福島事故のため日本では原子力の活用については思考停止していますが、地球温暖化対策以外に伸びる一方の電力需要への対応では依然として原子力は有望な選択肢のままです。さらに今回米軍が進める超小型原子炉に注目したいところです。
LOS ALAMOS NATIONAL LABORATORY
米空軍から発表だと、イールソン空軍基地(アラスカ)を新型小型原子炉のテスト実施場所になりそうだ。米軍とエナジー省は小型原子炉による電力供給で伸びる一方の電力需要に応える方法の実現を前向きに検討しており、同時に化石燃料依存を減らしコスト減と効率向上を狙っている。
空軍省はイールソン基地を試験炉の設置場所に選定したと10月18日に発表。同基地はアラスカ内陸部に位置し、フェアバンクス近郊で北極圏から110マイル南にある。同基地には354戦闘航空団が常駐し、F-35A共用打撃戦闘機やF-16ヴァイパーのアグレッサー部隊、アラスカ州軍航空隊の168給油航空団がKC-135を運行している。
「ミッションの継続実施のカギを握るのはエナジー供給だ」と空軍次官捕(環境安全インフラ担当)のマーク・コレルが発言している。「超小型原子炉は有望な技術でエナジー供給の復元力となり安定性を実現する。また国内軍事基地の電力需要や暖房を賄える。イールソンAFBが典型的な場所だ」
イールソン基地に設置される原子炉の諸元は不明だが、原子力規制委員会(NRC)が認証し、契約企業の所有で運用する構想で、臨界量にいつ到達するか、完全出力達成の日程もわからない。空軍からは2019年度国防認可法(NDAA)で2027年までに超小型原子炉を完全運用状態にする目標を実現するとだけ発表があった。
今回の原子炉は国防長官直轄の国防戦略能力整備室(SCO)が進めるプロジェクト・ペレの一部のようだ。その目標は小型原子炉で1から5メガワットの電力を実現することにある。これに対し民生原子力発電所は数百,数千メガワットを発電している。超小型原子炉のプロジェクト・ペレでは原子力潜水艦用原子炉よりさらに小型の原子炉での発電を目指す。ちなみに米海軍のヴァージニア級潜水艦はS9G原子炉で40メガワット出力を実現している。
プロジェクト・ペレの原子炉ではTRISO型被覆燃料を使う。「TRISOの粒子Iはウラニウム、炭素、酸素の燃料カーネル構造となる」とエナジー省が説明している。「カーネル炭素、セラミックの三層構造とし放射性分裂生成物の放出を封じ込める」。TRISO核燃料は従来型の核分裂物質より高性能を発揮しながら、安全に取り扱える。このため従来より小型でも信頼性の高い原子炉を実現できる。
今年3月に国防総省はプロジェクト・ペレ原子炉試作型の実現のためX-エナジー、BWXテクノロジーズの二社に契約交付し、今後二年で完成させ、最終版を決定する。2022年度末に超小型原子炉の仕様が決まると期待されている。
空軍はイールソン基地選定の理由に触れていないが、国防総省、エナジー省、その他独立機関から超小型原子炉の試験設置場所の条件が以前から提示されている。立地条件と既存の電力施設がカギだという。
USAF
イールソン基地内の石炭火力発電所
同基地は遠隔電力供給の課題の典型で、補給兵たん活動や化石燃料依存の面でも課題を現している。特に後者に関し、米軍は世界規模の気候変動による安全保障リスクへ懸念を深めており、化石燃料依存の軽減策を検討している。気候変動によりこれまで使えなかった資源地帯へのアクセスや北極海航路が実現するが、すでに次の対決場所になるともみられている。つまり、イールソン含むアラスカの各米軍基地の意義が高まる。
イールソン基地では石炭利用が環境・経済面で重荷になっている。基地の発電施設やインフラがそこにからむ。空軍はディーゼル機関車数量を保有し、同基地へ石炭を輸送している。
USAF
空軍保有のEMD GP40-2型ディーゼル機関車がイールソン基地の運用を支えている
「冬季は電力需要が最大規模となり、13から15MWe(メガワット)で一日800トンの石炭を消費する」と2018年に独立系の原子力エナジー研究所(NEI)が指摘している。「同基地には90日分の石炭備蓄があり、石炭は解凍してから燃焼されている」
USAF
イールソン基地内に貯蔵されている石炭
イールソン基地の立地条件と同基地が空軍で主要な基地であることから安全面及び規制面で効果が期待される。「アラスカ初の超小型原子炉を軍事基地に設置するならイールソン空軍基地が最右翼との意見は幅広い関係者から出ている」とアラスカ大フェアバンクス校のアラスカエナジー電力センター(ACEP)が報告書で指摘している。
プロジェクト・ペレの目標は小型原子炉開発により既存施設の電力需要をまかなうことにあるが、同時に最前線など戦場にも配備可能とすることも含まれている。大量のガソリン、ディーゼル燃料などの供給に実戦部隊は依存したままだ。
DOD
戦場で移動型原子炉をどう活用するのかを説明する図
新型TRISO燃料の超小型原子炉による信頼性の向上が実現すると推進派は主張するが、安全面や安全保障面での懸念も存在する。たとえば、原子炉が敵の攻撃を受ける、あるいは敵勢力に捕獲されたらどうなるのか。TRISO燃料はメリットもあるが、環境問題に意識が高い向きからは核廃棄物問題で懸念する声もある。
あわせて、イールソン基地の19,780エーカー(約80平方キロメートル)に及ぶ敷地は米環境保護庁(EPA)によるいわゆる「スーパーファンド対象地」に指定されていることも重要だ。毒性化学物質で汚染され、「閉鎖系だが今も埋め立てが進んでおり、浅い溝にタンク内のスラッジが埋められ、ドラム缶貯蔵区もある、その他廃棄物が残る場所もある」とある。最近でも消火用泡に含まれるフッ素置換剤による汚染も見つかっている。
2021年1月のACEP報告書では超小型原子炉の設置場所をめぐっては「社会の感情が大きく決定に作用しそうだ」との指摘もあった。
イールソン基地に超小型原子炉を設置するのはまだ数年先のことだが、それまでに世論やその他条件が構想に影を落とし日程が影響される事態もありうる。同時に米軍全体として小型原子炉による大量のコスト競争力に富んだ電力が将来の戦場のみならず日常の軍の活動を支える可能性に期待が高まっている。■
This Alaskan Air Base Will Host An Experimental Mini Nuclear Reactor
The military hopes its new mini nuclear reactor will lead to new battlefield energy capabilities and help power its sprawling installations.
BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 20, 2021
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