめぐり競合したのは最後ではなかった。海軍がF-16を空母用として検討するとノースロップYF-17と再び厳しい競争となった。
F-16を製造したジェネラル・ダイナミクスもYF-17のノースロップ社、空母用戦闘機の製造経験はなかった。ジェネラル・ダイナミクスはヴォートと組み、新型のF-16ファイティング・ファルコンをヴォート・モデル1600とし、ノースロップはマクドネル・ダグラスと組み、YF-17を改良した。
両戦闘機の新型は、当時の海軍の主要ニーズに重点を置いた。すなわち、迎撃任務用の長距離レーダーと、アメリカが重用してきた空対地戦闘作戦を支えるマルチロール能力だ。
(Vought Aircraft)
F-16をヴォート1600にする
サイドワインダーのパイロンを取り除き、空母収納のために主翼の折りたたみ機構を採用したヴォート1600の想像図。(米海軍)
F-16が戦闘機と同時に攻撃機として役割を見事に果たしている今日からすれば、奇妙に思えるが、F-16の当初コンセプトは、制空任務専用だった。「軽量戦闘機マフィア」と呼ばれるジェネラル・ダイナミクス設計陣は、新型戦闘機にありがちな「金メッキ」を新型機から遠ざけようとしたのである。「金メッキ」とは、火器管制レーダー、激しい戦闘空域を飛行するための電子対策、レーダー誘導ミサイル、地上攻撃能力など、今では第4、第5世代戦闘機の標準と考えられる要素だった。
F-16Aが登場する頃には、AN/APG-66レーダーや地上攻撃能力など、「軽量戦闘機マフィア」が軽蔑する豪華装備も搭載されていた。しかし、レーダー誘導の空対空兵器はまだなく、熱探知型サイドワインダーミサイルが採用された。このように、F-16は海軍のニーズに対して、優れた候補とはいえ、まだ十分とは言えなかった。
海軍のニーズに応えるべく、ヴォート1600はF-16Aより3フィートほど長く、翼幅は33フィート3インチと空軍の戦闘機よりも2フィートほど大きくなった。翼面積は269平方フィートになり、低速時安定性が向上した。胴体は少し平らで幅広になり、キャノピーはF-16と異なり、F-35同様に前方で開閉する設計になった。
空母着艦用装備として、ヴォート1600の腹部には着陸フックなどの空母標準装備品と大型の着陸装置が必要となった。機体強度も向上し、目視外照準用のパルスドップラーレーダーも追加された。
F-16をヴォート1600にするため必要な構造上の変更で、合計3,000ポンド以上の増加となった。その後、ヴォート1600は胴体や主翼にさらなる変更を加え完成した。V-1602は、主翼面積が399平方フィートとさらに大きくなり、エンジンも大型のGE F101となった。
2回目に福を引いたYF-17
海軍ニーズに合わせてF-16に変更を加えたものの、最終的にはノースロップとマクドネル・ダグラスのYF-17(後のF/A-18ホーネット、そしてその後継機であるブロックIIスーパーホーネット)に敗れることになった。
YF-17は空軍には通用しなかったかもしれないが、海軍は航続距離と安全性から、この戦闘機のスケールアップ版に将来性を見出したのだ。
YF-17、F/A-18A、F/A-18Fのサイズ比較(WikiMedia Commons)
ヴォート1600の低位置の空気取り入れ口は、空母飛行甲板で乗組員を吸い込まれかねない危険なものと考えられていた。この批判は以前にもあり、パイロットに人気の高いヴォートF-8クルーセーダーの大きく低いインテークは、乗組員を吸い込みかねないため「ゲイター」の異名をとっていた。
重要なのは、F-16では軽量設計とレーダー専用兵器の不足で、空母打撃群に飛来する戦闘機や爆撃機を迎撃する全天候型作戦には不向きだったということだ。
「私は、F-16が搭載する空対空ミサイルはAIM-9サイドワインダーだけであり、それは晴天時でのみ有効なミサイルであると指摘した」と元海軍作戦部長ジェームズ・L・ホロウェイ大将は、著書 "Aircraft Carriers at War: A Personal Retrospective of Korea, Vietnam, and the Soviet Confrontation "で、「雲の中では、AIM-7 スパロー IIIなどレーダーミサイルが必要だ」と説明している。
「この能力は、レーダー誘導システムと大型パイロンとともに、F-18に組み込まれていたが、F-16は大規模な再設計と重量増加なしでは全天候型ミサイルシステムを搭載できない」。
しかし、ホロウェイの書によると、ジェームズ・シュレシンジャー長官は、依然としてヴォート1600を海軍に押し付けようと固執していた。シュレシンジャーは論争に決着をつけるため、ホロウェイ提督を自分の執務室に招き、海軍の次期戦闘機について議論させた。シュレシンジャーはホロウェイに、執務室は狭いため部下を2人以上連れてきてはいけないと言ったにもかかわらず、ホロウェイが国防長官室に入ると、10人以上が提督を待っているのを見た。シュレシンジャーは数の力でヴォート1600を海軍に押し付けるつもりだった。
しかしホロウェイは断固たる態度のまま、ヴォート1600は着艦時にエンジンを甲板にぶつけかねず、甲板と機体双方に損傷を与えるという技術者の懸念を強調した。国防長官室に参集した技術者陣が、この問題はパイロットの技量が向上すれば軽減されると主張すると、ホロウェイはいらだちをあらわにした。明らかに、戦闘機の設計上の欠点を補うためにパイロット技量を説く人は、夜間作戦で果てしなく続く荒波の中にかろうじて見える空母の上下する甲板に着陸したことがないのだろう。
また、YF-17は双発エンジンのため、1つのエンジンに問題が発生した場合、空母に帰還できるか、不時着水するか選択が可能となる。
採用を逃したヴォート1600
最終的な決め手は、各機で想定した兵装だったかもしれない。F-16は大改造をしないと全天候型ミサイルシステムを搭載できないため、ヴォート1600は空母運用に対応できたとしても海軍の厳しいニーズに応えられなかっただろう。
もちろん、F-16はその後、スパローミサイル、さらにAMRAAMを運用し、当時欠けていた能力を獲得した。もし、同じ機能がヴォート1600に搭載されていたら、ホーネットやスーパーホーネットが40年近くも使われることはなかったかもしれない。その代わりに、海軍はF-16とF-14トムキャットを空母から飛ばし、スーパーホーネットは軍事史に残る「もしもあの機体が採用されていたら」の戦闘機になっていただろう。
米海軍の空母に搭載される一歩前まで進んだ戦闘機は、ヴォート1600だけではない。F-117ナイトホークの大幅改良型が海軍に採用されそうになったことがある。数年後には、F-22ラプターが海軍の飛行甲板で運用されるところだった。■
Vought 1600: The plan to put the F-16 on America's carriers - Sandboxx
VOUGHT 1600: THE PLAN TO PUT THE F-16 ON AMERICA’S CARRIERS
Alex Hollings | April 7, 2022
Alex Hollings
Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。