中国政府はテストそのものがなかったといい抜けようとしているが、記者会見で触れた宇宙機テストは7月のものでまったく別個のもので、そのまま伝えたNHKなど国内メディアは中国の情報操作に手を貸したことになりました。
LOCKHEED MARTIN
中国政府は中国が極超音速滑空体を軌道に乗せたのちに大気圏再突入させ標的に向け飛翔させたとの報道内容を否定した。中国外務省は再利用可能宇宙機だったとし、武器ではないと述べた。しかし、公式声明で宇宙機打ち上げは7月とあり、フィナンシャルタイムズ記事では軌道上爆撃手段のテストは8月とある。
中国外務省報道官趙立堅は2021年10月18日記者会見でブルームバーグ、AFPからの質問に対し、同記事を否定した。
「今回は通常の宇宙機の試験で再利用の可能性を試したものである」「地球帰還に先立ち切り離した後、大気圏内で支持部門が燃え尽き、破片は大洋に落下した」同報道官はこの宇宙機がフィナンシャルタイムズ記事にある飛翔体と同じなのかと尋ねられこう答えた。
ブルームバーグのジェイムズ・メイがー、BBCのスティーブン・マクダネル両名がこれを受けて中国外務省から趙報道官の発言は7月の宇宙機の件だったと確認したと伝えている。軌道上爆撃手段システムのテストは8月実施だったことが判明している。
国営企業中国航天China Aerospace Science and Technology Corporation(CASC)は7月に再利用可能な宇宙機テストに成功したと発表しているが、その際は準軌道飛翔だったとしている。CASCは同宇宙機の飛翔方式について説明しておらず、内モンゴルの酒泉衛星打ち上げ場Jiuquan Satellite Launch Centerから発射したと述べていた。2020年にも同打ち上げ場から長征2Fロケットが打ち上げらており、「再利用可能試験宇宙機」だったとの説明があった。
フィナンシャルタイムズ記事では長征2Cロケットが軌道爆撃システムのテストに使われたとあり、長征ロケット第77回目打ち上げとなったが、非公表のままだ。76回目78回目は7月19日、8月24日に実施されている。
趙報道官が言及したCASCによる宇宙機テストはこの売り7月16日にものだろう。さらにフィナンシャルタイムズの取材源によれば今回の軍事装備は標的突入含むすべての飛翔段階を実行したと言い、標的から数マイル外れている。CASCは宇宙機は飛翔実験ののち、空港に着陸したと発表したが、報道通りにともに実行されたとすれば、米情報機関が混同した可能性もある。
とはいえ、専門家筋から先に発表のあった再利用可能宇宙機と今回話題に上った軌道爆撃システムがどう関係しているのか疑問点が提示されている。民生用航空宇宙事業が中国で軍用装備とつながっている例はこれまでもあり、軍民両用の開発が展開していることはよく知られている。また、中国が極超音速滑空飛翔体兵器を実際に配備していることも知られている。
「今回は米側がX-37Bは兵器ではないと主張していることへの中国の反応なのか」と Secure World Foundationのブライアン・ウィーデンがツイッター投稿しているが、中国のテストに対し数多くの疑問が出ている。X-37B小型宇宙シャトルが宇宙軍が運営しており、実は何らかの軌道爆撃任務を行うものではないかとの噂がこれまで長くありながら実態は不明のままとなっている。
「宇宙機はすべてFOBSになるのか」とウィーデンは部分軌道爆撃システムに言及した。
FOBSの基本概念は1960年代のソ連にさかのぼる。通常の大陸間弾道ミサイル(ICBM)との比較で、準軌道上に配備するFOBSは射程距離の制約がなく、標的の割り出しが不可能ではないが困難となる。さらにFOBSの低高度弾道は地上配備レーダーでは探知が困難で、敵には対応が課題となる。
極超音速飛翔体をFOBSの弾頭部分に組み合わせれば予測不可能な攻撃手段となる。飛翔体は飛行制御性を高くしたままで弾頭を標的に命中させ、敵の防空ミサイル防衛体制を突破する。南極越え攻撃の場合、米ミサイル防衛の想定の裏をかくことになる。極超音速飛翔体の迎撃が極めて難しいことは米国含む各国政府が率直に認めている。
そうなると、報道されているような中国版FOBSと宇宙機の関連があるのかないのか不明だが、防衛能力を突破する性能をFOBSにあり、極超音速滑空体を利用することが中国が開発に励む理由なのだろう。また北京政府がFOBS開発を1960年代1970年代から手掛けたが中止されていたのは技術問題が解決できないためだったことが知られている。だが現在の中国航空宇宙産業界は当時より高度技術の実現能力が飛躍的に伸びている。
