ウクライナ戦では海軍力が過小評価されてきた。
ウクライナによるロシア巡洋艦モスクワ喪失は、欧米のメディアが大きく取り上げている。しかし、ウクライナ戦争における海戦の要素については、ほとんどリサーチされていない。ロシアが介入する動機は海運にあり、ウクライナの行動の自由を低下させ、戦略・作戦上の意思決定を形成している。最も重要なことは、ウクライナ紛争の結果にかかわらず、ロシア海軍の損失は、東地中海におけるロシアの兵力投射能力を弱めることである。米国はこれを把握したうえで、ウクライナにロシア黒海艦隊を撃破できる対艦能力を与えるべきだ。
ロシアがウクライナに侵攻した原因はいくつかある。プーチンの帝国的野心、ロシア連邦保安庁の無能、そしてロシア政策当局の蔓延するパラノイア、これらすべてがクレムリンを戦争に駆り立てた。しかし、ロシアの介入は、キエフとモスクワの間の具体的な軍事的シフトにも起因している。今回の戦争で明らかになったように、ウクライナ軍は経験豊富で士気も高く、統率も取れている。ミサイルを装備した軽歩兵と無人戦闘機(UCAV)を用いて、量的・質的に優勢な相手と戦闘を行うことにあたり、優れた教義的理解を持っているのである。これは驚くことではない。ドンバス戦争は優秀なウクライナ人将校団を生み出し、多数のウクライナ人兵士に戦闘経験を積ませることができた。
戦争が始まる数カ月前の2021年10月、ウクライナはドンバスの分離主義勢力との戦闘に、トルコ製のTB2ベイラクタルUCAVを投入し、いわゆるドネツク人民共和国(DNR)とルハンスク人民共和国(LNR)の火砲に打撃を加え始めた。同様に、ウクライナは長年にわたり巡航ミサイル技術に投資してきた。
今年4月までに、ウクライナ戦闘部隊は、モスクワを攻撃したのと同じネプチューン対艦巡航ミサイル(ASCM)を受領していたはずだ。クレムリンからすれば、ウクライナの軍事的進歩は長期的にロシアを脅かす可能性が高い。キエフを支配する「ウクライナ・ナチス政権」(ホロコースト生存者の子孫であるユダヤ人が率いる政権)は、親ロシア派のドネツクやルハンスクの飛び地を攻撃し、巡航ミサイルでロシアの黒海艦隊を破壊し、将来は陸攻型ミサイルでロシアの都市を砲撃する、とプーチンに映っている。
制海権がなければ、クリミア半島は脆弱になる。クリミア運河が封鎖されれば、クリミアの都市は水不足に見舞われる。クリミアへの陸橋がなければ、ウクライナのミサイルや破壊工作によりケルチ海峡の橋が破壊され、半島への補給はままならなくなる。ロシアにとって、海の問題は最重要であった。
プーチンからすれば、2月24日の侵攻は、単にウクライナのNATO加盟を阻止するだけでなく、今後半世紀の間にロシアの利益を脅かすような軍備増強を阻止する予防戦争だったのだろう。プーチンは、ロシアが相対的に有利と思われる今こそ、すぐ攻撃するか、数年待ちウクライナのロシア領土への攻撃を甘受するか、厳しい選択を迫られたのだろう。
ロシアは侵略中、海軍力でウクライナの、そしてアメリカの行動の自由を制約してきた。ロシアが黒海と地中海東部に軍艦と潜水艦を集中させたことは、侵攻の明確なシグナルだった。ロシアは、モスクワを中心とする水上戦闘集団、水陸両用攻撃で海軍歩兵の2個大隊戦術群を揚陸する揚陸艦、2基のバスチオン P 陸上防衛システム、キロ級潜水艦4 隻、修理艦2 隻のを黒海に配備している。
この組み合わせが3つの利点をもたらした。まず、キロ級潜水艦、グリゴロビッチ級フリゲート、カリブル陸上攻撃型巡航ミサイルを搭載したバスティオンPは、ロシア空軍の限界を考えれば必要な追加攻撃能力を提供する。第二に、モスクワはスラバ級巡洋艦として、S-300発射管を8基搭載し、それぞれ8発のミサイルを装備している。これにより、ロシアはウクライナ南部の海岸線全体を防空圏としてカバーできる。最後に、海軍・水陸両用部隊は、ロシアの侵攻をカバーする役割も果たし、米国やNATOの介入計画を複雑化させる。
したがって、ロシア海軍は、オデーサへの攻撃を想定しウクライナの部隊を足止めし、ミサイルによるカバーを増やし、オデーサとマリウポリ間でウクライナ機、UCAV、ミサイルを使用させないようにできる。
