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米陸軍は車両の電動化を進めているものの、技術が実用に耐える水準になるのは2030年代か、それとも永久に来ないかもしれない。
全米科学技術医療アカデミーがまとめた研究では将来の戦場での米陸軍エナジー源にジェット燃料8型(JP-8)、ディーぜルのほか再生可能ディーゼルの整備を進めるべきだが、電動車両はまだ実用に耐えず、すくなくとも2035年までこのままとしている。
同研究は陸軍次官補代理(研究技術担当)が後援し、アカデミーの米陸軍関連委員会が、歩兵部隊、有人無人車両さらに将来のマルチドメイン戦闘における前方作戦基地のエナジー需要対応を検討した。
報告書は6月に発表され、エナジー貯蔵、電力転換、燃料効率の技術革新がどこまで可能かを検討した。
同研究では全車両の電動化は近い将来に実現しないとしている。
理由は以下の通り。
まず現行バッテリーのエナジー密度はJP-8よりおよそ二桁低い。このためバッテリー重量が過大となり、運用要求にこたえる空間が不足する。
「バッテリーのエナジー密度向上実現は疑う余地はないが、不利な点を相殺する効果は期待できない」
さらに電動車両の再充電を迅速に行うためには膨大な電源が必要となり、戦場で期待できないと研究は指摘している。
同委員会の主任科学者ジョン・ルギンスランドは「地上車両の電動化は極めて望ましい方向」とし、「トルクは大きく優れ燃料効率も有利だ」と報告書内容を伝えるウェビナーで発言した。だが委員会の結論は「将来は内燃機関付きハイブリッド車とすべきであり、バッテリーのみの電動車両は望ましくない」とした。
民生部門の車両メーカーで電動技術が大きく進んでいるが、軍仕様には独特の側面があると陸軍地上車両システムセンターのジョン・ザフランスキが述べている。
「民生車両よりほぼ二倍のエナジー消費をする」「つまり、現在のバッテリー技術では要求どおりの走行距離が実現しない」
充電も電動車両導入の障害と指摘している。「既存の給配電網は使えない」
陸軍で300キロワット時のバッテリー容量のトラック6台に15分間で充電しようとすると、7メガワットの移動充電装備が必要となるとザフランスキは指摘し、電動車両の大幅導入は不可能とする。
「現時点で最大の移動式発電機でメガワット以上のものはない。開発したとしてもそこまでの容量の発電機を現場展開するのは大変だ」
報告書では原子力発電が車両充電に使えないかとの意見もあったとある。エナジー密度は高くなるが、移動式原子力発電はすぐに実現できないとルギンスランドは指摘する。「移動式原子力発電で電動戦闘車両の充電が可能となるのは2035年以降だろう」
報告書では「最新の設計案でも40トンになり、移動には20フィート標準コンテナ2個で戦場に搬送することになる。その後、設置に3日、冷却に2日かかる」
こうした制約条件は陸軍が目指すマルチドメイン作戦戦略に適合しないとも指摘している。ザフランスキは原子力技術は設置と撤収に時間がかかりすぎると述べている。
「現地で移動し戦うのが米陸軍だ。一か所に留まっていては敵に狙われるだけだ。機動性が重視される」
地上車両システムセンターで推進系や機動力を担当する主任研究者ピーター・シフル博士は戦闘車両、戦術トラック、特殊車両が集中するため電動車両への切り替えは複雑な作業となると述べた。「電動化で車体重量が増えるため困難だ」
民生部門で電動車両技術が大きく進展しているが、ザフランスキは軍用車両へそのまま使えないと指摘する。
「一般車両はハイウェイ走行中に射撃を受ける想定は不要でしょう。でも戦闘車両では必要です。そのため、リチウムイオンバッテリーで何発か命中しても発火爆発しない仕様が必要です」
バッテリーには何らかの防護措置が必要となると指摘し、車両は過酷な温度条件や振動に耐える機能も求められる。
戦略国際研究センター上級顧問となったマーク・カンシアンはアカデミー報告書では2035年までの技術を展望しているが、電動車両の全面的な軍用利用はその後でも実現可能性は低いとみている。
「戦場に配電網は完備されておらず車両充電がままならない」とし、装甲旅団の充電だけで膨大なエナジーが必要となる。バッテリー技術の成熟には時間がかかるとの指摘だ。
ただし、電動車両ユーザーにぴったりの部隊がある。特殊作戦部隊だとカンシアンは言う。
「SOCOM車両にはステルス性能が必要なものがある」とし、こうした特殊車両を先に電動化すればよいという。
