US ARMY
ウォールストリートジャーナルの記事で米特殊部隊及び海兵隊が台湾に少なくともここ一年はローテーション派遣されているとある。台湾の国防部長が2025年になれば中国軍が台湾への「全面的」侵攻作戦を現在よりはるか低リスクで実行可能になると公の場で発言した翌日に記事が出てきた。
米特殊部隊隊員及び支援要員合計24名ほどが現在台湾におり、「台湾地上部隊に訓練を施している」とジャーナル記事にある。人数不明の海兵隊員も「現地の海兵隊員に小型ボート運用の訓練をしている」と伝えている。ここ一年の米軍の台湾でのプレゼンスが常駐だったのかは不明だ。
US ARMY CAPTURE
米陸軍公式ビデオよりのスクリーンキャプチャ。昨年出たビデオではグリーンベレー隊員が台湾特殊部隊隊員を指導していた。同ビデオはその後回収された。
ジャーナルの記事は昨年11月に海兵隊レイダー部隊が台湾に配備されたとの記事に注目し、台湾の海軍司令部がその時点で事実を認めたとある。台湾国防部はその後、同部隊の存在について肯定も否定もしないとした。ペンタゴン報道官も当時、こうした記事は「不正確」としたが、どの部分が正しくないのかは明らかにしていない。
「米特殊部隊の存在はこれまで報じられていない」とジャーナル紙記事は不正確な内容になっている。The War Zone他は米陸軍ビデオ、スクリーンキャプチャでグリーンベレー部隊が通常の統合共同交換訓練(JCET)として台湾に展開する様子を伝えていた。このビデオはその後回収された。別のレポートでは2017年に米特殊作戦司令部が公表した文書で特殊作戦部隊が台湾へその一年前に少なくとも一回派遣されていたとの記述がある。
JCETとは小規模の訓練で10名ないし40名の米軍関係者が加わり、一般的な技能に加え関連戦術、技能、手順を交換しあうもので、通常は同盟国や友邦国の特殊部隊が対象だ。このこととジャーナル紙記事が伝える台湾に派遣中の米特殊部隊隊員の規模と行っている内容が一致する。
ジャーナル紙記事では今年初めに出た米軍、おそらく米陸軍の第5保安支援旅団(SFRB)が台湾の訓練基地がある 湖口Hukou(北部新竹Hsinchu省)に展開していたとの未確認情報に触れていない。米陸軍・州軍にはSFRBが六個あり、軍事顧問機能を果たす。中でも第5SFABはワシントン州ルイス=マッコード共用基地に駐屯し、インド太平洋地区の保安部隊への支援が中心の部隊だ。そうなると米軍が湖口で目撃されたとする記事が正しければ、特殊部隊あるいは海兵隊の可能性がある。
台湾にいる米軍部隊の所属いかんにかかわらず、特殊部隊や海兵隊が派遣されているのなら話の筋道がつく。特に米陸軍特殊部隊は非通常型の戦闘作戦の支援について訓練を受けており、大規模交戦の場合も敵前線の後方に残る現地部隊とともに戦う、あるいは支援する想定だ。
今年5月、ジョシュ・ホーリー上院議員(共、ミズーリ)が米特殊部隊と台湾軍の協力関係深化を提言していた。クリストファー・マイヤー国防次官補(特殊作戦、低じん度紛争担当)の承認公聴会の席上で、ホーリー議員は米特殊部隊がバルト諸国のエストニア、ラトヴィア、リトアニアに展開し、ロシアの侵攻に対抗してきたのが台湾の事例のモデルになると具体的に発言していた。
「実施を強く検討すべき内容だと思う。特殊部隊は非対称型の対抗手段になる」とマイヤーは議員の発言を受けて述べている。その後マイヤーは議会の認証を受けている。ただし、本人はその時点で実際にそうした協力がすでに実施されていることに触れていない。
ジャーナル記事では小型ボート運用訓練にも触れているが、海兵隊は台湾軍向けにこの技術を伝授しており、将来に海峡をはさむ軍事対決が発生すれば重要な戦術となる。海兵隊ではゴム舟艇から対戦車誘導ミサイルを発射するなど柔軟な新戦術を開発していることはThe War Zone でも注目してきた。
USMC
米海兵隊がジェベリン対戦車誘導ミサイル装備をゴム舟艇に持ち込んで訓練している。日本での2021年の演習にて。
第5SFABが台湾に昨年来展開していたか確認できないが、実際に展開していても驚くにあたらない。SFAB分遣隊は台湾軍に各種の重要な助言を与える能力がある。米製新装備品の運用開始にあたり準備することもそのひとつだ。米政府は台湾政府に各種装備品の売却を承認しており、高性能版のブロック70仕様F-16C/Dヴァイパー戦闘機、MQ-9B無人機、地上発射方式のハープーン対艦ミサイル他多数がある。陸軍の教導隊は台湾が今後導入するM1A2Tエイブラムズ戦車やM106A6パラディン155mm自走砲の運用で支援を与えるのに最適だ。