ウクライナはドニプロ川沿いの 重要な足場2箇所を獲得した。モスクワの喪失は、ロシアの重要な防空システムを破壊した。このため、ロシアは防空システムを南方に再配備するか、ウクライナ軍がミコライフとケルソンの間で有人・無人航空機を急増させることを余儀なくされる。ウクライナは戦術的には反撃しているが、作戦的には反撃ではない。モスクワの防空網がなければ、ウクライナはロシアのオデーサ攻撃に合わせて大規模反撃を行うことができ、ロシア新司令官アレクサンドル・ドボルニコフ将軍は資源の再配分を迫られるか、南部の重要な獲得物を圧迫される危険がある。
ロシアのドンバス攻勢が成功しない限り、戦争は継続する可能性が高い。ロシアが圧勝することはないだろう。ロシアは部隊整備に必要な作戦休止をとっておらず、兵站と通信は依然として貧弱なままで、予備のハードウェアは時代遅れで整備不良である。 ロシアはセベロドネツク、スロビャンスク、クラマトルスクの3都市を包囲するかもしれない。 しかし、ドンバスが実行可能なロシアの飛び地となり、マリウポルからクリミアへの陸橋が強固になり、ウクライナの意志が崩れ和平調停が強行される事態にはならないだろう。
しかし、詳細で大局を覆い隠してはならない。ロシアは地中海東部に明確な関心を持っている。中国の台湾への脅威は、米海軍の要求を高めている。ロシアは間隙を縫い、現地で制海権を得たいと考えている。NATOにこの圧力がなければ、大西洋同盟のソフトな地中海の下層を脅かすことはできないし、リビアの暴動を自国の利益のために操ることもできない。
しかし、黒海に十分な戦力がなければ、ロシアは東地中海を維持することは困難であろう。トルコのボスポラス海峡とダーダネル海峡の閉鎖により、少なくともウクライナ戦争が終結するまでは、モスクワに代わる東地中海のロシア艦を移動させることはできないかもしれない。また、復活したロシアの第五エスカドラ(地中海戦隊)は、長期補給が不可能なため、切り離され、過剰に拡張されている。
米国は、ロシアの軍艦や潜水艦を排除するため必要な対艦ミサイルをウクライナに提供する必要がある。米国はすでにウクライナに無人車両と戦術UCAVを援助している。だが、これは基礎であって、完全に終了していない。拡大の必要がある。
まず、米国はNATO備蓄に残っているソ連の対艦ミサイルをウクライナ軍に与えるべきだ。ウクライナは一刻も早く武器を必要としている。ネプチューン対艦巡航ミサイルの在庫が少なくなっている可能性が高い。ソ連製の旧式装備は、ウクライナにとって最も有効活用しやすいものだろう。
第二に、米国は自国あるいはNATO同盟国の対艦ミサイルの備蓄を取り崩すべきである。対艦ミサイル「ハープーン」の供与は、同盟国から供給可能な装備品とともに、良いスタートとなるだろう。ハープーンは世界中の同盟国やパートナーに販売され、1980年代以降、効果的に使用されてきた。
第三に、ソ連型のミサイル発射魚雷を調達し、対潜技術とあわせウクライナに供与することである。ロシアのキロ級潜水艦は、黒海の沿岸部の浅さを考慮すると、黒海中央部でのみ有効に活動できる。ウクライナの海岸線、特にオデーサ付近に接近したロシア潜水艦を狙い撃ちする能力が必要である。
黒海は、ロシアが東地中海に進出する際の防波堤だ。そこでロシアは、中東の対外勢力としての地位を固め、最終的には内海の中央部や西部にも兵力投射しようとしている。米国とNATOは、ロシアのウクライナ侵攻への反撃に、地政学的・人道的な利益を有する。米国に代わり地中海の支配的な海軍力をねらうロシアの長期的な目標を挫くことも、西側諸国の関心事である。
米国とNATOは、今回の戦争が海上戦であることを認識し、ウクライナの海上攻撃能力を支援するために迅速に行動するべきである。■
The War at Sea | RealClearDefense.
By Seth Cropsey
April 18, 2022
Seth Cropsey is founder and president of Yorktown Institute <yorktowninstitute.org>. He served as a naval officer and as deputy Undersecretary of the Navy and is the author of Mayday and Seablindness.
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