SOCOMは地上機動車両1.1のハイブリッド試作車二型式の製造に取り組んでおり、ハイブリッド電動技術の有効性を確かめる。
だが、こうした隙間需要を除くと民生電動車両が軍用仕様に導入される可能性は中短期的あるいは永久にないとカンシアンは見ている。軍用車両の電動化には利点が見つけにくいという。
このように専門家や関係者が全電動化軍用車両構想に冷たい視線を浴びせる一方で、陸軍は電動技術への出費を続けており、そのひとつに軽量偵察車両eLRV構想がある。
開発にあたるマイク・スプラングによればeLRVは陸軍の新規要望に応えるものだという。
「民生部門では電動化を真剣に取り組んでいますが、軍用への応用は学習途中といったところです」とし、GMディフェンス含む契約企業が電動車両技術に大規模投資をしていると指摘した。
ザフランスキはeLRV がいつ投入可能となるか不明としながらも開発に進展があることを認めた。
「陸軍の要求仕様担当部門と仕事している。実証も行ってきた。また、インプットも提供しており、陸軍側も業界に期待できる内容が理解でき、要求内容も裏付けがとれたものになる」
実証は今年夏に行い、数社が参加したという。
さらに陸軍の将来装備司令部の次世代戦闘車両チームも電動車両技術に取り組んでいる。今年初めには地上車両システムセンター、陸軍応用技術研究所、アリオンサイエンスアンドテクノロジー社と共同で合計六社に100千ドルの研究助成金を交付し、将来の電動車両の電源技術コンセプト研究を求めている。
交付先は Coritech Services, Inc. 、Czero, Inc. 、Fermata Energy、PC Krause and Associates、Tritium Technologies, LLC、Wright Electricの各社だ。
全車両の電動化で実現のめどが立たないものの、アカデミー報告書はハイブリッド車両の導入を提唱しており、ザフランスキもここにチャンスがあるとする。
ハイブリッドなら陸軍車両の運用時間が伸び燃料消費効率が向上し、指向性エナジー兵器、高性能センサー、高出力通信装置などの搭載装備への電力供給と合わせ騒音を立てずに作戦が実施できるとしる。
シフルは軽量トラックの電動化が一番有望との意見だが、「生産の切り替えには数年かかる」という。
他方で液体燃料についてアカデミー報告書では陸軍が単一種類燃料を全車両で使うことにこだわっており、発電機、タービン動力航空機でも同様だが、燃料種類を多様化したほうが効果が大きいと指摘している。
「JP-8ディーゼル、バイオディーゼルが戦場で第一に使われており今後もそのままだろう」とルギンスランドは述べており、「同燃料のエナジー密度と出力は他では得られない」としている。
だが、適正な燃料種類の組合わせは平時か有事かで異なると報告書にある。
ディーゼルは軍用車両用に合理的な選択で、有事の一部天候下ではJP-8をしのぐ存在になりうると報告書が指摘する。「各地で潤沢に入手可能で、一定の条件下で現地再補給も可能だ」
ディーゼルの容積エナジー密度はJP-8より9%高く、その分だけ補給トラック輸送を減らせると報告書にある。
平時ではバイオディーゼルが環境負荷を減らし有望だとある。
だが報告書は燃料の多様化は補給兵たん活動で課題になりかねないとも指摘している。陸軍が単一燃料種類の運用に慣れ切っているためだ。
「燃料多様化の利点と補給兵たん活動の複雑化をバランスさせることが肝要だ」と報告書は指摘。「兵たん活動が過度の負担となれば、JP-8が望ましいと判断されるはずで、シフルも燃料転換は「きわめて複雑」になると指摘している。
ディーゼルもバイオディーゼルも陸軍に新たな問題を生むという。例としてディーゼルに世界標準がないことがある。陸軍は今のところバイオディーゼル利用は避けているとシフルは指摘。
「燃料は長期間貯蔵される傾向があるが、バイオ燃料は保存すると問題を起こす」という。保存中に劣化が生じるというのだ。
アメリカンセキュリティープロジェクトで気候安全保障の主任研究員ディヴィッド・ヘインズは燃料多様化で利用の柔軟度が増えると指摘する。「有事でも各種燃料が利用できる状況を実現する技術を希求すべきだ」■
Electric Vehicles for the Military Still a Pipedream
10/6/2021
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