小規模でも米軍部隊が台湾に定期派遣されれば抑止効果が生まれ、中国政府は米軍隊員に死傷者を発生させるのは躊躇するはずだ。死傷者が出れば、米政府は米国の同盟国として台湾での相互防衛義務に向かわざるを得なくなる。派遣部隊が規模を拡大すれば中国の意思決定により大きなインパクトを与える。
インド太平洋の戦略枠組みを説明した文書がトランプ政権末期の今年1月に機密解除されており、「台湾をして効果のある非対称型防衛戦略・能力を整備させ、安全と自由を確実にし、外部勢力に対する耐じん性を実現し、台湾の条件で中国に対抗させるものとする」との具体的な記述がある。同じ文書内で「中国が今後さらに強硬な態度を取り台湾へ統一を強いる場面が生まれる」と注意喚起しており、その後この記述が現実のものとなっている。
「台湾攻撃の能力は現在でも相手が有しているが、代償は高くつく」と台湾国防部長邱国正Chiu Kuo Chengが昨日発言している。同部長は2025年になる床の代償は相当低くなり、逆に台湾への「全面侵攻」の可能性が高くなると発言した。
中国政府の見解では台湾は反逆地方政府であり、軍事力を行使しても現地政府が独立宣言をするのを阻止すると繰り返し警告している。昨年から人民解放軍が挑発的な軍事展開を大幅に増やしており、台湾周辺で航空機と合わせ艦艇の活動も目立ってきた。すべて台湾当局への明確なメッセージであり、国際社会も視野に入れたものだ。台湾国防部によれば中国軍用機は今月だけで南西部の防空識別圏侵入が150ソーティを超えたという。
ウォールストリートジャーナルから米軍部隊の台湾内プレゼンスに関し質問を入れたところ、中国外交部は「中国はいかなる手段を取っても自国主権と領土の保全を守り通す」との声明文を出してきた。
「PLAは米侵略部隊を標的に一掃する攻撃を加えるはずだ」と環球時報主筆Hu Xijinが述べている。同紙は中国共産党が運営し、Huはツイッターでも同じような反応を記している。「本当なら中国軍はただちに開戦し、米兵を掃討し追いだすべきだ」としたのはテキサス選出ジョン・コーニン上院議員が誤って30千名の米軍隊員が台湾に派遣中とソーシャルメディアで述べてしまったからだ。
米政府は技術的には今も「一つの中国政府」を堅持しており、北京政府を中国の唯一の正統政体として1979年認識している。同時に米国は台湾関係者との交流ならびに台湾軍の支援を続ける権利を主張している。4月には米代表団が訪台し、台湾軍への支援他の継続性を伝えた。これと別に議会代表団が米空軍C-17AグローブマスターIII輸送機で6月に訪台している。
ウォールストリートジャーナル記事のいうように米軍が定常的な台湾へのプレゼンスを強めてきたのが真実なら、大陸との緊張が高まる台湾政体を支援する米国の姿勢のあらわれだろう。米軍が台湾軍に対し支援する様子がより詳細になれば、北京へのメッセージは明白となる。ペンタゴンは中国を「着々と強化を続ける脅威」"pacing threat"と位置づけ、米軍全体として大規模開戦への準備に焦点をあてつつ、実際に開戦にならないようインド太平洋地域で中国を抑止する姿勢をとっている。
ホワイトハウスからバイデン大統領が習近平主席と年末までにリモート会談を行うとの発表が出た。実現すれば、喫緊の課題に触れるのは確実だろう。チューリッヒで国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリバンが楊潔篪外交政策顧問と会談したのを受けこの発表が出た。
一方で、バイデン政権はトランプ政権同様に台湾を狙う中国の野望に前広に対応する姿勢を示し、公然とこれを実施しているので、台湾海峡の両側にどんな影響が出るのかが注目される。■
American Forces Have Been Quietly Deployed To Taiwan With Increasing Regularity: Report
A report that the U.S. military has been stepping up its activities in Taiwan for at least a year comes amid growing fears of a Chinese invasion.
BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 7, 2021
Contact the author: joe@thedrive.com
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。