空軍長官フランク・ケンドールは中国軍がFOBSに準じる兵器開発にあたっていると9月の空軍協会イベントで発言していた。「これが実用化されれば従来のICBM軌道は無用の存在になる。ミサイル警報システムや防衛体制が突破される」
フィナンシャルタイムズ報道が出ると米空軍のグレン・ヴァンハーク大将(NORAD北米防空司令部司令官)から中国が「非常に進んだ極超音速滑空飛翔体能力を最近実証した」との発言が8月にあり、「NORADの対応能力では早期警戒及び攻撃地点の割り出しが困難となる」としていたことが改めて注目された。
米海軍のジョン・ヒル大将は議会で6月に「左右に曲がる飛翔制御は飛翔距離を延ばす意図があるため」と証言しており、各国の弾道ミサイルで飛翔制御能力が向上している様子に触れた。「大気圏再突入すればすべて極超音速になる」
中国のFOBSは開発初期段階で実戦化には遠いものの、同国が進める戦略戦力整備の一環でその他にもICBMサイロの整備、弾道ミサイル運用原子力潜水艦部隊の建造もある。米政府は繰り返し、情報から中国が核弾頭の貯蔵を増やしていることが判明していると述べている。
北京政府の戦略装備では透明性が一貫して低いままだ。中国との経験が豊かな元国防総省のドリュー・トンプソンは中国がいわゆる「非先制攻撃」方針で柔軟な姿勢を強めており、非核兵器で攻撃を受けても核兵器で対応することを自制してきたのを改めるのは明白としている。
FOBS含む技術開発で米側のミサイル防衛体制への対応で自信がつき、各種装備品が充実している。とくに現行の米ミサイル防衛体制では中国が保有中の核兵器を全弾発射した場合に対応できなくなることが重要な点である。
米中関係は領土問題、貿易面での意見対立でここ数年冷え込んでいる。米政府はCOVID-19パンデミックでの中国政府の処理を批判しており、ウイグル少数派の新疆での弾圧、香港民主派の取り扱い、台湾への圧力が関係悪化をさらに加速化している。一方で中国国内では強硬派の声が大きくなっている。米中台から有事発生の可能性が高まっているとの懸念が強まっている。
「米ミサイル防衛では中国核戦力の技術水準向上を懸念している」が、「米国が台湾とのつながりを強化し、新疆問題で中国を指弾していることが中国の核戦力増強を生んでいる」とカーネギー精華グローバルポリシーセンターのTong Zhao主任研究員がツイッターに投稿し、中国の戦略兵力整備の理由を解説している。
こうしたことを念頭に米政府は中国との軍備管理交渉を新たに始めたいとしており、ロシアも含めた三者協議も視野にしている。だが中国からは早くもこの動きを否定する姿勢を示している。
まとめると中国のFOBS整備に戦略兵器開発での透明性欠如が加わると今後の地政学上の環境で不確実性がさらに高まりそうだ。
Updated 5:45 PM EST:
NPRのジョフ・ブルームフィールから軌道爆撃システムに関し興味深いデータが提示された。フィナンシャルタイムズ記事では中国宇宙打ち上げ技術アカデミー(CALT)から長征2Cロケットの77回目と79回目の打ち上げについて公表したものの、78回目の発表がなかったとしていた。ブルームフィールはCALTは76回目打ち上げについても公表がないと指摘。
ブルームフィールからはCASCが7月の宇宙機打ち上げでロケットを投入したかで発表をためらっているため情報が錯綜していると指摘。CASCとCALTの間で食い違いがあるため準軌道上の宇宙機と軌道上爆撃システムの両テストの実施時期に関し一層の疑問を生んでいる。■
China's Claim That Its Fractional Orbital Bombardment System Was A Spaceplane Test Doesn't Add Up
The system could give China the ability to strike any target on Earth unpredictably, but so far Beijing is acting like the test didn't happen.
BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 18, 2021
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。